ようやく大学のレポートの方が片付いたので、投稿を再開したいと思います。
デュエルの指摘などがありましたら、遠慮なく仰ってください!!(出来ればオブラートに包んで……)
感想お待ちしております!!
ちょっとした不慮の事故により千代の言うことを何でも聞くことになってしまったレイジ。そんなレイジに千代が言い出した頼みとは……
「遊城…兜魔……千代の兄貴?」
「うん……今度の日曜日、私と一緒にお兄ちゃんに会って欲しいの」
一緒に千代の兄…兜魔に会って欲しいという、よく分からないお願いだった。
「それくらいなら別に構わないが……俺はその人に会って何をすればいいんだ?」
「あ、別にお兄ちゃんに会ってどうこうして欲しいってわけじゃないよ。ただ……私、お兄ちゃんにどうしても言いたい事があるから……その付き添いをしてくれるだけでいいの」
「付き添い? いや、その人は千代の兄貴なんだろ? 兄妹なんだから、水入らずで話せばいいじゃねぇか」
千代の言葉に首を傾げながらそう答えるレイジ。すると、千代は俯きながらレイジの手を取り……
「お願い……レイジ君……!!」
「千代……?」
ギュウっと、何かに怯えるようにレイジの手を強く握りながらそう懇願する千代。心なしか、彼女の身体は僅かに震えていた。それを見て何かを感じ取ったレイジは……
「……わかった、付き合うよ」
千代の手を握り返しながらそう答えた。
「……ありがとう…レイジ君……!」
そんなレイジに感謝しながら、千代は彼の手をゆっくりと離したのであった。
そしてその後は、全員特に話題と言う話題がなかったので、その場は解散となったのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そしてその夜……レイジ達の部屋。
「すまないな、急に押しかけるような形になってしまって」
「気にすんな、3段ベッドの真ん中はいつでも開いてるしな」
「泊まりに来たかったらいつでも来てよ」
寝巻きであるジャージ姿に着替えてそんな会話をするレイジ、凛、カナタの3人。
因みに何故イエローであるカナタがこの部屋に居るのかと言うと、もう少しレイジ達と話したいことがあるという理由で、レッドとイエローの両寮長の許可のもと、この部屋に泊まることになったのである。
「そういや千代のヤツ……なんか様子が変だったけど、あいつの兄貴と何かあったのか?」
「さあ? それにしても驚いたね。まさか千代ちゃんが、あの遊城兜魔の妹だったなんて……」
「あぁ…遊城と言う苗字を聞いた時からもしやとは思ったが……だが凛、キミの情報網なら彼らの兄妹関係などすぐにわかるのではないか?」
「そうなんだけど……兜魔さんに関する情報は徹底的にシャットアウトされてて、僕ですら彼の素性はまったくわからなかったんだよ」
「つーか、2人共その兜魔さんって人を知ってるのか?」
「知ってるも何も、たぶん逆に知らない人の方が少ないんじゃないかな?」
レイジの質問に、凛は一呼吸置いて答える。
「オベリスク・ブルー2年の遊城兜魔さん……アカデミアの〝三大王〟の1人……『覇王』の称号を持つデュエリストだよ」
「〝三大王〟!!?」
自分の友人である千代の兄が三大王の1人だと言うことに、レイジは驚愕の声を上げる。
「そう……高等部からの入学にも関わらず、僅か1ヶ月という異例の速さでオベリスク・ブルーへと昇格した、異才のデュエリスト……その圧倒的な力で相手をねじ伏せるデュエルから、次第に彼は『覇王』と呼ばれることになったのさ」
凛の説明に、レイジだけでなくカナタも息を呑む。
「凄腕のデュエリストだとは聞いていたが……まさかそこまでとはな……!!」
「千代の兄貴がそんなスゲェ人だったなんて……何で千代は教えてくれなかったんだ?」
「……たぶん、その人の人柄のせいじゃないかな?」
「人柄?」
「うん。兜魔さんは冷酷非道なデュエリストで、相手を完膚なきまでに叩きのめし、彼とデュエルした人はの中にはデュエルをやめた人まで居るらしいよ」
「……マジかよ」
「あくまでコレは噂だけどね」
「……………」
凛の言葉を聞いて、レイジは考え込む。
「(あの時……千代の目は何かに怯えているような目だった。実の兄貴に対してあんな目をするのはおかしいが……もしかしたらこの噂話が原因なのか?)」
そんな事を考えながら、レイジは無意識に窓の向こうの夜空に浮かぶ月を眺める。
「……悪い、ちょっと出てくる」
そしてその後、レイジは2人に断りを入れて部屋から出て行ったのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
場所は変わって、千代とクリスの部屋。
そこでは千代とクリスが寝巻き姿の状態で、テーブルを挟んで座って会話をしていた。
「ねぇ千代……どうしてレイジ君に兜魔さんと会うための付き添いなんて頼んだの? そりゃあ千代は兜魔さんに対してトラウマがあるから、いざ面と向かったら話せなくなるかもしれないけど……それだったら事情を知ってるボクでもよかったんじゃないの?」
クリスは何故付き添いをレイジに頼んだのかを尋ねる。それを聞かれた千代は……
「……なんでだろ?」
と…小首を傾げながらそう言った。
「……はい?」
千代の予想外の返答に、呆気に取られるクリス。
「私にもよくわからないんだけど……私ね、レイジ君と一緒にいると凄く安心するの」
「安心?」
「うん。レイジ君と一緒にいると、ホッとするって言うか……何だか心が凄く軽くなって、勇気が湧いてくるの。どうしてかな?」
「さ……さあ?」
もう一度小首を傾げて尋ねてくる千代に、クリスは顔を引き攣らせながら答える。
「(えっと……これってもしかしなくても……ううん、千代はそう言うところに対して疎いところがあるからまだ決め付けるのは早いね……そのせいで中学時代、何人の男子が涙を流したか……って、そうじゃなくて)」
考えている事が脱線しそうになり、すぐに首を振って思考を切り替えるクリス。
「(この子がこんな風に誰かを頼りにするなんて初めてだ……千代は内気で、何より良い子だから…悩みとかを全部自分の内側に押し込めてしまう。
兜魔さんとの出来事に関しても、誰にも相談せずに、誰の助けも求めずに、たった1人で悩んで……苦しんでた。
そんな千代が今日初めて、レイジ君に助けを求めた……)」
そこまで考えると、クリスは口元に自然と笑みを浮かべる。
「(ちょっと……レイジ君が羨ましいかな……)」
嬉しい反面、ちょっと羨ましい気持ちもあり、その笑みは苦笑いになっていた。
「クリスちゃん? なに笑ってるの?」
「べっつにぃ~♪」
千代の問い掛けに、今度は意地の悪い笑顔を浮かべながら、そう答えるクリスであった。すると……
コンコン……
っと、彼女達の部屋の扉から、控えめなノックが聞こえてきた。
「こんな時間に誰だろう? は~い!」
そう言いながら千代はドアの方へと歩いていき、ガチャっとドアを開ける。そこに居たのは……
「よう……」
「レイジ君!?」
突然の来客者……レイジの姿を見て驚く千代。
「およ? レイジ君じゃ~ん! こんな時間に女の子の部屋にやってくるなんて……もしかして夜這い?」
レイジをからかおうとして意地の悪い笑顔を浮かべながらそう尋ねるクリス。
「……少し…聞きたい事があってな……」
だが当のレイジは、そんなクリスの言葉など気にも留めず、真剣な表情で冷静にそう言い放つ。それを見たクリスも、意地の悪い顔から一変し、真剣な表情になる。
「……いいよ、入って」
「えっと……どうぞ」
「スマン……」
2人の部屋主の許可をもらって、部屋の中へと足を踏み入れるレイジ。そして3人がソファの上に座ると、クリスがさっそく本題を切り出した。
「それでレイジ君……聞きたいことってなに?」
「あぁ……千代と兜魔さん……この2人の間に何があったのかを教えて欲しい」
「!!?」
レイジの質問に、千代は目を大きく開いて驚愕し、クリスは「やっぱり…」と言いたげな表情をする。
「千代、お前が兄貴である兜魔さんにどうしても言いたい事があるって言った時、お前の真剣さが伝わってきた……だから俺もOKしたんだが、それと同時に……お前の兜魔さんに対する恐怖心を僅かに感じたんだ」
「………………」
「あと……凛に兜魔さんの噂話を聞いた。その人とデュエルした人は、デュエルをやめちまうって……」
「っ……」
その話を聞いた途端、千代に僅かな動揺が見えた。
「俺の推測だが、その噂とお前の恐怖心……何か関係あるんじゃないのか?」
「………………」
レイジの問い掛けに、千代は何も答えずにただ俯く。そんな千代の代わりに、クリスが口を開く。
「レイジ君……仮にその推測が正しかったとして、それを聞いてレイジ君はどうするの?」
いつもの明るい感じのクリスが、今は非常に落ち着いた態度でレイジに問い掛ける。
「別に……どうもしないさ。言いたくないんだったら言わなくていいさ。俺も無理に聞き出そうとも思わないし。もちろん、約束通り日曜日の付き添いもちゃんとやるよ」
「じゃあ、何でわざわざこんな夜更けに部屋に来てまで聞きにきたの?」
「…………」
そんな質問に、レイジは淡々と答える。そんなレイジに更なる質問をするクリス。
その問いに対してレイジは、しばらくの沈黙のあと……ゆっくりと口を開いた。
「クリスにはまだ言ったことなかったが……俺には家族が居ない」
「え?」
「いや…正確には〝家族〟と呼べる存在はいるが、血の繋がった実の家族がいないんだ」
突然のカミングアウトに、クリスは呆気に取られるが、レイジは構わず話を続ける。
「俺は物心つく前に親に捨てられた。幸い捨てられたのが孤児院の前だったから、俺はこの通りすくすくと育った。孤児院で一緒に育ったヤツ等は兄弟みてーなモンだし、経営者のおじさんとおばさん夫婦も両親みてーなモンだ。それにダルクや他の精霊達も、俺にとっては大切な家族だ。だけど──」
そこまで言うと、レイジは言葉を区切って一呼吸置いて……
「──俺が天涯孤独の身であることは変わらない」
「「!!?」」
そう言ってレイジはどこか寂しげであり、それを見た千代とクリスは思わず息を呑んだ。
「だからかな……家族が居るヤツは正直羨ましいし、そんなヤツ等が家族のことで苦しんでるのを見るのは嫌なんだ……だから千代のことを放っとけなかったんだ」
レイジがそう言い終えると、部屋は再び沈黙に支配される。
「……つまんねぇ話しちまったな。そろそろ部屋に帰るわ」
そう言って立ち上がろうとするレイジだが、それが叶う事はなかった。何故なら、千代がレイジの服の裾を掴んで彼を引き止めているからだ。
「ありがとうレイジ君……私のこと心配してくれて。私も……ちゃんと話すよ」
「……いいのか? 本当に言いたくないことだったら言わなくてもいいんだぞ?」
「ううん、本当なら昼間にお願いした時点で話すべきだったから。いいよね、クリスちゃん?」
「千代が決めたことなら、ボクは文句言わないよ♪」
クリスが優しく微笑みながらそう言うと、千代はゆっくりと語り始める。
「お兄ちゃんはね〝デュエルは勝利が全て〟を心情にして、冷酷で非情なデュエルをする人なんです。お兄ちゃんとデュエルした何人かの人は、デュエルをやめてしまいました」
「……凛が言ってた噂は本当だったってことか」
レイジの言葉に、千代は静かに頷き、言葉を続ける。
「昔はそんなことなかったんだけどね……私が小学校低学年の頃は凄く優しくて、私やクリスちゃんはよく遊んでもらったりしてたの」
「うん……あの頃の兜魔さんは、本当に優しかった」
「そして中学生の頃、私は冷酷なデュエルを続けるお兄ちゃんに我慢できなくなって、デュエルを申し込んだの。もちろん結果は惨敗だったけどね……そしてその時に、お兄ちゃんに言われたんです」
『俺が怖いか? ならば覚えておくといい……デュエルとは決して楽しいものではない。勝者は称えられ、敗者は惨めに地べたを這い蹲る…ただそれだけの世界だ。貴様のように〝デュエルは楽しければいい〟などという考えを持つ者は決して生き残れない……この程度で恐怖を感じているのならば、悪いことは言わん…………デュエルをやめろ』
「って……その時のお兄ちゃんの目は凄く怖くて……私はデュエルをやめたいって思ったんです」
「っ……!?」
まさか自分と同じくらいデュエルが大好きな千代が、デュエルをやめたいと思ってしまうほど追い込まれていたとは想像してなかったレイジは目を見開いて驚愕した。
「そんな事があって、それから私はお兄ちゃんを避けるようになって……今でもお兄ちゃんを前にすると、あの時の恐怖が蘇ってきてしまうんです……!!」
「……トラウマ…か。だからあの時、怯えていたのか。じゃあなんで、今になって会うって決めたんだ?」
千代のトラウマを知ったレイジは、彼女にそう問い掛ける。
その問いに対し、千代は暗い表情で俯きながら答える。
「……今まで私は、ずっとお兄ちゃんに怯えてた……中学生の時にお兄ちゃんにデュエルで負けて…『デュエルをやめろ』って言われた時、凄く怖かった……だけどそれ以上に……悔しかった。
デュエルで負けたことがじゃなくて……何も言い返せなくて、一瞬でも大好きなデュエルをやめてしまおうと考えちゃった事が……!!」
そう語りながら千代は、膝の上に置いていた手を、悔しそうにギュッと握り締める。
「本当は言いたかった……『デュエルはやめない…次こそはお兄ちゃんに勝つ』って……だけど、お兄ちゃんの目を見ただけで……怖くて言えなかった……!!」
そこまで言うと、千代は暗い表情を一変させて、何かの決意を露にしたような表情で顔を上げた。
「だから今度こそ、私はお兄ちゃんに言いたい!! あの時言えなかったことを……お兄ちゃんに面と向かって言いたいんです!!!」
そんな千代の、決意に満ち溢れた言葉を聞いたレイジは……
「………よく言ったっ!!」
と、大声で叫んだ。
「千代!! お前の頼み、改めて引き受けるぜ!! 日曜日なんて言わずに、明日にでも兄貴のところに乗り込んで、お前の思いをぶつけようぜ!!!」
「えぇ!? あ、明日なんて無理だよ!! まだ心の準備が……」
「思い立ったが吉日だ。すぐにでも行動しねぇと、その決意が薄れちまうぜ。それに千代の性格だと、当日になったらなったで、緊張でオロオロして行動に移れなさそうだしな」
「はうっ!!」
「さすがレイジ君、わかってるぅ♪」
レイジの言葉で図星を突かれた千代と、楽しそうに肯定の言葉を口にするクリス。
「つーわけで明日の放課後にでもお前の兄貴にところに乗り込むぞ。兄貴に『話があるから首洗って待ってろ』ってメールで連絡しとけ」
「無理だよっ! お兄ちゃんにそんなメール送れないよっ!!」
「任せてレイジ君! ボクが千代のPADを使って兜魔さんにキッチリ連絡しておいてあげるから!」
「よっしゃ! 任せたぞクリス!!」
「オーケー♪」
楽しそうにそう言ってグッと親指を立てるレイジとクリス。
「なんで2人がそんなにノリノリなの!? これって一応私の問題だよねっ!!?」
「「大切な友達のためならば、俺|(ボク)達はどんなことでもする!!!」」
「その台詞自体は嬉しいけど、何だか気持ちは凄く複雑だよーー!!!」
その時……レッド寮に千代のツッコミと言う叫びが木霊したのであった。
「んじゃ、俺は帰るわ。2人共おやすみ~」
「また明日ね~♪」
「うぅ……お休みなさい」
そう言ってレイジは部屋を出て行き、千代とクリスはそれを見送った。
「それじゃあ千代、ボク達もそろそろ寝ようか?」
「うん、そうだね。それじゃあその前に、私は歯を磨いてくるね」
「はいは~い♪」
そう言って洗面所の方へと向かっていく千代を見送ったあと、クリスはレイジが去ったあとのドアをジッと見つめる。
「……凄いなぁレイジ君。部屋に充満してた暗い雰囲気を一発で吹き飛ばした上に、千代の決意が揺れない様に約束の日を明日にまで変更させるなんて……
にひひっ……やっぱりレイジ君はおもしろいなぁ~♪」
そんなクリスの楽しそうな声が、部屋に静かに響き、彼女以外の耳に入ることなく消えていったのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方……千代達の部屋から出てきたレイジは、自分の部屋に戻る途中にある階段の前で足を止め……
「……で? いつから聞いてたんだ?」
視線を階段の上に向けてそう問い掛ける。
そこには手摺りに腰掛けた凛と、申し訳なさそうなカナタの姿があった。
「うーん…そうだね、いつからと聞かれると……最初からって答えるのが妥当かな?」
「すまないレイジ、一応止めようとしたんだが凛に押し切られてしまい、俺もちょっとした好奇心でつい……」
「別に、俺の話に関しちゃ気にする必要はねぇさ。どの道いつかは知られる事だしな。でも千代の話に関してはちゃんと本人に謝っておけよ?」
「ん、了解」
「そのつもりだ」
階段を上がりながらそう言うレイジの言葉に、素直に頷く2人。
「とりあえずレイジ、明日は頑張りなよ。影ながら応援してるからさ」
「頑張るのは千代だけどな、その言葉はありがたく受け取っておくぜ」
凛の言葉にレイジは頷きながらそう返すと、「ふわぁ…」っと大きく欠伸を漏らした。
「いい加減ねみぃ……今日はもうさっと寝ようぜ」
「そうだな。明日も授業があることだし、今日はもう寝てしまおう」
「そうしよっか」
レイジの欠伸交じりの言葉にカナタが同意し、凛も頷く。
そして3人は部屋へと戻り、眠りについたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして……翌日の放課後・レッド寮前。
「千代、心の準備は出来たか?」
「う…うん。まだちょっとだけ緊張してるけど……大丈夫」
そこではレイジと千代の2人だけが立っており、千代の方は若干強張った表情をしている。
「兄貴には連絡したのか?」
「うん。『お話があるから、放課後に港の灯台下まで来て下さい』って一応……」
「オーケー。んじゃあさっそく行こうぜ!!」
「うんっ!!」
レイジの言葉に、千代は力強く頷き、2人は港に向かって歩いていったのであった。
そして、そんな2人から少し離れた草むらでは……
「レイジ君と千代が動いたよ!」
「よし、それじゃあ一定の距離を保って跡を着けよう」
「おい待てそこの2人」
ヒソヒソと会話をしながら2人の跡をつけようとしている凛とクリスにカナタがツッコミを入れる。
「どうしたのカナタ君? 早くしないと見失っちゃうよ?」
「なぜあの2人を尾行等と言う悪趣味なことをする必要がある? これは2人の問題だから、俺達は寮で2人の帰りを待って、その報告を待つべきだろう?」
「ふぅ…わかってないなカナタは。言っとくけど、これはレイジも合意の上での尾行なんだよ?」
「なに?」
「ほら、僕が昨日の夜レイジに言ったでしょ?『影ながら応援してる』って……それに対してレイジは拒否しなかったからね~」
「……あれはこう言う意味だったのか……」
確かに物陰から応援しているその姿は、昨日の台詞の的を射ているとは思うが……何か釈然としないカナタであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その後……レイジと千代は、まだ誰もいない灯台の下へとやって来た。
「まだ来てないのか……」
「早く来すぎたのかもしれないね」
周辺をキョロキョロと見回しながらそんな会話をする2人。すると……
「貴様らか……この俺を呼び出したのは?」
「「!!?」」
突然背後から聞こえてきた声に、レイジと千代はほぼ同時に振り返る。
するとそこには、黒生地に青いラインが入った制服に身を包み……金色に輝く瞳から発せられる冷たい視線で2人を見据える青年……『遊城 兜魔』の姿があった。
「で……愚妹風情が一体なんの用だ?」
「「っ!!?」」
兜魔の金色の瞳に睨まれ、千代だけでなくレイジも怯む。
「(に…睨まれただけなのに何て威圧感だ……それに俺の直感が『こいつは強い』ってガンガンに警報鳴らしてやがる……これが千代の兄貴であり、アカデミア〝三大王〟の1人……覇王・兜魔!!!)」
レイジは目の前に立つ圧倒的な存在……兜魔に戦慄し、冷や汗を流す。
「千代……大丈夫か?」
「あっ…うっ……うぅ……!!」
レイジは隣に立つ千代に声をかけるが、当の千代は顔を青くし、目元には涙が溜まり、身体を震わし、完全に萎縮していた。
「…………」
「ひっ……!!」
「(……話には聞いていたが、ここまで怯えるとは……この人は本当に、千代のトラウマなんだ……)」
兜魔にギロリと睨まれて小さな悲鳴を上げる千代を見て、内心で心配するレイジ。
すると兜魔はそんな千代を見て、今まで開かなかった口を開いた。
「……無様だな。そうやって一生俺と言う名の存在に怯えるつもりか?」
「あう…うぅ……!!」
「お前のような臆病者の愚妹にデュエルする資格などない。さっさとデュエルをやめて、この学園を去ることだな」
怯える千代に冷たくそう言い放つと、兜魔は背を向けて歩き出そうとする。
「待てよ」
そんな兜魔を、レイジが呼び止める。
「俺を無視してさっさと帰ろうとしてんじゃねぇよ」
「……貴様は……神谷玲路、だったか?」
兜魔は背を向けたまま、首だけを振り返らせてレイジに尋ねる。
「俺を知ってんのか?」
「入学試験の時に貴様のデュエルを見たことがある。中々興味深いデュエルだったから覚えていただけだ」
「光栄だね、アカデミアの〝三大王〟と呼ばれているアンタにそう言ってもらえるとは」
「勘違いするな。受験者のザコどもの中では、少しだけマシなザコだった……というだけの話だ。俺から見ればザコには変わりない」
「……言ってくれるな。だったらザコかどうか試してみるか?」
額に赤い十字路を浮かべながらデュエルディスクを構えるレイジ。
「……おもしろい」
それを見た兜魔はレイジと向き直り、彼の挑戦を受けるかのようにディスクを構える。
「と……言いたいところだが、今日の俺は千代の付き添いだ。当人を放っといてイザコザを起こすつもりなんざねぇ」
「………………」
そう言ってレイジが構えを解くと、対する兜魔も無言で構えを解く。
「どうだ? どうせやるなら、アンタの妹の千代とデュエルしてみるってのは?」
「えぇっ!!?」
レイジの突然の申し出に、誰よりも驚いたのは千代であった。
「……俺はどちらが相手でも構わない。だが、そこの愚妹に戦意があればの話だがな」
「オーケー、交渉成立。つーわけで、やれるか千代?」
「む…無理だよ!! なんで急に私とお兄ちゃんがデュエルすることになっちゃってるの!!? 私はお兄ちゃんに話があっただけで……」
「向き合っただけで震え、睨まれただけで泣き出す……そんな状態で言いたい事が言えると思ってるのか?」
「うっ……」
レイジに図星を突かれ、押し黙る千代。
「千代、お前は面と向かって兄貴に言いたい事を言いたいんじゃなかったのか? だったらまずはお前自身がトラウマを乗り越えねぇとダメなんだ」
「レイジ君……」
「ちょっと荒治療だけど、真正面からぶつかって! お前のトラウマを乗り越えて来い!! それと、昔のお前とは違うってことをあの覇王様に見せ付けてやれ!!」
「……うん……そうだよね。いつまでも逃げているだけじゃダメ……私は決めたんだ…大好きなヒーローのように、どんな相手にも立ち向かう勇気を身に着けるって!!」
そう言う千代の目にはもう怯えはなく、レイジがよく知っているデュエリストの目になっていた。
「頑張れよ、千代!」
「うん!! ありがとうレイジ君!!」
そう言うと、千代はデュエルディスクを起動させて、兜魔と向き合った。
「貴様が相手か。覚悟は……出来ているんだろうな?」
金色の瞳で千代を睨みながらそう問い掛ける兜魔。
「……はいっ!!」
しかし、まだ千代の目に若干の恐怖があるものの戦意は失っておらず、千代は力強くそう答えた。
「……いいだろう。相手になってやる」
それを見た兜魔は千代を挑戦者と認め、ディスクを構える。
「行くよ……お兄ちゃん」
「叩き潰してやろう」
「「デュエル!!!」」
先攻
遊城千代
LP:4000
後攻
遊城兜魔
LP:4000
◆◇◆◇◆◇◆◇
「私の先攻、ドロー! 私は『E・HEROザ・ヒート』を召喚!」
E・HERO ザ・ヒート
LV:4
ATK:1600
「ザ・ヒートのモンスター効果! 私のフィールド上に表側表示で存在する『E・HERO』と名のついたモンスターの数×200ポイント、ザ・ヒートの攻撃力がアップします! 私の場にはザ・ヒート自身のみ……よって200ポイントアップです!」
E・HEROザ・ヒート
ATK:1600→1800
「カードを1枚セットして、ターンエンドです」
千代
LP:4000
ザ・ヒート(ATK:2000)
伏せカード:1枚
手札:4枚
「俺のターン、ドロー」
ドローしたカードを確認すると、兜魔はそのままそのカードをディスクにセットした。
「出でよ、闇に堕ちた英雄……『E-HERO ヘル・ブラット』特殊召喚」
E-HERO ヘル・ブラット
LV:2
ATK:300
「イービルヒーロー……あれが覇王と呼ばれる兜魔さんのデッキ」
レイジは目の前に居るアカデミアの〝三大王〟の1人のデッキを確認する。
「ヘル・ブラットは俺のフィールド上にモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚できる。そしてこのヘル・ブラットをリリースし、『E-HERO マリシャス・エッジ』をアドバンス召喚」
E-HERO マリシャス・エッジ
LV:7
ATK:2600
「レベル7のモンスターをリリース1体で召喚した!?」
「マリシャス・エッジは、相手のフィールドにモンスターが存在する時、リリース1体で召喚することが出来るんです」
驚愕するレイジに、顔をしかめながらそう説明する千代。
「マリシャス・エッジでザ・ヒートを攻撃。マリシャス・クロウ」
「くぅ……!!」
マリシャス・エッジの鉤爪で引き裂かれ、破壊されるザ・ヒート。
千代
LP:4000→3200
「この瞬間、罠カード『ヒーロー・シグナル』を発動! 私のモンスターが破壊された時、手札またはデッキからレベル4以下の『E・HERO』を特殊召喚します! 来てっ『E・HERO エアーマン』!!」
E・HERO エアーマン
LV:4
ATK:1800
「そしてエアーマンのモンスター効果! このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから『HERO』と名の付くモンスター一体を手札に加えます。私はデッキから『E・HERO オーシャン』を手札に」
デッキからカードを抜き出し、手札に加える千代。
「俺はカードを1枚セット。そしてエンドフェイズ時、リリースに使用したヘル・ブラットの効果発動。このカードを『HERO』と名のついたモンスターのリリースに使用したエンドフェイズにデッキからカードを1枚ドローする。ターンエンドだ」
兜魔
LP:4000
マリシャスエッジ(ATK:2600)
伏せカード:2枚
手札:3枚
「私のターン、ドロー! よしっ…私は手札から『融合』を発動します! 手札の『E・HERO オーシャン』と『E・HERO フォレストマン』を融合!!」
千代の場にオーシャンとフォレストマンが現れ、2体はそのまま上空に出現した渦の中へと飛び込む。
「来てっ!『E・HEROジ・アース』!!!」
E・HEROジ・アース
LV:8
ATK:2500
「おおっ、出たぜ! 千代のフェイバリットカード!!」
ジ・アースの登場に歓声を上げるレイジ。だが……
「この瞬間、罠発動」
兜魔のこの一言で、それは打ち消された。
「罠カード『フュージョン・キャプチャー』。相手が融合召喚に成功した時、その融合素材にしたモンスターを2体まで相手の墓地から自分フィールド上に特殊召喚する。ただし、召喚したモンスターの攻守は0となる」
兜魔がそう言うと同時に、彼の場にオーシャンとフォレストマンの2体が召喚される。
E・HERO オーシャン
DEF:0
E・HERO フォレストマン
DEF:0
フュージョン・キャプチャー
通常罠
本作オリジナル
相手が融合モンスターの融合召喚に成功した時に発動する事ができる。
その融合素材にしたモンスターを2体まで、相手の墓地から自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力と守備力は0になる。
「千代のヒーローを場に召喚した? 守りを固めたのか?」
「いえ…お兄ちゃんはデュエルにおいて、決して守りに徹することはありません。オーシャンとフォレストマン…お兄ちゃんが狙っているのは恐らく……!! なら、私は手札から『H―ヒートハート』を発動します! エンドフェイズまでジ・アースの攻撃力を500ポイントアップさせます!」
E・HERO ジ・アース
ATK:2500→3000
「さらにこの効果を受けたモンスターは貫通効果を得ます! ジ・アースでオーシャンを攻撃!! アース・インパクト!!!」
「これが通れば、3000の大ダメージだ!!」
「ふん……罠発動『強制終了』。俺のフィールドに存在するこのカード以外のカード1枚を墓地へ送る事で、このターンのバトルフェイズを終了する。俺はマリシャス・エッジを墓地へ」
ジ・アースの攻撃は不発に終わり、兜魔の場からはマリシャス・エッジが消えていった。
「(攻撃力2600のマリシャス・エッジを迷いなく捨てた……やっぱりお兄ちゃんが狙っているのは……)私はカードを1枚セットして、エアーマンを守備表示に変更。ターンエンドです」
千代
LP:3200
ジ・アース(ATK:2500)
エアーマン(DEF:300)
「俺のターン、ドロー」
兜魔はドローしたカードを見て「ふっ」と、僅かに口角を吊り上げる。
「手札から魔法カード『ダーク・フュージョン』発動」
「ダーク・フュージョン?」
「ダーク・フュージョンは、悪魔族専用の融合カードです。そしてその闇の融合は……正義のヒーローでさえも、闇に染めてしまう……」
聞き覚えのないカードに首を傾げているレイジに、そう説明する千代。しかしその表情は、どこか悲しげだった。
「俺はフィールド上のオーシャンとフォレストマンをダーク・フュージョン」
兜魔がそう言うと、オーシャンとフォレストマンは上空に出現した禍々しい雰囲気を持つ渦の中に飛び込んでいく。
「現れろ、闇に染まりし英雄……『E-HERO ヘル・アース』」
そして兜魔の場に現れたのは…まるで地獄を思わせる不気味な赤黒いボディを持ち、ジ・アースの身体を刺々しくしたような姿を持ったヒーローであった。
E-HERO ヘル・アース
属性:地
種族:悪魔族・融合
LV:8
ATK:2500
DEF:2000
『E・HERO オーシャン』+『E・HERO フォレストマン』
「ククク……闇を纏いし英雄の恐怖……もう1度貴様に叩き込んでやろう」
闇を纏いし英雄を従えて君臨する覇王・兜魔。
果たして千代は、彼に対する過去のトラウマを乗り越えることが出来るのだろうか……
つづく
オリカの詳細などは次回の後編にて。