オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
こういった世界において、都市伝説というのは案外洒落ですまない場合が多い。
魔化魍が存在している以上は妖怪に魑魅魍魎の類は間違いなく存在しているし、世にいう吸血鬼もファンガイア辺りの事を指していると見ていい。
○○は○○の仕業だ系の陰謀論の大半は恐らく実在する、或いは過去実在した悪の組織に関わりのある話になる。
そもそもナチの科学者の生き残りがそのまま合流した悪の組織が存在する時点で、俺は月の裏に逃げ込んだナチが月面第三帝国を築いていて生きていたチョビ髭総統がスーパーアーリア人になったとしてもおかしくないと思っている。
当然、月を破壊する、或いは月面及び月内部に存在する(と仮定して)生命体及び機械装置を復旧不可能なまでに破壊する為の仕組みだって考えてある。
一定の資源があれば、現代には俺の脳内に設計図があるだけの対星兵器の組み立ても難しくないのが魔石の戦士の良いところだ。
ありがとう不備のある試作アークルを作った人と使って変身して失敗した人、思うに今があるのは全てあなた方のおかげだ。
封印の墓所は未来人に未来知識を与えない為に内部構造を全て記録した上で分子レベルで分解して細分化して各地の山土や海に紛れさせて始末したが、だからこそ何処で祈っても届くものと思うので、今度のお盆にでも少し線香の数を増やしてあなた方の分という事にしよう。
話を戻すと、ネットや某ムー民達の愛読雑誌などから仕入れられる怪しげな都市伝説の類は、フィルタにかければそれなりの情報源となるという事だ。
例えばオルフェノク、例えばファンガイア、例えば魔化魍、例えばワーム。
実の所を言えば、これらの種族が名前を別のものに変えてこの手の雑誌やアングラの掲示板で取り上げられるのは珍しい事でもない。
別に、彼らの情報管理がガバガバなどという話ではない。
むしろ、この情報発信源は恐らく彼ら自身と考えてもいいだろう。
陰謀論者の玩具として扱わせ、耳馴染みのあるオカルトネタの一つにカテゴライズするというのは、なるほど、人類社会に紛れるには実に良い手だと思う。
名前を言われてもピンとこないだろうが、種族としての概要を言えば、ああ、○○ね、と、反応を返せる人も居ないではないだろう。
この時期はまだテレビなどでもオカルト系の番組が度々放送されている時期だ。
仮に少しやらかして噂になったとしても、笑い話として流されて終わりなんて事もありえてしまうだろう。
そういった、オカルト系の笑い話の一つに、こんなものがある。
『クリスマスの怪』
これは別に、クリスマスに放送されるヒーロー番組が、クリスマスだからと明るい内容かと思いきや……なんていう話ではない。
が、実の所を言えば、決まった内容の話という訳でもない。
ぽつぽつとあちこちで語られる、どこそこのデートスポットでクリスマスデートをすると行方不明になる、だとか、そういう話だ。
変わり種では、行方不明になった後、数日してから何事も無かったかの様に戻ってきた、なんて話もある。
……被害者に対して加害者が複数種、という場合もあるのだろう。
確認できていないが、これはおよそ人類的な思考を残した敵性種族の活動であると予測できる。
特にオルフェノクとかいう種族は割りと私怨で動いたりする傾向が高い。
そして、ワームは人をコピーする時、必ずしも相手を殺す必要がない。
最悪、ワームとオルフェノクが手を組んでいる、なんて可能性だってある。
ワームとネイティブが、なんて可能性の方が高いか。
まだ、警視総監は交代していないので、警察は乗っ取られていない筈だが……。
つまり、だ。
クリスマスに特定の場所でうろちょろしていると、そういった連中に襲われ易い。
基本的に開けた場所、遠方からの目撃者が多くなる場所では少ないようだが、そうでない場所では結構な確率でクリスマス、或いはイブに人が襲われているのだ。
理由は……まぁ、色々あるのだろう。
一応は人生を一度は全うした経験がある人間から言わせて貰えば、人を僻んだり妬んだりして凶行に及ぶような連中は、中々どうして幸せを手に入れにくいものなのだが。
人間であれ非人間であれ、必ずしも理屈で行動はできないものだ。
「クリスマスにさ」
「うむ」
「なんか予定ある?」
「ふむ……、その心は?」
「いや、謎掛けではなくて、純粋な疑問ね」
「そうだな……チケットが取れれば、ライブに行く予定」
「何処の?」
「ああ、マイナーなインディーズのバンドでな。中々良い。今度チラシをくれてやろう」
意外な趣味だ。
仲村くんはもっとこう……。
逆にアイドルのライブとか行ってペンライト?とか振り回してそうなイメージがあった。
……いや、この時期だと男性向けのアイドルアイドルしたアイドルは逆に居ないか。
音楽系のグループはあったが。
「……そういうお前はどうなんだ」
仲村くんが声を潜め、ちらとクラス内部を見渡す。
つられて見渡す。
長めの休み時間だけあって人はまぁまぁまばらだ。
難波さんの姿も見えない。
どうやらトイレに行っているようだ。
「まだ何も」
「まだ」
「人と出かける予定を入れようかな、って、ちょっと思ってたんだけど」
「ほう」
仲村くんが椅子の背を掴んだと思えば、音もなく椅子を後ろにスライドさせた。
近い。
メガネが窓から入ってくる太陽光も室内の蛍光灯も無視して原理不明の発光を見せ、その瞳が見えない。
「難波さんか」
「あー、いや。この間知り合った人が居て」
見えないメガネの向こうで視線がぐるりとクラスの中を再び見回した。
「女だな?」
「仲村くん、目ざとい」
は、と、仲村くんは大げさに仰け反りながら呆れる様に小さく息を吐いた。
「二年近くも付き合えばな。今回のは珍しい話だとは思うが」
「そうかな」
「そうだ。……まぁ、何らかの理由はあるのだろうが」
「お見通しだね」
「言ってはなんだが、ある点では難波さんより知れていると思っているぞ」
「俺はホモじゃないよ」
「俺もだ」
ううむ。
仲村くんは中々に人を見る目がある。
しかし人を見る目があるというのは時に危険が伴うものだ。
うっかりワームやオルフェノクやファンガイアに違和感を覚えてしまったなら、危険な目にあってしまう可能性が高い。
だが、何も身体的トラブルの無い人間に悪戯に魔石式のベルトを配布するのも問題なのではないか、という疑問も無いではないのだ。
特定のスポットにおいて高確率で何かしらの人類に敵対的な種族が人間を襲う日がある。
となれば、そこに一緒に行けば、イクサのお姉さんと一緒に居る状態で危機に晒されるという、イクサの力を発揮せねばならない事態になる可能性が高い。
あれくらいの練度だと、最悪ファンガイアバスターなりで対処できてしまう可能性もあるのだが、全身の筋肉配分から考えうる彼女の戦闘スタイルからすればそれは難しいだろう。
ナックル系の武器があればまた違うのだろうが……。
イクサナックルなどを出して、しかし変身せずに戦うなどというアホな真似はしない筈だ。
だからこそ、彼女をクリスマスの日にお出かけに誘おう、などという思いつきが頭に浮かんだ訳だが。
「正直、クリスマスの日に誘う程に親しくなった訳でもないんだよね」
「参考までに聞くが、どれくらいの仲だ」
「たまにカフェで会ってお喋りする程度」
「親しくないのか、それは?」
「行きつけのカフェが同じで同じ様な時間に利用してればそういう事もあるよ」
「何処のカフェーだ」
「東京」
「かっ」
またまた仰け反ってしまった。
そもそもの問題として。
戦士としてだけではなく、女性的な魅力を兼ね備えた女性でもあるからして、既に先約がある可能性だってあるのだ。
休みの日にたまに会う程度では、そういった人間関係を探る事も難しい。
各地のドローンで探る、というのも、あの練度の戦士相手には気付かれる可能性が高く現実的ではない。
「好きなのか」
神妙な顔で仲村君が問う。
「いや、まぁ、好ましいタイプではあると思うけどね?」
強い戦士で、おそらくは、優しい人だと思う。
当初は完全にイクサシステム目当てで近づいていたのだが、正直な話、彼女との会話は、どこか、母さんやジルと暮らす実家にすらない、遠い遠い、もう何処にも存在しない懐かしい場所を思い起こさせる事がある。
もう俺の過去ですらない過去の事を思い返すなんてのは、意味のある事だとは思えないのだが。
「兄とか姉が居たら、ああいう人なのかなぁ、って思う」
「……そうか、そうかそうか。いや、すまなんだ。奇妙な邪推をしてしまった。詫びとしてこの練り消しをやろう」
「それは消しゴムのカスだ」
こいつ成績悪くないのに授業中に何やってんだ。
成績悪くないからこういう事ができる余裕があるのか。
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難波祝は焦っていた。
焦る理由は多くあった。
直接的な告白をした訳ではないが、想い人が自分を異性として中々意識してくれない。
肉体的な接触があって、自分が相手を更に意識せざるを得なくなるどころか、もう行くところまで行くか、という覚悟が決まるまでになっても、結局手出しはされず。
では異性に興味がないのか、と言えば、何故か妹的な立場に居る相手には手を出している。
いや、実の所を言えば、最初にそういう関係になるように行動に移したのはその妹の様な位置に居る少女の方なのだが、それでも、異性に手を出せない程シャイだとかそういう話ではない事は確定してしまった。
挙げ句、その少女にまで何故か急かされている。
『コウジは絶対難波の事好きだよ』
とは、実に無責任ながら責めるには無垢過ぎるジルの言葉(ホワイトボード使用)で。
「押せ押せで行けば拒否しないのは確認したから! ほら! 遠慮とかそういうのは、いいよ! 来いよ!」
とは、もう何が目的でけしかけているのか分からない古代文明代表のグジルの言葉だ。
何を無茶な!
そう叫びたくなる気持ちを誰が汲んでくれるだろう。
それこそ、クラスメイトの中にも休みの間にそういう経験をした子は居た。
祝は、自分も一部からはそういう経験を完了していると思われているのも知っている。
クラスメイトに見せている、優等生の鑑、みたいな外面とは裏腹に、普段の交路があまり余裕が無い事を知っていればこそ、そういう一線を超える真似ができないという面があった。
それこそ、彼はこの危険が多くある世界で平和に暮らす事に精一杯なのだ。
恋愛ごとに現を抜かす余裕があるのだろうか、と。
自分が相手を好きで、恋人になってほしい、なんて、自分の気持を押し付ける真似をしていいのだろうか、と。
そんな葛藤があればこそ、多くのチャンスを見逃してきた。
頭の中に時折現れる天使と悪魔をも、ぎゅうぎゅうと箱詰めして心の奥底にしまい込んできた。
そこに、チャンスが巡ってきた。
話に聞いていた、最大級の敵を乗り越え、交路の生活に目に見えて余裕が出てきたのである。
以前は何かとトレーニングや訓練に付き合っていたが、そこにかなりの割合で普通の遊び歩きが混ざってきている。
生き抜く事以外に、戦い抜く事以外に時間を多めに取れる程度には、交路の中に余裕が生まれてきたのだ。
すわ、告白のチャンスである。
攻め時だ。
もしかしたらまた時間が立てばあの交路の余裕が消えてしまうかもしれない。
今余裕があるからといって、告白したなら後々の重荷にしてしまうかもしれない。
そんな葛藤をかなぐり捨てる時が来たのだ。
よし。
今日告白しよう。
思い立ったが吉日だ。
祝は一大決心をした。
気合を入れて、薄く、校則違反にならない程度に薄っすらとメイクまでして。
「あ、リップ変えた?」
「う、うん、似合ってる?」
「新色だよね。今まで付けてた中には無かったし」
告白だ!
そう意気込んでいた事もあってか、祝の胸が高鳴る。
興味がなくて見られていなかった訳ではないのだ。
「そう、そうなの! 雑誌で見て、かわいいなぁって」
「難波さんは流行に敏感だなぁ」
「ジルちゃんの服とか、結構センスいいと思うよ?」
「店員さんにお任せ、って手もあるし、あいつも結構自分で選べるようになってきたから」
「じゃあ、もう私が水着選ぶの手伝わなくてだいじょぶかなぁ?」
「勘弁してよ、せんせぇ」
会話が弾み、思わず出してしまった小悪魔ムーブから休日に遊びに行く約束を取り付け、告白するタイミングを逃してしまった。
だが、それで終わる訳がない。
少しタイミングがずれてしまっただけだ。
せっかく遊びに行く約束を取り付けたのだから、そこで告白をしてしまえばいい。
学校での告白となれば野次馬が多くなりがちだ。
逆に、遊びに、デートに行く約束を取り付ける事でよりベストな告白の時間を作れたのはファインプレーではないだろうか。
完璧だった。
告白をする流れが途切れたのではない。
告白が成就する流れが生まれたのだ。
後日。
遊びに行く約束の当日。
早く出過ぎたか、と思いながら待ち合わせの場所に向かうと、既に交路が待ち合わせ場所で寛いでいた。
「はい、温かいものどうぞ」
「あ、温かいものどうも……じゃなくて」
受け取った缶のミルクティーは温かい。
冷めている風ではないが、何しろ眼の前の男の子は電子レンジや鍋が無くても飲み物を一瞬で温める程度は出来てしまう。
「待った?」
「いや、今来たところ。……ふむ」
定番のやり取りだなぁ、と、祝が思っていると、交路が何かを考えるような素振りを見せ、顔を上げる。
「今の、なんかデートっぽくて良いね」
照れる様に笑いながら。
完全な、意識の外からの不意打ち。
顎を掠める強烈な一撃の様に、祝が自宅で色々と準備してきた小悪魔ムーブが、頭の中から綺麗に抜け落ちて行った。
冬休み目前の休みの一日を、祝は終始ふわふわと雲の上を歩くような感覚で過ごした。
其の日はとても楽しく、告白出来なかったなんて事は些細な事に思えた。
―――――――――――――――――――
そして、ふと、思いつく。
「もしかして私、交路くんと付き合ってるのでは……?」
相談に乗ってくれ、と、言われ、祝の家に遊びに来たジルが、しばし天井を見上げ、窓の外を眺め、手元のホワイトボードに何かを書き、見せる。
『今日はもう休んだ方がいいよ』
「まだお昼前だよジルちゃん」
しかし、既に常なら澄んだ湖面の様に純粋な色を浮かべているジルの祝を見る視線は、何かとてつもなく胡乱な物を見る目をしている。
だが、祝にも言い分があった。
「だって、普通、異性の友だちと夏休みを半分使い切るくらい長期の旅行に誘ったり、全身マッサージしたり、結構な頻度で一緒に遊びに行ったりはしないし……」
少なくとも、健全な友人同士でそういう事がありえるのだろうか。
祝は昔からそれなりに友達が居たが、少なくとも異性の友人とそういう距離感になった事は無いし、知る範囲で恋人でもないのにそういう事をしているのを見たことは無かった。
「……フフフ」
半ば愚痴の様にぽつぽつと言葉を吐き出す祝の目の前で、ジルが
胡乱なものを見るような目つき以外は無垢な少女で通りそうなその顔はしかし、今は凶悪な笑みを浮かべている。
ギラリと輝く眼光は正しく野獣のそれだろう。
「SEX……!」
「グジルちゃん」
「待って今ので私ってわかるのおかしくない?」
「だって声出してるし……」
祝のボケもなにもない返しに、肉体の操作権を譲渡されたグジルが腕組みをし、ふん、と鼻を鳴らす。
「今日の難波は面倒臭いからって丸投げされた私の身にも成れ」
「……そんなに面倒くさいかな?」
「告白なりアプローチなりが受け流されたとか、振られたとか、先延ばしにされたとかなら、まだわかるけどな」
「だってぇ」
抱えたクッションをぐいぐいと押しつぶし、いじける祝。
「……一緒に居るだけで、幸せになっちゃうんだもん」
「じゃあ一緒にイク時はもっと幸せだろうなとか思わないのかよって話なんだよなぁ」
「私今すごく乙女チックな事言ったのにぃ!」
「乙女チックは知らんけど、私は実体験に基づいて言ってるぞ」
小さな悲鳴染みた抗議の声を上げる祝に対し、テーブルの上に肩肘を乗せ、レモンティーの入ったティーカップを傾け音もなく啜りながら気だるげにグジルは語る。
「例えば、ジルはわりと肉食だ。ガツガツ行く」
「そ、そうなの?」
「私の知識もそれなりに引き継いでるけど、あいつまだ人格的には二歳にもなってないだろ? そんな状態で、一年以上本番ナシでずっと開発されてたからかなぁ」
ごくり、という音は、祝が唾を飲む音かグジルがお茶を飲む音か。
「ずっと世話されてたから、コウジの
「止まらない……?」
「ん……イッても、イッたまま動き続ける。で、そんなだからまたすぐイク。で、その動きに刺激されてコウジもイク。で、膨らんだり出されたりでまたイク。普通なら痙攣してまともに動けなくなるもんらしいんだが……身体がまともに動かないってのは、あいつにとっちゃ普通の事だからな。挙げ句、今はベルトがある。コツさえ掴めばベルトの神経経由でむりやり動かせる」
「そ、そういう使い方してもいいの?!」
「ダメとは言われてないだろ?」
興奮気味に問う祝に、呆れ気味にグジルが返す。
祝に対する呆れというよりは、自分で語る普段のジルの行為に向ける呆れだ。
「あいつは生まれつき開発され続けてたからか気持ちいいのをすげぇ素直に受け入れるし、コウジが気持ちよくなってるのを感じるのもすげぇ喜ぶ。……が、実際問題、ベルト付けてる私らにも限度ってのがあってな」
「限度……」
「ざっくり言うと、脳味噌に無茶させ過ぎると、意識が飛ぶ。電源が落ちるみたいにな」
聞き手に回った祝の顔はりんごの如く朱に染まりつつ、鼻息は荒い。
それを見るグジルは意地の悪い笑みを浮かべ、ソーサーに乗せられていた小さなスプーンで祝を指す。
「私は基本的にあいつの感覚のお溢れを預かってる訳だが……凄いぞ?」
「う、うぅ」
「まぁ? 私としちゃあ、その後からが本番なわけよ」
「ま、まだ先があるの?」
「安心しな、過激にはなんねーから。……前まではともかく、今じゃ私も身体を使えるように時間を貰える訳だけど、それは行為中だって例外じゃあない。あいつの感覚じゃあ、一回電源切れたら交代、くらいの話なんだろうけど……電源切れたら交代って、事は、電源が切れるくらいに刺激を受けまくった後での交代だ。つまり……」
「最初からクライマックス……?」
恥じらいながらつぶやいた祝の言葉に、グジルが吹き出す。
くつくつと笑い声を漏らしながら、続ける。
「乙女の発想じゃねぇな。でも、うん、最初からクライマックスだから、感覚が追いつかない。あいつほど際限なしじゃないから、私は少し休みたい訳よ」
「じゃあ、そこで終わり?」
「んにゃ。……繋がったまま、めっちゃ甘やかして来る」
目を細めるグジル。
顔つきは完全にジルのそれと変わらない。
当然だ。何しろ同じ身体を使っているのだから変わるわけがない。
しかし、目を細めて窓の外を眺める顔は、常の無垢なジルのそれでも、悪戯好きな童女の様な、或いは強気な戦士のそれでもない。
「兎に角、こっちを強くしすぎない程度に、撫で回すし、嗅がれて、甘噛みされて、揉まれて、吸われて……頭や顔を胸板に擦り付けたりするとな、すっげぇ自然に頭を抱いてくれるし、兎に角顔が見たくて顔を上げれば、顎を手で、こう……」
「……照れてる?」
何処か自慢げに話していたグジルの顔はやはり赤い。
先のそれとは異なる理由でそらされた視線は半目で、口元を手で隠し。
「……くっそ、これ、自分で説明すると結構恥ずいわ。ジルも良くやるよ、ホント」
「照れる照れないの基準がわかんないよ……ね、ね、なんで照れたの?」
相手が照れた事で、祝の中では何かが不思議と帳消しになったのだろう。
羞恥よりも好奇心が勝る様子で前に乗り出して来た。
「この、甘やかされてる時が、一番……」
「一番?」
口ごもるグジルに、祝がぐっと顔を近づける。
「……愛されてる感がある、っていうか、ああ、わたしこいつのものなんだなぁ……って」
「ん~……、グジルちゃん、おっとめぇーっ!」
ついにテーブルを乗り越えグジルの頭を前から抱き締める祝。
まるで犬猫にそうする様にグジルの頭を撫でくり回す祝は、先の羞恥は何処へやら。
「なんだかんだ言ってたのに、グジルちゃんが一番乙女じゃなーい、もう、かあいいなぁ……!」
「……そりゃ、私が可愛いってのはいいんだけど」
されるがままに撫で回されながら、グジルの視線が祝の瞳を射抜く。
「付き合ってるのにそういう事はなされないんで?」
酷く。
酷く平坦な口調だった。
嗤うでも誂うでもなく、ただ純粋に聞いてみただけ。
そんな口調。
グジルを抱きしめていた祝の身体が硬直する。
そのまま、逆再生の様にグジルから離れていき、ぺたんと元の対面の席に座り込む。
その姿は先と比べても明らかに小さく萎んで見える。
うつむくその顔が見えない程に影に覆われている錯覚すら覚えた。
「ごめんなさい、ナマ言ってました……全然です、全然、恋人できてなかったです……。めっっちゃ友達でした……超健全ガールでした……一夏一緒だったのに過ち一つ無くてごめんなさい……」
「いや謝られても」
「でも!」
反論を思いつかないままに顔を上げた祝に、グジルは呆れを通り越して一種の哀れみと共に、やんわりとした口調で諭す。
「別にいきなりヤッちまえって言ってる訳じゃねーって。告白しろとも私は言えんし。でもさ、もうちょっと頑張んないと」
「もうちょっとって、どれくらい?」
「えー……
「もうこの道じゃ大先輩だよ」
「じゃあ、デートの別れ際にキスするとか」
「……………………ほっぺに?」
「お前、難波ぁ! 難波はさぁ!」
「だって、だってぇ!」
両者ともに膝立ちになって叫び出し、しばし騒いだ後、座り込む。
神妙な顔つきになったグジルが、重々しく口を開く。
「……こないだ、コウジが東京に遊びに行ってた。……女の人と知り合ってきた」
「……うん」
「大体十個くらい年上の、黒髪ロングで、まぁまぁ背があって、スタイルが良い、かっこいいと綺麗の間みたいなお姉さんだそうで」
「…………うん」
「電話番号もメアドも交換してて、休みの日にも結構会いに行ってるし、メールも電話も結構してるっぽい。楽しそうに話してたのは見た」
「…………………………」
「前、話したよな? コウジの好みのタイプ」
「………………………………ほうようりょくのある、おとなのおねえさん」
「隠してたスケベ本がそんな感じだったからな。たぶん間違いない」
「……」
「なんだかんだ言ったけどさ。どうするかは難波次第だと思うよ」
「ん……」
泣きつかれた子供の様に小さく頷く祝の肩に手を置き、ジルは歯を光らせながら爽やかな笑顔を浮かべる。
「どっちにしても私はコウジとの関係続けるしな! 所有物だし!」
輝く笑顔に、祝の渾身のクッション投擲が炸裂した。
―――――――――――――――――――
焦る、なんていうのは、余裕のある時にしかできない無駄だ。
焦って、何かしないと、なんて考えている内に、焦る余裕も無くなってくる。
タイミングを図るとか、そんな事をする余裕もない。
兎に角、ぶつかるのみだ。
鏡にうつる顔は、どこか強張っている様にも見える。
それでいい。
それでもいい。
トイレを出て、クラスへと戻る。
彼から貰ったベルトのおかげで、耳をすませば何を話しているかは少しだけど聞こえてくる。
『好ましいタイプ』
で、
『兄か姉が居たら』
と思うような相手。
相手がストライクゾーンど真ん中と言っている様なものだ。
だけど。
私だって。
私だって。
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「交路くん!」
勢いよく開け放たれた教室の入口。
難波さんが、なんとも気合の入った表情で立っている。
眉を逆立て、怒っているのか、何か破れかぶれになっているのか。
「クリスマス・イブの日! 二人で遊びに行こう!」
( ゚д゚)、ペッ
クリスマス回?
やっこさん死んだよ、俺が殺した
次回にクジラ怪人の治療を受けた上で大気圏外に放置されてじっくりと太陽光浴びて進化して蘇ってくるけど
こんな風にな!(キングストーンピカー)
ぐえー!
☆かつて大人のお姉さんに甘やかされたかった、今はイクサのベルトが欲しい、最近人間性が快方に向かっているやつ
総合的に見てオルフェノクやらファンガイアの期間限定狩場に知り合いのお姉さんを連れ込むのが最も効率的と出た
……いやでも性欲は戻ってきたし
人間性というか人間的な要素が増えるってある意味どろろの百鬼丸みたいな弱体化じゃないかなと思わないでもない
今まで身近に居なかった年上のお姉さんに何処か懐かしさも感じ初めているのであった
感情は憧憬を取得します
☆色々思い悩む事もあるけど、いい加減一歩でも前進しないと不味いかなと思い始めているクラスメイトの一人で親しい友人のままでは居られない難波さん
好感度高すぎて告白しなくてもいちいち幸せになっちゃう症候群
こいつなんでこんな好感度高いんだろうかという疑問はあるが、このSSは面倒なフラグ立てとかは極力省いてざっくり行くと決めているので適切なツッコミ程度で修正されると思ったら大間違いなのだ!
恋する女の子は可愛くて書いてる側が楽しいから別にこれでいいのだ!
☆もうただのこのSSのセックスシンボル的な奴ら
赤裸々に暴露しちゃう
今回クリスマス回にならなかったのはこいつらのせい
でもジルとグジルの行為に対する方向性の違いは書いておきたかったので後悔はない
所有物扱いだから乱暴に使われると思ってた?
自分の持ち物なら大切に扱うし愛情持って接するに決まってるじゃん……
電池切れからだから最初から盛り上がった状態で始まるグジルだが、これに加えてダブルアクションゲーマーが如く分身で表に出されてジルと主人公の二人がかりで責められてあー!ってなるルートも残っている一粒で二度も三度も美味しい感じ
一番楽な立場
☆なんか順調に距離を詰められているイクサお姉さん
生真面目そうな初見の雰囲気からは思いつかない様な、自分を慕う弟の様なふるまいが時折垣間見えて、可愛らしい子だな、とか思っちゃう
で、何故か話も合うので喫茶店で会う以外にも電話やメールが捗る
愚痴を話してもすごく素直に聞いてくれるので助かるし……
なんか、年下なのに変に頼っちゃってるわね、何か埋め合わせしなきゃ……
最近物騒だし、鍛えてあげるとかどうかしら
みたいな流れで篭絡中
魔石入ってないので怪我も病気もあるので看病イベントとか入れられる辺りすごくこの人周りをいじるのは楽しそう
☆死人が居ない
そりゃ死人は死体だから居るではなく有るだよね、って話しではなく
平和な回だってあるよ
だって次回はクリスマス回だからね
時系列的に最後のトイレから戻ってくる流れは冒頭の雑談シーンの直後に挟まって、ヒロインズの会話はその何日か前くらいの流れ
そろそろライダーが絡まない話に飽きてきたので適当なタイミングで斬るかも
今回ライダーも怪人も出てこないし、全然ライダーSSできてないしね
むしろ書いといてなんだけどクリスマス回の内容がぜんぜん思いつかんので思いつかなかったらクリスマス楽しかったなぁで終わるぞ
じゃあそんなに日常回カットしてまでやりたいネタが龍騎であるのかと言うと
……まぁまぁあるな
ループものは捗るのだ
ぐにょりはぐにょりで無かった頃の経験でそれを知っている
まぁどうするかは書いてみないとわからない
明日は明日のほにゃらららー
そんなSSでもよろしければ、次回も気長にお待ち下さい