オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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こぼれ話
44 何でも無い日曜日


人生とは戦いの連続である、という。

人生に限らず、生命活動とは即ち競争にして闘争だろう。

人生は絶え間なく連続した問題集である、らしい。

問題集ならまだいいが、実質的にはテーマから何から自由かつ採点基準不明の小論文というのが近い。

 

人生訓を語る言葉は数あれど、大体が苦しさ厳しさを語るものであるのはそれだけその手の言葉に需要があるという事だ。

一見して人生の楽しさを語っている様な言葉であっても、結局は苦しい人生でも前向きに楽しく捉えなさい、という内容だったりする辺り、本当はみんな生まれてくるのが嫌だったのではないか、という疑いすらある。

何しろみんな、生まれたくて生まれてくる訳ではない。

生まれを選べるものですらない。

自由意志なんてものは、勝手に生み出された後に発生する本能や学習によって得た知識から生えてくる後付のものだ。

選択の自由すら、生まれてこなければ与えられない。

 

息をしなければ死ぬし。

飯を食わねば死ぬし。

不衛生や不摂生から病で死ぬし。

ふと胸を叩かれて心臓が止まれば死ぬし。

単純に命の維持ができない程に身体が破壊されれば死ぬし。

兎にも角にも人間は、生き物は死ぬのだ。

 

生きた時間が短かろうが長かろうが。

楽しかろうが苦しかろうが。

何処かで何時か絶対に死ぬ。

生きた実感が無い、生きた心地がしない、なんて言葉もあるが。

そんな連中だって、実感や心地に左右されず死ねば死ぬ。

 

そして、生まれた生命はどう足掻いても例外なく最終的に死ぬが。

死んだ生命は余程の例外でもなければ絶対に生き返らない。

 

オルフェノクなんていう連中も居るが、奴らの発生プロセスが厳密に死と呼べるのかは甚だ疑問だ。

この宇宙における生命発生の秘密の一端を手にしたからこそわかるが、あれは蘇りというよりも再生という言い方が正しい。

再び生まれる、再誕と言っても良いだろう。

人間の死体から、オルフェノクという別の生命体が再び生まれてくる。

はっきり言えば、人間であった頃の記憶と意識があるだけで、同一人物であるかも疑わしかったりする。

死んだ人間の身体を卵としてそこからオルフェノクという生き物が新たに生まれている。

人間の姿、記憶、意識は、卵の殻のようなものだ。

それを切り離した上で、人間の記憶や意識が残っている様に感じるのは、残ったオルフェノクの側が、切り離されるまでにその残滓を記憶しているからに過ぎない。

 

例えばの話で、絶対に実験するつもりも無いのだが。

オルフェノクの王の手で、オルフェノク化した直後のオルフェノクに洗礼を施せば、元の人格の存在しない純粋なオルフェノクが生まれるのではないだろうか。

それこそ、在り方としては最初から何らかの目的を持って生み出されたマラークに近い何かが生まれるのだろう。

 

疑わしいと思うだろうか。

だが、それこそオルフェノクの王、アークオルフェノクがこれに近い誕生の仕方をしている。

その他諸々の雑多な、人間から発生したオルフェノクが人間の意思と記憶を残しているのに対し、アークオルフェノクは人間の頃の記憶を一切残さない。

九死に一生を得た子供からオルフェノクの王が生まれる、と、そんな情報を齎したのが何かは知らないが、これこそ解釈違いという可能性もある。

頼れる身寄りをなくし、世界に絶望し、生に絶望し、人間であるという事実に絶望した、積み重ねた人間としての時間が少ない子供。

()()()()()()()()()()()()()()()()子供だからこそ、アークオルフェノクが生まれるのだとすれば。

 

……可能性として、オリジナルのオルフェノクになれる程度の因子を持った子供が居る限り、アークオルフェノクが生まれ続ける可能性は否定できない。

前向きに考えれば、女王蜂や女王アリの様に、一つの巣の中に一体しか発生しえないという可能性もあるが、難しいところだ。

少なくとも、大企業であるスマートブレインが十数年探し続けてやっと一体見つけたというレベルの希少性はある筈だが、油断は禁物だろう。

殺すと新たな個体が生えてくる可能性を考えて、死なない程度に全身を潰して再生を封じた上で延命措置を施して封印エネルギーで封印し人の手の届かない何処かに押し込んでしまうのも手としては考えておくべきか。

 

話が大幅に逸れた。

兎に角、人間というのは人生に対して後ろ向きになりがちだ。

生まれ落ちたら死んだも同然とばかりに死を恐れてばかり。

俺だって例外じゃあない。

力を得たのも、戦うのも、全ては死を遠ざける為だ。

どうせ最後には死ぬ、と、そう考えるのが悪いのだろうか。

頑張っても頑張っても最後にはご破産だからか。

 

俺はそうは思わない。

死は恐れるが、それはそれ。

断言するが、人生は素晴らしいものだ。

根拠はいろいろある。

説明すればするほど下らないと言われてしまうものばかりだが。

はっきり言って、俺は今、誰よりも世界が光り輝いて見える。

霊視的なあれではない。

いや最近は霊視的なあれもできたりするのだが、それとはまた別の、精神的な面での話である。

エンジョイするという一点で今の俺は誰にも負ける気がしないのだ。

 

息をすれば空気が美味しいし。

お水を飲めば美味いし。

母さんが作ってくれるご飯も美味しいし。

テレビも本もラジオもゲームも面白いし。

勉強で新たな知識を詰め込んでいくのは充実しているし。

学校での友達とのおしゃべりも楽しいし。

修行で動きや肉体が最適化されていくのは満足感があるし。

難波さんはむやみに可愛いしなんだか良い匂いがするし。

何ならジルを散歩に連れて行くのすら心が安らぐし。

グジルで遊んだりするのも面白い。

数十回のバージョンアップを重ねても小型化ばかりは進まない携帯式装甲服の改良に悩むのだってパズル的で楽しさを感じていたりするし。

 

箸が転がっただけで全身の穴という穴から体液を撒き散らしながら笑い死にしかねないお年頃というものだ。

何しろ、恐らくは最大の山場を乗り越えたのだ。

生命の危機を齎す相手を叩き潰し、再び同じ事が起こっても対処できる力を手に入れたのだ。

安心から日常をエンジョイする事を誰が責めることができるだろうか。

誰が、俺が軽身功を使って自宅のピアノの鍵盤の上に飛び乗り足の指でねこふんじゃったを演奏する事を止める事ができるだろうか。

 

「行儀が悪いから止めなさい。ジルちゃんが真似したらどうするの」

 

「はい、反省してます」

 

母さんは止める事ができるのだ。

正論が止めたとも取る事ができる。

母は偉大だし、人間は正論で殴られたら納得するか逆ギレするしか無いのである。

俺は素直で善良な優等生なのでもちろん納得する。

ぷんぷんと叱ってくる母さんに、俺は正座で反省の意を示すのみである。

 

最近ジルも変な深夜番組とかに影響されたりしてるフシがあるからな……気をつけねば。

グジルが表に出ている時のように、伊達メガネを掛けて椅子に座りデニール数が高い厚手のタイツを履いた足を組み足の指先をスリスリしながらファッション誌を読むが如く優雅にゴシップマシマシ成人紙を読む様な事が無いだけまだマシなのかもしれないが。

でも俺も、最近はタモリ倶楽部を生で見たり林原めぐみのトーキョーブギーナイトを聞いたりで夜更かししているので注意しにくい……。

後々の時代であればラジオの方はネットで聞けるようになるのだが、この時代ではまだちょっと難しいのだろう。

そしてこの世界にタモリさんと林原さんが存在している事は俺にとってある種の救いだった事は言うまでもない。

 

つまり、平和な日常を謳歌する事ができるのは、素晴らしいという事だ。

 

―――――――――――――――――――

 

数多くの難題が残っている。

だが、規模で言えば最大の山場は乗り越えたと言っても良い。

ミラーワールドに関する情報は集めているが、まだ大きく事が進む時期ではない。

大きく事が動き出すのは、来年の2月。

それまでは、比較的平和な時間が過ごせると見て間違いない。

 

当然、その期間に腕をなまらせていざという時にヘマをしては意味がないので修行は続けるのだが。

それまで、なんと実に三ヶ月ほどはまるまる平和を満喫できるのだ。

 

首から上が弾け飛んだオルフェノクの死体を、発火と灰化が始まるよりも早く粉々に分解し、山中の土中に瞬間移動させながら、時計を見る。

時刻は九時十分。

まだ大体のお店が閉まっている時間ではあるが、鍛錬でもジルのリハビリでも無く休みの日に出歩くのは新鮮でもあり、散歩をするには良い時間である気もする。

吐く息は僅かに白く、秋から冬に変わりつつある季節を全身で感じる。

 

「んー……」

 

伸びをする。

爽やかな休日の朝だ。

朝食後のこの微妙な時間は常であれば勉強か研究か鍛錬かリハビリか教育かという具合だったのだが、全くの無目的での行動というのも悪くない。

何か余計なものが一瞬現れた気もするが、例えばの話、悪の組織の大幹部やボスともなれば、変身前の身体能力のみで平怪人を圧倒したりするスペックを持っているというのは誰もが知ることである。

そんな相手にのこのこと常人を一方的に狩るつもりでやってきたオルフェノクがどれほどの時間を奪えるかという問いは、実に馬鹿馬鹿しいものであると言わざるを得ないだろう。

一発の生身パンチで死ぬ様な怪人はそもそも居ても居なくても変わらないのでつまりは居ない(哲学)。

燃焼で不快な臭いを出した訳でもない相手にマイナスの感情を抱くはずも無く、爽やかな朝は何の問題も無く継続していると断言できる。

 

「石焼き芋とか、走ってないかな」

 

時期的には合っていると思うのだが。

それともあまり早い時間ではまだ営業を開始していないのだろうか。

よく近所に来る豆腐屋さんなんかは午前中にも見かけるのだが。

発見したら母さんとジルにおからドーナツを買っていってあげよう。

見つからなければ、それはそれで良しという事で。

 

空を見上げる。

雲ひとつ無い青空だ。

誰かが重い荷物を枕にして深呼吸したりしたのかもしれない。

それこそ五代さん辺りが。

海外は危険度が実にミステリアスだから俺は絶対に行かないが、冒険家である五代さんにしてみれば安らぐ事はそう難しくない可能性もある。

そうとなれば、俺だって昨日の事も明日の事も口笛にする事もやぶさかではない。

もしも五代さんが日本に戻ってきた暁には、以前よりももう少し明るく接する事ができると思う。

絶対に、絶っっっっ対に正体は明かしたくないので変身後の状態で接する事になると思うのだが。

その時には小粋なジョークの一つもかましても構わない。

 

それくらい最近は気分が良い。

気分が良いのが表面に出すぎて学友に、

 

『まさか……やったのか!?』

 

と、声を潜めて聞かれるくらいだ。

やったって何をだよ。

いや、ハンドジェスチャで何をやったというかヤッたかを聞いているのはわかるけど、学校でそういうエッチな話をするのはいけないと思います。

どれくらいいけないかと言えば、いけないと思いますの後に><が付くくらいいけない話だ。

そういうのに敏感なお年頃なのだからして。

ていうかあのハンドサイン流行ってんのかな……。

 

結局その時は有耶無耶にしたが。

流石に俺だって、クラスメイトや学友が俺と難波さんをカップルの様な何かと見ているくらいの事はわかる。

難波さんとはインストラクションする関係上共に過ごす時間も多いが、そういう関係という訳ではない。

だが、そういう関係ではない事を半ば確信していたとしても、誂う事ができそうならつついてみたくなるのが思春期というものなのだ。

 

実際、俺だって何の問題も無いならば、難波さんの様な明るくコミュ力があり気立てもよく器量も良い女性と恋愛関係に成れればなぁと思わないではない。

だが、力の制御法を教え導く立場を利用して迫る様な形になってしまうのも問題だ。

……そも、難波さんは距離のとり方がうかつではないかと思う。

修行の最中も妙に距離が近かったり無防備だったりする場面が目立つ。

同年代の異性を相手にしていると考えれば、襲ってくれと言わんばかり。

が、正面切ってそういう事を注意する様な立場には無い。

 

今は、友人としてそれなりの時間を共にしている俺が守護れば問題ないのかもしれないが。

彼女の私生活が心配である。

人攫いに攫われたりしないか心配だ。

それも、今の彼女をさらうとすれば、最低でも義経師範くらいの実力者が必要になってくる。

俺だって本気で殺しに来る義経師範を相手にするとなれば生身では難しい。

難波さんは切り抜ける事ができるのだろうか……心配だ。

 

と、視界の端で一斉に鳥が飛び立った。

そう珍しい光景でもないが、奇妙な地鳴りも聞こえてくる。

山の方からだ。

続いて楽器の演奏音も。

これも大きな公園とかで良く練習してる人を見かけるので珍しい話ではない。

ああいう光景は青春って感じがして良いと思う。

それはともかく、視界の端にちょくちょくマジョーラカラーな体色の謎の人型実体が映っている。

巨大なハサミで殴り付けられて吹き飛んでいった。

 

『ぐあああああああ』

 

と、ドップラー効果で低くなっていく叫び声付きだ。

吹き飛ぶ際に錐揉みしていたのだが、それがまた光の当たり方が変わっていき様々な色相を見せてくれて芸術点が高い。

市の美術館で展示してくれてもいいんじゃないだろうか。

ライトで内側から照らすタイプの透かし彫りの展示なんかもあるわけだから、中心に棒を通してモーターなりゼンマイなりでゆっくり回転させるオブジェが展示される可能性を無視する事はできないだろう。

彼がこの市の出身かは知らないが。

 

―――――――――――――――――――

 

感覚的に言うと、魔化魍は最近ではやり方次第で殺せそうだし、鬼の人たちは総じて五感を一時的に潰す系の不意打ちに弱い。

大体の生き物は目を潰すと怯むのだ。

物理的に潰さなくても至近距離でフラッシュグレネードを作動させるだけでも良い。

装甲の一部を組み替えて人体にギリギリ有害とは言えない程度の激しい光を見せるのでも良い。

光てんかんに似た症状を人為的に引き起こす発光パターンを装甲から投写する方法は現在研究中である為使用できなかった。

悲しい。

 

ただ、鬼が居る場合は大体ディスクアニマルが飛び回っているので、遭遇したら基本的に全部叩き落とすか拘束するか、目くらましの直後に転移して逃げるとか、無理ならものすごい速さで有無を言わさず逃げるのもよし。

鬼と魔化魍のセットを見かけても手助けせずに無視してそそくさと逃げ去るのが一番良い。

それでもついつい手を出してしまったのは、鬼の人が負けた場合魔化魍が里に降りてくる危険があるのと、日曜から巨大な妖怪が暴れるのを許せないという理由があると思う。

日曜の朝からハサミをシャキシャキしやがって……という、誰しもが抱く負の感情だ。

気分が良いから人助けをしても良いかな、と、そんな気まぐれという可能性もある。

まぁ、どちらでもよろしい。

 

それはともかく、一部魔化魍はある種の食欲を刺激する。

ぬりかべはおでんのこんにゃくを連想ゲームの果てに引き当てるし。

世界の破壊者を始末できるポテンシャルを秘めているかもしれないバケガニはストレートにカニだ。

……妖怪ストリートは誕生まで三年程掛かるか。

となれば、コンビニおでんを買って済ますか、適当な海産物でも食べに行くか。

 

時計を見る。

まだ九時半にもなっていない。

 

「むーん」

 

何かしらの目的ができてしまうと、お店が開くまでの時間が手持ち無沙汰に感じられてしまう。

コンビニで立ち読みでもして時間を潰すか、さもなければ新聞の一紙もおでんと一緒に買って公園で一息入れるか。

しかし、食欲を刺激されてはいるのだが、実際に空腹を抱えている訳でもない。

あれだ、テレビでグルメ特集を見るとその料理が食べたくなってしまうというあれに似た感覚だ。

今はおとなしく散歩で時間を潰して、お昼ご飯のリクエストで何か海産物系の料理を母さんに頼むというのが無難かもしれない。

いや……グジルは元海産物だからある意味最近は海産物を頻繁に食べているのでは……?

まぁ今は俺と同じくクワガタかドラゴンかよくわからん謎の生き物なのでノーカンだろう。

昆虫食と考えれば未来的とも言える。

ドラゴンイーターならファンタジーだ。

 

などと、考えながら歩いていると、地元の栄えているようで栄えすぎていない微妙な商店街に到着してしまった。

まだ時間的に開いている店は少なく、開いている店にも殆ど用事が無い。

しかし、開店準備をしている様子を見る事はあまり無い為、後学の為に歩きながら覗かせて貰う。

稀に買い物に来る八百屋のおじさんや肉屋のおじさんに挨拶をしながら進む。

……ここも徐々にではあるがシャッター街化が進んでいた気がするのだが、数ヶ月前と比べると新店舗が立っていたり、後継ぎが居なくて畳んでいた筈の店が開いていたりする。

 

話を聞いてみれば簡単で、上京していた息子娘が戻って来ただとか、東京の方から移住してきている人が増えてきているらしい。

ある人は極端な治安の悪さから、或いは、単純に先日の騒ぎで働いている職場が物理的に潰れてしまい職を失ったなんて人も。

少し面白いな、と思ったのは、人が死に、ビルが崩れ、空を覆い尽くす光と闇のぶつかり合いを見て、それでも一週間も経たずに何事もなく再開する仕事と当たり前の様に以前と同じく働き始める東京人が怖くて、なんて話もあるんだとか。

 

さもありなん。

東京で起きる各種イベントによる被害をスルーできる人間だけが、あの魔都で活動することを許されるのだ。

……治安を維持するタイプの職の人だと、スルーできずに心にストレスを抱えながらでも働き続けないといけなかったりするのだが。

この一年と何ヶ月か、父さん、まともに家に帰れてないんだよなぁ。

お弁当を届けに行ったり、向こうで借りているアパートの掃除をしに行ったりで顔は何度か見てるし、母さんも父さんの非番に合わせて車を飛ばして会いに行ったりもしているのだけど。

来年起きる事件は警察の方々が忙しくなるようなタイプの事件では無いし、帰ってこれたりしないだろうか。

 

―――――――――――――――――――

 

朝食後にぶらりと出てきてしまったので、題名のない音楽会21を見逃してしまった。

だが、逆にあれを見てから出ると朝というよりちょっと昼寄りの時間という気分になるから、難しいところだ。

録画してまで見るものかと言われるとそうでもないし……。

 

「む」

 

後悔と共にコンビニおでんを手に帰宅すると、自宅にジルの物とは異なる魔石の反応がある事に気がつく。

玄関を開けて見れば、見覚えのあるスニーカー。

運動をする事になるからと靴屋で見繕ってプレゼントした品だが、オシャレしたいお年頃の女子に贈るのは少しだけ心苦しかった覚えがある。

まぁオシャレ優先した結果練度不足で死にましたなんて事になったら悔やんでも悔みきれないので、心苦しくても修行時には履いて貰うようにしているのだが。

 

「ただいま」

 

靴を脱ぎ、一人分の談笑する声(ホラー系の話ではない)が聞こえる居間へと顔を出す。

 

『おあえい』

 

「おっ! おおお、お邪魔してまぁす……」

 

声を掛けると、ソファに座り何故かホワイトボードを抱えていたジルが首だけを向けて口を動かし、その向かいでクッションを抱えてやや前傾姿勢にそのホワイトボードを見つめていたらしい難波さんが座ったままの姿勢で二十センチ程飛び上がり、ややどもりながらにへらと笑って会釈した。

一体ジルが何をホワイトボードに書いていたのか、それを見て難波さんは何を話していたのか気になるところではあるのだが、触らぬ神に祟りなしとも言う。

所謂、後の世で女子会と呼ばれる事になる女性同士の会話というのは、男性にとって実にアンタッチャブルな内容が含まれていたりするので下手な追求は身を滅ぼすのだ。

下ネタだって男性同士のそれより女性同士のそれの方が何倍もえげつなくなりがちだって言うしね。

 

「ほれ、お土産。難波さんもどうぞ」

 

でん、と、買ってきたセブンのおでんをテーブルの上に置く。

 

『いんあうあー?』

 

「あるある。あ、別皿に取り分ける?」

 

「いいよぉそこまでしなくても」

 

貧乏性を発揮して箸は余分に貰ってきているので、台所に箸を取りに行く必要すら無いのだ。

向かい合う様に座るジルと難波さんの斜め前に座り、割り箸を配る。

割り箸を合わせた手の親指に挟み。

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

ジルのみ軽く黙礼。

箸を割り、卵を掴む。

 

「あ、いきなり卵行くんだ」

 

「難波さんは取っとく派?」

 

「ん……お汁と交互に食べるかなぁ」

 

「やるやる」

 

と、卵を口に運ぼうとすると、難波さんの視線が卵を追っているのに気付く。

 

「……半分食べる?」

 

「いいの? じゃあ、あー……」

 

目を閉じて口を開ける難波さん。

なんだこの無防備な生き物、野生に返せないぞ。

まあ、アマゾンオメガも養殖だから大丈夫か。

 

「はい、あーん」

 

口に卵を近づけると、かぷ、と齧りつき、だいたい半分くらいの卵を片頬に手を当てて幸せそうに咀嚼している。

そんなに好きだったか卵。

……トレーニングメニューとかも考えるか。

調整入るとはいえ、基本的な肉体づくりは反映される筈だし。

魔石による調整もあるから常人のトレーニングメニュー程カチカチに栄養素を盛ったり削ったりしなくてもいいし。

 

「……あ、ちょっと行儀悪かったかな?」

 

「いいよそれくらい。ノッたのは俺だし」

 

「ノッ……?!」

 

何やら難波さんのリアクションがさっきからおかしい気がする。

やはり先のがぁるずとぉくに何かしらの原因があるのだろうか。

視線をジルに向ける。

視線に気付いたジルは、半分程に噛み切った『いんあう』──もち巾着をむちむちと咀嚼しながら味わい深い顔で首を横に振った。

こいつにもわからんか。

ううむ。

まぁ、難波さんも思春期の少女だからして。

何かしらの難しい精神的情動があるのだろう。

 

そう思いながら半分になった卵を食べる。

適度に味が染みている……ものすごく美味しいという訳でも無い、普通に美味しいコンビニおでんだ。

何時も変わらない味で安心するし、外気で冷えた身体に温かさがありがたい。

 

「……おいしい?」

 

ややパサパサした黄身を噛み締めて味わっていると、何故か難波さんが気持ちうつむき加減になりながら上目気味に視線を寄越しながら問うてきた。

 

「うん」

 

「そっか! えへへ……」

 

何やら嬉しそうにはにかんでいる。

どうにも、俺には難波さんの精神活動は理解しきれないが。

表情がコロコロ変わって、見ていて飽きない人だなぁと、改めて感心するのであった。

 

―――――――――――――――――――

 

結局、ジルと謎のガールズトークを繰り広げに来たと思しき難波さんと、夕方まで家でじっくりと遊んで過ごしてしまった。

話の邪魔をしてしまったか、とも思ったが、ジルのジェスチャから読み取るに、別にジルとの話はそこまで重要なものでも無かったらしい。

それならそれでメールで済ませれば、とも思ったが、この時代のメールだといろいろと表現しにくい話とかもあって不便だったりするのかもしれない。

 

「ごめんね、長居しちゃった上に、送って貰っちゃって」

 

「最近、暗くなるの早いから。危ないしね」

 

「そう?」

 

「そ」

 

どんどん日が短くなってくる時期だ。

魔石を搭載している時点で夜目もばっちりなのだが、暗い上に湿気で少し霧っぽかったりすると、初登場のアギトの様な不審な存在が現れるかもしれない。

現に今日は昼間に野良オルフェノクと野良魔化魍と遭遇したのだ。

夜闇に紛れて婦女暴行を働かんとする悪漢やら人外が居てもおかしくはない。

 

はぁ、と、息を吐く音。

見れば、難波さんが合わせた手に息を当てて温めている。

 

「寒い?」

 

「うん。昼間は結構暖かかったから、手袋も付けて来なかったし」

 

油断してたなぁ、と苦笑する難波さん。

理屈の上では、怪我や傷ができない程度に適度な体温調整が行われる筈だが。

白い指先は寒さから少し赤みがかっている、ように見える。

夕暮れの暗さと、白い街灯に照らされた手先は確かに寒そうに映る。

手を取り握ると、なるほど、冷たい。

冷え性などという体質は魔石の戦士とは無縁なのだが、単純な個体差か、或いは俺が鈍いだけで今日がそれほど寒いのか。

 

「……ん、ん?」

 

いきなり手を握られたからか、難波さんが少し困惑している。

 

嫌がっている風ではない、と思う。

正直、表情一つから思春期の少女の感情の機微を読み取るのは俺には難しい。

 

「これなら寒くないかなって」

 

「んんー……」

 

やはり難しいもので、難波さんはすごく複雑そうな表情を浮かべた後、ふと、何かを思いついた様な顔で、握った手を少しほぐし、指を絡めた。

 

「それなら、こっちの方が温かいよ」

 

「なるほど」

 

道理だ。

でも、この手の繋ぎ方は友人同士でするものとしては的確なものなのだろうか。

少し驚いてしまった。

悪戯に成功した子供の様にニンマリと笑う難波さんが少し恨めしいが……。

 

空を見上げる。

空を埋め尽くすテオスの闇も、流れ続けるアギトの力も見当たらない。

日が沈みかけた群青色の空に浮かぶのは小さな星一つ。

一番星だ。

 

「平和だ……」

 

「うん」

 

思わず口から溢れた言葉に頷きながら、難波さんは少しだけ、握る手に力を込めた。

 

 

 

 

 





戦闘もライダーも見当たらない平和回
なんという事だ……これでは平成ライダーを振り返れていないではないか
誠に遺憾な気がするけど飽きるまで書きます

☆ライダー系オリ主の癖に散歩するだけで変身描写すらしない恥知らず
これが進化していくと自分は一般人のふりをしながら土塊から作った自立型装甲服とかを群体で操ったりする
あれが本体か!みたいに見破られて攻撃されると装甲服の群れをまとめたより余程まずい相手側の負けイベントが始まる
今から東京行ってミラーワールドのライダーバトルに関わればいいんじゃないかって?
そもそもライダーバトルが何時頃から始まるかがわからないので原作合わせでいいかなぁって
でも事前準備ができない訳でもないとは思うけど、龍騎編ではやりたいネタがあるのでそれに合わせて今は平和を謳歌する一般人をするのだ
おちついてモノローグしてる風に見えて、テオスを乗り越えた事で過去最高に浮かれてる

☆なんか居た?
変身すらしていない生身の人間の不意打ちダッシュパンチで頭部が消滅する怪人
そんなの居るわけないじゃないですか常識的に考えて……
そんなのは居ても居ないのである
平和に生きてるオルフェノクなら殺す必要ないって言うけど変身して武器構えて人間にゆっくり近づいて来ようとするなら推定有罪で疑わしいので罰する
法的にどうこうはばれない限り問題にはならない

☆特に弱っている訳でもない世界の破壊者相手に自信満々にけしかけられる魔化魍の潜在的な最強候補バケガニ
あの鳴滝さんの自信はなんだったんだろう
実は強い可能性があるのでU1やYOKOSHIMAやNOBITAやEMIYAやHACHIMANNに続く新たな主人公として誰かBAKEGANIをですね

☆回る! 光る! デラックス善良な鬼の人!
ぶん殴られてくるくる回るし修行の末に鬼になって活動する程の努力が光る
マジョーラカラーと言いたいだけで大体の鬼は実は普通の色彩をしていたりする
響鬼さんの体色は色違いポケモンくらいのレア
今回の目潰し食らった鬼は別に響鬼さんじゃないからご安心なのだ

☆復活のシャッター街
東京民はともかく、地方から来た人間にとって東京の治安とそれに順応する文化は馴染み難いものがあるのではないかという話
なおこの世界も大概あれだが、毎週のようにビルが壊れたり壊れなかったりする昔の戦隊物世界の住人も大体ヤバイ
巨大ロボが普通に直立できる道路とか、明らかに騒動の方に街を合わせて再建してますね……

☆「おかえり」「きんちゃくはー?」
ホワイトボードにて体位解説とどんな具合かを難波さんにレクチャーしていた
首を振るアクションには、『心当たりはあるけどそいつがそこまでオーバーなリアクションをする理由はさっぱりわかんない』という意思が込められている

☆平和な間は真っ当にヒロインができる難波さん
まぁ乗るという言葉に過剰反応する程度にはむっつりであることには変わりない
最後らへん指絡めるとこで初期の小悪魔感を出したつもりだが多分顔は赤い

☆ママン
子供が行儀の悪い真似をしていたら叱ったり出来る善良なママン
今回は平和な日曜日という事で車を飛ばして愛しの旦那に重箱弁当を届けに行ってたので不在

☆スピーシーズドメイン最新十巻!
よか……
みんなも丁寧丁寧丁寧に描写されるかわいいかわいい負けヒロインちゃんが恵良ちゃんする過程を見守るのだ!
手を繋いだ上でポケットに入れるアクションはどうにかこのSSでも導入したい
ちなみにメインストーリーっぽいものも進んだっぽい重要な巻になるので必読!

☆そして現れる破壊力抜群ないただきもののイラスト
やはりナナス様よりのいただき物になります
ナナス様ありがとうございます!


【挿絵表示】


「白くなった……」

黒い装いもいいけど王様やるなら清潔感のある白も良い
新たにどこかで見たよな形見分けな金のネックレスもつけて、わぁお、おっしゃれ~
当時の現場には警察官しか居なかったので、装甲服部隊の隊員にパイプが無い限りは外部の人間はこの形態を知らない
なのでまだオルフェノクの王かな?みたいな誤解が生まれたりはしない
ライダーでも白い形態は結構居る筈だが、なぜこうも裏切りそうに見えるのか……
なんでやろなぁ、なあダグバ
ちなみに装甲色は任意なので変色したり発光したり割りと自在
懐かしの視覚毒は近日実装予定!
ある程度発光パターンを研究したらジルとグジルで実験だ!
戦闘中突如として周囲のライダーがパタパタと倒れていく生命安全に配慮した地獄絵図をカミングスーン
シザースムシャムシャ君へのサポートになるんじゃないかって?
しらかん



何処がライダーSSだよという皆様の言いたい気持ちもわかる
全てはこのSSを書いている私の責任だ
だが私は謝らない(←ここライダー要素)

ちなみに後二話くらいは日常編を書きたい
具体的にクリスマスと初詣とバレンタインから選択式で
バレンタインは龍騎放送第一話より後だから難しいかな……
書いてて「あ、これあんまり代わり映えしないな」と思ったら適当に切り上げて龍騎編を初めます
でも基本的に書きたいものと書けるもの優先なので
流行りに乗って活動報告でも書いたコナンジョジョアマゾンズSSとかも書きたいけどコナンに詳しくない不具合
五重塔が爆発炎上すると言われて見に行ったから紅は面白かったです(KONAMI)
まあまあ知ってる筈のジョジョ要素が一番おまけになってしまう欠点もある
そして龍騎編で予定してるギミックが許されるかも気になる
不安は多い
でも書きたいものはもっと多いんじゃい!
そして書ける時間は少ない
黄昏の時代も救わないきゃだから……
今回エルドラの爺さんが美味しい立ち位置に居すぎて笑う
まだ出たばっかだけど最初からソウルだから爺版ヘルアンドヘブンが見れないの悲しい、後で追加されたりするのだろうか
そうそうクロスオーバーってこれくらいやっていいもんなんだよね
できるかどうかは書き手の腕次第というのは欠点じゃなくて力の見せ所と前向きに捉えよう
ぐにょりにそれがあるかは知らない
それでもよろしければ、次回もまた気長にお待ち下さい

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