演習当日の朝、トラックの荷台に荷物と一緒に詰め込まれてドナドナされる。
武学高校のメンバーはこの前任務に行った3人の他にも何人かいたが、知らない奴だったから特に話すことは無かった。
途中で他校の生徒も拾って乗せていくと、あっという間に満員になり、夏の暑さも相まって汗が滲み出てくる。
軽い挨拶をしながら乗ってきた他校生は俺達武学高校勢を見るや否や、ハッとした顔になりなるべく目を合わせないようにしながら、遠いところに座っていった。
そう言えばこんな感じでトラックで運ばれるのは“あの時”以来だが、同じことを思っているだろうに誰も決して口には出さない。口外禁止だから当然か。
それなりの緊張感に包まれている車内だが、俺達はそんな空気も読まずに、遠足気分で雑談をしている。
「いやー、今まで年上女子と関わる機会なんて全く無かったけど、あれはいいものだ」
「それな。あと、『先輩先輩』って呼んでくれる女の子がいるって最高の癒しだわ」
しみじみと頷く望月の意見は全くその通りであるが、我がチームの後輩達も劣っていないだろう。もちろん本人達の目の前では言わないけどな。
「やっぱりそうだよな!こうもむさ苦しい所に慣れてると、ちょっとした事でも不意打ち食らうよな!」
流石だぜ相棒!と屈託の無い笑を浮かべる隣で、関口と波瀬も同調する。
「んー!たまらんよなぁ!」
「そうそう、『任せな!』って躊躇いなく群れに突っ込める気がする」
「気がするってお前、その時が来たら俺達は躊躇いなくやるだろ!」
HAHAHAHAHAHAHAHA!!!!
と、各々チームに対する(というかチームの女の子に対する)感想を言い合って、武学高校特有のギャグセンスを発揮するが、周りは完全においてけぼり状態。
何人かがたまに頷いたりしているのを目ざとく見つけた望月が、遠慮なしに声をかける。
「なんだよお前らー、混ざりたいなら遠慮するなよー!語り尽くそうぜ?な?」
『いいよ来いよ!』とどっかの先輩の真似をするが、これは人によっては嫌悪感を抱かせる諸刃の剣だ。
「指定防衛校って共学なのに共学感がまるでないから、こうやって知り合うのも貴重だよな」
「その通りだよな。噂だと、この演習チームで知り合ってもう付き合い始めた奴らがいるらしいぞ」
「「「「「「「「「おぉ!」」」」」」」」」
男って生き物は単純なもので、共通の話題があれば会話は一気に弾むのだ。そりゃもう遠慮なしに。
「俺達にもチャンスはあるんスね!」
1年生と思しき生徒が1人期待するような口調で声を上げる。
「当たり前だろう!むしろこれからだ!やってやろうぜ!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉ!
「お前達騒ぐな!大人しくしてろ!」
望月が中心となり野郎共との距離が近くなった結果、助手席の幹部自衛官(男)に怒られたが、その顔は俺らと同じように笑っていた。
‡ ‡ ‡
思わぬ交流を深めた俺達は、演習場に着いたら声をかけ合いその場を別れ、それぞれのチームに合流を始めた。
いつもは演習場に着いたら目の前には一面のクソ緑か世紀末コンクリートジャングル(直喩)と野郎共しかいないが、今回に限っては一面お花畑と言っていい状況だ。
「さて、皆はどこに居るかねぇ」
左肩とチェストリグ右側に付いた武装高校のワッペンを見た女子生徒達が、モーゼの十戒の如く道を開けてくれるんじゃないかと負の想像をしていたが、驚いて数歩下がる生徒はいても、あからさまに避ける生徒は以前と比べてかなり減ったように見える。
「あ…」
「ん?」
途中で何かに気づいたみたいな声が聞こえそちらを見ると、落し物拾いの時の朝霞の生徒がいた。
「あぁ、あの時の」
やべ、つい声をかけちゃったたけど、これで逃げられたら俺めっちゃ恥ずかしいやん。
「お久しぶりです。谷岳先輩」
「え、何で名前知ってんの…って、例の噂か」
「有名人ですからね、谷岳先輩と望月先輩は」
「俺らとしては名前と噂が一人歩きしてて怖いことこの上ないんだけどな」
苦笑いで返すと、彼女はクスクス笑った。
「悪い噂ばかりじゃないんですよ?」
「また違う噂が広まってるのか…、まぁいいや。初めての演習頑張りな。もしそっちの班と合同でやるようなら、その時はよろしく頼むわ」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
手をヒラヒラさせて別れを告げた後、気を取り直して探すために歩き出した時、
「周紀先輩ー!こっちですー!」
左を見ると、皆の中心でバカでかい声で叫ぶ未世が手を振りながら飛び跳ねてた。
駆け足で近寄ると各々が挨拶をして、俺もそれに応える。
「遂に始まりますね。先輩」
「“先輩”、じゃないでしよ?」
いつも通り先輩に声を掛けたら、思ってた事と違う返しがきた。あれ?いつもの笑顔なのにちょっと怖いぞ?
「………、遂に始まりますね。愛さん」
「そうね、とても楽しみだわ!」
少し考えて、選択肢がこれだけになったので試しに言ってみると、とてもご満悦のご様子。南国のビーチで向けられたいタイプの笑顔だ。こんな笑顔向けられたら大抵の男は墜ちるだろう。俺はギリギリ耐えてる。軽く押されたら墜ちるけど。
「うぅー…、なんか緊張してきました…」
さっき俺を呼んだ時の元気は緊張を紛らわすためだったのか?よく見ると1年生達は少々落ち着きがないな。
「演習で緊張ってお前らなぁ…」
「初めてで何があるか分からないんですから、緊張するのは仕方ないじゃないですか!」
「いきなり近くででかい声出すな!フォローならいくらでもしてやるから安心しとけ!」
不満気な顔の未世だが、俺も初戦の頃は緊張したもんだ。だが、1度火蓋が切って落とされれば、アドレナリンだとかのお陰で撃ってる時は緊張なんて無くなったけどな。
「そうよ。私と周紀君で何とかしてあげるから、任せなさい」
1年生達にニッコリ微笑みかけてやる先輩を見て、つくつぐ母性に溢れる人だなと見蕩れていると、
「足を引っ張ってしまうことが多いと思いますが、よろしくお願いします」
恵那らしいいつもの至極真面目な顔と態度であるが、未世程ではないが緊張が見られる。
「まぁ、適度に気を抜いて頑張ろうぜ」
「…どの程度抜いていいのか分かりません…」
凛がうっすらと眉間に皺を寄せ考え込む。
「そりゃフィーリングでさ?なぁ、鞠亜」
「はぇっ!?あ、え、えぇ…、うぅ……」
試しに鞠亜に話題を振ってみたら、顔を真っ赤にして思いっきりキョドられた。うーん、もう少し慣らしが必要か。
「周紀先輩!鞠亜ちゃんを虐めないで下さい!」
「な!?い、虐めとらんわ!大勢の前で何言ってんじゃ!なぁ鞠亜?」
学校的に割とマジでシャレにならん。現に何人もこっち見てるし。
「うぅ……」
フォローを期待してさっきより努めて優しく声をかけたのに、更に俯いてしまった。
「鞠亜ちゃん大丈夫ですよぉ。怖い先輩から私達が守りますからねぇ」
ニヤニヤしながら鞠亜の肩を抱いているが、下心が丸見えである。
「勝手に私達を共犯にしないでよ…」
恵那の文句は未世にも聞こえているだろうが、全力で無視されてる。
「何度も何度も俺をおちょくりやがって……。未世、この演習場がお前の墓場だ…」
立場上強く出られない事をいいことに、仮にも先輩に何度もちょっかいを出すとは命知らず目め…。
「助けて下さい先輩!また周紀先輩に狙われてます!」
またってなんだよ。元凶はお前だろ。
「もう。2人とも遊ばないの」
弟と妹を窘める姉そのものの空気を纏って、『しょうがないなぁ』という感じの顔を向けてくる先輩。兄弟が多いだけあって、従わざる負えない空気を感じる。
「くっ…」
「なんというか…、谷岳先輩って、西部先輩に弱いですよね?」
凛が鋭く指摘してきたおかげで、未世が更に調子に乗って収拾がつかなくなってきた時、整列の放送が掛かり俺は救われた。
未世には渾身のデコピンを食らわせておいた。
‡ ‡ ‡
《第1回射撃用意。射撃位置につけ》
午前中の基礎トレーニングが終わって午後になると、各チームごとの射撃訓練が始まった。
1チームにつき1射場で並び、1年生には号令次(ごうれいし)を復習させるために、俺が最初で次が先輩だ。
イヤーマフ代わりのヘッドセットから聞こえてくる、射撃教官の号令を合図に、的前に並んだ20人の生徒達が“伏射ち”(ねうち)の姿勢をとる。
《前面の標的、伏射ち、脚(きゃく)使用、距離200。予備射手、弾薬受け取れ》
“予備射手”とは、俺の次に射つ人のことを言う。
後ろから、「第3的(だいさんてき)!」「第3的33発!」「第3的33発!」という先輩と弾薬係のやり取りが聞こえてくる。
予備射手が洗面桶に入った赤のテープが巻かれたマガジンと、白のテープが巻かれたマガジンを1つづつ持ってくるが、1つには30発フルで装填されているが、もう1つには3発しか装填されていない。他には使用した弾薬確認用の使い古された33発分の薬莢を収める木枠もちゃんと入っている。
射手はこの間に、使用する銃の照準器が200mにセットされているかを確認する。
弾薬を受け取った予備射手が伏せたのを確認してから、号令が次に進む。
《零点規正(ぜろてんきせい)を行う、弾込め》
3発しか入っていない白いテープが巻かれたマガジンを銃に差し込み、槓杆を引いて切換金(きりかえがね、セーフティ)を確認して、問題がない事を「よし!」という声と動作でハッキリと予備射手に伝えると、赤い旗を掲げる。赤い旗は銃及び武器に弾が装填されたという事を表す合図だ。
《零点規正3発、撃ち方始め》
セーフティをセミオートに切り替え、アイアンサイトなら、照門から照星を一直線で結び、照星の上に標的を乗せるように狙い射撃を始める。
慎重に3発を射ったら、セーフティを安全位置に入れ、銃から手を離し待機する。
予備射手も赤い旗を白い旗に切り換える。
《撃ち方やめ。弾倉抜け、薬室確認、切換金確認》
予備射手が白い旗を下げるのと同時に、マガジンを抜いて薬室を後退させて固定し、薬室内に弾が入ってない事を確認して、セーフティが掛かっている事をチェックする。
同じように声と動作で予備射手に伝えると、また白い旗を上げる。
《薬莢確認》
号令の度に白い旗を上げたり下げたりしないといけないが、これを忘れるとマジで教官に怒られるから、予備射手も油断は出来ない。
ついでに言うと、予備射手は万が一射手が暴走した際に組み伏せる“最後の安全装置”の役割もある。
薬莢受けから3発の薬莢を取り出し木枠に填め、良かったらまた合図を送り、白旗を上げる。
《弾痕調べ。照訂(しょうてい)始め》
右前にあるモニターを見て、弾着点を確認する。
照訂とは、3発の弾痕を線で結び、三角形を作る。その三角形の中心が的の中心からズレている分をダイヤルで修正し、零点規正は完了する。これがズレれたり間違えたりすると照準器は中心を狙っていても、弾着点は明後日の方向なんてことはよくある。ちなみに、三角形の一辺が的の中心より長い場合は“不軌弾”(ふきだん)と言い、照訂の際参考にしない。修正にかける時間は20秒で行わなければならない。
《本射を行う、弾込め》
予備射手から赤テープが巻かれたマガジンを受け取り、零点規正の時と同じように弾を込めて赤旗が上がる。
《緩射(かんしゃ)30発、撃ち方始め》
1発当たり5秒から7秒の間隔で30発を射つ。
よく映画などで、弾が切れているのに引き金を引き続ける描写があるだろう。
観ている側からすれば何とも間抜けな画だが、余程集中したり、焦ったりするとマジで起こる現象である。俺も中学の時に経験して実証済みである。
零点規正を行った後と同じ確認を済ませたら、白旗を上げて号令を待つ。
チラッと点数を確認したら、『99点』と表示されていた。
1発だけギリギリ黒点をはみ出し4点と判定されたようだ。
《第1回射撃止め、その場に立て》
素早い動作でその場に立ち、“不動の姿勢”をとる。
手や服に付いた汚れやホコリを払うことも許されない。
《薬莢回収、番代え》
最後の号令が掛かり、先輩から空のマガジンと33発の空薬莢が填った木枠が入った洗面桶を受け取り、弾薬係の下に返却する。
「第3的33発異常なし!」
「第3的33発異常なし!」
俺が言うと受け取ったと同時に復唱することで、俺の番は完全に終わる。
後の5人が終わるまで、後ろで待機してる未世や他の学生と話して射撃訓練は終わった。
‡ ‡ ‡
初日の課程が終わり支給されたテントを張るのだが、塹壕(タコ壺)掘って野宿や廃墟で雑魚寝が当たり前だった武学高校の演習に慣れた身としては、やっぱりこの演習の内容に物足りなさというか、甘さを感じてしまう。
その事をポロっと呟いたら、先輩の指示で動いていた1年生だけでなく先輩まで手を止めて武学高校の頭のおかしさとそんな演習を完走してきた俺達生徒に対して敬意の眼差しを向けてきた。実際はもっと過激な演習やらなんやらを経験しているが、これが表に出たら恐らく武学高校は潰されるだろうから言わない。
「…その、…苦労してるのね…」
最終的な皆の感想はこの一言に尽きる。
とりあえず武学高校が特殊って事だけは伝えておいた。来年とか他の学校の男子生徒と行動する時、武学高校生徒基準で測られたら堪ったもんじゃないからな。
雑談している間にテントは組上がり、女性陣が風呂へ向かっうとのことなので、俺も事前に渡されてた自分の1人用テントを組み立てる。…別に残念とか思ってないんだからね!
10分経たずに組み上げたところで俺も風呂に向かう。
災害派遣でよく見る野営入浴セットが組み上がっているとばかり思っていたら、男共は簡素なシャワー室が急拵えで並んでるだけだった。
シャワーが浴びられるだけマシだから文句はない。むしろあったかいお湯で汗を流せる事に感動しながらさっさと済ませてテントまで戻ると、女性陣は既に戻っていた。
「演習でシャワーが浴びれるって素晴らしいな」
戻って来て開口一番言い放つと、
「……とんでもない環境で演習を強いられていたのね……」
色々察し過ぎて、どんな顔をすればいいかわからないという感じの先輩に苦笑いされた。
「恵那ちゃんなんか大はしゃぎだったんですよー。『野営入浴セット2型だ!』なんて」
「ちょっと朝戸さん!?」
は?おい。ちょっと待て。
「未世、今何つった?」
サッパリした清々しい顔から一変、真顔になった俺に未世も困惑気味になる。
「えぇ?恵那ちゃんが大はしゃぎだったんですよ…?」
「その後だ」
「野営入浴セット2型がどうかしましたか?」
若干顔が赤い恵那本人から“その物品名”が言われる。
「アー、切レソ…、切レソ……」
「先輩?………あ」
何かを察した凛が可哀想な目を向けてきた。
「こっちには簡素なシャワー室しか無かったぞ!」
「私達に言われても……」
恵那が『知らんがな』とでも言いたげな顔をしているが、俺だけでなく、参加した全男子生徒の叫びがほぼ同時に森に響いた。
文句はまだあるが空腹が勝ったこともあってこれまた支給された缶飯を食べることにする。もう待遇の差は忘れよう…。
普段クールな恵那が缶飯でテンション上がってるのは見てて笑えるけど、睨まれるだろうから笑うのは堪えた。つーかお茶なんて配られたっけ?
「え?各学校で用意されてるはずだけど…?」
先輩に気の毒そうな顔を1日に2度も向けられた奴は恐らく俺が初めてだろう。全く嬉しくねぇ…。
「ハァー……」
クソデカイため息を1つついて無心になって缶詰を開ける。
そのせいで周りの空気が重くなっちまったじゃねぇーかよどうしてくれんだ我が母校。
「あの……、先輩…、まだ開けてないので…、これ、どうぞ………」
見かねた凛が差し出してくるが、
「心配すんな。飲まず食わずで演習なんてよくやってたから…。…ハハッ……」
乾いた笑いと笑っていない顔を見て皆との距離がちょっと開いたが、気にしないことにした。
‡ ‡ ‡
食事が終わると銃の整備くらいしかやることが無くなったけど、暗い今より朝方の明るい時間帯にやった方が効率がいいから、今日は早く寝ることになった。
周紀君はライトを持っているらしく自分のテントで蚊や蛾と戦いながらやると言って戻ってしまった。その際、余っていた蚊除けを渡したら、ものすごい喜んでいたのが、プレゼントを貰った子供のようで可愛かった。
私達もテントに入って寝転んだのはいいけど、暑さのあまりなかなか寝付けない中、朝戸さんが話題を作ってくれたお陰で暑さを忘れる事が出来た。
そんな時、
「こんな時の定番は恋愛トークとかじゃないんですか!?」
本当に朝戸さんらしい話題だと思ったけど、指定防衛校は案外出会いが無いため私を含め、皆まともな経験は無いようね。指定防衛校の女の子って、どちらかというと避けられる事が多いし。
「でも朝戸さんって、何かと周紀君にちょっかい出して反撃を受けてるけど、もしかして気があるの?」
だからと言ってはなんだけど、少し後輩に踏み込んだことを聞いてみた。
「えっ!?いや、そんなことないですよ!?」
裏返った声で慌てて否定している様子がおかしくて、私だけじゃなく、皆思わずクスクスと笑い出す。
「ホントに?」
さらに問い詰めてみると、
「あ、当たり前じゃにゃいですかぁ」
「全然隠せてないし…」
「分かりやすすぎ…」
「未世さん…」
やっぱり、そうなのね。
「だ、だって、周紀先輩は私に協力してくれるって言ってくれましたし…、強いですし……、心強いですし……」
勇気を出して声に出したけど、段々声音が弱くなってショボショボ萎れていくようだった。
「まぁ、確かに、谷岳先輩がいるって思うだけで、かなり心に余裕が出来るけど…」
「あら?豊崎さんも周紀君に気があるの?」
「違います!あくまで最前線で何度も戦闘を経験した先輩としてです!」
「もう、そんなにムキになったら周紀君が可哀想でしょ?」
「でも、頼れる人である事は確かです」
「わ、私も…、そう思います…」
「皆思った以上に周紀君の事を信じているのね」
いいチームとしてまとまっている事に、1人で安心を噛み締める。
「そういう先輩はどうなんですか!?周紀先輩の事、見つめてる時があるじゃないですか!」
仕返しとばかりに朝戸さんが言ってくる。
「えー、そんなことないと思うけど」
「いえ!絶対見つめてます!すっごい優しい目で見つめてます!」
「確かに時々そんな感じで見てますよね」
白根さんの援護射撃を得て朝戸さんが『ほらやっぱり!』と続ける。
「先輩は谷岳先輩の事、どう思ってるんですか?」
豊崎さんがいきなり核心を突いてくる。
「周紀君は私なんかより経験も豊富で頼りになる後輩よ。ちょっと不器用だけど仲間や後輩思いで、そのためならどんな危険すら省みないような危ない所も感じるけど、このチームに無くてはならない子よ」
ここで下手に隠したりすれば逆に疑われてしまうため、彼の評価を皆に伝える。
「……よく見てますねぇ…」
「これまでの周紀君の噂や行動を見れば分かることよ」
「うーん、先輩の方が周紀先輩を知ってるみたいで、なんか悔しいです…」
「この演習きりじゃないんだから、まだまだチャンスはあるわよ。でも、油断したら他の娘の所に行っちゃうかもしれないわよ?」
「う、それはイヤです…」
「なら、もっと積極的に行きなさい。イクシスにも恋愛にも負けちゃダメよ?」
「はい!両立できるように頑張ります!」
「はぁ…、全く暑苦しい…」
これまで話を聞いていた豊崎さんの苦情で話が途切れたタイミングで切り上げる。
それにしても、暑苦しいのは気温のせいだけじゃないのであろう。
「皆もまだ1年生なんだから、焦る必要は無いわよ。いずれ、きっと素敵な人に出会えるわ。…さて、そろそろ寝ないと明日に響くわよ」
それぞれの返事を聞いて私も寝ることに意識を持っていく。
皆に言った彼の評価は私の本心だし偽りはない。けど、“私立武学高校”を詳しく調べると、少し妙な裏話みたいなものが出てくる。
曰く、“表向きはガラと頭の悪い指定防衛高校だが、裏では有力な特殊工作員を育成している”だの、“生徒が死ぬような訓練をしている”だの、とても法的に認められない活動の情報がポロポロと見受けられるのだ。
1番驚いたのは、“選抜した学生を『遠征実習』と称して海外で人対人の戦争に従軍させている”というものだった。
(あんなに後輩を可愛がる周紀君に限って、そんなことはないだろうけど…)
一番確かなのは彼に直接聞くことだけど、こんな事、たとえ事実でも否定されるに決まってる。聞くだけ無駄なことだ。
それでも、何気ない時にたまに感じる彼が纏う空気が、そんな仕事をしていたかのように思ってしまう。
彼を信じる気持ちと、実は本当はと疑う気持ちが入り交じり、モヤモヤした思考と自己嫌悪に陥ったまま、私は眠りの海に沈んでいった。
あーい、早坂でーす。
長らくお待たせしました。本編最新話です。
ネタ集めに電子書籍で小説を読んでいたらこんなに期間が空いてしまいました。自衛隊が異世界で活躍するあの物語を書いた作者さんのタイムスリップ物を読みましたが、面白い作品でした。他にもバンドオブブラザーズを見たりしてました。………つまりサボってたってことです。サーセン_(:3 」∠)_
ちなみに本話中に登場する号令次は、『海』のものであって『陸』のものではありません。漢字も急いで書いたメモを見直したものなので、合ってないかもしれないです。そのへんはご了承ください。
年末の休暇も確定したので後は飛行機を取るだけです。実家に帰って上司・同期とサバゲにコミケが待ってるぜ!クリスマス?あぁ、ケーキ食う日だろ?
次回は外伝の方を更新するかもしれないです。当分先になるかな?
ではまたーノシ
2022.5.22.誤字を修正