オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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37 嵐の前の

季節は秋となった。

体感で何時頃から秋を感じるかは人それぞれだろうけれども、世間的にはもう秋だ。

秋と言えば何を思い浮かべるだろうか。

食欲、芸術、スポーツ、読書。

最近、実用以外の読書の時間をあまり取れていないのが悲しくもある。

食欲は無いではないが、食べないなら食べないでもまぁまぁ死ななくなってしまった。

芸術は完璧だ。

今の俺ならエアバイオリンでピアノの音色を奏で観客の脳を破壊する事も不可能ではないし、ヒューマンビートボックスも流行りだす前に極める事も不可能ではないだろう。

スポーツ。

昔、バイクよりも調子の方に長時間乗っていた時期、運動系の部活の助っ人をしていた時代がもう遠い昔のように思える。

今、竹刀で人を打っても大丈夫だろうか。

試製アークル及び新型のベルトの肉体制御能力は完璧だが、万が一という事もある。

小手で手を切り飛ばしたり、面で首が陥没したり、胴で上下真っ二つになったり、そういう事故を想定すれば、当時のように気軽に手出しをしようとは思えない。

かろうじてバイクでのツーリングをスポーツと言い張れる可能性はあるが、バイクに乗っても飛んでいる時間の方が長いので一般的なツーリングと同一視出来るかは甚だ疑問だ。

沖縄に行った時、もう少し見晴らしの良い道をバイクで走ればよかったとも思う。

 

だが、そんな個人的な秋への思いとは関係なく、この季節に起こるイベントがある。

そう、修学旅行だ。

春という場合もあるだろうが、少なくともこの高校は秋に行う。

旅行会社だとか交通機関とかホテルなどとの兼ね合いもあったりするので大きく時期をずらす事は難しい。

 

「俺はね」

 

「ふむ」

 

「沖縄とか、京都とか、そういうとこの方が良いと思う訳だよ」

 

「まぁ、そういう意見もあるわな。候補にも挙がってたし」

 

「歴史的建造物とかレジャー施設とかが割と充実しているし、こういう学校行事でもなければ行きにくい距離にあるし」

 

「電車はともかく、新幹線とか飛行機とか使うレベルだものな」

 

「あと」

 

「あと?」

 

「東京は結構な頻度で来てるから目新しさが無い」

 

「贅沢者め」

 

吐き捨てるように言われてしまったが、別に遊びに来ているわけではない。

未だに東京へと出向している父さんへと色々荷物とか母さんの愛妻弁当とかを届けに行ったりするので、未確認やマラーク案件以外でもそれなりに脚を運ぶ機会が多いのである。

そして、わざわざ電車なり新幹線なりまで使ってお使いだけをさせるほど母さんも父さんも非情ではない。

俺が自力で稼いだ金とは別にお小遣いをくれたりするので、それなりに東京は満喫できたりするのだ。

だから、今更、修学旅行で改めて東京というのはなんとも。

 

もうそろそろ、東京に顔を出さなければいけないというタイミングでの来訪である為、都合が良いと言えば都合がいいのかもしれないが。

だが、俺は日常と戦いは可能な限り切り離しておきたいタイプなのだ。

というか、みんな何を考えて行先を決める投票の時に東京を選んでしまったのか。

去年に未確認の事件が起きたばっかりな上に、渋谷には隕石が墜落して、挙げ句オルフェノクっぽい怪物が同時多発的に現れて多数の死者が出たばかりなのだけれど。

 

「ま、お前の言いたいこともわかるよ。ちょっと危機感が無さ過ぎる」

 

「ん……、杞憂と言い切れるほど、安全じゃあ無いからね」

 

実際、平和ボケするには十分すぎる程に安心材料が揃ってしまっているのも悪い。

確かに、グロンギのムセギジャジャがゲゲルで出す犠牲者の数は終盤には数百まで増えた。

更に言えばグロンギオルフェノクによる同時多発ゲゲルによる被害も甚大だ。

 

だが、しかし。

東京が大混乱に陥るような事態になっても、四号──五代さんと警察の連携により、その未曾有の大混乱も乗り越える事ができてしまったのである。

G1システム装着者こと一条さんの存在も大きい。

人間が作り出すことのできる科学の鎧が、ついに未確認を屠るに至った!

というのは、ニュースなどを通して未確認関連事件に触れる一般市民にとってはとてもわかり易い象徴となる。

今、警察組織の中で一番国民に顔が割れている警察官は一条さんだろう。

敵の敵であり、味方とは言い切れない可能性もある四号や、謎の未確認ハンターとか和製プレデターなどと呼ばれる二十二号と比べて、素性がはっきりとし、確実に人類の味方であると言い切れるG1。

平和の象徴とも言えるような英雄を手に入れてしまったが為に、既に未確認による犠牲者は出ないのだ、などと、勘違いをしてしまっている。

 

安心と平穏を願って、それらを手に入れるために今まさに活動を続けている俺が言うのもなんだが、それは大きな間違いだ。

グロンギを殺す事ができる兵器、武装。

マラークすら打倒できる火器。

人類の脅威を取り除く事が可能な戦闘用強化服。

或いは、どこからともなく現れて、怪物をやっつけるヒーロー。

これらは脅威に対するカウンターではあっても、脅威から人々を守るための盾とはなりえない。

どれもこれも、被害者が出てから、加害者を見つけて排除する為のものでしかないのだ。

危険物を発生前に除去できる画期的な手法でも発明されない限り、これらは全て対症療法でしかない。

安心を手に入れる、という点で言えば、究極的には常に何らかの武装を所持した護衛を付き従えるか、自分自身が脅威に対処できるだけの能力を身につける必要がある。

 

というのは極論にしても、だ。

去年の未確認を脅威と感じられなくなった上に、今年のマラークに関しては写真での撮影が困難である事や、命を顧みない記者達が軒並み去年に討ち死にしていたりする為か、積極的に公表されていない。

ニュースで発表される場合も、死因や死体の状態は伏せられて事故として処理されている場合が多い。

何を考えての事なのか。

いや、或いは、警察やマスコミに潜む非人類からの妨害である可能性もある。

オルフェノクやファンガイア、ワームによる殺人を隠蔽する中で、マラークによるアギト候補者狩りが隠されているのではないだろうか。

 

「心配だよな。難波さんのこと」

 

「難波さんに限った話じゃないよ」

 

マラークのアギト候補狩りは、基本的に東京近郊でばかり行われている。

少なくとも、俺が調べた限りではそうだ。

不自然な、ありえない死に方をしたという話は東京以外ではあまり聞かない。

逆に言えば、東京に近寄りさえしなければ、候補者、火のエルの因子を色濃く受け継いでいる人間でも狙われずに済む可能性だってあるのだ。

 

「心配ばかりしていても、仕方がないとは思うんだけどね」

 

実際、東京でも狙われるやつは狙われるが、基本的には何事もなく日常を過ごしている人間の方が多い。

身近で連続殺人が起きていたとして、他人事にしてしまえる図太さが人間には存在する。

私だけは、と。

そして、大体の場合はそのとおりに生きることができる。

そうでなければ、社会というのは成り立たない。

 

そんなことを考えていると、ばし、と、背中を手のひらで叩かれた。

手のひらの主である一人のジョー(星座カーストに頼らない強い名前を付けておけば死なないかもしれないという願掛けからくるあだ名。(さい)とか駆使して戦う技術とか持っていてくれると嬉しい)が男臭い笑みを浮かべて言う。

 

「それがお前のいいところさ。そこそこ思慮深くて意外とまぁまぁ思いやりがある。そういう所に難波さんも惹かれたんだろ?」

 

「それならいいんだけどね……」

 

思慮深くあれているだろうか。

とりあえず激動の一年目を生き延びて、曲りなりにも力を得てから、とりあえず動いてみる、みたいな形に収まってしまったような気もする。

出来ることがあるとやってしまう、というのは、思慮の時間を短縮する悪癖だ。

もちろん、そうするべきだと思ったからやっているので悔いはないのだが、立ち止まり、振り返る事ができる時には、もう少し色々と考えてみるべきなのかもしれない。

 

「交路くん、仲村くん、早くしないと、みんな行っちゃってるよ?」

 

前の方から難波さんが歩いてきた。

考え事と雑談をしながらだったため、無意識に歩速が遅くなっていたようだ。

東京は多少馴染みのある土地だが、全体行動中に逸れるのは皆に迷惑を掛けてしまう。

 

「ああ、すまん、今行く。……ほれ、来てしまったものは仕方があるまい。今の俺達にできるのは?」

 

「(周辺にAI搭載型の静音プロペラ飛行型及び忍び歩き多脚歩行型の小型無人兵器を多数ばら撒いて索敵、警察無線の傍受もさせつつ、葦原さんや一条さんの魔石の反応を意識しながら)東京観光を楽しむこと、だな」

 

ジョー改め仲村君は、俺の返答に、にっ、と笑みを返し、先を行く班員達を追いかける。

危機があると知り、しかしそれに対応する能力を持たないにも関わらず、それをひとまず置いておいて前向きに旅行を楽しもうと考える事ができる、あのメンタルの強さ。

見習いたいものだ。

 

「交路くん」

 

ぎゅ、と、手を握られる。

誰が握ったのかなんて確認するまでもない。

夏休みの修行と旅行の間に幾度となく繋いですっかり覚えた手のひらの感触。

横を見れば、目を細め、柔らかい、子供を安心させるような笑みを浮かべた難波さんの顔。

 

「私も居るから。だから、一人でやらなくても、大丈夫だよ」

 

腕を絡めるようにして身を寄せる難波さん。

不安を表に出してしまった事を不覚にも思うのだが。

やはり、難波さんと知り合えて、友達になれたのは、この人生で一二を争う幸運だ。

これだけは、運命に感謝しても良いと思う。

 

―――――――――――――――――――

 

感謝しても良いとは思うし、難波さんを頼れる場面であれば幾らでも頼る所存ではあるのだが。

実際問題として、今は修学旅行中。

このタイミングで何事か起きて……具体的にはマラークが動き出したりした場合、同行中のクラスメイト達が付近に居る状態で戦闘行動が必要になったりすれば身バレの危機だ。

なので、このタイミングでマラークが現れたなら、速やかに現場に赴き即殺せねばならない。

殺害に掛かる時間そのものが短くとも、数分はその場を離れなければならない以上、同行者や引率の先生を誤魔化す必要がある。

難波さんを頼るとなれば、今のところはその程度の話だ。

大げさに考える必要もない。

 

そもそも、マラークが出現する頻度を考えれば、基本的には活動していない時間の方が余程長い。

修学旅行の日程の間に何かしらのトラブルが発生する可能性は低い筈だ。

オルフェノクやファンガイアなども似たようなもので、あちらは行方不明になると本格的に調査が始まる相手を繁殖や捕食の対象とするのは余程頭の悪い個体くらいなものだろう。

行先も期間も学校にデータとして残っている修学旅行中の学生を襲うようなバカは、それこそ現時点では人類に対して自分たちの存在を隠しておきたい大多数の同種に、早い内に始末されているのではないだろうか。

 

だが。

 

本格的に何事もなく修学旅行が進む、というのも、それはそれで不自然に感じる。

喜ばしい事ではある。

高校二年の修学旅行は、余程のことがなければ一生一度の思い出となる。

そんな一大イベントが血なまぐさい戦いの記憶に塗りつぶされるというのは本来あってはならない。

だが、透明人間が透明なナイフを身体の近くでゆらゆらと揺らすような不快感が確かにあるのだ。

強迫観念というやつかもしれないが。

眼の前に脅威が現れないのは嬉しい。

だが、存在しないわけではなく、明確に敵が存在するにも関わらず姿を見せないのは不安だ。

 

ドローンから回ってくる情報も異常はない。

何度確認しても、だ。

恐らく、今の東京はかつて無い程に平和だ。

人間の起こす事件は知らないが、それ以外によって起こる殺人事件などが発生していない。

 

「むぅ」

 

A4判の書籍に偽装した自作PCを閉じる。

何も起きないわけがない、と、そんな悲観的な考えではない。

逆に、こうして何事も起きていない時間の方が長いのだと考えると、この世の中は平和な時間の方が多く、俺が少しばかり気を回しすぎているのではないかと錯覚を覚える。

いや、錯覚とも言い切れない。

別段、普段からこんなに周囲を警戒しているわけではない。

異形共の闊歩する東京に、よりにもよってクラスメイト達とともに来てしまったから過剰になっているのだ。

彼らの生き死にに関して俺が責任を感じているという訳ではなく、リスク管理の話だ。

 

例えば何かの集団行動中……に限らず、基本的に修学旅行中は、自由時間であっても最低限班単位での行動になる。

俺の班は、クラスの中でも特に交流のある友人らで組むことが出来た。

当然、難波さんも居るし、ジョー……仲村も居るし、その他諸々のクラスメイトと比べてやや交流の多い連中だ。

なんやかんや、難波さんとも仲良しで、そこらへんはとてもよろしいのだが。

仮に、修学旅行中にマラークなりオルフェノクなりファンガイアなりに遭遇して、逃走に失敗してしまった場合、難波さんなぞは友を守るために変身してしまう可能性が高い。

芋づる式に俺の正体までバレるのが嫌というのはもちろんだが、その後の難波さんの生活がどうなるか、という心配もある。

 

なにせ難波さんはギルスだ。

正体バレを一般人にした場合にどうなるか、希望的観測はできない。

なにせギルスだ。

あの葦原涼さんだってギルスで、難波さんはその葦原さんと同種であるギルスなのだ。

それだけで暗い未来に説得力が湧く。

 

ちら、と、カバンを見る。

ちら、と、同室の仲村を見る。

 

「おう、どうした難しい顔して」

 

「いや……例えばの話なんだけどさ」

 

「うむ」

 

「俺が、自分のカバンの中にうっかり妹を入れて持ってきてしまっていた、なんて言ったら……」

 

「正気を疑う。 ……猟奇的な話ではないよな? 一部だけ持ってきた、みたいな」

 

「いや、全部」

 

「じゃあ正気を疑う」

 

「そうか。……いや、そうだな。悪い、おかしな事を言った」

 

「気にするな、いつもの事だ」

 

もちろん、俺は普段から自分の言動には気をつけているので決していつものことではないのだが、こいつの基準だといつものことなのかもしれない。

日常の何気ないやり取りでも、どう感じるかは人それぞれなのでこいつが特段おかしな感性をしている訳ではない。

だが、確かにおかしな話ではある。

車のトランクに、とか、後部座席の足元に寝転んでそのまま連れてきてしまっていたというならいざしらず、普通の旅行かばんには流石のジルも入らない。

いや、背丈だけで見れば普通に身を縮めれば入れそうではあるのだが、今のジルには体積を増やす豊かな凹凸があるので難しい。

となれば、うっかり持ってきてしまっていたジルを武装させていざという時の戦力にする、というのは難しいか。

AI制御の自動人形を予め用意して徘徊させておくにも、そんなもので対処できる相手なら最初から念動力だけで始末できてしまう。

手詰まりだな。

 

「ちょっと出てくる」

 

「遅くなるなよ。一応、消灯の時間もある」

 

背に掛けられた声に手を軽く振って返事をし、廊下に出る。

一応、消灯時間までは自由行動だ。

ホテルの外に出る事は禁じられているが、ロビーを彷徨く事までは禁じられていないし、節度を守れば他の部屋に行くことも許可されている。

そういえば、なんとかいう格闘家が泊まっているからサインを貰いに行こう、なんて話を聞いた気がしたが。

 

行き詰まった思考をほぐすためにも、もう少し潤いのあるイベントが欲しい所だ。

もう少しざっくばらんなホテルだったなら、ゲームコーナーとかが充実していたりして遊べたのだろうが。

家に居る時は、なんだかんだとジルとグジルのお蔭で潤いがあったし暇があっても潰すのに苦労しなかったのだと思い知らされる。

精神面で反逆する心配が無くこちらの命を狙う意図も無く双方合意の上で自由に出来るそれなりに仲の良い距離の近い見目の良い手触りが良く肉体的に相性が良い相手というのは貴重なのだ。

このホテル、それなりに見栄えが良く、適当にぶらついても内装のセンスの良さは見ていて面白いのだが、それだけだ。

まぁ、宿泊施設であってアミューズメント施設ではないから楽しむことはあまり想定していないのかもしれない。

 

「うーん」

 

「どうしたの?」

 

と、廊下を歩きながら唸っていると、タイミングよく後ろから難波さんが声を掛けてきた。

振り返って見てみれば、シャワーを浴びた後なのか、頬は仄かに赤みを帯び、髪もしっとりと濡れている。

服装も制服でなく、しかしパジャマというほどではない程度のルームウェアだ。

ふかふかした素材のシャツとズボン。

そのままパジャマと言い張れそうな程度には楽そうだ。

 

「潤いがあるなぁ」

 

「そ、そうかな」

 

頭に手をやり、髪の毛を撫で付ける仕草も良い。

女子、って感じる。

恥じらいが感じられるのは良い。

 

「良いと思う、うん。かわいい」

 

「交路くんって、結構そういうとこ素直に言うよね……嬉しいけどさ」

 

嬉しいならいいんじゃないかな、とは思うが、少しだけ唇を尖らせて言葉尻を小さくした難波さんは不思議と拗ねているように見えなくも無い。

思わずぎゅっと抱きしめたくなるほどに愛らしいのだが、抱きしめたいくらい愛らしいからといって仲の良い異性の友人にそのまま抱きつくようなエチケットを弁えない行動を取る俺ではない。

 

「そうじゃなくて、おさんぽ?」

 

「うん、ゲームコーナーでもあれば良かったんだけどね」

 

繰り返しになるが、このホテルはちょっとお上品過ぎる。

もっと気兼ねない……、地方の温泉とか付いたひなびた感じのホテルの方が良いのではないだろうか。

あと、部屋も大部屋とかの方がワイワイ騒げて楽しい。

枕投げとか、消灯後に好きな子の話をするとか、他の部屋にこっそり遊びに行ったりとか。

二人一部屋だと集まりにくい。

……うん、教師の立場で予算に問題が無ければこういうホテルにするわな。

監視が面倒過ぎる。

 

「他の男子は?」

 

「集まってるとこもあるけど、集まってもテレビ見てるくらいだなぁ……」

 

「男の子が集まって見るテレビって……」

 

ポッ、と、顔を赤らめる難波さん。

 

「当然、はみだし刑事情熱系だよ」

 

この時期だとパート6が始まったばかりなのだ。

見てる人は見てる。

でも俺は藤田まことが見れないから別にいいなぁって……。

 

「だよ、ねっ! うん! かっこいいよね刑事ドラマとか男の子好きだもんね! 見るならそういうのだよね!」

 

わちゃわちゃと手を振りながら何かを誤魔化すように捲し立てる。

いや、わからなくもないけど。

カード千円でいやらしいチャンネルが一晩およそ見放題みたいなのもあるだろうし。

でもそれにしてもいやらしいチャンネルだけじゃなくて一日映画を上映し続けてるチャンネルとかもあるので誤解してはいけない。

 

でもはみ出してるデカいのとか、そんな卑猥なドラマを地上波で放送できるもんなんすねぇ……。

という冗談はともかく。

俺の知るこの時代のドラマとは別に全く違うドラマとかもあったりするのだが、というかそういう番組の方が多いのだが、普段あまりテレビドラマを積極的に見ないのでそれほど見ようという気も起きない。

ちなみに、TRICKは去年無事に放映されたのだが、だとするとスピンオフのライダーネタはどう消化されるのだろうかという疑問はある。

既に現時点で続編の話も出ている為、来年には無事に続編が放送されるだろう。

そのためにも今年を乗り越え……。

 

「……交路くんは見ないの?」

 

「今日は特に見たい番組無いからなぁ」

 

というか、ジルの情操教育の教材としてまんべんなく見ていただけなので、これといってこだわりの番組もあまり無い。

連ドラも見たり見なかったりだし。

 

「じゃあさ、……うちの部屋、来る? 相部屋の子、他の部屋に遊びに行ってるから、ちょっと寂しくって」

 

「いいの?」

 

難波さんからすれば俺が部屋に入る場面を誰かに目撃されようものなら、相部屋の子が居ない隙に男を部屋に連れ込んだとして先生方からこっぴどく叱られた上にあらぬ誤解まで生みかねないと思うのだけど。

 

「いいよ、交路くんなら」

 

はにかむように笑う難波さん。

ううむ。

難波さんにも困ったものだ。

そんな魅力的な表情でそんな事を言われたなら、そんじょそこらの男子なら勘違いして何らかの間違いを犯してしまいかねない。

というか、無防備過ぎるのではないだろうか。

確かに、今の彼女はそんじょそこらの無防備過ぎる女子とは一味違うパワーの持ち主だが。

それでも、勢いやら雰囲気に流されて、という事もある。

が、こと自衛に関しては教導する事があるとして、彼女は俺の部下でも弟子でも、グジルの様な所有物でもない。

あまりあれこれ言うのもおせっかいが過ぎるというものだろう。

 

手を伸ばし、難波さんの手を取る。

しっとりとした手触りの柔らかな手だ。

 

「そういう事、あんまり言わないようにね」

 

「うん、交路くんだけにしとく」

 

強すぎず、しかし、しっかりとこちらの手を握り返しながら楽しげに笑う難波さん。

そういう事を言ったわけではないのだけれど。

まぁ、難波さんがそれでいいなら、問題はないだろう。

とりあえず、今夜は、これ以上変に思い悩む必要も無さそうだ。

 

―――――――――――――――――――

 

そして。

修学旅行は、無事に終了した。

 

「奇跡、いや、これが普通、か」

 

帰り道。

難波さんと別れて帰宅路を歩きながら、ふと呟く。

そう、これが普通だ。

 

明確に人をターゲットとして殺しに来る怪物なんて居なくて。

修学旅行は、例えば生徒一人ひとりの勝手な行動で起きるちょっとしたアクシデントを除けば、何事もなく、平和に終わる。

普段は行かないような観光地を友達と回って。

適当な飯屋に入って騒いで怒られそうになって、でも、何事もなく。

 

それが普通だ。

世界はそうあるべきだし、大凡の世界はそのように回っている。

 

外敵は居ない。

襲撃なんて無い。

いつの間にかクラスメイトが人以外の何かと入れ替わっているなんて事も。

余程、運が悪くなければ、起こりえない。

 

「ああ」

 

だけど。

勘違いをしてはいけない。

()()()()()()()()()()()()()、運が良いも悪いも無い。

運が良いやつは、こんな世界に生まれないのだ。

 

立ち止まる。

帰り道からはだいぶ逸れた、運動場も併設された自然公園。

なぜ家に直帰せずにここに来たか、と言えば、それほど利用者も無く、植樹された街路樹のお蔭で死角を作りやすいからだ。

 

「まさかとは思うんだが、揃いも揃って気を使ってくれでもしたか?」

 

見慣れた運動場の物陰から、異形の姿が現れる。

ぞろ、ぞろ、と。

ふと、夏に見たアントロードを思い出す。

違いがあるとすれば、群体型ではない事だろうか。

 

ジャガーロードが居る。

トータスロードが居る。

スネークロードが居る。

ゼブラロードが居る。

街灯の上に立つのはクロウロードか。

魚、犬、タコ、甲虫に似た連中。

 

「どっちにしろ、助かったよ。お蔭で旅行は気兼ねなく楽しめた」

 

見覚えのある連中だけでなく、知っているけれど会ったことのない連中も。

運動場に、自然公園に犇めく姿は運動会か地域のイベントか何かを連想させる程だ。

帰宅途中に感じた気配だけではない。

戦いやすい場所に誘い込もうとしたら、その先にも似た気配があった。

待ち伏せていたのだろう。

明らかに殺した覚えのある連中も居るが、木っ端ロード程度なら新たに作り出すことは難しくないのかもしれない。

 

「礼だ」

 

無数の、知りうる限りの全てのマラークが、一斉に両手で印を結ぶ。

俺の腰には既にベルトが浮かんでいる。

学校指定のコートの中に出しておいた。

無数の視線。

それには全て、使命感にも似た殺意が込められている。

()()()()

身体は最早、変わると意識する必要すら無い。

 

ギベ(死ね)

 

 

 

 

 

 

 




続く!
って感じの三十七話をお届けしました
こういう引きの時こそ予告編を書きたいですよねぇ……
ふと思うのは、次の話が完成して投稿したら前の話に予告編を差し込むという手なんですけど
でも本編だけだと予告カット用のセリフが少ないから、このSSの裏、原作側で行われていたであろう会話とかを捏造しての予告編とか書けたら楽しそう
やるかどうかは不明だけどやりたくなったらやります

☆平和を与えられると逆に不安になるとかいう社会復帰が不安になるマン
油断したところで襲撃を仕掛けてくるマラーク達にはンの特権であるにっこり笑顔でネオグロンギのトップと戦って命を投げ出す栄誉をくれる
修学旅行はとても楽しかったけど、渦中の東京に集団でダイブした割に何事も無く普通に平和を謳歌できて逆に現実感が無い
旅行終わりの帰り道に待ち伏せてるマラーク達を察知してやっぱりな♂と夢から覚めた直後の様な現実感を得た

☆今回修学旅行という事で攻めに攻めた難波さん
浮かれながら帰ってる最中もマラーク達の出現を感知できず
最近調子に乗ってたから次回か次次回で一旦曇る

☆グジル(もちもの)
もう主人公のもの
凹凸が豊かな大地
耕したのは主人公なので収穫するのも主人公なのだ
次回か次次回でパワーダウンしたりパワーアップしたりする

☆マラーク御一行様
渾身の隠形……というか、アギトは必ずしもマラークの動きを察知できる訳ではない筈なので、身を隠すと意識して居ればこれくらいはできそう
でも基本的にマラークにとってアギトはぶっ殺す相手なので来るなら来いの精神なのでやらない
でも今回は標的である主人公以外には察知されないように身を潜めていた
なんでかなという話
ちなみに主人公は自分への視線とか気配とかを察知したのでアギトの力とは関係なく見つけただけ
不正は一切無いのだ

☆家で全てを乗り越えて結ばれた愛する夫との間に生まれた愛する我が子の帰りを夕食を作って待ってるママン
ふと外を見て『嵐が来るわね……』とか呟く
懐からロケットを取り出し蓋を開くと、若かりし頃の男女数名の幼馴染達の姿が
それは幾つもピースが抜けて、もう決して揃うことのない過去という名のパズル
人の胸のぬくもりを感じながらコバルトだった海を見たあの日
まだ自由に憧れていた優しさの時代、懐かしんだりしちゃうのだ
ろーんろーあごーつえんちせんちー……
ちなみに作中でギリギリ21世紀になったとこ
電子機器とか作中作とかに言及するのに一々検索が必要になるくらい昔なのだなぁ
十七年前ですってよ奥様

☆修学旅行中に何事もなく主人公が平和に過ごせるように手配した謎の黒幕
色々考えていたけどこいつの主人公へのスタンスも固まったので次の話でようやく顔見せ


☆そしてナナス様より頂いたイラスト
毎度ありがとうございます!
今回はポーズ変更のリマスター的なあれです!


【挿絵表示】


「死ね」

現在の基本形態
今回の締めのシーンはこれ


【挿絵表示】


「ギベ」

ダグバくんのズッ友形態
現状ではダグバ君相手以外では発動しない感じ



筆が乗れば今年中にもう一話行けるけどアギト編終わるのは来年までかかりそう
紅白に純烈が出るからみんなで応援しよう
今年は年またぎの夜勤じゃないから紅白が見れるので嬉しい
とか言いつつ、他の番組見てる間に出番終わってたりね
あるある
多分PCいじってる間に年が明けてるくらいまである
デスクトップマスコットの年越しイベントの方見てちゃう気もする
FGOで本家伝説の方のヴィイが出たけど個人的にはこっちのヴィイなのだ
ヤガーに関してもそんな気分でした
そんなあれがそれでもよければ、次回も年越しうどんの準備をしつつ気長にお待ち下さい

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