オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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58 怪奇! 喋る盾!

極論になるのだが。

今年に行われるライダーバトル、ライダー同士の殺し合いというのはそれほど重要ではない。

最終目的はライダーバトルを勝ち抜いた強い魂を神崎優衣に与えることで延命を行うことなので、この生命を何処からか調達し、神埼優衣がそれを受け入れてしまえば見事にハッピーエンドに辿り着く事が可能になる。

そして恐らくだが、神崎優衣が自らの今の生態を把握して生き物の命を自発的に摂食し始めてしまえば、それでも解決する。

自らを人間であると認識した状態で既に十九年生きてきた人間に、まるで物語の中の吸血鬼の様に生き物の生気を吸って生きていくのを受け入れられるか、というのが一番のネックなのだが……。

 

それは俺の管轄外なので知ったことではない。

延命を条件にオーディンの全能力の詳しい解説を神崎士郎から受けられるなら神崎優衣の思考を無理矢理に書き換えるくらいはしないでもないが。

そもそも生き物を殺して食らう普通の生物と生気のみを食らうという摂食方法にどれほどの違いがあるのだろうか。

或いは生命エネルギーを渡すことで元の人間に戻す、或いは人間に近い状態に戻す事が可能なのかもしれないが。

そこは神崎士郎に何かしらの策があるのだろう。

少なくとも今は、俺の考えるべき事柄ではない事は確かだ。

 

そんな、究極的には餌か移植する内臓のオーディションの様なものでしかないライダーバトルに、気合を入れて挑む事はバカバカしい話なのだろうか。

いや、決してそんなことはない。

一般参加者の半分くらいは譲れない、命を賭けて戦っても叶えたい願いがある。

そして俺も、後々に全てを台無しにされないために戦っている。

 

しかも副産物がもうこの時点でものごっついやっばいすっごい。

異次元から理論上は無限にエネルギーを作り出すエンジンとかこれ一つだけで十数人を殺し合わせるだけの価値があるのではないだろうか。

契約モンスターにしても、他のミラーモンスターが消えたとして、ロードインパルスは残るだろうという確信がある。

なんなら念のために今よりももっと強いつながりを作って、テオスに対するエルロードの様なものにしておけば消滅の心配は無くなるだろう。

 

そして、デッキだ。

鏡世界に入り込む、というのも恐ろしい機能だが、そこはそれほど重要ではない。

デッキは鏡に向けることで現実世界にVバックルを発生させて変身を可能とする。

──では、このVバックルを発生させうるだけの鏡面とはどれくらいのサイズなのだろうか。

どれほど明確に鏡として映れば良いのか。

手鏡やペットボトルを持ち歩く必要があるのか。

 

まず、水面はセーフだ。

水たまりがあれば変身はできる。

実は、多少なら波が立っていても変身はできたりする。

つまり、水を持ち歩いていて、それが水たまり程度には残る環境であれば変身はできる、という事だ。

 

或いは、ストレートに鏡。

少し傷を付ける、かざす。

更に少し傷つけてかざす。

これを繰り返す。

或いは割ってヒビを入れてみる。

 

サイズはかなりの融通が効く。

そして、実はかなり映りが悪くてもVバックルは実体化ができる。

便利なものだ。

窓ガラスで変身できる時点でそのくらいの事はわかっていたが。

 

では、石ならどうか。

例えばピカピカに研磨された大理石の板。

これも行ける。

姿が映るのは知っての通りだし、道理には反しない。

 

では。

鏡面に姿が映っている、というのは、どういう事なのだろうか。

これは単純に光が反射した状態だろう。

では、光の反射とは鏡、鏡面が無ければ起こらないのか?

いや、そうではない。

光の反射は、鏡面などが無くとも常に起こっている。

空間が大気で満たされているこの惑星上において、俺達が目から得た視覚情報は全て複雑な光の反射によって成り立っている。

モノの色の見え方が違うのだって、その物体がどの色を反射しどの色を吸収するか、或いは透過するか、という違いに過ぎない。

つまり、光の反射自体は鏡が無くとも常に行われている。

言い換えれば、全ての存在は鏡とも言える。

これは別に、人と相対し何らかのやり取りがあった場合、その相手とのやり取りを通して自分が見えてくる、みたいな教訓話ではない。

物理的な、あくまでも物理的な話だ。

 

「つまり?」

 

「エレベーターが無くても、本堂の床板が比較的ピッカピカなら出れるんじゃないかなと思いまして」

 

ちなみに、ワックスがけをしたら鏡になる事は検証済みなので箒で掃き掃除、モップで水拭き、という程度に押さえてある。

普段から門下生の兄弟子達の手によって清潔にはされているのだが、改めて磨き直すと輝きが違う。

 

「……掃除をするな、とは言わないが、時間帯は選べ」

 

「外の修行場があるから大丈夫だって先輩たちが」

 

指さした先の兄弟子達が『あっ、バカ!』みたいな顔をしているが。

俺だって、やっていいと言われなければわざわざ本堂で試したりはしないのだ。

 

結局、なぜか俺も怒られた。

これが連帯責任とかいうものなのだろう。

理不尽とは言わないが、旧時代的ではないか。

 

あと、ピカピカの床から身体を半分出した時点で出ることも戻る事も出来なかったロードインパルスは、上から鏡の如く磨き上げた一枚岩を押し当てる事で難を逃れた。

仔犬の如く情けない鳴き声……にも聞こえる、きゅーん、きゅーんと電子頭脳が延々読み込みを続ける音を鳴らしたままもがいていたロードインパルスだが、今ではすっかり元気に野生動物を追いかけている。

もしも、あのままロードインパルスが赤心寺の本堂のオブジェになっていたらと思うと、ゾッとするね。

もう慎重に実験を繰り返さずにいきなり契約モンスターで試したりはしないよ(吹き替え風)。

 

そう、実験が必要なのだ。

鏡面と言えないような場所からミラーモンスターが全身を通常世界に出す事は可能なのか。

そして、Vバックルは大気を鏡面として利用する事で実体化が可能なのか。

 

少なくとも、後者には覚えがある。

表の世界の城戸真司と融合した鏡の世界の城戸真司は鏡を使わずに変身してみせたし、最終決戦においては通常の城戸真司や秋山蓮も鏡を使わずに変身している。

後者においては実は対面のビルのガラスにでも映っていた可能性が無いではないが……。

 

この問題が解決さえすれば、デッキの力はより幅広い場面で活用する事ができる。

無理だとしても、腹案として用意している、デッキを翳すと同時に展開する、映像の空中投影技術を利用した疑似鏡面での変身を試せば良い。

そこまでのテクノロジーを使わなくとも、小さく薄く硬い金属で作られたブラインドやすだれの様な物を持ち歩けば解決できる。

持ち運んでいるうちに擦れて鏡面でなくなってしまう、という問題は、アーメタルでも使えば解決する。

鏡面を持ち運ぶ事によるミラーワールドからの盗聴盗撮の心配は、すだれ状なら鏡面を内側にして巻けば良いし、ブラインド型なら小さな袋にでも入れれば良い。

もっと単純に、デッキと同じサイズのアーメタル製の鏡を作りデッキに括り付けれる様にすれば解決だ。

だが、鏡を外して前に放る、というワンアクションが命取りになる可能性だってある。

相手の眼の前で変身、などというのは本来ならば愚の骨頂も良いところだが、しなければならない場面を想定するのであれば、隙は少なくしておいた方が良い。

 

実験をしよう。

実験をしよう。

より強く、より便利に。

より先に、より鋭く。

 

野良のミラモンをひっ捕まえても良いが。

結構な時間を実験と休息に使ってしまった。

結局、夜の街を駆け抜けても野外で迂闊な食事をするファンガイアなどには出会えなかったし。

ここらで一つ、実験ついでにライダーを一人減らしてしまおう。

ロードインパルスにも、そろそろ新しい刺激が必要だと思う。

最近では野生の熊などを突いて誂う遊びも覚え始めたりと良くない傾向にある。

野生の熊の繁殖力と成長力はそれほどでもない。

食べられる内は、ちゃんとミラーモンスターを食べさせておこう。

 

ライダーバトル、再開だ。

 

―――――――――――――――――――

 

空高くに日が登り、薄っすらと雲が流れる空の下。

住宅街の中程にある公園で四人の男が睨み合っていた。

手ぬぐいを頭に巻いた男は城戸真司、仮面ライダー龍騎。

スーツを身に纏い人を見下すような雰囲気を漂わせる男は芝浦淳、仮面ライダーガイ。

黒い革ジャンに逆立てた短い黒髪の男は秋山蓮、仮面ライダーナイト。

そして、赤いジャケットを纏う深い海の様に底の見えない瞳をした男は手塚海之、仮面ライダーライア。

 

互いが互いを威嚇するように、或いは値踏みする様に睨み合う膠着は、芝浦淳がふいに嗤いながら顔を逸らす事で終わりを告げた。

 

「まぁまた今度にしとこうよ」

 

踵を返す。

芝浦淳にとって、ライダーバトルは楽しいゲームの一つではあるが、最優先するものではない。

いや、楽しいゲームであるからこそ、その楽しみを最大限に発揮する為に手を尽くすタイプであった。

努力家、という訳ではない。

しいて例えるならば、趣味人、だろうか。

凝り性であるが故に、手間をかけるのを苦労と感じないのだ。

龍騎の契約カードを奪い取り、しかし、即座に破壊して脱落させないのも、そんな龍騎の勤め先であるOREジャーナルを乗っ取ったのも、掌で相手が踊るのを楽しむため。

当然、この場を立ち去るに当たってただ無言で帰るつもりも無い。

適当に、クールぶりつつもお人好しそうなチンピラを誂うつもりで口を開こうとし……。

眼の前に突如として現れた鏡と、そこから顔を出す巨大な機械の顎門が目に入る。

懐のデッキに手を伸ばす、という思考に至るよりも早く、芝浦は仕立ての良いスーツの襟を噛まれ、鏡の中に引きずり込まれた。

 

唖然とするのは残された三人だ。

昼間の住宅街のど真ん中の、あまりにも大胆な拉致。

或いは公園のど真ん中に突如として現れた姿見サイズの鏡に対してか?

いや、違う。

 

「真っ昼間からイケメン四人の顔が近いだなんて、非生産的ですよ。同じ非生産的な行為ならライダーバトルをやりなさい、ライダーバトルを」

 

鏡の裏からひょっこりと顔を出した、黒い鎧、仮面ライダーらしき男。

このループにおいて、この男の事を知るのはこの場には二人のみ。

面識のない蓮は警戒心も顕に懐のデッキに手を伸ばす。

 

「お前もライダーか」

 

「陽炎、で通ってます。よしなに」

 

口調だけは恭しく、しかし顔すら向けずに陽炎は鏡の上端側面についたスイッチを押す。

すると、長方形の姿見にも見えた鏡はするすると上端の縁に巻き込まれ、長めの巻物程度のサイズにまで纏まってしまった。

 

「あなた方も注意した方が良いですよ。戦いのタイミングなんて、自分の都合が毎回通る訳でもありませんからね。逃げる様な奴の都合は特に」

 

「待て、奴を、どうする」

 

手塚の問いに、陽炎が心底不思議そうに首を傾げた。

 

「ライダーバトルに参加しておいて、それ聞きます? 安心して下さいな、ゲゲ……バトルは正常なルールの元に進行しますから、何の問題も無い。……でしょう?」

 

陽炎が足元をはらう。

何の変哲も無い公園の土の地面。

しかし何故か、陽炎が足で土をはらった後には、ガラスの様な鏡面が出来ている。

それに気付いてか気付かずか、真司が待ったを掛けた。

 

「ちょっと待てよ! ライダー同士の争いなんて」

 

「乱入するなら、試しにそこの占い師さんに占って貰ってからの方が良いですよ。良く当たるので」

 

陽炎が一歩を踏み出す。

小さく手を振りながら足元に出来た鏡面に吸い込まれるように落ちていく姿を追おうとして、陽炎が使用した足元の謎の鏡──高熱で融けた後の様にガラス質になっていた地面が、元通りの土の地面に変わっている事に気付く。

 

戸惑う蓮。

ライダー同士の戦いは、ライダーバトルにおいては当たり前だ。

自分以外のライダーが戦ってどちらかが脱落する、というのは、勝ち残る為であれば歓迎するべき出来事だろう。

それは蓮自身、自覚出来ていない感情だ。

容赦なく、それこそ、芝浦の如く遊びを交える事もなく、変身すらしていないライダーを容赦なくミラーワールドに引きずり込み、無理矢理に戦いの場に引きずり下ろす、その悍ましいまでの迷いのない殺意。

変身が間に合わなければ死ぬだろう。

仮に、今の一連のやり取りすら無く、即座に追いかけていたなら、変身を妨害するだけでライダーは一人脱落する。

実際のバトルがどういう形で進んでいるにせよ、自分たちはそういう戦いをしているし。

現実として、その様に思うまま戦いを続けるライダーが居る事が、証明されてしまったのだ。

 

自分が小川恵里を救おうと思うのであれば。

ああいう戦いすら受け入れなければならないのか?

 

「くそっ」

 

ブランクと化したデッキを手に走り出す城戸。

 

「待て! そのデッキでは無理だ!」

 

城戸を諌めながら追う様に走り出す手塚。

彼らの背をしばし眺め、秋山蓮は、迷いを振り切る様に走り出した。

 

―――――――――――――――――――

 

「なんなんだ、あいつ」

 

ミラーワールド内部。

自らをミラーワールドに引きずり込んだ四足のミラーモンスターに引きずられる様にして、ガラス張りの建物の多いビル街に連れてこられた芝浦は、咄嗟にデッキをガラスの窓に掲げてVバックルを実体化、変身を果たし、力任せにミラーモンスターの拘束を引き剥がした。

より正確に言えば、芝浦が変身を果たしガイになった時点でミラーモンスター──ロードインパルスは口を離していたのだが、それをガイは知るよしも無い。

生身のままミラーワールドに連れ込まれ、僅かに身体は消滅を始め、時速数百キロの速度で跳ねるように走るロードインパルスに地面や障害物に激突しないように引きずり回されたガイの息は荒い。

膝を付き、遠巻きに自らを眺めるロードインパルスに警戒しつつ、息を整える。

 

野良のミラーモンスターではないという事くらい、ガイには即座に理解できた。

野良であるのならばライダーである自分に察知できないはずがない。

何処かのライダーが契約モンスターを操り、戦いの場に無理矢理に引きずり込んだのだ。

そうでないなら、自分は今頃あのミラーモンスターに食い殺されているだろう。

いや、仮に野良でなくともそれはできたはずだ。

舐められている。

戦いの場に出しさえすれば倒せる、と踏んでいるのか。

 

ガイの腹の中で沸々と怒りが煮え始める。

ガイ、芝浦淳は感情を激しく爆発させるタイプではない。

御曹司として育てられた彼は感情をコントロール出来るように教育されていたし、動物の様に激しく喚く連中を単純に馬鹿だとすら感じていた。

だが、それは彼が無感情という訳ではない。

感情を激しく表に出すよりも先に、その感情を発露する原因をどうするか、という方向に思考が向く。

或いはそれは、これまでの人生で、理性による感情の制御を超える程の激情を抱いたことがないのも原因だろう。

 

「よし、よし。変身くらいは出来たみたいですね」

 

ガイの息が整うのを待っていた様に、黒い鎧、陽炎が姿を現す。

煮えたぎる怒りを、脳内で組み立てた眼の前のライダーを倒す為の想像で強いイライラ程度にまで抑えたガイが立ち上がりながら、デッキに指を伸ばす。

有る種のゲームとしてライダーバトルを捉えて戦略を組み立てているガイにとって、自らのデッキと変身後の姿は実に理に適ったものだった。

その他のライダーの様に、デッキからカードを抜いた後、別の装置を動かし装填する。

その工程の大半を省略する事ができる。

デッキからカードを抜き、手首のスナップで左肩のメタルバイザーに装填する。

速度が段違いであり、妨害が難しい。

案の定、目の前のライダーは妨害の素振りを見せる事すらできず、棒立ちのまま。

 

『ストライクベント』

 

契約モンスターであるメタルゲラスの頭部を模した格闘武器、メタルホーン。

鼻先の角はドリルであり、また、その頑強さからそのまま盾としても使用できる。

剣や槍のリーチこそ無いものの、単純な腕の延長線上として使える為、非常に扱いが簡単であるという点も大きい。

メタルホーンを装着した右腕でガイが殴り掛かる。

武術を学んだ人間の動きではないが、早く、迷いがない。

 

神崎士郎製の仮面ライダーシステムは装着者の身体能力を限界まで引き出し増幅する機能を有する。

それこそ、相手を倒すための技術を何一つ持たない素人だとしても、ミラーモンスターを倒す事は難しくなくなる程だ。

故に、一般的なミラーワールドのライダーによる戦いにおいて重要視されるのは、迷いの無さ、躊躇いの無さとなる。

願いのためであれば、他人を害する事への躊躇いを捨てる事ができる、抱く願いの強さが戦いの強さにそのまま適用される、と言ってもいい。

 

振るわれたメタルホーンの切っ先は迷いなく陽炎の顔面を狙う。

ミラーワールドのライダーは総じてスペックが高く、高い攻撃力を誇るファイナルベントを喰らい変身が解除されたとして、内部に致命的な破壊が齎される事はそうそう無い。

たとえ死んだとしても、内部の変身者の肉体は概ね原型を留める。

故に、まともな人間に振るえば頭部を吹き飛ばす程の威力を秘めた攻撃だとして、顔面に食らっても致命傷になる事はない。

が、だからと言って躊躇いなく顔面を狙うという行動は良識のある人間ならば難しいものだ。

これこそ、ガイの強さの一端と言えるだろう。

 

ちり、と、メタルホーンのドリル──ではなく、メタルゲラスの頭部を模した腕甲部分に陽炎のマスクが掠めた。

顔面狙いの一撃、陽炎が身体を左に逸し、前進。

がち、と、ガイのメタルホーンが陽炎の肩の上で、抱えるようにして掴まれた。

ぐるん、と、メタルホーンがガイの肘を支点に回転する。

 

「あ゛あ゛っ゛!」

 

喉が潰れたかと思う鈍い悲鳴。

メタルバイザーの存在しない右肩アーマーに接触する程に大きな円軌道で回転させられたメタルホーン及び前腕は、関節構造を無視するような動きに耐えきれず、だらんと垂れ下がっている。

いや、厳密に言えば力任せにへし折られた訳ではない。

肘の間接を僅かに外し、靭帯をねじ切るようにして外したのである。

少なくとも、見た目ほど派手に肘の骨格は砕けていないだろう。

それを元通りに戻せるかは別の話になるが。

 

皮膚と千切れかけの筋肉、そしてそれを守るグランメイルのみで繋がれ垂れ下がる右腕を、陽炎がすれ違いざまにそっと持ち上げ──回る。

掴んだ右腕を身体に抱えるように、ガイを背中合わせに持ち上げるように、しかし身体同士が触れ合う時間は僅か。

ガイの重厚な鎧に包まれた身体が宙を舞う。

一本背負いの変形か。

地面に叩きつける勢いは常人であれば背や後頭部を打って致命傷になるが、ライダーの耐久力があるためそれほど問題にはならない。

 

「───っ─────っ!」

 

だが、地面に背中から倒れ込んだガイは、呼吸すら難しい程に激しく悶絶している。

当然だ。

砕かれた肘から先を掴まれ、鎧のお蔭で重量級になった身体を勢いよく振り回されたのだ。

すれ違いざまに背後から投げられた為か肩の感触もおかしい。

肘から走る激痛が邪魔で肩が本当に痛いのかすらわからない。

ガイの視界は余りの激痛に激しく明滅している。

そんな明滅している視界が衝撃とともに白く染まる。

僅かに浮かび転がるガイの身体。

陽炎が倒れ込むガイの頭部を蹴り飛ばしたのだ。

 

「なかなか取れないな」

 

しゃ、と、陽炎がデッキからカードを一枚引き抜き、右腕のスリットに滑らせる。

 

『ストライクベント』

 

陽炎の左腕に装着されたのは、かつてシザースが使用していたシザースピンチにも似た巨大な鋏、バイティングシザース。

一回り大きく、鋏の外縁に何故かオレンジに輝く半透明の刃を持つそれを、がち、がち、と、噛みあわせを確かめるように鳴らし、振り下ろす。

何気ない動きだ。

前後の状況を見なければそれが攻撃とも思えない様な自然な動きで、巨大な鋏の切っ先が倒れたガイの喉元に振り下ろされる。

 

ざく、と、鋏が地面を抉る。

咄嗟にガイが転げて回避したのだ。

それは生存本能と呼ばれるものか。

或いはデッキによる変身機構に痛みを抑える機能が多少なり備わっていたのか。

ごろごろと転げるように距離を取り、立ち上がるガイ。

未だもって肘から、或いは肩からの痛みが脳味噌にガンガンと警鐘を鳴らしている。

だが、立ち上がらなければならない、という事だけはわかった。

それは闘争本能などでは決して無い。

命の危機。

本能の訴えかけるそれから逃れる為だけに、ガイは陽炎と相対している。

 

「自分のデッキを壊せばリタイアを認めてあげますが?」

 

「ふ、ざけんな」

 

「そう」

 

ガイもまた、何も考えずに提案を蹴った訳ではない。

単純に、ここまで人間を壊す事に躊躇いのない相手が、本気で降伏勧告をしているとは考えられなかったのだ。

勝機はある。

少なくとも、ガイの頭の中には。

 

「待て!」

 

そこに、エビルダイバーに乗って駆けつけたライアが制止の声を掛けてくる。

陽炎の意識が僅かに逸れ、ガイは残った左腕で素早くデッキから一枚のカードを引き抜き、肩のメタルバイザーに投げ入れる。

元は戦闘中に相手の虚を突く為に練習した方法だが、この土壇場でできたのは練習の成果か極限状態故の集中力からか。

 

『アドベント』

 

ごう、と、雄叫びを上げながら一体のミラーモンスターが陽炎に襲いかかる。

仮面ライダーガイの契約モンスター、メタルゲラス。

その全力の突進は4000AP。

実に200トンもの衝撃であり、シザースのファイナルベント相当の威力を誇る。

ガイはシザースと陽炎の戦いを知らない。

しかし、これで倒せない、という事だけは本能的に理解できていた。

大事なのは、一瞬でも自分から注意を逸らす事。

この場をまずは逃れる事だ。

 

アドベントにより呼び出されたメタルゲラスはガイと向かい合う陽炎、その背後にあらわれている。

背後からの不意打ち、ではなく、明らかに敵の呼び出したモンスターの雄叫びによる注意力の分散が真の目的。

更にガイにとって幸運な事に、この場で明らかに有利な陽炎を止める為に、ライアがエビルダイバーに乗ったまま陽炎へと突進を行っている。

見るべきは三点。

カードを使用する暇は無い。

 

陽炎が半身を背後に向ける。

ガイから視線が逸れた。

鏡はすぐそこだ。

逃げられる。

 

陽炎の視線の先、地響きの如き足音と共に突進するメタルゲラスが不意に横に逸れる。

物陰に潜み戦いを見守っていたロードインパルスの援護射撃だ。

数秒と掛からず戦車をスクラップにする弾幕に、メタルゲラスは砕ける事も無くただ進路を逸らすのみ。

火力不足か。

違う。

援護射撃は意図的に、メタルゲラスの進路をずらしただけで中止されたのだ。

 

契約が切れてなお主の為に動くミラーモンスターの如く。

いや、それと比べてもなお異質な、通常のライダーとモンスターのそれとは根本から異なるつながりがロードインパルスと陽炎にはある。

 

ぐ、と、左腕のバイティングシザースを、引き絞った弓につがえる矢の如く構え──振り抜く。

フック気味の一撃。

鋏で噛み砕くでもなく、外縁のクリアオレンジの刃で切り裂くでもなく、閉じた鋏の先端が、全身の筋肉をねじる様にして絞り出された力により、僅かに横に逸れたメタルゲラスの横っ面を打ち据える。

めき、ごき、と、メタルゲラスの装甲が拉げながら、突進の勢いのままに宙を舞う、いや、飛ぶ。

バットで打たれたボールの如く跳んだメタルゲラスが、錐揉みしながら向かう先に、ビルのガラス窓に向けて全力で走るガイ。

 

激しい衝突音。

それに目も向けず、メタルゲラスを打ち据えた勢いのまま一回転した陽炎が、左のバイティングシザースでライアの乗るエビルダイバーを掴み取る。

投げ出される様に吹っ飛ぶライアがその勢いを載せた蹴りを陽炎の頭部に打ち込めば、僅かに蹌踉めいた陽炎はバイティングシザースで掴んだエビルダイバーでライアをはたき落とす。

それすら予知していたかの如く、ライアはぐるんと宙返りと共に地面に着地し、ファイティングポーズとともにエビルバイザーを構えた。

 

「占いはしましたか?」

 

「未来は変えられる」

 

「今日の占いは当たりますよ」

 

問答を叩き切る様にエビルダイバーを投げ捨てた陽炎が左腕のバイティングシザースを盾の様に構え、外縁のヒートブレードを押し当てる様に突撃。

距離は短く、しかし、疾い。

が、ライアはそれすら見えている様に身を躱す。

触れ合う様な距離。

陽炎の右の裏拳。

斜めに構えたエビルバイザーで逸らす。

受け止めたならエビルバイザーが砕ける未来が見えているかの如く。

 

「すごい的中率だ。もっと自信を持っていい」

 

逸したエビルバイザーの下に潜り込む様な小型爆弾投擲。

 

「今日は外れる」

 

「ご謙遜を」

 

はたき落とす。

偶然か?

叩かれた衝撃から小型爆弾は誤作動を起こし、爆発せずに地面に落ち、分解された。

 

「乱入者が居なければ、今日の脱落者は一人で終わり」

 

いつの間にかバイティングシザースを外した左腕による喉狙いの突き。

鋭く疾い。

右腕のアーマーで受ける。

まるで油粘土の如く削り取られた。

 

「助けが入れば、0人だ」

 

「嘘はいけない」

 

ブレストプレート──エビルチェストを袈裟懸けに斬る様な手刀。

同時、背後からの刺突。

いつの間にか陽炎の右肘にビーストマスターソードの柄が接続され、蛇腹剣と化したその切っ先がうねるようにライアの背後を取っている。

動かない。

エビルチェストの前が切り裂かれ、背骨を貫かんと背後から刃が侵入し、止まる。

 

「参加者が増えれば、犠牲者も増える」

 

「だが、殺されてはいない」

 

殺されるだろう、という場面は幾つもあった。

自分が殺される未来を避けて生き残る未来を狙って動いた。

だが、その中で見えた追撃で死ぬ未来は訪れなかった。

 

この男は、自分を()()殺さない。

それが如何なる理由かは知らないが。

 

「集団リンチは怖いのでね」

 

断末魔の悲鳴。

 

「予定通り、一人脱落」

 

ライアが視線を陽炎から逃げたガイに向ければ、そこには無数の機械の獣の群れ。

何かに食らいつく様に顔を一箇所に埋めたそこに、同じく無数の機械の獣に持ち上げられたメタルゲラスが投げ込まれる。

いやいやをするように身体を捩っていたメタルゲラスも、獣の群れの中から泡の様な何かが溢れ出てくるのを確認すると、項垂れる様にしてそこに顔を差し込む。

 

「遅いか早いかの違いです」

 

とん、と、ガイの脱落を目にして脱力したライアを掌で押し、距離を取る。

陽炎の隣にロードインパルスが歩み寄り、口から何かを吐き出した。

それは、ガイが奪っていた龍騎のアドベントカード。

ミラーワールドに溶けるように泡がまとわりついているが、当然、ミラーワールドでの運用を前提に作られているカードデッキがミラーワールドで溶ける筈も無い。

カードを受け取った陽炎はそのカードを数度振り、泡が出なくなった時点でライアへと投げ渡した。

 

「城戸さんを無駄死にさせなかったのでしょう。ええ、それだけでも良い判断だと思いますよ。……彼はムードメーカーだ、近くに居れば、精神も安定する筈だ」

 

「お前は……何をさせるつもりだ」

 

「ライダーバトル。短期的にはね」

 

力なく膝をつくライアに視線すら向けず、ロードインパルスに跨る。

既にライアに陽炎を追おうという気力はない。

それを慰めるつもりか、ロードインパルスを走らせる直前、僅かに振り向く。

 

「ライダーの戦いを止めたければね、終わらせればいいんです。進めて、終われば、何もかも解決できる。なにせ勝ち残れば願いは叶うんだ。ほら、これを願いにすれば全部解決ですよ。いやぁ、素晴らしい名案じゃあないですか。そんなところで、さようなら」

 

ライアが顔を上げると、背中越しに手を振りロードインパルスに乗って去っていく陽炎の後ろ姿のみ。

──あらゆるライダーがそうである様に、陽炎の顔もまた仮面に隠れて読み取る事はできない。

だが、それだけを口にして手を振り去っていくその姿からは、どうしようもなく、無邪気な笑顔だけが連想された。

 

 

 

 

 

 

 




やぁみんな!
ぼくの名前は、本編書いてる途中に、これ何処かで注釈入れなきゃな、と思いつつ、本編書き終わってあとがきに入る頃には何を書いておくべきか完全に頭の中から抜け落ちてるマン!
有る種の健忘症なんだ!
よろしくね!

たぶんこの自己紹介に似た弁解を既に何度かしてるけどきっと忘れてる
まぁ忘れてしまったのなら大したことではないのでしょう


☆未確認生命体二十二号改めライダーバトルエンジョイマン
ライダーバトルに使用されてるあらゆる技術が大好きでたまらない
こんなすてきな技術を無料で提供してくれる神崎士郎さんは素晴らしい人なので勝ち残れたら人一人の延命くらいなら請け負わないでもない
なお断られたら予定通り叩き潰す
クウガ編とかアギト編を読み返すととても同一人物とは思えないぞ!
ストレス貯めるパートの人格とストレスを発散するパートの人格を同一視する方がおかしいのではないかという疑問もある
ライダーバトルも一種のゲゲルなのではというあれがあるので偶に良い間違いそうになるけど言っちゃえば人生はゲゲルなのではないかという思考に辿り着くと不味い
でもこの世界では生き残る事がゲゲルの一種なのであながち間違いではない
出した武器のAPとかGPとか出したいけどモンスター食わせる中で変動してくのでいちいち書く意味が薄いの悲しい
現在虚空からミラーモンスターを出す、Vバックルを虚空から出すの二種の技術を研究中
初手でガイの右腕を破壊したのはいかにも取ってくれと言わんばかりにでかい装備で動かしにくくなった腕を差し出されたから
コンファインベントは面倒そうだし、素手で戦われたら面倒そうだなとは感じた
ホモに厳しい
この世界は朝八時からの派生なんですからね!
なお私生活

☆人型ガードベント
実際ビデオパスで本編見ながら書いてるんですけど、割りとアーマーの保護部分が大きいので胴体にある急所を狙うよりもまず腕なり脚なりを潰すのが上策
首まわりすらがっちり装甲があるため急所狙いが難しい
が、火力はない
強さの秘訣は頭の良さとかデッキの良カードとかではなく、ライダーバトルへの躊躇いの無さ
普段から部員に殺し合いとかさせてるだけあってそこら編の罪悪感から攻撃が鈍る事が無いのは、一般人揃いの13ライダーの中においてはかなりの強み
が、躊躇い無く生き物を殺せて武術を学んで実戦経験を積んでる相手に敵うかと言うと……
最後はいろんなサイズのヘキサギアに集られてアーマーの無いグランメイル部分を押しつぶされた挙げ句デッキを破壊されて変身解除
消えそうになっているところをメタルゲラス君に介錯された
たぶん装甲の構造上背後に回ると盾に使いやすい

☆メタルゲラス君(鹵獲)
この後滅茶苦茶連行された
現在は主を殺した機械の獣の主である陽炎にめっちゃ敵対的
くっ殺状態
なおポックル

☆めっちゃ善戦した占い師さん
占い師だからね……
コイン占い以外に水晶を使ってみたり五円玉に紐を通したりする
いろんな占いがあるんだね
だから戦いの中で短期的に無数の未来を占って取捨選択して予知能力者の如き戦いができる
予知能力者なんじゃないかって?
どうなんです?
マラークの皆さん
あ、首を振ってますね、セーフです、セーフ
エルの人はじっと見てますが、まぁ、本人占い師って言ってるし……もう肉体無いし……みたいな顔してますね
きっとサバ占いとかもできる
屋外のテラスでれんちょんを見つけた時は、ようやく大物が釣れたのう……みたいな感じだった
コートと帽子をつけた疑似ライダーは、池の中からB級映画のメガロドンが出てきたみたいな気分

☆キッドじゃない方のキッド
カメンライド!
して付いてきた場合、無数のヘキサギアの群れの中をブランク体で突っ切る罰ゲームが待っていた
変身しようとした瞬間に占い師さんに当身とか食らって気絶
まぁアドベントカードは戻ってきたから……

☆自分がやろうとしていることを躊躇なく実行に移す相手を見てしまったれんちょん
よ、ようかいなのん、あれは、人間でもライダーでもないん……
でも、うちもあれしなきゃ、えりりんが……
という精神状態をホモ特有の察しの良さを持つ占い師さんに見透かされ、当身で気絶したキッドを押し付けられて参戦を止められた

☆時期的に外での鍛錬も難しくないので本堂で何かやるならやってみても良いぞ。ただし!何かおかしな真似をしないように、我々が監視をさせてもらう!(テカテカしながら)
そんな兄弟子ズ
めっちゃ掃除されてピカピカになった本堂床に感動すると共に、そこからせり上がるように実体化を初めたロードインパルスに歓声をあげる
が、途中で詰まって仔犬みたいな鳴き声を上げ始めたロードインパルスをみて慌ててしまい、何故か義経師範に助けを求めに行くというウルトラCをかましてしまうのであった

☆驚くほど情けない鳴き声を上げて身じろぎするロードインパルスを見て、流石に強く怒れなかった師範
物理的に強いやつほど心というかその現れである笑顔は優しい、たぶん
きっと心根は優しいのだ
呆れたとも言う

☆もう鏡面以外からの実体化は懲り懲りだーい!って感じのロードインパルスくん
戦闘になれば何事も無かったかの様に主の意図を汲んで援護射撃とかしてくれる
いつもより連携ができていたのは、自分以外に主の提案する実験を引き受ける身代わりが早急に必要であることを実感したから
目元、というかカメラアイはあるので、そこに液晶を搭載して××とか^^とかをやる案もあったが、やはり感情表現は身体と駆動音とか内蔵した機械の動作音で行うべきだというこだわりを残しておきたい
来年に出てくるスマブレ製バイクにその要素は残しておきたいという理由もある
スマブレ製バンディットホイールとか……
ここまで書いておいてなんだが実際にそういうバイクを出すかは未定
人格ありバイクなんて出したら実質オリキャラ増やすようなもんだしね



日和ったと思われるかもしれないけれど
実はガイをがっつりファイナルベントなりで殺した後
龍騎、ナイト、ライアと三対一で戦う案もあった
三人と対峙して、続く、みたいな
でもそれだとオーディン前に残るのがインペラだし
龍騎編やるなら出してぇぇぇぇもやらないといけない(強く強固な使命感)し
メイン級の三人を撃破……殺してしまう事に対する反応も怖いし
でも最終的にこれまでの対戦成績みたら集団リンチしなきゃってなるからいつかは書かないと
難しい話です
難しくても書きたいから書くのですが
あと寄り道もしたい
キバ劇場版の限定アイテムはこの時代でも普通に存在しているから取りに行こうと思えば取りにいけるだろうとか
そうすればループの中でレジェンドルガを何度も食べさせられる上に後々キバの時に劇場版どうするか悩まずに済むし
屋久島とか日本各地の田舎で鬼の戦いを見物したりディスクアニマルの残骸をせっせと拾いに行ったり
戦いの合間に年上のお姉さんとデートしたり
難波さん、もうそろそろ勉強会初めないと……みたいな話をしたり
ジルと一緒に料理の勉強をしたり
母さんこのバイクめっちゃかっこいいけどどこのメーカー?!海外?!海外か……(しょんぼり)したり
そういう話を隙あらば話の隙間に挿入したい
無理のない程度に
でも原作主人公達とどっちが死ぬかの戦いの中に挟むのはテンションがおかしくなりそうで難しい
そういう展開でもよろしい、試しに目を通してみようじゃないか
そんな感じの人もそうで無いけど見続けてみようという方も
次回を気長にお待ち下さい

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