オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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56 寄り道!トップブリーダーの特別な給餌!

天に細い月が登る夜。

切れかけの電灯が頼りなく照らす公園はさながら決闘場の様相を呈していた。

獲物を狩る最中に突然現れた邪魔者に、僅かな戸惑いとはっきりとした苛立ちを見せる、ステンドグラスの如き模様が全身を覆う怪物、ファンガイア。

それに相対するのは、機械の鎧を身に纏う戦士、疑似ライダー陽炎。

勝者に与えられるトロフィーの如く離れた位置に遠ざけられている女性の眼の前で、言葉もなく静かに向かい合う二人が距離を取りながら互いの様子を伺う。

 

人型でありながらどこかイルカに似たフォルム、ステンドグラスにも見える体組織の中に、錯覚だろうか、何か鳥の意匠が刻まれたファンガイアは、その青い磨りガラス状の肌から三又槍を引きずり出した。

対する陽炎は、夜闇に暗く沈む様な艶消しの黒い装甲とは対象的な、月のか弱い光を受けて不気味に輝く蛇腹剣を軽く振るう。

ひゅる、と、風を切る音を響かせながら生きた蛇の如く緩やかにうねる蛇腹剣。

それに警戒する事無くファンガイアは無造作に歩を進めた。

下段に構えた状態から喉元を貫く最短距離の刺突。

 

油断が無いと言えば嘘になるだろう。

ファンガイアにとって人間は餌か、良くてペットに数えられるかどうか。

個体差はあれど、標準的なファンガイアからそう外れる事のないこのファンガイアにとってもそれは変わらない。

未確認生命体、それに対抗する四号、G1、アンノウンなる都市伝説的種族、アギト、二十二号。

未知の種族が多くあれど、それにファンガイアが狩られたなる話は耳にしていない。

所詮は餌とそれに殺される弱小種族の小競り合い。

機械の鎧なぞ、餌に殻が付いている程度の話だ、と。

 

そんな思いを抱えた状態でありながら、捕食の邪魔をした相手を嬲るでもなく即座に殺そうとしたのは、単純に好みの話だ。

見目麗しい美女と見知らぬ少年であれば、見目麗しい美女の方を味わって食べたい。

その程度の嗜好は存在しているのだ。

 

突き出した三又槍の穂先が突き刺さる感触を予想し、手に返るのは空を切る感触。

外したか、と、疑問が浮かぶよりも早くファンガイアの側頭部に衝撃。

三又槍の突き上げよりも早く踏み込んだ陽炎の裏拳がファンガイアの側頭部に突き刺さる。

ほぼ同時、鳩尾に重い感触。

脳を揺らされ蹌踉めいたファンガイアの鳩尾に突き刺す様な膝蹴り。

驚くべき重さの蹴りに思わずくの字に身体を折ったファンガイアの視界が衝撃と共に白く染まる。

蛇腹剣の柄尻による振り下ろし気味の一撃が後頭部を抉ったのだ。

 

常人であれば一撃一撃が致命傷の三連撃。

強靭な肉体を誇るファンガイアだからこそ耐えきれたのだろう。

飛びかけた意識の中、きん、という金属音、そして、首元に近付くひんやりとした金属の感触。

膝を折りかけたファンガイアは、そのまま勢いよく地面を転がる事でその場から脱する。

柔道の受け身の如き動きでその場から距離を取ったファンガイアは、今さっきまで自分の首があった場所を通り過ぎる銀閃を見た。

ワイヤーが巻き取られ直剣と化した蛇腹剣、ビーストマスターソード。

 

強い。

それが紛うこと無きファンガイアが抱いた感想だった。

だが。

攻撃の隙を突かれたからこそ受けた傷だ。

重く鋭い攻撃だったが事実として自分は未だ死んでいない。

強い戦士である事は認めるが、自分を、ファンガイアを殺せる様な敵ではない。

 

真実そう思っていたのか。

或いはそう思い込む事で精神の安定を測っていたのか。

強敵と認めながらファンガイアの中に逃げるという選択肢は浮かばなかった。

戦いは始まったばかりなのだ。

反撃の時だ。

 

片膝をついたファンガイアの、イルカに似た顔が口を開く。

同時、口を向けられた陽炎が酒に酔った様にふらつく。

傍から見ていた女性は不思議に思っただろう。

だが、これこそがこのファンガイアの持つ切り札と言っても良い、超音波攻撃。

三又槍で物理的に破壊する事が出来ない敵だとしても、この超音波を当てれば怯み、反射してきた感触を元に調整すれば、次の一撃で粉々にする事も不可能ではない。

いや、そこまでするまでもなく、この一撃を喰らえば人間は立っていることもできない。

再び取り出した三又槍を投げつける。

銃弾もかくやという勢いで投擲されたそれは、狙い違わず陽炎の胴体に突き刺す軌道で飛翔し──

 

「びっくりした」

 

掴み取られた。

渾身の一撃という訳ではない。

より強く投げ、より早く飛ばす事もできた。

だが、意識が朦朧とした人間に受け止められる、いや、掴み取られるほどの鈍ら槍ではない。

 

「ナスティベントの予習ができるとは思わなかった」

 

ばきん、と、硬質なものが砕ける音。

陽炎の手の中で三又槍が握り砕かれた。

ファンガイアが再びガラス質の組織から武器を取り出そうと手を伸ばす。

火花。

陽炎の手の中で再び蛇腹剣の刀身がバラけ、振るわれたそれがファンガイアの腕を薙ぎ払う。

 

重い。

鋭い。

速い。

先の人間が振るう武器と似た動きであるにも関わらず反応もできず、ただ外殻を削るだけだったそれとは異なり、連なる刃はその一つ一つがファンガイアの肉をえぐり飛ばして行く。

 

()()()

初めて、ここにきて初めてファンガイアは気付く。

これは狩りでも食事でもない。

自分こそが狩られる側なのだ。

逃げなければならない。

すう、と、息を大きく吸い込む。

悲鳴を上げるようにして全方位に超音波を撒き散らす事で撹乱する。

周波数を合わせて敵を砕く余裕などない。

みっともなくとも、ただ命を守るために。

 

口を開く。

範囲内のあらゆる生物の鼓膜を破壊する怪音が放たれる。

いや、放たれる寸前。

口の中に小さな何かが放り込まれた。

爆音。

ファンガイアの出した超音波、ではない。

口の中に放り込まれた小さな異物が、大きさからは想像できない威力をもって爆発したのだ。

 

「……! …………!!」

 

吸命牙によってライフエナジーを食らうファンガイアにとって口は物を食らうための器官ではない。

仮にそうであったとしても重要な器官とは言えない。

しかし、超音波を呼吸や発声の延長線上の行為として放つこのファンガイアにとっては違う。

内部に備わった肺に、その他器官、体内へと繋がる急所なのだ。

 

ごぅ。

 

短く響く獣の咆哮。

それは歓喜の声だ。

逃げる、戦う()()を威嚇するものではない。

逃げる事すらできない、自らの腹を満たす()を目の前にした時の舌なめずり。

だが、その姿は見えない。

最も優れた魔族の長であるファンガイアの感覚器を持ってしても。

 

いや。

違う。

居る。

 

蹌踉めくファンガイアを前に、獣を前にした調教師の様に鞭を、蛇腹剣を構えて見下ろす陽炎。

その蛇腹剣の刃、一つ一つから、覗いている。

鏡の如く磨き上げられた刀身の中から。

赤く光る獣の視線が!

 

逃げる。

恥も外聞もなく背を向けて走り出したファンガイア。

獲物の頭部に食らいつく肉食獣の如く、その後姿に影がさして──

 

―――――――――――――――――――

 

馬鹿め、と言ってやろう。

人狩り種族や超能力者狩り天使、死にぞこないの灰、友達になれない妖怪などが闊歩する現代、戦闘用スーツには何時でも投げつけられるスリケンや小型爆弾は搭載していて当たり前だろうに。

口を開けて行う攻撃があるとわかっているなら放り込むに決まっている。

高速で粘着質の不燃性唾液を吐き出すなり舌を伸ばして打ち落とす、そもそも口を開けない、爆発を念動力で抑え込むなどの工夫も無く戦闘中に敵に向かって口を開くなんてのは馬鹿のやる事だ。

 

「美味いか?」

 

見知らぬファンガイアから出た魂と肉体の残骸に顔を突っ込むロードインパルスが、トリックブレードをふりふりと機嫌よく振って俺の問いに応える。

表情を表現する機能などは一切搭載していないにも関わらず、与えた餌が気に入ったかどうかはとてもわかり易く意思表示するのだから困ったものだ。

魔化魍の時などは露骨に微妙な顔で萎れた幼体の魔化魍を吐き出して不満そうにトリックブレードを縦に振り地面を軽く叩いてきたりするのだが……。

そうか、ファンガイアは美味いか。

滅多に見つからないタイプだからそこそこレアなのだが、気に入ってしまったか。

高級な餌に慣れてしまって困るのは、どのペットを飼う場合でも付きまとう問題だな。

今後、ミラーワールドのモンスターの中にこれに匹敵するくらい美味しい餌が見つかれば良いのだが。

 

「大丈夫ですか」

 

変身を解除しながら、イクサの人に手を差し伸べる。

戦闘に巻き込まれない為か、それともどこか怪我をしているのか、少し離れたところで蹲っていたのだ。

イクサの人は差し伸べられた手を、そして俺の顔を見て、逡巡するような素振りを見せたが、何かを懐かしむような顔をした後、差し出された手を握り返した。

 

「ありがとう、助かったわ」

 

「お怪我は?」

 

「大丈……っ」

 

手に捕まり立ち上がろうと踏ん張ると、足か何処かを捻ったのか、ふらつきながらこちらに凭れ掛かってくる。

 

「あはは……、ごめんなさいね。ちょっとヘマしちゃったみたい」

 

足をかばいながら身体を離し、苦笑いで誤魔化すイクサの人。

イクサの人もかなり練度の高い戦士ではあるのだが、ファンガイアの皮膚を削るのが精一杯の鈍ら一本で戦うのはかなり無茶な動きが必要だったのだろう。

或いは経年劣化による各部関節の強度低下が原因か。

と、そこまで考えた時点でぺしりと頭を叩かれた。

何故だ。

 

「失礼な事考えたでしょう」

 

「はぁん」

 

「ごまかさないの」

 

エスパーかな。

俺もエスパーなのにそういうのはさっぱりわからん。

テレパスとか?

まったくわからん!

魔法か何か?

明らかにファンタジー系の能力とは無縁そうな肉弾戦特化っぽい人なのに人の頭の中を気軽に覗くとか。

なかなか出来ることじゃないよ。

でも、この世界に居るかはわからないけれど、物理学者が魔法使いの大家みたいになってしまう場合もあるし、物理を極めた先に魔法の道が拓けたりするのかもしれない。

ま・ほ・うー!

とか言いながら棍棒を振り下ろして魔法と同じ破壊力を生み出したり……。

それはやはり物理なのではと思わないでもないが。

 

「お家に送りますよ」

 

「悪いわね」

 

「いえいえ」

 

肩を貸す。

一瞬、俺の返答に何かを思いついた様な顔をした後、何かを振り払う様に顔を振るイクサの人。

家だけに?とか思ってしまったのかもしれない。

そこでノータイムで口に出して後悔しない程度には、慎みも思慮もある人なのだが。

それなら人を家に招く時に洗濯物の山を籠にそのままにしておくとかは止めておいた方がいいのではないか。

これは余計な考えだなと思いつつ、日々が忙しいなら家事の手伝いとかもしてあげようか。

そんな事を思いながら、イクサの人の家を目指して歩き出した。

 

―――――――――――――――――――

 

その後、家に送り届けるまでに多少の世間話をしたりして、到着。

救急箱などを使って怪我の治療を行い今に至るのだが、結局、互いに相手の事情に深く踏み込む様な問いは行わなかった。

正直、何故あんな化物と戦っていたのか、という問いから戦士であるという自供を引っ張り出し、少し時間をかけてイクサのベルトに関する話を自分からしてもらうという策も考えてはみたのだが。

そういう、言葉を重ねて情報を引き出す、というのは経験が少なく、成功率も高くないと思われるので自重せざるを得なかったのだ。

 

逆に、俺がデッキを使って変身した事に関しても聞かれる事は無かった。

まぁ、俺の知る限りでもファンガイアに対抗する組織は素晴らしき青空の会だけでは無かったし、この世界で言えば猛士なども存在する以上、自分たちが知らないタイプの戦士が出てきても深く事情を聞く事はタブーの様なものなのかもしれない。

中には前の元号の仮面ライダー達の様に誘拐されて肉体を改造された人なども居るため、容易に踏み込んではいけない領域なのだろう。

 

送り届けて治療をし、そのまま帰るというのもあれなので、怪我をして休んでいるイクサの人の代わりにお茶を淹れる。

ついでに何かお茶菓子を、と探すと、台所にはそれなりに物が揃っているのが確認できた。

こういう戦士にありがちなガサツな私生活という訳でなく、家の中は生活感がありながらも片付いているところは片付き、ちゃんと家事をしているのだなとわかる。

 

「……む、このハーブティ、美味しい」

 

「わかる? 結構良い葉っぱなんだから。あ、……淹れ方上手……」

 

「天才なので」

 

幼い頃からの自己脳改造と魔石の強化による偽りの天才だが、お茶の淹れ方くらいならわけなく学習できてしまうくらいには偽りの天才なのだ。

どれくらい天才かと言えば……世紀末換算で、トキに師事したアミバくらいの天才度。

凄いでしょ、と、少しだけ自慢するとイクサの人の表情が少し綻んだ。

 

「なんです?」

 

「ん……ちょっと、おいで」

 

ティーカップをテーブルの上のソーサーに置いたイクサの人が手招きをする。

言われるがまま近寄り隣に座ると、両腕で包み込む様に抱きしめられた。

戦闘の後であるからか少し汗臭い。

が、元からつけている微かな香水の香りと混じり合い、それほど不快さは感じない。

匂いよりは温度、体温と柔らかさが強く感じられる。

 

「?」

 

話の流れから、何処にもこうされる理由が無いのだけれど。

 

「大丈夫」

 

いや、本当に。

何故?

いや、逆に、イクサの人の方に何か不安があるのかもしれない。

人に言う事で自分に言い聞かせるみたいな場合もあると聞く。

親の愛を受けられなかった人が自分以外の事を愛する事で代償行為とするような……。

そういうものなのかもしれない。

そう思いながら、それならと、イクサの人の身体を抱きしめ返した。

 

―――――――――――――――――――

 

不思議な体験だった。

夜道で化物に襲われている知り合いのお姉さんを不思議変身アイテムで助けて家に連れて行って治療してお茶をしていたら抱きしめられる、とか。

ラノベかな?

混ざっているとしても物騒な世界観のラノベではない事を祈りたい。

物騒な世界観でないなら夜道で美女が怪人に襲われたりはしないのではないか、という疑問はさておくとして。

 

さておくとして。

先のファンガイアは俺も見たことのないデザインであったが、これは別段不思議な話ではない。

知る限りでも会社が経営出来る程度にはファンガイアというのは存在しており、作中に登場した以上のファンガイアが存在している筈だ。

知らぬ場所で倒されたファンガイアや何食わぬ顔で生きているファンガイアも多く居るなんてのは不思議な話じゃあない。

問題があるとすれば、あのファンガイアは今年の出来事、もっと言えば、ライダーバトルとは関係ない場所で勝手に人を襲って食べていたファンガイアであろう、という事だ。

 

つまり、あのファンガイアの捕食行動はライダーバトルが最終的に無かったことになっても行われる訳で。

放置しておけば、ライダーバトル解決後、イクサの人はあのファンガイアに殺され捕食され、行方不明扱いになっていてもおかしくない、という事だ。

今後、イクサの解析を行うにしても、あのイクサの人と友好関係を結び続けるにしても、それは困る。

それを防ぐには、ループ毎にあの場所で襲われているイクサの人を助けなければならない……。

 

という、訳でもない。

俺があの日あの時にあの場所に居たのは、あの時間帯に倒すべき相手が居るからという訳でもなく、神崎士郎にライダーバトルのルールを説明してもらう為だ。

つまり、あの近辺でファンガイアが人を捕食、ないし、イクサの人と交戦し始めるタイミングと場所を確認してしまえば、先手を打って殺しておく事ができる。

イクサの人に態々正体を明かす必要も無いし、しかも、毎度ファンガイアと交戦できるという事は、その度にロードインパルスにファンガイアを食べさせる事ができるという事でもあり……。

 

なんと上手い、そして美味い話だろうか。

ファンガイアを食らう事でどれだけロードインパルスの力が増幅されるのか、或いは何らかの武装が増えるのかはわからないが。

ライダーバトルの外でミラーモンスターの強化を行う事ができるというのは強いアドバンテージだ。

気に入った餌を結構な頻度で食べる事ができるとなればロードインパルスの機嫌も良くなる。

これを利用しない手は無いだろう。

 

つくづく、あの場でイクサが無いにも関わらずファンガイアと戦う事を決断してくれたイクサの人には感謝だ。

彼女の勇敢さが無ければ、ファンガイアを相手に戦う予行演習も出来なかっただろう。

個体差があるから他のファンガイアと戦う場合の参考にはならないが。

 

が、それはやはり次以降のループでの話だ。

現時点においては次にファンガイアを食べさせるタイミングは未知のままだし、ライダーバトルはライダーバトルで進めなければならない。

勿論、ある程度の休みは取り、高校三年生らしい生活の中で、無理のない程度に、という話になるが。

 

「あら、美味しいわねーこのお茶」

 

「イクサの……母さんの後輩のお姉さんから教えてもらったんだよ、美味しい茶葉売ってる店」

 

「ふぅん?」

 

意味深に笑いながらケーキを切り分ける母さん。

 

「何?」

 

「いいえ? まぁ、こういう美味しいものをごちそうしてくれるなら、新しい子を引っ掛けて来るのも悪く無いんじゃない?」

 

「酷い言い草だなぁ」

 

子……?

イクサの人は子と言うような歳でも無いだろうし、関係ないだろう。

母さんはなにか勘違いをしているようだが、俺だってそうそう女の子の知り合いが増えたりはしないのだ。

勿論男の子を引っ掛けてきたりもしない。

同性同士でも性感染症の危険はあるというか、同性同士の方が高い印象もあるし。

まぁ、彼女ができたかどうかわりと聞かれていた頃から考えれば、マシかな。

切り分けられたケーキにフォークを突き刺し、口に運ぶ。

 

「あれ、レシピ変えた?」

 

いつものそれと比べて味が違う。

いつもと比べて上手い下手という訳ではないが。

 

「それ、作ったの私ー」

 

ジル、かと思ったら、その更に隣に座ったグジルが手を上げて自己主張している。

日曜のティータイムだから、こいつが寛いでいるのも別に問題はない。

が、ジルと同時に食卓に並んでいても問題はないのだろうか。

母さんも流石にびっくりしないだろうか。

ちらと母さんを見る。

 

「グジルちゃん、凄いのよー。最初はレシピ通りに作ってたんだけどね、このケーキなんかもう殆どオリジナルなの」

 

「お義母さんの教え方がうまいからだってば」

 

「またまたー、謙遜しちゃってぇ」

 

めっちゃ馴染んでる……。

知らぬ間に交流が増えていたのかもしれない。

いや、そもそもボロ布のようだったジルを拾ったのが母さんなのだ。

同じ顔がいつの間にか増えていたとしても、それほど気にならないのかもしれない。

たぶん。

 

『…………』

 

もくもく、と、小さい口で頬袋を作りながらケーキを食べ続けているジルだが、時折何かを考え込む様にしながらグジル、母さん、俺に視線を向ける様子が見られる。

 

「どうした、もう少し食べるか?」

 

俺の分のケーキを少し切り分けて差し出すと、嬉しそうに自分の皿を差し出し受け取るジル。

そして、まっすぐに此方を見る。

 

『ああいお、ううえあおうあ、いい?』

 

正面から顔を合わせて話す時、首をかしげる事でこいつは疑問符の代わりとする。

 

「まあ、追々な」

 

手先も常人並に動くので、学ぼうと思えば学べるのだし。

普段から家に居る以上、母さんに料理を学び始めればグジルと同じく直ぐに覚えられる筈だ。

 

『あんあう』

 

「頑張れ」

 

返答に、に、と笑って返すジル。

穏やかな日だ。

こういう日があればこそ、元気に戦いに行けるというもの。

グジルも頑張ってるし、ジルも頑張ってる。

俺も、頑張ろう。

 

―――――――――――――――――――

 

頑張るって何をだよ。

受験勉強ではないか、という思いもよぎるが。

今一番頑張っているのは勿論ライダーバトルだ。

ここから更に頑張る。

 

ライダーバトルを進めると言えば、大抵の連中は他のライダーを倒すことだとばかり考えがちだが、そうではない。

野生のミラーモンスターを倒し、契約モンスターに食べさせる事で成長を促すのもまたライダーバトルの醍醐味と言える。

こうすることで契約モンスターは出力を増し、それと契約するライダーも強くなる。

強くなれば、いざ他のライダーと戦った時にも有利に戦う事ができるだろう。

デッキの良し悪し、戦闘センス。

戦闘はそれだけでは決まらない。

どんなクソデッキでも、ゴミの様な、いっそライダーバトルなど参加せずに平和な日常を送るように言いたくなるような戦いに向かない人間でも。

とりあえず契約モンスターを強くして馬力を上げればどうにか戦えてしまう。

それこそがこのミラーワールドのライダーの良いところであり、悪いところでもある。

 

最終的には総合力が物を言う。

同じくらいに契約モンスターを強くしたのであれば、結局はデッキの良し悪しで差が出て、力の競り合いは戦闘センスで決定的に埋められない溝が作られる。

契約モンスターを強くする事で得られる力は下駄のようなものだ。

勿論、天の時、地の利、時の運なども絡んでくるが……。

人の和はこのゲゲル……ライダーバトルにおいては最後には絶対に崩れるので、崩れる前提でなら考えるのもありかもしれない。

 

実際、画面越しにしか見たことが無いにしても、龍騎の戦闘センスなどは光るものが有る。

そして奴の契約モンスターはドラグレッダー。

なかなかの強さを持つモンスターだ。

最終的に敵対して戦う可能性が少しでもある以上、城戸さんも敵対対象であると言える。

今のロードインパルスで、今の俺で、今の陽炎で勝てるかもわからん。

そして、時を操るオーディンもまた同じく強敵だ。

デッキを回収する、ゴルトフェニックスを捕らえると言っても、まずは倒せなければ意味がない。

勿論、最後まで残った時点で交渉して手に入れる事ができる可能性もあるが……。

聞く耳を持たなかった場合、信用しなかった場合を考えれば、当然、可能な限り二十二号にならずに陽炎のままデッキを奪う、ゴルトフェニックスを捕らえる事ができる程度にはなっていなければならない。

 

勿論、これは他のライダーも同じことをしている。

だが、多くのライダーはミラーモンスターの起こした事件を元に探索を始める。

そして、ミラーモンスターの捕食の瞬間を確認した時点で初めてミラーモンスターと戦い、倒し、ようやく契約モンスターに餌を与える事ができる。

 

だが。

だが、俺にはそれ以外の手段がある。

他のライダーが人間である以上、ある程度の睡眠など休息が必要であるのに対し、俺は必要な睡眠時間を極端に少なくする事ができる。

そして、制限時間のおかげで他のライダーの多くがミラーワールドでの直接の探索を諦める。

対して、俺は。

探索の時間を大幅に短縮する為の手段がある。

遠くまで見渡す目が。

遠くの小さな物音も聞き逃さない耳が。

そしてロードインパルスにも。

遠くが見えずとも、小さな音を聞けずとも。

遠く離れた場所の映像や音声を届ける子機が。

 

「ああ」

 

不思議だ。

仮にも命を奪う事に。

仮にも命を賭ける戦いに。

これほどの高揚を得るだなんて。

だが。

 

眼下に広がる広大な街。

大都会東京の鏡写しの都市。

ここが、あるいは、その外ですら。

広大な餌場であるとするならば。

 

咆哮。

 

いかなる文字でも書き記せない、機械の駆動音に過ぎないにも関わらず、歓喜に満ちた、闘争本能に満ちた咆哮としか言えない、ロードインパルスの雄叫び。

俺の感動に共鳴する様に鳴り響くそれを合図にするように、遥か遠くに潜む野生のミラーモンスターへ向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 





これは前言を撤回した訳ではなく
書いてみるとファンガイア相手の戦闘を書く予行演習になるかなというあれと
ミラモンとかライダー相手の戦闘ばかりだと飽きが来るというか
精神は神経細胞の火花に過ぎないというか
人間存在ですら記憶情報の影に過ぎないというか
それならつまり実質前回のあとがきを書いた自分と今このあとがきを書いている自分はある意味別人なのではないかというか
そんな訳で龍騎編の寄り道なのだ

真面目な話をすると、龍騎編という事にこだわって書き出しを迷うより、あんまり龍騎編とは関係ない話でも書き出せる部分から書き出してとりあえず一話書いちゃう方が早いのだという理屈
書き出しに迷うとそのまま数日とか数週間放置とかありますよね
つまり迷ったら書けばいいのだというあれ
無駄に時間を捨てるよりもとりあえずなんか作れと炎尾先生も言ってらっしゃる
この話をそのままあとがきに詰め込んで本編は別に書くという案もあった
けど一話分になったからもうこれで一話分てことでだしちゃいます
書けるものしか書けんのだ
あとのだのだ言ってるとハム太郎になりそうなのだ
へけっ

☆親しい女性が二人も居る状態でママンの後輩で結構年上な綺麗なお姉さんの家に夜中に同伴して(手当の為に)生足に触れたり、一緒に真夜中のお茶会をした挙げ句に抱きしめられて最初に感じる感想がやや汗臭いというものながらそれを口にしたりはしないデリカシーのかけらくらいはあるマン
でも実際性欲もあるマン
でもイクサのベルトが無いタイミングで押し倒してもなぁという計算が上回った
上回るものなのか……?
自分の脳作用を操作できて合理的に判断することを優先するとそうなってしまうのか
悲しい……もっとやっすい同人CG集か数ページのエロ漫画みたいに話が早い感じになってくれないと悲しい……
でもこのSSはライダーSSなので
戦闘力の向上と生き残り以外の部分で話が早くなる事はそうそう無い
平日夜から朝にかけて魔石の戦士特有の超感覚と餌の必要のない機械的獣型疑似ライダー軍団のセンサーを用いてミラーワールド内部で直接ミラーモンスター探索を行う
鏡から出たり入ったり、別の疑似デッキでの連続変身で探索時間の問題は解決できるのだ
毎日ではないので人間性も安心

☆知り合いの純朴そうな少年が恐ろしいほど迷いなく戦い人型をした生き物を殺してペットに食わせる様をまざまざと見てしまい、その後に優しい瞳で手を差し伸べられたイクサの人
なんか事情はあるんだろうけど、ファンガイアとの戦いとか戦士である事を隠している自分にはそれについて聞く権利は無いか
でも、あなたはひとりじゃないよ……みたいな事を態度で示したのかもしれない
既に一人じゃないけど別に本人も一人きりで戦い続けてるみたいな事を言ってる訳でもないのでセーフ
勝手に一人きりでも戦い抜ける戦い方を続けているだけなので
でも新世代の魔石の戦士達はベルトのお蔭で合理的な判断ができるので、魔石の戦士同士で連携を組ませるとやたら上手くコンビネーションを組んだりするので杞憂もいいとこ
目立たないと言ったな
あれは嘘だ
いや、嘘というのが嘘
次回から影も形も出ない
でも逆にタイミングを見計らうと今回のイベントは起こせるので怪我の手当という言い訳で家に押しかける事はできるぞ
龍騎編の羽休めポイント

☆息子から後輩の話を聞いて、ああ、この子も火遊びをするようになったんだなぁと安心するママン
息子の下半身事情が豊かになって親としてはひとまず安心
あれだけ物音を気にせずジルちゃんとか祝ちゃんとやりまくってるのにできちゃった報告が無い辺り何かしらの避妊はしているのだろうという点でも安心している
安心していいのかはママンのみが知る事なのだ
性欲なさそうな時期から考えるとやっぱり安心しちゃうんだろうなって

☆他に女を引っ掛けてるという話を聞いてもマイペースに調理技能を磨いていくグジル
書いておいてなんだけど自分にはこのキャラが何処に向かっているかはわからない
でも一人暮らしを始めたらお義母さんのご飯は食べられなくなって寂しくなるだろうから
自分がお義母さんのご飯を再現できるようになれば寂しさも和らぐんじゃないかなぁ
みたいな事も考えている……
なんだ良妻か

☆女子力の成長の兆しの兆しくらいが見え始めたジル
役に立とう、ではなくて、なんか楽しそうだし料理できたらこうじも喜ぶかな、グジルと一緒に料理できたら楽しそうだな、おかあさんと一緒に料理もしてみたいなとか
そういう発想から動き出す感じ
うん、書く頻度は少なくなったけど方向性は定まっている

☆飼い主のトップブリーダーぶりに思わず尻尾ぶんぶんしちゃうロードインパルスくん
ペディグリーチャムかモンプチか
いえ、私の家ではファンガイアを使っています!
魔化魍からは育ったり発生したりするのに必要な汚れ的な何かを食ってる
芯になる部分は食えないので魔化魍を完全に消しされる訳ではない
ファンガイアはなんかもう最初からエネルギーの塊!って感じでとても良い
エネルギー抜けた肉体もばりんばりん言って歯ごたえが良いのだ
実は口と言っても構造的に武器を保持する部位であってモノを捕食する口はないので、エネルギーを頭から取り込みつつ顔で死体を押しつぶして遊んでいるようなもの
歯ごたえ……?

☆通りすがりの一般ファンガイアくん(故)
イルカモチーフ
お約束としてどっかに鳥のモチーフが使われていたけど
おやつの細かいデザインを気にするブリーダーもペットもここには居なかった
真の名前とかもあったんだろうなと思う
ループ毎にうきうきロードインパルス君が主が食べやすい加工をするのを待って目を爛々に光らせて見詰めに行く
弱くも強くもない一般ファンガイア
イクサがあれば普通に倒せる程度
魂をロードインパルス君に食われているので復活不可
モチーフに困ったけど犬猫の餌なら魚系かなって
イルカは哺乳類?
ファンガイアはどちらにしても魔族なので

☆出番が無いクラスメイトの人
油断大敵なのだ
一緒の大学に行けるように毎日頑張ってるぞ!
そんだけ
まぁ主人公的には戦いに関わらない平和な日常を送ってほしいと思っているので出番が少ないのは良い事なんじゃないかなって
同盟相手のグジルは最近料理にハマっているので話題がそっちによりがちでイクサの人の話はあんまり話題に登らないから大丈夫なんだろうなーって思ってる
それでも身体の相性だけは日々着実に上っていっている



着実に遠距離から高火力を叩き込んでくるゾルダとか
堅くてトリッキーなカードを使うガイとか
数で対抗してくるインペラーとか
そういう連中を相手にする前に
腐るほど居るかもしれない野良を狩りに行くのは実際効率的
次回からはそうなる
今回の話は……まぁこういう寄り道回もあるという事で
オリキャラの話も今年のメイン敵でもないファンガイアの話もどうでもいいんだよという人には申し訳ない
今ちょっと謝罪の意思を込めた可愛いポーズを取るので許して欲しい
取った
すまなかったな、許してくれ(青空にホログラムで浮かんで両腕を組んで視線を逸しながら)
ヨシッ!
原作ライダーの契約モンスターからこじつけられない武装を出したりするのに野良を狩る必要も出てくる
主人公ではなく作者側の都合なのだ
でも原作とも少なからず絡むと思う
でも絡む余地のない話には全然絡まないのは許してね
龍騎編はわりと勢い重視なとこある
クウガ編までは面白かったって人も許してね
ぶっちゃけ成長をリセットして初期の苦しい戦いを続ける理由が作者はともかく主人公に無いので
新作でる度に前作の最強装備投げ捨ててる様な連作モノの主人公ではないのだ
捨てる必要がないものはいつまでも持ち続けるぞ
必死ではあるのだ
方向性が持つ力の強さで偏向しつつあるだけで
断捨離とか知ったことじゃないぜ
主人公的には最低でも十年はあると思っているだけで
十年を乗り越えても十年以降が無いとは思っていないのなら、強くなり続ける他無いと思いませんか

言い訳がましいあとがきではありましたが、それでも宜しければ次回も気長にお待ち下さい

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