オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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130 アンデッドは悩まない

そういう訳で、嶋さんは無事にチベットに帰国したのであった。

本当ならラウズアブゾーバーの図面の一つも欲しかったのだが、そこは実物が白井邸にある為にどうにかなった。

エレファントアンデッドに関しても同上。

人間が懐に抱えた荷物を取り上げられても起きない基準というのは脳波を見れば簡単に区別がつく。

夜の間に2つとも借り、アブゾーバーは分解し大まかな構造を把握した上で元に戻し、エレファントアンデッドは細胞を採取した上で封印し直して返却してしまえば何の問題も無い。

そもそもエレファントアンデッドを倒せたのはジャックフォームになれたからで、何故ジャックフォームになれたかと言えば、細胞採取済み各種実験完了済みのイーグルアンデッドの首なし四肢無しボディを白井邸の玄関前に打ち捨てておいたからだという事実を鑑みれば、これくらいの無断借用は許されて然るべきだろう。

 

嶋さんには一度チベットに戻って烏丸所長に手紙を渡してもらい、そのついでにお別れを済ませてくる様に伝えてある。

烏丸所長もBOARD式のライダーシステムを制作した優秀な科学者なので是非とも素晴らしき青空の会に居て欲しい。

アルビノジョーカーなどに殺されていい人材ではないので正式に護衛を付けたいし、なんならもし死んだ後でも研究を続けてもらう為に広瀬パパのように脳内のバックアップを取らせて欲しい。

素晴らしき青空の会に来てくれれば定期健康診断にかこつけてCTやMRIに偽装した機材で記憶のバックアップが取れる筈だ。

或いは本人が生きている状態で脳のバックアップを元にトライアルの技術で複製を複数作ってディスカッションとかしてくれると面白いデータが取れそうだとは思わないだろうか。

そのまま護衛にも使えるし、四六時中護衛がついているというのも気が休まらないところを、護衛が自分のコピーで色々と察してくれるとなればこれほど護衛として優れた存在も無いだろう。

中身はそのままに見た目だけ美少女にすれば所謂自分ヒロインものもできる。

まぁ無理なら無理で良いのだけど、嶋さんにとっては一応友達ではあるはず。

今生の別れになるかもしれないなら、挨拶の一つもしておくべきだ。

 

このバトルファイトで最後まで残るアンデッドはジョーカー、それに変わりは無い。

嶋さんにはご退場願わなければならないし……オリジナルのアンデッドが残っている状態でその細胞で変異したトライアルがどういう影響を受けるかと考えたら、生き残りのアンデッドなどというものは許容できるものではないのだ。

老兵にはさっさと消え去ってもらわなければならない。

アンデッド関連技術はトライアルアニマル達で十分なのだ。

 

残るアンデッドの数は少ない。

キング三枚、クイーン二枚、下級がちょっと、と言ったところか。

カメレオンとスコーピオンはケルベロス完成の為の実験に使うと思うので、こっちでの融合実験の後に分解して天王寺の研究所に返却しておいた。

この融合実験では上級アンデッドをライダーに最適な形で融合させるラウズアブゾーバーから学んだ技術が大いに役に立った。

さらに言えば、ラウズカード三枚の盗難という事で蜂の巣をつついたような大騒ぎを起こした挙げ句に別の場所に研究所を移したようだが、その過程で天王寺が各所に備える研究所の場所を把握できたのは嬉しい。

天王寺と関係者を抹殺した後は箱だけ残して各種設備はすべて回収させて貰おう。

 

では、ここから如何に残存アンデッドどもを封印していくか、という話になる。

バッファローアンデッド、ペッカーアンデッド、トータス、サーペントはまぁ良いとして、問題は嶋さん以外のキング二枚とクイーン一枚だ。

これらはいまいち動向がつかめない。

 

いや、そもそもキングを自称するキングの方にしても元通りの動きをするかと言うと疑問が残る。

この世界の人間はバトルファイトは知らないが平和ボケができるような状況に無い。

なんなら懐に偽装された密造拳銃(最近のヤクザはこれの売上が上がりつつあるらしい)を忍ばせて脅威に備えている市民も増えている。

そんな状況でも、キングはバトルファイトが知られていない、という一点だけで愉快犯的な行動を起こすのだろうか。

 

そして、キングの動向がわからないという事は、キングというおまけに付き従う今年の大本命であるスカラベアンデッドの所在も知れない、ということだ。

すべてのアンデッドを封印する、という道を選ぶ以上、その後にうかつにアンデッドを開封する、というのも危険だ。

うっかり一枚だけ解除した結果それが優勝者扱いされてねじこんが望まない挙動をする可能性だってある。

うっかりアンデッドが解放された時、そしてアルビノの企みで殆どのアンデッドが解放された時に即座に優勝者が決まらなかった事を考えるとその危険性はそれほど高くないが、完全な無で無い以上は備えておきたい。

アルビノが出た時にでも騒ぎに乗じて細胞採取、というのもありだが……。

時間制御技術の深化は急務だ。

他のどれを逃したとしてもこのスカラベの細胞は採取しておきたい。

 

いざとなれば人海戦術で探し出す、というのは、実は難しい話ではない。

確かにキングは上級アンデッドである為に人間に擬態できる。

しかも、擬態の種類は()()()一種類であろう、というだけで、複数の人間の姿を取れる可能性を否定する材料というのも無い。

俺の記憶を頼りに人間に擬態したままのキングを探し出す、というのは徒労に終わるだろう。

しかし、キングが従えていると思われるスカラベは違う。

 

やつは栄光のカテゴリー10に属する下級アンデッドであり、下級アンデッドの中で恐らく唯一人間に擬態できるカメレオンアンデッドでもない為、常にあの姿で居なければならない。

盗撮したカリスの戦闘シーンを解析して割り出した所持ラウズカードに紛れているという事も無ければ、ラウズアブゾーバーを借りる時に確認したブレイラウザーにも入っていなかったし、ギャレンラウザーも同上だ。

封印されていない、という事は、あの姿のままこの星、この国のどこかを彷徨っているということになる。

人目のある場所、アンデッドが現れたら騒ぎになる場所を除いた、人間大の怪物が隠れることのできる場所を虱潰しに探していけば、見つける事は難しくないだろう。

その過程で、他のアンデッドに関しても順繰りに始末していくのも悪くはない。

 

が……。

それを言うなら、カリスならぬジョーカーならぬヒューマンアンデッドは俺よりももっと簡単に同じ戦法を取る事ができる筈だ。

彼は過去、そして今もまたゴルゴム及びその後継組織との繋がりを保っている。

俺もミラーワールド側で延々戦力と目を増やしているところではあるが、そもそも人類文明の根底から根を張っているゴルゴムに組織力で勝ることができるとは思っていない。

はっきり言おう。

ヒューマンアンデッドはゴルゴムの力を借りれば、こんなに戦いを長引かせる事無く狙い通りの結末へと持って行けている筈なのだ。

BOARDの作り出したライダーだの、天王寺の思惑だのすら気にする必要も無い。

ゴルゴムの怪人を幾らか貸し出して貰うだけでもあっという間にバトルファイトは終了できると見て良い。

 

やらない理由がある筈だ。

うかつにそういう真似をしない理由が。

むむむ……。

わからない。

そうだ、何故気付かなかった。

正しくそこにこそ今年最大の謎がある。

 

何故、この偽りのバトルファイトはここまで長引いているのか。

 

―――――――――――――――――――

 

などと、小難しい事を考えて座して待つのは愚か者のすることだ。

行動せずに時間を過ごすというのはそれで事態を好転させる材料が手元にある時にのみ許された選択肢であり、事態が進行中に疑問に囚われて徒に立ち止まるのは時間の無駄だ。

考えても無駄という時はまず動く。

取り敢えず手札を増やす意味で残りのアンデッドの細胞を回収していく事にする。

 

日傘を差し、街外れの屋台で購入したバナナ入り鯛焼きをかじりながら歩く。

個人的にはバナナを入れるならあんこじゃなくてチョコにしとけ、と思わないでもないが……。

屋台で買う食べ物は運試しみたいなところがあるからとやかくは言うまい。

次は大阪焼きの屋台でも探すか。

 

こうして武装せず人間態でアンデッドを探し回るのは無防備かと思われるかもしれないが、周辺には式神技術を導入した自立式センサーをバラ撒いている。

以前に作った小型ヘキサギアよりも更に小型で隠密性に優れ、なおかつ少し弄った動物の魂を封入しているので自己判断力も高い。

明らかにアンデッドと思しき外見のものが現れたり、或いは姿かたちを偽ろうとしているものが現れたりした場合はすぐに分かる。

 

その上で、俺自身の五感の方もペガサスフォームよりは少し穏やかかな、という程度に強化している為、それらのセンサーをくぐり抜けられても不意打ちには対処できる。

アンデッドは隠密性という点では糞だ。

アンデッドサーチャー及びセンサーに捉えられる程度には戦闘時に派手に各種情報をバラ撒いているし、そも鎧のごとく頑強な体表と強力な膂力を支える強靭な骨格と筋組織は人間のそれと比べて明らかに異質な音を発する。

無論街中でそういう音を拾おうと思うと無駄な音まで拾ってしまうが……。

慣れれば通常の人間と変わらない音はフィルタリングできるので、そこまで負担にはならない。

 

いや、そも街中でそんな分かりやすく活動するアンデッドなど居るか、という話になるのだが、これが実際存在するのだから仕方がない。

ダイヤのカテゴリー4、ペッカーアンデッドがそれだ。

この個体は病院近くの林……というか、ちょっと緑の多い公園をテリトリーとしてそこを通りかかる人間を襲うという大胆不敵な習性を持つアンデッドなのだ。

当然ながら、このペッカーアンデッドは常からこの林をテリトリーとして活動していた訳ではない。

この公園はそれなりに利用者が居るため、天王寺がどれだけ隠蔽工作をしたところでここで人が襲われ続ければ人づてに情報は漏れる。

恐らくこのペッカーアンデッドは、開放されたアンデッド同士の戦いに敗れ、元の住処を追われてこの人里近くにやってきたのだろう。

 

アンデッドというのも千差万別。

ギラファの様に解放直後から今回のバトルファイトに違和感を得て戦いを避けた連中も居れば、開放されると同時に喜び勇んでわーいバトルファイトだー死ねー!と周囲のアンデッドに襲いかかるものも存在する(虎)。

が、偽りのバトルファイトであり統制者の端末が休止中の今、アンデッド同士がいくら戦った所で封印される事は無い。

痛めつけ、もう通常なら封印される筈、というくらいにまで持っていき、実際に封印されるのを見届ける事無く勝者がその場を去った後、自力で回復して危機から逃れる為に元のテリトリーを諦めて新たな安寧の地を求めたのだ。

そうとでも考えない限り、一斉に開放された無数のアンデッドがサーチャーに引っ掛からずにバラバラに活動を続ける事などできるわけがない。

例えサーチャーの探知範囲が意図的にセンサー側を操作する事で狭められたとしても、だ。

下級アンデッドの多くは人間を恐れ、自らの情報を隠蔽する、という動きをしないのだから。

 

──るろろろろろろ……

 

どこか籠もった、半濁点の付いた様な唸り声。

一般的な猫の特性を利用して液状になってもらい、ペットボトルに入れて持ち運んでいるニー君の放つ警戒音だ。

ペットボトルの形に合わせて変形したニー君の視線の先に意識を向け、俺もようやく標的の位置を把握する。

どうやら俺の感覚より、よりアンデッドに近い構造を持つニー君の方がアンデッドの気配を感じやすいらしい。

アンデッドは下級であってもある程度の知性を持ち、アンデッド共通言語の他、対戦相手に対して挑発のテレパシーを送る事もある。

人間の扱うテレパスとは異なるチャンネルで行われている為に、人間派生である超能力者、アギトにはこれを認識するのが難しい。

上手くチャンネルをいじる事ができれば思考盗聴する事ですべてのアンデッドの位置を特定できるのだが……。

 

今の自分にできない事を自分以外にさせる、というのは人間に限らず集団で活動する生き物としては標準的な行為だ。

ニー君が協力してくれている間はニー君に任せれば良い。

残りもそう多くはないからな。

 

―――――――――――――――――――

 

黒いマスク、金と紫で彩られた靭やかな外皮に守られた身体を持つ不死生物、ペッカーアンデッド。

何の変哲もない下級アンデッドである彼とて、この時期にまで封印される事無く動き続けていれば嫌でも気がついていた。

このバトルファイトは常と同じものではない。

既に幾度かの戦いを経て、封印されてもおかしくないほどのダメージを負い、しかし、自らは封印される事もなく、緩やかに時間を掛けて傷を癒やし、再び動き出す事ができた。

 

ダメージを負う事も、それを癒やす事もさして珍しい話ではない。

しかし、腹部にあるアンデッドバックルが開いたが最後、アンデッドはゲームマスター、統制者、そういった呼ばれ方をするものに封印される。

それは絶対の法則だったはずだ。

 

この戦いはおかしい。

いや、これは戦いなのだろうか。

戦う必要があるのだろうか。

餌を喰らうのでもない。

死を避けるのでもない。

そして、勝者の種族に繁栄が齎される訳でもない。

 

戦っても死なず、生きるために他者を餌食にする必要もなく、どれだけ過酷な環境でも変わらない。

そして今、戦う為の理由すら無い。

アンデッドを襲って倒したとして、封印される事も無く、しばしすれば再び起き上がり動き出す。

無益だ。

無益な戦い、ではない。

自分はなんと無益なのだ。

種族に繁栄を齎すことのできない自分はなんと無益なのだ。

戦わなければならない。

勝たねばならない。

勝者としての栄光を、繁栄を手に入れなければならない。

しかし、そうする事はできない。

敵を倒す、ライバルを蹴落とす為の手段しか持たない。

 

懊悩。

或いは尋常の生物であれば、立ち止まり悩む事もできたかもしれない。

或いは生物ならずとも、上級アンデッドであれば、戦わない時間を作る、という戦術を選ばせて貰えたかもしれない。

下級と言えど、アンデッドはある種の精神集合体だ。

思考能力、という点で人間に劣るところは無い。

だが、アンデッドには須らく指向性が与えられている。

並程度にはある知性が生み出す禅めいた思考ループは、徐々に曲解され本来あるべき形へと収束する。

 

戦え!

倒せ!

殺せ!

 

勝て!

勝て!

勝て!

 

繁栄の為に!

 

誰よりも多く!

 

何よりも先に!

 

誰よりも高く!

 

懊悩は練り込まれること無く、発散する為の行動へとシフトする。

元より本能に根ざした行動に比重を置かれた下級アンデッドだ。

倒しても倒しても決着がつかない、勝利へたどり着かない。

それは、倒した数が足りないからだ。

一度倒しても意味がないのなら二度三度、十度、勝つまで勝ち続け、倒し続ければ良い!

 

ある程度の知性を持ち、理を詰めきれず、最後には闘争本能にすべてを還元される。

これまでの多くの下級アンデッドが無作為に無軌道に人々を襲いだした理由だ。

種族代表として与えられた本能に逆らう程度の力がない限り、バトルファイトという儀式に対する疑いすら持ち続ける事ができない。

いや。

より理詰めにものを考え、バトルファイトの枠組みから外れようとしたアンデッドこそ、最初から本能全開で戦うアンデッドに並び立つ程に戦いへと回帰していく。

悩む事が許されぬ下級アンデッドは、戦いから遠ざかれば遠ざかる程により強く戦いに引き寄せられていくのだ。

 

ひょう、と、ペッカーアンデッドが飛翔する。

人里離れた森深くから上級アンデッドの手により追い出され、流れ着いた大都会。

その隙間を埋めるような緑の見える公園に、一人佇む人間へ飛びかかる。

右腕の刃物、左手のナイフの様に鋭く巨大な指を、哀れな獲物を引き裂かんと振り下ろし──

 

その人間の差していた日傘の石突に喉を突かれ、勢いよく背後へと吹き飛ばされた。

日傘の石突はともすれば鋼よりも余程頑強なアンデッドの皮膚を貫き、後ろ向きに倒れ込むペッカーアンデッドの喉からは緑色の血液が溢れ出している。

なんたる強度の素材で作られた傘なのか。

だが、そんな事を考えるようなペッカーアンデッドではない。

 

或いは常のペッカーアンデッドであれば違ったかもしれない。

敵の強弱を見極める目があったかもしれない。

獲物の持つ得物の性質を吟味して戦い方を組み立てるくらいはしたかもしれない。

ペッカーアンデッドは他の下級アンデッドと比べて特別に秀でた能力があるわけではないが、手の延長線上である長大な爪で接近戦を、そして口から無数の木片と共に吹き出す竜巻で目眩ましと牽制をこなし、そしてある程度の飛翔能力を備えるバランス型だ。

更に言えばキツツキという種族それ自体が鳥類の中ではある程度の知能を備え、目的毎に複数の巣を備え、巣の中には脱出口を作り、餌を溜め込む受け皿のようなものまで作り出せる。

転じて、ペッカーアンデッドは戦いに際して入念な事前準備を重ねるタイプであった可能性もある。

 

実際にどうだったか、という点を確認する事は最早できない。

ペッカーアンデッドの脳は闘争本能で焼けつき、敵を害する行動こそを優先する。

或いは、カテゴリーの再分類などが起きて上級アンデッドに数えられるようになれば話は変わっていたのかもしれないが……。

だが、今の状態が完全に元の状態から劣化している、という訳でもない。

 

アンデッドには感情がある。

痛みに怯み、恐怖を覚える事すらあるのだ。

バトルファイトに勝利して種族に繁栄を齎すことこそが至上目的であるアンデッドが何故、と思うかもしれない。

しかし、痛みに対し怯む事で危機から反射的に身を離す事が出来、関われば死に直結する物事に恐怖を覚える事で生存の可能性が開けていく。

一見無感情に思える原始的な生物ですら生存の為に備えているのがこれら恐怖という感情なのだ。

生命の集合無意識であるアンデッドはこの感情から本来逃れる事はできない。

恐れを乗り越える為にシュルトケスナー藻の群生する沼に浸かった古代のアンデッド達がそうだったように。

 

しかし、今の、懊悩を転化した闘争本能に脳を焼かれたペッカーアンデッドは違う。

喉を突かれ、衝撃で吹き飛ばされ、今なお喉から緑の血を吹き出しながら、一瞬にして起き上がり武器を構え直して獲物、敵を見る。

その目に恐れは無い。

黒く滑る無機質な瞳には赤々と燃える敵意のみが映し出されている。

 

空から襲いかかるペッカーアンデッドを相手にカウンターを決めた人間。

いや、或いはその力からすればヒューマンアンデッドか?

或いは力をつけつつある現代人か。

ペッカーアンデッドはここに至るまでに、現代における力ある人間を幾度か目撃している。

アンデッドならぬ生物が力を持つ事は不思議なことではない。

忌まわしきリザードアンデッドの天下であった時に地上に犇めいていた恐竜などはその一例だろう。

エレファントアンデッドが勝利した時のマンモスなども含まれるか。

一万年周期の終盤ともなれば、アンデッドに対抗できる非アンデッド、というのも無い話ではなくなってくる。

それをアンデッドたちが正確に覚えておけるかどうかは別として。

 

ペッカーアンデッドは油断なく両手の刃と爪を構え直し、ノーモーションで口から竜巻を吐き出した。

木片混じりの竜巻。

木を突き木片をえぐり出し巣を作るために体内に溜め込まれた木材を武器として転用しているという訳ではない。

スカラベアンデッドの時間停止、ピーコックアンデッドの火の玉と同じく、原理不明の超能力の一種だ。

この術の理屈、起源は、あるいはペッカーアンデッドが勝者となり、キツツキが地上の支配者になった場合にのみ明かされるものなのかもしれない。

本来、本能的に息を吸い込む前動作が必要になるこの技も、闘争本能に脳を焼かれた今のペッカーアンデッドであれば瞬きをするように一瞬で打ち出す事ができる。

与えられた仮初の自我を失い、目的達成の為の装置と化したアンデッドは、種族的特徴を半ば放棄した動きを可能とするのだ。

 

なんら特殊な効果を持たず、毒が含まれている訳でもアンデッドの強固な外皮を砕ける強度があるわけでもない、ただの木片。

しかしこれが、ある程度、人間一人二人を軽々吹き飛ばせる程度の威力の竜巻と合わさる事で決して油断してはならない強烈な牽制になる。

アンデッドの全身は、当然ながら同じ強度で統一されている訳ではない。

耳、或いは目、或いは口。

体内に繋がる部位に潜り込めば少なからぬダメージになり、それを防ぐ為に一つの動作を強制させられる。

対するペッカーアンデッドはそこで立ち止まる相手を尻目に逃走してもいいし、自らが吐き出した竜巻を追いかけるように走り出して攻撃に転じても良い。

 

当然、ペッカーアンデッドは走り出した。

木片が相手の視界を、そして竜巻の風鳴りが耳を、巻き起こる風は臭気を捉える嗅覚を、外界を感知する手段を一度に断つ優秀な目くらましだ。

一歩、二歩と駆け出したペッカーアンデッドが飛翔。

自らが生み出した竜巻を追いかけ追いつき、その竜巻の中心に自らを置く事で錐揉み状に回転。

右腕の刃と左手の爪の先を合わせ、自らの飛翔能力と竜巻の回転力を上乗せし、ドリルの如く相手を貫く、文字通り捨て身の必殺技。

 

ペッカーアンデッドはこれといった特殊な知覚能力を持たない。

自らが吐き出した木片混じりの竜巻に乗るという事は、自らもまた外界の情報を遮断するも同然。

木を突く0,001秒前に瞼を閉じるキツツキの驚異的な反射能力を活かし、竜巻の中でコマを落とした断続的な視界を確保していなければ姿勢の制御すらままならないだろう。

一歩間違えれば相手に強力なカウンターを受けかねない。

 

だが、それ故にこの技の威力は驚異的だ。

直撃を許せば、カテゴリーキング、コーカサスビートルアンデッドのソリッドシールドすら貫く。

文字通り理性も知性も恐怖と共に捨て去ったからこそ生まれる起死回生の一撃だ。

 

そんなものを、ただの奇妙に頑丈な傘を持っただけの人間に放つだろうか。

アンデッドに曲がりなりにも傷をつけた事を脅威に感じているのか。

いや違う。

今のペッカーアンデッドにとって、目の前の人間もアンデッドも、等しく敵なのだ。

敵は排除しなければならない。

故に、確実に排除できる攻撃を行う。

短絡された思考は、嬲る獲物と戦う敵を区別する事は無い。

自らを除く全ては倒すべき競争相手。

故に倒し、殺す。

全力で。

 

余分を削ぎ落とされた鋭い殺意。

その切っ先が、哀れな人間を貫く。

この戦いを見る者が居たなら、いや、ペッカーアンデッドと視界を共にする観客が居たならそう思えただろう。

ドリルと化した自らの身体が相手を貫く感触が、まるで土の地面に緩やかに突き刺さるのと同じであると気づくまでは。

 

断言するなら、常のペッカーアンデッドであれば、この結果は二重の意味で訪れることは無かった。

まず、勝ちと負けを明確に意識したペッカーアンデッドはこの捨て身の技を即断即決で使う、という事はまずできない。

そして牽制である木片混じりの竜巻。

これが、相手に通用したかしないか、という確認をせずに次の行動に移るほどのうかつさも無い。

 

からくりはこうだ。

ペッカーアンデッドの放った竜巻で、対敵である人間が目くらましを喰らう、という事は無かった。

竜巻が放たれると同時に再び開かれた傘。

カリスやファイズのボディスーツと同質の金属布で形成された小間は見事に木片を受け流し、そして、次いで行われた傘の回転は、竜巻と向きを異ならせて行われる。

結果、何が起こるかは明白だろう。

ペッカーアンデッドの竜巻を打ち消すように発生した小型竜巻による、威力の減衰が発生したのだ。

 

後に残るのは自力での飛翔とそう変わらない速度にまで減速したペッカーアンデッドのみ。

回転速度ばかりが速いペッカーアンデッドは、合わせた両手の凶器の先端からわずかに外れた位置を傘の石突で巻き取られ、地面へと墜落させられたのである。

 

ペッカーアンデッドが常の状態、戦う意味にすら思いを馳せるほどの知性を宿した状態であれば、アンデッドを目の前にして欠片の恐怖心も見せない人間を相手に、初手から必殺技を放つ、などという事はありえなかった。

警戒し、牽制の竜巻を放ち、或いは一度その場を離脱して遠巻きに現在の人間社会を観察し、この時代の脅威になりうる戦士たちの戦力分析すら行ったかもしれない。

だが、今ここにある現実は一つ。

 

ペッカーアンデッドの必殺の一撃は躱され。

後には急所すべてを晒したまま地面に投げ出されたペッカーアンデッド。

そして、その身体目掛けて鋭く尖った凶器を振り下ろす、人間。

 

ペッカーアンデッドの不幸はもう一つ。

アンデッド以外の敵が、戦闘不能になったアンデッドに対して、いかなる行動を取るのか。

恐竜が倒したアンデッドをどうしていたか。

現代ではどうなるのか。

それを学ぶ事ができていなかった事だろう。

 

―――――――――――――――――――

 

良い性能だった。

ペッカーアンデッド……スネークアンデッドよりは素材として優れたものになるかもしれない。

良い拾い物だった。

 

バラバラに解体したペッカーアンデッドの遺骸を、ペットボトルに入れていたニー君、周囲に忍ばせていたニャンニャンアーミー達に任せ、遠巻きに、ビルの屋上という観客席からこちらを見ていた見物人に手を振る。

 

周辺からこちらに向けられる視線には気を使っている。

顔形は変えてあるし、着ている服も普段遣いしないもの。

そして、恐らく視線の主からはギリギリできっちり顔を判別できないように遮蔽物を間に置き続けていた。

 

脅威に感じてくれただろうか。

このバトルファイトは、偽りのものかもしれない。

戦ったとしても勝利は無いかもしれない。

しかし、戦いを避け続けて乗り切れるという事はありえない。

封印されない、死なない。

それは無敵という意味でも、安全という事でもない。

それを理解して、何らかのリアクションを起こしてくれる事を祈っている。

 

 

 

 

 

 






☆狙われる烏丸所長
素晴らしき青空の会に来ればアンデッド全封印の後にアルビノに殺される事もなくなるが……
実際に青空の会に来ればキバの方の嶋さんが居る為そうそう非人道的な目には合わない筈、表向きは
でも青空の会は人道的な組織だから定期健康診断は指定の病院で受けてもらう事になる
体脂肪率を気にする嶋さんもイクサアップデートの為に優秀な科学者はいくら居ても足りないくらいだと考えてるから仕方ないね

☆素晴らしき青空の会
現状、イクサのテスターの一人にしてイクサの後継者候補の一人にしてイクサ増産計画の主軸にしてアップデートを早めて新技術を導入してくる開発陣の一人にして行き遅れ気味だったイクサの人のいい人っぽくて黒いやり取りもできる主人公にはほぼフリーハンドを与えてしまっている
実際、素晴らしき青空の会自体には一切害がないのである意味では正しい判断ではあるんだけど

☆量産型烏丸所長(構想段階)
「「「「「「「「「「「草ァ!」」」」」」」」」」」
オリジナル烏丸所長を守護する鉄壁の烏丸イレブン
なお、11体を超えて製造されたとしても誰一人橘さんに謝る事はない
遅刻した時だけ謝る
実際、下手こかなければ実の娘にすらばれない精度で擬態できる辺り、ブレイド世界はかなりできの良い記憶読み取り装置とかがある筈

☆自分ヒロイン
ジャンルものの一種
自分もしくは自分のコピーを増やし、それを美少女化、美女化する事でヒロインとするタイプの作品の事
業の深さ、あまりにも自己完結型になるという欠点から現状ではそれほど普及していない
自分の事は嫌いだけど自分大好きというねじ曲がってるけど共感性が深い部分から発生したジャンルと思われる
検索すると割とヒットするあたりが現代人の闇

☆下級アンデッドなりに知略を尽くしたり悩みまどったりしたペッカーアンデッド
実際、逃げ続けて戦況を良くしよう、というアンデッドが出ない理由
このSSではすべてのアンデッドが統制者の亜種みたいなものなので、結果的に全員がバトルファイトをある程度の期間内に決着させる事に協力させられる、みたいな話
たぶん対下級アンデッド単品の戦いはこれがラストという事で頑張った
因みに頑張らなかった場合、逃げたりした場合は背後からやり投げの如く飛んできた傘に貫かれて墜落して捕獲された

☆猫は液体という事でペットボトルに押し込まれるニー君
ペットボトルの中にチュールを挿入しておく事で全自動で完成する特殊形態
中のちゅーるにプラ片をつけない為の合理的な判断として、ペットボトルの口部分にしばらく顔をグニグニと押し当てた後ににゅるんと入り込んでいく
後でもう一本あげるから、と言えばそのまま大人しくレーダー代わりになってくれる
なお液体化はトライアルの能力であるがこの形態がトライアル由来か猫由来か、どちらの能力かは不明
両脇に手を差し込んで持ち上げると無限に伸び続けるなどの特殊能力の応用である
ペットボトルは契約モンスターを出し入れする鏡面にも猫入れにもなるネオグロンギの標準装備なのだ

☆傘
骨組みと布をライダー達のスーツと同素材にしただけのシンプルなもの
護身具の一種として売り出そうか、と考えている
武器として扱うにはある程度の技量が必要
黒沼流の戦士ならこれ一本で一般的な平成怪人と戦う事が可能
まぁ黒沼流はほぼ全員デッキ持ってるから必要かというと……

☆ビルの屋上から戦闘を目撃していた謎の観客達
脅威にならないからスネークアンデッドではない

☆夜は猫といっしょ
言われてみれば猫って結構喋るタイプの生物だよなぁと思い出させてくれた
ニー君を始めとした猫に修正パッチがあてられます
猫は平気でコチュジャンとか言う
猫の流動表現が非常に魅力的だった
二巻はよ


一応ブレイド編の落ちは思いついた
申し訳ないけど平成一期折返しにして初の地味エンドになると思います
それでもよろしければ次回も気長にお待ち下さい

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