オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり
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17 儘ならない日常

水気のある音と共に、灰の濃淡で斑点が浮かんだ腕が飛ぶ。

断面から漏れるのは血か、灰か。

だが、中に何が詰まっていたとしてそれが表に出る事はないだろう。

切り落とされた腕は宙を飛び、地に落ちるよりも早く炎となって消え失せた。

 

腕を切り落とされ、始めてジャガーロードは目の前、懐まで踏み込んでいる黒いアギトに気がついた。

ほんの一瞬前まで十数メートル離れた位置に居た相手が、瞬きの間に懐で腕を振り抜いている。

腕を切り落としたのは黒いアギトの肘に伸びる、刃の如く鋭利な装甲。

それに気付いたのは、懐に入ったアギトが、自らの備える凶器を見せつける様にゆっくりと動いているからだろう。

緩慢と言っていい動作。

 

豹の原種、モデルとも言えるジャガーロードが攻めずに一歩引いたのは、その持ち前の生存本能からだろう。

或いは遥かな古代において、人類を相手に行われた蹂躙とも呼べる戦争での記憶、ネフィリムから得た恐怖からか。

 

一歩を引く。

その脚が空を切る。

一瞬前まであったはずの足場が消失し、バランスを崩す。

黒いアギトの持つモーフィングパワーがジャガーロードの後ろの地面を陥没させていたのだ。

バランスが崩れたのは一瞬。

引いていない脚で即座に跳躍し姿勢を直すのは難しい事ではない。

だが、この黒いアギトの前で、その動きは悪手に過ぎる。

 

ひょう、と、ジャガーロードが宙を舞う。

バク宙気味の跳躍。

追うように黒いアギトが踏み出す。

一歩、二歩、三歩。

跳ぶジャガーロードの下に潜る様な、しゃがみ込む様な踏み込み。

オルタリングから柄が伸びる。

七千度、いや、或いはそれを遥かに上回る熱を内包しうる刀身が、未知の金属の冷たさを残したまま引き抜かれ──振り上げられた。

 

ジャガーロードが着地する。

赤い剣を振り上げたまま動かない黒いアギトに、仕切り直しと言わんばかりに全身の捻りを加えて拳を打ち込まんとするその身体が、

 

ぴつ、と、

 

左右に割れる。

或いは、そのまま動かずにいたのなら、繋がったのかもしれない。

しかしそれは、この場この時において、左右に割れた驚愕の表情を晒しながら炎と化したジャガーロードにおいては、関係のない話だ。

 

ぼう、と、間の抜けた燃焼音。

 

爆発すら無く、炎に投げ込まれた薄紙の如く、灰のジャガーロードは消滅した。

 

―――――――――――――――――――

 

脆い(・・)

先の、公園の端であのギルスが嬲られているのを観戦していた三匹も似たようなものだったが、武器が無い分だけ余計にそう感じてしまう。

というか、頑丈な肉体があるわけでもなく、ジャガーロードの中で一匹だけ武器を持たずに戦わされている辺り、あのグループ内部で陰湿な何かが行われていた可能性もあるかもしれない。

そんな想像ができてしまう程度には、手応えのない勝利だった。

 

「ふん」

 

軽くフレイムセイバーを振り、刀身に僅かに残った灰を払い、消滅させる。

少なくとも、あれらの身体がオルフェノクのそれと同一である、という事だけは確かな気がする。

刃の通る感触が似ている。

俺もそれほど多くの種族を斬った訳ではないけれど、少なくとも、グロンギ、魔化魍、童子に姫、オルフェノクのどれに近い感触かと言われると、オルフェノクのそれに似ている。

実はマラークとオルフェノクの肉体構造が似通っている可能性も無いではないが、少なくとも、ここのジャガーロード達が通常のロード達と異なる存在である事は間違いない。

知識の中の通り、死亡時に爆発しないから、というのもあるが……。

不思議な感覚だ。

少なくとも、俺は一度たりとも直接マラーク達と接触した事はない筈なのだが。

こいつらの本来の状態を知っている気がする。

 

「さて」

 

問題の、話を聞けそうな相手、だが。

ちょっと遠くに背中が見える。

どのタイミングで逃げ始めたか、と言えば、あの身体に慣れきっていない事を鑑みても遅い足取りから考えて、俺がジャガーロードの腕を切り飛ばした前後から。

言ってしまえば俺が出てきた直後に脇目もふらずに逃げ出した、という事になる。

 

難しい話だ。

あいにくと、俺は生き物を生け捕る為の知識はそれほど持ち合わせていない。

一応基礎知識として野山の獣を捕らえる為のトラップくらいは作れるが、人型の相手をあまり怪我をさせずに捕らえる手段はあまり思いつかない。

戦うからには勝ちを目指し、勝ったからには相手を殺すのは当然だからだ。

戦った上で死んでいない魔化魍などもいるが、あれは単純に清めの音で倒さないと即時復活する特殊な生き物なのでカウントできない。

 

無理矢理捕まえるのは簡単だと思う。

走れば俺の方が早く、更に俺は近くにマシントルネイダーを待たせてある。

更に腕力も俺の方が上。

捕まえれば振りほどかれる心配はないだろう。

体術も、恐らくは俺が勝っていると見ていい。

少しだけさっきの闘いを見たが、荒事を経験した事の有る人間の動きではなかった。

はっきり言えば素人。

追えばあっさり追いつき、組み伏せて無理矢理話を聞かせるのも難しくはない。

相手の精神状態を無視すれば、の話になるが。

 

自慢には決してならないのだが、俺の変身後、未確認生命体二十二号は、全国的にも知名度が高い。

噂のフォークデュオ、チメイドにくらべても遥かに高い。

何しろ幾度となく新聞や週刊誌に写真が掲載され、ニュースで取り上げられている。

勿論九割悪評だ。

姿を消して数ヶ月が経つためにマスコミはもう沈静化したけれど、お蔭でネットなどで玩具になり始めている感すらある。

正体を探る系のスレで、考察という名の黒歴史ノート作成が定期的に行われている程だ。

 

さっき少しだけ聞こえた声からするに、あのギルスが女性の変身体である事は想像に難くない。

無理やり捕まえた瞬間に人間の姿に戻り、悲鳴でも上げられようものなら、またいらぬ悪評が添付されてしまう。

これで、ギリギリ警察から積極的に追われることがない程度には穏便に事を収め続けているのだ。

 

今更、婦女暴行未遂、なんていうクソくだらない理由で警察から追われたくはない。

五代さんと連携をとっていた警察の方々も、現状では未確認の残党を探している最中な筈だ。

つまり、未だ警察では有能な方々が実働に当たっているという事になる。

が、アンノウンが活動を開始した、という事は、未確認生物関連事件対策本部以外にも、有能でそれなりに正義感もある筈なのに珍妙かつ短絡的な作戦を立てては失態を繰り返す、オルフェノクにそっくりさんが居る筈の人間巻き寿司の中身みたいな人も動いている可能性がある。

またぞろ難癖を付けて無駄な労力を割いて欲しくない。

真面目に働いて優秀な結果が出せる人は、変な野心から無茶な行動はせずに真面目に働くべきなのだ、それが最終的に治安の向上に繋がるのだから。

 

追いかけるのは、とりあえずやめにしておいてもいいだろう。

あのギルスの反応は覚えた。

俺の腹の中にある、アマダムとは異なる力。

それに似た反応があのギルスからも感じられる。

分子レベルで分解して格納している人間時ならともかく、変身した後であれば、いくらでも居場所を察知できる筈だ。

見た所、闘い慣れている感じでも、暴力を振るい慣れている感じでもない。

放置して害になるものでもないだろう。

 

周囲を見渡す。

戦闘手段が互いに素手であったためか、周囲に肉片や血痕が散らばっている様子はない。

周囲のものを盾にする、という発想も無かったのか、周囲の物を使わずとも追い詰められたのか、この場で戦闘が起きたなど、言われなければ誰も信じないだろう。

 

今後もこうであればいいのだが。

後片付けも何もおまわりさんがやってくれる東京とは違う。

俺の地元で不自然に公共物が破壊されていたり、戦闘の痕跡などが発見されてしまえば、こちらに調査の手が及んでしまうかもしれない。

モーフィングパワーで全身を覆う布を作り、被る。

移動距離が短いせいで、逆に姿を隠す手間が増えた。

戦う事に慣れたと思えば、戦いの前後でやるべき事が増えてしまう。

なんとも、

 

「難しいものだ」

 

―――――――――――――――――――

 

強化された五感を駆使し人目や監視カメラが無いのを確認しながら家に帰った。

飛び降りた時とは逆に、塀を登り、塀から俺の部屋がある二階の窓枠まで跳び、窓の縁に指を掛け、念動力で窓の鍵を空けて部屋に戻る。

……こうして玄関を経由せずに戻る事で、家の警備面での脆弱性が明らかになってしまった。

身体能力が高めの超能力者であれば、家への、というか、俺の部屋への侵入も容易だろう。

なにか対策を、とは思うのだが、そうすると俺が夜中に部屋からこっそり外に出るのが難しくなるのが悩みどころか。

 

月明かりの差し込む部屋の中では、布団にくるまりすやすやと眠るジルが居るのみ。

明日も学校があるわけだし、俺も早く寝なおさなければならないのだが、軽い運動で少しだけ目が冴えてしまった。

勉強机の隣に置いてある、場違いな程に頑丈な金属の箱に手を翳す。

鍵どころか扉、蓋すら無い、完全に密閉された箱。

モーフィングパワーを流し込み穴を空け、中身を取り出す。

 

手の中に収まったのは、グロンギが腰に巻いていたベルト状の装飾品、ゲドルードのバックル部分。

俺が殴ったせいで綺麗な放射状に罅が入っており、残念ながら完品とは言い難い。

だが、重要な機能は殆ど残っており、魔石ゲブロンを搭載し、ベルト部分を後付して、誰かに巻けばそれで新たなグロンギを生み出す事ができるだろう。

 

そう、新たな魔石を搭載しさえすれば。

 

実に不可思議な現象ではあるのだが、元々このゲドルードを装着していたダグバの魔石は、現在機能していない。

元々、魔石ゲブロンは生物の肉体に取り込まれた状態で無ければ休眠状態に入るのだが、それとは違う。

ダグバのゲブロンは、今や完全に機能を停止している。

組成としては他の休眠状態のゲブロンと変わらないのだが、内包していたエネルギーが完全に枯渇していたのだ。

 

ものは試しと、万が一にも変異後に即座に暴れ出さない様に四肢切断し、ついでとばかりに全身の神経を少しずつ切除して回復に時間が掛かるように加工したモルモット(文字通りの意味で怪しい隠語ではない)にこのゲブロンを移植してみたのだが、一切反応がない。

このモルモットが特異な個体である可能性を考慮して別のゲブロンを移植した際には、以前の実験と同じ様に変異した後に焼けて死んだ。

あれ程の力をダグバに与えていたゲドルードの核、魔石ゲブロンは、自らの役目は終わりとばかりに完全に機能を停止していた訳だ。

 

こうなってしまえば、如何なンから取り出したゲブロンと言えど価値は殆ど無い。

実際、ベルトの機能に関しては他のゲブロンを搭載する事で機能する以上、この抜け殻のゲブロンは取っておく必要もなし、安全面を考えれば、粉々に砕いてあちこちにバラバラに撒いて万が一にも回収されないようにするのが良いとは思うのだが。

 

捨て難い。

愛着が少し湧いているのが自覚できる。

あの、九郎ヶ岳での戦いで感じた事を、俺は上手く言語化する事ができない。

だが、あの戦いの結果、戦果として手に入れたものを、容易く手放す気になれない、という事だけは確かだ。

嵩張るようなサイズでなし、トロフィー代わりにとっておくくらいは良いだろう。

 

しばしダグバのゲドルードを弄り、時計を見る。

家を出て、ロードもどき共を殺して戻って、結果的に十分程しか掛かっていない。

早く寝るべきではあるのだが……少しくらいの夜更かしはいいだろう。

 

ゲドルードを箱の中に戻し、その箱の中から作りかけのバックルを取り出す。

見る人が見れば、それがまるでクウガのベルト、アークルの様にも見えるだろう。

俺の付けているアークルや五代さんのアークルと似た経緯で作られたものだから、当然と言えば当然だ。

 

今年を乗り越えるにあたって、幾つか乗り越えなければならないポイントがある。

その一つが、アギトの力の消失。

消失、というか、テオスによるアギトの力の奪取か。

……正直、そんな器用な真似ができるなら、殺すんじゃなくてお前が自らアギトの力を回収して回るとか、そうでなくてもアギトの力を人間から引きずり出せるマラークなりを作ってしまえばいいだろう、とは思うのだが。

だが神が人間を愛するという感覚が、人間が人間を愛するものとは大きく異なるというのはよく聞く話で、有り体に言えば、人間を愛してはいるがそこまで手間をかける程の愛ではない、という事なのだろう。

 

ともかく、仮にアギトの力を奪う、という行為が当時に見た映像上のものだけでなく、全国のアギトに対しても行われていたのだとすれば、俺もアギトの力を奪われかねない。

それだけならまだマシだが、俺の仮説では、アークル、アマダムの齎す力はアギトのそれに近い。

アマダムすらも身体から抜き取られる可能性を考えれば、奪われた後に奪還しに行く為の力を用意しておくのは当然のことだ。

そして、幸運な事に、俺の手元には二つの参考モデルが存在する。

俺の付けているプロトアークルに、ダグバのゲドルードだ。

 

本当なら、もっと気軽に分解とかできるように数を揃えたくもあったのだが、基本的にゲゲルを行うグロンギのベルトは、ゲゲルリングにより封印エネルギーという爆弾が仕込まれている。

破壊した後に回収するにしても、エネルギーの残滓によって爆発したりする危険性があり、うかつには回収できなかった。

こうして、研究してアークルを新造しようという段階になってくると、つくづくゴオマのベルトを放置してきたのが惜しまれる。

所詮はズのベルトだから、などと置いてきてしまったが、基本的な構造は共通している筈なので、格好の研究資料になっていただろう。

なにより思い入れも愛着もかけらも無いから好きに解析できる。

 

が、やはりゲドルードの模造品の完成品であるアークルが手元(腰元?)にあるおかげか、現代版アークルの作成はまぁまぁ順調だ。

機械部品を一切使わない、ゲブロンからあふれるエネルギーとモーフィングパワーの経路が重要になる構造は、現代の科学文明からすればオカルト的ですらあるが、実際に組み上げる段階になってくると実に理に適っている造りで面白い。

更に、今回はこのプロトアークルが作られた時とは違い、十全にモーフィングパワーの運用に精通した俺が作っているだけあって、アークル程巨大化していない、というのも良い。

グロンギのコンパクトなゲドルードと比べて、アークルは縦横も厚みも倍以上大きい。

破壊されたら即死、とまではいかないまでも、壊れればそのまま変身能力を失うか、或いは中の霊石魔石の制御を失い過剰進化で身体を焼かれてしまう以上、バックルのサイズは小さいほど良い。

 

実際、もう少し弄れば最低限の機能は確保できる。

そもそも装着するのが俺である以上、制御という点ではそれほどきつい縛りを入れずに済む。

構造上、一度完全に霊石の力を受け入れた個体、凄まじき戦士への変身を経験し身体を慣らした装着者であれば、元のアークル程段階的なモーフィングパワーのブロックは必要なくなる。

グローイングも四色のフォームも無い、アルティメット専用ベルトの方が、余計なギミックが無い分構造は単純で済む。

ただ、これが実際正常に作動するか、というのは未知数な部分も多い。

モルモット、ネズミ、犬、猫などでの実験では限界がある。

そもそも最低限の機能で十分とはいえ、それは俺の肉体が慣れているからであって、実験体にするような動物に耐えきれるものではない。

 

本当なら組み込む必要もないフォームチェンジ機能、各種安全装置を組み込んだものでなければ、動物実験すらままならない。

難しいものだ、とは思うが、半端にベルトの構造を単純化して覚えてしまっては、後々不都合が出るかもしれない。

なんなら、俺以外の誰かにベルトを与えて戦わせる、という可能性も無いではない。

そんな時に必要になってくるのは、最低限の機能を備えた簡易アークルではなく、素人でも変身に耐えうる安全装置完備アークルなのだ。

 

二つの完成品があり、既に俺の頭の中にはプロトとゲドルードを元にした現代版の完成図がある。

材料も特殊なものは使っておらず、強度の問題も結局は埋め込む魔石由来のもの。

加工が難しいだけで、完成は目前と言っていい。

言っていいのだが……。

 

何かが足りない。

可能なら人体実験も行いたいところだ。

それに……俺よりも、ゲドルードの構造に詳しい者から情報も引き出したい。

人体実験のあてはある。

だが、ゲドルードに関して詳しそうな奴は……、少し遠くに居るな。

まさか本州からも脱出しているとは。

だが、行こうと思えば日帰りで行ける距離だ。

次の休みにでも、接触に行ってみるか。

拷問のやり方は知識でしか知らないから、素直に教えてくれるといいのだが。

 

―――――――――――――――――――

 

日帰りで行ける距離、というだけで、標的の居る場所は平日に行ける距離には無い。

そうなると俺にできることと言えば何時も通りの日常を過ごす事のみ。

少しの間ベルト造りを進め、眠り、目覚めれば朝になり、当然ながら学校へ行く時間がやってくる。

朝、少しだけ走り込み、体操で身体を温め、重り代わりに背負っていたジルとシャワーを浴び、制服に着替え、ジルも着替えさせ、ちょうど母さんが作り終えていた朝食を食べればもう登校の時間がやってくる。

 

次に戦う予定が無い日常、というのも、久しく無かった事のように思える。

暴力とはかけ離れた日常は穏やかではあるが、少しの緊張感の欠如も感じてしまう。

別段、刺激が欲しい訳ではないのだが、それでも定期的に戦いに触れていないと不安を感じる。

いざという時に鈍っていては命にかかわるのだから、仕方がない事だろう。

 

だが、それでも学校に限って言えば、平和な、戦いとは無縁の場所であって欲しい。

ワームの群れがやってきて、クラスごと成り代わっていこうとしたり、オルフェノクが乱入してきて繁殖活動をおこなったり、という事が起こりえる場所である事は理解しているつもりだが。

それでも、常在戦場とは中々いかないもので、ただの学生としての穏やかな時間は大切にしておきたいという気持ちがある。

 

だから、だろうか。

仲良くしているクラスメイトの人が、このタイミングで学校を休んだり。

そういう少しでも何時もと違う事が起きると、なんとも過剰に不安になってしまうのだ。

 

―――――――――――――――――――

 

「来てしまった」

 

見慣れぬ民家の正面で立ち尽くす。

俺の家からもおそらくそう遠くないと思われるここは、今日病欠のクラスメイトの人の家。

何のことはない、今日学校で配られたプリントを渡しに来たのだ。

俺よりも家が近い人も、保健委員も、学級委員も居たのだが、全員が全員腹痛を患ってしまい、急遽俺がプリントを渡しに行く事になったのだ。

集団食中毒かな。

全員揃って『アイタタタ、すまん、お腹痛いから代わりにプリント持っていってやってくれ!』とかやりだした時は新手のコントか何かかと思ったが。

次いで振り向いた先、教室に残っていた他の学友たちも全く同じポーズで同じセリフを吐いた時こそが新手のコントだったのだろう。

或いは全員、クラスメイトの人の家に行きにくい理由があるか。

 

……いや、流石に俺でも判る。

最近は朝の登校途中に合流する事が多くなったクラスメイトの人が居なかったせいで、どうも俺は一日上の空だったらしい。

上の空のまま授業を受け、上の空のまま先生に解けと言われた板書の問題を解き、上の空のままノートを取り、上の空のまま体育の授業を受け……。

上の空のまま、何事もなく学校での作業を終えてしまった。

 

心ここにあらずと言った雰囲気のまま何事もなく全ての工程を終えていく俺の姿は、他の学友たちの目には随分と奇っ怪に映ったかもしれない。

窓の外を眺めながら手元だけが板書を自動筆記の如く写していた様はオカルト案件に見えたらしい。

それで、原因がクラスメイトの人の欠席だと感づいた学友たちが、俺に気を使って様子を見に行く権利を譲ってくれたのだ。

有り難い話だと思う。

何時かこの借りは補填したい。

 

「ええと」

 

インターホンを前に、チャイムを鳴らすのを躊躇う。

俺らしくもない。

いくらなんでも、心配しすぎだ。

このタイミングで、クラスメイトの人が学校を休んだからといって。

いくらこの世界が厄ネタに溢れているからといって、こんな身近にピンポイントで厄介事が湧き上がる訳もないというのに。

 

チャイムを押す。

軽やかな電子音が鳴り響き、しばし。

家の中から足音が聞こえ、インターホンからはかちゃりと音声が繋がる音。

 

『……セバスくん?』

 

「うん」

 

『え、あの、えぇ!? なんで』

 

「プリント渡しに来たのと、お見舞い」

 

カメラがあるので、プリントと買い物袋を掲げてみせる。

体調不良、との事なので、一般的な見舞いの品を一通り揃えて持ってきたのだ。

鼻風邪なら鼻セレブ、と言いたい所なのだが、残念な事にまだこの時代に鼻セレブは存在しないのだ(タイムトラベラー的意見)。

 

『ちょ、ちょっと待って、待っててね!』

 

「待ってるから、慌てなくていいよ」

 

この人生では体調不良など殆ど経験が無いが、風邪などで休んだ日の家での過ごし方なんて、誰も似たようなものだろう。

それも女性となれば、油断しきってとても同年代の異性のクラスメイトに見せられるような格好ではない筈だ。

インターホン越しでなくても家の中から聞こえてくるどたどたという騒がしい足音に、とりあえずそれほど元気がないという訳ではない事を察し、少しだけ安心した。

 

―――――――――――――――――――

 

玄関先でプリントとお見舞いの品を渡すだけで終わろうかと思ったら、パジャマの上に半纏を羽織った、芋芋しさが逆に可愛らしいクラスメイトの人に誘われて家に上がる事になってしまった。

体調不良で学校を休んだ人に余り動いて欲しくはないのだが、上がっていけ、というのを断るのもあれなので、しばし彼女の部屋にて雑談。

同年代の女子の部屋に上がるのは、中学時代、剣道部の後輩に勉強を教えてくれと頼まれた時以来か。

 

部屋は片付いていた。

……という事にしておく。

クローゼットからいろいろな物がはみ出していたのを見て見ぬ振りをする情けが俺にも存在するのだ。

一度、彼女がお茶を入れに行った後、内部からの圧力に耐えきれずに下着やら人形やら雑誌やら脱ぎ散らかした服やらが雪崩を起こした際も、目をそらしながら念動力で綺麗に元通りにするだけの情けがあるのだ。

見舞いに来たのにお茶まで、お茶菓子まで出されては返って申し訳ないのだが、とりあえず元気な姿が見れたので良しとする。

 

しばし、彼女の部屋で菓子をつまみながら雑談。

体調の悪い時に長々と起きているのも悪いから、と、俺が帰ろうとする度に、一人で寝ているだけだと暇だったんだ、と、引き止められる事一時間。

随分と長居をしてしまったが、話す話題が無くなり、いい加減日も落ちてきたので、帰る事に。

 

「ありがとね、来てくれて」

 

はにかむように、……というより、少し儚げに笑うクラスメイトの人。

無理をして笑顔を浮かべているような顔だ。

風邪で休んだ日、午後にはもう熱が引いているけれど、身体はなんだかだるいままだったりするので、彼女もそうなのだろう。

 

「いいよ別に。それより暖かくして寝てなよ。まだまだ寒いんだから」

 

と、注意するまでもないか。

半纏に加えて、腕に湿疹が出たとかで包帯をぐるぐる巻きにしている姿は、春も間近なこの季節には暑そうですらある。

 

「うん。……あの、さ」

 

ぎゅう、と、包帯を巻いた腕を抑えて、クラスメイトの人がうつむく。

返事は返さず、黙って続きを口にするのを待つ。

一分は無い沈黙の後、クラスメイトの人は顔を上げ、笑顔を見せた。

 

「……やっぱり、なんでもない。またね」

 

包帯を巻いた腕を背中に回し、もう片方の手をひらひらと振る。

何時も通りの、いや、何時も通りに見せようとしている笑顔だ。

 

「うん、またね」

 

玄関が閉じ、クラスメイトの人の姿は見えなくなる。

しばし歩き、立ち止まる。

アマダムに強化された肉体は、全体的に性能がいい。

変身後と比べれば雲泥の差ではあるが、五感も常人よりも鋭敏になっている。

だから、普通の人なら聞こえないような音も聞こえる。

ドアに寄りかかり、座り込み、声を殺して泣く声が。

 

しばし、悲しげな嗚咽に耳を傾け、歩き出す。

歩いて、歩いて、歩いて、少しづつ速度を上げて、走り出す。

走って走って走って、自宅の玄関に入る前に曲がり、庭に備え付けられた巻藁を思い切り殴る。

拳の当たった箇所から吹き飛んだ巻藁をモーフィングパワーで直す。

 

空を仰ぐ。

分厚い雲が赤い夕日を遮り、白い雲の中に燃えるような赤い雲が混じっている。

溜息。

 

「畜生」

 

なんて世界だ。

あの呑気そうな白い雲も、空気を読んでやったぞと言わんばかりの赤い夕日も。

くそったれめ。

人のことを、馬鹿にしやがって。

 

「荒れてるわね」

 

「……母さん」

 

振り返れば、白いジャケットを羽織った母さんが玄関先に出ていた。

タイミング的に、巻藁を粉砕する場面も直す場面も見ていた様な気がするのだが、驚いた風でもない。

が、今は、そんな事はどうでもいい。

 

「今からちょっと出かけるから、明日、体調不良で学校休む」

 

「また東京?」

 

……もう驚かないぞ。

 

「いや、沖縄……の方」

 

まずは、沖縄だ。たぶん。

正確な位置はわからないが、そこに見知った稼働状態のゲブロンの反応がある。

近づけば発見も容易だろう。

ベルトを完成させる。

 

「そう。なら、母さんのバイク使っていいわよ。何時までもお手製ボロじゃ格好つかないでしょ」

 

「……うん、ありがと」

 

「そのうち、ちゃんと免許も取りに行きなさい。なんならバイクは新しいの買ってあげるから」

 

「……そうね」

 

驚かないったら、驚かないぞ。

今は、何より、ベルトを完成させなければならない。

他の全ては、全部後回しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




☆生き残るだけなら戦い続けるだけで済むけど、知らず普段から穏やかな日常という贅沢を噛み締めていたのだと思い知って生き残るだけでは満足できなくなってしまった欲張りマン
余分を削ぎ落とす事が完成に近づく条件だというのなら、ダグバとの最終決戦は完成から遠ざかった結果とも言えるのんな
生きやすさで言えばブラックアイのままダグバ殺すルートの方が楽っちゃ楽だったんだよなあ……
冷酷だったり残酷だったりの面が目立つが、それは優しさが無いのではなく優しさが必要ない場面にばかり遭遇していたからなんやなって思い知る
こういう奴をどうにかするには親しいやつから攻めていくのが簡単なんやで(インストラクション・ワン)
やるべきこと
1,魔石内臓のグロンギリント混合型の新ベルトの製造
2,ベルトが作動するかの人体実験(できれば)

☆ダグバのゲブロン
今更だけど、ゲドルードがグロンギのベルトで、腹の中の魔石、霊石アマダムに当たるのが魔石ゲブロンだそうで
ある日気付くとダグバくんの形見のゲブロンは息を引き取っていたんや
代わりにとでも言うように、割れた主人公のアークルは修復されていた
これはダグバくんの友情の起こした奇跡なんやなって……
ついでに変身後にダグバ君関連の装飾品が生えてて、それに一切違和感を感じないけど、それはどうでもいいから忘れてええやで

☆ロードもどき君
瞬ころだったけど、あっさり殺される感じは実は原作再現なのかもしれない
実質前作ラスボスと戦っているようなもんだから仕方ない
なんでこんなのが出てきたのかは、本物のロードと対峙した後に説明できそう

☆必死に逃げてるギルスちゃん
二十二号を見た瞬間に、自分も殺される! ってなった
世間一般の市民の認識では二十二号は残虐な未確認ハンターなのでな
残当
変身解除後は勿論みんなお待ちかねの副作用の時間やで(ニッコリ)

☆ただの体調不良のクラスメイトちゃん
言いたいことも言えないこんな世の中じゃ
信頼していないわけじゃないけど、気になる異性だからこそ相談できないってのはあるんよ、女の子には(場末のバーのママ感)
女の子には辛いと思うんだ、何がとは言わないが
笑顔で見送った後、扉の裏で泣き崩れながら「うぅ、うぅぅぅ!」って、言語化できない悲しみに襲われて、包帯に巻かれた腕を抱えながらボロボロ泣いたりしてた、なんでやろな
この子で書きたかった事は次回かその次で書ける
良かったな、レギュラー入りだぞ、たぶん

☆ママン
ジル関連で便利キャラにした弊害でめっちゃ怪しい位置に来た
でも息子が学校を休んだ日に限って二十二号が東京で暴れてる、なんて、普通の主婦でも気付きそうなもんだし……
若い頃はレディースとかで特攻服とか決めてた可能性
母親に強いキャラ付けすると脱線するって前作で学んでいるので前面に出張ってくる事はないと思う
なんかいろいろ知ってる人だなぁくらいに思っといてくだしい
母親が死んで再び聖なる泉が枯れ果てるルートは消えてしまったのだ……
バイクを買ってあげる発言は息子に買ってあげるという名目で自分のセカンドバイクが欲しいだけという意見も無いではない

☆留守番ヒロイン
ただの飼い猫みたいなポジに居る
イベント並列処理できんからもうちょい待ってな


オリジナル話ばっかで申し訳ない
でももうちょいしたらたぶん東京に遊びに行くから
人体実験しないといけないし
ちょうどよく死にかけでベルトが起動したら助かりそうな人も居るし
そしたら運良くロードとかテオスに会えたりするだろうし
その前にまたオリジナルを挟む
まぁ無理に主人公の方針を捻じ曲げて東京に行かせるのもあれなので仕方ないのです
平成一期を振り返るとはいったい……

それでもよろしい人は、次回も気長にお待ち下さい







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