オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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122 VSカプリコーン

──みあお

 

──にぃぃ

 

──くるる……

 

──ガリガリガリガリ

 

──ぷー……ぷー……

 

行儀よく座りこちらの指示を待つ二匹、鏡の中のロードインパルスを相手に耳を畳んで萎縮する一匹、鼻息も荒く一心不乱に試作シャドウクリスタル製の爪研ぎを掻きむしる一匹、鼻提灯を膨らませて寝ている一匹。

一つ一つは小さな音だが、寄り集まれば中々に騒音に思えてくる。

これは間違いなく家では飼えない。

やはりロードインパルスくらい静かなのでないとペットは難しい。

 

「傾注」

 

号令をかける。

すると、ばっ、とすべての猫がそれまでの行動を止め、二本脚でびしりと気をつけの姿勢を取った。

なお、ちょっと豪華な椅子に腰掛ける俺の膝の上で堂々と丸くなるニーくんは反応しない。

これは、ニーくんが死にかけの猫の肉体を徐々にトライアル猫のパーツと置き換えて作った改造猫であるのに対し、これらの2-2から2-6までの個体が純正のトライアル猫である事を示している。

つまり、野生で生きたことが無く、発生からこれまでを全て俺の手元で行い、純粋な兵隊として育て上げたという証なのだ。

野生の判断力を持つニーくんと比べれば戦士としての質は少し落ちるが、ニーくんに組み込んだ諸々の戦闘データを、ニーくんの実践データを元に最適化したものを脳に焼き付けている。

 

「偽装解除」

 

一見して色とりどりのイエネコだったトライアル猫達の全身をしなやかな金属装甲が覆い尽くし、相貌も独特な模様のそれに変化していく。

が、見分けるのに顔を覚える必要はそんなに無い。

今回はちゃんとナンバーを振り分けているし、そもそも、先行量産型、という事で多少の差別化は行っているが、大体はニーくんと似たような装備構成になっている。

モデルとなったニャンニャンアーミーと異なる点と言えば、追加装備無しで水中での長時間活動が可能であるいう点だろうか。

将来的に、海中や宇宙に基地を構える敵が現れた時の事を考えての事だ。

まぁ、余程の海底となれば圧力に耐えきれないかもしれないが……。

 

「決めポーズ」

 

号令に従い、隊列を崩さない範囲で思い思いのポーズを取るアーミー達。

その背後で控えめにぱふんぱふんと花火程度の爆発が起きる。

これはアンデッドの持つ特殊能力の拡張性を見るための試験的な機能だ。

将来的には五体揃ってポーズを取ると巨大なエネルギー砲が電送される仕組みを作り、そのエネルギー源にできないか、と思っているのだが……。

まぁ、今は目処の立っていない技術の話をしても仕方がない。

 

彼等にはカプリコーンアンデッドの相手をしてもらう。

理由はいくつかある。

まずカプリコーンアンデッドはタイミングを見計らえばブレイドとの共闘が可能で安全性が高い。

それでいて、上級アンデッドの中ではさしたる特徴もない、まぁまぁな肉弾戦に武装も帰ってこないブーメランにお決まりの火炎と衝撃波と、遠近のバランスが良く戦いの感覚を掴むには丁度よい。

あとオーキッドアンデッド相手だと、恐らく単独で挑んでも特に工夫無く倒せるので、ニーくんから移植した猫型の最適化された戦闘法の有用性を確認できないからだ。

カプリコーンアンデッドなら、小さい的を相手にする為に火炎をばらまく、ブーメランを連射するなどの手があるため、それの対処法も試す事ができる、という寸法である。

ドラゴンフライアンデッドみたいに、リーチの短い武器で斬りつけるしか攻撃方法が無い場合、ニャンニャンアーミー達のような手合には手も足も出なかったりするからな……。

 

オーキッドアンデッドは適当にこちらで回収しておく。

最悪、同行するだろう一般成人男性は野生の昏睡ガスか人間識別用光てんかん誘発視覚毒で眠ってもらう事になるだろう。

言ってしまえば今回は戦闘というよりもサンプルの採取が主目的となるのだが、油断は禁物だ。

実のところを言えば、俺はまだ一体しか上級アンデッドをこの目で確認していない。

或いは、ピーコックアンデッドが例外で、それ以外の上級アンデッドは窮地に立たされた時に特殊な薬液などを摂取して巨大化する可能性だって無いではないのだ。

唐突に瓢箪を取り出してバルバエキスを飲んだり、或いは芋長に向けて走り出したり、そういう特定のアクションを始める可能性を無視する事はできない。

それこそ、ビルより大きいとまでは行かなくても、身体の構成を変化させれば大型の魔化魍くらいには膨らむ可能性を無い事も無いのではないか、と思う。

気を引き締めて行かせてもらおう。

 

―――――――――――――――――――

 

夢の島熱帯植物園。

そこが普段はどの様な場所なのか、というのは剣崎には知り得ないことではあった。

が、上級アンデッドに狙われているらしい虎太郎を追いかけて入り込んだその場所の第一印象を挙げるとすれば、『猫が多い』だろうか。

木の上、茂みの中、或いはベンチの上……。

別段動物好きという訳でもない剣崎からしても、野良猫とは思えない毛並みの良い猫が集会を開いているかの如く寄り集まっている光景は、虎太郎の命の危機でも無ければ惹かれるものがあった。

 

鳴き声をあげるでもなく点々と距離を置いて集まる猫達から視線を逸らし、公園内を見渡す。

目当ての虎太郎はすぐに見つかった。

引っ掛けた女の人と楽しくデートをしているところを悪いとは思うが、虎太郎が狙われている以上、巻き込まれでもすれば相手も危ない。

 

「おいっ」

 

声をかけようとした時点で、剣崎が喉を捕まれ投げ飛ばされる。

片手で持ち上げて、自ら跳ぼうとしていた訳でもない剣崎を数メートルほど滞空させるその膂力は並の人間のものではない。

公園の中、木々の生い茂るエリアに転がされる剣崎。

その剣崎を避ける様ににゃあにゃあと猫が逃げていく。

 

「誰だお前は!」

 

起き上がりながら、下手人に向けて声を荒げる剣崎。

普段からアンデッドを相手に荒事を繰り広げている剣崎の怒声は、好青年風の見た目からは想像もできない程、全ての音に濁点が付くのではと思う程にドスが聞いている。

或いは向けられる相手が一般人であればそれだけで身がすくむかもしれない。

しかし、その怒声を浴びる相手は、剣崎の声に怯む様子も無い。

 

「野暮なことしないの、デート中なんだから、さ」

 

人を小馬鹿にしたような、派手な身なりの男。

シルバーのピアスに、胸元を大きく開けた洋装、大げさなサイズのネックレス。

一見して、遊び好きそうな一般人にしか見えない。

だが、人の姿をしながら、その全てが異常だ。

人間を片手で投げ飛ばす腕力も言わずもがなだが……。

 

或いは、剣崎が冷静であれば、ここで男の見た目や腕力ではない、言動の異常に気付いただろう。

この男は、剣崎が虎太郎に声をかける事を止めたのだ。

 

男は甲高い奇声を発すると、剣崎に向けて口を開く。

口から放たれたのは衝撃波。

いや、衝撃波にも見える、空間に視覚可能な程の影響を与える何がしかのエネルギー波。

それが剣崎の身体をかすめ、更に剣崎を吹き飛ばす。

倒れ伏し、起き上がろうとする剣崎を観察しながら、獣の如く身震いをする謎の男。

 

「まさか……お前か、虎太郎を狙うアンデッドは……!」

 

起き上がりながら苦しげに問う剣崎を、謎の男……矢沢は我が意を得たりとばかりに指差し、おほほ、と、嘲笑う。

 

「大当たりぃぃ」

 

再びの奇声。

片腕を上げた奇妙なポーズと共に、矢沢の身体が人間のそれから大きく外れ、鋲打ちのレザースーツの様な、全身に捻れた角をいくつも生やし、頭部に3つの禍々しくデフォルメされたヤギの顔を持つアンデッド、カプリコーンアンデッドへとその身を変じる。

同時、腹部から光が放たれ、勢いよく三日月状のブーメランが生成、射出され、剣崎目掛けて飛翔。

剣崎は的確に首を狙うその軌道を瞬時に見切り、引っ飛ぶような側転で回避。

瞬時に取り出したブレイバックルを腰に当てベルトが展開装着され、しかし、変身を妨害する様にカプリコーンアンデッドが飛びかかる。

しかし、それすら剣崎は類稀なる動体視力か、或いは戦勘で読み切り、バク転回避。

着地と同時、左腕を斜め前に突き出し……

 

「変身!」

 

《ターンアップ》

 

ブレイバックルから展開されたオリハルコンエレメントに勢いよく剣崎が駆け込む。

このオリハルコンエレメントこそ、原子レベルまで分解された強化アーマー。

この光の壁を通り抜けると同時に剣崎の身体にブレイドとしての装甲が、倍力機構が、スーツの総てが固着され、仮面の戦士、ブレイドへとその身を転じさせるのである!

 

ブレイドはまずは一当てとばかりにカプリコーンアンデッドへと殴りかかる。

理論上地球上で斬れない物は存在しない筈のブレイラウザーを取り出さないのは単純な手数の問題だ。

そしてそれは正解と言える選択だった。

ブレイドの、並の乗用車であれば数秒でスクラップにできる猛攻を、カプリコーンアンデッドは半笑いのまま、気軽に受け流してみせている。

武術の類の動きではない。

単純に、カプリコーンアンデッドの反応速度が人間のそれと比べて早く、運動性能もブレイドと比較しても上位に当たるため、見てからでも簡単に対処が可能なのだ。

これがブレイラウザーで斬りかかっていたのなら、数合も打ち合わぬ間に刀身を掴み取られ、戦闘の要とも言える武器を奪われ捨てられていたところだろう。

 

では、この戦闘においてカプリコーンアンデッドが絶対的に優位にあるかと言えばそうでもない。

そも、上級アンデッドがBOARD製ライダーに基礎スペックで勝るというのは当然の話なのだ。

或いは、下級アンデッドですら、純粋な身体能力で見た場合は上回る場合がある。

ブレイドは、剣崎一真は、BOARDのライダーは最初から、格上の敵を相手に戦う事を日常としていると言っても過言ではない。

 

ブレイドが殴りかかり、それをカプリコーンアンデッドがいなす。

ワンパターンで千日手、一見してカプリコーンアンデッドが遊んでいるようにも見える。

しかし、剣崎も無闇に防がれているだけではない。

カプリコーンアンデッドに軽く合わされていた肉弾戦は、いつの間にか互いの攻撃が綺麗に噛み合う様に変化しつつある。

剣崎がカプリコーンアンデッドの動きに慣れはじめたのだ。

 

カプリコーンアンデッドは確かにブレイドよりも早く力強い。

しかし、それだけだ。

高度な技術を持ち合わせている訳でもない。

本能の赴くまま振るわれる拳に、蹴りに。

一定の癖、パターン、習性のようなものを見出す事は、幾度となくアンデッドとの戦いを乗り越えてきた剣崎にとってそう難しい話ではない。

 

これもまた、アンデッドに対し人間が対抗可能な理由の一つ。

仮にカプリコーンアンデッドが油断なく、遊ぶこと無く初手から確実にブレイドを、いや、剣崎を殺そうとしていたなら、そも勝負にならなかっただろう。

剣崎は初手を奪われている。

首根っこを掴まれて投げ飛ばされたその時、投げ飛ばされるのでなく首の骨をへし折られていたなら?

だが、カプリコーンアンデッドを始めとするアンデッドの多くはそれをしない。

自らが不死、滅びることの無い存在であり、幾度となくバトルファイトを潜り抜けた歴戦の戦士であるという自負がある故に、格下と見た相手で遊ぶ悪癖がある。

自分たちに対抗する為に作り上げた、ライダーシステムという蟷螂の斧。

それを楽しむ為に変身を許してしまう、強者特有の驕り。

 

これこそ、基本的な身体能力で劣る人間が、アンデッドに付け入る隙なのだ。

 

剣崎の……ブレイドの拳がカプリコーンアンデッドの腹部に突き刺さる。

肉体の単純な強度の関係でさしたるダメージは無い。

カプリコーンアンデッドもさして問題とは感じておらず、アンデッドの強固な皮膚一枚すら貫けないブレイドを鼻で笑う。

しかし、この一撃はカプリコーンアンデッドの戯れでわざと当てさせた、という訳ではない。

ブレイドがブレイラウザーを抜刀する。

 

斬りかかる。

がむしゃらな、しかし確実に刃筋を立てた斬撃。

躱される。

一度、二度、三度目でようやくカプリコーンアンデッドへと刃が届く。

だが一撃だけでは大したダメージではない。

ここでカプリコーンアンデッドが僅かに驚く。

 

まぐれ当たりではない。

しかし、ブレイドが一度目、二度目の斬撃で意識的にカプリコーンアンデッドを誘導して当てた、という訳でもない。

カプリコーンアンデッドの動きに慣れた、パターンを覚えた剣崎が、本能的に当てなくても良い攻撃と当てるべき攻撃を織り交ぜた結果だ。

 

木々の間を抜け、舗装された道に出る。

ここでブレイドの斬撃が当たらなくなる。

カプリコーンアンデッドが動きを変えたのだ。

格下の獲物を嬲る動きからバトルファイトで使う同格のアンデッドと戦うための動きへ。

攻め気を強くした敵に対処するため、確実に避けと受けを組み合わせてダメージを防ぎ反撃を伺う。

アンデッドの肉体もある種の霊的実体ではあるが、通常生物と同じ様に部位によって構造も強度も異なり、攻撃を受けるに適した部位が存在する。

或いは相手の攻撃を受けることそのものが反撃であり武器破壊へ繋がる訳だが……。

 

既に遅い。

 

《タックル》

 

スペードスートの4、ボアタックル。

ラウザーを構えての突進。

しかし、これも闘牛士の様に華麗に回避。

余裕を示すようにカプリコーンアンデッドが両腕を広げる。

 

「仮面ライダー。ボクはそのへんのアンデッドとはひと味違うんだ」

 

と、その言葉を終えるよりも早く、ブレイドはカードを二枚引き抜き、ブレイラウザーを投擲。

攻めの要ともなる武器を躊躇いなく投げつけることへの驚きにカプリコーンアンデッドは一瞬回避に移るのが遅れた。

或いは、対等の敵を相手にする動きに切り替えつつ、気持ちだけは格下を嬲っているつもりのままだったのか。

衝撃。

元から投擲することなど考慮されていないブレイラウザーは、刃物というより鋭い鈍器の様にレザー製の腰布状の部位を掠める様に飛んでいき、カプリコーンアンデッドの体勢を崩す。

無様によろめくカプリコーンアンデッドを跳躍で飛び越したブレイドが地面に突き刺さったブレイラウザーを引き抜き、カードを二枚ラウズ。

 

スペードスートの2、スラッシュリザード。

スペードスートの6、サンダーディアー。

 

コンボ・ライトニングスラッシュ。

再びの跳躍。

ようやくバランスを取り戻したカプリコーンアンデッドが顔を上げると、そこには稲妻を纏う刃を振りかざすブレイド。

避ける事も防ぐ事も叶わない。

肩口から切り裂かれ、緑色の体液を撒き散らしながら吹き飛ぶ。

思わず叫び声を上げるカプリコーンアンデッド。

 

ここで、カプリコーンアンデッドの思考は完全に切り替わった。

格下を嬲るのでも対等の敵と戦うのでもない。

 

何故?

おびき寄せたライダーを二人がかりで倒す筈では?

裏切った?

 

再び切り替わる。

今は戦うべきではない。

傷を押さえ、ライダーに背を向け、蹌踉めきながら走り出し……。

 

ざく。

 

恐ろしく単純な痛みが、首筋に走る。

まるで刃物を差し込まれたような痛み。

 

いや、まるで、ではない。

カプリコーンアンデッドが視線を下に向ければ。

自らの喉から突き出る、三本の長大な、鉤爪の様な刃物が見えた。

そして、痛みが先走り気づくのが遅れた僅かな首の重み。

 

──にあぁぁ……

 

後頭部から聞こえる猫の鳴き声と、喉から突き出した刃物が引き抜かれるのは同時。

反射的に首の後を手で払おうとするよりも早く重みは消え、三方から金属音。

全身、いや、主に胴から下に、無数の弾丸が突き刺さる。

弾丸はどれも弾頭が違うのだろうか。

鋭く突き刺さり体内に残るもの、アンデッドの強固な肉体を容易く貫通していくもの、杭か釘の様に異様に長く弾丸というよりも矢の様なもの。

移動の要となる脚部は、どこからか放たれた弾丸でまたたく間にグズグズの肉塊へと変えられてしまった。

もはや立っている事すらできないカプリコーンアンデッドはその場に崩れ落ち倒れ込む。

 

「なんだ?!」

 

その銃撃音に気付かないブレイドではない。

茂みの中に吹き飛ばされ逃げようとしていたアンデッドを追いかける様に近づき、それを見た。

 

──なぅ

 

──みぁ

 

──ふしゅ、ふしゅ

 

──がりがりがりがりがりがり

 

──ばき、みち、みち……

 

猫。

猫。

猫。

合わせて五匹の猫が、まるで死んだ動物の死体をかじる様にアンデッドへと群がり、爪を、牙を、突き立てている。

いや、そうではない。

幾ら剣崎が私生活などというものが無い程の仕事人間であったとしても、それにはすぐに気がついた。

猫のようで猫でない。

全身を、まるでライダーの様な強化服に、或いは警察の装甲服の様なものに覆われた、奇妙な猫のようなもの。

強化服を着た猫、という可能性は既に剣崎の中で無に等しいほどに薄まっていた。

 

まず、爪。

猫は爪を出し入れするが、その爪がありえないほどに長い。

具体的に言えば三十センチ程はあるだろうか、それもまた猫の身体を覆うものと同じく金属の艷やかな光沢を放っている。

次に姿勢。

四足でアンデッドに齧りつき、体表を噛みちぎっているものも居るが、大半が二足で立ち、両手の爪を突き刺してアンデッドの身体を腑分けしている。

肉屋で巨大な牛馬の半身を解体する業者の様な動きだ。

猫というより、これなら小さな猫のきぐるみを着た小人と言われた方が信じられるだろう。

 

下半身の殆どを蜂の巣に、或いはピンボール台の様に釘打ちされ、しかし、残るかろうじて無事な上半身も抵抗の動きがあまりに鈍い。

カプリコーンアンデッドの肉体は単純な物理的ダメージだけでなく、深刻な毒素に蝕まれていた。

センチピードアンデッドの、コブラアンデッドの、ビーアンデッドの、細胞を元に作り出されたトライアル達が発現した、アンデッドにも通用する数種の毒。

それは彼等の爪に、或いは機械的に移植された機関砲の弾頭に込められ、体内にねじ込まれたが最後、特別な再生能力でも持たない限りは致命的。

強靭な生命力を持つ、というより、概念的に死ぬことのできないアンデッドであればこそ、死ぬことすら許されず、体内から強烈な酸でも浴びせられる様な焼け付くような痛みと共に蠢くことしかできない。

 

そして、動きが鈍ったカプリコーンアンデッドの身体に、無慈悲にも無数の刃が差し込まれ、家畜でも捌くように分解されていく。

爪で切り落とされている部位はまだ良かった。

だが、五匹の内の一匹は、肉を切り分けるというより、短めに出した爪を研ぐ様に肉を刳り続け、更にもう一匹は噛み付く度にその部位が凍りつき、樹木の皮でも剥ぐ様に凍りついた細胞を引き剥がされていく。

 

これは戦いではない。

処刑ですらない。

解体ですらない。

 

おもちゃの様に扱われている。

正しく、猫に与えられた面白い新しいおもちゃの如し。

或いは、子猫に与えられた死にかけのネズミか。

彼等は、ブレイドの手によって手傷を負ったアンデッドを使って、初歩的な狩りに必要な動作を学んでいるのだろうか。

 

全身の角という角を切り落とされ、四肢を半ばから切り落とされ、腹部に大穴を開けられ、カプリコーンアンデッドが物理的な肉体を維持できるギリギリまで解体される。

その間、僅かに数十秒。

その現実離れした、悪趣味な童話の様な光景を見届けるしか無かったブレイドは、気付く。

 

猫の視線が、総て自分に向けられている。

 

──んにゃ

 

──みゃ

 

──おあーん

 

──ばりばりばりばり

 

──たし、たし

 

切り落とした手足を、角を、紐で纏めて背後に置いて。

或いは地面を引っ掻き、地面をたたき。

しかし、視線だけは何かを訴える様にブレイドを見つめている。

 

──ふぅぅぅぅ……

 

──んにぃ

 

二匹の猫の様な何かだけが、大きく息を吐き、鳴く。

ハッとした様に、ブレイドがブランクのカードをカプリコーンアンデッドだったものへと投げる。

残骸はあっけなくカードへと封印され、スペードスートのQへと変化。

 

当初の目的は果たしたと言って良い。

虎太郎を狙う上級アンデッドは封印された。

だが……。

目の前のこれらは、放置して良いものなのか。

 

アンデッドではないだろう。

アンデッドにこの様なサイズのものは存在しない。

或いはアンデッドの眷属、或いは分裂した身体の一部。

という可能性を考えれば、今すぐにでも斬りかかるべきなのだが……。

意識を向ければ、手にしたブレイラウザーがちゃきりと金属音を鳴らす。

すると……。

 

──うにゃん、うにゃ、にゃうぅん

 

チラ、と、薄目を開けた猫の視線が再び剣崎に向かう。

 

──ごろごろごろごろ……

 

チラ、と、薄目を開けた猫の視線が再び剣崎に向かう。

 

──きゅぅぅん、きゅぅぅん

 

チラ、と、薄目を開けた猫の視線が再び剣崎に向かう。

 

全身装甲に包まれた、奇妙な出で立ちではある。

が、猫らしきもの達はその場で腹を見せ、身をくねらせ、愛らしい姿を披露し始めた。

媚びているのか敵意がない事をアピールしているのか。

やがて、一匹がしずしずと起き上がり、ブレイドの方に歩み寄る。

座り込み、ふるふると震え、再び立ち上がり、下がっていく。

跡には、茶色い小さな円筒形の……。

 

「え?」

 

閃光!

突如として、猫の糞と思しき物体が強烈な光を放ち、ブレイドのカメラアイを焼く!

無論、それだけで駄目になるようなやわなスーツではアンデッドに太刀打ちできない。

搭乗者への安全対策により、実際に剣崎の目には強烈な光ではなく、視界が一時的に白く染まる程度。

それも数秒で復帰するが……。

 

視界が元に戻った時。

謎の装甲猫の集団は、切り離されたアンデッドの一部もろとも、跡形もなく消え失せていた。

 

「ケンザック!」

 

虎太郎が駆け寄ってくる。

戦闘音を聞いて駆けつけたのだろう。

或いは戦闘の邪魔になるからと戦闘音が消えるのを確認してから駆けつけたのか。

純粋に心配している様子から、謎の猫集団の事は気付いてもいないのか。

 

「剣崎くん……」

 

「無事だったか」

 

「うん」

 

銃撃音などもあったが、それもアンデッド側が出した音だと思ったのかもしれない。

様々な疑問を残しつつ、それでも虎太郎は無事だったのだから、と、ひとまず変身を解除し……。

 

悲鳴。

絹を裂くような女の悲鳴。

 

「みゆきさん!?」

 

駆けつけた虎太郎が振り返り元の場所へ走り、変身を解いた剣崎も後を追う。

 

「みゆきさ……?!」

 

駆けつけた先に、虎太郎とデートを楽しんでいた吉永みゆきの姿は無く。

周囲には飛び散る緑の体液、千切れ飛んだアンデッドの肘から先。

そして、失った片腕の傷を手で抑えるアンデッドに、太刀を手に佇む甲虫武者の姿だけがあった。

 

 

 

 

 

 

 




後半へ続く!

☆改造猫軍団を操り世界征服を企まないコー博士
博士号の類は無い
そも科学者方面にすすまないなら取る必要も無い
が、大学卒業する年はワームとネイティブが悪さをするし
予定ならその前年にはオロチ現象があるし
最悪今年もダークローチが出たりするし
その前はマッドアーク大量発生
テオス進撃も未確認事件も記憶に新しい
ちょっと過激な人類守る系の論文出しても怒られないよね?
と、二年の時点からシコシコと卒論に向けて資料を纏めている
改造生物つくってばかりではないのだ

☆ニャンニャンアーミーアナザー
喋らないしオシャレに気を使わないしきぐるみも着ない
野生の本能も無いに等しいが戦士として、戦力として育てられたので狡猾
猫であるという点を最大限活かしあらゆる性質を武器にする
体内に特殊な兵器プラントを備え、糞や吐き出した毛玉を閃光弾や煙幕弾として使用できる
決めポーズは毎回バラバラ
こちらは試作の試作であるニーくんと違い基本的に主人公に忠実なしもべ
基本的にレンゲルの初期デッキから作られており、毒や冷気などがそれぞれの特殊能力として組み込まれている
また、装甲は初期ニーくんから変更が加えられ、エメラルドスピリチアとシャドウクリスタルの間の子で構成され、装甲の再生能力を補う為にニーくんに施されていた特殊な処理が省略され、生産性に優れる

☆カプリコーンアンデッドだったもの
あたり一面には広がらなかった
変身前ライダーの首を掴むという千載一遇の勝利チャンスをみすみす逃す典型的なアンデッド
でも警察とかに居る一般的なモブ装甲服おじさん達はちょっと戦ったくらいでアンデッドの戦闘パターンを読み切って本能的に勝利への道筋を組み立てたりはできないからこいつが悪いかと言われると難しい
角から炎とか出せるけど大量の謎の生き物にたかられるおぞましさに忘れていたか炎出す前にそれっぽい部分も粉砕されていた
まぁ能力使ってない問題で言えば変身前に使ってた衝撃波とかも変身後は使ってないから、そこらへんはコンスタントに使える技ではないのかもしれない
ブレイドとの初戦もブーメランとか不意打ちで一発出してそのままだったしね……

☆総天然アンデッド絶対封印するお兄さん
実際封印するかは好感度によりけり
仕事に誇りを持ってるって言うけど安月給
たぶん警察の装甲服部隊がもっと前に設立してればそっちに就職しても良かった
でも剣崎の融合係数の高さを知って天王寺が誘導した可能性もあるので最終的にはBOARDに就職していた疑惑はある
他所に就職した後に天王寺の権力で不祥事起こして首にされるよりは経歴に傷が付かなくてよかったんじゃないかな
原作のカプリコーンアンデッド戦とか見ると割と学習能力というか敵の動きを見極めたりするのは得意なんじゃないかなと思えてくる
原作を見て文章に起こしているとめっちゃ理屈で説明できる部分多いのすごい
原作では人間のままアンデッドとの戦いを終えると清掃員に就職したりするが、この世界は人類を脅かす勢力も多いので再就職先もそれに応じて多い

☆オーキッドアンデッド
本当は謎に虎太郎を引き止めるシーンで虎太郎の袖を掴んだ腕が突如として狙撃で引きちぎれて虎太郎の目の前で緑の血を流しアンデッドバレ、という展開だったのだけど
謎に原作戦闘を九割型文字起こししてしまったせいで話の流れが変わってアンデッドバレシーンは回避された
展開によってはアンデッドバレすら起きないかもしれない



ニャンニャンアーミーがまともに戦闘をしなかった?
漁夫の利を狙えるならそれに越したことはないのだ
これも猫の賢さ
次回オーキッドアンデッド戦
気長にお待ちいただければ嬉しいです

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