オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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9 強化、果てを見据えて

この世の全ては科学で説明する事ができる。

いい言葉だ。

この言葉が俺が生きている現時点で真実であったのなら、なお良い言葉だったろうと思う。

 

完全に嘘と言い難いのがまた心憎い。

科学で説明できない事は多くある。

そも、説明出来ない事が無いのであれば、既にこの世界で科学という学術は研究されていないだろう。

未知があるから科学がある。

 

だから、運良く人類が滅びずにこの世の謎を解き明かし続け、その研究成果を纏め続ける事ができたとして、最終的にすべての謎が解き明かされ説明できるような時代が来るかもしれない。

それは人類の黄昏、老年期の終わりという時期の事を指すのだろう。

全ての未知が既知に差し替えられた世界で、人類の知的好奇心は緩やかに壊死し、ゆっくりと崩壊を始める。

所謂種族的寿命というものだ。それが穏やかな最後である事を心から祈っている。

 

だがそんな時代は遥か遠く、今の世界は未知で溢れかえっている。

超能力、天使、神、妖怪、鬼。

現時点で説明の付かないこれらは、少なくともこの世界においては確実に存在する世界の構成要素の一つである。

 

宇宙は神という闇から産み落とされ、人も獣も神や天使なる超常の存在にデザインされ、野に放たれた獣はやがて妖怪になり、人もまた紆余曲折の中で鬼に至り……。

時はまさに世紀末……世紀末? あ、今年世紀末だ、凄い。

 

人類に敵対的な種族が惑星大直列が如く複数ほぼ同時に活動的になるこのイカれた時代にのこのこようこそようこしてしまったのが俺。

そんな俺は、やや頭脳派寄りの文武両道のエリートルートから外れ、外敵から身を護るために十年二十年戦い続けられるタフボーイ(超再生能力)へと生まれ変わったのだ。

正気にて生存はならないので一部正気と人の目に触れない部分の倫理観は一旦捨ててある。

そして澱んだ街角で出会うのはグロンギのムセギジャジャなので殺す。

あとオルフェノクとも出会うので殺す。

ファンガイアとは出会ったことがないな……でもどうせ襲ってくるので殺す事になると思う。

あの渋谷を見るに間違いなくワームが居るので、本性を表し次第迅速に殺せるようにしなければならないだろう。

 

殺伐とした世の中に穏やかで幸せな人生を望む俺はとても悲しんでいる。

平和を乱すやつとか全員死ねばいいのでもう殺すしかない。

ちゃんと和平を結べるなら殺さなくても良いが、人を食べる種族が人間と和平を結べる未来というのは多くの奇跡の積み重ねの先にしか存在しないのだ。

ワームに至ってはネイティブ含めれば滅ぼすのは至難の業だというのに危険度はピカイチで高い。

 

つまり端的に言って、今必要なのは身を護る技術と外敵を確実に殺す技術。

実はこの二つの技術が表裏一体だというのだから技術というのは面白い。

医術の心得を持つ者が、人が死ぬ条件に詳しいのと同じ事だ。

身を守る技術を持つという事は、殺されてしまう条件を知り防ぐため、攻めの技術を知る、という事に繋がる。

相手を殺す技術を持つという事は、身を護る術をくぐり抜けて命を奪う為、守りの技術を知る、という事に繋がる。

どちらかを知る事が、最終的にはどちらにも通じるという事に繋がるのだ。

勿論、簡単な護身術であればまた別の話になるのだが、それは今必要な話ではないので置いておこう。

 

気、という技術がある、らしい。

まるで漫画!

……などと笑い飛ばせる程、この世が一般的な常識だけで測れない世界である事は間違いない。

クウガの力、霊石アマダムの作用や、アギトの力、超能力のその先にある進化の力を、証拠を見せずに人に説明すれば笑い飛ばされてしまうだろう。

例えば妖怪──魔化魍の存在が知れ渡っていないのは、猛士や鬼の皆さんの健闘もあるだろうが、政府が隠蔽に一枚噛んでいるのも理由の一つなのではないだろうか。

鍛えた鬼が生み出す清めの音でしか消すことが出来ず、一定期間を置いて自然発生する人食いの巨大な化け物が存在するなどと言われれば、それはもう世間は混乱する事請け合いだ。

 

知られていない、というのには、何らかの理由がある。

数十年前に遡ると時折発見できる謎の集団失踪やスポーツ選手、科学者の行方不明事件。

それらがテレビの未解決事件特集などですら取り上げられず、都市伝説的にアングラでのみ語られているのと同じ事だ。

十一年前、そして十年前に幾つもの都市が瓦礫になる程の震災が起きたと言われているのも似たようなものか。行方不明者には勿論著名な科学者などが多い。

……いざとなれば四国は完全に安全である可能性もあるが、現状俺が四国に訪れた時点で謎の黒い戦士に太陽数個分のエネルギーを流し込まれて死にかねないので、最後の中の最後の手段になるだろう。

閑話休題。

 

だが、この気という謎の生体エネルギー及びその運用法が知られていない理由は割と単純なものだろう。

わかりにくいのだ。

或いは、気の齎す作用がある程度科学で説明できてしまうのも問題がある。

それは物理法則や人体工学に基づいた作用である、と、解明されたのだと言われてしまえば、深く追求する者は少なくなる。

それは未知ではなく既知であるのだから、改めて確認する必要はない。

 

丹田で気を練るのだ、とか。

全身に気を巡らせて身体を強固なものにするのだ、とか。

気を整えて感情を平静に保つ、とか。

知らず知らず、無意識の内に一般人すら運用しているそれを、未知のエネルギーであると思う者は少ない。

 

だが、それが身近な、無意識の内に使われるものであったとしても、より先鋭的に鍛え上げる技術があるとすればどうか。

その証明は、実在が確認できた時点でなされたと言っても良い。

この世界で、自然あふれる土地に居を構える道場は須らく強者の集う場所なのだ。

そうでなければ魔化魍のおやつ箱にしかならない。

 

日本国、青森県は八甲田山の奥深く。

一般人が足を運ぶトレッキングコースから大きく外れた奥深くに、その場所は存在する。

周囲の木々と一体化するように建てられた寺院。

実際、何を祀っているのかよく分からないそこでは、日々、何のために体を鍛えているかわかったものではない、見るからにカタギではない人々が、現代日本の文明から隔絶した過酷な修行生活を行っている。

時代錯誤ですらある、求道者達の集まる場所。

赤心寺。

 

俺はそこに、背負子に乗せ背負紐で固定したジルを伴い、徒歩で訪れ。

夏休みの半分くらいを掛けて、格闘術を始めとした戦闘術全般を、二週間くらいでざっくりと学ぶ事になる。

 

―――――――――――――――――――

 

門前では、舐めてんのかコラ、みたいな扱いを受けた。

ちょっと体の不自由な女の子の世話をしながら、何年も掛けて受ける修行を二週間くらいで大まかな部分を受けさせてほしいと言っただけなのに、短気な話だ。

だが、最終的に滞在を許して貰えたので良しとする。

誠心誠意の説得でここの技を学びたいという事を納得して貰えたのは実に文明的で良い事だと思う。

哺乳類は痛みに弱い、これは常識。

現代文明から離れてもそれは変わらない真実である。

いや、現代文明とか法の庇護下に居ないからこそ取れた手段であると考えれば、この場所ならではの解決法だった。

あわや僧兵の皆さんご協力の下で行われる実践乱取り式学習法になるか、という場面で事を収めてくれた師範には頭が上がらない。

 

さて、では二週間でどれほどの成果が出たか、と言えば、いまいち分からない。

梅雨時期に山頂で雷を浴びた時程の劇的な変化が無かった事は確かだが、何も変わらなかったか、と言えば、それもまた違うと言える。

イマイチ分からない理由としては、その場に居た修行僧の方々が尽く人間だったのが悪い。

練習は出来ても殺すつもりで打てないというのはやはりどうにも煮え切らない。

拳が巻藁を砕く、抜き手が鉄を貫く。

まるで意味がない。

人より壊し易いものを壊したとて、人の上位互換であるグロンギの戦士にどれほど通じると言えるだろうか。

必要なのは、威力ではない。威力は既にあるのだ。

 

「……あ、母さん? 今下山したとこ、そんで駅ね。……うん、勿論ジルも一緒だよ。……大丈夫だって、みんないい人たちだったから」

 

ジルを連れて二週間の旅行という事で貸し与えられた携帯電話で母さんに連絡を取る。

夏休みの宿題は大体終わらせてあるが、だからといって夏休み中ずっとジルを連れたまま旅を続けるのも学生としては問題があるだろう。

主に移動は公共機関頼りだ。

 

せっかくの修行の旅だというのに、移動は快適な空調の施された新幹線、そして新幹線が停まる駅までの移動は、ゆったりと景色を楽しむことのできる鈍行電車に限るのだ。

力を求めての旅だというのに、これではまるでただの旅行ではないか。

まぁ修行の旅とは言っていないので、ただの旅行と思われるのは好都合ではあるのだが。

 

「あ、こら、ぽろぽろ零すな。落ち着いて食べろ」

 

乗り込んだ新幹線の中、高速で真横に流れていく景色を眺めながら、大きく膨らんだ頬袋を変形させながら駅弁を咀嚼するジル。

数ヶ月のリハビリで手先も多少はまともに動き始めたのだが、家のテーブルについて専用の食器を利用しない限りはまだまだ危うい。

エプロンは流石に周囲の目を引くので、せめて服を汚さない様にナプキンを胸にかけ、膝にもとりあえず手持ちのハンカチなどを引いてやる。

 

しかし、人の話を聞いているのかいないのか、ジルは此方の持つ弁当のおかずにもキラキラとした目を向けるばかり。

せめて落ち着いて食べさせる為におかずを幾つか分けてやると、ジルも覚束ない手付きで自分の弁当からおかずを此方によこそうとしてくる。

ぷるぷると震える箸が突き刺さったつぶ貝を、落ちるよりも先に弁当を寄せる事でキャッチ。

それを見て、ご飯粒のついた顔で、に、と歯をむき出しに笑い、口をぱくぱくと動かす。

 

『おいいいお』

 

「そうか」

 

頷く。

ジルは再び弁当に顔を落とし、新たに増えたヤリイカの姿煮に箸をざくりと突き刺し、口に運ぶ。

もぐもぐと咀嚼、咀嚼中は口を開かないので勿論もぐもぐともくちゃくちゃとも音はしない。

野蛮人染みた食べ方はもしかしたら古代グロンギ時代の食事シーンを思い出しかねないので、マナーはしっかりと教えてある。

しっかりとよく噛んで飲み込み、再び笑みを浮かべながら、喋るように口を動かす。

 

『おっいおおいいい』

 

「そりゃあよかった」

 

『あいあおう』

 

「どういたしまして。帰ったら、軍資金出してくれた母さんにもいってやりな」

 

今度はこくりと頷く。

母さんへの心象を良くしておくのも重要な要素の一つだ。

殺そうと思わないでいてくれればそれだけで危険性は下がる。

 

そういえば、赤心寺での修行期間中、俺がジルの食事を手伝う場面で修行僧の方々が茶化したりせずに事情を聞いて納得してくれたのは少しだけ意外だった。

見るからにカタギでなく、世捨て人の如く山の奥の寺に籠もって武術の修行をするような偏屈そうな連中なのだから、肉体が不自由な人間を見たらどんなリアクションをするにしても、もう少し粗暴な感じだと思ったのだが。

修行僧の方々にも、修行僧の方々なりの人生があり、ああいう場所に籠もるようになったのだろう。

人は見た目が十割と言うが、その言葉のとおりに見た目の破戒僧っぽさから適当な偏見を押し付けた浅はかさには反省し切りだ。

 

ああいう人達には死んでほしくない、という気持ちもあるにはあるのだが、ああいう修行をしているのだからもしもの時は自分で対処できるだろう。

良いことだ。

善良かつ無力な市民の皆様に至っては、税金を払いこの国の国民である限り、警察や自衛隊などの防衛戦力が守ってくださるだろう。

とても良い事だ。

安心して自分の身を守る事に専念できる。

 

基本的に、大半のグロンギは恐ろしく頑丈な肉体と非常識なまでの高速再生能力を備えている。

だから警察などで使用されている拳銃などの小質量兵器では破壊できない。

だが、例えばの話だが、戦車の砲撃などが直撃すれば少なくともメ集団くらいまでのグロンギなら死ぬのではないか、と、俺の感覚は告げている。

単純な話、首から上を一撃で吹き飛ばす事ができれば奴らは死ぬし、何らかの特殊なバリアを張っている訳でもないので通常兵器は適切なものであれば十分通用するのだ。

 

つまり、一瞬で絶命させる事が可能な火力を叩き込めば普通の生き物と同じく殺せる。

防御をすり抜け、避けた先を見越す。

そして、生命活動が不可能な肉体状況にできるだけの攻撃を叩き込む。

その技術が重要なのである。

こればかりは、書物からの学習や手近な武術経験者からの軽い指導などでは手に入らなかった。

 

戦闘に対する意識が低く、一方的な狩猟者感覚が抜けていないズ集団やメ集団とは異なり、ゴ集団は少なからず同格の相手との戦闘を意識している筈だ。

ゲリザギバスゲゲルの先、ザギバスゲゲルでは勝ち残ったムセギジャジャはダグバと戦わなければならないのだから。

それに加え、ゴ集団にまで至った連中の肉体は戦闘生命体として完成されつつあり、単純な頑強さ、再生能力に至るまでメまでのグロンギとは比べ物にならない。

単純な腕力にほぼ無制限に武器を作り出す事が可能な為、反撃にも気を配る必要がある。

 

当然、モーフィングパワーによって作り出した武器への習熟度も目を見張るものがあるだろう。

大体のゴ集団が武器を一種か二種程度に絞っているのも、その武器への習熟を高める為だ。

生半な技術では、ンという高みに至ったムセギジャジャには届かない。

俺の諸々の仮説が正しければ、仮にゲリザギバスゲゲルをクリアしたムセギジャジャがダグバと戦うとすれば、それはほぼクウガアルティメットフォームとダグバの戦いと似たものになる筈だ。

 

互いの能力を封じあって、或いは封じ合う事を想定しての、肉弾距離での極めて原始的な戦い。

武器を生成しても、相手も同じく武器を生成してくる。

武器の差による優劣はない。

だが、扱う者の技量に関して、ゲブロンもアマダムも下駄を履かせる事はできない。

勿論、意識を飛ばさない、挫けないなどの根性も必要だろう。

更に言えばラッキーヒットによるゲブロン損壊による死亡もあるだろう。

だが、積み重ねた技術は裏切らない。

脳味噌に針入れて殺すなんて同格以上には絶対通用しない下策を取るのはザギバスゲゲルの趣旨を無視した阿呆のやること。

そういう阿呆を除けば、ゴ集団は戦闘技術をグロンギ特有の学習能力で高め続けている強者の集まり……の、筈である。

 

何故断言できないか、と、言えば。

ゴ集団が現状の俺とほぼ同じ状況にあると思われるからだ。

同格の相手との真っ向勝負の為の技術を磨くというのであれば、組手の様な練習がどうしても必要になってくる。

だがゴ集団の数は少なく、なおかつ全員がただ一人の勝者を目指すライバルでもある。

手の内を見せる事になるし、下手をすれば他者にゲゲルの助力を得ているという判定をもらってしまうかもしれない。

結果として、知識としての戦闘技術を高める事はできるが、同格相手の実戦経験を積めていない戦士が生み出される。

やもすれば、この他者に頼らず自分を高めるという性質もまた、滅多に同格の者と戦う事のないンに必要な素質なのかもしれない。

 

だから、とても珍しい事に。

俺が大一番に備えて蓄えた技術や新たに得た力をゴ集団に対して試すというのは。

俺にとっても相手にとっても利点のある、まさにwin-winの戦いになるのだろう。

 

俺も相手も蓄えた技術を同格相手に振るうまたとない機会を得られる。

しかも、勝てば相手を殺して自分の目標に更に近づく事ができる。

良い事だ。

勿論、勝つのは俺で死ぬのは相手だ。

実際どうなるにせよ、そう考えずに戦う馬鹿は居ない。

もっとも……。

 

「八戸小唄寿司は帰ってから、母さんと一緒に食べよう」

 

ジルは勿論、と言わんばかりにこくこくと頷く。

試しの前に、一度家に帰って、少しだけでも学生らしい夏休みを満喫しておこう。

似たような事情の相手と戦うにしても、心の底からグロンギと同じになってやる理由はないのだから。

 

―――――――――――――――――――

 

八月二十一日、月曜日。

十時二十七分、墨田区内のとある一角が血で染め上げられていた。

空から降り注ぐ鉄球が、一つ、また一つと的確に通行人を粉砕していく。

偶然に手足の先に当たりでもしない限り、即死は免れない。

今や穏やかな昼前の広場は、いびつに体を潰された死体と、その死体が圧力に耐えきれずに穴という穴から零した内容物が辺り一面に広がる地獄絵図へと変わってしまっている。

恐怖に逃げ惑う人々をビルの上から見下ろすのは、ゲリザギバスゲゲルの進行役、ラ・ドルド・グ。

ゴ集団の上位にすら匹敵する力を持ち、公正にゲゲルの審判を行うドルドは、手に持った算盤状の器具、バグンダダを使い、一つ、また一つと死者の数を数えていく。

 

「五十四の内、命中は、二十」

 

ドルドが空を、いや、高層ビルの上に視線を向ける。

人間体においてもコンドル特有の高い視力と注意力を持つドルドには、その姿が見えていた。

ゴ・ガメゴ・レ。

ルーレットで指定した区域に五十四の鉄球を投げ込み標的を圧死させるというルールに基づいて行われるゲゲルのムセギジャジャだ。

鉄球の命中率は高く無い。

勿論、腕力と遠心力を持って投げられる鉄球の威力は人一人を即死させるには十分な威力を持つが、その速度はそう常識を外れて速い訳ではない。

距離がある程度あり、運良く自分の方向に迫ってくる鉄球を見ることができれば、避けることも不可能ではないだろう。

単純に、気づかない内に避けてしまうという事も無いではない。

だが、ガメゴとてゴ集団のグロンギ、そういう事を考えてゲゲルの内容を吟味してきた。

運の要素、ギャンブルの要素の強いゲゲルではあるが、運の要素を極力少なくするだけの修練も行っていた。

命中率の低下の原因は、別にある。

 

視線が別の高層ビルの上に向かう。

鉄球を投げるガメゴと同じ様に、ビルの端に立ち、弓にも銃にも見える武具を構える戦士が一人。

グロンギ、ではない。

その姿はクウガのそれに似ているが、奇妙な点がある。

シルエットは、遠距離狙撃を得意とする緑のクウガとほぼ同じだ。

だが、そのカラーリングは緑ではない。

薄暗い赤。

金で縁取られた赤黒い装甲に包まれた戦士が、黒ずんだペガサスボウガンを構えている。

 

別々のビルの屋上に佇むガメゴと戦士が、互いの得物を手にしたまま無言で見つめ合う。

ゴにまで上り詰めたグロンギにとって、モチーフとなった生物や強化の方向性に関係なく、遠く離れた場所に居る相手の細かな挙動を把握するのは容易い。

狙撃に重点を置く緑の戦士と同じ武器を使いながら、しかし、ペガサスボウガンの銃口はガメゴに向いたまま、変身を解く気配も白くなる気配も無い。

ガメゴのゲゲルのルール上、ここから更にリント目掛けて鉄球を投げる事はできない。

だが、鉄球の元となる鎖の付いた鉄球のアクセサリーは、ゲリザギバスゲゲルを二度三度と繰り返しても切れる事がない程にストックしてある。

そして、それは相対する戦士にとっても同じ事なのだろう。

 

黒ずんだペガサスボウガンから、稲妻を纏うエネルギーの塊が打ち出される。

狙うはガメゴの頭部。

だが、当然それはガメゴにも見えている。

首を捻り避ける。

狙いが正確であればあるほど、避けるのに必要な動作は少なくなる。

然程敏捷ではないガメゴでも避けるのは難しくない。

 

続けざまにもう一発。

避けた先に放たれたそれを鉄球を盾に防ぐ。

更にもう一撃。

二撃目を防いだガメゴの背、甲羅との隙間に直撃。

だが、威力は然程でもないのか、封印の印は一瞬だけ光を放ち、ガメゴが体に力を入れると霧散した。

霧散した瞬間にもう一撃、腹部に直撃。

これも間を置かずに消え去る。

更に一撃、足に。

消える。

 

更に一撃、肩に。

消える……よりも早く反対の肩に。

重なる封印エネルギーに体が硬直する。

 

続けざまに二撃。

硬直した腕を射抜かれ鉄球を取り落とす。

 

二撃、胸骨の中ほどに重ねる様に。

金属製の装飾品が破壊され、肺から空気を無理矢理に押し出され、怯む。

 

三、四。

合計七発が鳩尾に、脇腹に、首に、肩に、下腹に。

押し出される様に後退。

 

三射。

両目とその間が射抜かれた。

目が一瞬だけ潰れ、封印の霧散と共に再生する。

 

致命傷ではない。

封印エネルギーはベルトに達するどころか、数秒と持たずに消えていく。

ダメージが蓄積する訳でもない。

だが、続けざまに放たれた封印エネルギーによる乱れ打ちに、ガメゴの意識が一瞬霞んだ。

 

ガメゴの視界が霞み、意識が薄れ、体が倦怠感に包まれたのは、僅か十秒にも満たない時間だろう。

しかし、重い体と鈍った感覚の中で、ガメゴは高速で何かが飛来し背後に着地するのを確認した。

生存本能、火事場の馬鹿力とでも言うべきか、或いは宿主の危機に対してゲブロンが活性化したのか、ガメゴの肉体は肉体の負荷や疲労を無視し、無意識の内に即座に背後に向けて拳を放つ。

 

「外れ」

 

視界に写ったのは、金縁に限りなく暗い青の装甲を纏った戦士。

振り抜かれた拳よりも更に先、地面を削るようにしながら、体色と同じ配色の棍を振り上げる姿。

顎を掬うように打たれ、ゴ・ガメゴ・レの二百六十八キロの体が宙に浮く。

次いで脇腹を打たれる衝撃。

浮遊感は数秒、硬い地面が砕け散りながらガメゴを迎え入れる。

 

遅れて着地した戦士は、またも姿を変えていた。

肥大化した赤と青の両腕。

胸部中央に据えられたプレートは帯電し、赤熱すらしている。

だが、その全身の装甲は全ての色が暗く、艶のない黒の奥にその色を沈めている。

赤い複眼の光は薄く、まるで暗い洞穴の奥に据えられた松明の如く。

 

青い左腕に棍を下げ、赤い右腕をガメゴに向ける。

ぐつぐつと自分の体内が()()()感覚に、ガメゴが転がるようにしてその場を退く。

ガメゴが墜落し砕けた地面は次の瞬間、まるで溶岩の様にドロドロと赤熱し溶解して爆ぜた。

ガメゴが半ば固定された口を大きく開き、べちゃりと赤と黒の混ざった肉塊を吐き捨てる。

高熱で死んだ内臓の一部だ。

しかし、内臓が一部欠損した程度ではゴのグロンギは戦いを止めない。

最低限の機能だけを残して復旧、即座に暗い色の戦士に突撃する。

 

超重量級のガメゴの突撃はそれだけで驚異となるほどの威力を誇る。

だが当然、ゴとそれに比肩する戦士の戦いにおいて決定打となる事はない。

ガメゴにとって頑強な体を生かした体当たりは、言わば戦闘を仕切り直す為のワンクッションでしかない。

強度、破壊力共に優れる、モーフィングパワーで作り出した鉄球とその操作法こそがガメゴにとっての武器となる。

 

姿勢の低い体当たり、足を狙うような軌道のそれを、戦士はガメゴの背を飛び越え避ける。

そしてガメゴは突撃の勢いのままに距離を取り、装飾品を一つ外して再び鎖鉄球を作り出す。

対し、戦士は再び棍を槍の如く中段に構える。

 

ガメゴが鎖を長く持ち、鉄球を回転させ始める。

遠心力を加えられた鉄球は速度を上げる毎に威力を増し、見るものへ与える精神的威圧感も高い。

単純な攻撃。

攻撃のパターンこそ少ないものの、×の軌道で振り回される事である程度軌道を読みづらくもしており、更に回転中であっても鎖の長さを調節する事により打点をずらす事により命中精度は高い。

また、鉄球が当たらずとも、ガメゴの腕力にも鉄球の重量にも耐えきる頑強な鎖が絡みつけば、その後の戦闘で大きなアドバンテージとなる。

 

振り下ろす。

空振り、しかし、即座に次の一撃が軌道をずらしながら戦士を襲う。

回転させたままの鉄球は、その攻撃の回転速度……連撃の速度にも優れる。

これが常人や生半可なグロンギのものであれば、例えば地面や壁などにぶつかる事で減速するだろう。

だが、この鉄球を回すのはゴ集団のゴ・ガメゴ・レ。

随一と言わずとも力に特化したガメゴの鉄球を阻む事はそうできるものではない。

 

振り下ろす、振り回す。

コンクリートの柱が、アスファルトの路面が砕け散り、ついに鉄球が、いや、鎖が槍に絡みつく。

鎖によって振り回される鉄球を防ごうと思うなら、高速の円軌道を描く鉄球こそを狙わなければならない。

万が一鎖を自らの得物で防ごうものならば、忽ちに絡みつき、絡んだ得物を中心に鉄球は新たな回転を始め、得物をへし折り、最悪の場合は防いだはずの鉄球で頭を割られてしまう。

得物を手放す事で逃れる事ができるが、その判断を一瞬でも迷えば、得物を軸に回転する鉄球に重心を崩され無防備にもなりかねない。

 

果たして、鎖に棍を絡め取られた戦士は。

手放すでもなく、こらえるでもなく。

勢いよく棍を振り下ろした。

だが、その振り下ろしにガメゴの肉体を傷付ける程の勢いは無い。

鉄球の生み出す遠心力を無理矢理に振り切って振り下ろしにそれほどの威力は望めないのだ。

苦し紛れの一撃にニヤリと口元を歪めるガメゴ。

肩口で難なく棍の一撃を受け止め……。

 

棍の先端から、鎖が伸びた。

モーフィングパワーによってその形を変じたのか、それとも内部に最初から生成されていたのか。

それは棍を振るう戦士にしか分からない事だ。

だが、鉄球を振り切った姿勢のガメゴの体を雁字搦めにするように、長い金属の鎖が巻き付いているという事実だけは確かだ。

腕を封じたか、いや、ガメゴの腕力であれば、拘束にもならない。

だが、体に巻き付いた鎖は、ガメゴの体に、服飾品に収められた予備の鉄球を形作る為のアクセサリーの上に的確に絡みついている。

ガメゴは果たしてそれに気付いたか、いや、武器だけがゴの戦いではない。

だが、だが。

相対する戦士は既に、赤い右腕に短刀を握りしめ突き出している。

 

ぞぶ。

小さな目を貫き、短刀がガメゴの頭の中に侵入する。

思考を司る部位が刃で傷つき、高熱で焼かれ、意識が飛ぶ。

ゴ集団の肉体は、既にある程度一般的な生物の範疇を超越している。

脳細胞を焼かれたとて、ある程度無事な部分があれば再生が可能となる。

だが。

再生するまでの時間は、こと戦闘において致命的な隙となる。

 

「赤心少林拳……」

 

赤黒い戦士は武器を手放した両手で華の様な型を取り、

 

「桜花」

 

刃の如き抜き手で、ガメゴの首を刎ねた。

魔石ゲブロンが如何に宿主の脳細胞すら再生できるとしても、それは神経が繋がっていればこそ。

或いは、進化の果て、ンか、或いはその先にまで至ればどうかは分からないが。

少なくとも、ゴ集団のグロンギは、首を刎ねられて生きていられる程には、生物を超越できていない。

 

赤黒い戦士が、ガメゴの首無し死体へと歩み寄る。

首を刎ねられる勢いで倒れた死体からベルト状の装飾品、ゲドルードを剥ぎ取り、しげしげと眺めた後、名残惜しそうにそれを拳で砕く。

じうじう、じうじうと、高熱を帯びたナイフで腹部を切り裂く。

遠巻きに向けられる視線も、遠くに聞こえるシャッター音も、迫るサイレンの音も気にせずに作業を続ける。

丁寧に腹部が切り抜かれたガメゴの死体を置き去りにし、手にひき肉の塊の様な肉塊を下げたまま、戦士は何事も無かったかの様に、その場から跳躍を繰り返し、音もなく高層ビルを飛び移りながら姿を消した。

 

未確認生命体二十二号。

約二ヶ月の時を経て、人々は再びその姿を目にする事になる。

 

 

 

 





☆押し寿司もいいけど亀鍋もそのうち試してみたいと戦った後に思うマン
山奥にひっそりと佇む寺に秘伝の拳法を習いにいったりする。行動力けっこうある方じゃないかなと思う
なお背中の背負子に年若い娘を乗せてやってきたミドルティーンの少年を目にした半世捨て人の武道家の方々の内心を述べよ(配点・物理説得)
よりにもよって山で雷に打たれてパワーアップするシーンも寺に籠もっての修行シーンも描写せずに省略してしまう非道な男
でも妹の為にナプキンとかは常に用意してる。生理用品じゃないよ
じゃあなんで握りやすい普段遣いの専用スプーンとか持ってこなかったのかというのは、たぶんそういうガバの辺りに人間性が残ってる証拠
雷によるリミッター解除は予想以上に成功した
成功した……うん、成功した
現状最強フォームはアメイジングトリニティとかそんなん
熱波放射はアマダムの影響で火力が上がってる。どっちかって言えば電子レンジっぽくなってないかというのは色々あるのだ
ペガサスボウガン連射とか時間無制限は無茶じゃないか、と思われるだろうが、ライジングペガサスではなく通常のペガサスボウガンなので特に問題はないと思われる
グロンギ焼くの大好き。というか炎操作が便利過ぎる疑い
あと東京タワー武器にできるなら武器生成に決まった形なんて無いだろ、という思いつきで試行錯誤の末、雷に打たれてからどうにかなった
拘束武器とかも大好き。とにかく相手を不利にして自分を有利にしたい
世間の目の色も世間体も、自分の目の色も体色もそれほど気にしないのが健康に長生きする秘訣になればいいなと思ってる
パワーアップしすぎ、と思うかもしれないけど、あと二、三戦もすれば閣下とかダグバと戦う事になると考えれば丁度よいとすら言える
くすんだ赤い体色の戦士の必殺技を使った手だけが鮮やかな赤に染まる感じがベストな最新のモードなのだ

☆亀さん
人間体でのスタイルが凄くオシャレ、探偵物語かな?
ゴ集団のファッションは完全に現代に適応してるよね。閣下はあれでいいから気にすんな!
結構強いけどゴメンな、パワーアップ形態お披露目回みたいなもんなんだ
鎖鉄球とかいう趣味武器に見えて、戦い方は割と堅実なように見える
ゴ集団はなんだかんだ言ってダグバとの戦いを大半の連中が考えてるのだ
バイク? 脳針? 知らん

☆修行中も面倒見られてるどこでもいっしょ系ヒロイン
赤心寺はお風呂も混浴なのでお風呂の世話もばっちり
因みに修行風景はばっちり見学してるから安心してくれ
主人公以外に反応薄いのは継続だけど、赤心寺の師範にはなんかちょっとまともに反応したりした
ちょっとだけリハビリの成果が見られる

☆赤心寺
仮面ライダースピリッツに登場
テレビ原作のスーパー1が修行したのとは少し違うらしい
詳しくは仮面ライダースピリッツの新の方を読むとなんか分かる
体の弱い妹を守るために力を求めてる、的な解釈がなされてなんだかんだ修行は付けてくれた
たぶん魔化魍とかの関係で猛士とかとはつながりがある


だいぶ残り話数も少なくなってきたクウガ編
警察の被害が多いのには介入する、という縛りのハズが、後を見据えれば見据えるほどそういう訳にもいかなくなってしまいましたね
あと赤金での爆発力が知られるイベントが消えたのは痛いかもしれない
どうしようね、流石に知らずジャラジを殺すのに使って警官隊に被害が出る展開にはしないけど、というか事前に警告いれといたし五代さんならちゃんと考慮してくれると思うからいいよね
次はどいつかなぁ……ラス二戦は閣下とザギバスゲゲルで確定なんですが、難しいものです
思いつき次第書きますので気長にお待ち下さい

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