オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
106 予防接種、或いは、一先ずの
日本を舞台に戦う戦士。
鬼、イクサ、アギト、装甲服部隊……。
あるいは四国を守る二人の戦士。
或いは、名が知られていないだけでそれ以外にも。
日本は幾度となく秘密結社とその離反者による暗闘の舞台になりながら、それでも滅ばなかった。
更に遡れば、古くは平安の時代から妖物と戦う鬼や呪術師、陰陽師が。
或いは神代の時代には全ての始まりとも言える、天使と人間の戦いが行われていた。
決して、戦士の居ない国ではない。
だが、それでも足りない。
散発的に、同時多発的に各所で人食いの怪物が現れたのなら、今の人類は、助けが来るまでは逃げ隠れ、怯えまどい、一度捕まれば絶望と共に貪り食われるのみ。
日本という土地に多く人が満ち、しかし、それらを守るための戦士は圧倒的に少ない。
無数の戦士が人々を守るために奔走していたとして。
彼らが駆けつけるまでの時間で、確実に被害者が現れる。
ここも、そんな場所だった。
何の変哲もない地方都市。
大都市東京に比べれば田舎で、かといって田畑に山々などという一般的な田舎のイメージとも違う。
それなりに現代的な建築物が立ち並び、それなりに人々が行き交う、小さいながらも現代的な小都市。
東京に行かなくても、普通に楽しく暮らす分には問題ない程度に物も人も溢れた土地。
それは、人を食らう、人の中にあるオルフェノクの記号を喰らおうとするマッドアークにとって非常に都合の良い場所だった。
未確認事件のあった東京からは遠く、警察が装甲服部隊を配備するでもなく、自覚的アギトが発生するでもない。
野山を身近に感じられる程に田舎ではないために魔化魍が発生する頻度は限りなく低く、鬼も駐在していない。
それでいて、都合よく装甲服を所持していた武術家集団などが居る訳でもない。
一般的な、どこにでもある都市。
街は、酷く静かだった。
電子的に制御された装置類からなる機械から発せられる音を除き、生き物の出す音となれば鳥の鳴き声、羽ばたき、犬猫の声が聞こえる程度だろうか。
普段であれば街の喧騒に紛れて消えてしまうそれらが、嫌にはっきりと耳に届く。
いや、それらの音を聞き届けている人間の耳には、何よりも自分の心臓の音こそが大きく聞こえているかもしれない。
あるいは、灰の塑像の様な異形、マッドアークの足音、関節付近の外殻が擦れ合い軋む音、
表に居た人間は、逃げ遅れた人間は、全て彼らの餌食(文字通りの意味だ)となってしまった。
普段は街の喧騒の一部を作り上げていた人々は全て、マッドアークによって食い散らかされ、人とも肉塊ともつかぬ残骸に変えられてしまっている。
元のそれらがどういう人物だったのかは、菓子の包装紙の様に乱雑に破り捨てられた衣服から見て取れるだろう。
濃紺の警察官の制服が混じっている。
彼らは彼らなりに勇敢に戦ってみせたのだろうか。
彼らの奮闘により幾らかの市民を逃がす事に成功したのだろうか。
今、建物の中で息を殺して静かにマッドアークがその場から立ち去るのを待っている人たちがそれなのか。
或いは、警察官だったであろう肉片から少し離れたところに残る
ほんの十数分前までは人が溢れる都市だったそこは。
既に異形の昆虫人間にとっての餌場と化していた。
それを遮るものは無い。
建物の奥に潜む人々もまた、完全に理解していた。
自分たちは、餌。
抵抗も、逃走も、この場から逃れる術を持たない無力な餌なのだ。
野生の草食動物ですらない。
ただ、見つかれば食われるだけの餌。
早く今が過ぎ去ってくれるように祈る事しかできない。
だが、その祈りは届かなかった。
数匹のマッドアークが、手近な建物へと侵入していく。
入り口に鍵を掛けていたとしてもそれは関係ない。
まして、ガラス張りの自動ドアに、薄いシャッター程度、薄紙を破るが如し。
息を殺す人々の耳に久方ぶりの人間の声が届く。
助けを求める叫び声、ただ痛みを訴える絶叫、或いは、この状況への恨み言、目の前の異形への無意味な哀願。
それらもやがて小さくなり、ただ、咀嚼音が響く。
人の出す音の無い街は酷く静かで、残酷な程にその音は大きく聞こえる。
そうすると、また別の音が聞こえてくる。
危機が去ってくれる事を願う祈りは失せ、念仏を唱え初め、それがまた悲鳴に代わり、或いは発狂したかのように笑い出す声が。
順繰りに消えていく。
生き残りもまた、声こそ上げずとも生存への望みを絶たれ、ただ、無力感から脱力する。
祈るでも、隠れるでも、呪うでもない。
ああ、今から食べられてしまうのだな。
痛いのか、痛いんだろうな。
その程度。
生存本能というものすら失せ、ただ自らが無力であるという事実を学習し、無駄な行動の全てを取りやめる。
その耳に、また、別の音が響く。
マッチに火をつけるような。
薪の燃えるような。
硬いプラスチックの容器を押しつぶすような。
その音が響くたびに、先まで聞こえていた咀嚼音が、異形の関節が軋む音が消えていく。
次いで、コツ、コツ、と、硬く神経質な足音。
―――――――――――――――――――
そろそろ良いタイミングだろう、という事で、マッドアークを順に始末していく。
全国のミラーワールドに待機させていたヘキサギア達にも指示を出させたので、この騒動も程なくして終わりを迎える。
マッドアークは特異な個体を除けば全てアークオルフェノク程のしつこさが無いため、順次プラズマ化、及び、念動力で小さく圧縮。
死亡後に出る死体に関しては変な誤解があるといけないので、これも燃やす。
抵抗できる戦力の無い場所では好きに暴れている為に被害が大きくなっているが、数としてはそれほどではない。
ざっと数えて……2000から3000くらいだろうか。
そして、そのどれもが食い殺した数にして百人にも満たない内に死んでいる。
スペック的には魔石の戦士にしてゴに匹敵するかどうかくらいはあるのだが、本質的に戦士でなく餌を食う虫に近いので、人を襲う時間より食べる時間の方が多いのだ。
例えば、同じ数の旧グロンギのズ階級ムセギジャジャが全国で同時にゲゲルを開始したとしたら、被害者の数は数え切れない程のものになっていただろう。
被害は軽微だ。
「生きてるか」
生体反応のある建物に入ると、生き残りが多少居る。
食い散らかしの近くには失禁した後などあり臭いのだが、ただ恐怖に煽られていただけの連中は漏らしていない為にそれほど臭くはない。
目つきだけ見ればもう腐敗臭が漂ってきてもおかしくないくらいではあるのだけど。
「ここらへんは始末しましたから、立てるようになったら外に出ても大丈夫ですよ」
連中が餌を、オルフェノクの記号を求める関係上人の密集地帯に寄ってくる関係上、この辺で一番被害が大きいのはこの繁華街で、後の民家などは大体無事だ。
「二十、二号?」
生き残りがふと声を上げる。
目の前に居るのが何なのかを把握するだけの理性が残っているらしい。
「なんで……」
「なんで、今更」
「みんな、みんな……」
意味のない話だ。
やはりまだ意識が混濁しているらしい。
そっとしておこう。
「四号だったら」
いやぁ……それは高望みが過ぎる。
四号、五代さんだってボロボロだ。
そして、この現象が万が一日本固有のもので無ければ、世界中で似たような現象が起きているはずだ。
五代さんだって、もしかすればまた戦う羽目になっているかもしれない。
そして、真っ当にマッドアークを殺したならまた子供の死体が出てくる訳で。
そこまで五代さんの魔石が活性化していない現状からして、多少はムラサメさんが対策してくれたか。
が。
この事態を生き残った、というのなら、まだ運はある方かもしれない。
ここで言葉を聞くことに成ったのも何かの縁。
それに、会話をした、という証言がある方がアリバイ工作になるはずだ。
少しだけ振り返る。
聞こえると思っていなかったのか、反応を期待して口にした訳ではないのか、生き残りの人の肩がびくっと竦む。
「人任せにして隠れているだけなら、誰が来たって変わりませんよ」
本当に助かりたいなら。
隠れるでも逃げるでも祈るでもなく。
もっとやるべき事があるんじゃあないだろうか。
俺もやったんだからさ。
―――――――――――――――――――
最終的な行方不明者、死傷者数は、ざっと全国合わせて25万人程度、らしい。
後にニュースなど見て知ったのだが、発展途上国などでは更に酷かったのだとか。
もしかすれば、王を殺さずに飼い殺しにしていた為に他の王候補の記号がバグったのかもしれない。
無論、本編直後の明確なアフター作品が存在しない以上、王を普通に殺しても似たような出来事が起きた可能性はある。
或いは、王の生き死にとは関係なく、この時代のオルフェノクには定期的にああいった現象が起きた可能性だってある。
が、しかし、だ。
俺の知人友人周辺にはヘキサギアを群れさせていただけあり被害は無く、しっかりと装備の整っていた警視庁に居た父さんは無事。
母さんの居る実家周辺には、そもそもマッドアークが一匹も寄り付かなかった為に被害はゼロ。
多少のイレギュラーはあった。
だが、例年に比べて極めて穏やかな決着だったのではないだろうか。
無論、オルフェノク化という現象に対する策が一切無いので決着という訳ではないのだが。
「いらっしゃいませー」
店員の元気の良い声。
アイスコーヒーの温度を弄って氷を溶かしたり作ったりして遊んでいる間に、待ち合わせの時間になったらしい。
店の入口には、不機嫌そうに眉根を寄せたいにゅいと、それを見て眉毛をハの字にして不安そうにしている轟雷。
轟雷がいにゅいの袖を掴んでいるのが微笑ましい。
「久しぶり」
「昨日も電話したろ」
「直接顔を合わせるのは久しぶりだろう? 轟雷も、その後調子はどうかな?」
「あ、はい。身体も、前より調子が良いみたいで」
「そりゃあ良かった。構造は変わっていないけど、アギトの力は以前の倍以上あるはずだし、それもスペクターがずっと慣らし運転していてくれたからね。その御蔭かな」
ミルクと砂糖をたっぷりのアイスコーヒーを傾ける。
グラスに氷が当たりからんと音が鳴り、涼やかな気分になる。
が、対面に座ったいにゅいからは怒りの感情を伴う熱気が伝わってくるようだ。
「やっぱり、お前の差し金だったのか」
「どこのどの辺りが俺の差し金だと思う? 理由は思いつくかな?」
「わかんねーから聞いてんだ」
じゃあどこが『やっぱり』だったのだろうか……。
ふふん、と、鼻で笑い飛ばす。
「何笑ってんだよ」
「いや、まさかいにゅい、俺がそんじょそこらの、思わせぶりな行動だけして、まともに解説も挟まない二号どもと同じだと思っているのではあるまいな」
ぱちん、と、指を鳴らす。
すると、天井がスライドして電子黒板が現れ、それの表示に邪魔になる背後の席が折りたたまれながら床に格納されていく。
赤心寺の改造などで培った技術のちょっとした応用だ。
場末の寂れた喫茶店では中々見ないような設備にいにゅいが鼻先に突如唐辛子ペーストが飛んできたイヌの様に眼をかっぴらいているのを横目に、轟雷がおお、と素直に驚きの声を上げてくれている。
「自分が何を知らないか、何を知っているかも知らないいにゅいの為に、今日は流星塾でいにゅいと轟雷に起きたあの事件から今日までの大まかな出来事の流れを、順を追って、時系列順に、時折注釈を入れながら、専門用語を可能な限り省き、とってもわかりやすく解説してやろう」
お、おう、と、俺の解説に対する意気込みに、先までの勢いを殺されたいにゅいがうなずき、轟雷がよろしくおねがいしますと頭を下げる。
「説明は前後編、30分二本立てになる。途中で喉が渇くといけないから、そのメニュー表で何かドリンクと軽食を頼んでいくと良い」
―――――――――――――――――――
そうして、轟雷の残されたボディに行われた施術、偶発的にボディが意識を持った事、それらが完全体に戻るために行動を始めた事、ボディの安全の為に俺が色々と便宜を図った事、ファイズとスペクターでは真っ向勝負を繰り返す限り絶対に決着が付かない事など、俺が知り得る轟雷周りの異変を全て解説し終わった。
いにゅいも静かに話を聞いていたし、これで納得してくれるか、とも思ったのだが。
説明が終わった後に手招きされたので近づいたら、思い切り顔面を殴られた。
とても痛い。
はずだ。
いにゅいの手が。
割と強く殴ってきた為か、生き物を不本意ながらも殴りなれているはずのいにゅいが拳と手首を痛がっている。
相手を殴ると、殴った側の手も痛いのだとどこかの医者も言っていたやつだ。
それもそのはず、俺は何かしらの新しい素材が手に入るたびに、人間態の内骨格などに採用している。
人間態で不意を撃てば殺せるハズだ、みたいな甘い考えの襲撃者を迎え撃つ準備を怠るほど俺は怠け者ではない。
いにゅいが手をさすりながら恨めしそうな眼で俺を見ているが、なにが不満だったのだろうか。
そこで、轟雷が恐る恐ると言った様子で手を上げた。
「あの、博士、他に方法は無かったのでしょうか」
「はーん? ふむむ……スペクターを閉じ込めておけばよかったと?」
「そうでなくても、素性がわからなくなる様な装備を与える必要があったのですか?」
「女の子の一人旅は危険だからな。男装して性別を偽るのも少し前までは珍しくなかったと聞く。だが通りすがりのホモレイパーが居る危険性を考慮すれば、やはり全身装甲以外はありえない」
「せめていにゅいさんに襲いかからない様に言い含めておくとか……」
「仮に話し合っていにゅいがベルトを渡し、記憶装置と合体させたとして、あの時点ではどっちが主体になるかはわからなかったからな。偶然生えてきた人格と、仮にも一から育て上げ、いにゅいとそれなり以上の関係性を持つ轟雷なら当然轟雷を優先させる」
「武装は必要ないのでは……」
「復活を早める旅をしていたのはいにゅいだろ? 危機感はアギトの力を成長させる可能性が高いから、それらしいハッタリのきいた武器で襲いかからせるのは合理的だと思うが」
「万が一があるかもしれないじゃないですか!」
がたん、と、轟雷が椅子を蹴倒すレベルの勢いで立ち上がる。
そんな轟雷を見たことが無いのか隣に座るいにゅいも驚いた顔をしている。
ううむ。
いにゅいへの特別な感情に加え、創造主へ感情に任せて反逆してくるとは。
成長したなぁ……。
その激情素晴らしいぃっ!
現状の最高傑作と言っても良いだろう。
「いにゅいは、自分が死んだら轟雷が生き返れない事を理解していた。そんないにゅいが、あんなハリボテ装備に遅れを取る事はありえんよ」
「う……」
そう言うと、轟雷はちらりといにゅいに視線をむけ、いにゅいはその視線から眼を背け、轟雷もまた頬を赤らめる。
カーッ!
こんな状況で若い二人に任せて退場できないなんて、俺もまた空気の読めないヤツだよ!
いにゅいの轟雷を思う気持ちと轟雷がいにゅいの為に激昂したという事実が見事にマリアージュして、気持ちよく喉から砂糖を精製して室内を埋め尽くせそうな空気になり、諸々の話がお流れになりそうになり、ぽつり、と、いにゅいが口を開いた。
「それじゃ、あいつは、もう居ないのか」
「スペクターの事かな」
いにゅいが頷く。
なるほど、ここまでの話だけで考えると、スペクターは轟雷のボディが完全体轟雷に戻るために作られた本能の様なものであり、轟雷が戻った以上存在している筈がない、という事になるだろう。
そも、スペクターの持っていた根源的な自己復元欲求とも呼べるものが叶えられた今、居たとしてもそれほど意味はないだろう。
「どうかな……。そもそも、記憶や人格を司るパーツが全てベルトに移植されていたハズなのに、身体だけが動き出したって時点で完全にオカルトだからね。俺も正直、オカルトに関しては試行錯誤と勉強中で、こうだと断言できる程じゃない」
「そうか……」
「ただ」
「ただ?」
「自覚はあると思うけど、いにゅい。君と轟雷は今でも魂レベルでのつながりが残っている」
「……おい、初耳だぞそれ」
ジト目で睨まれた。
あ、自覚は無かったんだ。
袖を掴まれてそれを振り払って無かったからそういう点は理解してると思ったのだけれど。
「そもそもの話、いにゅいの中の轟雷の魂が成長して分割しても大丈夫になってから肉体に部分的に戻せば復活できるって話をしたじゃん? でも、明らかにいにゅいから轟雷ボディに魂を移す様な施術をしてないんだよ。記憶装置もベルトの中に入りっぱなしだし。で、そっちの話を聞く限り、いにゅいがスペクターを庇って身を挺して、次の瞬間には轟雷が復活していた、と」
「ああ。でもそれがなんでそういう話になるんだよ」
「いや、そのままだといにゅい死ぬじゃん。それを察知したいにゅいの中の轟雷が、いにゅいを死なせない為に爆発的に成長して、目の前にあった自分の身体と融合して庇い返した可能性が高いんじゃないかな。いにゅいと轟雷は今、膨れ上がった一つの
「また守られてるのか、俺は……」
がっくりと項垂れるいにゅい。
略してたれいにゅいを一先ず置いておいて、轟雷に向き直る。
「スペクターとはどういうやり取りで融合したんだ?」
「あの、なんというか、ちょっとスピリチュアルな話で、具体的にどうなるか、っていう話は……」
「まぁ緊急時だしな、やむなし。だけど、それならそれこそ、主人格轟雷でスペクターが人格交代できるようになってる可能性だってあるだろ」
「そういうものなんですか?」
「かもしれない、って話だけどな。そうで無ければ……そうだな」
別の取引で使う荷物を入れていたカバンから、一つの箱を取り出す。
スペクターが消滅した、という話に少しだけ違和感があったから、一応用意しておいたものだ。
「家に帰ったら、これにFAG標準搭載非常用コンセントを挿してみろ。それで答えが出るハズだ」
「これは?」
「新製品だ。大事に扱う様に」
「わかりました。……あの、それで、魂レベルの繋がりというのは、何か危ない事は無いんですか?」
少し不安げな轟雷。
「二人が少し離れにくくなって、くっついてると安心する、みたいな作用は予想できるかな。まぁでも、それは繋がりのあるなしとは関係なしにあるだろうから、気にするこたぁ無いよ」
そうでなくても、もう離れるつもりは無いんでしょ?
そう告げると轟雷は顔を赤らめながらも笑顔で『はいっ!』と元気に返事を返し、いにゅいは舌打ちをしながらそっぽを向いてしまった。
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結婚式には招待してくれよ、とからかい、いにゅいから高速で投げつけられたコップをキャッチしながら二人を店から見送る。
これからバイトを探しに行くらしい。
FAGアパートに住むなら電気ガス水道家賃は無料だが、いにゅいは食料を必要とするし、いつまでもサバイバルを続けるつもりも無いらしい。
まぁ、コミュ力が鍛えられ、これからは轟雷のサポートがほぼつきっきりで入るいにゅいにとって食費を稼げる程度のバイト探しなど余裕だろう。
無理ならこの店で雇えば良いし。
さて、ほのぼのとした話はここまで。
説明の為に出した電子黒板などと戻し、しばし待つ。
いにゅいと轟雷との待ち合わせから二時間ほどの間を起き、別の約束を取り付けていたのだ。
いや、今回ばかりは俺からでなく、相手からの約束なのだけれど……。
「あ、ナオちゃん、いらっしゃーい!」
店員が、明らかに普段の接客とは異なる、普段より更に軽い口調で来客を迎える。
今日のウェイトレスはあおなのだが、あの二人、そこまで交流あったかな……?
仲村くんがあおに対して少し恐縮した様な態度で挨拶を返し、いつもの、と注文を入れて、こちらの待つ席にやってきた。
「別に、店員にお手つき禁止とは言ってないけど……何? ああいうのがタイプだった?」
「違う。が、今はそういう話ではない、いや、少し関わる話かもしれんが……」
椅子を引き、向かいにどっかと腰を下ろす仲村君。
その顔は、以前に見た時よりも少しやつれているだろうか。
体つきは、以前よりも引き締まって、筋肉量も増えていると思うのだが。
「ちゃんと飯食ってる? なんか追加で頼めば? 一品くらいなら奢るけど」
「では鯖の味噌煮定食を。……残したらすまん。この間のあれ以来、少し食欲がな……食わねばとも思うのだが」
「まぁ、魔化魍に殺された被害者とは違うだろうしね」
「うむ、ああいう手合も居るのだな……」
暗い表情でお冷を呷る仲村くんも、この間のマッドアーク騒動で戦っていた戦士の一人だ。
スーツの攻撃力はマッドアークを相手取れる程ではないが機動力で撹乱することもできるし、鬼と連携すれば被害者を避難させる程度の事は難しくなかっただろう。
彼が鬼としての力を手に入れていればまた話は違ったのだろうが。
ともかく、彼は食われる側ではなく、マッドアークから人々を守る側として活動していた、ということである。
「で、どうだった?」
「ああ、弟子入りも許可された。というか、今回の件で外部からも含めて新たに弟子入り志願者が増えているらしい。警察を辞めて弟子入り、という人も居た」
「ふぅん。まぁでも、実際どうよ。足りると思う?」
「焼け石に水だな。そもそもの規模が違う」
仲村くんははっきりとした口調で断言した。
普段実働の鬼何十人かくらいで全国の魔化魍退治回してる猛士でも、今回ほどの規模となると無理が生じてくるらしい。
元々呪術とか陰陽道から派生してるわけだし、そういう連中も戦闘できるようになれば多少は変わりそうなものだけど、魔戒法師みたいに。
「純粋な術士は既に希少だ。国が抱えている、という話も聞くが……」
「映画の陰陽師みたいにふんわり跳んで戦えるのは居ないって訳だな」
「だが、光明はある」
ごつ、と、テーブルの上に置かれたのは、以前に俺が仲村くんに譲渡したデルタプラズマー。
既にかなり使っているのか、塗装が剥げている、という訳ではないが、中々に使い込まれた風格が出てきている様に思える。
「後で整備するよ」
「助かる。……その助けを、より多く求めたい」
「許可が出た訳だ」
「ああ。このスーツ、複数用意してもらう事は可能か?」
「ふふん」
待っていました、とばかりに、カバンを机の上に置き、中身を広げていく。
先端に発光部を備えたカプセル。
中心部にクリスタルを備えた左右非対称のスティック状の装置。
鞘に収まった短剣状のデバイス。
引き伸ばし機構を搭載した黒い棒状のデバイス。
或いは、デルタプラズマーを簡易化したようなものも多数。
指輪型やバッチ型などは小さすぎる故の紛失の恐れと技術力不足から用意出来なかったが。
どれもこれも、最新技術をふんだんに取り入れて制作した、魔石による強化を必要としない、常人用の変身デバイスだ。
カードやメダル、小物類を使うものはパーツ個別の紛失が面倒なので省いてあるし、メガネ型のものはこの間の騒動であおが持ち出して壊して帰ってきたので今回は持ってきていない。
「……多いな」
「まぁ、試供品だ。評判が良かったものを量産すればよかろ」
「助かる」
「ただ、ちょっと条件があってな」
「ある程度の裁量が許される権限は貰った。唯一の窓口だからな」
有能。
「そちら側の資料が見たい」
「それくらいなら構わないが……、何に使う?」
「魔化魍への対策が不十分だ。それに、現役ではないが、猛士で鬼として務めていた人と連絡が取れた。上手く行けば力を貸してくれるかもしれない」
「なるほど。だが、うまくいくのか? 言っては何だが引退者となると、大体が身体を壊していると思うが」
「義手義足、金属骨格なんかは最近のあれこれで進歩が著しいんだ。警察の装甲服部隊……G1やG3なんかも義肢の技術を使っていたハズだし。そうでなくても、アドバイザーが居ると居ないではまるで違う」
「そうか。まぁ、他に入り用なものがあれば言ってくれ」
「そっちも、今のスーツが物足りないとか、鬼に変身できるようになったとか、そういう事があったら何時でも連絡してくれよな」
「ああ。……それで、お前はこの間の騒動、大丈夫だったのか? 難波さんに、妹さんも」
「三人共立派な戦士だから心配ないよ」
「三人……。妹さんは二人で良いのだよな? 三人目が増えたとかは無かろうな」
「妹じゃないけど、血の繋がっていない娘は出来たよ」
「?!」
「まだ五人くらいしか居ないけど、今後もうちょっと増やすかも。全国に配置したいから、最終的な数はどれくらいになるかなぁ」
「??!!!!????」
―――――――――――――――――――
25万人の犠牲者は、多いのか、少ないのか。
少なくとも、このマッドアークによる大虐殺、どこからか横やりが入らなければ間違いなく日本史に残る大事件の一つになるだろうし、いずれ教科書にも載る事になるだろう。
被害の規模だけで見れば、ダグバが遊んだ場合の八倍以上。
多い様に思うだろうか。
実際、比較的多い方だとも思う。
この被害を抑えることも出来た。
最初からヘキサギア達に全力で仕事をさせていれば、百分の一くらいにはなったのではないだろうか。
実際、ヘキサギア達を動かしてから半日と経たずに事態は収束した。
だが、それをして何の意味があるのだろうか。
間違えてはいけない。
履き違えてはいけない。
俺は、全人類を守る正義の味方をやりたい訳でもないし、守護神になりたいわけでもない。
助けを待つだけの話したことも無い相手の為に力を振るう理由も無い。
今回の事で、多くの人が思い知ったハズだ。
他人事ではない。
対岸の火事ではない。
東京だけが事件の舞台ではなく、何時でも、敵対的種族の脅威は自分たちに牙をむく。
そして、その時、自分たちは何ができるわけでもない、無力な餌にしかならない、という事を。
そして、市民を守る警察の方々も同じだ。
今の警察に、ああいった脅威から人々を守るための力は無い。
自衛隊が出てくれば、という可能性もあるが、正式な手続きを踏んで動こうと思えば、それまでに今回以上の被害が出るだろう。
或いは、表に出ていない、敵性種族から人類を守る組織も。
猛士などが良い例だ。
以前は鍛えていない、鬼でない人間が鎧を纏って戦う事に肯定的では無かったが、今回の事件で仲村くんが被害を減らす一助になった事を重く見て、ついに組織的にスーツを導入する方向で話を進め始めた。
警察はどうだ。
特に、戦士が運悪く現れず、多くの市民をただの肉片に変えてしまった地方の警察は。
それを知っている、現状警視庁で唯一装甲服の製造法を熟知している小沢さんはどんな決断を下すだろうか。
国家の本気が見られるか。
或いは、一般市民だってそうだろう。
自発的に武装できるかどうか検討するか。
或いは、青森に出現した武僧集団を見て、身体を鍛えたり、武術を習い始める人が増えるか。
それこそ、赤心寺を探し求める人が増える可能性が無いわけじゃない。
何の備えが無くとも、殺される事無く生きていく事ができる。
そんな
全国民を、魔石の戦士とするのは止めた。
配布しやすいデッキを何らかの手段でばらまくのも難しい。
だが。
だが。
だが。
人々が、自発的に、
「何を笑っている」
ひゅん、と、頭部目掛けて飛んできた小さい何かをキャッチ。
それは、焼け焦げて殆ど炭になった腕輪。
変身鬼弦、音錠。
……の、粗悪というか、稚拙なレプリカだ。
態とそうして作った、というのもあるが、やはり呪術だの陰陽だの、それが現代まで科学と融合しつつ進化してきただけあり、とても特殊で独特な為、盗み写した技術書だけでは再現しきれない、というのがある。
「使いすぎて壊れるなど、危険極まりない」
とあるビルの一室。
普段は華道教室が開かれているそこで、一人の女性と対峙する。
「でも、あってよかったでしょう」
「無いよりはな」
「猛士と契約が取れましたので、今度は完全版を仕上げてみせますよ。お師さん」
「白々しい話だ……私から何を学ぶと?」
勿論。
「鬼と、陰陽術、貴方が学んできた、戦い方の全てを」
俺の言葉に、お師さん……品川栞は、不満そうに、ふん、と、鼻を鳴らした。
これまでに比べれば短期間で終わった555編でした
いやぁ、最終決戦時に出現した巨大マッドアークを倒す為にいにゅいと轟雷がマックスビクトリーブラックバージョンに手に手を取って走りながら共に乗り込んだシーン
まるでバージンロードを歩く花嫁と花婿を見送るような気分でしたね!
☆元凶とも言えるし、不可抗力とも言える男
今回は人々が食い殺される場面を少し様子見
友人知人を守る以外はほぼ完全放置で半日ほど様子を見ていた
二十二号としてマッドアークの狩り残しを潰して回る傍ら、念動力で遠隔地で陽炎のスーツを着せた肉人形を動かし、陽炎と二十二号をつなげるラインを入念に消していたりもする
日本を守る?
日本という国とインフラが残る程度には守るよ?
牙なき人々、市民を守る?
それは警察とかの役割じゃあ無いんですか?
というスタンスなのは忘れないようにね!
今回のマッドアークの件こそ、東京で大虐殺が起きても他人事な日本全体への良い予防接種となったのではないかなぁとか考えている
そういう意味では、人間の中から不定期に湧き出てくるオルフェノクという存在は一概に悪いとは言い切れないなぁ……
みたいな
インフルの予防接種もなんだかんだ毎年やるしね!
表の顔、小春交路として猛士の外部協力者の枠に収まりつつ、元鬼の人に弟子入り
☆愛し合う二人はいつでも一緒(魂レベルで)のいにゅいと轟雷
轟雷はいにゅいに言ったのか
いにゅいはそれに答えたのか
それは書かない方がふわふわしてていいかなって
魂レベルで繋がっているので、一緒に居ること、一緒に暮らす事に違和感を覚えにくい
住居は色々便利なのでなんやかやFAGアパートで続行
「まったく、あいつはほんとに……」
「いにゅいさんいにゅいさん!」
「お前、ちゃんと服着る時は裾をズボンに……なんだそりゃ」
パジャマの上着の裾からコンセントケーブルをはみ出させた轟雷をたしなめる巧の視線は、その充電用のケーブルの先端
そこにはデフォルメされた轟雷の人形が繋がっており
それは、まるで意思を持っているようにぱちくりと瞬きをして、小さな手足で巧のことを指差し、口を開いた
「たたかいが終わったからな! おはなしするぞ! まず、すきなごはんの話だ! わたしはおにぎりとか好きだぞ! しはんのところのおにぎりがおいしいんだ!」
☆ウェアウルフ・スペクター(キューポッシュバージョン)
キューポッシュというか
イメージ的には銃夢のちびゼクスみたいな位置
等身大の別ボディが与えられるかは不明
戦闘中とか戦闘(意味深)中に邪魔になりそうだけど、その時は充電ケーブルから轟雷人形を引っこ抜けば動かなくなる
まぁ……
そもライダーSSでヘキサギアだのコトブキヤ要素は邪魔、という意見もあるけど
メインシナリオが終わったライダーはあんまり本編にがっつり絡むことも無いだろうし、多めにみてやって下さいな
殺すのは忍びないキャラになったし
☆猛士所属の新装備採用窓口、仲村七王くん
同僚である鬼の人と一緒に戦っている最中、市民を庇おうとした所を、セブンスーツを着た謎のウェイトレスに助けられるなど、しっかりストーリーを進行させている
王より飛車角より金銀に進みそうな立ち位置だが、友との約束により鬼を目指してトレーニング中
スーツに不満を覚えたら、と言われたが、現状ではスーツを使いこなせているかが不安らしい
次はついに剣
バトルファイトの時間だァァァァ!
って感じではあるのですが
まだ色々決めかねている部分がるので
今回と同じく、手探り手探り進めていく事になると思います
原作にがっつり絡む
という事は無いにしても、今回みたいにFAGばっかり出す、みたいなことにはならないかなぁ
あとねじれこんにゃくは叩いて砕く
一部原作登場メインキャラが最初から居ないかも
くらい
でもまだ555編色々と書いてない事があるというか
そも東京に限らず全国、もしかすれば全世界で起きたかもしれない事態に対してのアフターとか
スマートレディはどこに、とか
そういう諸々を書く為にやっぱり少し幕間を挟むかもしれません
そういう訳で次回はたぶん今回の襲撃を受けての一般のリアクションとか主人公が知人訪ねて感想戦とか
そういう番外を挟んでいくのではないかなと
それでもよろしければ、次回も気長にお待ち下さい