オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
とある森の中、自衛隊の施設のほど近くで、およそ自然の森の中ではそう聞く事もないであろう音が響く。
金属音をぶつけ合う甲高い音、重い物がぶつかり合う鈍い音。
それは総じて戦闘音と呼ばれるものであった。
夜間演習だろうか。
不自然な程に人里から離れた位置に存在する以上、秘密裏に自衛隊が訓練を行っていてもなんら不思議はない。
更に言うのであれば、この施設は自衛隊の中でも独自の指揮系統を持つ……一般的な自衛隊の組織からは隔離されていると言っても良い派閥のものだ。
人攫いに非人道的な人体実験すら行われていると言われている。
戦闘の中心に居るのは、黒い特殊強化装甲服。
G3システムに酷似したデザインのそれこそが、この施設を守る最強の矛であるG4システム。
装着者の命を蝕むのを代償として人を超えた力を持つG4は、並の未確認であれば正面から打倒する事も不可能ではない。
そして、現在のG4には強力な予知能力者が戦闘補助システムの一部に組み込まれている。
貴重で、かつ強力な戦力であり、演習を行うにしても装着者への負荷の少ないシミュレーターを使うだろう。
だが、今のG4は装着者に負荷を掛ける完全な戦闘状態であり、武装も実弾を搭載している。
侵入者があった。
奇しくもG4と同じ黒い装甲。
しかし、デザインは大きく異なる。
G1、G3と同じくメカニカルな装甲を持つG4と比べて、侵入者のそれは、どちらかと言えば、文字通りに服に近い。
革のツナギに装甲を無数に貼り付けた様な、しかし、どことなく古い軍服か、或いは防疫服にも見える。
頭部もまた、ガスマスクとヘルメット、兜の間の子の様な異形。
それら異形の装甲服が、三体。
G4から距離を取るように、木々に隠れるようにして取り囲んでいる。
事の始まりはこの三体の装甲服にあった。
草木も眠る丑三つ時、闇夜に紛れて施設に迫る三体の影。
それを迎撃、捕獲に来たのがG4である。
この施設には、少なからぬ機密情報が隠されている。
警察からデータを盗んだG4もそうだが、とある企業からの技術提供を受け、未完成の設計図から作り上げた小沢澄子の怪作、更に言えば、独自に研究を進めていた超能力者の育成法や実験データ。
他国からのスパイが狙うのも無理はない、そう、この施設の実質の長である深海理沙は考えていた。
そして、現状に何の問題も感じていない。
この基地には無敵のG4がある。
これを打倒し、基地に侵入することは不可能だ。
そして、G4システムの装着者である水城史朗もまた、この侵入者の存在を大事には捉えていなかった。
アンノウンではない、未知の装甲服を纏った工作員と思しき連中は、G4を前に攻めあぐねている。
新たな機能として追加された予知能力ですら、奴らが牽制にもならない攻撃しかできない事を告げていた。
猿のように身軽で、GM-01改の弾丸にも耐えきる程度の耐久性を持っている。
だが、それだけだ。
恐らく、単純な腕力、馬力においては素のG3程度のものでしかない。
逃げに徹されればG4では確かに捉える事はできないかもしれない。
だが、この場を守るのはG4だけではない。
ジェットパックが生み出す轟音を撒き散らしながら、G4よりも一回り大きい装甲服がその場に舞い降りる。
赤熱する刀刃に大型の拳銃。
シンプル極まりない武装を携えたそれは、G4の傍らに立つと同時に侵入者に容赦の無い銃撃を浴びせながら突撃する。
湾口で見せた静の動きではない、人型の戦車とも錯覚するような猛攻。
木々をなぎ倒しながら走り、侵入者の一体の腹部に赤熱刀を突き出す。
が、届かない。
重装甲服の速度が足りなかった訳ではない、侵入者達が特別に早かった訳でもない。
重装甲服の移動ルートは侵入者を撃破するための最短ルートではあったが、最短時間で到達できるルートではなかったのだ。
依然として、侵入者は数を減らしていなければ、損害を受けてもいない。
だが、状況は変わった。
三対一が、三対二に。
三体の装甲服の、無機質に赤く光る目がじっと自衛隊の装甲服二体を見つめ、突如、その装甲の一部が弾け飛び、凄まじい光と音を発した。
閃光発音筒だ。
闇夜の中でも戦闘が可能なG4の光量を増幅されたカメラが、その装着者である水城の視界を焼き、耳を潰す。
仮に閃光弾対策を行われていたとしたなら、その視界は今度はもうもうと立ち込める、キラキラとした金属片が混ざった煙幕に阻まれていただろう。
もう一体の重装甲服の装着者も、煙幕を前にフリーズしたかのように立ち止まっている。
G4は無傷。
重装甲服も無傷。
しかし、それは侵入者も同じこと。
痛み分け、というには何事も無く。
G4の戦闘データを採取されたかと言えばそれほど積極的に戦闘を行ったわけでもなく。
ただ、予知能力者をG4のシステムに組み込んだ状態での稼働実験ができた事に、深海理沙は無邪気にも喜んでいた。
―――――――――――――――――――
まずは一当て。
単純に突入させるだけなら完全放置でもいいんだけど、ここで変にバラけられるとクイーンの元に素アギトの津上さんが突入して撃破してしまう。
そこで、俺が斥候を放つからという理由で踏みとどまってもらったのだ。
というか、仮に侵入できたとしても、風谷真魚さんを捕縛しているであろう現役自衛官の方々をどう始末するつもりだったのだろうか。
アギトに変身して蹴散らすというのなら話は簡単になるのだけれど。
それをやられると同じ姿を晒したことのある俺にまで変な飛び火をしそうなのでやめてほしい。
これでもまだ戦闘能力のない生身の人間相手には力を奮ったことが無いのが唯一の自慢なんだ。
将来的にこの自慢ができなくなる可能性があるのだとしても、何もしていない時点で冤罪を喰らいたくはない。
ここの連中みたいに馬鹿で無計画で愚鈍で未来も現在も現実も見れない上に自分たちの馬鹿に国民全員を巻き込まんとするような連中は正直殺してやりたいくらいではあるのだけど。
勝手に馬鹿やって勝手に死ぬのであれば手を下す必要もない。
場所は誘導するので自衛隊の皆様が死んでそれでいて風谷真魚は無事ってタイミングでたどり着けるようにしてあげよう。
「彼らは無事に脱出できたのでしょうか」
G3Xの首から下を装着した氷川さんが心配そうに呟く。
「ご覧になられた通り、装甲と機動性に特化した装甲服ですから」
もっとも、所詮は土塊から組み上げた木偶だ。
自衛隊の目から逃れた時点でモーフィングパワーを抜いて元の材料に戻っている。
単純にG4を無力化するというのであれば、あのまま三体で遠距離からチクチクといやがらせをしていても良かったのだが。
「中々よく出来ていたじゃない」
「光栄です」
言外に『私のG3X程ではないけど』という言葉が秘められているのが丸わかりな辺り、実際自尊心が高い。
が、別にあれは戦闘力を求めて設計したものでもない。
道具は高性能であれば良いという訳ではない。
必要な用途に合わせた性能があれば良いのだ。
「でも、本当に来るんですかね。そもそも、本当に警告しなくていいんでしょうか……」
「何よ、いまさら怖気づいたの?」
「いえ……」
小沢さんの言葉に口籠る尾室さん。
「俺の言葉が真実であると証明できなければ警告も糞もありませんよ」
まぁ、実際どれくらい超能力を使うとマラークどもが反応するかは未知数なのだ。
連中の超能力研究所は、先日に襲撃を受けて全滅するまで、ひたすら超能力実験を繰り返してもマラークに襲われずに済んでいたのだ。
「自衛官に減って欲しくない、と思うのなら、マラーク……アンノウンが出てから頑張って助ける方がまだ前向きかな、と。尾室さんも出撃しますか?」
あの装甲服なら持ってこれますが、と言うと、尾室さんは首が取れるんじゃないか、という程に激しく首を横に振った。
無難な反応だ。
これで、俺が用意したのが俺自作の折りたたみ式瞬間装着強化外骨格でなく、小沢さん制作の凡人でも安心安全なG3マイルドだったとして、助けに行くのが罪もない一般エスパーでなく彼の知人友人恋人の類いだとしても断るべきだろう。
尾室さんは後にG5ユニットの指揮官になるくらいの素質はあるだろうが、体つきと体捌きからして明らかに常から格闘術などを熟しているタイプではない。
特殊装甲服、或いは強化外骨格にしても、元からある程度戦える人間が纏う事を想定して作られている。
勿論、尾室さんも警察官である以上一定の訓練は受けているだろうし、後にマラーク保護とかいうアホを、超常現象の絡まない事件に関わる刑事としては極めて有能な総合評価無能がやらかす時も、マイルドを装着してそれなりに動けている。
だが、今向かうのは無数のマラークが犇めく戦場なのだ。
適度な戦場である程度実戦経験を積んで、などと贅沢は言わないが、最低限普段からそういう装備を使い慣れていない事には話にならない。
これは強い、弱いという話ではなく、自分がその装備を使ってどれほど動けるのか、どう立ち回るのが理想的なのか、というのを把握するべきという話だ。
生身の同僚を守るために身体を張って格闘戦、というのはとても立派でよろしいのだけど、逃した後はひたすら逃げてG3Xとの連携に努めるべきだった。
勿論、初の実戦で緊張して判断を誤ってしまったというのもあるのだろうけれど。
少なくとも、最初から銃火器の一つ二つ、ナイフの三つ四つ五つくらいは本体にマウントして、戦闘態勢っぽくなったらヘッドギアの内部に武装使用を推奨する表示なりアナウンスなりを行うシステムが必要だったのではないだろうか。
最適な動作補助とかをG3Xでやっているのだからそう難しいことでもないと思うが。
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「そろそろかな」
動き出した気配は無いが、そんな予感がする。
まだ夜は明けていない。
本来の襲撃の時間は朝から昼の間くらいの筈だが。
何せ、G4システムが風谷真魚の予知能力を無理やり引き出すのと同時に、俺が念動力でもって人型の人形三体を動かしていたのだ。
アンノウンからすれば、何者かが超能力を行使している、から、超能力を行使して同士討ちしているアギト候補がいる、くらいになっているだろう。
更に言えばG4が予知能力を使う頻度も上がっていた筈だ。
それは、やってくる時間も早まろうというもの。
「……あんたも出るのか」
すこぶる体調の良さそうな、如何にも血色が良い葦原さんが問う。
経過は良好なようで何より。
少なくとも、余程の馬鹿をしなければ腕を切り落とされたりはしない筈だ。
「いえ、今日のムセギジャジャは」
言いかけた所で、マラークが動き出す気配。
椅子に座ってじっとしていた葦原さんと、座ったまま少しうつらうつらと船を漕いでいた津上さんが反射的に立ち上がる。
外部カメラからの映像をモニタで確認していた尾室さんが叫ぶ。
「で、出ました! アリのアンノウンが十、二十……大量に! こちらにも向かってきています!」
なるほど。
やる気は見える。
「では、まずは周囲の敵を散らしましょうか。俺が離れればアンノウンもこのトレーラーには近づきませんので」
「噂の二十二号のお手並み拝見、で良いのかしら」
「いざとなればやりますが、今日の主役は」
背部の孔雀の羽状の装飾をマントのように動かし死角を作り……。
翻して死角を消せば、そこには先の人形に着せた強化外骨格。
「お前だ。やれるな?」
ガスマスクと兜を合わせたようなメットを被り、肘先、膝先を滑るような黒い装甲に覆った学生服にも似た強化外骨格は、装着者の表情を読ませない。
だが、強化外骨格──グジルはこちらを振り向く事すらせず、得意げに右腕を掲げ、人差し指を立てて見せる。
「──楽勝だ」
それゲゲル失敗するやつのセリフだけどな。
弟くんとは交友があったりしたのだろうか。
曲がりなりにもズの中では強者だったらしいバヅーより、ランキングで言えば上位に居たのだ。
元ズ集団二位の意地を見せて貰いたいところ。
「お前ら、足だけは引っ張んなよ。あと、女王は私の獲物だかんな」
「女の子?」
「ムセギジャジャさ」
少し驚いたような津上さんの声に、グジルはち、ち、ち、と、立てた人差し指を振って。
「あんたの差金か?」
「本人の希望ですよ」
訝しげにこちらを見る葦原さんに答える。
「お二人とも、ここは自分が」
「ハッチ、開くわよ」
ヘッドパーツを装着し、民間人二人を下がらせようとする氷川さん。
それを遮るように、小沢さんがG3トレーラーのハッチが開いていく。
こじ開けやすいハッチに取り付こうとしていたのか、既に外には無数にアントロードが犇めいている。
良いカモだ。
開いたハッチから、夜明け前の薄明かりが差し込む。
それを前に、三人が並び立つ。
津上さんの腰にオルタリングが。
芦原さんの腰にメタファクターと、それを覆い隠すようにアークル似のバックルが。
グジルの強化外骨格に包まれた身体をかき消すように、灰色のクウガの
「変身!」
「変身!」
「
闘争心を形にする動作と共に、それぞれの肉体が変生する。
眩い光。
それが晴れた時、そこに並び立つのは三人の異形の戦士。
アギト。
ギルス調整体。
使徒再生アギト。
「……津上さんが、アギト?!」
驚く氷川さん。
そこは今はいいので。
ゲゲルの時間を始めよう。
―――――――――――――――――――
「お先!」
がん、と、踏み込んだトレーラー内部の床を凹ませながら駆ける。
真紅の、或いは、赤熱するアギトの姿は、以前に港で姿を表した時とは僅かにその形状を変化させていた。
頑強そうなデザインの篭手と脛当は正体を隠すために装着していた強化外骨格の物に酷似している。
「お」
跳躍。
予想よりも高く跳んだ事に一瞬だけ驚き、即座に自らの軌道を予測。
アントロードの頭部を踏みつければ、その足裏から激しく炎が吹き出し、焼き潰しながら再び跳躍。
合わせるように、撃ち落とすように飛び上がる一体のアントロード。
刃をオルタリングより引き抜く時間は無い。
鉤爪のように振るわれたアントロードの手首を掴み、引く。
ぐるりと足から吹き出す炎が空中で姿勢を変えさせ、アントロードの背後に。
腕を捻り上げ、足を絡めて極めながら、地面に落ちる。
腹から落ち、落下の衝撃で腕を根本から折られたアントロードの首に、オルタリングから引き抜いた短いフレイムセイバーを当て、突き刺す。
ず、ごろん。
太く短いセイバーによって落とされた首がその場に転がる。
凄惨な光景。
しかし、仲間が一匹やられた程度で怯むような知性はアントロードには無い。
敵陣に突っ込み足を止めた赤いアギトに周囲のアントロードが群がる。
「ジ……替われ! 速攻だ!」
赤いアギトのどこかに呼びかけるような叫び。
それに合わせるように、赤いアギトの装甲が変色する。
熱された金属が如き赤が光に包まれる。
いや、光に包まれた訳ではない。
白。
新雪の様なというには眩すぎる、目を潰す光の白。
全体の輪郭すらぼやける程の光を放ち、その全身は白に染まっている。
だが、そこに涼しさを感じる事は出来ない。
それは正しく、太陽の如き白。
炎が揺らめくように、その背には翼がある。
しかし、それは白くとも白鳥の翼ではない。
白い、どこまでも白い孔雀の羽。
それは今の二十二号が背負う金の装飾に酷似していた。
くるり、と、白いアギトがその場で回る。
バレエの如き軽やかなターン。
それに追従するように白い孔雀の羽が僅かに青く変色しながら広がり──軌道上に居たアントロードが、まとめて上下に割断された。
その死体の断面は、真っ黒に焦げ付いている。
超高熱の羽により溶断されたマラークが爆発するのを尻目に、白いアギトが駆ける。
『行け、行け!』
どこからともなく聞こえる赤いアギトの声に白いアギトが頷き、自衛隊の施設へ。
その足取りは軽い。
ふわりと広がった青白い羽を揺らしながら走る様はまるで飛ぶ鳥の如し。
だが、それが美しいだけの鳥でない事は、すれ違いざまに白く輝く羽に焼き切られたアントロードを見ればわかるだろう。
足取りも軽く、無数のアントロードを蹂躙しながら、真っ直ぐに基地の入り口を目指す。
途中、アントロードに襲われ、自動小銃で応戦している自衛官には目もくれない。
「十二……なるほど、言うだけはある」
ゆっくりとした足取りでトレーラーから出てくる二十二号。
既にトレーラーの外ではアギトとギルスが白いアギトの討ち漏らしを相手に戦いを繰り広げている。
それらをまるで意にも介さず、白いアギトを追う様に自衛隊基地へと足を進める中、アギトもギルスも手を付けていないアントロードが迫る。
この場にアントロードの群れを呼び寄せた超能力者の片割れなのだから、アントロード達にとって優先順位が高いのは当然の話であった。
トレーラーを背にする二十二号に、四方、八方、群れをなし波のように押し寄せるアントロード達。
だが、悲しいかな。
この場に犇めくアントロードの動きはあまりにも単調。
戦士として力を積んだゴ階級グロンギの戦士にも劣り、ましてや、過去にアギトやギルスとの戦いを経験した古いマラーク達と比べれば、まさに数だけの雑兵に過ぎない。
複数体で掴みかかろうと迫るアントロード。
それらがまとめて、文字通りに薙ぎ払われる。
二十二号の手の中にはいつの間にか黒と金で彩られた大剣が握られ、それは既に振り抜かれていた。
敵を斬り殺す動きですらない。
野山を進む中で、藪を鉈で切り払う動き。
切り捨てられたアントロードの死体はその場に落ちる事無く、切り飛ばされた衝撃で遠方へと吹き飛び、爆発。
意図しての物か偶然か、トレーラーには一切の被害はない。
「鈍るな、これじゃあ」
クイーンの魂は俺が使わせてもらうか。
そんな事を呟きながら歩く二十二号が不意に振り返る。
「要救助者はあちらですよ」
ぴっ、と、大剣の切っ先を実験施設へと向ける二十二号。
言いながらも歩みを止めない二十二号に、氷川は慌てるようにその後を追った。
―――――――――――――――――――
走る、走る。
金網の張られた門を抜け、アントロードに襲われる自衛官を無視し、攻撃範囲に入ったアントロードを焼き捨てて行く。
『クイーンは地下に居る。車両が収められた格納庫っぽいところに地下に繋がるハッチがある筈だ。近くに行けばお前でも気配が感じられるかもな』
白いアギトの頭にあるのはゲゲル開始前に告げられた助言だった。
赤いアギトの方は贔屓が過ぎると内心複雑にしていたが、結局、クリア出来なければどれだけ志が高くともムセギジャジャとは認められない。
まずは、このゲゲルをクリアすること。
既に雑魚は三十以上殺している。
後はクイーンを始末するだけ。
しばし自衛官の死体が転がる通路を案内板を確認しながら走り回り、格納庫らしき場所にたどり着く。
そこでは二十二号が口にしていたガラクタ……自衛隊製の強化装甲服、その重装甲の方が数体、アントロードを相手に戦っていた。
常人を上回る巨大な装甲服は手にした大剣で、銃でアントロードを殺して回っている。
が、よくよく観察すれば、その動きが余りにも単調である事がわかるだろう。
同士討ちこそしていないものの、単純に近寄って掴みかかってくるアントロードを殺すのが精一杯で、周囲の生身の自衛官をフォローする様な動きは一切できていない。
アントロードには、指揮官タイプのフォルミカ・エクエスやクイーンであるフォルミカ・レギアを除けばまともな思考能力は存在しない。
しかし、数だけは居るフォルミカ・ペデスは、各々がその時点でできる行動を取るだけで、結果的に簡易な連携を行えるだけの習性があった。
既に格納庫内に生身の人間は居ない。
そして、いくらかのペデスが群がり続けるだけで、装甲服は半ば無力化されてしまっている。
白いアギトにとって最悪だったのは、その場に白いアギトを味方、救援とみなす程度の判断力を持つ人間が生き残っていなかった事だろう。
三体の重装甲服も、無数のアントロードも、一斉に白いアギトに視線を向ける。
『ジル、替われ!』
赤いアギトの声に、白いアギトは首を振る。
口唇が動いたのであれば、『おううおい』とでも言っただろうか。
視線を動かす事無く全体を見渡せる複眼で、地下に繋がるものと思しき扉を発見し、その場に片膝を突く。
クラウチングスタート。
一呼吸の間を置き、駆ける。
背の白い羽は形を崩し、ロケットエンジンの如き圧倒的な加速力を与えた。
アントロード達の隙間を縫う、などという真似はしない。
ギリギリで接触してしまうアントロードはそのまま跳ね飛ばし、無理矢理に突き抜ける。
「ぐいる、おえあい」
拙い発音で白いアギトがそう呟くと同時、全身から放たれていた光が消え、膝から力が抜けたように崩折れ──
「任せろ」
──踏みとどまる。
同時、アギトの身体が白から赤へ徐々に塗り替わっていく。
輝きを伴わず、背に羽は無く、白いアギト程の熱量も伴わず。
しかし、宙を泳ぐような足取りの白いアギトとは異なる、大地を踏みしめるような足取りで、拳を地下道へと続く扉へと振り下ろした。
破砕音。
後に残るのは扉という蓋を破壊され、完全に露出した地下への縦穴のみ。
赤いアギトは、底すら見えない深い地下への縦穴に、躊躇なく飛び込んだ。
―――――――――――――――――――
先を行くのはアギト、ギルス、G3Xに任せ、ゆるゆると歩く。
向かう先は赤い、或いは白いアギト。
足元にはとりあえず勇敢ではあったかもしれない自衛官達の死体。
ああ、ここに俺以外の目撃者が居ないのなら、彼らの死体も有効に利用できたというのに。
悲しい話だ。
ここには守るべき国民が居るわけでも無ければ、国防の為に必要な装備が開発されていた訳でもない。
まさか、この場の死体、全員が全員、あのカルト女のシンパなどという事もあるまい。
任務としてこの施設の警備を任されて、特に守るべきものも何もない場所を律儀に守って、何も残さずに死んでしまったのだ。
これほど悲しい話があるだろうか。
もしも人目や監視カメラが無ければ、全ての死体をグロンギ化してその分だけ魔石をストックできただろうに。
もしも彼らがグロンギになる事を事前に承諾してくれていたなら、この場に居る数だけ人類に友好的な戦力を増やせただろうに。
もしも、もしも、もしも。
全ては仮定の話でしかない。
悪魔の毒毒クソ兵器であるG4やその設計図、予備パーツ、関係資料……。
それらは、グジルかライダーの方々がクイーンを殺害し、この施設に脅威となる存在が居なくなった時点で、
原因は勿論不明だ。
きっと危険な研究をするために謎のエネルギー炉とかを無数に設置していたに違いない。
制御する人員が残らずアントロードに殺害されたが為にメルトダウンを起こしたりするのかもしれない。
跡形も残らないので原因究明は不可能だ。
怖い話だと思う。
戸締まりはしっかりしておこう。
折り重なる駆動音が近づいてきた。
G4のものではない。
あの事前知識の無い、謎の重装甲服のものだ。
数はそれなりにあるらしい。
良かった。
中枢を破壊した個体と駆動系を破壊した個体を組み合わせれば、まぁまぁ良いサンプルとして回収可能だろう。
☆人のゲゲルの最中にもうお土産を回収する事に意識が向いちゃう注意力散漫マン
色々小技も技術も見せたけど、それは知能の高さの証明にはなっても危険性の少なさの証明には一切つながらない事を覚えておこう
と言いつつ今回はあくまでゲゲルの監督と謎の装甲服の技術回収の為の同行なのでいつもどおり客観評価は切り捨てる方針
次回か次々回、ちゃんと戦います
☆自衛隊基地に迫る謎の装甲服改め強化外骨格三体
中身は土塊をモーフィングパワーで変異させて作った動力のない人工筋肉と骨格の塊
モーフィングパワー……ではなく、念動力でグニグニ動かしていただけのラジコン
たぶん念動力で……電気とか発生させて……筋肉収縮させて動かしたりしたんじゃないですかね……?
理屈はふわふわしてる
念動力・電気 で検索したらトップページにいきなりエレクトロキネシスとかいう胡散臭い話が出てきてちょっと笑う
一応中身を人間にすげ替えても同じ動きができる
現時点では中身を完全に自動化できないのでほぼ玩具
デザインは覚悟のススメVOLTEXに出てくる帝国再建の野望を抱く軍鬼達
ただし、変身前グジルが変装の為に着ていたのは開花のススメに出てくる普及型強化外骨格である零改に近い
どちらかと言えばグジルの装備していた方が人間向け
このデザインなのは技術の盗用元からの追求を逃れたり製作者である主人公の趣味である為、筋力増幅機構などはほぼ既存技術及びG1スーツの類似品である
☆白いアギト
グジルの赤いアギトと対になるジルの変身体
背中から、というか肩甲骨の辺りから唐突にダグバや二十二号の背中のビラビラのアルビノ版の様なものが生えた純白のアギト
ビラビラと表現したがどういうものかはアルビノの孔雀を検索してもらえるとそっちのが近い
色として白い、というより、常に高熱を伴う光を放っているので白く見える
赤いアギトは長時間戦闘を行うと内に宿るアギトの力を溜め込み体温が上がりすぎて焼け死ぬが、こちらは常に外に最大効率で熱を光として放出している為、長時間この形態で居るとアギトの力が齎すエネルギーを一時的に使い果たして凍死する
赤い方と比べると格闘戦以外では大体上位互換
赤い方で熱量ゲージを溜めて白い方でゲージを消費して大技ぶっぱが理想の戦術
ただしゲージを溜め過ぎたり使いすぎたりすると焼けたり凍りついたりで死ぬ
戦闘中にうまく交代できるかは次回に決まる
後にパワーアップイベントとか入ると融合して完全体になったりするんじゃない?(他人事)
ふと思ったんだけどこいつにベルトつけるとなるとどこぞのグロンギライダーの如く熱量調整が重要になるから一号二号V3のようなデザインで風冷式にするのが無難じゃないですか
そうなるとデザインが似通うから、そのベルトを見た昭和関係者がライダー関係者かショッカー関係者かをまず考えたりするんやろうなー、って
でもそういう風に際限なくフラグばらまくとそっちの方々の描写が面倒だから冷却装置搭載するにしても昭和ライダーモチーフはやめておこうね
今回のゲゲルは当然グジルとの共同スコアで計測する
初手ゲージぶっぱからの敵陣先行でアントロードのスコアはクリア
次回はクイーン戦だぞ
☆前日昼間くらいについ先日街で知り合ったガキに呼び出されて翌日夜明け前まで自衛隊施設前に路駐したGトレーラーの中でひたすら二十二号に疑惑の眼差しを向けていたASHR兄貴
この場に難波さんが居なかったのはベルトを渡したのが二十二号である事をなるべくばれさせない為であったのだ、ハブられた訳ではない
まぁ疑惑の目って言っても「こいつこんなにまともに会話できるのになんで去年は四号みたいに警察と協力しなかったんだ?」くらいの話で
言うまでもなく去年の行いが後を引いた形になる
夜中ちょっとうつむいて黙り込んでいたのは別に深い考えがあったわけではなくちょっと寝落ちしていただけなのだ
精神的にも身体的にも余裕があるので、それでも原作と同じく廃工場で寝泊まりしていたとしたら容赦なく廃墟めぐりが新しい趣味に加えられるかもしれない
まぁ、もう肉体労働に限って考えれば仕事で苦労する未来は無いからそこだけはご安心
☆色々と容赦なくネタバレを食らう後の鯨の中の人
何の説明も無く助っ人として呼ばれたASHRの兄貴に関して突っ込みを入れられなかったのは同じ空間で上司と二十二号が装甲服の技術に関して談笑しているという異常事態に脳みその機能を狂わされていたからだと思うんですが(名推理)
津上さんは風谷真魚さんの救出の為に来ていると思いきやアギトでしたという配慮も糞もないネタバレ
しかもヤンキーっぽい人はこないだ警官隊で包囲して一方的に銃撃を浴びせていた人で聞く限り何の罪もない一般人だぞ!
今は戦闘中だからいいけど終わった後は罪悪感とか混乱とかで体調を崩すのではあるまいか
テオス倒すまでは体調を崩さないで欲しい
☆夏休みに気になる男の子に旅行に誘われたかと思えば修行で外に出れたかと思えばお留守番をまかされてしまった悲しい女子高生
が居るらしい
私は悲しい……(ポロロン)
出番はあるかなぁ……
実はGトレーラーを離れる時点で転移させられてちょっと離れた場所からトレーラーを見守っている
運が悪いと伝言ゲーム的に話を聞いて駆けつけたG1条さんに補導されちゃうから気をつけてね
☆G4
二十二号とかいうやつのせいで原作の二倍三倍のアントロードが攻めてきたので、今の中身の人はそろそろ死ぬ
でも重要なのは中身じゃなくて外側だけだから安心してね!
どうせ中身は生命活動が終わっていないだけの死人だったから別に何の問題もない
☆アントロードのクイーン
こいつは他の雑兵アントロードと違って殺すとオルフェノクを使って一回コンティニューができる
できる……?
次回、紅白アギト戦
☆今回の話の諸悪の根源
深海理沙とかいう名前らしいよ
政治の天才という設定があるらしい
その割にG4を採用するガバ脳……
ははーんお主さては政治手腕以外の脳機能は全てクソ雑魚じゃな?
でもその執念というか思い込みの激しさはまぁ良し
愛い愛い……、とびきりの出番をくれてやろう……
そして、毎度おなじみ、ありがたいけれども逆に怖くなってくる、戴き物紹介!
ナナス様ありがとうございます!
グジルオルフェノク体(仮)です
【挿絵表示】
異形の花々……
やっぱり女体怪人は良いものですね
顔とか鯨のモチーフでその下にアギトかクウガ顔ぽいのにお腹と胸と手足のラインが実に
しかしグジルがクウガオルフェノクな現状でこの状態をどう出すか……
いっそグジルとジルでオルフェノク体が別にある、くらいはやってもいいかもしれない
東京で海に落ちた後は赤子状態だったジルが本能的にオルフェノクになって泳いでいた、みたいな
次回かその次回に劇場版編は終了
その後は諸々省いて木野さん出してアギト編クライマックスかな
たぶん木野さんは二十二号がゴリ押しで説得するか人類に迫る驚異に関して全ぶっぱ説得するかアギトギルスギルスアギトアギトで囲んで叩いて意識改革したりするからそんなに難しい話にはならない
タイミング的にグジルとの一騎打ちは師匠辺りが立会人になる可能性
まぁ未定なのだ
でも対テオスの筋書きというかこじつけは整った
色々公式に背いたりするかもしれないけど、結果的にどこかの時期の公式には従う形にはなるから勘弁してくだち!
そんなふわふわとタイトロープの上を這いずったり落ちた先で這いずったりするSSですが、それでもよければ、次回も気長にお待ち下さい