オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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21 暴走する善意

くよくよしていても始まらない。

俺の私生活が少し寂しくなったところでやるべきこと、やらなければならない事に変化はないのだ。

自慢ではないが、というか、本気で自慢にもならないのだけど、現時点でアギトとしてもっとも進化を進めているのは、少なくとも日本国内においては俺であろうと思われる。

ゼブラロードを葦原さんが殺害した後、漂う未知のエネルギー浮遊体は、ゆっくりとした速度で俺へと追尾を開始した。

それも、葦原さんがその場を離れた後で、だ。

葦原さんが居た時点では、俺と葦原さんの間を、常人の視力では視認できない程度に弱った状態でゆらゆらと動いていたのを確認している。

そして、葦原さんがあの時助けた……ええと、ダイバーの人が救急車で運ばれた後にバイクに乗ってその場を去った後は完全に此方に標的を定めたような動きをしていた。

 

俺と葦原さんの間にある共通点と言えば、アギトの、火のエルの力。

……まぁ、葦原さんにベルトを渡してしまったお蔭でもう一つ魔石と霊石という共通点も生まれてしまったのだが、現状最も安全装置が解除されているのは俺の魔石なので結論は変わらない。

強いアギトの力か、霊石、魔石の力に群がってくる。

 

奴らは恐らく、一度撃破されて闇の力の元に戻って再生した水のエルと同じ様に、死んだ後にも完全消滅する訳ではないのだろう。

魂の様な状態で、恐らく、それでも創造主である闇の力から下された使命を果たそうとしている。

なるほど、忠義心に厚いやつらだ。

そして、明確に水や風や地のエルよりも格下であるとされており、俺の知る流れでも再生怪人の如く現れる事も一部を除いて無かったことから考えて、再生は本来想定されていない、あるいは再生できても不完全な状態なのではないか。

そして、不完全な復活により余分なもの、肉の器を失う事で感知能力が上がり、アギトの力を察知できるようになった。

 

後に残るのは、下された指令に関する曖昧な記憶と、アギトという、過去の戦争からもある程度の因縁があるであろう相手を感じ取る力。

恐らく無意識に、或いは本能的に、抹殺対象であるアギトの力を強く感じる場所に近付いていく事になる。

オルフェノクの肉体に宿るのは……、まぁ、闇の力とマラークが存在する世界で、人類の進化系が人類以外の生物をモチーフにした異形になる、という時点で、何かしらの関係があると見て間違いない。

恐らく、奴らはオルフェノクの肉体を介する事で、ようやく復活を遂げる事ができるのだろう。

そこいらの人間を依代にできる、というのなら、手近な場所に居る人間に取り付く事でもっと早くにアギトの力を持つ人間に襲いかかっている筈だ。

 

現状、わかっている危険性として、

1, アギトの力を持つとされている人間、及びその親族を殺しにやってくる。

2, 殺しても一度、復活のチャンスがある。

3, 復活する場所は、恐らくアギトの力を持つ人間が居る近くである。

4, より強いアギトの力に対して誘引性を持つ。

5, 現時点で最もアギトの力を乱用して進化を進めているのは恐らく俺である。

という五つの点が上げられる。

 

勿論、全てが全て俺に近付いて再生する、という訳でもあるまい。

それならもう何匹かと交戦していなければおかしいのだから。

途中で他のアギトに引っかかったか、実体化した直後に野良の仮面ライダーの皆さんに殺されたりする可能性だって十分にある。

だが……。

だが、それでも、既に二件の例が存在してしまっているのだ。

安全を確保する為に、そして、地元で変身して身バレの危険性を上げるのを避けるため、東京で出現した直後、他所にフラフラと飛んでいくのを阻止し、その場で完全に始末しなければならない。

それにはどうするべきか。

 

そう、東京に行って、直接マラークを殺害、ないしは殺害されるのを確認し、適当に東京をうろちょろと徘徊。

近場のオルフェノクに宿って実体化した所を再殺。

これだ。

これこそがベストな選択。

 

実際、母さんに護衛が必要かという疑問が上がり始めた今日このごろ、一番危険なのは父さんなのだ。

マラークは現状、良くてメ集団相当の戦闘力しか無いが、銃弾に対する念力などの防御、特殊能力による救助の難しい殺害など、量産ライダーシステムも無い一般警察官にとっては命の危機があるばかりの危険な敵だ。

そんなものが変なタイミングで復活してしまえば、現場の警察官、つまり、父さんが危ない。

やはり、殺せるものなら殺してしまうのが一番だろう。

 

実際、やろうと思えば、マラーク出現の瞬間に瞬間移動で近隣の水中、個室などに移動して殺害に向かう事も出来なくはない。

具体的なイメージが無い場合は大雑把になるが、割りと東京の隠れて変身するのにマストなスポットには一家言ある。

なんなら東京上空にでも移動して、劇場版のG4(高価な鉄屑)の如く着地してみせてもいい。

落下の寸前に減速するのも当然可能だし、減速せずに位置エネルギーを全身で味わってもさして問題はない。

 

というか、変身した状態で向こうに転移してそのまま此方に戻ってこれるので、マシントルネイダーで既存の監視網に引っかからない様に移動を繰り返していた今までに比べてもかなり隠密性は高い。

逆に、家とは異なる方向にマシントルネイダーで暫く移動した後に瞬間移動で家に帰れば追跡されたとしても撹乱までできてしまう。

こういう言い方は悪いが、都合の良い簡単な仕事とも言える。

 

そして、移動に時間は取られないが、マラークが何時事件を起こし始めるかわからない以上、自由な時間は減るだろう。

だから、……こう、放課後とか、友達と一緒に楽しく帰る時間とかが削れた分対処がしやすくてよかったねっていうか、ね。

うん、逆に都合よかったし。

もう、ほら、付いてこれる者だけ付いてこい、みたいな戦いになるから。

逆に休みの日に出かける予定が無いからもしもの時も対処しやすいし鍛錬の時間も趣味に没頭する時間も増えるしいい事ずくめだよね?

 

「まぁ飲めよ」

 

ごん、と、机の上に置かれた缶ジュース。

机から顔を上げれば、難波さんほどではないが、それなりに友好的な関係にあるクラスメイトの一人が。

ぽん、と、肩を叩かれる。

 

「人生、いろいろだろ」

 

訳知り顔でうんうんと頷くそいつの後ろに、更に何人かのクラスメイト。

むう、どうにも、いろいろと顔に出てしまっていたらしい。

心配を掛けてしまうのは、本意ではない。

というか、こういう対処をされると、

 

「……!」

 

ちら、と、視線を向けた先で、難波さんに視線を慌ててそらされた。

今回の人生でもまあまあ役立ちそうな知識の中から、経験談として語らせて貰うとすれば。

人間関係が拗れた時は、周りの人間は腫れ物に触る様に、しかしなるべく触らないようにして置いてもらいたい。

どっち側も気まずくなるからね。

 

―――――――――――――――――――

 

活動方針は決まった。

東京に行って人間を殺す化物を殺します。一体につき二殺。

名付けて天使は二度死ぬ作戦。

ちょっとかっこいい。

ジーザスの第一話みたい。

 

やることは去年とあまり変わらないのだけど。

違いがあるとすれば、警察に対する信用度だろうか。

あと、五代さんが居ない代わりにアギトとギルスが一人づつ、G3も一応居る。

出現場所によっては、瞬間移動で向かっても殺される瞬間に立ち会えるか否か、くらいの場合もあるだろうが、それはそれで良い。

今回は力試しをする必要も無ければ、倒した相手から利用価値の高い資材が回収できる訳でもない。

 

良い点があるとすれば、上手いこと誘導できれば合法的に表の身分を持つオルフェノクを殺害できる、或いは、警察の眼の前で憑依させる事でオルフェノクの存在を示唆できる点か。

元からオルフェノクの情報を持つ勢力は内部に少なからず居るだろうけれど……。

口が達者な連中なら、敵対的な種族でない、みたいなアピールをする可能性もある。

悩ましいところだ。

やはり警察に認知させるなら、野良の頭の悪い個体を見せてやりたいところ。

 

などと、いろいろと予定は立つものの、世間の多くの場合と同じく、予定は未定というもので。

マラークが活動を開始して気配を出してこない事には、何もやることがない。

学校の授業の予習復習を欠かさず行い、剣術、槍術、射撃術、投擲術、格闘術などの訓練、シャドー(ダグバを想定すると実質千日手なので此方の能力を制限した上でガドルを想定)などを熟した上での話だ。

新式のベルトは完成した。

難波さんに渡した分はともかく、葦原さんに渡した分は変身時のエネルギーの流れ、肉体を変化させる過程も観測できている。

それを踏まえた上で、俺用の予備ベルトの設計図もできている。

現状持ちうるすべての知識を総動員して作った最高傑作だ。

 

……つまり、この状態から先を目指す事は難しい。

アギトの力があれば、別にベルトのアップデートは必要ないかもしれないが、やはり万が一、という事もある。

或いは、無限の進化が望めるアギトの力も、途中で進化に躓いて伸び悩む時期が出てくるかもしれない。

現状がそうなのだ。

トリニティだかバーニングだかわからんフォームから進める気配が無い。

だから、既にある力に対する刺激にもなりうる様なベルトが作れるようになりたい、という思いもある。

 

あと、モーフィングパワーやアギトの力方式でない、肉体を組み替えないタイプの装着型の装甲服を展開するベルトも欲しい。

あれがあれば正体バレを気にせず人前で変身できるし、頑張れば外身を残しつつ中身だけ変身することで正体を隠しつつ本気も出せてしまうかもしれない。

だが、大きめのベルトに強化装甲服を仕込む、というのは、如何にグロンギとしての頭脳を持つとしても0から作り出すのは至難の業。

やはりありものを頂戴するのが一番いいのだけど……、ベルトの所有者、所有組織と敵対するのは良くない。

組織力があるところなら、監視カメラなどによらない特殊な監視方法があるかもしれない。

無闇に盗もうとしたり、技術を解析するまでの間、無断で借りようなんて真似はしない方が無難だろう。

 

ううむ、最終的に必要なものばかりとはいえ、いくらなんでも物欲に塗れすぎか。

無い物ねだりをしても仕方がない。

少なくとも、今年の問題を解決するまでは人前で変身する危険性と全力を出せずに戦う危険性を両立するような真似はできないのだ。

じれったく思うところもあるかもしれないが、とりあえずは次のマラークの出現に備えよう。

 

―――――――――――――――――――

 

アマダムの力で肉体を改造した後に問題になるのは、トレーニングの難しさだ。

何も、老化を停滞させる効能の副作用で筋肉が付きにくくなる、なんて馬鹿げた話ではない。

むしろ、この身体はトレーニングを重ねれば重ねるほどに素直に強化されてくれる。

当然だろう。

アマダム……いや、ゲブロンは生物を戦うためだけの生物兵器にする為の機能を有する。

それは勿論、アークルやゲドルードに備わるリミッターの解除による段階的かつ劇的な強化だけに留まらない。

 

問題となるのは、必要な負荷の増加だ。

例えばメの最上位であるガリマなどは、生身の状態でも身の丈ほどもある双刃を軽々と振り回し、人間離れした脚力で十数メートルを一息で詰める事ができる。

見た目、明らかに筋肉量が多いとは思えないような身体で、だ。

魔石により改造された肉体は、極めて効率的な、人間のそれとはかけ離れた高効率な筋肉を備えさせる。

故に、その筋肉を鍛える為には、それなり以上の負荷が必要になる。

 

単純に、スタミナをつけようと走り込みをしようと考えたなら、やや虚弱体質なジルのリハビリに合わせていてはとても運動量が追いつかない。

両手両足、特性のジャケットの内部にモーフィングパワーででっち上げた超高比重金属の重りを仕込んで、なおかつ、ジルが疲れすぎない距離を歩いた後は、ジルを背中に背負い、走る。

街中ではなく、郊外、いや、山の中。

坂道、山道を走るのは、平地を走るよりも遥かに負担が掛かる。

 

舗装された道は歩きやすいので、あえての獣道。

獣道と言っていいかすら怪しいヤブの中を、念動力で掻き分けながら駆け上がる。

過剰とすら思える重りを抱えながらのRTA(リアル・登山・アタック)。

全力で山道を駆け上がり続ければ、流石に山頂では息も切れる。

だが、山頂から見渡せる絶景は心が洗われるようだ。

 

「魔化魍でも出ないかな」

 

変身の段階を一つ二つ落とした状態なら、良い訓練になると思うのだが。

やはり、グロンギのゲゲルが開催されていないからか、魔化魍の出現頻度は目に見えて下がった。

今年は今年でマラークどもが暴れているのだから、それ関連で出現頻度が上がってくれても良いんじゃないだろうか。

 

今の変身後で戦う場面の少ない生活を考えると、定期的に湧いてくる魔化魍は格好の練習相手だったのだな、と痛感する、

そも、グロンギが現れたから出現頻度が上がったのか、それともマラークが現れているから出現頻度が下がっているのか。

よくよく考えると例年の平均出現頻度なんかも知らないからなんとも判断しかねる。

改造人間なり自立型のロボットなりの設計図でもあれば、モーフィングパワーで組手の相手としてでっち上げる事もできないではないと思うのだけど。

これも無い物ねだりか。

 

そんな事を考えていると、背負っていたジルが麓の当たりを指差す。

山道の入り口の辺りで、難波さんがうろちょろと右往左往している。

ふむ……彼女は山ガールだったのか。

未来では一部で静かなブームになるからな、珍しくもない。

 

魔化魍が出そうな気配があれば、顔を合わせにくいという気持ちをぐっと抑えて忠告に行くのだが。

たぶん魔化魍は現れないだろう。

森の動物、虫の音が大きい。

警戒すべき対象が山に居ない、という証拠だ。

俺も変身待機状態になると一斉に動物が逃げたり息を潜めたりしっぽを自切したり死んだふりをされる側だが、未変身時には力を抑え込む練習だってしている。

だから、現状この山に魔化魍は居ないし、暫くは現れることもないだろう。

 

そして、何かを決心したような雰囲気で山を登り始めた難波さん。

一見して普通の普段着っぽい明らかに山に登る装備ではない感じだが……。

彼女から、励起状態の魔石の反応を感じる。

どうやら、前に渡したベルトを装着してくれたらしい。

なら大丈夫だろう。

無装備でも通常の道を行けば遭難する事も無いし、なんなら遭難してもなんとなくで川から魚は取れるし熊くらいなら仕留められる。

 

「ぐるっと回って帰ろう」

 

肩越しに頷くジルの顎と頬の感触を感じながら、難波さんが登り始めた山道とは反対側へと、森の中を突っ切って走る。

意識せず、なんでもないクラスメイトとして接する事ができるようになるには、もう少し時間が必要なのだ。

 

―――――――――――――――――――

 

ごぼ、と、海面に大きな泡が浮かび上がった。

昼の港、船が無いにしても波はあり、不自然に大きな泡は誰に気づかれるでもなく消えていく。

いや、仮にその場に誰かが居たとして、海面に浮かぶ泡程度に視線をやる事はないだろう。

 

爆発音。

火薬を用いたものではない、未知のエネルギーとしか表現のしようもないそれは巻き上がる炎と爆音を響かせる。

今まさに爆発したものは、サソリに似た異形。

古の時代においてサソリのモデルになったと言われている天使、スコーピオンロード、レイウルス・アクティア。

闇の力よりの命令で超能力者狩りを行っていたそれは、幾らかの被害者を出した後に、現場に駆けつけたアギトにより撃破されたのだ。

そう、撃破。

 

スコーピオンロードの命はまだ尽きてはいない。

或いは、その場に優れた第六感の持ち主が居たのであれば、それを目撃する事ができただろう。

スコーピオンロードの肉の器が爆散すると同時、爆炎に紛れるように……爆炎に吹き飛ばされるようにして、うっすらと光るエネルギー体が飛んでいく光景を。

これこそが、スコーピオンロードの本体……魂とでも言うべきもの。

それは昼間の太陽の明るさに溶け込み、空に浮かんだが最期、地上から観測する事は難しい。

現に、スコーピオンロードを撃破したアギトもまた、マシントルネイダーに跨がりその場から立ち去っていく。

 

地上での活動をする為に必要な肉の器を失い、しかし、それでもなお死ぬ事のない天使。

しかし、エルロードではない下級の天使であるマラークは、創造主である闇の力の元に戻る資格が、いや、その発想すらない。

何処に向かうでもなく、それ単体であれば最早何の害もない幽霊の様な存在。

しかし、それは過去の時代の話でしかない。

今、この地球上には、彼等マラークの依代たりえる存在が溢れている。

不運にも、野生の天使とも言える魔化魍や、或いは鏡の世界を住処とする魔物に捕食される場合もあるが……。

人の中に多くの依代が紛れ込むこの大都市であれば、概ね、新たな肉体を得る事ができる。

 

使命を果たしきれていないマラーク達の肉体は、半ば本能的に抹殺対象の気配に近づき、その周辺に存在する依代へと入り込む。

スコーピオンロードはしばし、泡の消えた海面に近付こうとふわふわと漂った後、()()()()()()()

原因は、海中から放たれた光弾。

封印エネルギーと呼ばれる、天使達のそれとは似て非なる超常の力。

圧縮された空気弾に込められたそれに押し出されるように、続けざまに放たれる光弾に弾かれ続け、本来の浮遊速度とは比べ物にならない速度で都市部へと飛んでいく。

慣性の法則に従っているのかいないのか、しばし弾かれ続けた後、スコーピオンロードの魂は真っ直ぐに市街地へと移動し、標的を見つけた。

 

アギト。

忌まわしき裏切りの天使の力。

主に望まれざる異端。

 

思考を司る肉の器を破壊され、明瞭な記憶を持たないスコーピオンロードの魂は、近場で最も強いアギトの力へと近付いていく。

おあつらえ向きに、その十数メートル前には、依代が居る。

一も二も無く乗り移る。

 

依代の名をオルフェノク、殺され続けたマラークの写し身達の呪いを受けし者。

王の洗礼を受け人間性を除去される様に、マラークの魂に人間の魂を塗りつぶされたその肉体は、瞬く間に人としての特性を失い、天使の肉の器として機能し始める。

ぐ、と、手を握り、肉の器の感触を確かめる。

次いで、頭上に光輪。

中から冥府の斧、冥王の盾を取り出す。

 

棒立ちの()()アギトに冥府の斧を投擲。

盾を構え距離を取り、まずは様子見。

曖昧な記憶にも確かに刻まれた記憶。

自分の盾は強力ではあるが、完全ではない。

破る方法もあるのだ。

身を以って知った教訓を元に戦いを組み立てる。

距離を取りすぎてもいけない。

近距離での格闘戦では恐らく敵わない。

距離を開けすぎれば、またあの鉄の騎馬で盾を抜かれる。

どうするか。

 

思案するスコーピオンロードの眼の前で、冥府の斧がアギトの頭部に迫り、寸でのところで受け止められた。

もう片方の手には弩の様な武器。

アギトの新たな力か。

そう思い盾を構える。

正面から迎え撃つ事はしない。

飛び道具であろうそれを、斜めに傾けた冥王の盾で()()()()事で、次に繋げる。

接近して斧を取り戻すか、或いは毒針を使うか……。

 

ズンッ、と、盾に異様に重い衝撃。

念動力を纏う冥王の盾越しに、まるで素手で攻撃を受け止めたかのような感触。

数センチ後ろに押し出される。

……或いは、つい先程の戦闘で、スコーピオンロードが冥王の盾を破られ、その後も戦闘を続行する事ができていたのなら、その違和感に気がつく事ができただろう。

冥王の盾は、基本的にはスコーピオンロードの持つ超能力、念動力を強化する事で強力な力場の盾を生み出す防具だ。

故に、防ぐ事ができたのならなんの反動も無い。

衝撃を受けた、という事は、即ち力場を破られ盾そのものに攻撃を受けたという証明なのだ。

しかし、スコーピオンロードにそれに気付くほどの時間は与えられない。

 

眼の前のアギトが両手に弩の様な武器を構えている。

既にその手に冥府の斧は無い。

何処に、視線をアギトから周囲に向けるよりも先に、二丁の弩から放たれた、念動力によって十分に加速された無数の金属矢が、冥府の盾を蜂の巣にし、スコーピオンロードの肉体を挽肉に変えた。

 

金属矢はスコーピオンロードの肉体を破壊すると同時に消滅し、肉体の破片、残された頭部と胸部の大部分、腕の無い肉体もまた、火に掛けられた薄紙の如く消滅。

黒く、鋭利な装甲のアギト──二十二号は、手の中の弩を消し、残った冥府の斧を手の中で弄びながら、鼻歌混じりにその場を離れようとし……。

 

「待て!」

 

がしゃ、と、金属音

背後からの声に呼び止められる。

立ち去ろうとした二十二号が振り返れば、そこには赤い戦士。

仮面ライダークウガ、マイティフォーム。

いや、それを模して純粋科学の力により作られた、人類の牙。

仮面ライダーG1。

その声に、二十二号は聞き覚えがあった。

 

「お久しぶりです。一条警部補」

 

まるで旧知の友に会ったかのように気安い、明るい声色でその正体を看破る。

手の中で斧をペン回しの様にくるくると回し続ける二十二号に、G1──一条薫警部補は、手の中のGM-01スコーピオンとGK-06ユニコーンを構えながら。

 

「ああ、再会のついでに、署まで同行願おう」

 

「謂れ無い罪に問われそうなので嫌です」

 

「君には、公務執行妨害と、器物破損の容疑が掛けられている」

 

「器物破損に関しては置いておくとして……G3に襲いかかったのは俺ではないですよ。一応言っておきますけど、グロンギが居なくなってからは東京にも殆ど来てないんですから」

 

「やはり、アンノウンは未確認とは異なる種族なのか」

 

「グロンギ、未確認は滅んだから安心して下さい」

 

「ならば、奴らは何者か、君は知っているのか」

 

「……天使」

 

「何?」

 

思わず、一条はユニコーンとスコーピオンを下げかける。

荒唐無稽な単語、未確認、アンノウン、そのどちらとも異なるイメージの言葉に、本当にカルトにハマっているのか、と、そんな思考が浮かぶ。

 

「そんな声出さないで下さい。だから説明したく無かったのに……」

 

ちえっ、と、足元の小石を蹴る二十二号。

 

「申し訳ないのですが、去年に引き続き警察のお世話になる訳にはいきませんので、ここらで失礼します」

 

ぷい、と、金のマントに似た装飾で覆われた背を向ける二十二号。

軽くその場から跳び、近場のビルの上へと跳んでいく。

 

「逃げるな!」

 

スコーピオンとユニコーンを腰のホルダーに戻し、装甲に覆われた掌でベルトの左側、アークルにおけるレフトコンバーターの位置に据えられたスイッチを叩く。

紫電を纏いながら、装甲が赤から青に変色し、装甲の一部が変形を始める。

リミッターの外された脚部倍力機構が唸りを上げ、力強く跳躍。

脚部、背部にブースターが展開。

ご、と、激しく炎を噴出し、機械の鎧であるG1と一条を空へと打ち上げた。

激しい熱とGが一条の身体を軋ませる。

多くの代償と共に再現された機械式ドラゴンフォーム。

その、飛翔とも跳躍とも付かない軌道が、確かに宙を跳ぶ二十二号へと追いすがる。

 

「ん? お、おぉっ?!」

 

唐突なジェット音に振り返った二十二号が疑問、そして驚きの声を発しながら、予定していた着地点であるビルの上に着地。

次いで着地した一条に、二十二号が駆け寄る。

 

「すごい! すごいけど、作った人すごいバカじゃないですかこれ?!」

 

油断せずに構える一条、伸縮式の電磁ロッドを抜き放とうとし、それよりも早く懐に潜り込んだ二十二号が装甲に触れる。

瞬間、G1のOSが機能を停止。

いや、内部電源が全て切断された。

内蔵バッテリーから全ての電力が消え失せたのだ。

後に残るのは鉄の塊を全身に纏った、ジェットパックの起動で満身創痍の一条のみ。

 

「ふん、ふん……。凄いな、特殊な技術じゃない、既存の技術の組み合わせだけでここまでできるのか……。あ、やけどは治しておきますね」

 

まるで、正式な装着手順を知っているかのように装甲を順繰りに外されていき、ブースター周辺に負った火傷の辺りが熱を持ったかと思えば、痛みが引く。

何をされているか、理解しきれない一条。

腹部、ベルトにも見えるインジケーターを取り外され、何かが当てられる。

次いで、違和感。

()()が、体内へと潜り込んでいく。

 

「何を……何をしている!」

 

「いやだな、人助けですよ、人助け。……生半可な人じゃあ、腹裂かれて奪われておしまいですからね。どうやって見つけるか、ちょっと考えていたところなんですよ」

 

「何の事だ!」

 

「どうするかは迷っていたんですが、こんなものを付けてまで戦い続けるつもりなら、ね?」

 

違和感、苦痛ではない。

身体が作り変えられる。

 

「どうせその身体も、遅かれ早かれ、でしょうから」

 

何かが根を張る感触。

薄れゆく意識の中、一条は二十二号の笑い声を聞いた。

悪意の欠片もない、純粋な歓迎の言葉を。

 

「おめでとう、そしてようこそ。あなたもまた、新しいムセギジャジャだ」

 

 

 

 

 

 

 

 




※ラスボスルートに向かっている訳ではありません
たぶんな


☆でも客観的にはランダムエンカウントラスボスマン
きが くるっとる!
訳ではないのだけど、いい加減倫理観もガバガバになってきた
ほら、前回で箍が一つ外れちゃったから……
アルティメットの操る稲妻の力で加速された、封印エネルギーでコーティングされた金属の弾体は、射手の任意のタイミングでモーフィングパワーを解いて消滅させられる便利弾頭
殺意が高まっているというか、封印エネルギーの効きが強さの割りにいまいちなので火力を単純に向上させている
戦いというより狩りというよりも始末に近い
なお、類似装備が新ベルトの武器パターンにプリセットされている
外れた箍を付け直せばちょっと冷静になる
でも根本的にはこういう事を人類にたいしてしたいってのがあるので完全には治らないんじゃないかな

☆観察者サイドなヒロイン
おら、どうすんだよ、オラ!
って思ってるけど、電話とか来たら取り次いでくれる程度にはまだ期待してる
背負われてる時はおんぶ形式だから豊かな胸の膨らみがワクワクする
ワクワクさせるにはちゃんとした性欲を自覚させよう
ところでよくよく考えるとこいつ回収されたその日から欠かさず全身素手石鹸で洗われてるのって一種の性感開発なんじゃないかって思った
例えば指先とかそういう普通の場所をヌメヌメで撫で付けてから、最期に特に汚い粘膜部分だのを洗うって手順だと完全に丁寧な愛撫だと思うんだけどどうですか
成長を止めてたゲブロンが無い状態で女性ホルモンバンバン出されて育った可能性
でもこのSSはエロスとか求められてる感じじゃないんでね
書くべき展開と書くべき場面てもんがあるからね
──求められてる内容とか書くべきかどうとかでお前はSSを書くのかよ! 違うだろ!
そういう訳でこいつの性的な部分がどんな具合になっちゃってるのかは書きたくなったら空気を読まずに適度なタイミングで唐突に書くけど許せ

☆山ガール難波さん
ヤ マ ノ ス ス メ 
大切な事は直接会って話をしたいタイプ
話をしたい相手が山に登っていくのを見かけて、何故か最近高まり始めた身体能力に任せて登山を開始
中腹までを登山コースで歩いたところで、麓の道を妹を背負って走るターゲットを発見し、その日は心が折れる
家に訪問する勇気?
学校で連れ出して休み時間に話す勇気?
うーん、頑張ろう
いろいろ葛藤はあるだろうけどいい加減フラグ回収しないと手遅れになるぞい
ベルトはあるけど治療目的で渡されたので主人公的にはムセギジャジャではない
ここまでヒロイン面しといて外見容姿の描写がほぼ無いというのも珍しいのではないだろうか
APPは高いだろうけどOPPは決めてない

☆クラスメイトの方々
実は作中、主人公と難波さんの両方からぼかした事情を聞いているので、誰か一人でもおせっかいを焼けば事態を収束させられる
でもやらない、人の恋路とかに口出しするとマシントルネイダーのテーマが流れ出すからね!
基本善人揃い
ラスボスルートに入るとフルオートで新ムセギジャジャに登録される、善意で
そうすれば完全生存ルートが開けるぞ、嬉しかろう

☆スコーピオンロード
射的の的
盾に力場を作って防ぐという能力の関係上、盾を迂回する大鎌には弱いのではないか、と思われる
正面突破されて再殺完了
冥府の斧ドロップ

☆仮面ライダーG1/一条さん
ひさしぶりのまさかの再登場
山登ってるとこまででは本気で登場予定無かった
でも出てこない訳がないんだよなぁ……理屈で考えて
恐らく主人公の元に来なかった復活マラークの内幾らかを撃破してたのはこの人
下手にG1の負荷に耐えるもんだからフォームチェンジまで再現されて搭載されてしまった
青い四号再現装備は、装着者の負荷を気にしなければオリジナルの四号青の連続跳躍にも推進剤が切れるまではついて行けるぞ!
ブースター直近の肉体に対する熱遮断に関しては研究中だゾ★
みててあんまりな装備だったので、善意で何かを腹部に埋め込まれた
カムヒアにゅーチャレンジャー



新ムセギジャジャ募集中!
まっとうな精神性をお持ちの方、人類の為に戦い続ける事のできる善性な方
身体が頑丈で生き残りやすい方、放って置くと戦いの中で死にそうな方、勝手に進化して自滅しそうな方、歓迎します
時間切れによる自爆制度の無い明るい職場です
経験者優遇、戦歴によるゲブロン制御装置のアンロック要相談
面接、改造希望の方は新生グロンギ、新作ゲゲル運営委員会まで

そんなゲゲル運営に私生活での知り合いが突撃!

やめて! 親しい友人との仲直りで新たなンがリントとしての正気を取り戻したら、ムセギジャジャの登録者が元の狭き門に戻っちゃう!
お願い、正気に戻らないで主人公! あなたがここで正気に戻ったら、人類ライダー化計画はどうなっちゃうの?
まだ難波さんはヘタれてて主人公に突撃出来ていない
このままずるずると引き伸ばして行けば、新たなムセギジャジャがねずみ算式に増える事もありえるんだから!

次回
「ラブ展開大勝利、希望の未来へレディーゴー!」
ゲゲルスタンバイ!


そんな感じでもよろしければ、次回も気長にお待ち下さい

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