オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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二人で突き抜けるノンストップ!仮面ライダーSPIRITS その十三

人体工学や心理学などが軽視され、精神論が公然と振り回されて人権や自由意志をも容易くぺちゃんこになるまで叩き潰して回っていた昭和特有の悪しき因習。

もとい、古き良き人情味溢れるキレイな部分だけ覚えて都合の悪い部分を忘却の彼方に追いやったという意味でセピア色の時代の風俗の一つに、特訓、という文化がある。

頑張れば頑張るだけ、つらい思いをすればつらい思いをするだけ、それが実となり報われる、という、精神的逃避行動の一種だ。

スタミナを上げようと思ったら水を飲まずに延々走る、足腰を鍛えるなら各部関節への負担は考慮せずうさぎ跳び。

倒れたら根性が足りない、故障したら自己管理が成っていない。

 

とにもかくにも、強くなりたければ辛い思いをしなければならない。

辛い思いをすればそれだけどこかで報われる。

これは結局、今の辛い思いはどこかで報われるのだ、と、そう思いたい人々の作り上げた幻想だ。

言ってしまえば正しい行いを続けていれば死後報われる系の教えを広めている宗教の類もこの系譜になる。

生きている内に報われる事が難しい文化圏であればそれは鎮痛剤の様に必要不可欠な教えなのかもしれない。

麻薬の様に人々のあらゆる感覚を鈍らせて奴隷として扱う事ができる為、為政者にとってみても有用である場合も多い。

そういう意味で言えば、根性論というのは麻薬のようでもある。

 

しかし一方で、根性論の中に、特訓という文化の中に、確かに報われる為のヒントはあった。

古い時代の錬金術が、魔術が、その中に科学や化学という未知の闇を照らす為の光を内包していた様に。

負荷をかける事で成長する、というのは、ある一面では決して間違いではない。

筋肉を鍛える為には適度な負荷が必要になる。

適度な負荷。

これに非常に個人差があるために、根性論というのは人類史では結構な期間正しいものとして扱われてしまったりする。

過度なトレーニングで成長し成功した人間、逆に身体を壊してしまう人間。

これを努力の足りている、根性の足りている人間と、根性の無い人間に分けるのが根性論。

 

実際、この選り分け方は人道に反するという点、非常に多くを取りこぼしてしまうという点を無視すればある程度の成果を上げる事ができる。

元からある程度の肉体的素質がある、或いは鍛え方、手の抜き方を知っているという意味での賢さがある、そういう人間が生き残るからだ。

が、これは実質的に見れば指導ではなく、くじ引きのようなものだ。

そもそもの母数が多ければこれでもそれなりの成功例が発生するので、指導する側がまるで優秀だったように思われる。

結果として、指導される側を潰しながら素質のあるものだけを残す様な非道な指導をする人材が生き残り、実績を残す事で権威を得て、やがて誰もその指導法の致命的な欠陥に対して指摘する事すらできなくなる。

 

恐らく、この文化が普通だった時代、取りこぼされた人材は数え切れない程に存在する。

適切な指導を行えば緩やかにも確実に実力を付けていけた、という人間は多く居る筈だ。

当然、それらの人間を全て再評価する事はできないし、再評価した所で何かが救われる、という訳でもない。

秘めていたポテンシャルを秘めたままその生涯に幕を閉じた人間は無数に居るだろう。

彼等のその後の人生に救いがあったかどうかもわからない。

必ずしも持ち得る才能を発揮する事だけが幸せに繋がるとは限らないからだ。

 

だが。

失意の内に死んでしまった人間も居ただろう。

行き過ぎた根性論で肉体的限界を超えて命を落とすこともしばしばあった筈だ。

それが当時はさしたる問題にならなかった、というだけの話で。

情報発信の方法が限られた時代、都合の悪い出来事を闇に葬るのは難しい話ではない。

人間の強化、成長の仕組みを知らないという無知は確かな罪として存在していたのだ。

 

あえて言おう。

人命は尊いものだ。

人の命は地球の未来だ。

一つの命を救うのは、いわば無限の未来を救う事に繋がる。

それだけ、人間という存在のポテンシャルは高い。

その知能は、力は、多くの未来に繋がっているのだ。

 

鮟鱇には捨てるところがない、と言われている。

吊るし切りなどを見ればわかると思うが、食べる部位を切り落とすだけでも残りの部分は殆ど無い。

嘘だと疑うなら、一度適当な地域に行ってどぶ汁でも食べてくると良い。

運が良ければ吊るし切りを目の前で見ることもできる筈だ。

残された鮟鱇の残骸は猫すら跨いで通る程だろう。

個人的には鮟鱇の身の唐揚げとかも食べて欲しい。

 

鯨にも捨てるところがない、と言われている。

肉や軟骨は食用に、鯨ひげや歯は加工されて細工物に、皮は膠や油に、筋は弓弦、骨は肥料や鯨油に、血は薬に、脂肪も鯨油、挙句の果てに糞便すら香料にする始末。

鯨一頭を捕獲するのは、宝船を手に入れる様なものだ。

 

人間もまたそれに並ぶほどに捨てる所がない。

使い道は多くあり、そのどの道でも優秀な素材である。

強い意思を備える魂ならば新たな肉体にも適合しよう。

魂が無くとも脳があれば自意識を形成し一つの人格として活動する事が可能。

脳は必ずしも人間やその派生の肉体制御にしか使えないという訳でなく、生体CPUとしての流用方法だって存在する。

残された肉体は適切な保存を行えば他者の予備パーツとしても使用可能だ。

なんとなれば貴重な内臓や神経系は改造人間のパーツにも使えるし、血肉すら改造形態によっては改造後の肉体に流用できる。

JUDOなどは龍の燃料としか考えていないようだが、そもそもの話、この世界の人間がこの形態を取っていなかった場合、JUDOは脱出の為に自らの肉体のコピーを作り上げるのも困難だったろう。

 

元の世界の神の写し身、神を模した人形、やがて神にも到れる人類は言うに及ばず、この世界の猿起源人類もまた、優れたポテンシャルを備える。

規模としてはナチの残党に毛が生えた程度のショッカーですら、初期型のプロトタイプ、仮面ライダーの同型に到れる人材を片手の指では数えられない程度には発見し、施術する事ができた。

そも、ゼクロスの適合者である村雨良の発見もまた恐ろしく早い。

村雨良という適合者が現れるまでに何十万何千万何億と犠牲になった。

たったそれだけの人類の中から、ゼクロスの肉体に適合できる人材を発見する事ができたのは奇跡でもなんでもない。

或いは、全人類を実験に使えば適合者は数十人にも登るかもしれないのだ。

これは正しく改造人間にされるべくして成長した生物と行っても過言ではないだろう。

 

無論、それは改造を前提としたポテンシャルであり、未改造、未修行の人間は酷く貧弱だ。

一条さんの様に、なんだお前、となるような人材も居るには居るが、あれはあれで警察としてのトレーニングと任務の果てに産まれた突然変異の様なものなので気にしてはいけない。

同じトレーニング量でも出る結果が異なるなんていうのはありふれた話だ。

だが、そういう規格外品が結果を残すことで評価され、遺伝子を残す機会が増えれば、人類の平均値は徐々に上がっていく。

 

既に、人類はある程度の領域に至っている。

数億の人間をこねくり回せば、宇宙を旅する改造人間になれる個体が一人見つかる程度には。

そして、優れた素質を持つ人間を強化改造する事で更に優れた存在に作り変える事にも成功している。

それは生物としての強化でも進化でもない。

或いは生物として本来備わる機能を切り落とした上で成立するいびつなものだ。

だが、人類は星の重力から解き放たれ、宇宙に向かう事が可能なまでに発展した。

少なくとも俺は、この時代の人間を見て、やれ、『人類は自然から離れる事で弱くなった』だの、『文明は人類を堕落させた』だのと、文明的な衣類を着て移動に工学の結晶である車を利用して言語という独自の技術で意思伝達を行って主張する様な輩とは違う。

人類は進歩し続けているのだ。

 

原始人は科学を持たずに自然に寄り添って生きていたから、核兵器などで自らを滅ぼすような真似をしない、というのは、赤子は誰に危害を加える事も無いから人類は根本的に害のない善なる存在というくらいの暴論でしかない。

知識を持たない原人は例えば目の前に核兵器の発射ボタンがあったとして、それが危険物だから触らない、という選択肢すら持たない。

よくわからん出っ張りがある、程度にしかわからないものを、優れていると呼ぶべきではない。

 

そういう意味で。

沖一也は、或いは村雨良はこの時代この世界の人類の最先端に、或いは最尖端に存在する個体だ。

人類の中でトップクラスに優れた資質を持ち、それに相応しい肉体を手に入れた。

俺は寡聞にしてゼクロスの物理的構造を把握できるだけの知識や知見を持っていないが、基礎設計部分は同じと思われるロボットスーパー1を手に入れ、そして……。

 

「美しい」

 

チェックマシンに内蔵されているメンテナンス用のデータ、そして、村雨邸の緑川ルリ子女史に届けられる途中のスーパー1の設計データ。

これらを合わせて見る事で宇宙開発用改造人間の構造の全てが揃った。

この時代における最尖端にして最先端の機械の体。

定期的なメンテナンスが無ければ満足に稼働することもできない、なんていうのは謙遜も良いところだ。

これの完成形はそもそも、単独での作戦行動を前提としたものではない。

無数のS-1、或いはその普及型。

これらによる相互補完が完成すれば、宇宙は、少なくとも月程度であれば瞬く間に人類の生活圏へと変貌するだろう。

地上での活動をメインとした基礎的な人体改造技術の結晶である1号から始まり、同型二号、多機能オプションを搭載した統合型或いは量産型であるショッカーライダーの指揮官型であったかもしれないV3、極限環境下での作業を行うX、呪術や生体改造型であるアマゾンを経由し、特定のエネルギーを高効率で運用するストロンガー、重力を操り重力圏内での飛行を可能とするスカイ、そして、宇宙に至るスーパー1。

全ての技術がひと繋ぎであるはずも無い。

順番で言えばアマゾンなどは1号よりも早い段階で設計というか作り方は存在していただろうし、Xは組織と関係ない民生品、スーパー1は仮にも公的機関が作り上げたものだ。

だが、こうして仮面ライダーとして発生した順番は見事に完成形であるゼクロスへと至る為の手順を踏んでいる。

 

ただの機械人形ではない。

いや、高度な改造人間としては神経を人工神経に置き換えたロボットスーパー1式の方が間違いなく安定しているのだろうが。

改造される側が神経の移植を望む事で不完全性を得る事すら最初から予定に組み込まれていたのだろう。

改造された人間部分の努力によってその不安定性を克服する、という過程に改造人間としての妙が生まれる。

古い技術で作られたものが単純な型落ちになるのではなく、或いは追加改造を経る事すら無く、人間部分の技術の蓄積により強く成り続ける。

努力を積み重ねる事で強くなることができる。

正に改造()()

人類の先にある可能性の一つ!

 

JUDOは牢獄からの脱出の為に人類にこの技術を磨かせたのだろうが、これは希望だ。

人類の進むべき道すら示している。

人類の可能性を残しながら、端的に脆弱な部分のみを補強する。

いいとこ取りというものだ。

 

だが。

その肉体への理解が足りていないのは悲しい話だ。

 

仮面ライダーは、改造人間は、確かに人間だ。

人間の延長線上にあるものだ。

人とは異なる怪物ではない。

 

しかし。

()()()()()()()()()()()

生身の人間の持つ弱さを、機械に置き換えることで端的に補強した存在だからだ。

怪物ではないが、間違いなく常人ではない。

 

この、どちらをも彼等は……いや、今の彼は理解し直さなければならない。

その無理解は昔からなのか?

それともバダンシンドロームのせい?

懐かしき赤心寺と、人であった頃の馴染みと再会したからか?

理由はこの際どうでも良い。

日が暮れて、夜になれば戦いが始まる。

悠長にリハビリをしている暇は無いのだから。

 

宇宙開発最前線、人類最先端。

その肩書に相応しい負荷を。

 

―――――――――――――――――――

 

道着に着替え、滝に向かって拳を振るう沖一也。

肉体的不備が未だ完治していないにも関わらずその拳は鋭く、蹴り足は滝を見事に切り裂く。

が……。

滝に打たれながら膝を、跪く様に手をつく。

荒い呼吸が滝音にかき消され、数呼吸も置かずに整う。

変身不能の原因はバダンシンドローム。

しかし、それを克服できる兆しは見えない。

それでも、沖一也は克服しなければならない。

ここに至るまでに、友を、師を犠牲にして歩んできた道のりを無駄にはしない為に。

 

そう、決意と共に立ち上がり、違和感から上を見上げる。

流れる水と共に落ちてきたのは、巨大な丸太だ。

 

「なにっ!」

 

咄嗟に、滝の中を落ちてきた丸太を梅花の型で受け流す。

いや、受け流そうとする。

受け流す直前に、落ちてきた丸太が勢いよく加速した為に、一也はその身体に強かに丸太を打ち付けられ、滝壺へと落ちていく。

荒れ狂うような流れの滝壺から、辛うじて浮かび上がる一也。

 

「おーきーさんっ」

 

目にしたものは、落ちてきた丸太の上に腕組みで立つ、ブラックイクサ。

良く見れば、その装いは最初に見たものとも市街で黒沼流と並び立っていたトレンチコートとも異なる。

首から上は見慣れたブラックイクサのマスクだが、首から下は身体に張り付くレザースーツかなにかの上に、一也と同じ様な道着を身に纏っていた。

 

滝行(水遊び)なんてしてないで、リハビリ(特訓)しましょ」

 

組んでいた腕を解き、だらりと下ろした両腕は手刀に。

その手刀を、まるで刃物そのものをかち合わせる様に互い違いに滑らせる。

ぎゃりん、ぎゃりん、と、金属をこすり合わせる様な音と共に、イクサの両腕が稲妻を纏う。

 

「エレクトロぉ……」

 

纏う、という表現が大人しすぎると感じる程の激しい放電。

荒れ狂う雷槌が、イクサの立つ丸太を打ち砕きながら、滝壺の水面に叩きつけられた。

 

(不味い!)

 

一也が水中を蹴り、トビウオの様に滝壺から飛び出す。

目の前に足裏。

押される様な蹴りというには勢いがあり、一也の身体は川べりまで吹き飛ばされる。

受け身を取る一也の目の前で、イクサがゆっくりと水面を歩き近寄ってくる。

油断なく構える一也。

 

「何のつもりだ」

 

「ん……ふふふ」

 

イクサが構える。

鏡合わせの様に、一也と同じ。

赤心少林拳の拳士にとっての基本的な構えだ。

玄海流、黒沼流共通の基本姿勢。

 

「つまみぐい♡」

 

イクサの構えが崩れる。

いや、構えを崩した、と、そう誤認する程に自然な攻めへの移行。

ゆる、と、目に見える速度で放たれるのは抜き手。

赤心少林拳どころか、一般的な空手にもあるような基本の動き。

生身の人間でも捉えきれる程度の速度のそれが、しかし、怖気を振るう様な攻撃的意思を伴って、分かりやすく一也の首を突きに、いや、刎ねに進む。

一也はそれを、まるで最初から手順の決まった演舞の如く受け流す。

 

イクサの当てるようなローキック。

一也もまたローで迎撃。

手技を交えながら、執拗なロー。

最初の丸太、そして改造人間としての機能らしきものまで交えた一撃からは考えられない程に緩やかな、まるで門下生や後輩に手本として見せるような、組み手と誤認する様な……。

ふと、足を止めての打ち合いの中、一也が反射的に背後に飛ぶ。

同じくローで受け流していたロー。

先までと変わらないはずのそれが、地面に細く鋭い穴を穿っている。

 

見れば、レザースーツにも見えるその身体、足元は靴ではなく生身の人間のそれと同じく指がある。

爪先、足の指の一本に気を集中しての刺突だ。

当然無策でローで受ければ、交差する足に容赦なく穴が空いていただろう。

 

どういうつもりだ、と、問うことができる段階ではない。

既に問いかけを投げることが出来ない程に、攻防の密度が上がっている。

緩やかなテンポアップであるが故に気付く事が出来なかったが、既に生身の人間では追従が難しい程にイクサの攻めも一也の受けも、一也の反撃もイクサの迎撃も加速している。

目にも留まらぬ攻防。

 

気付けば、一也の型は使い慣れたそれに、玄海流奥義梅花の型に。

絶対の守りでもってイクサの攻めを受け流している。

いや、受け流そうとしている。

 

「くっ……!」

 

イクサの手刀と刺突、或いは拳打を受け流す一也の腕は、殺しきれぬ衝撃に痺れ、無数の切り傷からは人工血液が薄っすらと流れつつある。

花を包み込むが如き受け、弾きの極意である筈が、捌ききれていない。

強い精神力と、ドグマ、ジンドグマとの戦いの中で産まれた精神的な抗体。

それをなお乗り越えて発症したバダンシンドロームは、確かに一也の精神を蝕み、戦いに際する覚悟の様なものを崩していた。

 

「今の自分では、と、そう思っていますね」

 

ざん、と、一際鋭い手刀が一也の拳を切り裂く。

人工筋肉が深々と裂け、特殊金属製の人工骨格が顕になる。

人ならざる肉体が曝け出され、辛うじて改造人間特有の強固な人工骨格を半ばまで切り裂かれながらも盾にして防ぎ、衝撃を背後に飛ばされる事で消費した所で、ピタリとイクサの攻めが止まる。

一也の拳を切り裂いた刺突、その指先でむき出しになった人工骨格を指差しながら。

 

「曲がりなりにも受け流せていたのは、貴方の肉体が常人のそれではないからですよ。特殊素材の人工筋肉と骨格で受ければそれだけで十分な耐久力になる。今のそれは奥義というには稚拙極まる、ただの受け、いや、受け損ないに過ぎない」

 

「何が言いたい」

 

「人間態部分の稼働に問題ない損傷程度で()()()()()()()()()()()()()()()()、と、そう言っています」

 

ざわ、と、一也が総毛立つ。

怒りから、或いは……図星を突かれたからだ。

 

沖一也は経験していないが、この時代の仮面ライダーの因習に、先輩ライダーによる特訓というものが存在する。

そうでなくとも、おやっさんと呼ばれる歴代ライダーの相談役による特訓ですらおおよそ人道に反する様な苛烈なものだが、ライダー達による特訓はその比ではない。

あるライダーなどは先輩ライダーによる必殺技をすべて受けるという、一種の集団リンチの様な形の特訓を受けた程だ。

だが、これは決して無茶な特訓ではない。

何故ならば、仮面ライダーは()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

彼等が自らを鍛える為には、やはり人間と同じく適度な負荷が必要となる。

しかし、改造人間は人間を遥かに上回る身体能力を備える。

そんな彼等にとって、人間に適したトレーニング、というのは何の負担にもならない。

或いはそれが最先端技術で改造された新型の改造人間であればあるほど、負荷を与える難易度は高まっていく。

 

ウエイトトレーニングをするのにどれほどの規模のウエイトが必要になる?

ランニングをするのにはどれほどの速度でどれほどの長距離をどれほど長時間走る必要がある?

スクワットや腕立てなどの動作で鍛えるならどれだけの時間どれだけの回数こなさなければならない?

改造人間が、限られた時間で自らを鍛えようとした場合、それに相応しい負荷を与えるのにかかる労力は果てしないものとなる。

一見して陰湿かつ死亡を前提とした様な私刑の一種にしか見えないライダー間の特訓は、彼等が自らを鍛えるのに苦心した結果生み出された最適なトレーニング法なのだ。

 

まして、ある種の格闘家がする様な滝に打たれながらの素振りなどというものは、改造人間にとって変身前ですらストレッチの一種にカウントする事ができるかすら怪しい。

それでもなお、それを行っていたのは、再修行の為か、人間の頃の慣習を思い出していたからか、迷いを振り払う為か、或いは……。

効果のない修行で時間を潰し、無意識に戦いから遠ざかり続ける為か?

無論、一也の意識にその様な甘えは無い。

無い、と、自分自身ではそう思っている。

実際に、無為な滝行が何を意味していたのか、本当のところは一也の自覚できる範囲では思い当たらない。

バダンシンドロームにより心乱れた一也は自らの本心すら見つける事ができずに居る。

()()()()()()()()()

 

溜息。

イクサの視線が、一也から外れる。

 

「どうすれば再修行を真面目にやって貰えるか、って、考えたんですけど」

 

視線の先には、修行場所を提供してくれた赤心寺。

掲げたイクサの片腕が、白く視覚化される程に禍々しく毒々しい気を纏い、弧を描く軌道で振るわれる。

 

「──っ!!?」

 

赤心少林拳の定める気は、あくまでも人体の作用を調整するようなもので、人体の外で物理現象として現れる様な事は無い。

だからこそ、だろうか、自らの横を抜けて通り過ぎていくそれが如何なる作用を齎すものか、という考えに至るまでに僅かな時を要した。

煙の塊の様なそれが野球ボールの様な気軽な軌道で赤心寺めがけ突き進み……。

 

「や、やめろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

轟音、閃光。

煙の中からぱらぱらと、二人が対峙する川べりに、粉々になった木片が降り注ぐ。

イクサの放った、気弾、とも呼べるだろうそれは、赤心寺のすぐ隣、鬱蒼と茂る山林の一部を消し飛ばすに留まっていた。

 

青ざめる一也が、イクサに視線を戻す。

赤心寺に視線を向けていたイクサは、一也の顔に再び視線を向け直していた。

依然として、その素顔は仮面に隠されて見えないが……。

震えている。

くつくつと、抑え込む様な、ひきつけの様な声が響き、

 

「ふ、ふふっ……はははは……あは!あははははははははははは!」

 

遂には、堪えきれないとばかりに、明確な哄笑と化した。

身体をくの字に折り、そこから仰け反り、悪戯が成功した、と言わんばかりに、笑う。

 

「あはっ、あははははっ! どうしました沖さん! ははっ、驚いて貰えましたか? あははははは!」

 

怒りや戸惑いどころか、呆れる程に、無邪気な笑い声だった。

どこか自分たちと比べて幼さすら感じた声の通りの、まるきり子供そのものの笑い声。

それでいて、酷く傲慢で、酷く陰鬱な気配を持つ笑い声。

仮面の、恐らくは目に当たる部分は、最早笑いすぎて引きつった口に見える。

釣り上がり、口が裂けんばかりの、亀裂の笑み。

亀裂の笑みを湛える仮面は、首を傾げながら、告げた。

 

「次は……当てるぞ?」

 

その言葉を引き金に、沖一也の中の()()が弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

「おっ、見ろよ見ろよ。チェックマシンがちょこっとだけ反応したぞ。作戦成功だぁ」

 

持ち込んだPCをチェックマシンに無理矢理接続しデータを取りながら、事の成り行きを山林の木々に偽装した監視システムを利用して見守っていたグジルがレッドイクサの仮面の下で笑う。

持ち込まれたモニタには、一秒にも満たない変身でブラックイクサに梅花二段蹴りを叩き込む寸前にまで行きながら、寸前で意識を失い不発に終わった沖一也。

そして、それを何事も無かったかの様に肩に担いで振り返り、本物の赤心寺のある方に歩き出すブラックイクサの姿が。

 

「荒療治が過ぎないか?」

 

苦虫を噛み潰した様な表情で苦言を呈する敬介。

 

「君らは、いつもこんな事を?」

 

今にも暴れだしてレッドイクサに殴り掛からんとするハルミを抑え込んでいる洋が問う。

 

「厳しい修行にはモチベーションが必要だかんね、うちらの流派は復讐目的で入ってくる連中も多いし、そこを刺激して限界を超えてもらうってのはもうマニュアル化されてんだわ、これがな」

 

「だが、やりすぎだ」

 

虚像投影装置を普段遣いしているから、というだけの理由で、赤心寺に森の、滝を挟んで反対側の森に赤心寺の立体映像を投影する為の大規模装置の操作を任され、言わば先輩を騙すという悪質なドッキリの片棒を担がされた村雨良がむすっ、とした顔で抗議する。

その抗議に対し、どこ吹く風、と言わんばかりにレッドイクサはちっちっち、と立てた人差し指を振って、わかってないな、と前置きして答えた。

 

「優れた資質の持ち主には、優れた負荷が必要、ってね。これでコツは掴んだんだ。後は、必要な技術を叩き込むだけさ」

 

交路が直接桜花を物理的に教えるんじゃ、たぶん駄目なんだろうな、と、内心で相棒の奇妙な、それ故に酷く人間臭い拘りに思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 





途中までは、主人公が何らかの形で挑発して、それに沖一也が反応して攻撃してきたところにアレンジ桜花で反撃、これはまさか桜花の型?ってなった後に、どうにか義経師範のところに水遊びを早めに切り上げて向かってもらう、という形にしようと思っていたんですが
心の中の法の言葉が意思してしまって存分に悪役ムーブをさせてしまった……

☆正義の味方がくよくよしてたらとりあえず怒らせて精神的爆発力を発揮させるとなんとかなると思ってるふしがあるアクガタでは復讐者系の弟子に同じ様な事を繰り返したせいで逆に復讐心を制御できるようにさせてしまった実績が産まれたノリノリの悪役ムーブを楽しむ首から上だけイクサメットを付け続ける事で異世界にイクサの悪評をばら撒き続ける男
因みに青森市街でのロボット刑事コスの時も首から上ハンチング帽から下はイクサメットのままだった
ロボット刑事の格好で顔だけイクサ、みたいな……
バーザムに腰を付けたがる首から上だけGP01の不審者みたいなもんですよ
でも実際届いてみると腰つきバーザムかっこいいんだよなこれが……
復讐者が強さを求め続けるには復讐心を確固たるものにしないといけないし、ライダーの能力を引き出すなら精神的ウィークポイントを叩いて怒らせるのが早い
関係性が悪化するかもという懸念は平成二号ライダー特有の、バチボコに殴り合った後になんか含蓄深い事を言って自分の行為が相手にとって残酷でも必要だった、みたいなわかったような事を言っておけばどうにかなる戦法で煙に巻く
恐らく昭和ライダーの中での評価は人気ジェットコースター並に乱高下している
そのうち、アクガタの拳士A視点、みたいな形でアクガタ総帥としてどう見られているか、みたいな話を本編の一部で書きたい

☆悪事の片棒を担がされた事には不満はあれど、精神的に参っているライダーを復帰させるのにはこういうやり方もあるという事を学んでしまった事実は揺るがないムラサメ
元は純朴な陽キャ大学生だった為に戦いの機微というか戦いの中で心がくじけた人への対処法を知らない為にまっさらなキャンパスだった
そこに水の代わりにスプラでトゥーンな絵の具が使われた嵐の様な連中がやってきたものだからさぁ大変
このムラサメが一時的にとはいえバダンの新総帥として迎えられる未来があるとかマジ?

☆滝壺に丸太ごと落とされた時に三半規管を狂わされ、精神的にバダンシンドロームで不安定になっていたばかりに滝を軸にした赤心寺の方向がまるきり変わっている事に気付け無いほど追い詰められていた宇宙拳法家
赤心少林拳の拳士で科学の使徒だから本来はまやかしは効かないんだけど、バダンシンドロームが悪いよバダンシンドロームがー
かつての友と暮らした寺とそこに住まう幼馴染とそこに逗留する今のサポーターの為にいざ変身
熱い情熱を冷静な頭で捌いてキレイな手で形にするのが理想の戦士なんだけど、まぁ昭和の男なのでいざとなったら激情一本なのだ
壊れた機械はとりあえず殴って治らないか試すのが昭和なので殴られたという面があるのは言うまでもない

☆主人公迫真の悪役ムーブを見て疑惑を深めるも実際効果が出てしまい戸惑うXとスカイ
もうどう評価していいかさっぱりわからん
今後の振る舞いに期待
ところでうちらの流派って?

☆ハゲの物理的改造が終わったので主人公に蘇生を頼みに無許可侵入すると共に主人公のスーパー1復帰プログラムの監視とデータ取りを任された小間使の様なグジル
ン特有とかテオス由来の力でない純粋技術面は大体主人公から教わって習得しているのである種の改造手術も行える
分業ができるのは強い
でも一番の強みは主人公と普段から一緒に台所とかに立っているから自然と息が合うところ
どういう方面の強さかは知らないが自然すぎてヒロインになれているかよくわからない子からは偶にしか警戒されない
もし黒沼流の拳士に見咎められても黒沼流で死なない程度にぶちのめせばそれが通行証だよね、という最初期の刷り込みが残っている
倫理観がグロンギとリントと主人公仕込の偏見のパッチワークというかフルクロス
実質ファントム(ゴースト)
ファントムでゴーストなのにライダー関係ないとか多重クロスかな
多重クロスだったわ……

☆ハゲリペアⅠ
どういう改造になったか、どの形式の改造になったか
次回に出るかなぁ……
色々肉体をいじられたが頭部装甲はフルスキンのまま
個性だよ

☆唯一何も知らされていない義経師範
次回は再び情け容赦無い解説の餌食になる
いくら身体を鍛えて鉄面皮で心を隠してもメタ情報と長年義経師範を見守っていた未来兄弟子達から得た情報を元に行われたプロファイリングには叶わなんだ……
元の世界ではとばっちりで義経師範の情報を般若湯で漏らしてしまった兄弟子達がロボタフの残骸と共に宙を舞っている

☆謎の周辺森林に紛れた監視装置と大規模立体投影装置
アギトの力養殖による魂魄入りヘキサギアの増産、式神術やディスクアニマル技術、トライアルシリーズ派生のアニマルソルジャーの普及により元の世界では補助的に残された一部を除きほぼ完全に撤去された筈の施設
元の世界で破棄された設備が何故……?

☆ゲッターロボアーク
ゲッターの実質ケン・イシカワの最終作である筈なのになんだか説明が丁寧かつキャラに愛嬌があってゲッター初心者にも進めやすい
まさかリボルテックゲッターアークが高騰する時代が来るとはなぁ……買っといて良かった、売らないけど
チーム全員強面なのになんだか見ていて微笑ましくなるのは、視聴者の視点がどこか仲間に取り残された隼人の視線と被さっているからなのだろうか
そりゃゲッター乗れて脳みその出来が良くて人材を見つけるのも上手いなんて人間はゲッター線だって地球に残して普及に使うわなって
バトルショートカッターはなんだかブルー1の腕のビラビラとかぶるところがあってその内スパロボで共演して胃を破壊してもらいたいところ

マジェスティックプリンスを改めて見直したんですよ
最高だった……そうとしか言えない
何度見ても飽きない楽しさがある
このシナリオがスパロボで他とクロスしてどうなるかってのが今から楽しみでならないんですよ
漫画版の方ってどうだったんすかねアレ、結構カラー違う作風だったようですけども
それはそうと10月まであれば参戦作品全部見るとは言わんでも見直したい参戦作品見直すのも十分間に合うでしょうしね
覇界王参戦で雌メカ増えるからピクシブのロボエロタグも賑わうでしょうしそっちも見逃せません
まぁ気がつけば7月も過ぎ去っていくから10月なんてそう遠くないから油断できないんですが
スパロボ発売されたら更新速度落ちるかもだけど、恐らくそれまでにはこの外伝は一段落で響鬼編に入ると思うので、そういう気まぐれな更新でも宜しければ次回も気軽に感想など残していただきつつ気長にお待ち下さい

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