オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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86 平和な街、密やかに蠢く

轟雷の部屋、と聞くと、飾り気のないシンプルな部屋に無骨なロッカーが置いてあり、その中にバズーカやナイフ、弾薬が置かれ、ロッカーの外にも少しのサバイバルキットの様なものが纏められ、取り繕う様に大きなぬいぐるみが置いてある、という公式の物を思い浮かべるだろう。

何しろペーパークラフトでキット化までされている。

 

だが残念なことにこの時代、コトブキヤはFAGどころかオリジナルであるFAの方すら発表していない様な状態であり、公式などというものは影も形も存在していない。

そもそもの話、この轟雷は今でこそあの喫茶店で運用しているが、FAGは将来的に人間社会に紛れ込ませるスパイユニットの様なものとして運用するつもりで開発している。

純粋な戦闘ユニットとして作っているのではないため、当然、人間の中に紛れる為に人間らしく振る舞う必要が出てくる。

念の為にデッキをベースとした武装ユニットを内蔵しているので何時でもバトルモードにはなれるが……あくまでおまけだ。

 

そんな訳で普段の生活空間にはそのまま人間性の成長度が現れていると言っていい。

休憩スペースとして充電くんを利用する事も勿論出来るが、それとは別に寝台の一つも無いとなると問題ではある。

物事に対する好き嫌いなどが現れればそのまま雑誌(この時代だとまだ何でもネットで済ませられるという程ではない。特に一般的なオシャレなど)や小物、雑貨などに見て取れるだろう。

最近ではいにゅいとの交流が中々に深まってきたので、それなりに人間らしさが現れている頃かな、とも思ったのだが……。

 

「ちゃんと生活できているようで何より」

 

想定よりも、部屋の内装が揃っている。

クローゼットの中には予め用意していたものとは別に幾らか私服が補充されており、追加された家具類には轟雷が育んだであろう独自のセンスが光っている。

可愛らしい犬ころが大きく写ったカレンダーなども前には無かった筈だ。

化粧品の類は見当たらないが、身だしなみを整えるためだろうか、それなりに大きく見やすい鏡があり、ファッション誌らしきものも置かれている為、手を出すのは時間の問題ではないだろうか。

 

「いえ、私もまだまだです」

 

お茶の乗ったお盆をちゃぶ台の上に置きながら座るその動きもスムーズに謙遜してみせる轟雷の動作はまさしく人そのものだ。

その動きそのものは潜入用の人型ボディを与える段階で仕込んでいた動作パターンの一つではあるのだが、そこ以外にも見るべき点は多くある。

差し出された茶をぐい、と呷る様に飲む。

熔けた鉛をジョッキで飲んでも死にはしない俺でも、このお茶が明らかに(ぬる)めなのはわかる。

これなら、仮に猫舌でも楽に飲めるだろう。

 

「最近、なにか変化は?」

 

「いえ、お店はいつもの様に変わりなく……」

 

と、言いつつ、向かいに腰を下ろした轟雷は正座のまま、もごもごと口ごもっている。

 

「お店はともかく……もしかしたら私、ちゃんとメンテナンスを受けたほうがいいのかもしれません……」

 

「ん? ……ぱっと見だと、正常に稼働しているように見えるけど?」

 

「普段はそうなんです。仕事をしている時も、家に居る時も」

 

でも、と、一息。

ちゃぶ台の上に湯呑を置いて空になったお盆を両腕で抱え、顔の下半分を隠すように掲げてみせた。

 

「でも、ある方と一緒に居ると……」

 

「……主機が過剰に回りだす?」

 

「はい……」

 

「手が触れたりすると、熱くも無い筈なのに熱が残る様な?」

 

「はい……、凄いです、ドク。まさか姉さんの方で似たような故障報告が?」

 

「いや」

 

あっち(アーキテクト)から送られてくるのは占い師さんの三食の献立とか近所のネコスナップとか占い師さんのうっかりエピソードとか夜中にトイレに起きてきた占い師さんの面白名場面集とか今月のおすすめ映画レビューとかばっかでそういう報告は無いなぁ。

だが、今の轟雷が患っているものは分かる。

それは病だ。

医者や温泉でも、ましてモーフィングパワーでも直せない不治の病。

 

「轟雷、俺がここでその不具合の原因を説明してやるのは容易い。だが、それではお前を現代社会の片隅に送り出した意味が無いのだ」

 

「そうなのですか?」

 

こて、と、首を横に傾ける轟雷。

 

「うむ。だが安心していい。それらの動作は不具合から来るものではない。いやむしろ、その原因を理解した時、轟雷、君は新たなステージへと登る事ができるようになるだろう」

 

「新たなステージ……それは、今よりもっと、誰かの役に立つ事ができるようになる、という事でしょうか」

 

「概ねそのようなものであると思って貰って構わない。それがいにゅいの為にもなろう」

 

「いにゅいさんの為に……はいっ! 私、がんばります!」

 

ふんす、と、鼻息も荒く頷く。

順調に懐いてくれているようでありがたい。

最近は殆ど毎日家に送ってもらっているようで、轟雷側もその御礼にと帰り道のスーパーで食材を買って家でごちそうしようともしているらしい。

これなら、()()にいにゅい一人だけで遭遇する事も無いだろう。

いや、そもそもいにゅいをあの場に居合わせる必要も無いのだけど。

 

―――――――――――――――――――

 

今更の話であるが、ここで真実を告げておかねばならない。

人類に敵対する種族を抹殺したり、敵対種族を抹殺するための獣型無人兵器や人間に擬態した半生体ガイノイドを作ったりしている俺だが、それは世を忍ぶ仮の姿の中身でしかない。

実のところを言えば、俺は来年の初めに受験を控えた高校3年生だ。

 

「そういう訳で流石にバイトは辞めることになったわ」

 

昼に発生する申し訳程度の客入りのピークを過ぎ、ぼちぼち店内で閑古鳥がくつろぎ始める時間帯、俺はいにゅいにそう告げた。

 

「そうか……まぁ、仕方ねぇな」

 

そう、仕方ねぇんだ!(ウイングガンダム乗りのおっさん感)

実際問題、いにゅいへの繋ぎ、という点で見れば充分過ぎる程だと思われるし、これは最悪切れてもさほど問題ではない。

人類に味方する正義感の強い戦士は多く居れば居るほど良いが、それが俺とはっきりとした人脈で繋がれている必要は必ずしも無い。

死に急がないよう、人がよくストレス耐性の高い戦士として長持ちして貰う理由としては、もう轟雷がその役目を果たしてくれるだろう。

 

「多少客が増えてるけども捌ききれないという数ではないし、俺が抜ける代わりに二人の新人を店長さんには紹介しているからね、忙しくなる、って事は無い、筈」

 

「……前に言ってた変な助っ人じゃないよな?」

 

「変な助っ人ではないよ! とても役に立つから安心してね!」

 

新たな新人バイトとして投入予定の源内シロと源内クロ……マテリア姉妹は幾つかの電脳を繋いで作成した知能育成用VR空間での試験運用で見たところ、少し無許可で雇われ先の資金を私用の為に使い込む癖があるのと、少し振る舞いと私服がえっちぃだけの善良なFAGだ。

女子制服として採用したメイド服はロングスカートに長袖という肌の露出少なめのヴィクトリアンスタイルなのでとりあえずパッと見の風紀の問題は発生しないだろう。

FAGとしての肉体と魂を与えるにあたって、轟雷から得たウェイトレスとしての技能もインストールしておいた為、新人教育の必要もほぼない。

店の賃金を着服してはいけない、という話はしていないが、これは基本的に世間一般の常識と照らし合わせれば言う必要がないものとして言っていないだけなので、店の収支が合わなくなってもそれはけっして俺のせいではない。

 

「因みに新しい二人はエッチな雰囲気を出してると思うけどただセクシーなだけの近親レズ双子なので手出しは難しいから止めておいたほうがいいかな」

 

「しねぇよ」

 

住居は轟雷と同じアパートに二つ部屋を用意したが、別々の部屋も狭い部屋も嫌という事で壁をぶち抜いて一部屋にしてしまった。

また、この絶妙に流行らない店を積極的にかつ不自然でない様に緩やかに来年春の大学入学までに叩き潰して店舗の権利を買い取る為に逐次FAGを投入する予定の為、轟雷の使うアパートはオーナーを札びらで引っ叩いて権利を譲って貰っている。

俺は物事を解決する為には暴力も躊躇わない性質だが、金で解決する事ができる問題は金で解決するのがスマートだろう。

無論、大企業の株の買い占めなどは今の資金でやるには面倒だし、やりすぎると後世に記録が残って悍ましき未来人どもに何らかのヒントを与えかねないので出来かねるのだけれども。

 

「そういう訳で、多分一緒に働けるのもあと何回か、って感じなのだ。悲しい……」

 

「そうか? 俺はせいせいするけどな」

 

適当にコップを磨きながら生返事を返すいにゅい。

同じ様に、次に少なからず客が来るであろう夕刻に向けて適当にメニューの仕込みを済ませながら答える。

 

「俺はいにゅいのそういう発言を適当にスルーできるからいいけど」

 

「良くはねぇだろ」

 

「轟雷にはちゃんと、わかりやすく話してあげてな」

 

「…………おう」

 

んー?

……ほほーん。

随分とまぁ素直じゃあないか。

よしよし。

よーしよしよし。

 

「何ニヤニヤしてんだ。気持ち悪ぃ」

 

「いやいや、俺は嬉しいんだよ。轟雷は大げさに言えば義理の娘のようなものだから」

 

「だったら、俺みたいのが近づいたら嫌がるもんだろ」

 

「いにゅいみたいのが一緒に居てくれるなら安心できるって話さ」

 

「………………言ってろ」

 

磨き終えたコップを棚に戻し、ぷいっ、とそっぽを向いて、店内のゴミ箱の中身を纏め、裏口から店の外に向かういにゅい。

店の裏にゴミでも捨てに行くのだろう。

今捨てに行く必要も無いのだけど、いにゅいは素直に褒め過ぎると会話を打ち切ろうとしてこういう不自然な行動を取ってしまったりするのだ。

そういうところが人気の秘訣なんだぞお前ぇ、可愛い奴め。

 

「ただいま戻りました。……どうかされましたか、ドク」

 

「いや、どうにも楽しくてね」

 

「わかります! こういうお店のお仕事、やりがいがありますね!」

 

「そうそう」

 

「ドク、私、このお店で働けて、この身体になれて、本当に良かったなって思うんです!」

 

「そうだろうそうだろう」

 

ぱっ、と、花開くように笑う轟雷に適当に相槌を打つ。

まぁ、轟雷の場合は店の仕事を通して情緒も一緒に成長しているから、店の仕事というよりも見るもの全てが未知で楽しいものに見えている頃だろう。

だが。

だがしかし、世の中はそんな楽しいものばかりではない。

無論、客商売である以上、この店が如何に繁盛していないとしても面倒な客もきたりするのだが、それに嫌がる程の情緒はまだ芽生え始めくらいでそれほど問題になっていないのだが。

そういう、面倒な客という、客商売をしていれば少なからず遭遇する面倒、という、人間らしい日常を全て破壊する邪悪もまた、この世界には存在しているのだ。

……ふむ。

 

「轟雷」

 

「はい?」

 

「夜道はあぶない。いにゅいに送ってもらうにせよ……変な寄り道はせず、トラブルは避けて、早めに帰るように」

 

「? はい、わかりました……?」

 

訝しげ、という程ではないが、何故このタイミングで言われたか分からない、という風に首を傾げつつ、轟雷は素直に頷いた。

 

―――――――――――――――――――

 

さて、年の瀬迫る十一月。

それも半ばに差し掛かろうともなれば、秋の盛り、紅葉も終わり、世間全体が冬支度を始める頃だろうか。

こればかりは土地によって、年によって異なるところだろう。

だがどんな気候であろうとも、一般的な受験生はこの時期は勉強漬けでそれ以外の何かをする暇は無い。

 

それは俺もそう変わるところではない。

無論、学業の面では不安など抱きようも無いのだが、だからといって一人フラフラとしていれば真面目に学業に取り組んでいる学友たちから白い目で見られてしまうし、悪目立ちしてしまう。

この世界において、変に目立つというのは推奨されない。

身だしなみは整えて、流行は最先端は追わず、変に遅れもせず。

人混みに不自然無く紛れ込む事ができる、何処にでも居る一般人、というのが、平和に生きる上での処世術だ。

と言いつつも学業において優秀な結果を残してしまってはいるが……。

優劣が存在する以上、上位のもの、トップのものというのは確実に存在する。

学業面での優秀さは実はそれほど目立つ項目たり得ないのだ。

 

そして、その優秀さを目立たないものにさせる為にも、俺は普段からちゃんと勉強を積み重ねている。

常からまっとうな勉強時間を用意しておけば、優秀な結果を出してもそうそう文句は出ない。

まっとうな勉強時間を作るため、難波さん単独で家に上げて二人きりで勉強する時間は多少少なめにしているくらいだ。

また、難波さんと別の友人、或いは難波さんが別の友人と勉強をする事で難波さんの学業面での優秀さも知れ渡り、ああ、頭のいい人同士が勉強でも高めあっているんだな、という認識を広める事ができ、今の立ち位置に不自然さを出さずにいる事ができる。

 

実際は、一度学んだ事を軽く復習することこそあれ、勉強していることになっている時間は大体が技術解析、開発、兵器製造プラントの調整案の作成、試作などにあてているのだが……。

外に見せる優等生ロールプレイというのは重要だ。

だが、それにしても完全に勉強漬けを装う必要はない。

一般的な学生とて、受験勉強の合間に頭と身体を休めるリフレッシュの日を設けているのだ。

俺がそれをしても何処からも文句は出まい。

 

今日は十一月十六日、土曜日。

今年の春から全国で採用された完全週休二日制のお陰で、こうして土曜の真っ昼間から東京の地に足を運ぶ事ができているのだが。

……今年からなんだよなぁ……。

俺、来年から大学だからこの制度殆ど関係ないし……。

こういう面で見れば、一回目の生より早い時期に生まれた事はデメリットかなと思わないでもない。

この世界生まれという時点で計り知れないデメリットを背負い続けているとも言えるのでほぼ誤差のようなものなのだけれど。

 

来年からの休みどうこうは置いておくとして、少なくとも今日は学生であればおおよそ誰もが平等に与えられる休日であることに変わりはない。

無論、今日この東京に足を運んだのもただただ休みを満喫する為ではなく、所用あっての事ではあるのだが、幸いにしてその用事は夜になるまで発生しない。

組織のボスの方針すら無視して活動する派閥であっても、現時点で人類側に事がおおっぴらに発覚するのは不味いと判断する程度の脳味噌はあるらしい。

小癪だと思うし死ねと思うけれど、伊達に数十年に渡ってオルフェノクの保護と研究をしつつ人間社会に蔓延っていられた訳ではないという事なのだろう。

 

故に、被検体候補が流星塾の同窓会を襲撃する時間までは、適当にぶらついて時間を潰していく。

油断をするべきではないが、少なくとも流星塾を襲うオルフェノク程度ならば、二十二号ではない陽炎でも手軽に鹵獲が可能な筈だ。

超再生能力や分子制御などという超常を持ち出すまでもない。

なんなら超能力だって縛ってもどうにかできる、筈だ。

だからといってそれらの能力を使わない、なんて事はありえないのだけれど。

少なくとも、夜になるまで延々脳内シミュレーションを繰り返す必要があるような敵ではない。

 

すっかりお馴染みになったと思う東京だが、それでも滞在時間も、戦い以外で長居する事もそうそう無い為、見覚えのない景色は幾つもある。

夜までの自由時間というと長いように思うかもしれないが、東京全土を見回るには明らかに短い。

こういう半端な時間は、見知らぬ土地をめぐりつつ、食事などハズレを引きたくないタイミングでは馴染みのある店に立ち寄るのが妥当だ。

まず、少し前まで勤めていたコーヒーショップを除外。

ここの食事は基本手を抜ける所は手を抜いて作っているし、コーヒーにしても適当な器具があれば再現可能なスタンダードなブレンドの豆しか使っていない。

 

「あらぁ、ハカセ?」

 

なので、店の前を通りがかりに少し様子を見ていくだけのつもりだったが、店の前では薄い桜色に近い白髪の少女に見えるFAG、シロが箒で掃除をするフリをしてサボっていた。

ゴミがない所で優雅に箒を動かしている様はそうそう見れるものではない(FAGの運用環境下には大概充電くんか強化ルンバを配備しているし、シロクロは性格上雑用を殆ど自分でやらない)ので、客引き代わりにはなっているかもしれない。

 

「はぁい、調子いい? 店の売上は?」

 

「全然ねぇ。あれじゃ全部合わせても新しいベッドも買えないわぁ」

 

箒から片手を離し、頬に指先をあてて困ったようにため息を吐く。

ぬったりとした蜜の如き口調に気を取られていると、明らかに店の売上を全て私用に使おうとしている点を見逃してしまうかもしれない。

マテリア姉妹のシロとクロは、その見た目と口調、振る舞いで人を惑わし魅惑し、その隙に好き勝手して店舗、職場環境を破壊していく毒蜜の様な性質を持ったFAGだ。

まともに運用しようと思ったらこの姉妹を活動組織の資金周りには絶対に関わらせてはいけないのだが……。

今回は俺の命令で、なにかするなら極力ばれないように気を使うように動かしているので、不運な以前のバイト達の様にクビになることはないだろう。

 

「まあ、何ヶ月か積み立てて行けば買えない事もなかろ。無理そうならメールの一本もくれればある程度は融通するよ」

 

「あらぁ、お優しい。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしらぁ」

 

「しっかり()()を熟したらな」

 

「わかってるわよぉ」

 

「ならいい。それじゃ」

 

「なにか食べて……いかないわよねぇ」

 

「ここで食うくらいならココイチでも行くよ。じゃ、いにゅいとクロと轟雷によろしくな。帰りは夜遅くならないように」

 

「はぁい、ハカセもお気をつけてぇ」

 

ひらひらと手をふるシロに後ろ手に手を振り、店から離れる。

ココイチだってすごく美味いという訳ではないが、トッピングと辛さを選べるからあの店よりもマシだ。

なんならファミレスでもいいのだが……。

いざ飯となると、何処に入るか迷うものだ。

そして迷った時には馴染みのお店。

…………カフェ・マル・ダムールに行ければなぁ。

マスターの作る、さばの味噌煮が恋しい……。

 

いや、我ながら未練がましい。

あそこに立ち寄ったら絶対気まずい気分になるに決まっているのだ。

本人が居なかったとして、あの場所はあの人を想起させるものが多すぎる。

ときめくな俺の心、揺れるな俺の心、ああいう感情は覚悟を鈍らせる。

 

こういう時は心機一転、思い切って新規開拓だ。

ハズレを引いたら速攻で食べきって、ポレポレに行って四号カレーで口直しをしてしまえば良いだろう。

あそこのおやっさんは二十二号の事をそんなに悪いやつじゃないんじゃないかと評価してくれているし(多少切り抜きをファイリングしてくれていた。ちょっと嬉しい)、贔屓にするには花が無い店だが、たまに金を落とすのも悪くない。

 

―――――――――――――――――――

 

まぁ落とさないのだけれども。

意外にもそんなに登ったことの無い東京タワーに行く途中で、いい感じの洋食店を見つけられたのは僥倖だった。

Bistro la Salle。

現時点ではここに訪れる理由が欠片もないから探さなかったが、単純に飯屋として見てもとても素晴らしい場所だったので、今後はたまに利用させてもらうことになるかもしれない。

 

食後は少し東京タワーに正規ルートで登ってみたり、内部の売店を冷やかしてみたりしつつ、現時点では東京一の高さを誇る建物から東京を一望してみた。

ああいう高いところから街を、そこを行く人々を見ると毎度思うのだが。

俺の眼が、超感覚が、人間に擬態した連中を簡単に見分ける事が出来れば、という事だ。

もし、俺が東京中の、日本中の非人間を見分ける事が出来たなら。

それらを遠隔で灰にするだけで、もう少し安心して日々の生活を送ることができるだろうに。

 

そんな事を考えた日には、街中を歩くだけでも背筋に嫌な感覚が湧き上がるのだ。

東京という街はつくづく人が多い。

田舎町に暮らしているとそうそう出くわす事のない雑踏というべき人の群れ。

その中の、どれくらいが人間で、どれくらいが元人間で、人間を喰らう化け物で、どれが人間に化けた虫なのか。

それは何時まで人間のフリをし続けるのか。

何時隣を歩く人間に牙をむくのか。

それが自分に向けられるのか。

俺の知らない場所で、俺の知る俺の友人知人へと向けられやしないか。

或いは、或いは、或いは。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だが、それをする訳にはいくまい。

それをしてしまえば、俺はたちまち狩る側から、狩られる側に回ってしまうだろう。

倫理や人道などという話ではなく。

そういう事をした時に限って、これまで駆けつけて欲しいタイミングで現れなかった、人類の守護者の如き仮面の戦士が現れる気がしてならない。

だから、俺はそれをできないし、するわけにはいかない。

この群れの中の異形が、これから何処かでいつか人を殺して喰らい化けて成り代わり生まれ変わると知りながら、それを全て見過ごすしかない。

 

ああ。

()()()()()()()()()()

都会で、町並みも綺麗で、色んな物があって、色んな店があって。

自分の力が、未だ持って必要十分たり得ないのだと、嫌という程教えてくれる。

 

ざ、と、自分の足音で我に返る。

人混みに思いを馳せていたら、人混みから遠ざかっていたらしい。

ぼー、と、遠くから響くのは船の汽笛か。

東京は海の近い街ではあるが、だいぶ海辺に近づいていたのか。

耳を澄ませば、波の音も……。

 

「……?」

 

金属音が鳴り響いている。

それは勿論、楽器を叩くようなものでも無ければ、ストンプの様な陽気な音楽でもない。

剣戟、打撃、ともかく、破壊目的で行われる金属が硬いものにぶつかる音だ。

かつて未確認が跳梁跋扈し、今なおファンガイアにオルフェノク、ワームなどが潜在的に活動を続けている以上、珍しいだけで驚くような音ではない筈だが……。

 

いや、違うな。

()()()()()()()()()()()()だ。

警察の装甲服部隊にせよ、アギト部隊にせよ、その相手は大体が生命体で、外装を纏う事の少ない敵を相手にする。

金属同士が連続でぶつかり合う、という状況は、装甲服を纏った人間同士が戦うのでなければありえない。

ファンガイアやオルフェノクの肉体が金属の様に頑強だったとしても、ぶつかり合う時の音は金属のそれでは決して無い。

 

「くぅッ!」

 

一際大きな金属音と共に、痛みを堪える様な女性──なごみさんの声が響いた。

 

―――――――――――――――――――

 

瞬間、交路は走り出した。

一瞬でトップスピードに到達する疾駆。

転移を使わなかったのはなけなしの理性からだろう。

音の出処に走りながら懐からデッキを取り出す。

その動作が終わるより先に、交路の目の前に金属音の正体が写り込んだ。

 

半身を前に出し、その先端にイクサナックルを置く独特の構えを取る白い鎧の戦士、イクサ。

しかし、その仮面は半ばから砕け、バチバチと放電しながら装着者の素顔を曝け出している。

砕かれた、というよりも、鋭利な刃物で切り裂かれたようにも見える。

いや、頭部だけではない。

対ファンガイア装備としては最高峰の性能を誇るはずのイクサ。

その全身はところどころがべっこりと凹み、切り裂かれて内部の倍力機構を曝け出している。

現状のイクサが平常時と同じく強化装甲服としての性能を発揮出来ているかは怪しい所だ。

少なくとも、刃物によるものと思われる傷は装着者にまで到達しているのだろう。

切り裂かれた装甲から、露出した頭部から、無視できない量の血が流れ落ちている。

 

ばん、と、一際大きく交路の足音が響く。

人間としての姿は保ちつつ、しかし、その皮膚から一枚下の筋肉、神経、骨格が作り変えられ、踏み出した足裏には炎の如きエネルギーが。

 

跳躍。

 

声も無く、変身の為の時間すら惜しみ、未だ姿を完全に捉えていないイクサと相対する異形へと矢の如く飛ぶ交路の蹴り。

封印の文字すら刻まれていない、純然たる破壊力として発現した生命エネルギーを纏った蹴り足が突き刺さり、銀の異形が横っ飛びに吹っ飛ぶ。

跳躍のエネルギーを全て相手に叩き込んだ交路がその場に着地。

吹き飛んだ相手は、がりがりと地面を削りながら十数メートル転がり、しかし、機械の駆動音を鳴らしながら、何事も無かったかの様に起き上がる。

放たれたのは純粋な破壊力だけで高位のミラーモンスター、いや、エルロードすら粉砕する外見を人間のままにした取れる半戦闘形態での必殺の一撃。

しかし、起き上がった異形の身体に、これといって外傷らしきものを見つける事はできない。

完全な無傷だ。

 

「お前は──!」

 

背後にイクサを庇い、激情に沸騰していた交路の思考は、眼の前の異形の戦士の姿を見て、一瞬にして冷静さを取り戻した。

全身を覆う銀の装甲。

機械的な、頭部に頂く細い四本のアンテナ、人より大きく、しかしライダーのそれよりは小さい緑のカメラアイ。

肘、肩、腹部、左胸に入った赤。

背中に小さな羽の如く背負う二丁のブーメラン。

そして、まるで仮面ライダーを模しているかの如き、緑の二つの球体を備えたバックル状のパーツ。

 

「怪魔ロボット、デスガロン……?!」

 

 

 

 

 

 

 




色々な予想を覆していく
555編の初戦はコヤツ
お釈迦様でもわかるまいて



☆休日を満喫していた何処にでも居る何の変哲もない受験生
この世界の雑踏とか擬態した怪人の見分けがつかない状態で歩いてたらSAN値減りそう
スワンプマンは誰だレベルの話ではないだろうか
そんな不安定な気持ちも何処かに吹っ飛ぶ新たな出会い
亡国の戦士との出会い、そして別れ……(予定)
メカだから鹵獲できたらすっげぇ技術革新が望めるね!
これだから東京は止められねぇぜ!
とは考えられず、実際めっちゃ困惑している
そもそもRXを解析して対抗する為に作られたロボって時点で大体の平成ライダーは歯が立たない疑惑がある
最初に困惑よりキックを先に出せたのはイクサの人の状態を見てベルトの制御よりも速く頭に血が登ったからやで

☆いにゅいと轟雷とシロとクロ
もういにゅいは轟雷の事を頼まれたらちょっと黙った後に素直に頷いてくれるし、轟雷の中の赤い実だって弾ける寸前だし、喫茶店の経営状況を追い詰めるために放たれた刺客であるシロクロはそんな二人を暖かく見守りながら店の売上をどうにかするし
あとは時間が流れるままに任せれば二人は結ばれて店は緩やかに潰れるんだけど
そうは問屋が卸さないことになった
少なくともマテリア姉妹はいにゅいと轟雷が一緒に帰るのを邪魔したりはしないし、夜は早く帰れって言われても閉店まで仕事してれば夜になるし
夜になると、すっかり遅くなっちゃいましたね、あの……よかったら、お家でご飯、食べていきませんか?
みたいな夜会話が発生して食材を買い込むイベントが発生して
買い過ぎちゃいましたね……あれ、あっちの方でなにか……?
という具合に進むと思うけどその過程はたぶん地の文で流してイベント開始時点までカットカットカットォ!
って買いて思ったけどFGOは流行ってるけどもうメルブラの方はプレイした事ある人少なくなりつつありそうよね
そもそも格ゲ自体最近はやや復権しつつあるけど昔ほど広くプレイされてるわけでもないし……

☆イクサの人(仮面割れ)
かっこいい変身ヒーローのマスクが割れて美女の顔が露出するというのも乙なものにゃんねぇ……
放置されてたら流石にイクサシステムが万全だったとしても死んでた
でもこの時点で死んでないってのもおかしな話だけど戦闘経験とかでどうにかなっていたのかもしれない
ところでこれまでにない絶体絶命のピンチの瞬間にまたもや年下の男の子が颯爽と現れたわけですがどうなんだい
どうなんだい!

☆怪魔ロボットデスガロン
仮面ライダーRXの能力を解析し、これを打倒する為に設計開発された怪魔ロボット
毎度思うけどそういう事できるならいっぺんに10体くらい作って囲んで棒で叩けばいいんじゃないですかね?
え、RXが分身能力に目覚めるか未来から十体のRXがやってくる可能性?
しかたないね……
仕方ねぇんだ!
ガンダムブレイカー2みたいなストーリー好きなんでナンバリングで次回作出ませんかね……?
オリキャラの操る原作ガンダム達もおつなものですよ

☆サム8が死んで、kbtit先生の新作が生まれる……
え、あの読み切りが連載に!?
しかもアニメ化映画化?!
さんざ語録使っておいてなんだけどホントに素直に嬉しい!
師匠のポエムがまた読めるの本気で楽しみだし
やっぱり師匠の描く女の子めっちゃ可愛い
腐女子向けみたいに言われてるけどもうめちゃくちゃ女の子書いて欲しいしクリーチャーデザインも良い
でもああいう映画は地方だとやってくんなかったりするから逆に悲しい思いをしてしまうかもしれない
夏に連載開始してから人気爆発してヒロアカばりの全国ロードショーになったりしません?
みんな、アンケートハガキは持ったな!?
行くぞぉ!
アンケ出すためにジャンプ買うことになると思う


☆☆追記☆☆
ナナス様よりイラストを頂きました!


【挿絵表示】

こんくらい灰色ならオルフェノクの王でいいかもしれない……
まぁ実際はめっちゃ白いんですけども
でもオルフェノクの中でも結構灰の濃淡の関係で白よりだったりする個体も居るから誤差ですよ誤差!


【挿絵表示】

無装飾黒ダグバくん!
貰った時、おおっ、って思ったし、どっかで作中に登場させようかなとも思いつつ、これはどういう事なのかとも思ったんですけども
……装飾が無くて白じゃなくて黒ってことは
ゲゲルに一ムセギジャジャとして挑戦中のンじゃない頃のダグバ君か!
ゴ・ダグバ・バの頃の姿ですね……
たぶん当時のンに挑戦する直前くらい?
ンになった頃に比べると、まだ心做しか面構えがあどけない……(弱視)


【挿絵表示】

逆だったかもしれねぇ……
そうなるとこの並びはもう逆転IF物ですね間違いない
或いは遠い未来で別の地球でこういう対決をしたりする未来があるのかもしれない


【挿絵表示】

現状このSSとは全く関係ないし順当に行っても登場はだいぶ先!
でも貰ったから自慢しちゃう
いいでしょこれ!もらいました!
ナナスさんありがとう!

貰った次の回でどれだけ本編の内容と関係無かろうと許可取った上で問答無用であとがきに乗せる感じにしているんですけども
本編書き上げた時間が朝方寝る直前だとうっかり忘れちゃうんですよね……
ナナスさん、本当にありがとうございました




クライシス帝国が入ってるやん!
555ではオルフェノクとの戦い、平成一期を振り返るストーリーが見たかったからこのSSを読んでるの!
という方は不満かもしれないけれど
RXは実質平成ライダーやで……(覆しようのない事実)
だからセーフ!セーフです!
まぁどういう意見があっても思いついて書いたからには投稿するのだ
因みにあとがきで轟雷側というかいにゅい側の話が出たけど次回はちゃんと今回の続き、謎の怪魔ロボットデスガロンとの戦いからスタートだからそこんところはご了承してもろて
それでもいいしばっちこいって人は、次回も気長にお待ち下さい

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