オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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63 コンクリート・サバンナ

ミラーワールド内部。

地下駐車場の見える道路に、無数のレイヨウ型モンスターが犇めき合っていた。

その最後方には黒と紫をベースに金の装飾が施されたレイヨウ型、ギガゼールを置き、十重二十重に広がるメガゼール、マガゼール、ネガゼール、オメガゼールの群れ、群れ、群れ……。

装着者の素養を無視したデッキの強さ、という点で言えば、このレイヨウ型モンスターの群れを率いる仮面ライダーインペラーは他の追随を許さない。

強いモンスターと契約すれば強いデッキが、強いライダーが生まれる、という、ミラーワールドのライダーシステムにおけるある種の抜け道。

弱いからこそ生まれる群れて暮らすという性質がそのまま強みに変わる珍しいデッキといえるだろう。

 

一体一体の強さはそれほどでもなく、戦闘経験の無い契約したてのライダーでも無理なく倒す事ができる程度でしかない。

だが、そんな事は問題にならない。

最低限、ミラーモンスターとしての性能を備えた人型のモンスターが無数に群れており、インペラーはそれを契約モンスターを通してではあるが、手足のように動かせる。

無論、限界はある。

この群れを操るのは結局装着者、人間でしか無い。

更に言えばその操作もギガゼールを通してのものだ。

一体一体別々に細かな指示を出すというのは難しいだろう。

 

しかし、数が多く、大雑把ではあるが指示を出す事ができる、というのは、単純にそれだけの人手があるということに他ならない。

最も単純な戦法としては、数体のゼール型で敵に組付き、動きを封じた状態で攻撃する、というものだろうか。

無数のレイヨウ型モンスターを前面に多数展開しガードベントの代わりとするのも良い。

 

デッキ内部のカードが極端に少ないインペラーにとって、モンスターの群れを如何に運用するかが勝利の鍵となる。

変身直後、初手でアドベントを切るのは間違いではない。

地下駐車場という逃げ場の少ない閉鎖空間というのも得意なフィールドと言っていいだろう。

なんとなれば、おおよそのライダーであれば完封できる戦法も作り得るかもしれない。

 

だが、現実として、ギガゼールと共に大凡のレイヨウ型モンスターが地下駐車場から溢れ出し始めている。

上空という逃げ場の無い地下駐車場という有利なフィールドから外れているのだ。

何故か。

 

空気を裂く破裂音。

同時に、駐車場から再びレイヨウ型モンスター達が溢れ出す。

それも一度ではない。

一種類ですらない。

機関砲の如く連続して鳴り響く、駆動音混じりのやや小さな破裂音と、大きな破裂音。

駐車場から押し出されていくモンスター達は、その音と連動する様に増えていく。

当然、押し出されるモンスター達も無傷ではない。

胴体を大きくひしゃげさせたもの、ぽっかりと大きな穴が開けられたもの。

 

とても単純な事実として。

レイヨウ型モンスター達に、獲物を取り押さえる為の専用の武器や機能というものは存在しない。

一部槍、刺股の様な武器を持つものも居るが、基本的に、何をするにも己の肉体で行うしかないのがレイヨウ型モンスターなのだ。

当然、掴みかかる、得物を突き立てるよりも早く振り払われてしまえば、拘束も何も無い。

 

「ふうん」

 

群れの包囲に空いた穴から、のっそりと一つの人影が姿を表す。

疑似ライダーの陽炎だ。

両腕には常に無い機械式の籠手(インパクトナックル)と、巨大な銛の様なものが装填された機械装置(バイオレンス・ラム)を備えている。

 

「使えないわけじゃあ無いが」

 

独り言を呟く陽炎に、弾き飛ばされながらも未だ生きている個体が群がる。

ただ群れている訳ではない。

刺股の様な杖を、二股の刃を持つ剣を、或いは腕に備えられた刃を、頭部の巨大で鋭い角を持って、獲物を取り押さえ、貫かんと迫る。

文字通り、四方八方から、或いは同士討ちすら気にせずに迫るそれを抜けるのは至難の技だ。

瞬間、轟音と共に陽炎の姿がブレる。

前に一歩。

小さなクレーターを残して踏み出した陽炎、その前方に居たメガゼールの胸に人の頭部程もある機械の拳が突き刺さり、手足をその場に残し、ぶち、と、軽い音と共に胴体だけが後方にズレ──四散する。

遅れて響く炸裂音はインパクトナックルの作動音か。

機械式の拳打による追撃で破裂した胴体が、衝撃波を伴い周囲のレイヨウ型モンスターを吹き飛ばしていく。

幾らかは四散したメガゼールの手足や胴体の欠片が直撃し負傷しているが、多くはただ空気の破裂する衝撃で宙を舞い包囲を崩していく。

 

「これは、趣味だね」

 

がしゃ、と、インパクトナックルをその場に投げ捨てる。

好機とばかりににじり寄るレイヨウ型モンスターへ突きつけられるのは、クジラにでも向けるような銛の穂先。

どしゅ、と、数体まとめて串刺しにして、装填されていた銛が飛んでいく。

ご、と、道路を挟んで向かいのビルの壁面に突き刺さり、追い打ちを掛けるように飛んでいった砲弾が着弾。

爆発音と共にビルの壁面が崩れるが、ビルそのものが崩れる事はない。

 

「次」

 

インパクトナックルと同じ様にバイオレンス・ラムが投げ捨てられる。

重い機械装置が地面に落ち、その音にか、或いは陽炎の短い催促かに反応し、レイヨウ型モンスターの群れの奥に居るインペラーの肩が震える。

 

「次……次……?!」

 

インペラー、佐野満はここまで直接的な攻撃を陽炎から一切向けられていない。

それというのも、金塊を持って持ちかけられた交渉、曰く、彼にだけ教えられる美味しいお話を伝える前に、彼がどれくらい戦えるのか、戦力になるのか、という確認を行っているためだ。

なるほど、実に理に適っている。

何ができるかを口頭で説明するよりも、取り敢えず戦ってみせるというのは余程信用できるし手っ取り早い。

実際、佐野自身もライダーバトルの中で自分を売り込む為、他のライダーに一時的に襲いかかってみる、という手を考えてはいた。

だが……。

 

(聞いてない、こんなの聞いていない!)

 

その内実は、彼が思い描いていたプランとはかけ離れていたと言っていい。

本来であれば、彼はその実力、契約モンスターとその群れ、数の暴力で交渉を持ちかける予定のライダーを圧倒し、良い所で手を引いて、自分を味方に付けると有利になるぞ、と、そう持ちかける予定だった。

実のところを言えば、彼は今までに数度、他のライダーが戦う姿を目撃している。

そして、それらのライダーであれば、彼のプラン通りに話を進めることもできたはずだ。

もっとも、それで得られる報酬に関して言えば、ピンからキリまで、いや、生き残りの中で高額報酬を期待できるライダーは一人だけなのだが……。

 

インペラーは陽炎との間に無数のレイヨウ型モンスターを配置しながら、常に一定の距離を保つ。

今のインペラーに、佐野にできる最善手はこれだけだ。

ドリルが二本装備された手甲型の武装、ガゼルスタッブという攻撃手段こそあるものの、先に契約モンスターの取り巻きで陽炎の火力を見た今、積極的に距離を詰めたいとはどうしても思えなかった。

インペラーの手持ちの札を考えれば、レイヨウ型モンスターを際限なく差し向けて圧殺する、或いは、相手のスタミナを奪う、というのは悪い手ではない。

少なくとも、現時点で陽炎はインペラーの手腕を見るという名目もあってか、変身者にして指揮官でもあるインペラーを狙ってはいない。

このまま、ライダーの活動時間一杯まで粘れば、この恐怖も終わる。

 

「……うん、もう無いか。もう無いね?」

 

『ホイールベント』

 

レイヨウ型モンスターに囲まれ、インペラーからは頭がかろうじて見えるだけの陽炎の声に、多くのライダーと異なる女性的な合成音声によるカードの読み取り音。

空中に突如として現れたのは金属の輪。

人の背丈程もある六本の回転ノコギリ。

一瞬だけ見えた刃は地面に、或いはゼール達の身体に食い込むよりも早く霞み、金属の擦れ合う音を発し始めた。

立ち込めるのは血煙か?

いや、巨大な回転ノコギリの餌食となったゼール達が撒き散らすのはミラーモンスターの血液とも言える生命エネルギーだ。

群れの仲間の成れの果てとも言えるそれすらも取り込もうと動くゼール達。

それを、頭上から踏み潰す脚がある。

 

小型のトラック程はあろうかという四つ脚の機械獣、ロードインパルス。

ぐる、と、喉を鳴らすような振動音を鳴らすその口には、常には無い武装があった。

青白く光る刀身を備えた、機械的な構造を持つ片刃の大剣(サムライマスターソード)

 

闖入者を取り押さえんと、二股の槍や剣を持つゼール達が迫る。

いずれもライダーの装甲越しに装着者に少なからずダメージを与える事ができる、ミラーモンスターの備える確かな牙。

ロードインパルスがゆったりと前に踏み出しながら、首を無造作に横に振るう。

じゅ、と、熱したフライパンに水滴を落とすような音と共に、ゼール達の構えた得物はその持ち主と共に青白い刀身を素通しし上下に分かたれ、ワンテンポ遅れて生命エネルギーへと変換される。

 

無数のゼール達をまるで居ないものと同じ様に歩みを進めたロードインパルスが、陽炎に頭を垂れる。

ロードインパルスの頭部に陽炎の手が載せられ、はしゅ、と、興奮した犬の呼気の様な音と共に、口に咥えた大剣が開き、新たな柄を陽炎に向けて差し出す。

 

「いいよ。今ので斬れるのはわかった」

 

開いた大剣の刀身、中身に収納された一刀の鞘を陽炎が手動でパタンと閉じ、ロードインパルスは一度陽炎に頭部を擦り付けると、靄の様に広がる生命エネルギーを取り込みながら、周囲のゼール達へと頭を向ける。

四つ脚で、全身に武装があるわけでもなく、数でゼール達に劣る。

だが。

それがミラーワールドで生まれた偽りの命であろうとも、彼らの立ち位置は変わらない。

ぎゃりぎゃりぎゃり、と、尻尾、トリックブレードに装着された巨大な電動ノコギリ、ダイナミックチェーンソーが唸りを上げる。

捕食者に立ち向かうというのであれば、その結末が変わる事は決してない。

 

かつ、と、陽炎が足音も大きく歩き出す。

いや、その音は本当に大きかったのだろうか。

無人のミラーワールド。

しかし、今なおゼール達のうごめく音が響く中で、電動ノコギリの空気を劈く様な駆動音が響く中で、その音は紛れる事無くインペラーの耳朶を叩く。

それは恐怖から?

 

殺される筈がない。

そんな考えが、一瞬だけ、一度だけ佐野の頭を過ぎる。

これはあくまでも自分の力を見るだけの、リハーサルの様なものだ。

バイトの面接のようなもので、自分の命が脅かされる訳ではない。

その理性から、或いは欲望から導かれる答え(言い訳)を、本能が即座に否定する。

 

『スピンベント』

 

上げた右膝のガゼルバイザーにカードを一枚。

 

『ファイナルベント』

 

そして、最後の一枚。

これがインペラーの持つ全ての手札。

たん、と、右足がアスファルトの地面を叩く。

それを合図とするように、陽炎を取り囲み捕らえようとしていた無数のレイヨウ型モンスター達の動きが変わる。

拳が、蹴りが、剣が、槍が、必殺の意思と共に陽炎とロードインパルスに殺到する。

これまでも自らの命を顧みずに敵に向かっていたモンスター達だが、動きが違う。

 

ファイナルベントとは、単純に特定動作をモンスターとライダーに行わせる為のカードではない。

なんとなれば、多くのライダーのファイナルベントはアドベントのカードでモンスターを呼び出し的確な指示を行えるならば、動作の上では再現可能なものが多い。

しかし、それでいてアドベントのカードとファイナルベントのカードでは設定された破壊力が明らかに異なる。

 

モンスターと契約する事で力も頑健さも変化するミラーワールドのライダーのスーツと同じだ。

契約するモンスターの内包する力、ライダーに変身した人間の力を最大限引き出す為の切り札なのである。

 

モンスター達の決死の突撃。

自らの武器を、或いは肉体を、兎にも角にも相手に叩き込まんと、どこでもいいから当たってくれとばかりに。

振るう、振るう。

それは正に荒涼とした大地を駆けるレイヨウの群れ。

巻き込まれたなら命に関わる。

そんなゼール達の奥から駆けてくるのは、群れの長を従える仮面ライダーインペラー。

本来、ファイナルベントの〆はインペラーの真空飛び膝蹴りだ。

だが、今のインペラーの腕にはガゼルスタッブが装着されている。

ライダーとの戦いは未経験ながら、契約モンスターであるギガゼールの餌を取る為に幾度となくミラーモンスターに振るってきた使い慣れた得物。

 

インペラーのファイナルベントのAPは5000、ガゼルスタッブのAPは2000。

ミラーワールドのライダーに適用されるAPという単位は1APにつき0.05t。

ガゼルスタッブの威力、100t。

そしてファイナルベントの威力、実に250t。

無論、本来は蹴りで行うべき部分をガゼルスタッブに置き換える分、単純に足し算で計算できるわけではないが……。

単純な威力だけで見れば、或いは昭和という時代の影を駆け抜けた仮面の戦士達に匹敵する火力だ。

 

メガゼールが、マガゼールが、ネガゼールが、オメガゼールが、もはや捕らえる事も押さえつける事も考えず、氾濫した川の流れの如く陽炎に一撃を与えては高速で通り過ぎていく。

先のアドベントによるギガゼールの指示通りに動いていた時とは比べ物にならない。

インペラーのファイナルベントにおけるレイヨウ型モンスター達の連続攻撃はダメージを与える事もそうだが、その主旨は対象をその場に釘付けにすることにある。

その場に集ったレイヨウ型モンスターが居なくなれば終わる一時的な拘束。

インペラーの放つ必殺の一撃が届くまで保てば良いからこその強力なものだ。

現に、無数のモンスターによる連続攻撃を絶え間なく受け続ける陽炎はその場に釘付けになっている。

 

……いや。

その場を俯瞰する者が居れば気づいただろう。

()()()()()

確かに高速で通り過ぎていくモンスター達に反撃を返す事無く、腕を掲げて守りを固めている様にも見える。

だが、陽炎の歩み自体は緩やかになりつつも止まっていない。

インペラー自身が止めの為に走っているからこそ、レイヨウ型モンスターの群れに飲み込まれいてるからこそ、その歩みに気付け無い。

 

モンスターの濁流が薄くなる。

インペラーと陽炎の距離は二メートルも無い。

走るインペラーが跳ぶ。

真空飛び膝蹴りの間合い。

──いや、違う。

僅かに距離が近い。

膝が威力を発揮するよりも早く、梅の花を象る様に構えた陽炎の手の中にその膝が収まり、ピタリとその場に釘付けにされてしまう。

 

「お、おぉ!」

 

インペラーの、佐野の雄叫びが響く。

まだ終わっていない。

腕に備えた二本のドリル、ガゼルスタッブが唸りを上げて陽炎の頭部を貫かんと振り抜き、しかし、眼前には空。

宙を舞っている。

投げられた。

だが、遠くに投げられた訳でもなく、その場で真上に放り投げられただけだ。

Pシグナルが告げる陽炎の居る方向に目掛け身を捻り、ガゼルスタッブを改めて振り被り──

 

「赤心少林拳、()()()()()()()

 

とっ。

 

「紅筆」

 

額を小突かれる様な感触と共に、インペラーの、佐野の意識が急速に薄れていく。

意識が、というよりも、考える力が薄れ、いや、削られた為だろう。

渾身の一撃が()()()受け流された事も。

自らの身体が地面に受け身も取れずに頭から落ちた事も。

グランメイルの下で首の骨が折れた痛みも。

何一つ理解する事無く、思い悩む事も、怯える事も無く。

佐野満は、静かにライダーバトルから脱落した。

 

―――――――――――――――――――

 

赤心少林拳に2つの奥義あり。

片や守りを捨てた攻めの型、桜花。

片や全てを包み込み守る型、梅花。

気を運用する赤心少林拳において、この二つを収める事は体内の気の流れの乱れを生み出し死へと誘うと言われている。

これはこの二つの型が全く相反する気の運用によって成立する型であるためだという。

 

だが。

普通に考えて、桜花の型を修めた拳士も戦いの中で敵の攻撃から身を守る場面は存在するし、梅花の型を修めた戦士だって敵を攻撃する。

桜花の型を使う拳士が使う守りの技も、梅花の型を使う拳士が使う攻めの技も、当然のように存在しているのだ。

 

で、あるならば。

赤心少林拳において最も頑健な守りの技、守りの型である梅花の型を模した技を作ろう、というのは、極めて自然な流れとも言える。

無論、義経師範はそれを修めていたのだが、俺に手づから伝授してくれるほど優しいお人ではない。

だが。

黒沼流においても、一応ではあるが梅花の型の理論は継承されているのだ。

無論、奥義書だの秘伝書などというわかりやすい説明書があるわけではないのだが、それでも口伝だけで技が継承されている訳ではない。

仮にも寺であるため、書物という形で技術は残されている。

赤心寺の大改造の折に以前はまとめて別の場所に移していた諸々の資料をじっくりと読み直す事で俺はとうとうその断片に触れることができた。

 

梅花の型。

……を、極めて思想的かつ難解な説明を元に再現した、不完全な守りの型。

その抜けの、不完全な部分に黒沼流ならではのエッセンスを加えて作り上げたのがこの新技になる。

 

赤心少林拳梅花の型が崩し、紅筆。

あらゆる攻撃から身を守る……とまではいかないが、この技はカウンターとしての要素を強く取り入れている。

黒沼流の中にある、簡易桜花の型とも呼べる鉄指嘴。

紅筆の蕾の尖りの如きこの刺突を、攻撃を加えてきた相手に突き加えていく。

相手が攻撃を加えれば加える程、相手の身体は穴だらけになっていき、攻撃や回避に必要な筋肉を失わせる事で結果的に守りを固くする、という逆転の発想の元に完成したのがこの技なのだ。

どれくらい実用的かというと、義経師範に絶対に人に向けて使うなと言われた程だ。

当然、赤心寺の兄弟子達に向けて練習するわけにもいかなかったので、今までは単調なメカ木人(装甲部分は総アーメタル製)相手に練習するばかりだったのだが……。

 

当然のこと、下手なアギトすら凌駕する頑強さと火力を備え、人を殺しても願いを叶えようという欲望に染まったミラーワールドのライダーは人間に分類されていないので、ありがたく練習台にさせて貰った。

グランメイルなりアーメタル製の保護具を貫いてダメージを与えられるか、という不安はあったのだが……。

 

くしゃり、と、中身を失って崩れるインペラーの皮を持ち上げる。

その頭部、契約の証であるガゼルホーンを備えたソリッドフェイスシールドの額の部分には、指先程度のサイズの穴が空いている。

いや、アーメタル製の木人に穴を開けた事はあったのだが、モンスターとの契約で強化されたアーメタルの装甲を貫けるかはわからなかったのだ。

最悪、痛み無くライダーバトルから脱落できるという上手い話を反故にして、ものすごい勢いで額を小突かれて空中で五回転くらいする苦しみを与えてしまうところだった。

 

額の穴に指を入れる。

……うん、この深さなら、上手い具合に痛みやら自意識やらを破壊出来たはずだ。

良かった良かった。

無駄に嘘は吐きたくないからな。

 

「さて」

 

既に周囲にレイヨウ型モンスター達は居ない。

ファイナルベントで俺に接近戦を挑んできた連中は残らず穴だらけになって時間差でエネルギーに還元され、ロードインパルスの胃袋を満たした。

そうでない、例えば、レイヨウ型モンスターを指揮して突撃させていたギガゼールは、契約者が死んだ時点でその場から脱兎のごとき勢いで逃げ出している。

ここがサバンナで、本物のレイヨウと何らかの肉食獣ならばギリギリで逃げ出せたのだろうが……。

残念ながら、ロードインパルスは俺の持つドロイド系技術にライドシューターの技術を織り交ぜ、完成型の疑似デッキによるライダー化を施した挙げ句、ミラーモンスターとしての魂を吹き込み、度重なるミラモンの捕食を重ね、凡そエルロード一体か二体か沢山かくらいのテオス由来エネルギーを取り込ませた特別製だ。

……改めて並べ立てると最早どこを目指しているのかわからない内実だが、ともかく、速度でこれに追随できるミラーモンスターは、時間制御系を除けば一切存在しないと断言できる。

逃げても無駄だ。

そして無駄な事をさせるつもりも無い。

()()()()()()()()()()

 

インペラーの抜け殻をひっくり返し、Vバックルからデッキを引き抜く。

中身のないインペラーのスーツが鏡が割れるように消滅するのを尻目に、両腰に備えたサブデッキホルダーにインペラーのデッキを装填。

僅かにデッキの重量が増す様な感覚。

変身を解除した為にデッキ内部に使用済みカードが補充されたのである。

サブのインペラーデッキからカードをドロー。

当然正位置。

 

『アドベント』

 

一瞬、散らばったレイヨウ型モンスターの残滓をその場で身体をゴロゴロと地面に擦り付ける様にして取り込んでいたロードインパルスが、バッ! と、顔を上げて此方を見る。

勿論お前ではない。

何かを期待する様にその場に伏せたままダイナミックチェーンソーがついたままのトリックブレードをブンブンと横に振り回すロードインパルスを無視し、待つことしばし。

インペラーデッキの契約モンスターであるギガゼールが、どこからか新たに連れてきたレイヨウ型モンスター達(減らしすぎたせいか先程と比べると明らかに少ない)と共に戻って来る。

通常、ライダーと契約モンスターとの意思疎通は肘と肩に設置された遠隔操作デバイス、ジペッド・スレッドにより一方的にモンスターを自由自在に操るという形で行われる。

しかし、なんとも不思議なことに、俺の目には何やらギガゼールがそれに抗おうとしているように、必死にこの場から逃げようとしているようにも見える。

これが生命の神秘、というやつだろうか。

 

しかし、悲しいかな。

契約は絶対であり、ギガゼールを初めとしたレイヨウ型モンスターはミラーワールドではありふれたモンスターであり、生存本能などで契約の縛りを抜け出す程の出力を持たない。

 

「むむ」

 

呼び出したギガゼールへと指示を出す。

……AI同士の連携に寄らない、同時並列処理の練習になるかと思ったのだが。

やはり司令塔であるギガゼールへ指令を出せるだけのようだ。

そして、ギガゼールもまた、群れに対してはそれほど精密な指示が出せる訳でもない。

まぁ、できれば良いな、という程度だったのでそれほど残念ではないかな。

 

少なくとも、占い師さんも、足止めしてしまえば手出しできない、というのが確認できた。

少し離れた未来の出来事は見ることができない、ということかもしれない。

或いは、佐野の生死はどうでも良かったか……。

あとライダーは、四人、五人?

弁護士を除けば全員占い師さんと関わりが深い。

こちらを狙ってみれば、どれくらいの精度かがわかるか。

 

実りがあるような、無いような、微妙な時間だった。

問答無用でミラーワールドに引きずり込んでも良かったかもしれないが、インペラーデッキは逃げに徹するならまた違った側面を見せ兼ねない奇妙なデッキだ。

たかだかモーフィングパワーで偽造した金のインゴット程度で確殺できる状況に持ち込めたのだから、これで良しとしよう。

インペラーのデッキの概要もだいたいわかった。

これ単品で実用するには物足りないが……。

ロードインパルスに食わせる餌として見れば中々のものだ。

 

特にギガゼール。

同種のモンスターへの命令、全体指揮を行う生理的な機能。

これは、ロードインパルスが子機であるヘキサギア達を統括するのに役立つだろう。

これはとても良い。

単騎の強さに寄らない良い個性だ。

何度か食べさせに来よう。

次は群れ対群れでぶつけてみるのも良さそうだ。

 

指示が混線しないよう、まずはギガゼールに最後の指示。

レイヨウ型モンスター達と共に、四方八方に全力で逃げろ。

目の前で待ってましたとばかりにギガゼールを始めとしたレイヨウ型モンスター達が散らばっていく。

そして、ロードインパルスには、口頭で。

 

「ほーら、獲ってこい!」

 

常人ならその場から消えたとしか思えない速度で真っ先にギガゼールを取りに行ったロードインパルスの後ろ姿を見送る。

……次は誰を狙うか。

オルタナティブによる横槍は無い。

弁護士さんも乱入してくるイメージがあるが、これは彼の仕事のスケジュールを把握してしまえば問題ない。

新聞記者さんは戦いが起きているのを見れば止めに入ってくるだろうから、これを先に狙うのも良いか。

ナイトの人も気になるところだ。デッキに加わっているだろうサバイブも調査対象の一つではある。

今回は通常デッキで普通に参戦するであろう王蛇の人もねぐらで休んでいる所を襲えば乱入の心配が少なく安定感がある。

占い師さんは、下手に寄れば占いで避けられる危険があるし……うーん、何を餌にすれば呼び出せるかな。

 

まぁ、良い、良い。

最後には、全員殺してしまえば、良いだけのお話なのだ。

 

 

 

 

 

 

 




語尾にのだをつけるとハム太郎に聞こえるクラスタが徐々に消えつつある中、語尾にのだをつけると魔界から来た十三歳の悪魔さんを連想するクラスタが増えつつあるのが現実なのだ
でも世間にはデビューしてから速攻で魔界を()()に行ったすっげぇ美大生も居るらしいっすよ先輩!

!?(マガジンマーク)

サンドイッチ美味しいを繰り返す下り、ピクニックに来た家族連れの口にしてた言葉を草むらの中から聞いててそれを真似るように繰り返してる感あって好きです
でも、これ、プレデター……?
あ、ウォーズマン系の方でしたね、失礼しました
え?
ウォーズマンと言えば、扉絵に出てきただけの幻の全身武装形態が立体化?!
──ウォーズマン ミサイルスパイクver.
予約受付中!
スイッチが二台くらい買える値段だそうで
うーん、立体業界は奥が深い
でもこれと同じくらいの金額を投入しても、電子データでしかないバニー獅子王様が手に入らないヒデェソシャゲがあるらしいんですよ
あるんですよ!!!!!!!!!!!!!!!!!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
心が叫びたがっているのでした
スイッチとJK忍者達をファイファイしてアヘ顔させた挙げ句感謝されたりする不思議な全年齢向け健全スケベゲーム買えば良かった……

一年ごとに黒確定どころか黒の中から好きなのを選べるチケットを普通の石と一緒に販売してくれるアイギス様は実は良い女神様なのでは……?
そんな錯覚を夏の暑さが見せる蜃気楼の中に垣間見る八月の終わりなのでした

☆最近の流れでは珍しく女に絡まず一話丸々戦いに費やした約束は守るマン
戦いと呼べるものだったかは知らない
ガイとか殺してメタルゲラス君食べさせて手に入れた新武装とかを試しに来ただけとも言う
編み出した新技は強敵に試す前に失敗してもいくらでも取り戻せる相手で試すのが普通だよね
倒した相手から剥ぎ取った武器がどれくらい使えるか試すのも常道だよね
まいったな……ある種色物主人公で押していたのに、辺に王道主人公みたいなムーブをさせてしまった
でも最初は死にそうなヒロイン一人だったのが正統派なクラスメイトヒロインが増えて死にそうだったヒロインもどうにかなってヒロインの元人格も復活してマイティダブルふふふ……エックス!できるようになって
挙句の果てにお母さんの昔の後輩なきれいなお姉さんまで食っちまおうと計画してるんだから
これは実質ハーレムものなのでは?
かわいいペットも居るぞ!
こんな日常が充実しているのになんで罪もないミラーワールドのライダーを襲ってるのこいつ?
理由があるからだよ
どんな理由かはまぁ本編のどこかに書いてあると思うから気になったら最新話だけ見に来ましたみたいな人も試しに読んでみてね!
たぶんそんなに長くないからすぐに読み終えると思うよ!
女の子が頻繁に登場して主人公がなんかライダーっぽい何かに変身していい感じに敵と戦って最終決戦で闇落ちから復活逆転勝利して友よお前も強かったってやって
読み返すと割とクウガ編までは凄く真っ当に書けていたのでは?と思う
そりゃ続編作る時に最強装備が消滅して鍛え上げた筋肉も魔力も惨めなほど萎んで覚えた魔法も特技も忘却の彼方になる訳だよ……
なお当SSはバランス調整の為の主人公弱体化ギミックは搭載されておりませんのでご注意を

☆佐野マン
幸せになりたかったダケー
殺し合いに参加して幸せをつかもうというのは矛盾なのでは?
そして殺し合いがオッケーなのに何故かデッキを悪用して金を手に入れようとはしないへんなやつ
バリバリ犯罪に使ってれば変なのに捕捉される前に豪遊出来たんじゃないですかね
いい車乗っていい暮らしして……
しかしファイナルベント中安楽死の刑
幸せに生きたいだけなら殺し合いに参加しなければいいだけの話なのでは?
変則ファイナルベントは昔の方のゲームのファイナルベントと混じってる感じ

☆ギガゼール君
どこで資料漁ってもレイヨウ型モンスターのリーダー君じゃなくてオメガゼールなんだけど、なんで指揮官としての能力は君が持ってるの?
武器も同じのオメガゼールがもってるし……

☆占い師さん
この話の裏が前回のこの人の戦闘
前回足止めが速攻でやられたので次回はもうちょい強い奴らが差し向けられる

☆戦う必然性が無いからかすっかり出番の無いスケベシーン担当
スケベが無いと出番も無い
最近えっちなことばっかりだったから料理を覚えようと一念発起
よし、ジルちゃんに習おう!(プライドは無い)
ごめんくださーい!ジルちゃんいますかー!
おじゃましまーす
ジルちゃん!
さっきメールした通り、私に料理を……
エッッッっっっっっっっっ!?
なんでウサギさん?!

☆エナメル生地の縫製に手間取ったものの、見事完全自力オーダーメイドバニースーツを手に入れたジル&グジルUC
料理はお母さんが居る時に習っているけど、練習したら結果的に料理が完成するので裁縫なども習う
教本があれば自習もできる
できた!
深夜番組で見たバニースーツ
コウジの持ってる本にも載ってたやつ!
ジルのサイズでも零れそうで溢れない!
わたしとジルので黒と白!
あ!難波ぁ!良く来たなぁ!
ほら、赤いバニーだ!
普段から色々世話になってるからな
わたしらからのせめてもの贈り物だ!
いつぞやの、ほら、水着のお返し!
という、元人間狩猟民族とは思えない程の屈託のない笑顔での送りものだったため、難波さんは受け取りを拒否するという選択を取ることはできなかったのだ
クローゼットには主人公も知らぬ間に変な衣装が増えてきている
衣装作りは主人公が留守にしている時に分裂して黙々とミシンがけをしたりしている
たぶん基本的に難波さんの事も好き
ほら、ここに隠しチャックがあって、脱がずにできる!
とか笑顔で説明して困惑させる
何ができるかって?
トイレェ
サイコー
あの魔法陣あればどこでもトイレできて便利だよね
異世界で只管トイレについて考える漫画もあるし、やはりトイレは人類にとって無くてはならない文化なのだ
でもドーナツはフレンチクルーラーが好きです


ループで長引かせるつもりがライダーを一人一人殺していく過程を描き過ぎた気がする
でも龍騎ってライダー同士が殺し合う話……
主人公らはあんま殺し合ってませんね
まぁニチアサ主人公が殺し合いに肯定的で積極的にバトルロイヤルしてたら問題あるので
うちの主人公は別段ニチアサ主人公じゃないので気にせず生きます
ここまで来たら龍騎TV版登場レギュラーライダーは全撃破する勢いで行きます
たぶん
その理屈で言うと555編ではドロドロの昼ドラしないといけないって?
……できそうだけどやんないです
書いててしんどそうなので!
主人公は555のメイン登場人物に誰一人として関わりたくないけど、唯一草加にだけは一言言いたいことがあるようです
あ、悪口とか文句じゃなくて、アドバイスというか、そういう……
基本、草加って性根腐ってるけど努力家なのでたぶん嫌いじゃない
嫌いじゃないという点を考慮しても初期メインメンバーがキチキチキチコミュ障のなんでお前らひとかたまりになってんのってレベルなので余程の事が無い限り関わりに行かないと思いますが
本人に言えなかった場合はモノローグで草加雅人の敗因とかを唐突に語りだしたりします
下手をすれば555編はまったく別のライダー編へのつなぎに時間を使うことになるかもしれない
しかし未来の話を今しても仕方がない
まずは龍騎編を進めるのだ!
と、改めて決意したりしつつ、次回のあとがきでも思いついたことをじょばじょばと垂れ流しにします
それでもよろしければ、或いは、ループ開ければチャラになるからと問題なく常人殺しちゃう主人公でも良ければ、次回の更新も気長にお待ち下さい

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