オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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40 絶滅の足音

夢か現か。

意識もはっきりしない微睡み。

ふわふわとした感覚が、体を揺すられる感触と共に、ゆっくりと消えていく。

瞼を開ける。

カーテンの開け放たれた部屋は朝日に照らされ、部屋の中に舞うチリを輝かせている。

 

視線を横にスライドさせれば、白い髪、白い肌、赤い瞳、儚げな雰囲気の美しい少女が、布団の上から俺の体を揺すっていた。

 

「こうじ、おはよう」

 

「────おはよう、ジル」

 

鈴を転がすような声で朝を告げる義理の妹に、挨拶を返す。

時計を見る。

そう遅くはない。

目覚ましでセットした時間よりも早い。

なぜ起こされたのか。

そう思い、視線をジルに戻す。

俺と同じ学校の制服に袖を通したジル。

 

「あぁ……今日から登校だったか」

 

「うん、体調、良くなったから」

 

ふわり、と、花が咲くように笑顔を浮かべるジル。

スカートの裾をつまみ、嬉しそうにくるりとその場を回って見せる。

 

「にあってる?」

 

「可愛いぞ」

 

「ん──」

 

頭を撫ぜる。

くすぐったそうに目を閉じるジル。

 

「ジルー、コウジ起きたかー」

 

ノックもなしにドアを開け、ジルと瓜二つの顔をした少女が入ってくる。

ぼさぼさに寝癖が広がった白い髪に、着崩したパジャマ。

 

「グジル、せめて髪の毛くらい梳かしてから起きろ」

 

注意すれば、もう一人の義理の妹、グジルは、ふあ、と、あくびをしながら応えた。

 

「だぁって、今こいつに起こされたとこだしぃ」

 

「はやく、見せたくて」

 

「おめー、あたしと同じ顔なんだから可愛いに決まってんだろぉ?」

 

「自分で言うのか……」

 

ちょいちょい、と、手招きすると、グジルがのそのそと部屋に踏み入って、俺の眼の前で頭を垂れた。

枕元に置いてあった櫛でとりあえず髪の毛を梳かして、簡単にだが寝癖を整える。

 

「顔洗ってこい」

 

「おにーさん、洗ってー」

 

「都合のいい時だけ兄呼ばわりするな」

 

ベッドから起き上がり、グジルの手を引き洗面所に向かう。

パジャマの裾をジルが掴んでついてくるが、まぁ、何時もの事か。

ベッドと机の間にある用途不明の金属の箱の上に櫛を置き、部屋を出る。

 

―――――――――――――――――――

 

「あとな、もうお前も高校生になるんだから、髪は自分で整えて、夜も風呂は一人で入れ」

 

「えー」

 

「えー、じゃない」

 

「ジルは一緒に入っても文句言わないじゃん」

 

「何か起きたら大変だろ」

 

「うん、わたし、たいへん」

 

「自分で言うか……いや自覚無いよりいいか」

 

朝の準備を一通り済ませ、制服に身を包みリビングへ。

朝は元から騒がしかったが、体調不良で入学から今まで学校に行けていなかったジルも加わる事で、余計に騒がしい。

嫌いな騒がしさではないが、もう高校生なのだから落ち着く事も覚えたほうが良いのではないだろうか。

 

「ほらあんた達、朝ごはん出来たから持ってきなさい」

 

キッチンの母さんが朝食の乗った盆を出し、それを持っていく。

ジルがキッチンに向かうより早く、グジルがジルの分のお盆をテーブルに持ってきた。

色々と不平不満を言う奴だが、なんだかんだでジルの事を一番気にかけているのはこいつだと思う。

姉妹仲が良いのは、良い事だ。

 

「おめー、体よえーんだから、私の分の飯も食え」

 

「グジルもしっかり食えよ」

 

「あたしは良いんだよ、ジルがちゃんとしてりゃあな」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

まぁ、グジルもジルも普段からきちんと食べているから、多少飯を融通しあっても問題がない程度には体が出来ている。

グジルも嫌いなものを押し付けている感じではない。

ただのおかずの交換だ。

共有とも言えるかもしれない。

入るところは同じだ。

同じ、いや、食べたものが胃に行くという意味で。

まだ寝ぼけているのか。

 

―――――――――――――――――――

 

朝食を終え、少しだけテレビを見ていると、チャイムが鳴った。

誰だ、こんな朝から。

とは、思わない。

 

「コウジ、お迎えが来たぜえ?」

 

「ありがたい話だ」

 

通学カバンを手に取り、リビングを離れる。

 

「いってきます」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

母さんの返事を背に受け、玄関へ。

姿見に、黒い影が映り込む。

全身黒い……制服に身を包んだ俺だ。

少しだけ襟元を整える。

はっきり言って、俺は父さんと母さんの子供だ。

控えめに言って、制服もビシッと決まっているのではないだろうか。

金色のボタンというのはアクセントとして実に引き締まる。

 

「唐突なナルシスト止めたら?」

 

「美形だ、とは言ってないだろ」

 

悪くない造形だとは思うが。

 

「こうじ、かっこいいよ」

 

「ジルもキマってるぞ」

 

姿見に背を向け、靴を履き、玄関を開ける。

 

「交路くん、おはよう!」

 

にこっ、と、朝の始まりに相応しい太陽のような笑みを浮かべて挨拶をくれたのは、クラスメイトにして無二と言っていい親しくありがたい友人である難波さんだ。

少し離れた所に住んでいるが、毎朝迎えに来てくれたりする。

いい人だ。

 

「あ、グジルちゃんに、ジルちゃんも、おはよう!」

 

「あたしらはついでかっての」

 

「難波、おはよう」

 

こうして、一日が始まる。

趣味で組み上げたバイクはこうした通学では使わないが、歩いて行ける距離なら歩いていくのが良いだろう。

別段、バイクを使って急がなければならない用事もない。

学校に行って、授業を受けて、部活動を冷やかして、少し寄り道で遊んで、帰って。

それを繰り返すだけの、将来何かになるための、何者でもない、モラトリアムな時間。

穏やかで、退屈で、平穏で、たぶん、かけがえのない。

まるで、夢のような、変わらない日常。

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

閉じられた玄関のドアを、一つの影が見つめている。

鏡に映る黒い影。

黒い異形。

冠じみた黄金の六本角。

煌々と光り輝く巨大な複眼。

人ならざる、しかし、奇妙に感情が滲む瞳が、その向こうを見通す様に、じっと、ドアを見つめていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

アンノウンの活動範囲が、拡大している。

実しやかに囁かれている噂が事実である事を知るのは、警察関係者の中でも一握りのみ。

知らされていないのは、日本の警察が日本の治安だけを考えるというのであれば知る必要が無いと情報を統制されているからか。

そもそもの問題として、アンノウン、二十二号の言う天使、マラークが電子機器を始めとした記録媒体にデータとして残りにくいという特性がある。

海外でのアンノウンの目撃情報にしたところで、警視総監が独自に持つ海外の民間協力者からの情報提供によるところが大きい。

 

既に、葦原涼の知る範囲で、アギトの力を奪われていない者は存在しなかった。

交流の少ない二十二号がどうかは知らないが、少なくとも涼が普段から共闘しているアギト達は既に、戦う力を失っている。

木野薫の元で保護されていた元あかつき号メンバーの生き残りである真島浩二ですら、目覚めかけていたアギトの力を何者かによって奪われていた。

 

そうするとどうなるか。

ふつ、と、怪物と出会う機会が無くなったのだ。

 

当然だろう。

涼が怪物、アンノウン、マラークと戦いを繰り広げてきた理由が何かと言えば、自らが狙われていたから、そして、マラークが誰かを襲う度に、本能的に駆けつける事ができたからだ。

葦原涼の体からアギトの力は失われ、ギルスへの変身は叶わなくなった。

しかし、それで戦う力を失った訳ではない。

他のアギトと異なり、後から四号と同種の力を得た涼だけは、未だに異形の戦士へと変身し戦う事ができる。

 

だが、戦う力を持つから戦えるのかと言えばそうではない。

マラークが人を襲い殺すのに、それほど時間を掛ける事はない。

現場に駆けつけて戦う事ができたのは、偏にアギトの力が齎す予知じみた直感があればこそ。

ただ変身し戦えるだけの今の涼に、人を襲う時にのみ姿を現すマラークを捉える事は、事実上不可能に近かった。

 

そしてそれは、決して悪いことではない。

そもそもの話として、葦原涼自身には明確に戦う理由などというものは存在しない。

襲われたから戦った、愛する人を助ける為に戦った。

後の戦いにしても、父親の死の真相を知るあかつき号事件のメンバーを守るためなど、他所に戦う理由があったからこそ戦っていたと言っても良い。

もちろん、頼られれば戦う事も否では無かったが……。

世のため人のため、悪と戦う正義の味方、などと言えるような柄ではない。

 

そもそもの話として、涼とて変身して戦っていない時には、一人の生きた人間なのだ。

挙げ句、親戚とは疎遠で、父親は死んでいる。

学校も退学してしまった。

こうなれば、生きていくために、自分の力で金を稼がなければならない。

蓄えもそう多くある訳ではない。

世知辛い話ではあるが、怪物との戦いから遠ざかっただけで、生きていく為の算段はまた別に立てなければならない。

 

幸いにして、バイクに関する知識がそれなりにあったお蔭で、新しいバイト先を見つける事ができた。

そして、戦いの日々の中では自覚できる場面があまり無かったが、どうも物覚えも良くなっているようで、昔よりも苦労せずに新しい知識や技術を身につける事ができる。

むやみに目立たなければ、レントゲンなどが必要な仕事を選ばなければ、生きていく事はそう難しくないはずだ。

アギトの力を失ったとはいえ、戦う力がある分、未確認の様な怪物が現れてもそうやすやすと死ぬことも無い。

戦いの方から遠ざかっていったのであれば、そのまま、戦いと縁のない生活を送るのが賢い選択と言えるだろう。

 

だが。

 

「津上のバカが移ったか」

 

そう嘯くのは、高層ビルの屋上で、空の色に紛れる様な外套に身を包んだ異形。

フードの下から緑色の複眼を覗かせる異形の耳には、周囲の雑多な音が、目には人間では見えない光が、洪水の様に溢れかえっている。

常人であれば一分として耐えきれない情報の洪水。

しかし、数ヶ月にも及ぶ変身と戦闘の繰り返し、そして、日常生活の中で徐々に調整された脳は、不必要な情報にフィルタを掛け、負荷なく必要な情報だけを汲み取っていく。

 

「居ないな」

 

外套に包まれた異形の肉体が、緑からやや白身がかった薄い青へと変わる。

感覚器官を強化する緑の形態は多大なエネルギーを消費する。

それを、完全に弱体化する事無く徐々に回復するためのセーフモードとでも言える形態だ。

通常時よりも戦闘力は落ちるが、少なくとも、異形──葦原涼の知覚範囲に戦うべき相手は居ない。

この場から去ることだけを考えるなら許容範囲だった。

 

バイトの時間は終わっている。

帰っても特にすることが無い。

知り合いが巻き込まれているかもしれない。

見つけたとしてどうするかは決めていない。

最悪、警察に通報でもすればいい。

 

言い訳は幾らでも思いつく。

だが、いくら言い訳を重ねても、根本的な理由をごまかす事はできない。

罪悪感はある。

戦いの中で守ろうと決めた相手を守れず、今も自分は生きている。

だから救おう、なんて、そんな上からの考えじゃあない。

明確な理屈を説明できるわけでもない。

命を掛けるほどのメリットがあるかというとそうでもない。

しかし。

 

放ってはおけない。

 

 

「……ふん」

 

ビルの屋上から跳ぶ。

帰り、休み、人間としての生活を過ごし……、そして、また、異形の戦士が駆け抜ける。

アギトの、いや、ギルスの因縁から解き放たれたとして。

葦原涼は、この結末に納得していない。

 

―――――――――――――――――――

 

多くのアギトや超能力者が力を奪われる中、警察組織もまた手を拱いていた訳ではない。

アギトの力を奪われるだけで命は助かった者がいれば、その影で単純に命を絶たれた被害者も居る。

そして、アギトが居なくなった以上、それに対応できるのは警察、それも、特殊装甲服を配備された部署しか存在しない。

 

『マラーク……アンノウンはアギトになりうる人物を殺して回っているのは周知の事実ですが』

 

『アギトになりうる人物とは、広義での超能力者を指します』

 

数ヶ月前に撮影された、Gトレーラー内部での映像を、一条薫は見つめていた。

この時の二十二号の証言は、非公式ながら、G1ユニット(未確認対策本部の一部に組み込まれている)とG3ユニットが活動する上での参考にされている。

もちろん、警察が実在の超能力者の所在を全て把握しているわけではない。

自衛隊においては孤児を利用した研究が行われていたが、その研究資料は夏の一件で跡形もなく焼き払われていた。

 

だが、何の手がかりも無い、という訳ではない。

少なくとも、夏の自衛隊の一件での生き残り、孤児の姉弟、風谷真魚は実際に本物の超能力者である事が確認されている。

現在はこの三人に護衛が付けられている状態だった。

既に、件の姉弟の所にはアンノウンが出現し、その場に居合わせた一条が交戦していた。

結果としてアンノウンは撃破され、姉弟の命が奪われる事は無かったが……。

姉弟はどちらもがその超能力を失っている。

アンノウン撃破直後の不意を打たれ、謎の光が二人を貫き、超能力の源と思しき何かを奪っていったのだ。

 

現在は、残った一人である風谷真魚の周辺に密かにG3ユニットが護衛としてついている。

一条は本部での待機だ。

切り札として温存されていると言っても良い。

機動力において、東京の複雑怪奇な交通事情を無視して駆けつける事ができるG1と、それを自在に操れる唯一の搭乗員である一条は万全の状態での待機が求められた。

 

「二十二号……」

 

奴の言葉が正しいとするのであれば、二十二号もやはりアンノウンの標的に含まれる。

既にやられているのか、或いは、返り討ちにし続けているのか。

僅かな接触しか行えていない警察では二十二号の現在は想像する事しかできない。

 

津上翔一、葦原涼、木野薫。

正体を知られているアギトは、既に全員が力を失ったという。

ならば、二十二号だけが例外であるとは考えにくい。

とても、素直にやられるとは思えないが……。

 

「五代……」

 

こういう時に、五代なら何と言っただろうか。

或いは、素直に二十二号の安否を案ずる言葉を口にできたのだろうか。

 

未だ明かされぬ正体。

自らの身体にベルトを埋め込んだ真意。

四号を騙り自らの同種を増やしたのは本当に善意からだけなのか。

年端も行かぬ少女からの信頼を裏切ってはいないか。

 

疑うべき点が多すぎて、二十二号は素直に信用できず、そのせいでまともに心配して良いのかもわからない。

 

『ただのゲゲルですよ』

 

「これは、どうなんだ。これも、お前の言うゲゲルの内なのか」

 

画面の中の二十二号が応える事はない。

無論、埋め込まれたベルトもだ。

一条の肉体を完全な形で保つように管理し続ける魔石は、奇妙な程に沈黙を保っていた。

 

―――――――――――――――――――

 

世界中にアンノウンの活動範囲が広がっている。

しかし、これは日本からアギトの力を持つ者が消えたという事を意味しない。

実の所を言えば、警察がその所在を確認できていないというだけで、日本には多くの超能力者が存在している。

その多くが十数年前、とある目的により誘拐され利用された経験から、超能力を使わず、人々の中に埋没する事を選び、常人と変わらぬ生活を送る事で隠れ潜んでいたのである。

 

しかし、彼らを探す者もまた、常人とは一線を画する存在。

力を使わず隠れ潜む彼ら超能力者を探し当てる為の手段は既に整えられつつあった。

夜の闇の中を。

或いは、白昼の街道に。

ぽつり、ぽつりと、人ならざるものが現れ、一人、また一人と、いくらかの巻き添えを生み出しながら力を、或いは命ごと奪われていく。

 

常のテオスであれば、アギトならざる人の命が奪われることに忌避感を抱いただろうか。

だが、今のテオスは端的に言って、非常に上機嫌であった。

ゆっくりと、しかし確実に人々の中から回収されていくアギトの力。

それを苦もなく取り込み押さえつけておけるという現実に。

アギトの力を完全に失い、嘗ての様に純粋な人としての姿を人が取り戻すのは、そう遠い未来ではない。

今、いくらかの人間が巻き込まれて命を落としているのも、その未来へと至るための必要な痛みなのだ。

 

元々、闇のテオスは人が戦いの中で命を落とすことに激しい感情を抱くことは無かった。

人間の持つ感情とはスケールが違うとでも言うのだろうか。

今のテオスの思考は、人間としての肉体を持って地上に現れたが故のものに過ぎない。

或いは、この時代での復活に際して、人の肉体を依り代とする事が無ければ、アギトの力が広く拡散したこの時代は、嘗てと同じ様に大洪水で流された可能性すらある。

だが、人間としての感情のスケールを手に入れたテオスもまた、徐々に嘗ての人ならざる心を取り戻しつつあった。

ある時は一部のマラークの暴走による人の死で。

ある時は、アギトの力を奪う過程で命すらも奪わざるを得なかった人々の死で。

これくらいは、必要な犠牲だろう、と。

 

隠れ潜む超能力者、或いは、嘗てマラークが狙いつつも仕留めそこなった超能力者から力を、命を奪う為。

極めて大雑把に、テオスの下僕が動き出す。

 

―――――――――――――――――――

 

風谷真魚の護衛と監視を行っていたGトレーラーに通信が入る。

カメラの映像の中の風谷真魚に異常は無く、通信で知らされるアンノウンの出現場所もまた異なる。

 

「氷川くん、アンノウン出現、G3X出動よ」

 

「はいっ!」

 

読みが外れたか、と、そう思いながら号令をかける小沢。

気合を入れそれに返事を返す氷川。

ボディスーツを着たまま待機していた氷川がG3Xのアーマーを装着しようと立ち上がると同時、再び通信が鳴り響く。

続けざまのアンノウンの出現。

G1も出動か、と、地方から出向中の同僚の事を思い浮かべ、しかし、続けざまに知らされる、民間人からの無数のアンノウンの目撃情報。

それは、場所こそ散らばっては居ないが、夏の自衛隊の騒動に匹敵する程の数だった。

 

「お、小沢さん、これは……」

 

「情けない声を出さないっ! こういう時の為に、私達は居るのよ」

 

震える声の尾室を一喝する小沢。

最悪の事態だ。

未確認に対する四号に当たる、アギト達の不在。

そこを突く様に起きた、まだ記憶に新しい未確認同時多発出現の再現の様な状況。

だが、最悪の事態ではあるものの、これは、想定できていた最悪の自体だ。

 

「氷川くん、行けるわね?」

 

「いつでも行けます!」

 

既にG3Xを装着し、ガードチェイサーに跨った氷川が力強く頷く。

起こるべきでは無かった事態。

頼るべき仲間とも思えたアギトの人達が居ない危機的状況。

しかし、これは氷川にとっても望む所であった。

氷川誠もまた、東京都で職務を熟す警察官である以上、今年の始め、あの地獄のような現場を知っている。

知っていながら、当時の自分には何一つできなかった。

G3の装着員として抜擢されながら、当時は試作機であるG1のみが稼働状態にあり、それを動かせる程の適性は無かった。

一警察官として必死で抗ったものの、どうすることも出来なかったあの時。

無数の同僚たちの、一般市民の亡骸を前に己の無力さを噛み締めたのを忘れる事はない。

 

「1323、G3X、戦闘オペレーション開始!」

 

「ガードチェイサー、離脱します!」

 

一喝を受け、そして氷川の振る舞いに奮起した尾室がスロープを下ろし、G3Xを乗せたガードチェイサーが後輪から道路に降り、Gトレーラーを追い抜きながら走り出す。

Gトレーラーの運転席から見える人影が追い抜かれる瞬間に親指を立てた右腕を掲げ、それに応えるように氷川は左腕を上げ、そのまま通報を受けた現場へと走り出した。

 

―――――――――――――――――――

 

今年の初めに東京を襲った、未確認同時多発連続殺人事件。

人型を大きく逸脱した個体すら現れ、人だけではなく東京という街そのものに被害を出した災害じみた事件は、未だ人々の記憶に新しい。

故に、実際の被害がそれほどで無くとも、市街地に無数の異形が姿を表しただけでも、その混乱は大きなものとなる。

当時の様な凄惨な光景は広がっていない。

少なくとも人の血肉、臓物が彼方此方に散らばっていないのは、この状況を作り出しているのがグロンギではなくマラークであるからに他ならない。

死体を残す個体も居るが、その大半が死体に大きな損傷を出さないか、或いは死体すらまともに残さない特殊な殺し方をするからだろう。

更に言えば、標的も完全に無作為という訳でもない。

()()()()()()()()()()()、完全に無関係な人間が殺されても居るが、自衛の為に予知や念動力などを駆使する超能力者を見つけた後であれば、狙いはそこに絞られる。

 

だが、それを一般市民が理解できるわけも無い。

我先にと逃げ惑う中、マラークがピンポイントで超能力者を狙い撃ちするのは難しく、結果として標的以外が命を落とす。

だが、既にそれを恐れるマラーク達ではない。

人の命をみだりに奪ってはいけない、などという縛りはない。

火のエルの力を刈り取る。

嘗て力なき傲慢な人間の命を刈り取っていた頃と同じ様に。

 

嬉々として人々を狩る訳ではない。

だが、巻き添えによる犠牲を一切厭わず、マラーク達は進む。

街路樹に埋め込まれた死体が。

半ば液状化し地面に飲み込まれた死体が。

水たまりの隣に溺死体が。

ビルの壁に、電信柱に、車に、混ざり合う様にして息絶えた死体が。

焼死体が。

衣服だけを残した桃色の泡が。

灰に塗れた衣服が。

作りたてのミイラが。

内臓の全てを失い倒れ伏す死体が。

マラークの行進に合わせる様に打ち捨てられ、街を飾り立てる。

 

その中に紛れる様に、天使の群れを従えるように、黒い服の青年が、闇のテオスが、二体のエルアギトを率いて歩く。

既に、その顔には涙すらない。

この場にその顔を見る者が居たとして、決然とした表情に悲しみも憐憫も見ることはできないだろう。

 

逃げ惑う人々の悲鳴。

火の手の上がる車が道路を塞ぎ、轟々と風が鳴り響く。

阿鼻叫喚の地獄絵図。

そんな表現が相応しい街に、バイクのエンジン音と共に、新たな異形が舞い降りる。

元のオフロード仕様から大きく変形した異形のバイクに跨った、赤黒い異形の戦士。

節のある緑の角に稲妻を纏うその戦士は、闇のテオスの、そして、マラーク達の記憶を刺激する面影を纏っている。

 

アギトの力を持つものではない。

だが、見るからに人間ではない。

しかし、自分達の如き存在でもない。

少なくとも殺すべき相手ではないのだろう。

マラークはそう考え、無視するように歩みを続ける。

 

異形の戦士──葦原涼の変身体が、腰の後ろに取り付けられた装飾品を二つ手に取った。

銃を模したとも思えるミニチュアが大きさを増し、大型の銃へと形を変える。

ざらり、と、実銃のマガジンに当たる部分が前腕に伸び、蛇腹状のチューブで接続。

どくん、と、涼の体内から弾丸の材料を汲み出し──銃口が煌めいた。

 

封印エネルギーによってコーティングされ、体内電気を増幅、電磁加速して射出されるのは、モーフィングパワーによってその質量を肥大化させた血中の鉄分を元にした大型弾頭。

その加速力と質量は、通常の拳銃弾を無効化するマラークの念動力による障壁を、濡れた障子紙の如く貫通する!

 

先頭を歩いていた猫に似たマラークの頭部が消し飛び、残るマラークが一斉に謎の闖入者への意識を改める。

人ならざる、アギトならざる、しかし、自分達を害し、使命の妨害をせんとする、敵。

 

「四号も、二十二号も居ないみたいだからな」

 

銃口を再びマラークに向ける。

がち、がち、と、その下半身が異形のバイクと混ざり合い、混ざりあったバイクはまるで昆虫の如き鋭い足を持って立ち上がる。

その姿は蜘蛛か蟷螂か。

人型は上半身を残すのみ。

バイクと融合したその姿からは、明らかに先までと比べても異様な程に力強さが感じられるだろう。

 

「相手になってやる」

 

涼の言葉に反応したかの様に、無数のマラークの群れが、自らの武器を構え、眼の前の異形へと一斉に飛びかかった。

 

 

 

 

 

 




困った時の大襲撃
テオスさんはいざとなれば簡単に捨て駒を作っても問題ないから便利だなぁ……


☆夢見るままにまちいたりするやつ
夢のような世界で何事もなく二週目人生を謳歌している何処にでも居る高校二年生!
義理の双子の妹ととてもいい人なクラスメイトに恵まれたりしながら平穏な高校生活を送っているぞ!
何の心配もない、痛みも苦しみも年相応にしか感じる必要のない順風満帆な人生だ、やったね!
こういう閉じ込め方で成功した例を見たことが無い

☆アギトの力はなくなってもバイクは相棒なASHRさん
Q,なんでライダーマシンと合体しないんだ……
A,した
今回一人で立ち向かったけど、この世界線だと現時点でも一緒に戦ってくれる心強い協力者が居る
ここで決着つければバイク屋でのバイトで女の子を引っ掛けたりできるぞ!

☆警視庁の誇る秘密兵器G一条さん
たぶん警視庁の屋上から飛んで出撃したりする
アギトの力が無いから蚊帳の外?
彼はクウガ警察一のムセギジャジャですよ?

☆氷川さんと尾室君と小沢さん、そして全てが謎に包まれたGトレーラー運転手さん
今年初めに東京襲撃されて、当然当時も東京に居ただろうけど、たぶんその時点でG3動けてないだろうから後悔とか色々ある
地続きだから実質クウガ警察みたいなもんだぞ
焼き肉に呼ばれなくても実直に仕事を熟すトレーラーの運転手さんだってそれは同じだ

☆我が物顔で街を練り歩くマラーク達
いやーまいったな~その辺りさっきまで超能力者居たんすけどねー
避けるもんだから一般人に当たっちまったい
え、別にいい?
いや、流石我らが創造主! 懐が深い! よっ創造神!
みたいに調子に乗ってる
※次回全滅します

☆闇のテオスさん
もう多少犠牲が出ても早々にアギトの力を刈り取って、その後に人類の敵への対策を取るつもり満々
なぁに洪水ザバーしないだけ人死には少ないから誤差だよ誤差


次回と次次回はバトルバトルしてから闇の書の闇から取り込まれた人が法の言葉は意思(テレマ)なり☆して光の巨人と闇の巨人が殴り合って空いっぱいの星が降る感じになるかと思われます
もちろん未定です
原作まんまだと最後人型のテオスにライダーキックして終わりになるので……
え、タイトル?
オリ主で振り返る?
わからない、俺達は雰囲気でSSを書いている
そんなSSでも良ければ、次回も気長にお待ち下さい

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