オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
師匠に挨拶を済ませ、適当に荷物を纏めて山を降りていく。
小さめに荷物を纏め、大半を置いてきたのは、勿論まだ予定していた修行期間が大半残っているから、というのもあるが、移動に際して邪魔になるからだ。
「行くよ、難波さん」
「うん」
足元にちょっとした着替えと財布、携帯(身元が割れるような品は置いておきたかったが、ジルを探す上で置いていくのは得策ではないとやむなく持っていく事に)だけを入れたカバンを置いて。
赤心寺からの視線が無い事を確認し、構える。
「変身」
「変身!」
変身後の姿に関して、実は多少の融通が効く。
具体的には必ずしも必要ではないと思われる器官に関しては省く事も不可能ではないのだ。
俺の今の基本形態は肩だの肘だの膝だの踵だのに切れ味鋭く自己主張も激しすぎる突起が多い。
戦わずに人を探す、というのであれば、武器となる部位は邪魔でしか無い。
変身した俺に、やはり変身した難波さんが抱きついてくる。
そういう風にお願いしたのは俺だが、ギルスに攻撃的ではない形で抱きつかれる、というのは、なんとも微妙な心持ちにさせられる。
しかし、それでいて各所になんとなく女性的な感触が残るのは不思議なものだ。
厚ぼったい服で着膨れた女性に抱きつかれるとこんな感じだろうか。
だが、今はその感触を感慨深く味わう余裕はない。
「跳ぶよ。しっかり捕まってて」
「うん」
跳ぶ。
物理的に脚部を使って跳躍する、という意味ではなく、瞬間移動をする、ということだ。
感覚でわかるのだが、俺が主導で行うのであれば、誰かを便乗させる事も不可能ではない。
誰が相手でも可能なのか、難波さんがギルスだからなのか、それとも魔石を使って身体を改造しているからなのか。
だが、ンに至らないゴやラにも転移を行っている疑惑のある連中も居たので、そうハードルの高いものではないのかもしれない。
一瞬だけ風景がかすみ、次に転移したのは東京の一画、屋上が立入禁止になっている高層ビルの上。
監視カメラや他のビルからの視線が無いのを確認、建物の中に入り変身を解除。
「でも、どうやって探すの?」
「闇雲に走り回っても見つけられないから、連中が出てくるのを待つ」
「ええと、マラーク、だっけ」
頷く。
思い返すに、俺が滝行をしている最中にマラークの活動開始を察知した時、ジルの視線は大雑把にではあるが、マラークの出現地点を向いていた。
どういう訳か、あいつにもマラークの行動を察知する能力があったのかもしれない。
そうでなければ、あのタイミングでムセギジャジャの証を立てに行く、などという理由で単独行動を始める訳がない。
……というか、この推察が全くのハズレで、意味もなく夏の暑さに当てられたジルが何の手がかりも無しにムセギジャジャとして認められる為の獲物を無計画に探しに行った、なんて場合、見つけるのは非常に困難になる。
少なくとも、俺はジルの教育を行う上で、そういう無鉄砲な行動をするようには育てていない。
何らかの勝算がない限り、行動を開始したりはしないはずだ。
「それまでは、適当にうろついていた方がいいかな。……バイクで来てればもうちょい楽だったんだけど」
しかし、まだ難波さんがバイクの免許を取っていないので、青森までは新幹線だったのだ。
まぁジルを連れて行く関係上、どっちにしろバイクは難しかったかもしれないが。
……サイドカーって、マシントルネイダーにする時どうなるかわからないものな……。
爆薬満載のミサイルにでもなってくれるのならサイドカー導入もありえるのだが。
「もしかして、まだ青森から移動中だって可能性も」
転移してからそれを言うか。
「先回りできたならそれはそれでいいよ」
それなら、到着した所を捕まえる事も難しくなくなる。
先にあいつが狙うマラークのところに向かえば、何をするでもなく勝手に合流できる。
「じゃあ、先回りしたとして、……交路くんは、ジルちゃんをどうしたいの?」
「わからない」
これが、例えば一年前であれば、話は変わってきたのだ。
グロンギとしての記憶と自我を取り戻したジルを見つけて、俺の素顔、素性を他所に知られない為に、グロンギの仕業に見せかけて殺す。
不穏分子を始末するのに、未確認の被害者としての死は都合がいい。
勝手に監視下から抜け出して殺されたというのであれば、これほど楽な話はない。
「でも、
そうだ。
はっきり言って、たった一年と数ヶ月、一緒に生活を共にしただけで、俺はあっさりとあいつに情を抱いてしまっている。
仮に、殺す必要があるとして、楽に殺せる程度の力しか持ち合わせていないとして。
素直に殺すことができるのかと言われれば、首を縦に振ることはできない。
放って置いても死なないかもしれない。
あの状態から生き返ったというのなら、オルフェノクとしてはオリジナルに分類される筈だ。
少なくともオルフェノクの中ではそれなりの強さを持つ方で、それはもしかしたら低位のマラークなら楽に仕留める事ができる程度の力かもしれない。
だが、実際にどうなのかはわからないのだ。
少なくとも、ジルになる前、ズ・グジル・ギであった頃の戦い方は、戦法もクソもない、有り余るフィジカルで前に進むだけのものだった。
仮に戦闘経験を取り戻していたとしても、その戦法に見合う種類の力かどうかもわからない。
或いは、あっさりと返り討ちにされて、衣類を残して灰になってしまうかもしれない。
それを、今の俺は受け入れる事はできない。
ムセギジャジャとしての証を立てると言った。
ゲゲルのシステムも理解している。
記憶は少なからず戻っている。
だが、今のジルの人格が、元に戻ったズ・グジル・ギの演技によるものとは思えない。
そう思いたいだけなのかもしれないが。
「……大事なんだね、ジルちゃんの事」
「うん」
絆されているのはわかっている。
それでも、もう、ある程度は安全面を確保できている。
力を付けた。
殺しに殺した。
頑張ったじゃないか。
魔化魍を殴り壊して、オルフェノクを不意打ちで殺し続けて。
一年、 グロンギを相手にゲゲルを勝ち上がって。
仮面ライダーでもあるまいに、一丁前に戦い続けてきたんだ。
偶には合理よりも、願望で動いてもいいじゃあないか。
方針は決まった。
「合流して、あいつの言う証を立てる場面を見届けて」
「見届けて?」
「話をする。色々な事を、全部」
ジル。
お前はどうだ。
ムセギジャジャになるのか。
ムセギジャジャに返り咲くのか。
敵なのか。
味方なのか。
──だが。
どちらにしても、変わらない。
「新たなゲゲル、新たなムセギジャジャ、か」
グジルであれ、ジルであれ。
敵であれ、味方であれ。
最後に行き着くところに変わりはない。
生き続けるというのなら。
このステージで戦い続ける事になる。
戦いとは生きる事だ。
生きるとは戦う事だ。
ジル。
グジル。
お前達が証を立てるというのなら。
ムセギジャジャに相応しいかどうかは俺が決めよう。
示してみるといい。
「え、なになに?」
「なんでもないよ。さ、行こう。まずはこのビルから出なきゃね」
そうしたなら、適当なコンビニで歩きながら食べられる朝食を用意して、それから探索を始めよう。
―――――――――――――――――――
貨物コンテナの積み重なる埠頭にて、異形の群れが蠢く。
アリを人型に引き伸ばし、奇怪な宗教的装飾を纏わせた様なフォルムのそれら異形の名は、アントロード、或いは、フォルミカ・ペデス。
超能力者の気配を、主より受けた使命により抹殺するため、半ば本能的に追いかけていた。
アントロード達の狙いは、とある施設に居た無数の超能力者達の生き残りの少女。
だが、今の彼らは最早少女には目もくれず、金の輝きを持つ戦士へと群がっていた。
金の角、装飾を持つ黒い肌の異形。
覚醒者アギト、或いは、一部の者には仮面ライダーと呼ばれる戦士である。
それは、生き残りの少女や、殺されたその仲間である超能力者達の行末でもあり、アントロードならぬあらゆるロードにとっても最優先の抹殺対象。
人から生まれた人ならざる力ある存在。
アントロードがアギトを三方から取り囲む。
逃げられぬように、稚拙ながら連携を取りつつ、アギトへと拳を、蹴りを繰り出す。
同士討ちを避けるためにタイミングはずらしている為、アギトはこれを一つ一つ確実に捌き、それぞれに反撃を加えていく。
戦況は未だ拮抗している。
それはアントロードが数を揃えてもアギトを圧倒できない程には双方の戦闘力に差があるという証拠でもあり、また、それほどに差がありながら、やはり数の利によって戦闘力の差が補われている証拠でもあった。
また、アギトからやや離れた場所では、市民の通報を受けて駆けつけた、強化装甲服G1を装着した一条薫警部補、G3-Xを装着した氷川誠警部補が戦っている。
三人が連携を取れば、或いは、G3-XがGX-05ケルベロスなどの重火器を使えば一掃も難しくはないのかもしれないが、場所が場所だけに誤射の危険性を考えて迂闊に使う事もできない。
更に言えば、アントロードの性質も問題だった。
多くのロード、マラークが個別の名前、個性を持っている中で、アントロード、フォルミカ・ペデスはほぼ同一の個性を持つ個体が無数に存在する。
人間を地上で溺死させる特殊な能力以外はこれと言って武装も無く、運動能力においても並のロードを下回るが、ただ数に任せて敵を取り囲み圧殺するという戦法は、他のマラークでは取り得ない。
そして、掴みかかる、殴りかかるといった単純な行動しかできない以上、どうしてもあぶれる個体が出てくる。
その個体はどうなるか。
さして知能の高くないアントロードの事。
抹殺対象
埠頭を見渡せる位置から、一つの影が現れた。
二メートル近い異形や装甲服が血みどろの殴り合いをしている広場が見えているのかいないのか。
背丈にして150センチも無いような、薄手の黒いフード付きパーカーを目深に被った子供。
それに最初に気付いたのは他ならぬG1、一条薫だった。
ナイフと拳銃を駆使して堅実にアントロードを捌いていた彼は、常人から離れ始めた五感で、そして精度のあまり良くないセンサー類でその姿を捉えた。
危ない、と、逃げろ、と、声を張り上げるつもりが、喉が詰まったのは何故だろうか。
或いは、彼がG1の頭部ユニットを外し、強化された視覚でそのフードを被った子供を見ていたのであれば、はっきりと理解できただろう。
その子供は──少女は、フードの隙間から覗く口元だけで、笑っていた。
―――――――――――――――――――
にぃ、と、口の端が釣り上がるのを、何処か他人事の様に感じる。
胸に湧く僅かな不安。
それを、溢れんばかりの高揚感が、もう一人の歓びが塗りつぶす。
噛み締められていた歯が開く。
ぎぱ、と、開かれた口からは、この季節にそう見ることも無い白い吐息。
身体が熱い。
燃えるようだ。
崩れてしまいそうになる。
喉から音のない絶叫が溢れ出す。
私の命を燃やす力。
私の命を守る力。
私はこの熱を知っている。
あの日、
命の溢れていく感触を覚えている。
貫かれ、命の熱が失われる感触を。
彼の炎が燃え移る感触を。
命を焼かれる感触。
命を奪われる感触。
私はあの日、彼の炎に侵されて。
―――――――――――――――――――
五感では感じ取れない何かが、一帯に確かに鳴り響いた。
その場の誰もが、一瞬だけ動きを止め、それを見る。
小柄な子供の姿がぐずりと白く融け、異形の姿を成す。
灰色の泥で塑像された未確認生命体四号。
灰のクウガ。
ゆっくりと、威風堂々と歩き出すその像が、心臓を中心に発生した鮮やかな紅い炎によって焼き払われ、新たな形を成す。
「アギト……」
氷川誠が驚愕に呟く。
それは、彼が遭遇する二体目のアギトであった。
或いは捕獲作戦で確認されたアギトの近縁種とも思われる存在とも違う。
ただ、その全身の一切を炎の紅に染めたアギト。
「二十二号……?!」
一条薫が驚愕の声を上げた。
それが二十二号でない事は理解していた。
最新の二十二号を知るが故に、二十二号が一度しか取っていない形態のそれを見ても、最近に活動を確認され、今も僅かに離れた位置で戦うアギトに近いと考えるべきであろうとも。
だが、一条薫の本能は告げていた。
あれはアギトかもしれない。
だが、
ゆっくりと歩いていた紅いアギトが、徐々に歩速を早め、走り出し、口を、クラッシャーを開く。
何に噛み付くでも無く、溶解液を吐くでも、炎を吹くでもなく、暗い口内から飛び出たのは声だった。
可憐とも言える少女の声。
その声を台無しにする、喉を潰さんばかりの咆哮。
声と認識するのも、文字に起こすのも難しい、奇妙な程に感情だけは伝わる音。
それは歓びの声だ。
歓びと共に吐き出される歓声。
疾走する四足獣の如き低い姿勢から、アントロードの脚を両腕で捕らえる。
膝を後ろから激しく押されて崩れるアントロードを持ち上げ、すくい上げる様に後ろに投げ捨てた。
頭から地面に落ちるアントロードの、そのうなじに紅い踵が振り下ろされ、踏み抜かれる。
ごきん、と、首の骨が折れる音、じゅう、と、喉と首の肉が焼ける音が響く。
頭部とのつながりを無くし動かなくなった死体を足蹴に直立した紅いアギトに、周囲のアントロードが群がる。
だが、その動きは常人には驚異でも覚醒者にとっては遅すぎた。
膝と足首のバネを僅かに使い、自らの身の丈よりも高く跳べば、追いすがるアントロードの伸ばした指先を足場に宙返りの様な再跳躍。
ひょう、と、軽業師の如く宙を舞う紅いアギトが、オルタリングに手をかざす。
ごう、と、吹き出す炎を握りしめ、引き抜いた手の中に収まるのは、ゆらゆらと輪郭を揺らす細身の片刃。
柄を両手で握りしめ、頭から地面に、足元のアントロード目掛けて落下。
揺らめきながらも鋭利な切っ先が首筋、可動の関係で装甲の薄い部分を、アギトの体重で押し込むように貫いていく。
鍔まで深々と突き刺さった時点でアギトの手は柄から離れ、実体を失い荒れ狂う炎へと姿を変える。
体内を、心臓や肺に当たる部分を焼き払われたアントロードが黒煙を吐き出しながら倒れ込み絶命。
その死体の上を転がり、アギトがアントロードの包囲から抜け出す。
起き上がる直前に再びベルトから吹き出す炎を握りしめ、勢いよく引き抜く。
生み出されるのはやはり半固形の刀身。
いや、最早輪郭がぼけるなどというレベルでなく、引き抜かれた勢いでしなる刀身はまるで炎の蛇の様にも見えるだろう。
その身を細く絞りながら、元の刀身からは考えられない程に伸びる刀身が、遠間に居るアントロードの頭部に目隠しするように絡みついた。
更に柄をもう一度、巻き付いたアントロードを引き寄せる様に引けば、何故かアギトの身体がアントロードの方へと引き寄せられていく。
起き上がる途中の姿勢に見えるアギトの足元をよく観察すれば、地面に付く脚が半ば炎と化し、僅かに地面から浮いているのが見える事だろう。
アギトが炎を巻き付けたアントロードの背後まで迫れば、炎の刃は収束し銀の刀身を取り戻す。
細く薄いしなる刃の締め付けが緩み、アギトが刃を引くと共に、アントロードの目元を切り裂きながら離れていく。
視覚の喪失によるショックから僅かに動きが止まったアントロードの後頭部を掴み、その首筋に刃をあて、勢いよく引き斬る。
じゅう、と、薄い装甲に守られた首を焼き切り、首を失ったアントロードの身体がその場に倒れ込んだ。
無我の境地で戦い続けるもう一人のアギトは、紅いアギトにより撹乱されたアントロードの隙を突き、フレイムフォームへと変身を果たす。
紅いアギトの変身を見ていないからこそ動揺も無く最適に動けているのだろう。
積み上げられたコンテナの隙間に入り込み、アントロードを誘導している。
追い詰められているようでいて、四方八方から取り囲まれる心配の無い位置取り。
鍔の展開したフレイムセイバーを構え、既に自らを狙うアントロード達への対処は半ば完了していると言っていい。
対し、G3-XとG1の対応は変わらない。
製造初期、G3はG1との連携を行える程の性能を持ち合わせていなかったが、既に銃火器の火力に頼らずともそれなりに乱戦をこなせる様になっている。
G1、一条もまた、G3-XがG1と共に連携を取れる程に強化された事で、一条薫本来の戦い方を取り戻しつつあった。
膂力に任せ、弾薬不足を近接戦闘で補う形ではない、射撃の名手としての技能は、G3-Xが持ち運ぶ火器や弾薬により十全に発揮される。
だが、近距離での格闘戦を避けて銃による中距離戦を狙えるのは、G3-XやG1に組み付かんとして隙を見せたアントロードを、紅いアギトが強襲を掛けて潰しているからだ。
アギトも、警察の強化装甲服も、紅いアギトも、互いのフォローをする事無く、手につく敵を片端から倒しているに過ぎない。
しかし、結果的に、各々が好き勝手に戦う事が、各々の戦いを有利に進めていた。
全ては十全だった。
アギト、G3-X、G1でも僅かな苦戦の後の始末できたところに、もう一体のアギトが現れたのだ。
この場に現れたアントロードを全滅させるのは時間の問題。
そこに、追い打ちを掛けるように……或いは、お溢れを拾う様に、それは現れた。
埠頭に響くヘリのローター音。
高度を下げて飛ぶヘリから、2つの黒い影が飛び降りる。
灰色の空、太陽の光で見えない、という事も無く、地上から空を見上げれば、その姿をはっきりと視認できるだろう。
着地時の衝撃を逃がす動きもせず、二本の脚をアスファルトにめり込ませながら戦場の中心に降り立つのは、二体の装甲服。
片や無手、群がるアントロードを殴り、いなす。
アントロードを相手に歯牙にもかけない、とまではいかないまでも、ただ身体能力に任せて襲いかかってくるだけのアントロードを相手に、明らかに武術の心得のある動きで翻弄している。
一目見て小沢澄子の作成したG3の系列とわかるデザインのその装甲服は、一条薫のG1を凌駕する性能を発揮していた。
そして、もう片方の装甲服。
全体のデザインラインは、小沢澄子の設計に見える。
だが、サイズ感が違う。
全高こそもう片方と変わらないが、明らかに分厚い装甲、頑強かつ複雑な装甲に守られた関節構造。
腰部にはG3のスコーピオンを大型化した銃器。
手に無造作に下げた分厚い刃を持つ剣は真っ赤に赤熱し、この瞬間にもジリジリと大気を焼いていた。
直立不動の装甲服。
しかし、もう片方の装甲服が投げ飛ばしたアントロードが、或いは殴られよろめきながら近づいてきたアントロードが間合いに入ると、機械の様に正確な動作で斬り捨てて行く。
また、射線上にアントロードだけとなった場合にのみ、腰の銃を抜き、正確にアントロードを撃ち抜いていく。
もっとも、もう片方の装甲服の周りのアントロードに限るのだが。
先に戦場に存在していたG1とG3-Xのそれと比べて未熟にも程がある連携でありながら、着実にアントロードの数を減らしていく。
アントロードを打ち取る速度で僅かに勝るのは、そのまま装甲服の性能の差が現れているのか。
その姿を、G3-Xのカメラ越しに目撃した小沢澄子は、G3トレーラーの中で椅子から腰を浮かせ目を見開く。
「そんな……まさか」
―――――――――――――――――――
無数のアントロードが溢れかえっていた埠頭から少し離れた路地。
人通りのある通りまであと少し、というところで、紅いアギトは無人の倉庫に背をもたれ、座り込んでいた。
口腔の見えないアギトの、恐らくは口に当たるであろう部分からは、夏の大気よりも熱い呼気が白い蒸気と化して断続的に吹き出す。
手が震えていた。
戦闘に対する恐怖から、ではない。
単純な疲労からだ。
よくよく観察すれば、震えているのが手だけでなく身体全体である事がわかるだろう。
戦闘は極度の疲労を伴う全身運動だ。
それこそ、軽業師の如く飛び回り動き回り続けたこの紅いアギトの運動量は半端なものではないだろう。
アギトは人間を超越した存在ではあるが、それでも肉体的な制約は人間としての枠に大部分は収まっている。
戦い続ければ疲労が蓄積し、パフォーマンスは低下する。
だが、それを考慮したとしても、この紅いアギトの疲労は説明がつかない。
ふと、紅いアギトの影が揺らめき、人の形を取る。
勿論人の形をしたアギトの影ならば人の形をしているのは当然ではあるが、そうではない。
暗い影は、影のまま僅かに発光し、裸体の少女の姿を投影している。
『
舌足らずに言葉を紡ぐ少女の影。
紅いアギトはその少女の影に対し、ひらひらと手を振って拒絶した。
立ち上がるのも難しい程の疲労ではあるが、幸いにして、徐々に回復しつつある感触も得ていた。
何より、この戦いは少女の同意も得ているとはいえ、自分が主導で行ったものである。
それによる疲れも痛みも、自分が背負うのが筋というものだ。
「お前にも、後で戦ってもらう。それまで、休んでおけ」
紅いアギトにとって、影の少女は……一言で言い表す事のできるほど、単純な相手ではない。
同居人であり、家主であり、或いは妹や娘の様なものでもあり、何より、今回に限っては共犯者と言えた。
今回戦ったのは自分だ。
失った力は大きい。
しかし得た力も大きい。
今回の様な戦いが出来たのは、この少女が日々に学んだ事を一つとして無駄にしないように脳内で反復し、知識として刻み込んできたからだろう。
そして、自分は肉体ではなく、少女の持つイメージを参照して戦っていたに過ぎない。
カウントを加算しようと思うなら、この少女がメインとなって戦う方が良い場面もあるだろう。
『あんばる!』
少女の影がぐっ、と、腕を曲げて力こぶを作るような仕草と共にやる気を見せた。
やる気だけはありそうで、しかし力強さは微塵も感じられないその仕草に吹き出す。
「ふうん」
──だから、だろうか。
そいつの接近に、気がつく事ができなかったのは。
「随分、面白い事になっているじゃないか」
黒い戦士。
金の六本角を冠の如く頭部に戴き、全身に金の装飾、血管の如きラインの走った仮面の戦士。
古きグロンギの覇者を破った、新しきグロンギの王。
「良い場所だ。カメラも人目も無い。……変身を解け」
解ける様に全身の装甲が消え、見慣れた顔が姿を表す。
何の変哲もない、何処にでも居そうな外見の少年。
威圧感すら無く、当たり前の様に下す命令に、反射的に変身を解く。
身体の内側から炎で炙られる様な熱が引き、万全な肉体の充足感が遠のく。
代わりにとでも言うように、息苦しさも痛みも、疲労も、何処かに消えていくようだった。
強靭な肌は、白く、見た目通りの柔らかさを備える人の肌に。
強固な鎧に覆われていた身体は、この一年と少しで急速に成長した女性的な身体に。
その姿は、先まで紅いアギトが話を交わしていた影の少女のそれと瓜二つ。
「ん」
ぶっきらぼうに差し出された手。
言動こそ違うが、それは普段、影の少女……自分の宿主に向けられるそれと同じもので。
「悪いな王様、脚が棒で歩けない」
「その呼び方は止めろ。……ほら、おぶされ」
無造作に背を向ける。
その背中に抱きつき、首に腕を巻き付ける。
「隙だらけだ」
「これは余裕という。隙ではない」
事実だろう。
自分の腕力では首を締めている間に投げ飛ばされるなりなんなりされて終わりだ。
そうする意味も無い。
少なくとも、現時点では。
「カウントは、9だ。何匹を目標にする」
「……聞かないのか?」
「お前のゲゲルを優先してやると言っているんだ」
その言葉に、顔がニヤけてしまうのを自覚する。
「女王を狙う。それと合わせて」
「ああ、十進法で言えよ」
「……ええと、…………いいや、40匹。女王を含めて」
未だに十進法には慣れない。
だが、このゲゲルをクリアして、正式なムセギジャジャになったのなら。
慣れる必要が出てくるのだろうか。
「……それで、何処に連れ込むつもり?」
「ホテルを取ってある」
「いやらしい」
「人目と人の耳がない場所に行くと言ったんだよ」
「声を我慢しなくていい場所とか、思春期め」
「……ジルもそんな感じなのか?」
「心配?」
「お前が外に出てる時点でな。……説明はして貰うぞ」
「わかる範囲でなら」
僅かに人の視線を集めながら、小春交路と小春ジル──グジル・ギは人混みへと消えていく。
こうして、グロンギの恐怖を封印しつつある東京で、新たなゲゲルが密かに幕を開けた事を、今はまだ、誰も知らない。
誰も知らない知られちゃいけない
最初はASHRさんの方に行かせようと考えていた事を
でも場所の説明と描写が面倒かつ、ハイスコアによるムセギジャジャへの昇格を狙うなら数が居る方に行くよな、という事でこちらに
☆今回難波さんに抱きつかれたり背中に豊満押し付けられたりと約得シーンしか無いタクシーマン
兎にも角にも瞬間移動が便利すぎる
最後の方の口調が超偉そうだけど、基本的にジルに対しては普段からこんな感じ
ジルと違いちゃんと合いの手が入るので余計に偉そうに見えるだけなのだ
初見でジルの人格でなくグジル人格だと見抜けたのは細かい所作と表情が違うのと、明らかに紅いアギトとジルが別々の意思で動いて会話していたから
今回はンではなくラとしての仕事を熟す
でもG4とか謎の装甲服に対して声を変えて色々ツッコミは入れるかもしれない
☆抱きついただけの人
多分別の場所をうろちょろしてジルを探してる
こっちをASHRの兄貴と合流させようかなと思ったけどタイミングが微妙に違うので断念
今回観戦役
☆ショー1くん
紅いアギトは気になるけど保護した小さい女の子も居るし、劇場版時点では普通にまなちゃんの家に居候してるので帰った
☆G3-X&G1コンビ
ガトリングだのランチャーだのを使えない状況だと割と苦戦する
冷静に考えてクウガマイティ完全再現のG1でもアギトのグランドフォームに比べるとかなり貧弱なので、サシでこれまでアンノウンを撃破してきた一条さんはやばい
一条ゲブロン「おう! あいつや、あいつの関係者やで! たぶんな! わかるやろ!?」
わかってもアントロードが包囲してるのでどうにもならない
☆謎の装甲服コンビ
変なやつらが居るぞ!
アントロードが普通に余裕で殲滅されそうになって慌てて出てきた
片方はみんな大好き
ビールのジョッキ何杯も開けた後に設計図書いたG3-Xを完璧と言い張る小沢さんが世に出せないと自粛した悪い意味でヤバいやつ
変な相方が居るために
もう片方の謎の装甲服の謎はまだ謎
でも書いてる内に色々設定詰められたから最終的に謎は解ける
実際そんな強くはない
☆紅いアギト
その正体はなんと死んだはずのズ・グジル・ギ
ふしぎ!
でもアギトとしては不完全もいいところ、というか、素体となる肉体にまだまだ不備が多く残るのでパワーゴリ押しはできないよ
ぶっちゃけ戦い方を工夫しないとアントロード相手でも苦戦するよ
変身中は全身が高熱を発しているけど、そのせいもあって継戦能力はまぁまぁ劣悪
詳しい解説は次回
そして今回出番がほぼない難波さんの、変身後のレアフォームをナナス様より頂きました
【挿絵表示】
よく考えてみれば、今回変身したけどフォームチェンジしてないから珍しくこのカラーなのかも
いわばクウガギルスグローイングフォーム……
豪華なグローイングフォームだなぁ
あ、おっぱいの盛りが豪華ってわけじゃないですよ?スペックの話なので
あ、今のはシモネタじゃなくて注釈なので引かなくていいですよ?
おっぱいの盛りは紅いアギトの方が上かもしれない
元のスペック的に
そんなわけで色々解説する関係上、次回は半ば解説かなぁ
でも作中の戦闘、次は自衛隊本拠地なので、その前に寄り道ですね
たぶん、説明受けた後で真魚ちゃんハイエースの場面に見切れて、藤岡弘、さんが良い笑顔をする場面で見切れたりします
人と会う時は変身後を貫き通すから客演時も安心
でも全ては書いてみないとわからないしここに書いたことはあくまでも未定の予定なので未定で全ては謎なのだ
そんなのでも良ければ、次回も気長にお待ち下さい