オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

8 / 206
今更ですが、この作品も含めて、多くの誤字指摘には多大な感謝を


7 炎刀、力を測り

五月二十三日、火曜日。

大田区、セントラルタワー。

未確認生命体第三十二号の犯行予告と思しき情報を元に現場に駆けつけた未確認生命体合同捜査本部の面々は、奇妙な遺体を発見した。

それは三十二号の予告通りに殺害された被害者のものなのか。

いや、そんな事はありえないだろう。

 

濃い緑と暗い薄茶の体色のそれは、所々不自然に、まるで写真を印刷したかの様に色を変えている。

怪物……いや、未確認生命体の、首なし死体。

今はそれだけしか見つけられないが、確実に、首から上もその場の何処かに落ちているのだろう。

肉の焼ける匂い、或いは、人間の焼ける匂い。

奇妙に鼻につくその匂いが、何処からか漂い、駆け付けた刑事達の鼻の奥へとこべりつく。

 

「見ろ」

 

うつ伏せに倒れていた、人間体に戻りかけた状態で死んでいる三十二号。

近寄って見れば、その凄惨な有様がわかる。

夥しい血痕、周囲には内臓の一部が打ち捨てられている。

練度の高い警察官ばかりが集められているからか吐き出す者は居ないが、通常の未確認の死体とはわけが違う。

 

「こいつは……」

 

状態を確認する為に仰向けにされた三十二号の死体。

ベルト状の装飾品は破壊され、その腹部は鋭利かつ高熱を帯びた刃で十字に焼き切られ、内部に収められていた内臓が半ば引き摺り出されているのがわかる。

四号に殺害された未確認生命体は須らく爆発し、この様な形で遺体を残すものは一部例外を除けば存在しなかった。

だが、彼等は知っている。

この惨状を作り出せる存在を。

 

「二十二号か……」

 

未確認生命体第二十二号。

四号と同じく人を殺さない個体。

しかし、その正体は謎に包まれている。

人間の味方なのか。

未確認の敵なのか。

どんな思惑で動いているのか。

 

再び、一月の時を経て活動を再開したと思われる二十二号。

しかし、今回その姿を目撃した者は、存在しない。

 

―――――――――――――――――――

 

「二十二号は未確認側の事情を、いや、彼等の装飾品がどの様な役目を持っているかを理解している可能性が非常に高い、と」

 

『ええ、爆発研究室の分析でもこれまでのヤツは腹部を中心に爆破してるって出てたのよ。二十二号は他の未確認を倒す時、絶対に腹部の装飾品を破壊してたでしょう?』

 

「なるほど」

 

二十二号によって撃破、いや、殺害された未確認が残す遺体は非常に損壊が激しい。

行方の知れない七号を除けば、顔を焼かれ、腹部を裂かれ、内臓の一部を引き摺り出されている。

これまで警察が確認できた中で、という前提での話にはなるが、先日の二十五号の様な殺し方はイレギュラーなのだろう。

だが、それでも後に周辺の交番に遺棄された二十五号の首から下の死体もまた、腹部を裂かれていた。

顔を焼く、首を切り落として置き去りにする、という行為の理由は不明だが、少なくとも腹部を裂く理由の一つはそれと見てもいいのかもしれない。

 

『じゃあなんで爆発させないようにしているのか、なんてのはわかんないけど』

 

「そうですね。……」

 

『どうしたの?』

 

「ああ、いえ。……本人に確かめる事ができれば、と」

 

『そうねぇ、でも、五代くんみたいな人は未確認じゃなくても珍しいもの』

 

「ははは。……では、引き続き、よろしくお願いします」

 

『うん、根を詰めすぎない様にね』

 

通話を切る。

榎田からの情報は、そう遠からず正規のルートで合同捜査本部にも回される事だろう。

それによって二十二号がどの様な扱いを受けるかは分からないが、その行いに何らかの意味があり、ある程度の知性や知識を持つ事は広く知られる事になる。

尤も、それで二十二号にとって有利な結論に向かう可能性は高くない。

 

『あのクウガ、あれを見れば分かる。リントは既に我らと等しい。いや、リントと我らに違いなど無かったのか、それとも、戻っただけか』

 

B1号の言葉が頭を過る。

一方的に告げられた、いや、自分に向けられた訳でもない、恐らくは独り言に近い言葉。

『あのクウガ』というのが二十二号を指しているのであれば、少なくとも二十二号が未確認の側の存在でない事はわかる。

 

少なくとも、即時射殺という事はない。

四号──五代という前例があり、そしてなにより、確認されている限り二十二号による市民への被害は一切無い。

二十五号との交戦時に現場に居合わせた一部警官達からは、二十二号を擁護する声も少なからず上がっている。

少なくとも、捕縛すべきだ、という意見よりは尊重されているのが現状だ。

 

「まったく……」

 

五代の様に、とは行かないだろうが。

せめて、二十二号の側から意思疎通を図ってきてくれれば。

そんな、愚にもつかない思いつきが浮かぶ程には、一条薫は頭を悩ませていた。

 

―――――――――――――――――――

 

「不味いよなぁ……いや、これくらいならいいのかなぁ……」

 

白んだ湯気を暖色系の照明が照らす浴室の中で誰にともなく独りごちる。

 

「?」

 

なになにー、とでも言いたげに首を傾げるジルのシャンプー塗れの頭を、誤魔化す様にごしごしと髪を掻き混ぜるように洗う。

イヤイヤをするように、しかし何処か楽しげに身を捩らせるジルに答えるでも無く思うのは、高校に入学してからの生活だ。

 

欠席一回。

現状、この程度で済んではいるけれど、今後の事を考えればこの一回も軽視できない。

勿論、このサボりは止むに止まれぬ事情があってこそ。

ガドラもガルメも、共に警官に大量の被害を出す描写が存在したグロンギだ。

そのままゲゲルの続行を許していれば、父さんを害していた可能性は非常に高い。

だからこそガドラはゲゲル開始直後に、ガルメは警察に被害が出る直前に仕留めた。

 

ガドラの時は失敗してしまったが、今回のガルメは比較的簡単に始末する事ができた。

どれくらいの強さの敵に対して戦えるか、という指標としてはガルメは下の下の下、メタさえ貼れればズの上位とどっこいどっこいな戦闘力しか無かったが、素直に始末できたので一切文句はない。

そもそも死角から不意をついてブラストペガサスで狙われて避けられるガドラが異常だったのだが

 

そんな異常な野性の無いガルメとの戦いは、授業を終えた後、家に帰らずトルネイダーで東京までの最短距離を真っ直ぐ突っ切って行く事で間に合わせる事ができた。

理屈の上では可能だとわかっていたが、実際に夕飯までに家に帰ってこれたのはガルメが姿を消せるだけの雑魚で居てくれたお陰だ。

だが、トルネイダーをモーフィングパワーでグッと伸ばして飛ばしたお蔭で、ジルを載せていく事はできなかった。

父さんが被害を受ける可能性を下げる為とはいえ、母さんが狙われる可能性を上げたのでは意味がない。

 

「流すぞ」

 

こくりと頷いたジルの頭の泡を、わしわしと揉みほぐすようにしながらシャワーで洗い流す。

シャンプーの泡が流れるのをじっと待っているジル。

その背に残された、肩口から斜めに脇腹辺りまで伸びる大きな傷跡が、お湯で暖められて赤みを帯び、その存在感を大きくしている。

触っても、本人は別に痛がらないのだけれど、体を洗うタオルでごしごしと擦るのは躊躇われる。

刺激の強い成分の入った石鹸も避けるべきだろう。

諸々を考慮した結果、無添加石鹸を泡立ちネットで泡だて、それを手に盛って、撫ぜるように洗うのがベストという事になった。

調べた結果、このやり方でも皮脂や汚れの類はちゃんと落ちるし、結果として肌にも良いのだという。

 

傷痕とその周辺は撫でるように柔らかく。

洗い方がくすぐったいのか、笑い声にならない短い息が連続し、それでも洗う手と泡から逃げる事をしない。

もう結構な回数洗っているし、最初の頃に繰り返し説明したからか、多少擽ったかろうが逃げること無く洗われている。

従順、とは違うか。

自分が出来ないことをしてもらっている、という理解があるらしい。

 

記憶喪失になったからか、元からそうなのか、ジルの性格はなんというか、素朴だ。

穏やか、という意味でなく、飾り気がないというか……。

疑いを持つ事があまりない。

教えられた事は素直に吸収する。

獣の様な、というか、説明が難しい。

 

勿論、彼女が穏やかな気質を持つだとか、他人に対して安全である、という意味ではまったくない。

巨大で強い獣が細かい変化に対して無頓着であるのと同じなのではないか、とも思う。

故に、必要でないから余計な事をしない、というだけで、したくない、というのとは別だろう。

だから、少なくとも他のグロンギのゲゲルが行われている間は、そして参加資格でもあるゲドルードを付け直さない限りは、無駄に人を殺したりはしないのではないか。

 

或いは、極端に自分を苛立たせる相手には怒りや殺意を向ける事もあるかもしれないが、少なくとも母さんはジルに対してそう思われる様な行為はしない筈だ。

母さんの中で、ジルは何処かで後遺症が残るほどの虐待を受けていた少女なのだ。そのような無体をする理由が無い。

だから、家で母さんと一緒に居たとしても、ジルはそうそう危害を加えない。

そもそも、どちらかといえばジルは家でも俺の部屋に居る割合が多く、母さんの居る居間に常駐するという事はほぼ無い。

だから、短い時間であれば、家をあけても問題ない筈だ。

 

「……絆されてるよな」

 

これだ。

ジルは、間違いなく手近な場所では野良・或いはスマブレ子飼いのオルフェノクよりも潜在的な危険性が高い。

だというのに、俺はジルに対してかなり警戒を解こうとしてしまっている。

まだ、同じ屋根の下で暮らし始めて三ヶ月程度でしかないというのに。

 

問題だ。

俺はこんなにチョロかったのだろうか。

頭の性能は明らかに向上しているのに、こういう精神的な、感情面では何故か未だに甘っちょろいまま変われずに居る。

一体何処のどいつだったか、アークルを付けて戦い続けると、何時か戦うためだけの生物兵器になる、なんて話をしたのは。

まぁ、あの説明は別にアークルの碑文を読んだ上での説明ではない。

そもそも最終的にかなり解読された碑文にその類の注意書きが無かったのだから、少なくともアークルにはその手の安全装置が搭載されていた、と取るべきなのかもしれない。

騙された、とは言えないだろう。

精神的な負荷を取り除く機能が無かったとしても、自分の身を守る為の力として見れば十分過ぎる程の性能を発揮してくれているのだから。

 

「よし、じゃあ、風呂に入るぞ」

 

頭の天辺からつま先まで隈なく石鹸を使って柔らかめのマッサージをするように洗い終え、シャワーで流して泡を落としたジルに声をかける。

ぼう、と、焦点の緩んだ瞳をして呆けていたジルは、俺の言葉にワンテンポ遅れてリラックスしきった顔でにへらと笑いながら頷く。

なすがままなされるがまま、警戒心の欠片もなく介助を受け入れる姿。

こういう姿を普段から見せられているのが、警戒心を緩めさせられる理由なのか。

 

一見して危険ではない危険物、というものの危険性は頭では十分に理解しているつもりなのだけれど、実感に落とし込むには少し難しい。

接して、監視して、得られる実感はどうしてもただの記憶喪失の虚弱少女にしか見えないというものでしかない。

隠す、演技する、というのは、基本的にそういうものだとわかっているというのに、だ。

 

湯船の中で膝の上に載せたジルを、落ちないように両手でホールド。

水の中を自由に揺蕩う感覚は海の感覚を、ひいてはあのあからさまにクジラモチーフと見て取れる変身体の感覚を思い出させる危険性があるし、そうでなくても湯船の中で座位を保てなくなり溺れる可能性もある。

この風呂は何故か俺が生まれる前からやけに広いが、体の不自由な人が入る事を考慮した作りではない。

……きっと、父さんも母さんも大きい風呂が好きなのだろう。

別の理由が出てきたらいたたまれないので、本人たちには聞いていないが。

背もたれに寄りかかる様に体重を掛けてくるジルを強すぎない力で抱えながら、天を仰ぐ。

見えるのはたっぷりの湯気と風呂場の少しだけ高い天井。

 

……安心を求める為には、どうしても危険を冒さざるを得ない。

メのちゃんと戦うグロンギで戦闘力を測りはしたものの、そのメによるゲゲルもそろそろ終わり。

次なるステージへと進む事になる。

──ゲリザギバスゲゲル。

最上位、チャンピオンとも呼べるンを除く事実上のグロンギのトップランカー達による、ンへの挑戦権を得るための、そして、ンとなった後に究極の闇を齎すための戦い。

ここまで来ると、どのゴがゲリザギバスゲゲルを成功させてンへの挑戦権を得てもおかしくない。

恐らくは誰も彼も、昇格の為のゲゲルを二度クリアしてきた歴戦の狩人、あるいは、歴戦の戦士。

その力は、メのそれと比べてどれほど差があるのかもはっきりしないのだ。

力の差は、強固さの差は、再生力の差は、戦闘経験、直感は。

俺はゴの強さとその強さの根拠となる戦歴を何一つ知らない

 

手に入れた安心の為のデータは瞬く間に古くなり、しかし不要だったかと言えばそうでもない。

ズとの戦いで得た感覚はメとの戦いに生きた。

魔化魍との殺人アスレチックでパルクールするような比べるべきでない戦いとも、オルフェノクへの不意打ちとも違う、同じ程度の力、同じ程度のサイズ感で戦う感覚は確実に今に繋がっている。

今の俺とグロンギとの戦いを始める前の俺とでは、アギトの力をほぼ完全にものにしたという点を無視しても確実に今の俺の方が強い。

強さを得ているという事は、それだけ生存率の高さが上がっていると行っても過言ではない。一概にそう言えないのだとしてもそういう一面がある事は間違いない。

 

しかし、それでも、時間の流れる速さに、状況の進む早さに、時折置いていかれそうになる様な気がして、憂鬱になる。

唯でさえ、平和に生きていくには問題は多すぎる世界であるというのに。

……ゴ集団に最も近い、と思われるメのゲゲルは、大体一ヶ月後。

どういう武器を使うかも知っているし、どう使って戦うかも知っている。

ゴの力を推測する為の指標としては、そう悪くない相手だが。

 

「もっと……」

 

もっと、強くならなければならない。

アギトの力は、戦いを明確に有利に運んでくれるだろう。

剣術も、槍術も、格闘術だって、今の時代、調べようと思えば教材は幾らでも手に入る。

だが、それはどこまで通用するのか。

もっと、明確にこれだ、と、自信を持って言える様な技術があれば。

……一つだけ、心当たりがあった。

だけど、今直ぐにその心当たりに手を付ける事はできない。

命の危機への対処だとしても、そのために人生そのものを疎かにしてしまえば元も子もない。

強くなって、何も恐れる事も無く、死の恐怖に怯える事もなく、不足のない人生を送るのだ。

 

―――――――――――――――――――

 

がん、がん、がん。

金属を叩く音が、漣の音を塗りつぶす様に大きく響く。

六月二十二日、中央区晴海船着き場、時刻は昼を回ってすぐ、十二時八分。

頭をすっぽりと目深に被ったフードで覆い隠した怪しげなコート姿の男が、船着き場の赤い鉄柱のオブジェにもたれ掛かり、手に持った石で叩いて音を立てていた。

 

明らかな不審人物の姿に、ちょうどデートに来ていたキャリーバッグを持った一組のカップルはそれを避けるように歩く。

正面、ターミナル展望台から階段を降りてくる女は、不審人物になど目もくれず、歩いてくるカップルへと近づいていく。

手には大きな鎌。

不審に思われないのはカップルが互いしか見えていないからか、ここが東京だからか、或いは晴海だからか。

 

大鎌を手にした女は、堂々とした足取りでカップルとすれ違う様な軌道で近づいていき。

大鎌を構える。

すれ違う一瞬、女は姿を変える。

蟷螂に似た特徴を備えた、女のグロンギ。

メ・ガリマ・バ。

ゲリザギバスゲゲルを目前にした、通常のゲゲルの最後のプレイヤー。

自らに課したルールは、電車に乗り合わせて匂いを移した相手のみで、18時間で288人を殺すというもの。

カップルは、二人共にその電車に乗り合わせていた。

 

ガリマが大鎌を振り上げたその瞬間、顔面に石が当たる。

メ集団最強のガリマですら怯む程の速度で投げられた石は粉々に砕け散り、炸裂音にカップルが振り返り、凶器を構えた怪人の姿に怯えながら走り去っていった。

怒りに染まった赤い瞳でガリマが石の飛んできた方向を見れば、そこには季節外れのボロ布の様なコートで全身を覆い隠した不審な男。

 

「お姉さん、ちょっと遊んでってよ」

 

ごう、と、男の身を包むコートが燃え上がり、その姿が顕になる。

金の二本角、赤い複眼、黒い肌、胸部中央にプレートの嵌め込まれた赤い装甲の戦士。

その腹部の装飾品、アークルを覆い隠す様にはっきりと実像を結んだオルタリングから、黒と金の柄が現れ、引き抜かれる。

黒と金の柄、青い宝玉の嵌め込まれた金と赤の鍔、赤い文字状の装飾が刻まれた銀の刀身。

フレイムセイバーを肩に担ぐように構え、腰を落とす。

 

「ゲリザギバスゲゲルの予習がしたいんだ」

 

「クウガ」

 

眼の前に突如現れたクウガに、ガリマは自分の口角が無意識の内に上がるのを感じていた。

メの中では、自分ほどでもないにせよ優れた戦闘力を持っていた事で知られるガドラ。

直接的な戦う力こそ優れていなかったが、この時代では唯一ゲゲルを成功させメへと昇格を果たしたガルメ。

そのどちらをも奇襲を掛けて殺した、もう一人のクウガ。

 

無言のままガリマが駆ける。

速い。

僅かに残像が残る程の加速は蟷螂の狩りに似ていなくもない。

振るう武器が、ゲリザギバスゲゲルのルールに合わせて新調した使い慣れない得物であるにも関わらず、その太刀筋には迷いの欠片もない。

振り下ろされる大鎌に合わせるようにフレイムセイバーを振り下ろし、その刃と刃を真正面からぶつけ合う。

火華が散り、ぎゃりぎゃりと音を立てながら合わせたままの互いの刃を振り抜く。

膂力にそれほどの差は無い。

技量が出るようなぶつかり合いでもない。

だが得物の差は如実だ。

 

一合打ち合ったのみで、ガリマの大鎌は刃こぼれを起こしていた。

天使の力で生み出された剣と、超常の技術を持つとはいえ通常の金属で打たれた大鎌の差だろう。

このまま打ち合えば何時か得物ごとガリマが切り裂かれるのは自明である。

このまま打ち合うのであれば。

 

「……なるほど」

 

刃こぼれを起こした大鎌は、ガリマが一振りすると忽ちに元通りの姿へと変わっていた。

モーフィングパワーにより、刃こぼれを修復したのだ。

メでしかないガリマには、小型の装飾品や手近な棒きれなどから武器を作り出す事はできない。

だが、モーフィングパワーは魔石ゲブロンが、ゲドルードが齎す基本的な力だ。

体を組み替える事が可能であるのだから、体以外を組み替える事もできる。

 

ズは強化された肉体を振り回し。

メは変化した肉体の特徴を凶器として扱い。

ゴは強化された肉体も変化した体の特徴も十全に振るえるからこそ、新たに武器を操るようになる。

 

ゴを目前にしたメであるガリマにとって、それは難しくとも出来なくはない技術だった。

 

猛然と大鎌を振り回すガリマ。

その一撃一撃がまともに受ければ戦士の身を包む装甲越しにダメージを与える程の威力を備えている。

赤い戦士は大鎌を剣で受け流し、避け、時に真正面から斬り付け、防ぐ。

互いに振るう刃が空を斬り、時に周囲に聳え立つ赤い鉄柱のオブジェを切り落とし、しかし、決着は付かない。

 

ゲゲルプレイヤーとして考えれば明らかに時間のロス、意味のある行為ではない。

だが、武人気質であり、ゲゲルに質の高さを求めるガリマにとってみれば、多くのプレイヤーを屠ってきたクウガは、最初に現れた方も、後に増えた方も、どちらもゲゲルのカウントを増やす為に是非とも狩りたい獲物であった。

それは、ただ数だけを殺して辿り着くゴの領域よりもより素晴らしいものであろうという思いが確かにあった。

狩人としてのガリマはハンティングトロフィーとして、武人としてのガリマは力の証明として、この勝負を心底から欲していた。

 

無為な刃の打ち合いの中、ガリマが咄嗟にその場から飛び退く。

次いで、一瞬ガリマが居た辺りのタイルがその表面を緩ませ、ぐつぐつと煮立ち始めた。

一足一刀分の距離の先、赤の戦士が紫の鎧を纏い、構えた赤金の曲刀が紫の直剣へと姿を変える。

ガリマにとって、いや、恐らくは多くのグロンギにとって因縁のある紫の戦士、タイタンフォーム。

刃が伸び、大きく振り下ろす為の大上段に構えられたタイタンソード。

 

それに対し、ガリマは腰溜めに、自らの身体で大鎌の刃を隠すような構え。

奇しくも居合に似たその構えは、威力こそ劣れど初速において優れ、振り下ろされるタイタンソードよりも早く届く。

姿勢は低く、狙うは紫と銀の鎧の隙間、黒い肌。

そこであれば、刃が通る。

根拠はない。

だが、確信に近い自信はあった。

 

遠くから汽笛の音が聞こえ、動き出す。

紫の戦士が振り下ろす動作を始めたのを確認したガリマは思考よりも早く、体に刻まれた本能のままに、這う様な低さで走り出した。

紫の戦士は生半な刃では傷一つ付かない鎧を身に着けているが、それ故にその動きは比較的鈍重だ。

自分の刃を後ろに動いて避ける事も、振り下ろした刃で受けることも難しい。

そう考えたガリマの肩に、タイタンソードの切っ先が『突き刺さった』

早すぎる。

そして、軽すぎるその刃を疑問に思えば、突き刺さった肩からエネルギーが注入され、封印の紋章が浮かび上がる。

だが、軽い。

まるで白のクウガのキックの如き軽さ。

見れば、紫の戦士の手には剣は無く、振り下ろされる半ばで手を開かれていた。

 

なるほど、と、内心で紫の戦士の割り切りの早さに感嘆し、しかし、嗤う。

この程度のエネルギーであれば……。

 

しかし、それこそが致命的な隙となる。

紫の戦士は左手でレフトコンバーターを押し込みながら、右手でオルタリングから二本目のフレイムセイバーを引き抜く。

封印エネルギーを霧散させんとしているガリマは動くことが出来ない。

 

さもありなん。

この時代のクウガはアークルの正式な使い方を知らぬが故にグロンギを爆発させてはいるが、アークルの生み出す封印エネルギーは本来、ゲブロンの力によって変じたグロンギを文字通り『封印』するための力。

何をする事もなく霧散させる程の力が無いのであれば、封印に対して抵抗している間は拘束されているも同然なのだ。

 

フレイムセイバーの鍔が展開し、黄金の六本角に。

前腕フレイムアームズから発生した七千度の熱がその刀身に移され、陽炎を帯びる。

ガリマが封印エネルギーから逃れるよりも早く振り下ろされた刃は、その脳天を叩き割る。

熱したナイフでバターを斬るように割られた頭部は焼けただれ、内部の油を燃料に激しく燃え上がった。

そして一歩踏み出したアギトの手により刃を押し込まれる。

鋭さよりも最早込められた熱量で焼き切られ、腹部の辺りでゲドルードを切り裂きながら引き抜かれた。

 

脳天から腹部までを切り裂かれ、唐竹割り寸前にまで持っていかれたガリマの死体。

ゆらゆらと倒れる事無く不安定に立ち続けるその死体の腹部に赤い戦士の手が潜り込み、もう片方の手で死体が押された。

スローモーションの様にゆっくりと後ろに倒れるガリマの死体。

その腹部から、無数の神経を生やした血塗れの瘤の様な物が引き抜かれる。

瘤から肉体に繋がった神経で倒れる寸前で止まった死体を、足で押さえて地面に倒す赤の戦士。

ぶち、ぶち、と、音を立てて千切れていく神経。

瘤……神経に包まれたゲブロンを失った肉体は緩やかにその肉体を元の人間のそれに戻し、怪物と人間で作ったモザイクの死体だけが残される。

 

赤い戦士はしばし手の中の瘤をフレイムセイバーの根本で削り、瘤の中から石、ゲブロンが見えてきた辺りで満足気に頷いた。

 

 

 

 




☆もうメも雑魚程度なら戦闘シーンカットしてお風呂シーン入れるマン
ここは日曜朝8時ではないのでお風呂シーンもある。読者サービスではなく純粋におフロシーンが書きたかっただけなので勘違いしてはいけない
初めにジルは自分がお風呂に入れると言った後母親にすごい顔で見られ、数ヶ月経っても何の間違いも起きていないのを確認し、それはそれで変なものを見る顔で見られ、もしかして女に興味がないのかと疑われて個室のベッドの下や屋根裏を探られる
なお母親に女の趣味がバレるという結果だけが残った
女の形の不発弾を洗って勃起する様な特殊な趣味はないけれど、最近これはただの無垢な子供なんじゃないか、くらいには絆されてしまっているみたい
全裸の女の子をお風呂の中で全裸で膝の上に乗せた状態であいにーどもあぱわーとか考えるのはそれはそれでどうなんだろうかとちょっと思う
だってもうクウガ原作で言えば折り返し地点を過ぎちゃってるから仕方ないね
大体月一で学校をサボる
親に連絡が行っていないのだろうか、行ってたら指導されそうっちゃされそうだけど、たぶん普段の授業に対する態度は普通に良いのでそれほど疑いは掛けられてない
世界の秘密を知るまでは普通に将来のために自己開発していたので文武両道
文武両道なだけでたった一人が戦いを続けられる世界かは不明
後のアギト編とか響鬼編とかでどうにか理解者を増やせればいいかもしれない
何気に素晴らしき青空の会とか良いと思うんですがどうですかね
なお所属すると人間関係の描写が面倒なので多分そういうのは無くなる
無難なのは猛士に入って弟子入りするなりグロンギ脳を生かして開発を手伝うなどしてディスクアニマルの扱いを覚える事である
今回ガリマ姐さんを開きにしそこねたせいで五代さんがライジングに目覚める切っ掛けとかスルーしちゃったけどそこらへんのフォローは多分次回冒頭とかでやる
たぶん次回か次次回に修行編があった事をほのめかすか修行シーンを挟んだりするかもしれない
なお、一期を振り返るとか言ってる割に二期の要素がちょいちょい見えたりその関係で昭和勢の影が見えたりするけど、そこらへんの設定はうさぎみたいにふわふわしてるので気にしちゃいけないぴょん
ガリマさんの戦闘力に関して特にコメントが無いのは大体予想の範疇だから
赤の戦士×赤の戦士はフレイムフォームの鈍重さを改善しつつバランスを取れる万能型
なおアギト完全覚醒により、フォームは組み合わせタイプから重ね着タイプになり装甲値が強化された
生き残り重点なので可動と機動力を損なわない装甲の強化は
カメレオン型?
居たね、今は居ない

☆警察側
Qまた二十二号か……みたいな事言ってるけどそんなに二十二号活動してないよね?
A悪印象は記憶に残りやすい
でもベルト割いてる理由くらいは理解されてきた、さすが榎田さん、家庭を犠牲にして仕事に勤しんでるだけのことはあるぜー!
もうちょっと家庭を顧みても良いかもしれない
一条さんはもういっそ五代くらい体当たりで来てくれれば、みたいに思ってる
でもどうせ五代みたいに意思曲げない系なんだろうな、という予感があるので頭が痛い
そんな一条さん、今回ガリマさんが開きにされてる裏で桜子さんとティータイムしてたりしたのだ
お食事とかじゃなくて良かった……食後に見る半人間の焼斬殺死体は胃に来るからね
五代さんが倒したグロンギの死に方、残された死体、そして腹部から何かを引き抜かれたグロンギの死体と材料が揃ってる
……ふと思うんだけど、大量のグロンギの死体がダグバの手によって作られて警察側に引き取られるよね
つまり魔石ゲブロンとゲドルードが警察の手に渡る訳で
そんな警察が翌年にはアギト捕獲だとかアンノウン保護だとか言い出して、更に数年後にはオルフェノクを改造したりするので……
リントは本当の意味でグロンギと等しくなるのかもしれない

☆薔薇の人
「なんやあれオモロイなぁ、絶対ウチラの側やろあれ。やっぱリントも侮れんね!」
くらいの意図で言った(意訳)
この人のクウガに対するスタンスが絶妙に謎で動かしにくい感はある
プロトクウガとの戦いの場所を最初の屈辱の丘とか言ってるのでリントに負けるの悔しいって気持ちも無いではないのかもしれない
戻った云々は設定の謎にかまけてイコン画の時代の話をしている感じ
神の横暴を恐れた天使に力を与えられ洪水以前の凶暴性と傲慢さを強化したグロンギと、争いを忌避し文化からすら消し去ったリント、みたいな
誰か読者の中にラ集団所属の一般グロンギの方居たら実際クウガとかどんな気分で見てるか教えていただけると嬉しいです

☆カメレオンの人
特に見どころ無く死んだ
何が悪いってフレイムフォームが悪いしこいつの体質も悪い
ちょっとした閃光弾くらいモーフィングパワーが無くても余裕なのに、相手はモーフィングパワーを持った超感覚持ちのアギト兼クウガだった
しめしめ見えてないぞ……とかやってたら舌を切られて閃光玉投げられて首はねられて腹裂かれて死んだのだ
でも被害者はちょっと出してるし、前回のゲゲルも合わせれば結構殺してる
殺し合いでなく狩りをするのがゲゲルなので基本的にはこっちが正しいプレイスタイル

☆振り向くな!
犠牲者0人
封印エネルギーをある意味正しい使い方で使われて死んだ
凄く強い、という設定はあるけれど、元からこの人メとゴの違いを見せたり五代さんをパワーアップさせたりする様な位置にいるので……
でも最初の犠牲者の首がズレる描写がトラウマった人は多いのではないかなと思う

☆最早ただの平和の象徴みたいなやつ
主人公が絆されて来ているので不発弾描写が無い
このままだとただの平和な置物なので、アギト編では少し盛り返す
それまではただのヒロイン
TDNはヒロインだった……?
因みに漠然と背が低い、ちょっと細め、という以外は身体的特徴がそれほど描写されてないし、ゲブロンもゲドルードも無いので無事に連載が続けば多少デザインは変わるかもしれない
オルフェノク関連の設定やらアギト関連の設定をレッツらカキマゼール!とこねこねした結果、不発弾グロンギヒロインと純粋ヒロインをベストマッチできる未来が見えてきた
頑張れ書いてる人、頑張れ書いてる人、お前はできる、お前はできる……(自己暗示)
できなかったらただのヒロインで進めるのでご了承ください
TDNはヒロインだった……?(無限ループ)

次は多分夏休みか夏休み明け
実時間ではなく作中時間で
ちょっとクウガと関係ない場所行くかも
今作はあくまでライダー系でまとめるから多少の寄り道は許してね
それと資料集とかで事件の時系列追ってるとゴがヤバイ
翼を引きちぎっても二時間くらいで完全再生するとかなんだこの生き物
しかも翼の質量分ドカ食いした描写とかも無い辺りかなりゲブロンの力で補える臭い
化物かよ……なおクウガ期の後の大量のゲブロンの行方
等しくなっちゃう~↑
こういう伏線が拾われずに適当に捨てられてもめげないのがスコッパーの必須スキルなのだ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。