オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

119 / 206
二人で突き抜けるノンストップ!仮面ライダーSPIRITS その五

ショッカーに始まり、ゲルショッカー、デストロン、GOD、ゲドンにガランダー、ブラックサタンにデルザー、ネオショッカーに、ドグマ、ジンドグマ。

この世界においてはどれもBADANの下部組織であり、その恐るべき大首領達ですら、JUDOの作り出した偽りの支配者でしかない。

彼ら悪の組織は大体の場合において世界征服などの大それた野望を抱えて行動していた訳だが、その真の目的はと言えば、次元の牢獄に繋がれた真の大首領JUDOを解放するため、彼の身体の複製を作り出す事であった。

つまり、ショッカーが滅びることが無ければショッカーの中でZXに繋がる試作体が作られ続けていて、後続の組織が発生するか、或いは表に出てくることは無かったのだろう。

もちろん、明らかに1号から繋がらない技術が使われているアマゾン、或いはそもそも個人制作な方々も居るので、一概に反逆者が生まれなければショッカーだけで完結していたとは言えないが……。

ともかく、これらの組織で一番に重要だったのは改造人間製作技術の発展だったという訳だ。

 

ショッカーで言えば一番重要だったのは死神博士と麾下の科学者達。

これらは無理矢理に協力させられていた連中は或いはライダーに救出されたり、ショッカー崩壊と共に後続組織に流れたり、或いは在野に流れて技術を切り売りしたりして過ごしていたのだろうと思う。

明らかに一般の科学者であろう人物が改造人間を作ったりしている事から、表向きはそんな技術は無いとされていながらも、関係者間では知る人ぞ知る、というレベルで知られている技術であった可能性は高い。

それもこれも、次の組織、或いは後々の組織の為に、科学者の平均技術レベルを上げるための行いであると思われる。

一つの組織の中で延々技術をこねくり回すより、外部の人間に基礎的な技術を与えて、ある程度発展してから回収する、というのは、一つの組織の繁栄を考えなければ効率的だ。

 

そう、そもそもの問題として、この世界の悪の組織というのは、BADANに繋がるものに限ればここまでの全ての組織が捨て石なのだ。

組織を維持し続ける、発展させ続ける、という事を主眼に置いていない。

ライオンは死んだが……ではなく、ショッカーは滅びましたが一号二号の開発技術とその強化形態のデータが取れたので問題ありません、というのを、組織の数だけ延々と繰り返してきた訳だ。

いや、正確にはZXの開発には強化形態のデータは必要としていない訳なのだけれど……。

 

ともかく、世界征服を企む悪の組織というのは世を忍ぶ仮の姿。

その実体は巨大な改造人間の研究開発機関であったと言っても過言ではない。

もちろん、自滅因子的な要素があった訳でもない。

ショッカーなりその後の組織なりが世界征服を成し遂げた、というのなら、それこそ反抗組織を撃滅するため、とか、そういう名目で改造人間の開発を進めても良い。

なんなら世界征服を成功させれば研究資金の工面が楽になるのでそれもよし。

だが、そんなものは重要ではない。

世界征服をしようがしまいが、最終的にZXのボディが完成し、JUDOが牢獄から解き放たれればそれで良し。

人間は所詮移動用の乗り物の燃料でしかないので、どの様な形態で繁殖が管理されていても変わりがない。

 

人員の選別は、最優先で科学者が選ばれただろう。

重要なのはそれで、次に、人体を弄くり回すという倫理観の無い研究を受け入れるだけのモラルの低さを備えた、それなりに大きな組織を回すための指導者。

そう、それなりの指導者が居れば良い。

その仮の指導者は、科学開発陣が十分に改造人間の研究をするための資金を稼ぎ、環境を整えるためにのみ存在している。

彼らの胸に秘める野望というのは、悪の組織の真の目的には、一切関わりがない。

どんな野望があろうが、最終的にJUDOが解き放たれれば人類は燃料になり滅亡する。

意味がないのだ。

 

ダモンだのガモンだの、一小国を独立させた程度でしかない人物が選ばれたのもそれが原因だろう。

恐らく、JUDOが牢獄の外に干渉できる規模は非常に小さいのだ。

或いは、元は大きかったが規模が小さくなりつつあるのか。

もしくは、アマゾンを製造した古代インカが国家ぐるみで人間を改造する技術を磨いていただろう事を考えるに、人間の数が多くなるにつれて制御が効かなくなってきたのか。

外部の人間をいくらでもたぶらかす事ができるというのであれば、今頃世界は改造人間技術に対してもっと忌避感少なく接していた事だろう。

今よりも遥かに人口が少なかった時期に龍での旅立ちをしようとしていた事や、現代において多少人間が減っても問題ないという方針で動いているのを見るに、人類六十億の精神に一気に干渉する力は持たないと見ていい。

少なくとも、牢獄越しの精神感応力はその程度の出力しかない、ということだ。

 

恐らく。

手段を選ばなければ、JUDOを滅するか、より強固な形で封じる事は難しくない筈だ。

出力勝負であれば確実に勝利できる。たぶん。

ここは俺の生まれ育った地球ではないし、ぱっと見た限りで俺の友人知人やその親の存在も殆ど確認できなかった。

極論、倫理観その他を投げ捨てれば。

ちょっと宇宙に出てからテオスの力を解放し巨大化(ヘァッ!)、調整を考えない破壊光線で地球を粉々に砕いて、全ての生物を根絶やしにし、溢れ出た魂魄をエネルギーとして吸収してお土産として帰る、というのが帰還への最短ルートだろう。

現状、BADANの手駒は宇宙空間生存可能な個体はあれど、宇宙空間で完全解放状態の俺を害せるものは無い。

観測者が居ない状態であれば、元の次元に繋がる穴を空けるのを躊躇う事はない。

新たな脅威を呼び寄せる事無く、元の世界への帰還を果たせるだろう。

 

地球上で一定の人数とインフラを守りつつ戦うのとは訳が違う。

今の肥大化した俺の力は、調整を考えなければ、かつて苦心して作り上げた衛星に住まう勢力を根絶やしにする為の巨大兵器すら必要とせず星の破壊を可能とする。

それでツクヨミさんの封印が解けてしまうとしても、龍が無ければ移動できない距離から地球を砕いてしまえば捕捉もされない。

周囲の太陽系の惑星も砕いてしまえば、新たに燃料となる命を増やす事もできない筈だ。

 

が。

それでライダーを敵に回してしまうのは本末転倒だ。

JUDOはスペック以上の行動をしてくる事は無いと思うが、ライダーとなるとそうはいかない。

最悪、世界の破壊者とか、最悪の魔王とかが現れて敵対してくるだろう。

その他のライダーだって理屈を越えて何故か無事、そして敵対、という危険性がある。

更に一号さんの戦歴を考えると秩序側の光の巨人が現れてビームを撃ってくる可能性だってある。

ついでに罪もない一般動植物(人類含み人類敵対種族を除く)を虐殺するというのも気が引ける。

罪の心とか、良心とか、そういうリント特有のあれだ。

血も涙もあるので、そういうのは最後の手段くらいに考えておくべきだろう。

 

金持ち喧嘩せず、という言葉もある。

今の所、急いで戻らなければならない理由もそんなに無い。

実は向こうとこちらで時間の流れが違っていて、戻った頃には文明が滅びていた、なんて可能性も、たぶん、無い。

契約モンスターであり、同時に俺にとってのエルロード全種セット相当のロードインパルスの感覚でなんとなくわかる。

 

無闇に敵対せず、余裕を持って、現地勢力と摩擦を生まず。

上手いこと、向こうでも使える便利な技術を可能な限り蒐集してから、この世界の人類なりのやり方をサポートしつつ、安全な帰還のタイミングを迎えさせてもらう事にしよう。

それが本当に賢いやり方、というものだ。

 

―――――――――――――――――――

 

そういう訳で、沖縄にやってきた。

市街地は控えめに言って荒れ果てていると言っていいだろう。

沖縄に展開している獣人達は人間を食らうタイプの改造人間であり、死体こそ転がっていないものの、細々とした破片に食らいつく犬猫、虫の気配は多く、凄惨な血痕が南国特有の暑さによって腐敗し、鉄臭に加えて不快な甘ったるい匂いを放っている。

無事な人間は避難所にでも集められているのだろう。

獣人に襲撃されたであろう辺りには人の気配が感じられない。

 

「はい」

 

「ん」

 

ぽい、と投げ渡されたのは、民家の庭に植えられていた木から採取したドラゴンフルーツ。

適当にもぎ取ってきたのだろうが、凍結しないギリギリのラインで冷やされている。

炎と熱を操るアギトフレイムフォームの力の応用だ。

加熱するのでなく、熱を対象から奪えば冷やすことも可能、という理屈である。

非可食部である皮を念力でビッと剥いて、半分に割り、片方を渡し、残りを齧る。

 

「うん……うん」

 

身体の生理作用も多少喉が渇く程度の調整にしているので、美味しく感じる。

発電所もBADANの襲撃に参ってしまっているので、道行く中で民家の庭から食べ物が取れるのはありがたい。

在日米軍は戦わないだけで存在しているらしいので、何故かブルーシールアイスだけ無事だったりしても良さそうと思うのだが。

 

「あと、今食えそうな沖縄グルメってなんだろうな」

 

「スパームッ! は、良いんだけどさ。どう?」

 

「無いな」

 

カラカラとカンテラ型の改良型キルリアン振動機を振る。

死人が多く出てはいるが、実用可能なレベルの強い霊は集まらなかった。

起源が違うから魂が薄いのか、或いは、戦士の魂は仲間の元にひっついて行っているのか。

或いは増える前は魂の密度も高かったのだろうか。

これを育てて増やして燃料にしよう、というのだから、JUDOの宇宙旅行も涙ぐましいものである。

燃料が切れるまで()を走らせて、車が止まった土地()代替燃料()の材料になる植物(知的生命体)になりうる原種()を育てて品種改良して増やして……。

実は結構なサバイバーなのかもしれない。

 

研究材料として獣人の遺骸でもあれば、とも思ったが、それも望み薄。

ガガの腕輪、ギギの腕輪だけでなく、他に何か得られればとも思ったのだが。

中々、そう都合良くは行かないものだ。

これなら戦闘開始まで海の見えるホテルでストロンガーの構造の研究でもしていれば良かった。

 

「ま、本命が手に入ればいいだろ」

 

「そうだな……ちゃんと理解できる代物なら良いが」

 

古代インカから伝わる神の力。

JUDOの分け与えた力の一端であるというのなら、それを元にJUDOを穏便に殺す方法も思いつくかもしれない。

また、腕輪から切り離された改造人間の生命維持がどうなっているか、それを別の技術で活性化できるかも気になるところではある。

死にかけの人間を延命する為なら改造手術をしてもそう咎められないのはみんな知っての通りである。

早いところ、ドンパチを始めて欲しいところだ。

 

―――――――――――――――――――

 

戦場は混沌に包まれていた。

沖縄はとある海岸、展開したSPIRITSとゲドン、或いはガランダーの獣人達が交戦。

第六分隊と共に行動していたゼクロスとアマゾンによって獣人達も次々と撃破されていたが、BADANから出奔し独自に行動を続けていたヤマアラシロイドの手により、捕獲されていたモグラ獣人が巨大化。

理性を失った、或いは、ヤマアラシロイドの針により行動を誘導されたと思しきモグラ獣人は、共にあったアマゾンへ向け、その巨大な爪を振り下ろす。

友であるモグラ獣人の心を信じ、友情を示すジェスチャのみを掲げ、無抵抗にその爪を受け入れたアマゾンは、ギギの腕輪を装着した左腕を切り落とされ、まるで人形のように力なく吹き飛ばされてしまった。

 

日本中に散らばる戦士、仮面ライダー達が一斉に、アマゾンが倒れた事を察知するのと、二つの樹林帯に溶け込んでいた影が素早く動き出すのは同時。

一つは一目散に、切り離されたアマゾンの左腕とギギの腕輪を、ひったくるように空中で回収する黒い影。

もう一つは、勢いよく吹き飛ぶ、ギギの腕輪を失い、徐々に変身が解けていくアマゾンをラグビーボールでもキャッチするようにオーバーハンドで受け止める赤い影。

二つの影はまるで示し合わせた様に反対方向へと落ちていき、黒い影は樹林帯へ、赤い影は第六分隊の居る方角へと着地する。

 

「本体ヨシ!」

 

衝撃と失血で半ば死体と化したアマゾンを地面にゆっくりと横たえたレッドイクサが、半ば意識を失いかけているアマゾンを指差し確認する。

模範的な応急手当のポーズである。

大げさに思えるだろうが、応急処置を常日頃から行う機会の無い人間であれば、それぐらいにテンプレートに従う方が良いのだ。

無論、現状のアマゾンの状況は、一分もせずに生命活動を停止する、生きているのではなくまだ死んでいないという程度の状況なので、ヨシ、と言い切れるものではないのだが。

 

「もぐ、ら……」

 

朦朧とした意識の中、モグラ獣人へと語りかけるアマゾン。

目の前のレッドイクサを見間違えたのではなく、巨大化が解けたモグラ獣人もまた、腕と腕輪を無くしたアマゾンの元へと駆けつけていたのである。

アマゾンを助ける、という意味で言えば、ギギの腕輪の付いた腕を取りに行くのが最適解ではある。

しかし、けが人を心配する、しかも、自分が傷つけてしまった相手を、となれば、感情的には腕ではなく本人の方へと行ってしまう。

合理ではなく感情による動きだ。

それは取りも直さず、モグラ獣人が魂のない抜け殻でなく、アマゾンの知るモグラ獣人と同一か、或いは何かしらの記憶、魂を共有していることの証明になる可能性を示している。

 

「おまえ、悪く、な……。だい、じょうぶ……」

 

残り少ない時間で、友の弁護を行う。

その様子を、レッドイクサは邪魔をするでもなく見詰めている。

 

(巨大化……獣人にはそれだけのポテンシャルはあるってことか。少なくともあのモグラには。でも今更あの程度の巨大化じゃな。持続時間も短い)

 

空気を読んでいる訳ではない。

冷静に、獣人なる戦闘ユニットの戦力分析を行っていた。

それが、自分達の力になり得るか。

そして、その平静な、感情のないフラットな思考と視線は、イクサのスーツ越しにモグラ獣人に伝わる事も無い。

常からゲゲルの為に時間を費やす旧グロンギから、生まれ直してリントに潜みながら戦う中で、レッドイクサ、グジルの得た技能だ。

傍から見れば、レッドイクサはアマゾンとモグラ獣人のやり取りを無言で見守っているようにしか見えない。

 

無論、同じ事をブラックイクサ、交路も考えているだろう。

だが、せっかく同じ戦場で似たようなものを見ているのだから、多角的な意見があっても邪魔にはならない。

この検体も、直すのを試すなら、完全に意識を失ってからの方が良い。

グジルのそういう思惑が、この奇跡のような空気読みを成立させていた。

 

「おい、こっちだ、こっちの木が倒れてる!」

 

そして、その静かな空間も崩れ去る。

アマゾンの落ちた場所へとSPIRITS第十分隊のメンバーがたどり着いたのだ。

転げるようにその場から逃げ出すモグラ獣人。

 

「アマゾン……」

 

横たえられ、息すらせず、冷たくなりつつあるアマゾン。

謎の乱入者であるレッドイクサを気にもとめずに、アマゾンに近づき声を掛けたのは、アマゾンの古い友人である少年、岡村マサヒコ。

その小さな手を口元に近づけ、息が無いのを確認すると、その顔からは血の気が引いていく。

彼の拙い知識ですら、アマゾンが生きているようには見えなかったのだ。

だが、理性でそれを理解しつつ、友を思う彼の心はそれを否定しようと、アマゾンの身体を揺すりながら名を呼び続ける。

その悲痛な様子に、SPIRITSの隊員の一人であるコンラッドが、肩を掴み、アマゾンから引き離そうと声を掛けた。

 

「よせ、もう死んでいる」

 

「うるさい! 死ぬわけないだろ! トモダチなのに、死ぬなんて、あるわけないだろぉ……」

 

コンラッドの腕を振り払いながら泣き叫ぶ姿に、駆けつけたSPIRITSの隊員も、滝和也も、がんがんじいも、何も言えずにいる。

が、友の亡骸に縋り付く少年を、無情にも首元を猫を持つようにひっつかみ持ち上げ、その場で一番大柄な隊員であるゴードンへと放り投げる腕があった。

獣人の戦力分析を終え、ひとまずの愁嘆場が終わったのを確認したレッドイクサだ。

 

「泣きの場面はもう済んだよな。じゃ、蘇生処置するからちょっと開けた場所まで運んでくれよな」

 

「お前……東京の」

 

レッドイクサに声を掛けたのは、一度彼女の姿を東京で目にしたことのある滝。

現地の人間の中で、はっきりとレッドイクサの姿が確認されたのは二度。

そのどちらもが、ショッカーライダーの残骸を回収した事を除けば一般人やSPIRITSを助けるものであった為、それほど悪い印象を持たれていない。

そして、レッドイクサの中身であるグジルが肉体的にはミドルティーンからハイティーン程度で成長を止め、肉体年齢に比べてもやや幼く高い声である事も、警戒心を緩めさせていた。

無論、残りのSPIRITS隊員は完全に警戒を解くような事はしていないが。

 

「な、治せるの……?」

 

「さぁ?」

 

「さぁ、ってなんや!」

 

ゴードンにキャッチされたままのマサヒコの震える言葉、それに軽い調子で断言しないレッドイクサに、がんがんじいが思わずツッコミを入れる。

だが、実際のところ、レッドイクサも確証があるわけではないのだ。

今こうしているのも、二手に分かれる前に貰った幾つかの指示に従っているだけで、怪我人の治療に長けている、という訳でもない。

だが、彼女の主、トップムセギジャジャ、現ンの言葉をなぞるのならば……。

 

「知らんけど、心臓が止まって力の源から切り離されただけだろ?」

 

「だけって、お前」

 

()()()()でそのまま死ぬようなら、仮面ライダーなんてやってけねーって」

 

その程度なら、交路も扱いに困ったりしないしな。

そんなレッドイクサ、グジルの内心を知りもしない一同は、あまりの言い草に黙り込む。

それは納得であり、唖然であり、一様に同じ感情とは言い難いが。

 

「先ずは砂浜の方に持っていってくれ。そこの男子ども、こいつを死なせたままで良いんでないなら、突っ立ってないで手伝え。あんまり揺らすと良くないだろうから、ゆっくり急がず慌てず、慎重に素早くな」

 

その場の全員が、レッドイクサの()()()()に、一切の違和感を感じる事無く従ってしまうのであった。

 

―――――――――――――――――――

 

一方。

樹林帯の中で、一つの黒い影が、確かめるようにゆっくりと左腕を動かしていた。

 

「なるほど、なるほど」

 

静かに、しかし、隠しきれない楽しげな感情を滲ませた、半ば笑うような声。

その声の発信源である黒い影に、目に見えない程、髪の毛よりもなお細い針が無数に降り注ぐ。

影は降り注ぐ針に視線すら向ける事無く、くるりと、ダンスのステップでも踏むような軽やかな足取りで躱す。

 

「何者かは知りませんが……」

 

無精髭を生やし、薄汚れた白衣を纏う、白い髪を逆立てたメガネの青年。

眉根を寄せ、苛立ちを無理矢理に抑え込んだ歪んだ笑顔のまま、影に向かい語りかける。

 

「それは、人間には過ぎた力です。返しなさい」

 

影は応えない。

しげしげと、左腕を……ギギの腕輪の嵌った左腕を天に翳しながら確認し続けている。

青年──バダンの改造人間、ヤマアラシロイドの人間態であるニードルが、無言のままに髪の毛を数本むしり取り、針として飛ばす。

変身態ほどの脅威ではなく、単純に頑丈な針でしかないが、並の獣人相手であればその頑丈な表皮を貫き神経にまで到達する鋭く疾い。

生き物の頭部に突き刺されば確実に脳細胞を破壊できる程度の威力はあるその針は、中空で突如として燃え上がり、灰すら残らない。

 

「じゃあ、そこの獣人ならいいかな?」

 

ゆっくりと、ニードルへ向き直る影──樹林帯の中、差し込む陽の光に晒されながら、依然としてはっきりとした輪郭を見せない──は、何かに怯えながら、それでもギギの腕輪と、それにつながったままの影の左腕を、涙の浮かんだ瞳で木の陰から見詰め続けているモグラ獣人を、指差すでもなく示す。

 

「獣風情が得て良いものでもありません」

 

ざわ、と、人間態から怪人態に姿を変化させながら、ヤマアラシロイドが返す。

人の姿のままで相対できるものではない。

敵、ライダーか、或いはライダーの味方だろうか。

少なくとも、彼の知識の中に該当するものは無い。

手の中に、無数の目に見えない返しの付いた、槍の如き巨大な針を構える。

 

「俺もそう思う。この力には、相応しい持ち主が居るんだろう」

 

「まさか、貴方がそうだとでも?」

 

「いや。そいつの名前は……」

 

ちき、ちき、と、陽の光の元でなお暗い影から、歯車の回るような奇妙な音が響く。

影の身体を覆う機械装甲が、本体を循環する強大なエネルギーに呼応するように、最終形を決めぬまま自発的に組み変わり続けている。

 

「──アマゾン」

 

流体の如き装甲に覆われた右手人差し指が、生々しい人間の肌を晒す左腕、アマゾンの切り落とされた左腕の、ギギの腕輪を、爪弾く様に鳴らす。

涼やかな金属音と共に、影の全身から周囲の樹木を焼き払う程の熱風が溢れ出す。

それはギギの腕輪に秘められた力か。

違う。

ギギの腕輪に秘められた力を模し、部分的に解放された、全く別の力(テオスの力)

熱風は一瞬で周囲の樹木を蒸発、足元の土を溶解させ、一帯を覆う程の白い蒸気を生み出す。

蒸気は自らの勢いにより一瞬にして拡散し、その発生源を顕にする。

 

「その姿は……!」

 

ヤマアラシロイドは、苦々しく、隠しきれない驚愕と、無自覚な恐怖心を滲ませながら、一歩後退る。

 

「ただの紛い物だよ」

 

フェイスガードに覆われた、仮面ライダーアマゾンに似た、オオトカゲの印象を持つ顔面。

所々のボデイラインにアマゾンの、古代インカの秘術に寄る肉体変異のラインを残しつつ、現代的な機械装甲に隈無く覆われた全身。

ギギの腕輪ですら、元の形を残しつつ未知の金属に覆われて保護されている。

 

「だが、参考にはなる」

 

仮面ライダーアマゾンに酷似しながら、決定的に立ち位置を異ならせる姿。

この世界の感覚において、それはライダーよりも、圧倒的に怪人側に寄ったものだ。

溶解した地面に立つのは、黒く染まった、機械仕掛けのアマゾン。

 

「ガガの腕輪も試したい。案内してくれないかな」

 

親しげに、ヤマアラシロイドに話し掛ける黒いアマゾン。

その声に応える事無く、ヤマアラシロイドは後退った一歩を誤魔化す様に、槍の如き針を構え直した。

 

 

 

 

 

 

 




今回のラストは珍しく推奨BGMがあります
謎の影の変身シーン(高熱放射による爆発)が終わった辺りからArmour Zoneを流していただけると音楽の力ですごく雰囲気がプラスされてとても助かります
ヤマアラシロイドは助からないかもしれませんが


☆お前は誰だ?
本編でブラックイクサとも交路とも書かなかったせいで本気で誰だってなりかけるやつ
でもこのSSでこういう正体不明の変身シーンがあったらだいたいこいつだなってわかってもらえるという信頼という名の甘え
右腕を切り落とした訳ではなくモーフィングパワーで体内に引っ込めただけ
体細胞採取されるようなうかつな真似は異世界であろうとしてはいけないのだ
最後の手段を取る可能性があるとしたら、万が一原作SPIRITSの流れがうまく行かずこの世界のライダーが全滅した場合の話
グジルを素早く回収、JUDOとの直接対決は避けて遠距離からの惑星破壊級テオスパワー光線で地球を破壊して環境勝利を狙います
現時点のSPIRITS原作だとJUDOも龍無しでの惑星間航行はできない筈なので
現地民?
ライダーが全滅した後なら慮る必要がなくなるので……
IF完全敗北ルート世界の負けヒーローとか考慮の外では?
まぁサポート入るから大丈夫大丈夫
黒いアマゾンズネオアルファっぽい形態

☆アマゾンを運ぶときもわざと足の片方とか持って労力を全員に分散した挙げ句合間合間であんまり揺らすと直せなくなるかもだから慎重にな!とか言って時間を稼ぐガール
一見して人道と医療的行為に配慮した結果みたいな発言に聞こえるから質はかなり悪い
わからんとか言ってるけど、グロンギとしての感覚と現ンによる英才教育の結果、腕の神経がまだ身体生かしてるから大丈夫だろ、ジルが生まれた時よりも軽傷だな!
くらいに思っているので実質治療もどう引き伸ばすか移動中に考え中

☆二十歳超えであの喋りって思うとちょっときついかなとも思う山本大介さん(故)
原作の原作当時23歳で、そこから少なくとも3年だからアラサーなんだよね……
漫画故許せ
漫画ならアラサーが野生児喋りしても許される
SSも絵面が無いのでたぶん許されるだろうと思う
(現代で実写でやったディケイド版は視聴者に許されなかった)
まだ死んでるけど生きてる
グジル感覚だと体内神経が生きてるんだからまだまだ大丈夫だろ、という感覚だが、現代医療的には死んでる
でもまぁライダーだから死なない
その程度で死ぬならここまでの戦いのどっかで死んでるからね
腕輪もがれた上で首跳ねられて跳ねられた首が焼かれるとかしないと元グロンギの生き残りから死ぬかもとは思われないぞ!
本編で本名呼ばれないけど原作の原作でも一話二話でナレーションで使われただけでアマゾンで通していたんだとか

☆なんだこいつ見た目に反してめっちゃ怪我人丁重に扱うじゃん……とか思っちゃったSPIRITS隊員とか滝さんとかがんがんじい
騙されちゃいけないけど結果的に間違ってもいないので内心を見破ったりはできていない
まぁ、精神的な支えってところが大きいし
ゴードンさんの槍って使う度に拾ってるのかねあれ
カセットアーム量産して武器化して渡してくれればいいのに……

☆ユウジョウ!とかやる少年達
まぁ、トモダチが心配で来た子だし、もう一人はちゃんと戦力従えてきたし……
でも戦場にノクトビジョンっぽいのと穀類膨張機っぽいのだけ装備して来るのは流石に引く
ポン菓子浴びせられただけで怯む戦闘員にはもっと引く
なんなん……?
真面目にやろ……?





書く前は戦場に大量にヘキサギアが溢れ出すって考えてたんだけど
どう考えてもこのタイミングで拾いに行く方が自然なのでこっちで
だってギギの腕輪がアマゾンに戻るまでに結構時間あるし、少しくらい長めに借りてもええやろ……
敵か味方か微妙な立場だけどどうせライダーは滅多なことでは死なないし死んでも蘇るだろうという確信から昭和ライダーと絡むとこういう判断もありになってくる
ありなのかな
いや、ありだと思う
最終的に古代インカパワーをゼクロスに飲ませればヨシ!
一応グジルによる延命シーンとかも入るからええやろ
功罪プラマイゼロって事で
次回は本編かこっちか不明
思いついた方からで
そういう訳で、感想などありましたら書いて頂きつつ、次回も気長にお待ち下さい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。