オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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29 振り返れば

言うまでもない事ではあるのだが、俺は休眠状態のものも含めて全てのゲブロンの位置を把握している。

これは俺が超能力者であるからなのか、その上で体内にゲブロンと同種の力ある鉱石であるアマダムを内蔵しているからなのか。

一年以上前、グロンギ連中が発掘されて活動を開始した時からそうなのだが、探知範囲は当時の比ではない。

 

当然、俺が手ずから外装兼制御装置であるベルトを作り上げて搭載した個体に関しては、個別に把握できる。

なので、俺は一条さんが強く戦意を燃やし、常人なら全身筋繊維断裂を起こしそうな勢いで戦い始め、それに伴い脳内麻薬の適度な分泌による痛覚の低減だとか、破壊された肉体の修復などの為にゲブロンが活性化したのを把握できる。

そして、現状の一条さんがそういった戦いを行うのであれば、その対象はほぼ間違いなくマラークなのだ。

……まぁ、万が一俺がマラークの活動開始を察知できなかった場合の保険にはなる、という程度の話だ、今年の内は。

 

俺がゲゲルのターゲットとなるマラークの発生現場にジルが向かう事を想定し、あの埠頭を見渡せる場所にひっそりと佇んでいた事は、最早言うまでもあるまい。

当然、俺はあの場での戦いを全てじっくりと観察していた。

ジルのゲゲルの様子や、戦い方を見ていた、というのもある。

だが、それ以外の戦闘の様子も見ていてとても参考になった。

基本的に、戦場に赴く時は殺さなければならない相手、殺すべき相手が居る時であり、ただ見ているだけ、という状況がほぼ無かった為に、なかなかこういう機会は無かったのだ。

 

まず、俺が初めて目撃した素アギトこと、津上アギト。

参考にならない。

勿論良い意味で、だ。

グランドフォーム時は安定したバランスの良いパワー配分を生かしての格闘戦。

これは格闘技を学んだが故の動き、という訳ではなく、何も考えていない……無我の境地で戦うが故の、相手を排除するのに最適な動きが、結果的に武術の達人が如き動作に収束しているだけなのだ。

俺はどうしても色々考えながら戦ってしまうのでとても真似はできない。

しかし、基本的にマラークが活動を開始したら他の作業を中断しても殺しに行ってくれるのでとても良いと思います。

オルフェノクとかファンガイアとかワームとかにも反応して殺しに行ってくれるとなお良し。

マラーク以外にも反応して戦いに行くとなると将来的に持つレストランの経営は安定しないだろうけど、そこはうまくやってくれると嬉しい。

 

次、特殊強化装甲服であるG3-Xシステム。

美しい。

これぞ人間の為の刃ではないだろうか。

単純出力だのバッテリー式だの持ち運びだの、色々と問題は抱えているが、基本的には全て地に足付いたテクノロジーで動いている。

設計図さえあれば民間ですら製造が可能な上、単純な腕力で言えば超テクノロジーなファイズギアと並ぶ事が可能だ。

勿論、フォトンブラッドなどが無いために、単純にオルフェノクを殺す事ができるとは言わないが……数を揃えて神経断裂弾を使えばどうとでもなる。

実際、数年しない内に神経断裂弾の製造法が国外に漏れて軍事利用されたりするので弾薬の製造も問題ないだろう。

今回の戦闘でも、決め手となる武装を使えない状況にもかかわらずアントロード相手に善戦しているのだ。

本来、G3-Xの腕力ではアントロードに組み付かれるのもまずいのだが、警察官特有の柔道や捕縛術などで対応していたのも素晴らしい。

こんなものを焼肉屋でビールをジョッキで何杯も空けた直後に設計してしまうとか、まさに天才の所業である。

多分AI組むのとか人間が操るのを想定したりするのが絶望的に苦手なのでそこらへんでバランスを取っているのだろう。

シラフの時にAI部分以外を全力で作れ。

 

そして一条さん。

曰く付きのG1システム。

未来を感じる。

ぱっと見たところ、以前にモーフィングパワーでバッテリー内の電力を枯渇させてチェックした時と比べて、だいぶ改修が進んでいる。

組み付いてくるアントロードに対して繰り出された拳の速度や殴られたアントロードの吹き飛び方から見るに、現状、封印キックを使えないライジングマイティくらいの腕力はあるだろう。

勿論、中身が生身未改造の人間であったなら、戦闘後どころか戦闘開始数分で全身の筋肉がズタズタになって重篤な後遺症に悩まされる事になることは間違いない。

ベルトを装着し、再生能力と更に頑丈になった肉体を備える一条さんだからこそ扱いきれるスペシャルだ。

が、これは欠陥品ではない。

内部の人間に対する配慮こそ致命的に足りていないが、ギリギリの所で死なないレベルに抑える程度のなけなしの安全装置が組み込まれているし、実際、中身にしても多少改造した人間であれば代用できなくもない筈だ。

一条さんは緊急避難としてベルトでの改造を敢行したが、例えば常人でも薬物やインプラントによる強化を行えば、普及も難しくはない。

将来的に、純粋な人間がどれくらいの割合になるかわからないこの世界においては、そのうちありになる装備かもしれない。

イクサなどが量産されなければの話だが。

技術交流とかしろ。

 

黒い装甲の見た目デザインだけは良い鉄屑が二体居たが、特に見るべき箇所は無し。

後の改良にしても、野良の高位超能力者を使い捨てにしてドヤ顔をしている辺り、超能力開発とかいう閑職に押し込まれるのも宜なるかな。

超能力者同士の交配実験や開頭しての脳開発に手を出していないのは、おそらくそこまでの許可は出ていなかったからか。

心臓が動いているだけの死人にも、救えないレベルの馬鹿にもムセギジャジャは務まらない。

死にたければ勝手に死ね。

 

そして、肝心のジルだが……。

 

「兄さん、私、アイス食べたーい」

 

「その猫なで声を止めろ」

 

適当なアイスを買い物かごに投げ込み黙らせる。

こいつを背負ってコンビニに入るのは少しばかり周囲の視線を集めることとなったが、どうせこの辺りは生活圏ではないので気にしない事にする。

地元でこんな真似をしたら……。

……してたけど問題無かったな。

じゃあ良いか。

 

「ダッツ?」

 

「ダッツ」

 

「おお、ダッツ」

 

別にその他のアイスが悪い、という訳ではないのだが、グジル……ジルのムセギジャジャへの昇格が掛かっているのだ。

やる気を見せたのであれば、そのやる気がしっかりと実を結ぶ様にサポートをするのは当然の事だ。

ムセギジャジャはそれなりに選んで増やすつもりだが、増えるなら増えるほどよい。

 

さて、グジルが出ずっぱりになっている現状はホテルに着いてから説明して貰うにして。

赤い、紅いアギトだ。

全身、それこそ通常のアギトの黒い皮膚部分、アーマードスキンまで紅い。

象徴的なパーツであるクロスホーンの金色すら赤みを帯びているとは如何なることか。

円谷監督が若かりし頃に出会った謎の宇宙人をモチーフに作り上げた空想特撮番組放送当時の適当な色彩の怪獣ソフビ人形か何かだろうか。

財団Bが資金調達の為に製造したプレミアムなお客様向けの限定カラーでもあるまいに。

お前が夏に向けて猛特訓したりしていた訳ではない事は割れているのだ。

身体に負荷を掛けすぎない程度な運動と、栄養に偏りの出ない良質な食事に、整った生活リズム、十分な睡眠……。

今年、新たに難波さんに水着を選び直して貰う事になったのを俺が忘れているとでも思っているのか。

夏に向けて鍛えていたなら、間違いなくそんな事にはならない。

 

アギトになる前にオルフェノクらしき形態を挟んでいた為に単純にアギトに進化した訳ではないのだろうが……。

考えてみれば、こうなった理由にも心当たりがある。

 

オルフェノクは――少なくとも現状一番組織だって行動しているオルフェノク達のトップは、自分たちを進化した人類であると標榜している。

そして、進化した人類、という分類で言えば、間違いなくアギトこそが最先端と言って間違いない。

これは自分がアギトだからアギト贔屓をしている、という訳でなく、厳然たる事実として断言しているのだ。

細かい優劣を語り始めるとキリがないので省くが。

 

今後、実証実験ができる場面があると思えないので、あくまでも推測の域の話になるのだが。

オルフェノクという種族全体が可能であるとされている行為の中で、アギトが出来るかわからないものが、たった一つだけ存在する。

 

使()()()()だ。

 

オルフェノクが行う使徒再生、その方法は多岐にわたるようでいて、実際は二種類しか存在しない。

指先や身体の突起部分から伸びる光の触手により獲物の心臓を破壊するパターンと、そのオルフェノク特有の武器で心臓を破壊するパターン。

光の触手はこの場面以外では現れる事も無いが、恐らくは活性化したオルフェノクの記号……オルフェノクの力の源、アギトにおける火のエルの力の欠片にあたるものだろう。

モチーフとなるものが多岐に渡るオルフェノクが全員持っているものとなれば、それ以外は考えられない。

そしてこの光の触手、力の源を具現化したものが、各オルフェノクの武器となる。

 

こじつけに聞こえるだろうか。

だが、俺は恐らくこの日本において、オルフェノク研究機関やオルフェノクの組織を除けば一番間近でオルフェノクの繁殖現場と繁殖用の光る細長い他人の大事な所を貫くアレを見続けてきた実績がある。

俺は今まで出会った全てのオルフェノクを騙し討ちで殺してきたが、そもそも騙し討ちをする前には必ず日常場面からの卑劣な不意打ちを回避している。

見慣れもするというもの。

故に、感覚的にあの光の触手がオルフェノクの根本に近いものであるとわかるのだ。

 

そして、アギトだ。

少なくとも俺はああいった戦闘にも日常にも役立ちそうに無い卑猥な繁殖器官を備えていないし、出そうとしても出なかった。

俺の知る限りのアギトがそういった器官を露出している場面を見たことはない。

ギルスは触手を標準装備として搭載しているが、あれは実際は寄生生物であり、アギトの力、火のエルの力とはあまり関係ない。

が、アギトの力、火のエルの力が具現化した武器というのなら、大体のアギトが気軽に生成する事ができる。

 

火のエルの力、というのであれば、やはりフレイムセイバーが一番近いと感じる。

俺がズ・グジル・ギを殺したのは、ストームハルバードだ。

だが、ストームハルバードは風、嵐を司る武器ではあるが、間違いなくアギトの力から生まれた武器。

死に体のズ・グジル・ギの背を踏み、確実に息の根を止めるために心臓に刃を突き刺し、押し込み、捻り、引き抜いた。

完全に心臓を破壊したのだ。

アギトの力の顕現である武装の一つを使って。

それが原因でない、と、断言できるだけの証拠はない。

勿論、単純にこの世界ではアギトの力を秘めたままオルフェノクとして目覚めるとああなる、という可能性もあるが……。

 

俺は、アギトの力について、それなりの知識を持っている、筈だ。

この世界のアギトが俺の知るアギトと完全に同一であるかはともかくとして。

だが、それでも、アギトの力には謎が多い。

いや、そもそもの問題として、元々の原因である火のエルという存在が謎に満ちているのだ。

 

確かに、俺の知る限り、最終的に火のエルは他のエルロードと同格の存在、闇の力テオスによって作られた天使の一人という事になった。

だが、それは最終的にそういう設定として固まった、というだけの話であり……。

俺の知る作中の世界ですら、最終的にそういう形で収まったというだけで、元は違う存在であった、と、考える余地がある。

例えば、水のエルはアギトが進化した際に初めて、無限の進化の可能性に気付く事ができた。

水のエルと火のエルが同格の天使であったと考えた場合、何故同じ主の下で活動していた水のエルは火のエルの無限に進化するという特性を知らなかったのか。

知っていたのであれば、アギトが戦いの中で進化したとしてそこまで驚く事は無かっただろう。

アギトは、いや、火のエルであると定義された何者かは、他のエルとは異なるイレギュラーな存在だったのだろう。

 

こうして考える機会が増えてくると、色々なものが見えてくる。

赤心寺での再修行も、ジルの突発的なゲゲル開始も、手元のものや、相対するものを見直す良い機会になった。

勿論、結果論でしかないので、ゲゲルの裁定は厳粛に行う事にするが。

 

―――――――――――――――――――

 

そうして、難波さんに電話でジルを捕獲した事を伝え、ホテルで合流する事に。

少しばかり周囲の視線を集めてしまっていたが、人と人のつながりが弱く、未だSNSなどが発達していないこの時代ならば特に問題はない。

ジルの話す内容が如何なるものになるかわからないので、人の耳を警戒して取っていた部屋の中、三人で顔を突き合わせての説明会になるだろう。

 

部屋の扉を開ければ、難波さんが所在なさげにベッドに腰掛けていた。

待たせてしまっただろうか。

背負うジル……グジルの肉体に負担を掛けないように日差しを避けつつゆっくりと歩いてきたせいで遅れてしまったのだと説明すれば許してくれるだろうか。

ダッツを多めに買ってきたので。

そんな事を考えていると、背後に背負ったグジルが舌打ちを飛ばした。

 

「ダブルじゃなくてツインかよ。難波ぁ! 度胸どうしたぁ!」

 

「お前も居るからトリプルだよ」

 

「心の準備が必要なんだってぇ! ……うわぁジルちゃんが喋ったぁっ?!」

 

話す内容がどんなものかわからないので、これでも気を引き締めていたつもりなのだが。

部屋の中の空気は、一瞬にして弛緩してしまった。

元のズ・グジル・ギは煽られると一瞬で沸騰する湯沸かし器みたいに脳みそ空っぽのパワーファイターと思っていたのだが。

ジルが0から成長する中で、こいつも密かに変化を続けていたのかもしれない。

油断ならない相手だ。

 

―――――――――――――――――――

 

さて、何処から話したもんかな。

話は結構遡る。

一年以上は昔の話だ。

当時、私は忌々しい封印から解き放たれて、再開したゲゲルで出番が回ってきた事に浮かれていた。

自慢じゃあ無いが、ズの中では私の豪腕に敵う相手は居なかったし、逃げ場の無い水上を狩場に選んで、もう後は殺して殺して、その日の内に昇格するつもりで居たよ。

前は糞みたいな手で封印されちまったけど、今度ばかりはそうはいかない。

ズ・グジル・ギ改め、メ・グジル・ギが、直々に現代のクウガをバラバラに引き裂いてやる、ってね。

 

出だしは順調だった。

昔、リントが今みたいになんでもできるようになる前は無かった『フェリー』とかいうのに、人が大量に乗ってるんだ。

メにもなれば、ゲゲルは単純な的当てじゃなくなる。

ルールを追加する、っていうのに慣れておこうと思ってさ。

とりあえず、船に乗ってる相手だけを殺すつもりで始めた。

抵抗なんか無かったよ。船の外に逃げるやつすら居なかった。

腰を抜かしてずりずり這い回る奴らが居たくらいか。

 

適当に暴れて、船内の連中を殺し尽くせば船は用済み。

いや、船が沈めば救助するために新しくリントがやってくるな。

適当にあちこち壊して、船底に穴を空けて、後は水中で待ってれば次の獲物が勝手にやって来る。

天啓だなって思ったよ。

浮かれてた。

クウガだって水の中の私を攻撃する事はできない。

悠々ゲゲルをクリアして、強くなったら次のゲゲルででもクウガを殺してやろう、ってな。

 

馬鹿な話だろ?

実際、私からすれば、クウガと言えば変な馬に乗ってやってきて剣で切りかかってくる奴、くらいの印象しか無いからさ。

水中で矢に刺される、なんて、想像もしてなかった。

 

イテッ、ってなって、なんだこの野郎ぶっ殺してやる、ってなって。

陸に上がってみればクウガが居るだろ?

そしたら舐めた口聞いてくるから。

じゃあぶっ殺してやる! ってなって。

ぐわぁ、って、殺された訳だ。

 

「そこまで潔く無かったけどな」

 

そりゃあ、負けたら悔しいし、殺そうとした相手にあっさり殺されたらちくしょう、ってなる。

でもまぁ、幾ら悔しくても死んじまったらどうにもならない。

腹も破られてゲドルードも壊されて、挙げ句に心臓までやられちゃあ、死ぬしかない。

でも、死にたくないな、って。

たぶん、そういう事を考えてた。

なんで死にたくないのか、とかまでは考えられなかったと思う。

ゲゲルで勝ち上がりたい、とか、クウガぶっ殺してやる、とか、そういえばこの時代の飯はどれも美味いな、とか、リントは色々作ったもんだ、とか。

そういうのでぐちゃぐちゃになって、でも、身体はもう動かなくて。

だんだん目の前も見えなくなって、何も聞こえなくなって、抉られたところの痛みも遠ざかっていって……。

 

「…………」

 

ふと、身体が動いた。

私が動かしたわけじゃない。

誰かに引っ張り上げられた、とか、そういうのでもなくて。

私の身体を、私じゃない誰かが、自分のものみたいに動かしてる。

……そう思えたのは、かなり後になってからだけどな。

実際、この時点では夢を見ている様な感覚だった。

見えている様な気がする目、聞こえているような気がする耳、なんとなくお腹が痛い気がして、目の前の海に帰りたいような気がして。

そう、自分が感じている、思っているような気がして、なんとなく、考えたとおりに動いている様な気になってた。

手足の感覚もふわふわとしていたから余計にそう感じたよ。

 

でも、一番に感じたのは多分、熱さだ。

ふわふわと頼りない感覚の中で、心臓の辺りから感じる熱さだけははっきりとしていた。

刃物を刺し入れられる痛みの様な、そのまま炎を放り込まれた様な。

その熱をどうにかしたくて海に入りたいと思っていたようで、でも、この熱が自分の身体を動かしている。

 

私は、ふらふらと海に近づいて、頭から海の中に飛び降りて……溺れた。

私なら絶対にこうはならない。

まるで、私の身体は泳ぐ為の動きを知らないみたいだった。

波に揉まれて浮いたり沈んだりして、水を飲んで、肺にまで入って、息もできなくなって……。

 

気付けば、私は知らない土地の海岸に流れ着いていた。

 

後で聞いた話だけど、私はかなりの時間、かなりの距離を流されていたらしい。

普通なら死んでたって。

でも、当時の私がそんな事を知る由も無い。

ああ、助かったのか。

そんな事を思いながら、身体がのろのろと立ち上がるのを他人事みたいに感じてた。

映画を見てる、くらいの感覚かな。

ここまでくると、この身体が自分の意思で動いていないのくらいは理解できた。

 

ただ、完全に他人事、とはいかなかった。

身体は勝手に何処かを目指して歩き出している。

手足の感覚は鈍くて、動きも悪い。

腹とか背中の傷は塞がってるけどまだ痛い。

身体が重い、流されている間に靴も脱げていたからか足も痛い。

なんとなく、身体を動かしている()()もそう感じているのがわかって、でも、それを止める手段は無い。

ただ、胸の炎に焼かれるままに、熱に導かれるままに、何処かに行こうとしている。

 

歩いて、歩いて。

日が落ちて、日が登って、また落ちて。

食うも食わずの状態でひたすら歩いた。

喉が乾く感覚と、乾きを通り越して苦しくなくなっていくのを感じた時はヒヤヒヤしたよ。

私は、この時代だとそこらの公園で簡単に水が飲める事を知っていたけど、()()()は喉が乾いた時にどうするのかすら知らなかったんじゃないか?

こいつが動けなくなってぶっ倒れた時点で、私が少しだけ身体を動かせた事と、近くに水道の蛇口があったのは運が良かったとしか言えないね。

 

這いずりながら水をどうにか飲んで、また倒れて、私が意識を失う。

すると、また目が覚めた時には勝手に身体が歩いていた。

ぶっ倒れて、自分が死ぬ寸前だった事は間違いなく理解できてなかったろうな。

ただ、私もそこまで必死だった訳じゃない。

死にたくないと思いながら死んで。

何故か死んでいないけど、身体はまともに動かせない。

半分夢の中の様な感覚だったからかな。

こいつが、どこか、何かを目指しているのは理解できたからか。

じゃあ、その目指す何か、ってのを拝んでやろうじゃないか。

少しくらいは手伝ってやろう、ってね。

 

「……その、何かってのは見つかったのか」

 

お前だよ。

 

「俺か」

 

知ってて聞いたろ、今の。

 

「ふん」

 

まぁ、いいさ。

目指しているものが何かわかったのは、それからしばらくしてからの話だ。

警察に見つかるのも不味い、ってのを、私だけが理解しててな。

こいつが夜に眠るたびに、適当な物陰とかに這って移動して夜を明かして、とうとう、隠れる場所なんてなさそうな住宅街に辿り着いた。

視線は真っ直ぐに何処かを貫いてる。

この視線の先に、目指す何かがあるんだろうなってのは嫌でもわかった。

そして、ふと、そいつの背中が目に入る。

胸の炎が強くなる感触。

 

ああ、あいつだ。

脇目もふらずに何処かに走っていくそいつ。

その背中を見た瞬間、身体から力が抜けて、倒れ込んだ。

喉が乾いた訳でもない、疲れ果ててはいるけどまだ歩ける。

たぶん、安心して、力が抜けたんだろ。

私も、いい加減代わりに身体を動かしてやるのにも疲れたから、車に轢かれないように、そいつが出てきた家の前に身体を寄せて、意識を手放した。

 

―――――――――――――――――――

 

「……で、後は知っての通り。私は拾われて、あいつは小春ジルになった」

 

名前はどうにかなんなかったのか? 語呂悪すぎ。

そんな事をケラケラ笑いながら言うグジルを無視し、腕を組む。

ちらと難波さんの方を見れば、なんとも言えない顔で黙り込んでいる。

さもありなん。

今まで言葉どころか喉から呼吸音の類いしか出ていなかったジルがしゃべくり、事前に筆談によって説明されていたとはいえ、そのジルが……というか、ジルになる前のグジルが嬉々として殺人ゲームに挑戦して人を殺していた事を告白されたのだ。

だが、それは以前から知っていた事だろうから慣れてもらうしかない。

 

「つまり、最初からお前の意識はずっとあったのか?」

 

「夢心地って言ったろ? ふわふわしてて、さっきの説明だって夢の内容を思い出して、たぶんこう思っていたよな、って感じで、後から付け足してる部分もある」

 

「ジルの意識が無い時は自由に動けたのか?」

 

「いや、よっぽどの時じゃないと出来ない。信じる信じないは自由だ」

 

「意識がはっきりしたのは?」

 

「徐々に、かな。そうでなきゃ、今より反発してた」

 

「まぁ、ゲゲルを止めたのは俺だからな。……今、大人しくしてるのは?」

 

俺の言葉に、グジルは俺の目を見て、真っ直ぐに答えた。

 

「あんたが勝ったからだ。勝ち続けて、上り詰めたからだ。あんたは力を証明した。私達の法はもう無い。あんたが王で、法なのさ」

 

ふむ。

……十中八九、こいつの蘇生には俺が関わっている。

偶然に、生への執着と因子の有無でオルフェノクとして蘇生したと考えるには余分なものが多すぎる。

アギトの力が、使徒再生に似た何かを引き起こした事は間違いない。

残念な事に、俺は未だに俺以外のアギトの力を持つ者を察知する能力は持たない。

だが、言われて見れば、確かに、こいつの中に何かを感じる……気もする。

言われてからしっかりと確認しなければ認識できないような、弱い弱い灯火の様な力。

他人から魔石を通して力を取り込んだ経験が無ければ気づけなかっただろう。

 

そう、弱々しい力だ。

魔石を通して取り込んだものよりも弱々しい。

逆に、なぜあの程度の力で変身までできるのか不思議にも思うのだが。

……恐らく、こいつはオルフェノクでもあるのだろう。

オルフェノクとして蘇生し、その上でアギトの力に影響されているのか。

アギトの力で蘇り、眠っていたオルフェノクの記号も呼び覚まされたのか。

どちらが主で副なのかはわからないが。

形として、俺がアギトの力を覚醒させきっていなかった頃のそれに近い。

 

クウガオルフェノク・アギト体とでも言うべきか。

殺した相手と殺された相手で、結果として似た形の力を振るう事になるのはなんとも因果な話だ。

 

「今、ジルの意識は?」

 

「あるけど、今回のゲゲルの間は私がメインで出る事になってる」

 

「話し合ったのか。……話し合えるのか?」

 

「あいつが言葉を覚えた時点から、ちょくちょく。仲は悪くないから安心しな。同じ男に気持ちよくされてる仲だ」

 

「誤解を招くような言い方はやめろ」

 

「気持ちよく?」

 

難波さん、なんでこのタイミングで割り込んだの?

鼻息荒いし、前のめりすぎるし。

年頃の女子高生としてはしたないのでは?

グジルも、おっ、食いついたな、みたいなニヤケ顔で腕を組んで、頷きながら続きを話し始めるし。

 

「風呂で手で身体を洗ってもらってると、ほら、結果的にスローセックスの挿入寸前までみたいになるんだけど、寸止めだからイケる時とイケない時があってなあ。今はそんな事無いんだけど、それでジルがムズムズするからってこいつの太ももでこすり始めて……おいおい聞いておいて恥ずかしがんなよ、こっからだぞ?」

 

「こ、ここから? ここからなの?」

 

「そうだよ。な?」

 

「やましい事はなにもないぞ。解消法を教えて、ジルが教えても自分でやれなかったから手伝っているだけだ」

 

実際、生きていればそういう欲求も出てくるだろうし、事前にちゃんとどういう現象なのかを教えて、定期的に解消してやった方が変な行動にも出ないので安心なのだ。

欲求不満を抱えすぎて夜中にこっそり家を抜け出して……なんて事になったら、ジルの成長にも悪いし、下手をすれば死人が出る。

 

「ジルが教えても出来なかったねぇ」

 

「自分ではやらなかったろう。やってくれ、と頼んでは来たが」

 

「まー、そっちからだとそういう解釈になるかなぁ。うん、それで我が王が納得してんならいいよ。私もきもちいーしね」

 

ちろ、と、舌を出し、流し目を送ってくるグジル。

挑発的だ。

俺が万が一にも最後まで手を出したらどうするつもりなのだろうか。

 

「う、うぅ、あの、聞いておいてなんだけど、そろそろ話を元に戻そう?」

 

顔を真っ赤に染め、悔しそうな、しかし、どこか責めるような視線をこちらに向ける難波さんが、控えめに手を上げて自己主張しながらそんな言葉を吐いた。

 

「脱線させたのお前だけどな! やーいむっつりドスケベぇ!」

 

げらげらと笑いながら難波さんを指差すグジルの後頭部をひっぱたき黙らせる。

余計な事を言ったのはこいつなので、脱線させたのが難波さんで、実際に彼女がエッチな話題に即座に食いつくむっつりドスケベのそしりを免れないとしても、やはり原因はこいつなのだ。

俺が原因という事はないだろう。

俺がジルに手を出してた、とかなら話は別だったが。

 

「それで、このタイミングでムセギジャジャになろうとした理由は?」

 

「自衛の為……ってのは、信じないか」

 

グジルは、す、と、居住まいを正し、俺の正面に座り直す。

先までのおちゃらけた雰囲気は鳴りを潜め、その表情と、俺に向ける視線は正しく戦士のそれで。

 

「今回のゲゲルで、無事にムセギジャジャに昇格できたなら。コウジ、私と、一対一のゲゲルをしてくれないか」

 

その言葉は、未だ資格が無くとも、確かに一人のムセギジャジャから叩きつけられた挑戦状だった。

 

 

 

 

 

 

 




☆手マンと書くと嫌らしい事してるように見えるけど実際嫌らしいことしてるから言い訳できない筈だけどゴリ押しで言い訳を押し通した初対面の少女を押し倒して後ろから固くて長くて鋭いものを突き刺して無垢な子供(ジル)を作らせた非道マン
二人目以降は無意識の内に繁殖を防いでいたので結果的に有能
でも全ての相手でこの使徒再生ができるなら相手が女である必要はないので最悪精神が赤子の閣下を弟として……みたいな事もありえたのか
いや、もちろんその場合はあっけなく始末してたんだけど、ママンが
ちなみにそういう事をしても意識したりはあんまりしない
どれくらいしないかっていうと、背負っておっぱい押し付けてきてなおかつ小悪魔言動を繰り返す形になっても素で返すくらいしない
チャンピオンになったからには、乗り越えるべき相手が居たとしても背中から追う相手が来るのも受け入れなければならない

☆身体は屈しても最後の最後の一線つまり心だけは許さない系ライバルヒロイングジル
負けたらお前即落ち二コマだかんな
長期的に見ると、催眠疑似人格状態でエロい事されてたみたいな状態にある
初期状態で意思疎通ができなかったのは、そもそも目覚めたばかりのジルには言語を理解するだけの知識が無かったので、頭の中からへんな音がするな、みたいな感覚でしかなかったため
なんで蘇生してから家に辿り着いたかと言えば、ジル的には母親とか父親の気配に近寄っていただけという話
変身体はオルフェノクのボディをアギトの力で変質させている、いわばズ・グジル・ギ時代に戦った主人公のアナザーバージョン
どっちかって言えば響鬼紅みたいな紅さ
初期案というか初登場時は真っ赤だったが実装に当たって全身各部の金の装飾とかは赤くせずに残る形に
ジルが変身するとまた形が変わる、予定
ベルトさんメインで動く時の『ひとっ走り付き合いたまえ!』がめっちゃ好き、好き(ただのクリス・ペプラーファンである疑惑)
タイプトライドロンのデザイン秀逸すぎひん?
一応このタイミングで挑んだのは理由がある、と、思う
衝動的に挑んだとかでもいいとは思うのでそこらへんは確定してない

☆シリアス話の合間の軽いエロトークに食いついてむっつりドスケベを露呈してしまう難波さん
うちのSSでヒロインしているとこういう事はよくあることなので気にしなくていい
事前に筆談で少し匂わされていた筈だけど、実際に本人の口から改めて言われるとインパクトあるよねって……
ホテルの部屋を取る時に内心「ツイン、ダブル……あ、でも、お、お金を節約するのに、シングルってことも……あわわ」ってなってた
残念だけどこいつ逃亡生活ルートもありえる将来見越して金は溜め込んでるんでな、すまんな


そして、今回もナナス様より戴いたイラストを掲載させていただきます
毎度ありがたい話です、いや、本当に


【挿絵表示】


前回ちょこっと登場した角なしアルティメット
刃が通りにくい相手ならこっちの方が戦いやすい疑惑
赤心少林拳に肘膝とかに刃物がある前提の戦いは無いしね
それよりもベルトの中にアークルが透けて見えるのが便利
他のアギトの振りをした時に、なんか振る舞いおかしくね?
で、ベルトに画面が寄ればいっぱつでこいつが人に罪をなすりつけようとしているのが視聴者にわかる、っていう
勿論アナザーアギトとアギトの違いみたいなもんで作中の人からすれば殆ど気づきようがないっていう



わぁい下品な話
ぐにょり下品な話大好き
言うほど下品な話ができなかった説明しかしてない正真正銘の説明会をお届けしました
何故話が進まないのか……
今思うにクウガ編は極めて無駄なくコンパクトにまとまっていた気がする
気がするだけなので読み直してコンパクトだったかどうかの確認はしない
過ぎ去ったものはどれも良いものだったと思えてしまうのだ……
そんな事を思ったりしたならみんな、自分の処女作を第一話から読み直してみよう!
なんか、こう、いろんな感情がごちゃまぜになって結果的に元気になれるぞ!
当時はなんだかんだでオリキャラとオリ主の本番手前までっぽい場面を言葉を濁しつつ書いてみたりもしていたり若さが垣間見える……

そんな、過去の諸々を振り返った時のイタタタタな感じも乗り越えていけたりいけなかったり既に確定事項のように書いた設定を大事にしたりしなかったり捨てたり拾ったりするSSですが
あ、次は劇場版の尺の関係で原作組と絡みに行きます、たぶん
自衛隊が民間人誘拐したとか一条さん激おこなのでは?
それでもよろしければ、次回も気長にお待ち下さい


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