オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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33 後始末を

この世界に数多く存在する、人間に対して敵対的な種族の中で、オルフェノクはそれなりに特殊な立ち位置に存在する。

急激な進化、或いは、呪いの蓄積による変異によって、死した人間から自然発生する怪人。

一部例外を除き、オルフェノクとしての本性を表さず、生前の姿に擬態したままでもその膂力はコンクリートを砕き、或いは、使ったことも無いような武器をある程度使いこなす事ができる。

 

それは蓄積された呪いの主、動物たちのモデルになったマラークの本能が僅かにでも遺伝しているのか、実際のところは定かではない。

そもそもが戦闘を前提とした作りでない、武器の精製すらできないオルフェノクすら存在する以上、決まりきったテンプレートを作るのは難しいだろう。

優れた身体能力、元種族に依存した確実性に欠ける劣悪な繁殖能力、繁殖に伴う元種族である人間への害。

それを除けば、オルフェノクの在り方は幅広く、戦士、狩猟者としての性質はまちまちである。

 

では、かつて深海理沙であったオルフェノク、彼女にとっての力の象徴であるG4ユニットに酷似した造形の、G4オルフェノクはどうか。

力に関して、強すぎる、という事はない。

深海理沙はG4の強さに心酔こそすれど、開発の途上においてその性能をはっきりと熟知している。

彼女にとっての最強とはそれだ。

先に本人が言った通り、深海理沙はG4になった。

彼女の性能に関して知りたいのであれば、G4ユニットのスペック表を参照すれば良い。

 

では、戦い方に関してはどうか。

これも決して悪くはない。

G4ユニット製造過程での実験、そして数少ないアンノウンに対する実戦。

それら全てを彼女は目撃し、強烈に脳裏に焼き付けている。

オルフェノクと化すに当たっての力のイメージには、G4が如何に戦うか、という彼女の記憶も組み込まれている。

彼女は文字通り、これまでのG4ユニットの集大成と化したと言っても過言ではない。

 

そして、大凡のオルフェノクと異なる点をあげるとすれば、彼女が力のイメージとしたG4ユニットと半ば融合しているという点だろう。

ボディスーツも無い不完全な状態ではあるが、倍力機構の搭載された各部アーマーがオルフェノクとしての体に組み込まれる事によって、その性能は確実に底上げされている。

特殊能力という点においても、強い狂気か、或いは自覚していなかった何らかの特殊な力によるものか、肉体を乗っ取ろうとしたアントロード・クイーンの魂を取り込む事で、G4の新たな力として組み込まれていた予知能力すら高い次元で再現できてしまう。

 

これらの要素のお蔭で、オルフェノクという強さの幅が大きい種族の中で、彼女は決して弱くはない位置に存在している。

そして、G4に存在していたデメリットである搭乗員への負荷、或いはバッテリーによる稼働限界時間という問題すら、オルフェノクとしての力で半ば解消されているのだ。

強いか弱いかで言えば、強い。

そう断言できる。

相手を間違いさえしなければ、向かうところ敵なしと言って良いだろう。

 

──彼女にとっての一番の不幸は何か。

G4に超能力者を組み込もうとしたことか。

運用人員をあえて使い捨てにしたまま改善しなかったことか。

今日この日にオルフェノクへの転生を果たしてしまったことか。

 

あえて一言で表現するのならば……。

 

―――――――――――――――――――

 

「相手が悪かった。とでも、言いたげですね」

 

黒いドラゴンロッドを手の中でくるくると回す二十二号。

向かい合うG4オルフェノクは、二十二号の間合いからギリギリ外れた位置に立ち、肩で息をしている。

条件が悪いわけではない。

GM01改に酷似した武器を自力で精製でき、ギガントの予備すら念動力で手元に取り寄せる事が出来る以上、武装を理由にはできない。

 

予知能力が発動する。

脳裏に浮かぶのは自然体から棍を突き出そうとする二十二号。

体を横に向けて向かい合う面積を狭くしているが、長物を突き出す以上どうしてもできる隙がある。

そこに狙いすました様に銃撃を放つ。

銃を撃つ、銃弾を放つというよりも、相手の動く先に銃弾を置く様な、予知能力者特有の攻撃。

 

「おっと、危ない危ない」

 

言葉とは裏腹に、危うげなく避けながら踏み込んでくる二十二号。

予知が発動。

棍を手放した二十二号の拳が視界一杯に広がる。

首を反らす。

想定したよりも大げさに後ろに仰け反って、違う、脚を引っ掛けられた。

 

逆さまの視界が地面に近づき、受け身を取るよりも早く激突──しない。

背を何かに押されるような感覚と共に視界が一回転し、足から着地。

何が起きたか把握するよりも先に胸部に手が。

 

二十二号の手。

予知。

視界にある光景と変わらない。

全身がブレる。

一切動いていない二十二号が一瞬で遠ざかる。

違う。

自分が飛んでいるのだ。

 

超能力者の能力増幅装置の残骸に背中から突っ込み、残骸にめり込みながら尻もちをつくG4。

装着員でありG4そのものになった深海理沙の困惑は強い。

何故。

予知は間違いなく発動している。

何故。

予知は外れてはいないのに、自分の攻撃はまともに当たらない。

何故。

自分が、G4がここまで一方的に負けているのか!

 

こつ、と、硬質な足音を一つ立て、再び手の中に戻ったドラゴンロッドをくるくると回す二十二号。

この一連のやり取りの中で二十二号が取った行動は以下の通り。

正確に狙い撃ちされた銃弾を身を捩り避けながら踏み込み。

ドラゴンロッドから手を放し、

寸止めで殴る動きを見せ、

G4の懐まで踏み込み足を後ろから掬い、

掬った足で落ちてきたドラゴンロッドを蹴り上げ掴み直し、

後頭部から落ちそうになったG4の背にドラゴンロッドを当てて空中で一回転させ、

着地したG4の胸に手を当て死なない程度に寸打を打ち込む。

 

ずん、と、ドラゴンロッドを地面に突き刺す。

先までの刃の無いそれとは異なる、双刃のドラゴンロッド。

当然、殺傷能力は段違いだ。

仮に、最初からこの状態であれば、G4はどうなっていたか。

いや、そうではない。

 

懐に潜り込まれた時に。

投げられた時に。

押し飛ばされた時に。

 

殺す機会は幾らでもあった。

 

「仮に、この施設の職員が全員肉体も能力も鍛え抜かれた超能力者で、全員がG4を装着し、使いこなせていたとしよう」

 

十数メートルの距離を置き、施設の倒壊する音、燃えていく音が響く中、不思議とその声ははっきりと耳に届いた。

 

「全員が連携を取り、未来を予知し、或いはG4を使用し続けても死なない程度に頑強だったとしよう。なるほど、今回の襲撃、恐らくは余裕で乗り越える事ができたかもしれない。G4にもそれだけのポテンシャルは存在する」

 

「そこに」

 

「あなた方に対し、敵対的な、俺か、俺と同等のか、それを上回る力を持つ存在が現れたとしよう」

 

二十二号が、腕を振る。

音が止んだ。

襲撃を知らせる警報も、施設が爆発を繰り返す音も、可燃性の建材や資材が燃えていく音も。

遠くにある。

物理的に、だ。

ふと気づけば、半径20メートルほどの範囲には、何も存在していなかった。

何もかもが失せて。

崩れ落ちる基地の内部は、まるでプラネタリウムに投影された映像であるかの様に、半球状の外側にしか見ることができない。

 

「勿論、そこまでを想定しろ、とは言えません」

 

「だが、貴方も、極まった馬鹿であるという点を除けば、志くらいは立派だったと思うので」

 

「せめてもの、冥土の土産に──何故死んだか、何が間違っていたか、その程度は理解していただきます」

 

二十二号が地面に手のひらを向けると、その下から、一つの人型がせり上がって来た。

覚えのあるデザイン。

そう、ほんの数時間前、この施設も、人間である深海理沙の命も健在だった頃に見た、侵入者。

未知の特殊装甲服。

 

「性能としては、ちょっと飛び跳ねるのが得意なだけで、素のG3より少しマシ程度の……有り体に言って、ただの人形ですね」

 

人形と呼ばれたそれが、半身、片拳を前に、片拳を胸元に、構えを取る。

同時、胸を打たれて息ができずにいたG4オルフェノクの息が整う。

何故か、肉体の損傷が回復しているのだ。

或いは、一度死んで生まれ変わった後よりも調子が良いかもしれない。

 

「この人形が、今から貴方を殺します」

 

「何のつもり……?」

 

「相手が規格外に強かったから負けただけで、G4の運用理論も性能も問題は無かった。常識的な強さの敵になら勝てた……なんて、甘えた事を言われても困るので」

 

弾ける様に人形が踏み込む。

直線的な打撃、速度こそあれ、読みやすい動き。

予知が発動する。

向かい合う人形が後ろに引いていた足を交差させるように前に踏み込み、その足を軸に反対の足を伸ばす。

縮めたバネが勢いよく伸びるように距離が縮まり、踏み込みと同時に丸めた背を伸ばすように拳を下から上に裏拳気味に振り上げる。

人間で言う鳩尾、よりも少し下。

スーツの隙間を狙う一撃。

半歩下がり空振る拳を受け止め──

 

「ぎっ」

 

()()()()()

空振り、受け止めた拳がまるで生卵の様に脆くも砕け散り、内部から溢れ出した溶解液が飛散したのだ。

 

「まず、的中率の高い予知というのは、戦闘には向きません。先を見すぎれば結果が確定してしまうし、見なければ避けるか受けるかした後の二の太刀に対応しきれない」

 

人形の腕は、前腕半ばから先が消失している。

だが、それは破損ではない。

打ち込んだ拳そのものが使い捨ての武器なのだ。

じ、と、短く電子音が鳴り、肘から先に残されたパーツの接続が外れ、足元に転がる。

予知が発動する。

地面に落ちた人形の腕の一部が炸裂。

網状の何かが飛んでくる。

それを予知し、しかし何もできない。

予知のヴィジョンは()()()()()()()広がる網を見せた。

 

「当然、先が見れても対処できなければ意味がありません。逃げる場所が見つからない、防ぐ方法がわからない、となれば、予知できてもできるのは確実に来る痛みに覚悟を決める程度」

 

腕を強い酸で溶かされる、という痛みの経験を持つ人間はそう多くない。

如何にオルフェノクとして覚醒し、本能のままに人を襲う事ができたとして、痛みに対する耐性までついてくる訳ではない。

腕を溶かされる激痛に鈍化した思考が網への対処を『受けてから引きちぎる』に決定。

網に絡め取られ──全身を焼く高圧電流に思考が白く染まる。

 

「中身を使い捨てのパーツと言い切るのも問題だが……どう使うにしろそれは人間でしかない。痛みに対する反応、精神論ではどうしようもない生理的な反応というものも存在する。──少なくとも、絶縁に関しては不足があるな。これも不味い。筋肉は電気に反応する。どうしたってね」

 

がしゃん、がしゃん。

人形が足音を立てながら遠ざかる。

それに対し、G4は体から白煙を上げながら見送ることしかできない。

 

「やはり発展というより派生、いや、先祖返り、違うな、実験作という方が近いか。予想よりも大分穴が多い様子」

 

人形がG4から距離を取り、残った片腕を構える。

手首が外れ、内部からは黒黒とした銃口が覗いていた。

今のG4には避ける手段すら無い。

 

「本当は、もっと貴方のG4の欠点を指摘してあげたかったのですが、朝まで掛かってしまいそうなので。一番単純なG4の処理方法を伝えてお別れとしましょう」

 

ぱちん、と、二十二号が指を鳴らす。

同時、やや体が動き始めているG4を半円状に取り囲む様に、無数の人形が現れた。

先の人形と同じく、G3シリーズのボディスーツに直接滑るような装甲を貼り付けたような厳しい、威圧的な装甲服。

違う点を挙げるとすれば──その両腕、肘から先が、どれもGX05ケルベロスに似たガトリング砲に換装されていることか。

 

「あ、ああ、あああ」

 

何が起こるか。

それに対し何ができるか。

それを瞬時に理解し、しかし、G4には、深海理沙にはどうする事もできない。

仮に肉体が万全だとしても、武装が万全だとしても。

 

「死ね、とは言いません」

 

予知が発動する。

未来が見える。

想像通りの未来が。

 

「──ごきげんよう」

 

数秒遅れて、予知は実現した。

 

―――――――――――――――――――

 

ううむ。

自家製強化型神経断裂弾と高速徹甲弾を交互に打ち出す、というのは良いアイデアだと思ったのだが。

周辺被害が酷いことになるな。

少なくとも市街地では使えまい。

 

とまれ、これにて一件落着、と、そう言ってもいいだろう。

ジルのゲゲルは成功したし、珍兵器が採用される可能性の一切は焼却したし、関係者もいなくなった。

これまで、基本的には降りかかる火の粉を振り払う程度の戦いしかしてこなかった俺としては、かなり能動的に活動したのではないだろうか。

まぁ、あんなクソ兵器が採用されたら一応の安住の地であるこの日本が大変な事になるので、結局は火の粉を振り払う戦いの一種だったのかもしれないが。

さて、

 

「すっきりしたし、帰るか!」

 

じゃない。

 

「早く脱出しなければ、施設の自爆に巻き込まれてしまう!」

 

拳を握りわなわなと振動させ、自衛隊にカルト思想を蔓延させて死者の軍隊のような物を作ろうとしていた危険な連中への怒りを顕にするジェスチャを行う。

国民の血税で怪しげな実験施設を作った上に自爆までさせるとか、絶対に許せない、という形の感情表現だ。

まことに遺憾だと思う。

 

あと、難波さんは修行に付き合ってもらうと言いながらゲゲルの円滑な審判の為の手伝いに時間を取らせてしまったので、埋め合わせをしなければなるまい。

差し当たって、女性の機嫌を取る為に何をするべきか。

身近な所で言えば、そのまま本人に聞くのが一番手っ取り早いと思うのだが。

脳内でアナザークラスメイトが腕を交差させてバツの字を作っている。

──確かに、直接本人になにか埋め合わせをする、と言っても、難波さんは慎み深い良い人なので遠慮されてしまうかもしれない。

細かな行き違いとか不満の蓄積が友情の亀裂につながったりするのだ。

だが、どうするか。

少なくとも、俺の周辺には女友達の機嫌を取ることに特化した能力を持つ友人は居ない。

 

さらに言えば、この自衛隊施設周辺に居る連中は大体論外だ。

施設育ちの超能力者の子供。

微妙な家庭環境のJK。

記憶喪失の天然男。

不幸体質の人間関係体当たり男。

常人とはかけ離れた思考を持つ、ビールを大ジョッキで大量に空けた後で警察で使用する装備の設計図を引く女。

木綿豆腐を箸で掴む事すらできない様なぶきっちょ。

女性関係のフラグを誠実さから容赦なくへし折る警察所属のゲゲルムセギジャジャ。

そして尾室さん。

 

良いことではないか、と思う。

つまり、全員がそれほど人間関係で計算高くない、素直な生き方をする人間だ、という事だ。

俺もそれに習い、素直に真正面から自分の考えで埋め合わせを行おう。

そのために、まずはこの基地から急ぎ脱出せねばなるまい。

 

―――――――――――――――――――

 

一際大きな爆炎が上がった。

明らかに可燃物でない鉄筋コンクリートと思しき部分まで、内部から溢れる球状の光に飲まれ、あっけなく融けて崩れていく。

 

「行かなくても良いのか」

 

赤い特殊装甲服──G1を装着した一条が、施設を見つめる緑色の異形──ギルス調整体に声を掛ける。

葦原の変じるそれとは異なり、女性的なラインが見えるやや小柄なそのギルスは返事をしない。

一条は、先までのこの未確認──本人の言う所のギルスとのやり取りを思い出していた。

声を掛けられれば勢いよく驚き、自分が警察だとわかればわかりやすく狼狽え、何をしているのかと問えば、口ごもりながら誤魔化そうとし、最終的には落ち込む。

特異な精神性は無い様に見えた。

 

覚えのあるベルトのバックル。

二十二号から一条自身も押し付けられた、五代のベルトと同質のもの。

二十二号の被害者か、と、そう問えば、僅かな怒りと共に、ところどころ言葉を濁しながら(個人情報を口にしないようにしていたのだろう)二十二号の弁護をする姿は、その外見が未確認生命体のそれと同種のものであるという異常を差し引いて考えれば……、恐らく、声の通りの、年相応の少女なのだろう。

 

『こ……二十二号君は、私を助けてくれたんです。どうにもならなくなって、右も左もわからなくなっていた所を……死ぬかもしれなかったところを』

 

『強い人です。たぶん、戦うだけなら、誰の助けも要らないくらい。でも、一人で居たい人でもなくて、悲しんで落ち込む事も、傷ついて強がるしかない時もある……人間なんです』

 

『……大事に思っているんだな』

 

『ぅ……ええ、まぁ、ほら、命の恩人ですし、優しいし、ちょっとズレてるとこもあるけど、大切な…………と、友達ですしぃ?』

 

最後の最後で妙に声が上ずっていた理由は定かではないが、少なくとも、この見た目は完全に未確認でしかない少女にとって、二十二号は恩人で、優しいと評される人間なのだろう。

 

──ズレがある。

五代と話した二十二号。

手紙を送りつけてきた二十二号。

自分と話した二十二号。

そのどれもが、目の前の少女の知る二十二号と違う。

 

彼女にだけその面を見せているのか。

自分たちに見せないだけなのか。

彼女の見る二十二号こそが本質なのか。

自分たちが知る二十二号こそが真実なのか。

 

恐らく、前者であろうと、そう感じた。

二十二号は極端に自らの素性が割れる事を恐れている。

未確認、グロンギや五代の様に、人間の姿から変身する場面を誰にも見せていないし、逆も然りだ。

手紙ですら、生産数が多く全国で普及しているものとしかわからず、インクではなく、恐らくは未確認や五代も使っていた武器を変化させる力、それを応用してのものであるとしかわかっていない。

 

逆に、彼女は最初から未確認生命体二十二号ではない素顔の彼との付き合いがあり、彼女の側の都合から、二十二号としての素性を知るに至ったのだという。

最初から信頼を勝ち得ていた、とも考えられる。

だが、それだけだろうか。

彼女に対して素性を明かすだけの理由があった。

では、逆に。

警察に対して素性を明かせない理由があるのではないか。

 

真っ当に考えれば、普通は素性を隠すだろう。

彼の行いは必ずしも合法ではない。

捕まれば罪に問われる程度の器物損壊などは行っているし、未確認生命体の殺害も罪に問おうと思えば罪にできる。

だが、彼は四号という、五代雄介という男に対する警察の特別措置を知っている筈だ。

未確認の件でも、彼の知りうる情報を提供すれば、そして、未確認への無許可での戦闘行為を止めれば、罪に問われる可能性は低かった。

五代という協力者が無ければ未確認をどうすることもできなかった自分たちが何を、と思われるかもしれないが。

だが──

 

「──きた」

 

炎上する基地を見つめていた少女が嬉しそうに呟く。

声に重なるようにバイクのエンジン音が響き、視線を向ければ赤いバイクに跨った二十二号が燃え盛る炎を突き破り姿を現していた。

 

「おまたせ。大丈夫だった?」

 

「へんなとこでウロウロしてたから警察の人に職質された……」

 

「ごめん。後で埋め合わせはするから、乗って」

 

確かに聞き覚えがあり、しかし、自分が聞いた時よりも気楽そうな、余計な気負いの無さそうな声。

これが二十二号の、普段に近い声、素の声なのか。

事情を聞くべきだろうか。

だが、大凡の話は小沢警部に聞いている。

自分たちでは手出しが出来なかった民間人の誘拐に対処してくれた、とも取れる相手だ。

そもそも、未確認関連の事件から通してどこかで詳しく事情を聞くべき相手なのだ。

接触できる機会に、可能な限り情報を引き出すべきだし、可能であれば捕らえるべきなのは間違いない。

しかし……。

 

「二十二号」

 

「はい」

 

「君は……強い。戦う力があるだろう。だが、戦う義務はない。市民を守るのは我々警察の仕事だ」

 

そうだ。

恐らく、ずっと、伝えるべき言葉はこれだった。

彼には彼の目的があるのだろう。

単純に市民の害になる相手と戦い、人々を守ろう、なんていう理由で戦っている訳ではない筈だ。

彼には彼の戦う理由がある。

中途半端に人々を守るために戦っている訳ではない。

何かしらの別の理由で戦う中で、結果的に市民を守る事もある、という程度の話。

市民の味方でも、警察の協力者でもない。

──だが。

それでも、あの未確認の少女の言葉を信じるのであれば、彼もまた、本来なら守られるべき市民の一人なのだ。

戦う力を得て、倒すべき相手を定めて倒しているだけ。

そう、平和に生きるために。

 

「我々も、戦う為の力を得た。君が戦う必要は無い筈だ」

 

一年。

五代の協力を得ながら戦った一年の経験は、未確認生命体、未知の敵への対処法を警察内部に蓄積するに足るものだった。

G1を先駆けに、やがてG3を、G3Xを元にした普及型の装備も配備される事だろう。

もはや、未確認生命体やアンノウンと呼ばれる存在は、四号やアギトのような限られた存在でなければ倒せない脅威ではない。

 

「──そうであれば、どれだけ良かったか」

 

息を吐くように、肺の奥から抜け出るような呟きに、どれだけの感情が込められていたか。

 

「何?」

 

問い返す一条の眼の前で、二十二号と未確認の少女を載せたバイクが変形し空へと浮かんでいく。

 

「──去年の事も、今年の事も、グロンギも、マラークも、わかりやすく動いているから目立つだけで、始まりですらない」

 

ぐんぐんと高度を挙げる赤いバイク。

しかし、さほど大きい訳でもない二十二号の声は、不思議な程にはっきりと耳に届いた。

 

「焼け焦げた衣服だけを残して失踪した人間はどれほど居る? 部屋中の鏡を塞いだ部屋だけを残した者は? 未発見の遭難者が居る山に不自然な破壊痕は? もう一人の自分を見たという証言を残して消えた人は? 抜け殻の様に綺麗に衣服だけを残して消えた人々は? いや、1()9()7()1()()()()()()()()()() まだ終わっていない、始まりがどこなのかすら誰も知らない、いつ終わるのかなんて誰も知らない」

 

もう、ジャンプユニットを展開しても届かない。

それがわかって……、しかし、応援も追跡も呼ぶ気になれなかった。

言葉の内容に、込められた意思に。

 

「もう遅い、まだ足りない、俺達は走り続けなければならない。死んで楽になりたいのでなければ、生きて生きて生きて、生きる喜びを享受し続けたいのであれば」

 

一瞬で、赤い飛翔機械が加速する。

最早、豆粒ほどにも見えない二十二号達が、僅かな煌きだけを残し、朝日の中に消えていった。

遠間からは消防車のサイレン音が聞こえる。

だが、炎は何をせずとも遠からず消えるだろう。

燃えていた自衛隊施設はすでに僅かに崩れた骨組みを残すのみ。

 

G3X装着員の氷川誠は疲弊している。

協力者であるというアギトの青年達もだ。

唯一、遅れてきたが故に万全である自分が、ここを離れる訳にはいかないだろう。

それが、自分への言い訳に過ぎないと知りながら、一条薫は、ただ応援が来るのを待ち続けていた。

 

 

 

 

 

 




☆もう戦わなくて良いんじゃねとか言われて改めてこの世の驚異を思い出して変なテンションで帰るマン
戦わなくていいわけ無いじゃん……全部説明できないけど……ていうか影武者配置するなら警察全体に警鐘鳴らしてよ……
みたいになる
後ろにタンデムしてるギルスが変身前なら背中に当たるおっぱいの感触で多少ストレス軽減されたのになぁ
なお主人公のスペックアップに合わせてマシントルネイダーの飛行速度も上がっているため生身だとヤバイ、でも元の速度もヤバイので大差はない
もうそろそろ戦隊モノの敵とか昭和怪人みたいに戦闘員(武装ありG3X相当)をワラワラと召喚できるようになる
次回は戦利品の確認と難波さんへの埋め合わせだ

☆G4オルフェノク(故)
本編で語った以外にも同じ予知能力者同士だと千日手かガチンコ勝負になる
飽和攻撃に弱く適当な遠距離攻撃を持つ機動力重視の雑魚に囲まれてもやはり死ぬ
見どころ?
角がかっこいい
ナナスさんからイラストも貰える
ありがとうナナスさん!

【挿絵表示】


【挿絵表示】

上が変異前の素オルフェノク状態
下が恐らく元のG4の装甲部分を取り込んで変異した状態ですね
機械鎧の生体侵食による変異はアーマーものの王道

☆原作主人公ズ
G4オルフェノク相手に手間取っていたのは元が人間であると知っていた為
ぶっちゃけ普通の怪人として戦っていたら予知能力使われてもゴリ押しで倒せた
増えたアントロードとか相手した上でオルフェノク相手に手加減戦闘したせいでダウン中

☆職質中に二十二号の被害者扱いされてむくれてる難波さん
修行二日目朝にジルが失踪、追いかけて即日発見、その日の夜?に自衛隊基地襲撃事件で見張り
実はまだ2日しか棒に振っていないと取るか、夏休みの中で二日も無駄にしたと取るか
ちょっとだけぷりぷりしてるけど事態が事態なので何も言えないなぁと思っていると次回に主人公が自分で頑張って考えた埋め合わせとかしてもらえて好感度が上がるぞ!
さてはおめーチョロインだな?

☆職質しかしてない一条さん
自衛隊基地めっちゃ燃えてるけど突入しようとしたら後輩であるG3Xも運び出されてるしで出向くタイミングを逃した
突入しろよとか言われそうだけど火災現場に飛び込むのは警察の仕事とは違うんやで
助けてレスキューファイアー!
JK未確認に戸惑ってたら二十二号のいつものスピリチュアルなトークで更に混乱する
でも話の内容からなんかいろいろ驚異が迫ってるのは察して頭が痛い



アギト編ラスボスへ向けてキーイベントとして決闘を挟みたいけど、このタイミングでか……
お土産の解析と難波さんとの埋め合わせデートした後で決闘して、今度こそアギト編終盤ですね
ヒロイン周りの話しとかすると本筋から離れまくるの申し訳ない
ジル決闘関連の話し終わったら本筋に合流するのでそれまでお待ちいただければ
でもやっぱりクウガ編ほどバリバリの最終決戦にはならないかなぁ
書いてみないとわからんのです
それでもよろしければ、次回も気長にお待ち下さい

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