オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

62 / 206
61 タッチダウン

ミラモン狩りと魔化魍狩り、ついでにファンガイア探索のみを続け、ライダーバトルを放置してしばし。

日々の生活の中に適度な戦いを置きつつも、時間は平穏に過ぎていった。

いや、日常生活の中に限れば多少の騒ぎもあったのだが、些細な事だろう。

六月に迎えた衣替えにより、学校では男子女子ともに肌の露出が多くなった。

それに伴い、難波さんの首筋やら太腿やら二の腕やら鎖骨やらに出来た虫刺されの様な赤い謎の印(淫紋ではない)が発覚し、女子の間で色々と弄られ倒していたらしい。

幸いにして何かしらの陰湿な嫌がらせの類は起きず(ミラーワールドのヘキサギア越しにチェックした)に、いわゆる思春期の少年少女らしい戯れ程度に収まっている。

その過程で、事前に難波さんと話し合った通り、ハッキリとは言及しないものの、俺が難波さんの()()()であるという事を匂わす事で事態は比較的穏やかに収束した。

 

中村くんだけは喫茶店でハムサンドを頼んだ人を無闇矢鱈と疑う少年探偵の如く推理を続ける表情をしていた時期もあったが、何日か掛けてこちらに探りを入れてくるような会話を重ねた後は何かを察した様な顔でその話題を出さなくなってくれた。

中村くんは中々の頭脳派だが、空気を読む機能を搭載しているらしく、唐突に有る種の話題から離れる事がある。

いわゆる事なかれ主義というものなのだが、こういう世界では深く物事に踏み込まない姿勢は生存率が高いので好感が持てる。

十年後くらいに同窓会でも開こうものなら半分くらいは居なくなっているか別人むしろ別種族になってそうなこの世界では貴重な人材だ。

一時期、親戚の兄ちゃんの入っていた研究室で大事故が起きてしまった事を嘆いていた時期もあったが、『こういう時は変にフォローを入れるとそれに応える為に更に気を使ってしまうから、放って置く方がいい』という意見は、真っ当ながら中々言えるセリフではない。

例えるなら一年戦争後にジャーナリストになるタイプの才能がある。

でもジャーナリストもこの世界では死亡フラグなので止めておいた方が良い。

特にモバイルネットニュース配信系の会社は駄目だ。危険というのもあるが遠くない未来で潰れる会社も多い。

死にはしないけど職もない、というのも良い状態とは言えないしね。

 

と、まぁ。

そんな余計な事に思考をざっくりと分ける事ができる程度には優しい時間が過ぎていた。

思わず影の世界もとい鏡の世界の出来事など忘れてしまいそうな程だ。

もっぱらの悩みと言えば、気温が高くなり薄着をしても違和感が無くなってきた為か、難波さんの服装がやや際どくなりつつある事くらいか。

去年のクリスマスの時のそれに近いか、或いはそれを過去のものにする程のスケベ下着は俺たち未成年の交合に使うにはいささか刺激が強いと思う。

イクサの人の家にも無かったぞ、あんなの。

 

それに、勉強会をすると言いつつ、家に来て部屋に入って落ち着いた頃合いで唐突に色々な所をチラ見せして来るのはどうなのか。

それだけならはしたないと注意すれば良いのだが、やってる本人が普通に恥ずかしそうにしているのはズルいのではないか。

難波さんはあざとい。

それ自体は悪いことではないのだけれど……。

他所でやられるとなんだか悔しく思う自分も居るので、行為中にしっかりと忘れないように脳がぼうっとしている時に繰り返し、他所ではやらないように注意しておいた。

もちろん、いつか俺みたいな間に合わせの相手でなく、本命の相手が見つかった時は別だけれど、その部分だけ口にしない程度の事は許されるだろう。

 

そんな、平均的な男子高校生としての日常を謳歌することしばし、俺は奇妙な事に気がついた。

タイミング的には死んでいると思われた占い師の人が、何食わぬ顔で生存しているのだ。

では、新聞記者見習いの人が代わりに死んでいるのかと思えば、そうでもない。

 

実際のところ、占い師の人の戦闘力は高い。

それはこの間に少しじゃれた時に確認している。

真っ当に戦った場合、そして俺が参戦していなかった場合、彼はライダーバトルで最後の一人になれる可能性がとても高い。

が、俺の知る限り、占い師さんがその恵まれた戦闘力を完全に発揮する機会は無い。

そもそもが、彼は戦いに積極的ではない。

誰を押しのけてでも勝ち残り叶えたい願いが無い。

彼を動かしているのは過去に対する後悔だ。

だから、神崎士郎に少し唆された程度で迷いが生まれる。

 

願いを定めたのだろうか。

だとすれば良いことだ。

明確な目標もなく戦いを続けるというのは辛い。

血を吐きながら続ける悲しいマラソンなぞ好き好んで続ける必要はない。

ただ参加資格を持って戦いに紛れるのと、明確な目的を持って戦いに挑むのは、ハッキリと違う。

きっと神崎士郎も喜んでいる。

全体のモチベーションが上がるのは運営側としても喜ぶべき事だ。

 

が、解せない事もある。

手塚海之が生き残っている。

しかし、その他のライダーの脱落者も無い。

新聞記者も、浅倉も、共に健在だ。

 

浅倉と手塚がライダーバトルを行ったのは確認している。

ロードインパルスに送られたハイドストームの交戦ログにもそう記されていた。

カード使用履歴にも、ソードベントとファイナルベントが記録されていた。

シュートベントもアドベントも使っていないのは、まぁ、浅倉の戦闘スタイルだから仕方がないにしても。

ベノスネーカーに比べれば地味めではあるが、ハイドストームのファイナルベントだってライダー一人を殺傷するのに不足が有るわけでもない。

 

……死んだけどオルフェノクとして蘇った、とか、死に際でアギトの力に目覚めてどうにかなった、とか、本人は死んでるけどワームが擬態して戦いを続けている、とか。

意外なところで、未来に記憶を持ち越した誰かの願いでイマジンが横槍を入れた、とか。

思いつく限りでも色んな可能性があるのが、この世界の難しいところだ。

明らかに歩き方が以前と異なるので、無傷という訳ではないと思うのだが……。

 

さて、殺しそこねたとはいえ、浅倉は占い師さんと戦い、そこからしばしの時が過ぎた。

ライダーバトルに干渉こそしていないが、神崎士郎が大洗海岸でコートの裾をビシャビシャにしながら物思いに耽っているのも確認したので、そろそろだろう。

あの、どういう理由で表に出てきたかわからないオーディンの初顔見せ。

一度で捕獲できるとは思っていないが、チャンスというのであれば、手を出さない理由は無い。

 

―――――――――――――――――――

 

未遂で終わったらしい占い師さんの脱落もオーディンの顔見せのタイミングを測る目安ではあるのだが、実はそれよりも明確にオーディンの出現タイミングを図りやすい出来事が存在する。

もちろん、最初に顔を見せた理由が不明である以上、この出来事がリンクしていないという可能性もある。

しかしそこはそれ、監視はヘキサギアや、表の世界にばら撒いた自立ドローンを経由して行える。

あとは適当なタイミングで現地に赴けば良いというのだからそう手間も掛からない。

 

そして場所は更にハッキリしている。

東京都は調布、西町に存在する、後の味の素スタジアムこと東京スタジアム。

完成後も調整と改良を続ける疑似デッキを持つ、そして当然変身済みの俺の耳には、既にナイトの人が発生源と思しき戦闘音すら聞こえてきていた。

 

ミラーワールドの中をロードインパルスのビークルモードで駆け抜けスタジアム手前で止め、内部へ堂々と侵入。

サメ型、というより、サメモチーフのミラーモンスター、アビスラッシャーを相手に苦戦を演じているナイトを遠目に、巻物型の携帯姿見を地面に設置。

これに飛び込む。

すると、どういう理屈か落ちた勢いをそのまま反転させるように表の世界の同位置から出現できる、という寸法だ。

 

ここで、ミステリー。

俺は確かにミラーワールドから出てきたというのに、俺が出てきた足元を見れば……鏡がない。

怖いなー怖いなーと、季節にピッタリの感想を心の中で呟きながら、ナイトの戦いを観戦する三人組を発見。

三人はどういう集まりだっけ?

どうということも無い集まりなので特に気にする必要も無し。

スーツの保護色機能を更に発展させ、外付けの全身装甲に移植。

戦闘用の装甲としての強度は低下したものの、ゆっくり動く分にはじっくりと焦点を合わさなければ見つけられない程度には視認性を低下させる事に成功したこの傑作装置を利用し、ゆっくりと三人組の背後に近づく。

 

太腿の装甲から短剣を引き抜く。

引き抜いた短剣の刀身が静かにバラけ、頑丈なワイヤーで繋がったまま、ゆっくりと三人の首元に近づき──

 

「だーれだ♡」

 

ひた、と、刃を触れさせると同時に、迷彩を解く。

三人組からすれば、ミラーワールドの戦いをじっくりと観戦していたら、いきなり背後にライダーが一人現れて首に刃物を突きつけられた、という状況なのだが、如何だろうか。

日々気温も湿度も高くなりつつ有る昨今、その熱さも忘れる様な涼しさを堪能できたのではないだろうか。

鏡の中で一人水浴びを楽しんでいるナイトの人に負けず劣らず体温を下げられたと思うのだけれど。

 

「!」

 

三人組の中で一番早く反応したのは、後のフルーツパーラー経営者、或いは秘密組織ゼクトの結構偉い人……にそっくりな弁護士秘書の人だ。

生身での格闘戦において結構な練度があるらしく、弁護士の人の代わりにゾルダに変身した際にはそれなりに銃器も扱ってみせた辺り、結構アウトローな生き方をしてきた人なのかもしれない。

だが……。

 

「よしよし、自分がどういう状況かは理解できているようで」

 

既にその首には、分裂した刀身が蛇の如く巻き付いている。

そしてそれは何も、秘書の人に限った話ではない。

新聞記者、城戸さんの首は言わずもがな、二人の間に居た年端も行かぬ少年にも言えることだ。

この短剣、ビーストマスターソードは本来は長剣であるところを短剣にまで縮める事ができる格納技術と取り回しの良さ、換えが幾らでも利く安価な構造が売りではあるが、それでもライダーの装甲を切る程度の切れ味は確保してあるのだ。

生身の人間の皮膚や肉となればどうなるか、なんてのは説明するのも野暮な話だろう。

 

「お前……どういうつもりだよ!」

 

「どういう、というと?」

 

首をかしげる。

すると、城戸さんは信じられない、という表情を一瞬見せた後、憤慨する様に叫んだ。

 

「いきなり人に刃物を向けて……こんな子供にまで!」

 

「んんぅ?」

 

おかしい。

記憶違いだっただろうか。

現状への認識が間違っているのか?

 

「だってその子、ライダーバトルへの参加希望者でしょう?」

 

く、と、分裂した刀身で出来た輪の内、少年の首を取り囲む物を狭める。

これは刀身とワイヤーに超小型の駆動系が仕込まれているなんていう話ではなく、ただの念動力によるものだ。

モーフィングパワー、赤心少林拳、アギトの力、神崎士郎由来の科学技術。

今では色々と手札も増えたが、念動力、超能力との付き合いが一番長い。

下手なギミックよりも精密に、文字通り手足の様に緻密に動かせる。

刃でもって首の皮に触れ、その下から僅かに浮き出る血管をふにふにと押して見せたりも容易だ。

こうなっては、もうこの少年は一歩たりとも動けず、身じろぎすら出来ないだろう。

 

「だからってお前、こんな子供に!」

 

「勘違いしないで欲しいんですけど、別にここで殺すつもりなんてありませんよ。ただ」

 

ただ。

 

「この刃物は、ライダーに変身した状態でも、人を殺せるだけの力が有るわけで。ここで変身できたとして、仮に既に変身していたとして、戦うなら、結末は変わらないんですよ」

 

「変わらない……?」

 

「まぁ、努力次第で変わるかもしれないけど……少なくともこの少年にその目は無いよ。うん。城戸真司さん、あなたが彼にデッキを渡すというなら、まぁ、それはそれでいいんじゃないかな」

 

活発そうな見た目をしているし、運動は何かしらやっているのかもしれないけれど。

種族が違うから筋力が違う、みたいにも見えないし。

背丈から換算した手足の長さは子供相応で。

武術の心得が有るようにもみえない。

もちろん、城戸さんの様に異様な戦闘センスがある可能性も無いではないだろうけど。

 

「この子の方が殺しやすそうだ」

 

ちょろろろ……、と、水が漏れる音が聞こえる。

臭いは気密の関係上鼻に届かないが、網膜に投影されたデータによればアンモニアを始めとする各種成分を含む蒸気が検出されている。

顔は涙で、鼻水でぐしゃぐしゃに濡れている。

叫びだしそうな表情なのに必死に声を抑えているのは、大きく体を動かした瞬間に首が落ちると思った体の方が抑え込んでいるのだろう。

 

もういいか。

しゅる、と、全員の首を取り巻いていた刀身を戻してやると、少年は手に持っていた龍騎のデッキを投げ捨て、脇目も振らず一目散に逃げ出した。

あまりに勢いよく走った為か一度転びかけるも、そのまま立ち上がることすらせずに手も脚の如く使い必死に逃げていく。

うーむ。

心温まる光景だ。

自らの生命の危機に際し、他の何も投げ捨て生存への道をひた走る命!

それでこそというものだろう。

 

特に必要に駆られるでもなく、かっこよく変身して戦いたい、という理由での変身は危険だ。

今のちょっとした脅しにニヤリと笑ってみせたり、突如として恐るべき超能力を発現させてビーストマスターソードを粉々にしたりするなら、それはそれで普通に敵として処理したが。

 

あの程度で逃げ出す程度の憧れに何の価値もない。

殺して得るものも何もない。

事故なり病気なり寿命なりで地味にひっそりと死ぬが良い。

まぁオルフェノクにブスリとやられたりファンガイアにブスリとやられたりワームに成り代わられたり魔化魍の餌になったりという可能性もあるがそこは知らん。

嫌なら頭脳なり体なりを鍛えて自衛すればよろしい。

自衛してる連中はみんなやってるからな。

俺もやったんだからさ。

いや、俺と同じやり方されると覚悟の決め方次第で容易く追いつかれる可能性があるからやってほしくはないが。

 

「……俺、送ってきます」

 

しばし、秘書の人が俺を睨むでもなくじっと見詰め、そう言って駆け出した。

非難の一つもされるかと思ったのだけど。

不思議ちゃんの思考は読めんな。

さて。

 

「デッキは無事ですか?」

 

あのガキ、恐怖に任せて割と勢いよく投げていたけど。

デッキの強度もな……まちまちというか。

保護ケースに入れたスマホくらいの強度の時もあれば、ガラスかなってくらいの時もあるし。

やっぱり最新の疑似デッキの如く、とにかく強度を上げる方向性にしたほうが生存率は上がると思う。

神崎士郎的にはライダーバトルの回転率を上げるためにデッキの強度は柔めにしているんだろうけども。

 

「ああ。……なぁ、あんた」

 

「はぁい?」

 

投げ捨てられたデッキを拾い上げた城戸さんも、何かもの言いたげな表情で見詰めてくる。

なんで皆、ハッキリと言葉にしないで眼と眼で通じ合おうとするのだろうか。

眼と眼を合わせても別に好きだと気付いたりしないぞ。

俺の好みは年上の綺麗なお姉さんだから、お前らミラーワールドのライダーの様にホモではないのだ。

 

「……いや、なんでもない。今は」

 

鏡にデッキを向け、変身の掛け声と共に、城戸さんが仮面ライダー龍騎へと変身を果たす。

見れば、俺がクソガキをジョバらせている間にナイトは水浴びを終え、病人が大砲を構え、脱獄犯がウキウキと刃物を振り回している。

そこに駆けていく龍騎。

 

うん。

そう、今は、こっちの方が断然大事だ。

残りのライダーがほとんど揃っているのだから、取り敢えず絨毯爆撃がセオリーだろうが……。

とりあえず、まずはお顔を拝見と行こう。

 

―――――――――――――――――――

 

ミラーワールド内、東京スタジアム外縁部。

そこに三人のライダーと、二人の疑似ライダーが集っていた。

当然、ただなんとなくで屯している訳ではない。

各々が武器を、或いは拳を構え、今にも誰かが動き出すかという張り詰めた空気。

中には獲物を前に舌なめずりをするように、刃を振るうまでの時間を楽しんでいる者すら居る。

 

「やっぱり、戦いは良いねぇ……」

 

疑似ライダー、ストライクに変身する浅倉が恍惚とした声と共に、デッキからカードを一枚引き抜き、右腕の腕甲にカードを滑らせた。

 

『アドベント』

 

召喚されるのは、疑似ライダー、ストライクの契約モンスター、ハイドストーム。

浅倉の観測用に作られたとも言える疑似ミラーモンスターであるが、そのAPは高く、ドラグレッダーにすら比肩する。

イカを思わせるシルエット、八本の脚には銃器や刀刃を備え、自立ドローンの分離、浮遊能力など幅広い能力を持ち合わせるハイドストームは、サポーターとしても攻撃手としても非常に優れた力を発揮する。

だが、これは全てのライダーに言える事なのだが、アドベントは使い得のカードとは言い難い。

ライダーの力の源であり、これを破壊された場合、契約するライダーは再び元の無力なブランク体に戻されてしまう。

ファイナルベントを除くカードの中では最大火力にして、単純に連携の取れる味方を増やせるという利点に釣り合う程度にはリスキーなカードだ。

 

「はぁ……」

 

高揚と共に、浅倉は再びカードを引き抜く。

ファイナルベントだ。

浅倉に躊躇いというものは無い。

 

対する龍騎、ナイト、ゾルダが未だカードを使用していないのは、選択の幅を広げる為と言えるだろう。

最大火力に対して身構えるまでは行くものの実際の対応に迷う、というのもあるが、場合によっては自力での回避、というのも選択肢に含まれる以上は悪い判断ではない。

基本的に、ファイナルベントをガードベントで防ぎ切るのは難しく、ファイナルベント以外のカードで相殺するのも現実的ではない。

比較的APの低いシザースのファイナルベントですらAPは4000。

実に200トンもの威力を備えているのだ。

 

しかし、その威力が十分に発揮されるには幾つもの条件が必要になる。

一点集中のキックであればその蹴り足一点に収束し、広範囲に拡散するのであれば面積ごとの威力は低くなる。

追尾する機能を備える、或いは使用者の技術で追尾するなどが可能な場合もあるが……。

一般的に、高威力のものであればあるほどその軌道は直線的になる傾向がある。

 

重い盾で受け止めるより、見極めて回避する方が生存率は高いのだ。

無論、ここでストライクのファイナルベントが追尾性能の高いものであれば、この場の誰かは退場することになるが。

 

しかし、この場に居る戦士の中で、一人だけが何の構えもせずに、ストライクとは別の方向に視線を向けていた。

もう一人の疑似ライダー、陽炎だ。

手元にはカード、そしてだらりと蛇腹状に伸ばしたビーストマスターソードが一本。

それに気付いた浅倉の胸の中に浮かんだのは如何なる感情であるか。

苛立ちか、ワクワクか。

少なくとも戦いに際して浮かぶ高揚の一種である事は間違いなかったのだろう。

勿体つける様に、しかし躊躇いなくファイナルベントのカードをスリットに差し込み──その横顔が、黄金の輝きに照らされる。

 

泡が弾けるような、油が煮えるような。

風が渦巻くような音と共に、それは現れた。

目を焼く様な眩い黄金の輝きに包まれ、その輝きと同じ色の羽根を散らしながら。

一目見て、それが自分達と同じ、しかし、決定的に異なる存在だと、誰かが確信する。

十三人目のライダー。

仮面ライダーオーディン。

 

いかなる理由からかこの場に現れたオーディンは、ゆっくりと階段の上、高台からライダー達の高さまで降り──

 

『アクセルベント』

 

『ファイナルベント』

 

──立つのを待たず、二枚のカードが発動する。

いや、陽炎の一枚は確実に、このタイミングを見計らって発動していた。

これこそ、疑似デッキにおける、最初期からデッキに組み込まれていながら、今まで一度たりとも実戦で使用されたことの無い切り札。

オーディンの時間操作への対抗策として、或いは、単純にミラーワールドを閉じるための力として用意されていた、疑似デッキの基礎理論を組み上げた教授の草稿にも記されていた特殊カード。

 

音すら置き去りにする超加速。

いや、比較対象が音で済むのは、中身、変身者が生身の人間である場合のみの話だ。

常人を超えた超人、或いは異形の怪物。

それすら超越した新人類。

いや、その新人類ですらなくなった何かであれば、中身への負荷は一切考える必要はない。

 

稲妻の如く。

光の如く。

加速。

 

びん、と、伸び切った弦を弾く様な音は一瞬で限界まで引き伸ばされたビーストマスターソードのワイヤーの出す音か。

それが聞こえたのは、オーディンの体が蛇腹剣に巻き付かれた後のことだ。

 

一手遅れて、ストライクが後方宙返りを見せる。

その背後では、ハイドストームが八本の脚に増設された関節全てを捻る様に折り畳んだ、花の蕾の如き姿。

一点に集まった八本の足先が空中でストライクの足先と触れ合い、その姿がブレる。

瞬間、破裂音。

八本の撥条と化した脚がストライクを標的目掛けて弾き飛ばす。

ファイナルベントだ。

 

当然、ストライクの方が速度も発動タイミングも遅い。

だが、だからこそ、誰が企むでも無く連携が成立した。

 

ストライクの狙いはどこか。

決まっている。

派手な二人。

偉そうな二人。

陽炎とオーディンだ。

どちらも叩き潰す。

 

ストライクのファイナルベントが迫る中、一瞬の攻防が繰り広げられる。

全身を締め付けられながら、時を操りその場を離れようと藻掻くオーディン。

その首を正面から、剣を持たない手で直接捩じ切らんばかり掴み、背でストライクのファイナルベントを受けるようにさせ盾にする陽炎。

剣から手を離し、オーディンのデッキに手を伸ばす。

依然として力強く拘束しながら、僅かに緩んだ隙を逃すかとオーディンの姿がブレる。

常人の動体視力では捕らえきれない一瞬のラグ。

転移、いや、時間停止を行うまでの僅かな隙だ。

 

『アクセルベント』

 

再びの発動。

手を使わず念動力でのカードドロー、そして使用。

さもありなん。

この日、陽炎のデッキには契約の証、アドベントカードとファイナルベントを除けば、一種のカードのみ。

アクセルベントのみが積み込まれている。

短距離において、或いは中身の使う空間転移すらも凌ぐ速度が、ほんの数十センチの距離を詰め──

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()によって、その場の全てが粉々に吹き飛んだ。

 

―――――――――――――――――――

 

「ああああー」

 

ばちん、と、弾けるように目が覚める。

がばり、むくり、と、体を起こす。

手を見る。

開く、閉じる。

硬い所で変な姿勢で眠っていた為に少し痺れている気もする。

だが、だが。

確かに、この手が覚えているのだ。

指先に触れた、カードデッキの感触を。

 

じろり、と、周囲を見渡す。

すっかり見慣れた研究所内部。

時刻は午前三時。

空調のある室内ではあるが、どことなく大気の質から、何時頃の季節か、なんてのも把握できるワケだ。

 

「…………ロードインパルス」

 

呼び声に応え、ロードインパルスが虚空からにゅっ、と顔を突き出す。

俺の機嫌を察知してか、どこか怯えるような、しょげるような。

くん、くん、と、短く首の駆動系を鳴らしながら顔を寄せる。

怒っていない事を示す様に、カメラアイからその上部、センサーの集まる部位を撫でてやると、虚空から首だけでなく体までがぬるん、とまろび出て、長い金属製の体で包むように体を擦り付けてきた。

手を差し出すと、口元からポトリとデッキが落ちる。

 

「よしよし」

 

頸部関節の内部に手を入れ搔いてやると、むずがるようにして蒸気を吹き出した。

この、ロードインパルスの持つデッキ。

この時期に試作したものではなく、夏場まで時間を掛けて改良を重ねたものだ。

当然の話ではあるが。

既に引き継ぎのギミックは完成している。

ロードインパルスに天使としての力を与えたのはその一環だ。

そう何度も振り出しに戻されてやるつもりは無い。

 

無いが……。

 

「よっぽど手強いじゃないか、占い師さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後のシーンが次話冒頭にもっかい流れてOPでぃーんでぃーどぅでぃーどぅでぃでぅ♪
ってなる感じのラストでした

☆もしも占い師さんが特攻を掛けなければオデンデッキをこの場で取り込んで残りのライダーを在庫処分していた子供にも刃物を突きつける卑劣漢
そもそも恋愛関係に無い相手に手を出している時点でとても道徳的とは言えない
でも道徳を教えるべき相手がもういい加減現代の常識を備えつつ有るのでもう道徳はいいかなって……
もうイカれた時代にようこそようこしてしまっているのは知っての通り
もはや修復の余地はないけど、こんなふるまいなのは最終的に全てなかったことになる龍騎変ならではなので、発言や行動が記録に残る他の年ではまた猫の毛皮着る
ルール無用のアクセルベントガン積みデッキ使い
持ち物の内デッキを引き継げるようになった

☆大天使ロードインパルス君
今回下手すればビークルモードでの出演のみだったがなんか最終的にやっぱり出番が確保された
CG代は大丈夫なのだろうか……
実は電子音くらいは出せる
だがそれで日本語や特定言語を話すと思ったら大間違いだぞ男の子
顔文字も許さん!
でもビープ音くらいは許して欲しい
しかし大体の感情表現の音を駆動系の音だけでこなせるので困らないっちゃ困らない

☆あさくらさん
涼宮ハルヒシリーズの中で一番好きだわ……
薄いブックス!も結構持ってます
DMMだかDLサイトだから買ったあさくらさん単独CG集がダウンロードできなくなってて時代を感じると共に素直に悲しい
という話ではなく、原作二十七話での
『俺にも戦わせろ』
は文章に起こす場合絶対
『俺にも戦わせろ♡』
になるイントネーション
意味もなく華麗なフォームの後方宙返り一回転半ひねりくらいの動きで階段の上の方に居るゾルダに接近したりこの男ノリノリである
なんか逆に可愛く見えてくるよね

☆クソガキ
クソガキ
真面目に戦ってるとこに遊び感覚で入っていこうとしてガチな人にキレられた可愛そうなクソガキ
まぁ、なんやかや諭されれば納得する程度の知性はあるらしい
でも総合的に見てどう考えてもクソガキ
少しでも虚勢を張っていたらどうなったかわかったものではない
自分自身がロックシードになりちゃんと割られるスズキヤマトアームズを見習ってどうぞ

☆ゴロちゃん
一瞬だけ実はちっこい頃に交流があった設定とか入れるかなと思ったけど人間関係を増やしすぎると複雑骨折を起こすので止めた
そもそもこいつは役者さんがライダーシリーズ常連過ぎて扱いが難しいし……
でもそのうち原作キャラの一人くらいは事前に交流があった事にしてもいいかもしれない
子供の頃に出会って当時は名字も違った、とかなら特に問題もないし
リ・イマジまで話が進んだら過去改変でそういうキャラを出してもいいかもしれない
進めば、ね

☆今までの振る舞いが振る舞いだったので子供に刃物を突きつけたことよりも、その刃を引いて見逃した事に意識が向いてしまう迂闊な新聞記者
もしかして拓也を戦いから遠ざける為にあんな事を……?
みたいな疑惑を持つ辺り詐欺に気をつけたほうが良いけど気をつけてもどうにもならない場合があるのだ、INTの関係で
同じ勘違いをゴロちゃんも少ししている
勘違いかどうかは知らぬ

☆奇跡の生還を果たした占い師さん
原作通り、やっと占いが外れる……(スゥ
ってやったけど、一般通過謎の天才グラサン無免許医アギトが池袋に居たのでなんか助かった
間接的に彼を生かしたアギト勢力のおかげだぞ
このテオス早期退場ルートがスーッと聴いて……
聴いているのかピピニーデン君!
助かったけど満身創痍で主人公が発見したのはこっそり病院を抜け出していた場面
ライダーバトルのやべーやつを一網打尽にする唯一のタイミングを占ってしまったので命を燃やす
なお素のライアの強度とAPだと東京スタジアムの天井を突き破った時点で減速して犬死する
なんでかそうはならなかった

☆スケベな人
スケベ
社会人のお姉さんでも持ってないような下着を持ってるスケベ
露骨に誘惑するんだけど、誘惑するの自体は普通に恥ずかしいというスケベ
ミラーワールドに関する戦いはひた隠しにされているので関われていないためこういう立ち位置に来る
まあ幸せならいいんじゃないですか

☆それほどスケベな下着は持っていないお姉さん
でも年下の未成年の男子を家に招き入れて下着を見える位置に置いておいたりする辺り無防備えっち
なお、今回のオデン戦に向けて、結構な確率で巻き戻しだろうなぁと思った主人公により直前にデートに誘われ
映画を見て、食事をして、家でくつろいで、とした挙げ句
別れ際にちょっと耳貸してくださいと言われて無防備に顔を寄せたところ
触れるようなキスをされて
さよなら、と、なんでも無いように笑顔で挨拶した年下少年の姿に胸騒ぎを感じて
慌てて追いかけるも、既に彼の姿はどこにも無く……
というドラマがあったりしたけど、引き継ぎは無いから窮地を助けられて正体バレイベントもその後の仲良くなる幾つかの小イベントも全てなかったことになったから気にしなくても良い
ヒロインは増やしすぎると動かしづらくなって話を作りにくくするって?
だから滅びた……
まぁ出番の無いヒロインは背景にちょくちょく顔を出す役に落ちるだけだから……
これ以上増える心配も無いだろうし
もう記憶の彼方だろう剣道部の後輩ちゃんは出すとしても久しぶりの再開からの好き好きムーブをかました挙げ句、オルフェノクとしての活動を優先したばかりに無情にも謎のグロンギハンターに惨殺される負けヒロイン枠だから大丈夫!




ループものと言いつつまだ三周目でそろそろ目的達成できそうという悲しみ
でも明確な目標もそれを早期に達成できる技術もあるのに引き伸ばす理由も無いしなぁ……
あ、タイムベントが暴走して別の時間軸にお邪魔してしまう展開を挟めば劇場版もやれるか
やる意味があるかは不明
いっそ少しだけライスピ次元に混線するのもありかなと思うけど話の焦点がずれるしあの世界は得るものが多すぎるからやっても夢オチかなぁ
逆に終わらそうと思えばオーディンのデッキ完全解析からのラストバトルぶち込みで終わらせられると言えば終わらせられる
今年は東京も大襲撃をくらわずに済みそうですね!

そんな地味な落ちになりそうな龍騎編ですが
それでもよろしければ、次回も気長にお待ち下さい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。