オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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69 ゲゲゲッ! ン階級の華麗なる食卓!

以前から明言こそされていなかったが、やはりこの世界には魂という概念が確実に存在する。

霊魂、幽霊、おばけ、あるいは生体オーラとも呼べるこれらエネルギーは、およそあらゆる生き物に存在すると言っても過言ではないだろう。

人間の胎児からすら採取でき、ある程度の時間を生きた生物からならば、発生してから現在に至るまでに体感した情報を蓄積したものを回収できる。

また、これらは質量を殆ど持たないエネルギー体ではあるが、当然の如く生物の肉体に干渉する力を持つ。

 

元が生物の肉体と紐付けられていたものなのだから当然と言えば当然なのだが、肉体から取り出された、切り離された魂は存在が非常に不安定になってしまう。

風に吹かれて飛ばされる、なんていう事はそうそう無いが、何の外部干渉も無いまま放置すれば、程なくして解けるようにして消滅してしまう。

考えてみれば当然だ。

肉体から抜け出た魂が消えること無くさまよい続けるというのなら、この世は生きた生物を遥かに上回る数の魂、おばけで溢れかえっていなければ理屈に合わない。

 

今の所、解けるようにして(これも俺のテオス的知覚能力による主観でしか無いのだが)消えた魂がどうなるのかは不明だ。

そのまま消え失せるだけなのか。

世界に還元されて新たな生命に宿り直すのか。

あるいは天国だの地獄だのという別世界へと移行するのか。

さもなければ『うっかり殺しちゃったメンゴ☆ 男の娘同士が子作りして新たに男の娘が産まれて延々人口爆発を続ける食料男の娘燃料男の娘その他資源も全部男の娘的な準墜落世界風異世界に転生させてあげるから許してクレメンス』みたいな事を宣うチートスみたいな杖を持った手塚版ブラフマンみたいな幻覚を見た挙げ句に異世界に転生を果たすのか。

 

兎にも角にも、生き物から取り出した魂は長持ちしない。

これが原則。

あるいは俺が超能力でグリップし続ければ話は別になるが、採取した魂を全て使い切るまで続けるというのも面倒な話だ。

 

そこで出番なのが、このキルリアン振動機である。

魂は生き物と紐付けられている時には非常に安定している。

が、魂と生き物の肉体は単純に紐付けだけがされている訳ではない。

基本的に、紐付けがされている時の魂は肉体の外に漏れ出す事が無い。

これは、生き物の肉体に、魂を押し込めておく事のできる膜が存在しているからなのだ。

古くは1930年代の旧ソ連にて、高周波によって生体から放電が起きている事に気がついたキルリアン夫妻の実験にまで遡るのだが……。

こちらは参考資料程度で良いだろう。

 

もっとわかりやすい例として、ミラーモンスターを使う。

彼らの肉体は破壊すると魂にあたる生体エネルギーを光球の形で排出する訳だが、それと同時に、非実体である筈のこの生体エネルギーをわかりやすく食べるという形で己が内に取り込む事ができる。

更に言えば、特異な個体を除き、破壊されたミラーモンスターは生体エネルギーを残し、かつて肉体だった部分は急速に消滅する。

これは、彼らの肉体それそのものが、有る種の結界的な役割を持つ力場であるからと推測できる。

モンスターと契約したブランク体ライダーの装甲や倍力機構が飛躍的に性能を向上させる理屈がこれだ。

ライダーのアーマー部分を肉の器と仮定し、そこに魂を閉じ込めておくオーラの力場としてのミラーモンスターが半憑依する形で入り込む事により、魂を内包する生物的に完成した形に変化するのである。

 

こうしてみれば、魂を保管する場所としてミラーモンスターの中というのはお誂え向きというか、これ以上無い場所だったのだろう。

が、これもまた完全とは言い難い。

先日の小川恵里の件がその証拠だ。

肉体に残留した小川恵里の魂の欠片に無垢の魂の欠片を張り合わせて修復したあの一件。

肉体の側は修復部分に記録された情報が消えるだけで済んだが、残るダークウィング内部の方はそうはいかなかった。

分離元である筈の小川恵里の魂がとりあえずの完成をみてしまった為か、自己の定義が曖昧になり崩壊寸前であったらしい。

そして、先の小川恵里の肉体側とは異なり、こちらは修復を受け付けなかった。

既に小川恵里が存在するからこそ、自らが小川恵里であるという定義を芯として自らを再構築する事ができなかったのだろう。

そう、元の肉体とミラーモンスター、それぞれ別の器に分かたれた筈の魂は、自らの片割れがどうなったかを感知していたのだ。

 

俺の知る最後の周における小川恵里の昏睡からの目覚めと、次は目覚めることはないという話はこれだろう。

分割して保存した魂はそれでも相互の状態を把握しており、互いが致命的な欠損を抱えているという自覚を得て、緩やかに崩壊していくのだ。

あの時は再び昏睡状態に陥るだけで済んだが、あそこから更に時間が経過したならば、肉体も魂も、緩やかに死を迎えていたのではないだろうか。

 

このキルリアン振動機は、ミラーモンスターの体構造を参考に作り上げた擬似的な霊的結界と言うべきものだ。

動かすべき筋肉、関節など無く、本来なら捕食の為に存在する口腔は内部に格納した魂の取り出し口でしかない。

ありていに言って生物的には作られていないのだ。

これではいくら魂が産まれてすらいない水子のものだとしても、既に自らが生きていない事を自覚し消滅を始めるのは時間の問題だろう。

あるいはそれこそ、これら魂を人造ミラモンであるヘキサギアに取り込ませる方が長持ちしたかもしれないが……。

人間の魂を核にして作った人工ミラモンがどのような進化を見せるかと考えれば、この形が無難だったのではないだろうか。

俺はミラーワールドを機械獣の楽園にするつもりはあっても、惑星Ziを作りたい訳ではない。

仮にヘキサギアが改造や自己進化の果てにゾイドになったとしても、ゾイド人まで作りたいとは思わないのだ。

 

更に言えば、この保管した魂の使いみちも未だ思いついてはいない。

ロードインパルスに食べさせたら人間の味を覚えてしまうし、こんな純度の高い無垢の霊をロードインパルスに食べさせるミラモンに食わせるのも勿体ない。

はてどうするか。

箱型のキルリアン振動機に取り付けたタイマーは、刻一刻と消滅までの残り時間を示している。

 

『賞味期限まで47日12時間34分』

 

―――――――――――――――――――

 

材料を紹介します。

・薄力粉適量

・卵適量

・冷水適量

・揚げ油適量

・具材適量

小麦粉はなんでもいいです。

むしろ天ぷら粉を買うのがおすすめ。

適量部分は買ってきた小麦粉なり天ぷら粉なりの後ろに書いてあると思うのでそれで。

 

まず揚げ鍋に油を入れて温度を170~180℃まで加熱します。

並行して粉、卵、水を少しダマが残る程度にかき混ぜて衣を作り。

キルリアン振動機から取り出したひとだまに軽く粉をまぶし、衣に潜らせて油の中に放り込みます。

 

「何か手伝うことあるー?」

 

「いいよ。座ってな」

 

「なんか、悪いね」

 

「それを言うならこっちこそ、だ。俺は家のこととかあんまりやらんからな。母さんも助かってるって言ってたぞ」

 

「それこそ私達がやりたいからやってんだけどなー」

 

居間でテーブルに付いているグジルに振り返らずに声を返しながら、目は揚げ鍋から離さない。

当然ながら、ひとだまはそれだけでは熱を通しても通さなくても変わらない特殊な食材です。

が、夏場の心霊スポットで姿を表す様に、一定の湿度と温度、そして人の思念に反応して一時的に擬似的な姿を形作る事があります。

夏場の肝試しをしたことがある方なら一度ならず体験した事があるであろう、車に乗り込んで逃げようとしたらガラスをバンバンと叩かれて血の手形がびっしりと浮かび上がるような現象ですね。

恐怖心が空気中の不安定なエネルギーと結びつき怪奇現象の形を取るのと同じ様に、食欲やその他食材と交わる事により、このひとだまを一時的に人体に接種可能な状態に変異させる。

……と、考えられています。

少なくとも俺はそう考えているし、この実証実験が俺の仮説を裏付けてくれる事を信じています。

信じろ(豹変)。

 

ひとだまを何分加熱すればいい感じになるのかわからないので、衣がいい感じにきつね色になったら出来上がり。

箸で掴んで、皿にぽてっ、と載せて。

 

「さ、召し上がれ」

 

「わぉ、うまそう。……で、これなんの天ぷら? アイス? はんぺん? でかくね?」

 

首には前掛け、両手にナイフとフォークを持ったグジルがどこから手を付ければといったふうに首を傾げる。

まぁ、ハンドボール大くらいはあるし、球状というより崩れた涙滴型というか、ストレートにひとだま型をしている。

一般的な天ぷらとは趣が異なる。

 

「あれ、ジル。グジルに何も言ってないのか」

 

迷いなくしっぽのような部分をナイフで切断しためらいなく口いっぱいに頬張ってリスの如く咀嚼をしているジルに尋ねると、首をぶんぶんと横に振る。

そのまま急いで飲み込む事もなくもぐもぐと咀嚼を続けながら、足元から何かを取り出す。

 

『すごくおいしい!!』

 

大文字でそう書かれたフリップを掲げた。

 

「そりゃ良かった。どんどん食え」

 

返答になってねぇなと思いつつ足元を見れば、先のものとは別に、

『おいしい!』

『まぁまぁ……』

『ふつう』

『まずい……』

『たすけて!』

『ゴラゲゾボゾグ!!』

のフリップが用意されていた。

うーん……。

まぁ、美味いならいいか。

 

「揚げたてが命だからな、さ、グジルも」

 

「結局なにこれ」

 

「ひとだまの天ぷら」

 

「ひとだま」

 

「ひとだま」

 

「ゴーストとかソウル的な?」

 

「そうそう」

 

幾つかのやり取りの後、グジルは手にはナイフとフォークを構えたまま、難しい表情を取った。

箸が進まないらしい。

 

「ご飯持ってくるか? 冷凍してあるやつだけど」

 

「揚げ物だけじゃ食べにくいってことじゃねぇよ?」

 

「だって……食べてみたくない?」

 

日本漫画界三大食べてみたいけど実在しない料理の内の一つ、ひとだまの天ぷらだ。

元のレシピは天ぷら粉でなくメリケン粉を付けて揚げるだけの唐揚げっぽいものだが、下味付けずにあれだけ美味しそうにできるんだから、普通の天ぷらにしたって美味しいはずだ。

現にジルは美味そうにむっちゃむっちゃと咀嚼を繰り返し、順調に皿の上のブツを減らしている。

 

「この間もお前、ミートボールパスタ作ってたし」

 

別段ミートボールパスタ自体は珍しいものではないが大皿にこれでもかと山盛りになったものを出してきた時は何事かと思ったが。

前日の金ローでカリ城をやっていた事を思い出し納得したものだ。

 

「肉団子入れただけのパスタとこれを、なんッグ!」

 

なおも反駁するグジルの肩をジルがちょいちょいと叩く。

喋りながらジルの方を向いたグジルの口にフォークに突き刺さったひとだまの天ぷらが捩じ込まれた。

一歩間違えば顔面か喉にフォークが突き刺さらんばかりの勢いで押し込まれた口内の霊的物体を、グジルは目を白黒させながらも反射的に咀嚼。

ごくり。

 

「……うまい」

 

複雑な表情のままそうつぶやくグジルにジルがぱあぁ、っと笑顔を浮かべる。

良いことだ。

 

「そうだろう」

 

「いや、美味いよ。ほんとに美味いけどさぁ」

 

言いながらつんつんと自分の前の皿に乗った天ぷらをフォークでつつく。

 

「これって食人では……?」

 

「人間の一部なり分泌物って意味なら、人間が調理する以上は気化した汗なりなんなり大体の料理に入ってるだろ。そういうのだ」

 

「人間が人間を食うと変な病気になるって聞くけど」

 

「大丈夫だ」

 

かの有名なクールー病にしても、何が原因かに関しては大体はっきりしている。

そもそもの話として、これは霊魂を一時的に可食状態にして口にしているだけで、時間経過と共に元の霊体に戻るので人体に深刻な作用は発生しない。

 

「たぶんな」

 

「たぶんか……」

 

「ところで顔面が剥がれそうとかそんな感触ある?」

 

「あったらその瞬間にコウジのことぶん殴ってると思うわ」

 

じゃあ今の所大丈夫だな。

最悪、顔が剥がれてもベルト由来の治癒機能で治せると思うし。

 

「じゃ、食うか」

 

自分の分の皿が置かれた席に腰を下ろす。

幼少期、いや、前の俺でない俺の頃から夢見ていた瞬間がやってきたワケだ。

有る種憧れのヒーローに会えるみたいな話よりよっぽどワクワクしてくる。

俺のフルコースのメインが決まる瞬間になるかもしれない。

と、そんなワクワクに水を差す様にグジルがジト目を向けてきた。

 

「……私はいいけど、こいつを毒味に使うのはやめろよ」

 

「普段ならやらんから安心しろ」

 

「今も普段だろ」

 

「醤油かける?」

 

「……かける」

 

しぶしぶ、という感じで醤油を受け取るグジル。

既にジルは最初に皿に載せられた分を食べ終わり、時折チラチラと物欲しげな視線を俺とグジルの皿に向けながら、ホワイトボードに細ペンで何事かを書き連ねていた。

 

「おかわりいるか?」

 

『いう!』

 

バァン、と勢いよくホワイトボードを床に投げ出し空の皿を差し出してくるジル。

大皿に盛った予備の天ぷらを盛り付けながらちらりとホワイトボードに視線を向ければ、

 

『外はカリカリ中はムチムチって表現はよく使われるけど、これはまさにそれ』

『それでいて中身は霞を食べるが如しっていうか』

『ムチムチしていてふわふわしていて、噛んだ感触が軽いのにどこか押し返すような感触が心地よいよね!!』

『味に関しては甘み、砂糖とか果物の甘さじゃなくてもっと淡い、お米を噛み締めた時とかに近いかも』

『でも単純に甘いだけじゃなくて、舌には感じないけど野菜とか果物とかの甘みも思い浮かぶような』

『ずっと遠くを見通すような、地平線を見つめるようなすごい奥行きがある!』

『それでね、すごく食べごたえがあって、飲み込むとお腹の奥が満たされるのに消えてなくなって残らない』

『────実質カロリーゼロ!』

『で、さっき書いたみたいに実際の味はご飯のかわりになるくらいシンプルだから、たぶんどんなソー』

 

うんうん。

揚げ油と衣があるからカロリーはあるけども。

薬味との組み合わせも試してみたくなるね。

わかるわ。

 

―――――――――――――――――――

 

さて、腹も膨れたところで問題がある。

勿論、残りのライダーバトルだ。

ナイトが平和的にライダーバトルを棄権したお陰で、残るライダーは俺を含めて現時点で三人。

ターゲットは占い師、見習い記者。

そして、そこに追加で脱獄犯が来るか否か。

 

当然の話ではあるのだが、真っ当に勝利を目指して戦った場合、俺は勝つ。

慢心だの油断だの、そういった話を抜きにした純然たる事実だ。

その程度には戦力差がある。

 

更に言えば、この周でサバイブのカードを龍騎から奪い取る事は絶望的と言っていい。

諸々のトラブルの元となる一般参加ライダーを先んじて撃破殺害排除してしまった結果かどうなのか、先日トラブル無く受け渡されたナイトのデッキの中にはサバイブのカードが含まれていなかったのだ。

そして、このタイミングでナイトがライダーバトルから無事脱落したお陰で、龍騎が力を欲する、そしてそれに主催側が応えてテコ入れカードを渡すという展開は無くなってしまった。

 

では、サバイブのカードは手に入らないのか。

そうではない。

何故なら、かなり早い段階で、他のライダーの戦闘の有無に関わりなくサバイブのカードを渡された男が存在しているからだ。

だが、その男は現在行方不明である。

契約モンスターをミラーワールド側から探し回るという手もあるが……。

それほどの手間を掛けてまでサバイブのカードが欲しいという訳でもない。

最悪、オーディンのデッキを手に入れてしまえば『無限』のサバイブは手に入る。

そう気にするものではない。

 

残り、最短で二人を倒せば、脱獄犯がライダーになる前にオーディンに戦いを挑むことはできるだろう。

だが……。

可能な限り、多種多様な敵と戦っておきたい、というのも本音では有る。

野良のオルフェノクや魔化魍との戦いがどれほど糧となっているかわからず、そして情報漏洩を防ぐために可能な限り出会い頭の瞬殺を狙っている為に、真っ当な戦いの経験が足りているか、という不安も無いではないのだ。

しばらくの間は力技でなんとかなる程度の力を手に入れてしまった現状、情報漏えいをそれほど気にせず、力をセーブして擬似的にそれなりに近い性能で戦える機会というのは貴重だ。

 

なんとなれば。

そう、なんとなれば。

神崎士郎の思考パターンを思えば、意図的に巻き戻す事は十分可能。

()()()()()()()()()()のだ。

あれやこれやと試行錯誤をしない手は無いだろう。

 

「コウちゃーん。これ一緒に揚げちゃっていいのねー?」

 

「いいよー! あ、できればねー、千切りにしてかき揚げとかにしてくれると嬉しいなー!」

 

料理と同じだ。

正しい、良いと思える形に収まるまでは、とりあえず試してみるしかない。

色々とやってみるのが肝要だろう。

 

―――――――――――――――――――

 

青森県、八甲田山の奥深く。

聳える山々の間、深い森の奥に佇む怪しげな寺。

現地人ですら知らない穴場的修行スポット、赤心寺。

ここでは、世捨て人としか言いようのない修行僧達が日々、激しい鍛錬を繰り広げている。

 

「ところで師匠は結婚とかなされないんですか」

 

とか、の辺りで首筋の肉を抉るような刺突が迫る。

風を裂く音すら無い。

素早いだけでなく技が迫るのを察知させず、避けさせない工夫なのだろう。

空気を素早く、そして静かに裂いている。

荒々しいだけでない一撃には修練に重ねた年月が積み重なっているのだろう。

全力ならば避けられるが……。

人間の範囲に身体能力を抑えたままだとこれが中々に難しい。

ひゅ、と息を吐く。

特殊な呼吸法で、これにより一瞬だけ気道が締まり、喉が僅かに細くなる。

 

削られたのは薄皮一枚。

ぴっ、と血しぶきが飛ぶ。

全身の神経を通し気力を充実させている今、身体から離れる瞬間まで血の一滴に至るまで俺の制御下にある。

気を制御するのは黒沼流、玄海流のどちらの赤心少林拳でも変わりは無い。

弾けた数滴の血が空中で破裂し、師匠の顔面目掛けて飛んでいく。

数滴が始めた文字通りの飛沫の一部。

しかし硬度は硬めの毛程度。

速度も乗ったこれなら、目で受ければ一時的な視力の低下を狙える。

 

が、師範、これを避けない。

しかし、師範の顔面に加速して硬化した目潰しが届くよりも先に、血しぶきが壁に当たったようにして跳ね返りその場に落ちた。

 

気当たりだ。

通常のそれならば相手の意識や本能に訴えかけるフェイントに過ぎないが、この目潰しは気を充実させて硬化と加速を行う、言わば極小規模の鉄爪嘴のようなもの。

種を知る赤心少林拳の使い手であれば破るのは容易いのかもしれない。

 

「お前は小賢しい真似ばかりを覚える」

 

「基礎を大事にしたくもあるのですが」

 

勿論、この程度の小技は師匠とて承知の上だろう。

この技が赤心寺の中で使われているのをあまり見ないのは、こういった余技を使う事を好む流派ではないからだろう。

梅花の型の対局として作られた桜花の型から見て分かる通り、黒沼流は攻めの流派だ。

その技の威力たるや、生身の人間が昭和スペックの改造人間を真っ二つにできるほどのものである。

……まぁ、赤心少林拳を真っ二つに分断した黒沼流の創始者が、後々滅ぼしやすくするための守りの軽視でもあるのだろうけれども、本筋から離れた黒沼流が結果的にこの現代まで生き残っているというのも皮肉な話だ。

 

「馬鹿を言え」

 

ざ、と、構えを取り直す。

足を開き、左腕を胸辺りで平行に、右腕を立て手首を反らす。

赤心少林拳の基本中の基本となる構え。

真似るように同じ構えを取る。

 

「貴様には基礎を叩き込んでいる最中だ」

 

「ありがたい話です」

 

基礎は幾ら積み重ねても重ねすぎるという事がない。

女を捨てて山に籠もり延々修行を積み重ねてきた義経師範はまさに俺にとって目指すべき頂き……という訳ではないが、素手の身体操縦術における一つの指標と言っていいだろう。

ところで。

 

「凄い殺意ですね」

 

通常、下手な人間が相手に明確に殺意を覚えたりした場合、狙いが明確になりすぎてかえって当てにくくなるものだ。

殺意、殺気などと呼ばれる意思の力は指向性が強い。

それなりに落ち着いて対処できるのであれば、闇の中であっても目を潰されていても、ここをこうして殺してやる、という意思が白々と浮かび上がるものだ。

 

だが師範ほどの使い手ともなるとそうは行かない。

こちらに向けられる殺気は確かにあるが、その軌道は文字通り無数。

常人の殺意を線や点による攻撃点への照準とすれば、義経師範のそれはまるで無数の義経師匠が互いを押しつぶす様にあらゆる型で迫りくる様に感じられる。

まるで鬼剣(クィチェン)だ。

 

「殺しはせん」

 

「殺すつもりでお願いします」

 

ふんっ、と、鼻を鳴らす音と共に、何故か顔面にわずかに青筋を立てていた師範が獰猛に笑う。

まるで肉食獣の如き笑みだ。

もうちょっと若かりし頃に沖一也を相手に浮かべていたみたいな柔らかい笑みとか出せないのだろうか。

と、そんな事を考えていると、

 

「本当に、人を乗せるのが上手い男だ」

 

殺意による無数のフェイントが消えた。

先までの殺意によるフェイントすら余技。

赤心少林拳黒沼流の基礎にして極意には無用の長物。

滅ぼされる為の分派から、創始者の教えを離れて進化を続けた結果の生き残るための横道に過ぎない。

真っ直ぐ来る。

 

「何を目指す」

 

問う師範。

軌道は丸わかり。

そして基本的にはカウンターである為、打ち込まないという選択肢もある。

搦手を使う怪人であればあっけなく封殺する事も不可能ではない。

 

「より強い力を」

 

が、それはあくまでも今よりも若々しく未熟な師範であった場合だ。

今、目の前に居る師範は、俺がかつて知識の上で知っていた師範を超える積み重ねを持っている。

それを、時間をかけてもまるっと頂戴する。

この長い時間、余暇の幾らかをそれに回すには十分な価値がある。

なんとなれば、何かのトラブルで沖一也が現れる可能性だってゼロではないだろう。

そうなれば試合の一つも申し込んでみたい。

ともすれば、この場面を見て沖一也が割り込んでくる周だってあるかもしれない。

可能性は文字通り無限大。

 

夢が広がる話だ。

 

 

 

 

 

 

 




ところで赤心寺の兄弟子らにお土産があるんです!
という流れからイカモノグルメな展開が始まるかもしれないお話でした

だって成功するまでに水子の魂をきれいに使い切るってのは都合が良すぎるし
もともとテオスの権能を一部持ってて曲がりなりにもエルのちからのようなものをロードインパルスに分けられるんだからそんなに失敗はしないだろうし
じゃあ魂余るけどどうするのってなるでしょう?
魂って言ったら幽霊でおばけでひとだまでしょう?
ひとだま、丸くて柔らかくて……
天ぷら!
水木の大将もそう言ってる!
ぶっちゃけひとだまのてんぷらの話を思いついたのでしたかっただけ
たぶん河童の三平かなにかで小さい頃に図書館で見た以来なんだけど
最近のアニメの方でも出てきたって……何話くらいだろう
録画はしてあるけど話数表示されないんですよね……

☆人間と認められていないので実質人でないから食人判定はセーフかアウトかセンターマン
鬼太郎達も美味しそうに食ってる描写が漫画版にあったし……ええやろ!
でも顔が剥がれたりしたら困るからまずはジルとグジルに食わすか……
顔剥がれてもコイツラの顔は完全に覚えてるから普通に治せるし
みたいなノリで言った
ぶっちゃけ半ばギャグ回だから仕方ないんだけど
シリアス回になってもこのスタンスは変わらないんじゃないかな

☆うまい!うまい!うまい!うまい!という感情を表現しきれないので食レポに走ったジル
そのうちネット文化が一般化したらブログとか開きそう
でもこの時期からネットリテラシーについて色々と主人公に教育を受けてるので情報漏えい対策は万全になるんだろうなって
物騒なこと一切関係ない食レポとかレシピ紹介系の文章を書くかどうか

☆勘違いされてるかもしれないけどグロンギだって飯は普通の獣や穀物を食うし人は殺すけど食べないという主張をひとだまの天ぷらによってかき消されたグジル
ぐぬぬしてる
どれくらいぐぬぬしてるかって言うとジャンの料理が美味かったしケチのつけようもない時の大谷さんくらいぐぬぬしてる
因みにそういう文化的な部分は戦士階級でないべが担当してる、なんて説もあるけどこのSSでそこんとこどうなのかはまだ決めてないし今後も決まるかどうかはわからん

☆謎の食材に特に疑問も持たず揚げ時間も感覚でなんとかするし、なんかふわふわと不安定なひとだまも普通の包丁で千切りにしてしまうママン
普通の包丁ではない……この包丁は穴が空いていて、きゅうりとか斬ってもくっつかない……
マテリア穴っぽくてかっこいいわよね
因みに河童の三平は地元の図書館に置いてあり、当然ママンだって読んでいる
冷凍庫で冷やしてから潰した梅肉で和えても美味しいのよ、という発言を残し息子を関心させた

☆クラスは同じでも一緒に住んでないのでこういうイベントはのがしてしまいがちな難波さん
お弁当の時間に小さく切ってメリケン粉バージョンを唐揚げと誤認して交換しようと持ちかけたりした
味がどうだったかは、主人公が「はい、あーん」と差し出してきたシチュにドキドキしてしまったのでよくわかっていない
エッチなとこには慣れても変なとこではまだまだ純

☆それはそれとしてまだまだ学ぶところの多い師匠
新たな技を引き出す為に主人公に内心で挑発される
心理の読み合い的な部分もある武術なので当然それに反応して新たな技を見せるがキメワザはいつも桜花
因みにスピリッツ版の平行世界的な人物で、当時から更に歳を重ねている
そのぶん強いのでスピリッツ版と同じ状況に立たされてもテラーマクロの殺気と技に気がついて生存ルートに入れる
なんでこんな設定にしてるかっていうと、そのうちスピリッツ世界にトリップしてしまう外伝とか書きたい気持ちを抑えきれずに書いた時
うわっ師匠若っ!
こっちの師匠ならまだ倒せるな
神経残ってるなら生身作れるし今からでも寄りを戻さないと行き遅れますよ(火の玉ストレート)
みたいなやりとりをさせたいが為
SPIRITS外伝でやりたい展開はあるけど原作が有る種完成されてる為なにやっても余計になるから難しいのだ
でもピラミッドで改造人間素体の保管所に迷い込んだ時に
赤い煙ぶわってやって無数のグロンギ軍団を従える展開はやってみたいなって思いました(果てなき冒険SPIRITS)

ぶっちゃけおもいついたから書いただけのお話で本筋とあんまり関係ないのだ!
だからライダー要素も当然薄い
前回は濃かったのかって?
さぁ……
具体的にはGジェネやりつつ半日くらいで書いた
出稼ぎ出せるシステム良いですね
天ミナとジンクス4とトールギス2と解放フェニックスが早々に完成してしまった
そして出稼ぎに出してる間は他の事ができるのだ
最初から買える安い機体からだとHDモビルワーカーからガルム・ロディ、そこからユーゴーにするとまぁまぁ手早く安上がりで気持ち強くていい
パイロットのレベル上げつつ強化を繰り返して、金に余裕が出たら交換に出すなり買い換えるなりすれば先に伸ばせるし
問題は出稼ぎの鹵獲でジンクス2が手に入る事かな……ここからの派生が恐ろしく手早くて楽、GNドライブバンザイだわ……ってなる
空飛んでバリア貼ってEN回復するとか盛りすぎでは?
それはそれとして良いゲームだと思います
金でパイロット気軽に強化できるからお気にのキャラが弱くてもまぁまぁ安心
オリキャラはいつものロン毛と鉢巻と金髪とガングロがまぁまぁ強いと思います
自作キャラはまだ女キャラ一人しか作ってないしまともに育ててないけど今回は声のパターンそれなりにあって地味めな個性の声もあるのでご安心だ
そんで次回はちゃんと本筋書きます
そんな訳で、次回も気長にお待ち下さい

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