癒しがないんじゃ!
夏休みも後半に差し掛かろうとしている8月某日。
連星さんからのハーレムデート(討伐任務)のお誘いを受けた俺は、夏演習メンバーで初となる任務に赴いた。
旧市街地に現れる事が“予想された”ネストシードを先回りして待ち受けて、出現したイクシスを片っ端から片付けるのが今回の任務だ。
どういうカラクリかは知らないが、イクシスとの戦いが始まってそろそろ20年。人類はネストシードが現れる位置をかなりの正確さで探知できるようになり、指定防衛校の定期巡回も相まって、街中が地獄絵図となったり、放棄された地域がイクシスの巣になるような事は無くなった。
それでもはぐれが現れたりするから、油断はできない。
はぐれに偶然出くわして襲われた何て事件は、今どき珍しくもない。
「到着しましたわ」
連星さんの声で意識が現実に戻ってくる。
気がつけば、外の景色は人と活気に溢れる市街地から、世紀末を窺わせる廃墟の街へと変わっていた。
空気も数倍ホコリっぽいし、この場にいるだけで心躍る……じゃなかった、ゾンビでも出てきそうな緊張感に溢れている。
「あ゛ぁ゛ー、立ちっぱなしで疲れたもぉぉぉん」
ハンヴィーを降りて背伸びを一つ。
肩周りと背骨や腰をポキポキ言わせながら体を捻っていると、
「何親父くせぇ事言ってんだ。さっさと行くぞほら」
AKMを持った伽鳥先輩が仏頂面で背中を叩いてくる。
バシィン!じゃなくて、ポンって感じなところに優しさを感じる。普段つるんでる奴らがアレなせいで涙が出そう。
ストレッチパワーを溜めていたお陰で、2番目に車を降りたのに最後尾を歩く事になってしまった。ちょっと急ごう。
「旧市街地なんてあまり来ないけど、なんかイヤな雰囲気だよね。建物の影からゾンビとか出てきそう」
M24SWSを担いでそんな事を洩らす沢城さんは、いざとなればゾンビの頭を吹き飛ばしてくれるだろう。
「気味わりぃこと言うんじゃねぇよ…。それより、ようやくお前の実力をこの目で見れるのが楽しみで仕方ないぜ?」
お持ちのM240Gで獲物を蜂の巣にしそうな芙蓉さんが不敵な笑みを浮かべて俺を見る。
「同感ですわ。期待してます」
SCARーHを持ったお嬢様然とした雰囲気と言葉遣いの連星さんが、無線越しに言って顔をこちらに向ける。
2人とも楽しみにしてる感が滲み出て、俺にとっては逆にプレッシャーとなる。
「接敵前に俺のHPをゴリゴリ削るのは楽しいですかー?んんー?」
少々わざとらしい態度で不機嫌を装う。
「ほとんどデータがないあなたの実力を測るのに今日はいい機会ですので、私はとても楽しみですの。ねぇ、六花さん?」
ウキウキかよこの人。はぁー、イヤになりますよー。
「んー」
相変わらず気の抜けた適当な返事を返す椎名さんは平常運転だ。戦闘前はマジでいつもこんならしい。
「ほら、六花さんも楽しみにしてるそうですよ?」
「嘘つけ絶対適当だゾ」
コロコロと笑いながら俺をからかってくる連星さんは、新しい玩具を貰った子供のようで、大人びた雰囲気とのギャップもあって、凄まじい破壊力もって心を揺さぶった。
瓦礫を越えて歩く事30分。指定された場所に到着した俺たちは、ネストシードを探すために、連星さんと椎名さん、先輩と芙蓉さん、俺と沢城さんの2人ずつに別れて動く。
大まかな捜索範囲を決め、発見したら報告して合流する事を確認し行動を開始する。
今日の俺の装備はM320を取り付けたHK416D。グレランの弾は例の如く下瀬火薬グレネードだ。
他には、5.56mm曳光弾を5発に1発の割合で装填してあるマガジンを6つ、ポーチに収めてある。これと言って使う機会は少ないが、何かを爆発させたい時には便利な代物だ。
「『コマンド』なんて、なかなかおかしなポディションだよね」
無言でサクサク進んでいた矢先、沢城さんが突然呟いた。
「そんなにおかしなポディションか?」
疑問をそのまま口にする俺に、
「いや、何がどうおかしいかって聞かれたら、勘なんだけど」
「はい出ましたー。沢城さんの『勘』。まぁその勘もバカにはできないから俺もなんも言えないけども」
みんな何となく思ってはいるが誰も口にしないだけで、『コマンド』というポディションに疑問を抱いているのは確かだ。
協力が求められるチーム戦において、各メンバーをサポートする事が求められる一方で、いざという時には1人で行動する事が要求されるこのポディション。
ある意味戦況を良い意味でも悪い意味でもひっくり返す事に繋がりかねない危ない役回りなのだ。
今回招集された武学高校のメンバーの経歴から察するに、上の連中は今後市街地でも俺らのような役が必要になるという答えを導き出しての事なのであろうが、どんなデータを元に導き出したかは恐らく連星さんも分からないだろう。お先真っ暗過ぎて戦艦クラスの探照灯が欲しいくらい。
「おっと、めっけた」
無駄話をしながらも周囲を索敵していると、遂にネストシードを見つけた。
崩れた木造民家の庭の真ん中にポツリと浮かぶそれはまだ出来たばかりのようで、大分小さいから余裕はある。全く予測する人たちは未来人かなにかか。
「みつけたよ。別れたところから東へ大体1kmくらい。スモーク焚くから集まって」
沢城さんの報告に、全員からの了解がヘットセットから聞こえてきて、そのまま沢城さんが無線のチャンネルを切り替えてオペレーターに報告を行った。
みんなそんなに離れていなかったお陰で15分もしないうちに集合が完了し、決められていた配置に就く。
みんなで障害物を退かしたり即席のバリケを組み上げ機銃陣地を構築する。
それが終わったら、俺と沢城さんは狙撃位置まで移動する。全体が見渡せる壁が抜けてオープンになったビルの3階で、これなら支援射撃もやりやすい。
伏射ち(ねうち)の姿勢をとった沢城さんの横で、俺は立膝をついて待機する。
《皆さん、配置に就きましたか?》
連星さんの声は戦場にいる事を忘れそうになるほど澄んでいて、アナウンサーのように聞き取りやすい。これはこれで病みつきになりそうな声だ。
「期待してるって言った割には、俺は後方なんだな」
不満ではないが、からかわれたお返しに言う。
《私は前線に置きたかったのだけど、直前になって六花さんが配置換えを申し出たましたの》
「え、なんでや」
《何となくだけど、あなたは前線にいない方がいいと思って》
スイッチが入った椎名さんが言葉で返してくれる。
「あ、そっかー…」
これもしかして俺disられてるの?椎名さんに嫌われるようなことしたっけ?連星さんと椎名さんの空間にいる俺という男が邪魔的な?泣いていい?
1人で負の空間へダイブしかけていると、連星さんの声が聞こえてくる。
《六花さんは別にあなたが邪魔とかではなくて、あなたを沢城さんの護衛につけた方が良いと、『勘』を働かせてのことでしてよ。ご心配なさらず》
連星さんの熱いフォローが入ったところで、そろそろ時間が来たようだ。
《無駄話はここまでだ!ヤツらが出てくるぞ!》
伽鳥先輩が大きな声で言ったもんだから、音量が高めだったせいで耳にダメージがきた。反射的に外したヘットセットからは芙蓉さんの殺る気に溢れる声も漏れてきている。うん、前線に居なくて良かった。椎名さんありがとう。
空間に大きな穴が開き、K9が続々出現する。
ある程度出てきたところで前衛が攻撃を開始し、射線から外れて別方向に進もうとするK9を俺と沢城さんで仕留めていく。
スリルのある的当てと化してしまってあまり楽しくないが、楽な任務でそれなりの報酬を貰えるなら文句は言わない。
「この調子なら、俺の実力ってやつは見せることなく終わりそうだな」
軽い口調で掛け直したヘットセットに喋ると、
《機会は作ればいくらでもありますわ。とても楽しみに……、少々お待ちくださいませ》
連星さんは少し残念そうな声だったが、最後まで言い切ることなく終わってしまった。別のところから無線で通信が入ったようである。
《……皆さん、この近辺にもう1つネストが確認されたようです》
《なにぃ!?》
伽鳥先輩の声はこれまた大きいのだったが、今度はヘットセットを取る余裕がなかった。
(既に弾薬は半分以上消費してるのに、このタイミングでか!?)
《規模は小さいようですが、沢城さんと望月さん、警戒をお願いします》
「了解。沢城さん、拳銃持ってる?」
こうなった以上は仕方がない。嫌でもやるしかない。
狙撃位置のビルを降りて追加で言われた辺りまで移動する。
「……拳銃は苦手だから持ってないんだよねえ」
てへっ☆みたいにチロっと舌を出す沢城さん。まぁ、いいや…。
「アサルトライフルなら使えるでしょ?遭遇戦になるだろうから俺の416使って」
「え、拳銃とナイフだけで戦う気?」
正気を疑う目を向けてくるが、こうするしかない理由がある。
「イクシス相手に格闘戦挑めんの俺か椎名さんしかいないでしょ?…というわけで援護は頼んだ」
渋々といった様子でグレランを外した416を受け取った沢城さんに軽く扱いを教えていたその時。ビースト型イクシス特有の獣臭が風に乗って漂ってきた。近いな。
「この臭い、イクシスが…っ!」
手で沢城さんの口を塞ぎ、視線で『喋るな』と伝える。
足音や気配を探るのに気が散るというのもあるが、声でこちらの居場所を気づかれたら不味い。
聴覚を集中させて離れたところから聞こえる銃声の合間に潜むイクシスの存在を探す。
「……見つけた!」
右後方に振り向きざまに拳銃引き金を引くと、発射された9mmパラベラム弾は、物陰から走り寄って飛び掛ってきたK9の頭に命中し、3分の1を吹き飛ばす。
これが合図のように、次々と建物の影から飛び出てくるK9。ざっと見た感じでも10頭以上。
「沢城さんは距離があるヤツだけ狙ってくれ!5m以内に入ってきたヤツは俺が片付ける!俺から離れるなよ!」
「り、了解!」
普段のんびりした雰囲気を纏っている沢城さんが、酷く焦っているように見えるのは、こんな経験をした事がないからだろう。まぁ狙撃科の人間がこんな距離でイクシスと殺り合うなんて、滅多にないからしょうがないだろうけど。
セミオートで1発づつ当てようとするが、狙撃銃との勝手の違いと交戦距離の違いからか、思ったより仕留められなかった。
撃ちながら広い通りから路地に移動して、残ったのは6頭。前回の旧市街地の件と比べれば大したことないし、何より、あれから俺達は1対多数の訓練をやってきた。問題ない、やれる。
「ごめん!撃ち漏らした!」
「充分!助かるぜ!」
(むしろ慣れない銃でよく削ってくれた方だぜ!)
一定の方向から6頭が一斉に走ってくる。
俺の背後では新しいマガジンをリロードした沢城さんが、援護の用意を済ませてくれている事に安心して、K9が来るのを待つのではなく、俺はあえて打って出る。
驚く声を上げる沢城さんを置いて、先頭の1頭が飛びかかるタイミングでスライディングをし、がら空きの腹に右手に持ったナイフを刺して、すれ違いざまのお互いの運動エネルギーで切り裂く。
俺の頭を飛び越えた辺りで内臓をブチ撒けて絶命したK9を無視し、間髪入れずに左手に持ったUSPを2発撃つ。
首と頭に1発づつ受けて倒れた右から喰らいつこうとしてくる1匹の頭に、起き上がるついでに体を回転させながら踵で蹴りを入れ、拳銃で左からくる2匹を射殺しつつ蹴りで体勢が崩れたヤツの首にナイフを突き立てる。
仕上げに、飛び掛ってきた最後の1匹を左に躱して、右手で首をホールドし、急に止まった時に掛かる負荷とテコの原理で首をへし折る。
「っふぅ、……もう居ないよな?」
後ろを振り向いて沢城さんに確認すると、驚きのあまり声が出ないようで、口をパクパクしながらコクコクと首を縦に振っていた。
「よろしい。報告するかねー」
ヘットセットの送信スイッチを入れてイクシスの撃破を報告すると、全員のこちらを案ずる声が聞こえてきて、あちらも問題ないようで安心する。
《状況の報告をしたいので、沢城さんを連れてこちらに合流してください。お疲れ様でした》
連星さんの通信が切れたところで、しゃがんだままの沢城さんに近づいて声をかける。
「合流しろってさ。行くべ」
「あ、あぁ、そうだね…。ありがと」
手を貸して立たせたあと、銃を返してもらい合流地点へ向かう。
服の下に付けているプロテクターのお陰で怪我はないが、制服があちこち擦り切れてしまった。こりゃまた新しいのを受け取らないといかんな。
面倒な書類と持回りの事を考えて溜息をついた後ろには、終始無言で一定距離を離れて着いてくる沢城さんがいた。
‡ ‡ ‡
「報告は以上です…」
先程の戦闘の報告を連星さん達に行った俺は、驚きを通り越して呆れムードが漂い始めた事に、小言を言われるのではと身構えて、敬語を使ってしまった。
「なんつーか、もっと頭のいい戦い方をするのかと思ってたぜ…」
芙蓉さんが初めに半笑いで感想を漏らすと、みんなが口を開き始めた。
「先程の報告をそのまましても、1回では信じてもらえるか不安ですわ…」
連星さんの言う事はご最も。俺なら信じないね。
「1人で6頭のK9を格闘で仕留めるって、お前とんでもねぇな…」
「いやぁ、沢城さんの支援体制がバッチリだったから安心して突っ込めたんスよ。沢城さん、ありがとうございやした」
そう言って沢城さんに頭を下げると、ハッとした様子で顔を上げて、こっちを見た。
「あぁ、うん。どういたしまして…」
普段とは違う歯切れの悪い返事を返したが、それに気付かず連星さんが続く。
「それにしても六花さん、関東最強の座が揺らいでいる事に何かコメントはおありですか?」
6頭を1人で片付けただけで関東最強なのか?ハードル低くね?武学高校の1部の生徒はこれくらい余裕ですよ?
なんて口が裂けても言えないが、関東最強(仮)椎名さんは俺をチラ見したあと、
「んー、興味ない」
と無関心を貫いた。『んー』以外を口にしたということは、多少は気になるってことなのか?
「関東最強クラスが2人もいるチームなんて、今年の演習はどこが相手でも負ける気はしねぇな」
芙蓉さんが悪い笑みを浮かべてフラグを立てるのを俺は乾いた苦笑いで返す。
いやー、うちの相棒はですねぇ、本気だすとこのメンバーでも条件次第では負けるくらい手がつけられないですよねー。
相棒について話そうかと思った所で、連星さんが話題を変えた。
「そう言えば、昨日、あの子たちも討伐任務に出たらしいですよ」
椎名さんの側で言ったが、あの子達って誰?
「それが何か?」
「興味ありませんか?」
興味ないって表情の椎名さんと話したいって顔の連星さん。勝つのはどっちだ?
「別に」
「……」
「言いたいなら言えば?」
どっかの女優のように返したが、無言の圧力を受けた椎名さんが根負けして、連星さんが笑顔になる。
「なんだー、やっぱり聞きたいんじゃないですか」
椎名さんの顔に若干怒りが浮かぶ。怖いなぁ、とずまりすとこ…。
「まあ、結論から言うと、1年生は全員キルマークを付けて、予想外だったヴォイテクが出現するも、無事怪我人もなく完了したそうですよ」
ここまできてようやくシュウのチームの事を言っていると察した。
まぁ、ヤツがいれば無駄な人的被害が出る前に片付くだろう。当然の結果というやつだ。
伽鳥先輩は後輩2人が何事も無かったことに胸をなで下ろし、戦闘後の軽いショック(?)から復活した沢城さんは、シュウの援護の下でヴォイテクを一撃で仕留めたという愛弟子の活躍を聞いて鼻高々のご様子。にしても、ルーキーだらけのチームでヴォイテクか。
同じことを思った芙蓉さんが憤慨するが、同行した教師も予想外であったと聞くと鎮まった。
「何にしても、誰も死ななくてよかった」
椎名さんがポツリと呟く。
「あぁ、全くだな」
少々心にチクリとくるモノがよぎり、誤魔化すためにオーバーに頷きながら同調する。
伽鳥先輩の撤収の提案に賛成してハンヴィーに乗り込むと、伽鳥先輩がラーメンを食いに行こうと言い出した。先輩、この環境でそれを言うのは自爆行為だよ。
「おっ、まさか奢りですか、センパイ!」
遠慮のない芙蓉さんの便乗が全員に広まり、
「先輩流石っす!マジリスペクトっす!アザマッス!」
すかさず俺も便乗すると、
「てめぇと椎名は外回りと任務で金持ってんだろ!」
と、マジトーンで反論する先輩が可笑しくて、帰りのハンヴィーはかなり賑やかなものになった。
思ったよりいいチームになりそうな予感を感じ取って、先程の感傷じみたものは風に舞うホコリのように、どこかへ飛んでいった。
ウィッス早坂です⊂( ˆoˆ 三ˆoˆ )⊃
原作には(ほとんど描かれてい)ない話を創作したので、ちょっと遅れるかもなーと思いながら執筆していましたがなんとか仕上げることが出来ました。
原作では戦闘が終わった直後しか描かれていなかったので、望月の実力を示しつつ後半に繋げて話を合わせるのは難しかったですが、楽しかったです。この間見たバイオハザードの動きを参考にしました。3DCG版はいいゾ^〜
さて、次回から夏演習へ突入予定です。ある意味一段落ついた的な。もしかしたら計画にない小話を挟むかも知れません。そうなると少し更新が遅れると思いますがご了承ください。m(_ _)m
次回もお楽しみに!
ではまたーノシ
2022.5.22.内容を一部修正