オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)   作:ぐにょり

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89 貴方の為に、私の為に

致命傷とも見える大きな爪痕から血を流し倒れ伏すいにゅい。

その腕の中、上半身だけになった姿で、幸せそうに、眠るように瞼を閉じた轟雷。

その光景を見て、しかし、俺の心は妙に凪いでいると感じた。

思えば遠くに来たものだ。

デスガロンを相手に戦い続けていたなごみさんを見た時の様な激情を抱く事が出来ずにいる。

それはそうだ。

ベルトを装着した時から、ベルトを装着すると決めた時から、この揺らがない心に辿り着こうと決めていたのだから。

 

これは、想定していた事態だ。

実のところを言えば、こうなる可能性が高いのを知った上で、何の対策も取っていなかった。

夜道には気をつけろ、寄り道はするな。

そんな漠然とした注意だけしておいたのは、この状態になっても、ならなくても良い、くらいに考えていたからだ。

或いは、いにゅいが、轟雷が、危機に対して自らの命を顧みずに突っ込むような事をしないのであれば、それは別に構わない、とすら考えていた。

当然、誰かの悲鳴を聞き、助けに行くのであれば、その先で決して勝てない敵と戦う事になるというのなら、それも良し、とも。

 

倒れ伏すいにゅいに近づく。

傷口こそ大きく、出血量も大きいにも関わらず、まだ息がある。

超自然的な力が──いにゅいの中にあるアギトの力が、傷口を覆い、出血を抑えている。

治癒能力ですらない。

アギトの力は超能力の一種、いや、あらゆる超能力の大本とも呼べるものだが、治癒能力というのはこの世界においては希少なものである。

野生の治癒能力持ちを探すくらいなら、まだ野良の魔石持ちを探す方が確率が高い程である。

これはただ、アギトの力を原始的な念動力として使用し、傷口を抑えて出血を止めているに過ぎない。

 

「よくやった」

 

轟雷は機能を停止している。

だが、思考を司る装置すら停止し、超常の源に過ぎないアギトの力だけになってまで、轟雷はいにゅいの命を守っている。

半生物、半機械の轟雷に、まして、魂とも呼べるものをいにゅいに託した轟雷に生まれ変わりの概念が適用されるかは知らないが。

その死に際の微笑み見事。

 

モーフィングパワーで抉り取られた肉を、骨を、神経を繕っていく。

血液も水増しし、この場で死ぬ事は確実に無くなった。

それが分かっているのかどうなのか、傷口を覆っていたアギトの力がいにゅいの中へと戻っていく。

当然だろう。

今、あのアギトの力の帰る先はいにゅいの中しか無い。

 

倒れるいにゅいに、その腕の中で動かない壊れた轟雷の残骸──遺体。

これは、避けられた事態だろう。

例えば今日という日、俺が二人を強引に何処かに誘ってこの場に絶対に来れない様にすれば、少なくとも今日ここでこんな事にはならなかっただろう。

それをしようと思えばできた。

だが……そんなものは一時しのぎに過ぎない。

この場に、流星塾の襲撃に立ち会わずに済んだとして、また同じ様な状況に出くわす可能性が無いなんて、俺は口が裂けても言えない。

それがこの世界だ。

 

いにゅい──乾巧は選んだのだ。

とっさの行動だったろう。

ちょっとした人助けのつもりだったのだろう。

死ぬかも知れないという意識すら無かったかもしれない。

そしてそれは轟雷も変わらない。

機械的な演算装置を超脳で強化したとはいえ、思考形態は人間と変わらない。

スペックこそ足りないが、轟雷の演算装置は人間の頭脳をモデルにしているようなものだ。

 

何事かあれば首をつっこみ。

命の危機があるかもしれない戦いに身を投じる。

それが、彼と彼女の、最も直感的に取る選択肢。

 

二人はこの結末を……この道行きの始まりを()()()()()のだ。

 

乾巧が、いにゅいが、短い付き合いではあるが、おそらく友と呼んで差し支えない男が、死ぬような怪我を負わされている。

轟雷が、試作FAGの一体に過ぎない……しかし、無垢の状態から仮にも育て上げた、ある意味我が子と呼ぶべきかもしれない娘が、機能を停止し、命と呼べるものを、誰かを助ける為に捧げてみせている。

怒り、嘆き、悲しむべきなのかもしれない。

だが俺は、自分から選んで薄情になった男なので、そうしようとは思わない。

 

()()()()()

 

無限に湧き出る敵と、永遠に続く戦いに、倒れ伏すまで立ち向かう戦士が生まれるのだ。

今日が、新たなる戦士の誕生の日となる。

喜ばしい事だ。

嬉しい事だ。

それは間違いの無い事だ。

それ以外に何があるというのか。

 

だから。

このめでたい日に相応しくない汚物は、この場から残らず廃さなければならない。

 

―――――――――――――――――――

 

邪魔をしようとしてきた同類と、それとつるんできたコスプレ女を始末し、殺せ、と、指定されていた流星塾の生徒達を殺し終え、さぁ帰ろうと踵を返そうとしていた矢先の事。

ドラゴンオルフェノクの目の前に、突如として巨大な四足の獣が舞い降りた。

重厚な金属の身体、見ただけでも分かる無数の銃火器。

先の邪魔をしてきたお仲間やコスプレ女とは決定的に違う、見たことのない面白そうな玩具。

それから飛び降りてきた変な格好をした奴を見て、ドラゴンオルフェノクは内心で口笛を吹いた。

 

見たことのない玩具は、自分の雇い主がよこした死体回収用の掃除機や何かではなく、突如として乱入してきた部外者の乗り物だ。

そうなれば、乱入者を始末した後に自分が好きに扱っても何処からも文句は出ないだろう。

新入りの仕事を少し手伝って、新入りが失敗したならその仕事を引き継ぐ。

当然、目撃者の類いが居たならそれらは全て殺して始末する。

故に、後はあの間抜けな侵入者を殺すだけ。

……とはならないのは、気分屋である北崎の悪い癖だ。

 

侵入者が、今殺した同胞に近づき、何かをしている。

北崎には馴染みのない、しかし知識としては知っている死者を弔う、悲しむといった行為でもない。

 

「何してるの?」

 

「治療」

 

「そっか、じゃあ、殺し直さなくちゃ」

 

「そうだな。殺し直そう」

 

気まぐれに引き受けた仕事を、とりあえず流れでちゃんとこなそうとするドラゴンオルフェノクと、それに何故か同意する、治療をしたと宣う侵入者──疑似ライダー陽炎。

魔人態へと戻ったドラゴンオルフェノクと、無手の陽炎が、ゆっくりと互いに向けて歩く。

互いにあと一歩、というところまで近づき、ドラゴンオルフェノクが無造作にその爪を振り下ろ──せない。

腕を振り上げたまま、見えない何かに腕を掴まれた様に振り下ろせずにいるドラゴンオルフェノクの様子は、焦りというよりも単純な戸惑いの方が強く現れている様に見える。

 

何故腕を動かせないのか。

あらゆる物を灰と化す特殊能力故、ドラゴンオルフェノク、北崎は自らの行動が阻害される、という状況に馴染みが無い。

自分こそが一番強く、この世界の王様であり、逆らえるものは無い。

そんな事を真面目に、本気で考えている為に、自分の動きを制限できる何かが存在する、という想像が出来ずにいる。

また、その特殊能力を抜きにしても頑丈な肉体は、先の轟雷の砲撃にのけぞる程度で傷一つついていない事からわかるとおり、生半可な事で傷もつかず衝撃も通らない。

 

自分は動けない、そして、目の前の敵は動けている。

そんな、普通なら誰でも理解できる危機的状況すら、北崎にとって焦るに値しないと思えてしまう。

何故か。

それは、目の前にあるのは敵ではなく、常に獲物か、或いは玩具に過ぎないからだ。

相手が好きに動けたから何になるというのか、という考えがまず先にある。

故に、

 

「赤心少林拳」

 

動けない状態で、目の前の相手が拳を構えたとして、何ら防御の構えを取る事も無く、放たれた拳を、身体の真正面から、何の工夫も無く受け止めてしまう。

 

「正拳突き」

 

ぼ、という、軽い、布団を叩く様な音。

重い一撃ではない。

先のバズーカの方が遥かに重く感じたかもしれない。

 

「あ、あああああああああ!!!」

 

だが、遅れてきた痛みは段違いのものだ。

全くの未知の激痛。

いや、喪失感と言った方が正しいかもしれない。

身体が軽くすら感じる、というのは間違いではない。

想像も付かないだろう。

拳の一撃で、自らの身体が撃ち抜かれるというのは。

 

「うるさい」

 

ずぼ、と、無造作に腹に空いた穴から腕を引き抜かれながら、ドラゴンオルフェノクは勢いよく後ろに蹴倒された。

見下ろす陽炎の、ドラゴンオルフェノクの身体を撃ち抜いた拳は、よく見れば僅かに色がくすんでいる。

灰化の影響だろう。

薄皮一枚程度の装甲が灰と化したのだ。

だが、それで終わり。

腕を伝って陽炎自身がまるごと灰になる事も無く、腕が灰になる事も無く、装甲が全て灰になることも無い。

ドラゴンオルフェノクを見下ろす狼面には、如何なる感情が浮かんでいる様にも見えない。

 

「お前ぇぇ!」

 

痛みに乗せた激昂。

ドラゴンオルフェノクの身体から紫色の瘴気が溢れ出し、陽炎の全身を包み込む。

次いで、両角から電撃が発生し、此方も導かれる様に陽炎へと放たれる。

直接触れずとも相手を灰と化す力と、1万ボルトの電撃。

それだけでは飽き足らず、ドラゴンオルフェノクの姿が白い全身鎧の様な鈍重な姿から、細身の黒に近い灰の姿に変わる。

魔人態から龍人態へと変わり、稲妻を纏った手刀が陽炎の背へと付きこまれる。

一撃一撃が必殺と言って良い連続攻撃。

 

しかし瘴気と電撃はまるで陽炎の身体を避けるように拡散し、背後に迫る龍人態の手刀は、腿から逆手で引き抜かれた直刀にて受け止められる。

が、今度は受け止めた陽炎の刃が徐々に灰になり、受け止められたのとは逆の手で追撃を放つ龍人態。

それを陽炎が素速く振り向き、掌で掴むように受け止めるも、受け止めた掌はやはり徐々に灰と化していく。

にやり、と、龍人態の影が笑う。

対し、陽炎の冷ややかな声。

 

「太陽の中心の温度、知ってるか?」

 

瞬間、龍人態の手刀が()()した。

灰化しかけていた筈の陽炎の手首から先が、直視すれば眼が焼ける程の輝きを放っている。

手越しに見える陽炎の姿が揺らめく程の熱量。

手首から先の輝きが徐々に伸長し、手は元の通り、灰化すらしていない完全な姿へ。

手の中には、太陽の輝きを剣の形に押し込んだ様な異様な熱量の塊が。

 

不味い。

負けた経験も、オルフェノクになってからはろくに怪我をした記憶すら無い北崎ですら、本能的に察知できる死の気配。

初めて使うベルトすら十全に使いこなせる戦闘センスが、ここで初めて自らの敗北を、死を予感させ、自らを王と信じてやまないドラゴンオルフェノクを敗走へと向かわせる。

ノータイムでの転進、全力逃走。

100mを0.0058秒で走り抜けるファイズアクセルフォームすら越える龍人態の全力に追いつけるものは、オルフェノクの中でも現スマートブレイン社長であるゴートオルフェノク程度のものだ。

 

一歩、後ろに後ずさり。

くるりと背後に向き直り。

地面を破裂させながら、一歩。

もう一歩、踏み出す先で、膝に違和感。

踏み出した脚の膝の上に、金属質の爪の如き装飾の入った足が乗せられており──勢いよく踏み抜かれ、眼の前に膝。

 

「が」

 

喉から音を出せたのはそこまで。

膝を踏み抜きながら踏み台に、顔面に膝を入れられ、ドラゴンオルフェノクは半ば吹き飛びながら背後に倒れる。

 

こと、高速戦闘という一点においては、陽炎もまた苦心していた。

故に、当然の改造。

仮面ライダーオーディンがカードを使用せずとも短時間の時間停止を行えた様に。

カード使用を必要としないアクセルベントの発動。

生身の人間では身体の方が先に限界を迎える連続発動も、最高峰の魔石の戦士を装着者として作られた陽炎であれば、何の問題も無く。

 

手の中に圧縮された太陽を手にした陽炎が、悠然と、倒れ込むドラゴンオルフェノクへと近づいていく。

 

「ひ、ぃ」

 

勝てない。

逃げなければならない。

脚が一本膝から逆にへし折られたとしても、負傷しつつも腕は二本、脚も一本残っている。

いや、違う。

細身の龍人態の姿が、再び重厚な魔人態へ変わり、身体が浮かび上がる。

稲妻を操るドラゴンオルフェノクは、その鈍重な姿からは想像できないが、飛翔能力を備えている。

無論、普段の北崎であれば特に空を飛ぶ必要を感じない為に空は飛ばないが……。

 

ふわりとドラゴンオルフェノクの身体が浮かび上がる。

この時点で既に敗走という考えも負けるという考えも消え失せていた。

相手は移動にすら乗り物を使っていた、空を飛べる筈も無い。

ドラゴンオルフェノクの両腕に、絶大な破壊力を秘めた光弾が発生する。

周囲に死体、治療したという相手が居る以上、下手に避ける事もできない。

終わりだ。

そう考え、光弾を解き放つ。

 

──そのドラゴンオルフェノクを撃ち落とす様に、無数の火炎弾が空から打ち込まれる。

 

大地に立つ陽炎に対して視線と殺意を向けていたドラゴンオルフェノクは気付けなかっただろう。

空の彼方に浮かぶ無数の氷の薄い板。

其処から生える無数の機械の龍の首。

それは、陽炎が到着したのと時を同じくして、既に空に存在していた。

空に逃げることを想定してというよりも、周囲からの乱入者や監視を見逃さない為という意図の方が強かったが……。

 

焼け焦げながら、ドラゴンオルフェノクが落下する。

落下の衝撃そのものは肉体に大した傷を負わせる事も無い。

しかし。

 

──空には自らを見下ろす無数の龍の首。

──地には自らでは勝てないと思ってしまった謎の戦士。

 

「あ、ああ、うわぁあ」

 

ドラゴンオルフェノクの、北崎の怯える声。

王を気取り、他者を玩具としか見ていなかった男が、明確に敵に、脅威に対して恐怖している。

殺される。

死んでしまう。

残された脚と腕を動かし、這う様に逃げようとするドラゴンオルフェノクに、陽炎が優しくすらある声で話しかける。

 

「怖がらなくていい」

 

ゆっくりと、光の刃を手に歩み寄り。

 

「殺しはしない」

 

へし折れていない方の脚を、切り落とす。

じゅ、と、肉を焼く臭いと音と共に無事だった脚が焼き切られ、北崎の絶叫が夜の校庭に響き渡る。

だが、その声すら校庭の外には聞こえていないだろう。

大気の振動すら、既に陽炎の手の中にある。

 

「君には、色々と協力して貰わないといけないから」

 

じ、じ、と、大気の焦げる臭い。

必死に腕を動かすドラゴンオルフェノクの肩に、ゆっくりと刃が押し付けられ、頑健な筈の肉体が蒸発していく。

絶え間なく響く絶叫を、まるで聞こえていないとでも言う様に、幼子に言い聞かせるように、陽炎は、笑みすら浮かべている様な声で告げる。

 

「まず、要らない箇所は、置いていこうか」

 

空から降る月の光を背負う陽炎は、まるで木材を切るような無造作さで、ドラゴンオルフェノクの身体に刃を滑らせた。

 

―――――――――――――――――――

 

始末は済んだ。

人を沢山殺したというのなら、彼等と同じ苦しみを受ける事で贖罪としなければならない、みたいな話を良く聞くが。

同じくらい苦しんだからといって、それが何の償いになるというのだろう。

悪党にはもっと、有意義な罪の償い方をして貰うのが世のためになる。

彼はこれから多くの敵を倒し、多くの人を救うこととなるだろう。

良きことだ。

 

移動中に新鮮さを失わせない様に開発した、最小単位にまで小さくしたオルフェノクを持ち運びする為のケースに、元汚物、現ゾイドの元の元を詰め込み、いにゅいと轟雷を念動力で浮かび上がらせる。

残った下半身も一応回収して。

さて、どこに運び込むか。

秘密基地は無し。

いきなり青森にまで運ばれたら流石にいにゅいも混乱するだろう。

……頼れる相手を作れ、か。

でもなごみさんの所は無しだ。

幾らなんでも頼る内容が重すぎるし、これからいにゅいに伝えなければならない話には部外者過ぎる。

 

携帯を取り出す。

 

「クロか。ちょっと空き部屋使うから騒がしくするぞ。……いや、良い。あと、明日から轟雷といにゅいはバイトに行けないから」

 

ぬたっとした音質で抗議の声を上げてくるも、轟雷が死んでいにゅいが重症である事を伝えると、息を飲むような音を上げた後静かに了承の返事だけを返し、通話を終えた。

まぁ……あれらにとっても寝耳に水だろう。

相方とは別としても、FAGは揃って姉妹のようなものだ。

いにゅいとの付き合いだってそれなりにはあるし、思うところもあろう。

 

事前にアパートの権利を買い取っておいて良かった。

こういう事態に違和感なく運び込める先というのは重宝するものだ。

そのうち、地下にも少しづつ手を入れさせて貰う事にしたいが……。

都会の地下は複雑だから、いっそ立て直してビルにでもしてしまう方がいいかもしれない。

 

空に浮かべたアグニレイジの生首とロードインパルスを適当に散らし。

いにゅいと轟雷を浮かせながら、流星塾の中に入り込み。

監視カメラや視線が無いのを確認すると共に、FAGどもの根城へと転移した。

 

 

―――――――――――――――――――

 

巧が眼を覚ますと、其処は見知った部屋によく似た、しかし、恐らくは違う部屋。

背中には畳の感触。

横たえられており、腕の中には……。

 

「ああ……」

 

上半身だけになった轟雷。

巧の胸に去来する感情をなんと表現できるだろう。

それは轟雷をこんな風にした怪物への、或いは、守ることも仇討ちもできなかった自分への怒りか、無力感か。

或いは、眼の前の轟雷が二度と目覚める事が無い、二度と話す事も、二度と世話を焼く事も、笑みを浮かべられる事も無いという悲しみか。

 

腕の中に居る轟雷の身体は、冷たく、固く。

やはり、人ではないのだ、という思いより、死んでいるのだ、という確信ばかりが先立つ。

下半身を失い、小さくなってしまった身体を抱き寄せる。

それに、もはや轟雷は何の反応を返す事も無い。

首を傾げる事も、教えられてするようになった嫌がる素振りも、或いは、ふとした時に身体が触れ合った時に浮かべる、照れの感情も。

なのに。

 

「なんで、笑ってんだよ」

 

笑っていた。

それは既に冷たい死体であるにも関わらず、身体を真二つに絶たれているにも関わらず、満足げな、或いはむずがるような、轟雷の善性を形にしたような無垢な笑み。

何故。

自分が突っ込んでいったトラブルに巻き込まれて、事故みたいに、呆気なく殺されてしまったのに。

なんで笑っていられるのか。

 

「それが、彼女の望みだからさ」

 

声に、顔を上げる。

其処には、しばらく顔を合わせていなかった、元バイト仲間の友人。

小春交路が、殺風景な部屋の中、座布団に座りこみながら巧の事を、巧と轟雷の事を見つめていた。

 

「お前」

 

喉の奥に、幾つかの言葉が登りかけ、どれもが沈み、ゆっくりと、一つの言葉が浮かび上がり、かすれる様に洩れ出る。

 

「…………ごめん、俺、あいつの事」

 

「いや」

 

きゅ、きゅ、という音と共に、交路が手元のペットボトルの蓋を開け、中身を口に運ぶ。

 

「どうなったとしても、それが彼女の、轟雷の望みだ。俺がとやかく言う話ではないよ」

 

努めて平静を保っているのか、或いは、本当になんとも思っていないのか。

だが、そんな交路の表情や感情の動きを気にするだけの余裕は、今の巧の中に無い。

 

「そんなわけ、無いだろ。あいつは、俺のせいで……」

 

そう、自分のせいで死んだ。

あの時、悲鳴を聞いて寄り道をしなければ。

何の考えも無しに突っ込んで行かなければ。

あいつが戦う事も、殺される事も無かった。

 

「俺が、あんな事をしたから……」

 

それは申し訳なさでもあり、何より、巧自身の悲しみであり、轟雷へもう伝える事のできない謝罪であった。

脳裏に浮かぶのは、轟雷との日々。

ほんの数ヶ月程度の付き合いでしかないのに、轟雷との思い出が幾つも、止めどなく溢れてくる。

危なっかしくて、見ていられなくて、変に常識知らずで、何でも信じて、何を聞いても大げさに驚いて。

花の蕾が綻ぶように笑う、轟雷の笑顔。

自分の怪物としての姿を見ても、いつもと変わらない、子供のような表情で接してくれて。

 

「く、う……」

 

漏れ出そうな涙を堪える。

泣く訳にはいかない。

泣く資格もない。

俺のせいで死んでしまった、俺が殺したようなものだから。

 

「…………源内轟雷、という人間は、勿論この国に存在しない」

 

嗚咽を漏らす巧を見ない様に、窓の外を見ながら、交路が口を開く。

 

「半分機械、半分……天使、かな、実のところを言えば、人間の要素なんてものは、ほんの一匙程度しか入っていない。何を使っていると思う?」

 

巧は答えられない。

 

「人間の魂。より厳密に言えば、誕生でき無かった子供の魂だ」

 

「材料は全国の病院から。勿論無許可で採取してる。これ、オフレコね」

 

「この魂を、少しばかり加工して、機械と生物の混ざった肉体に捩じ込んで、出来上がり」

 

淡々と語られる話の内容は、反応こそできなかったものの、巧に言葉にできない衝撃を与えていた。

無論、それで轟雷の事を見る目が変わる訳ではない。

だが、それをなんでも無い様に語るこの友人は、この男は、何なのだろうか。

そして、何を言いたいのだろうか。

 

「轟雷は、あの店での事を楽しそうに話してくれたよ。日常の些細な出来事も、店への行き帰りでしたちょっとした寄り道、休みの日に何をするか、何が起きたか。俺やいにゅいであれば、なんでも無い事、で終わりにしそうなちょっとした事でも、大げさに驚いてみせたり、喜んでみせたり」

 

「……何が言いたいんだよ」

 

「急かすな。そうだなぁ……」

 

 

 

──轟雷が生き返れると言ったら、どうする?

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

いにゅいが顔を上げる。

驚きに眼を見開き、そして怒り、また、困惑。

 

「そんな事が」

 

「ありえるのさ。いや、厳密に言えば、まだ轟雷は生きている。一匙分だけ」

 

いにゅいの腕の中の轟雷の残骸──ではなく、それを抱きかかえる、いにゅいの胸を指差し。

 

「乾巧。君の命は今、轟雷が最後に託した彼女の魂の力によって繋ぎ止められている」

 

これも嘘ではない。

肉体の損傷から来る死ではなく、彼女の魂とも呼べるアギトの力が、オルフェノクとしての第二の死から乾を守っているのだ。

これが失われた時、やはり乾もまた、オルフェノクの持つ短命から逃れられなくなる。

最も、これを態々言うつもりも無い。

理由は……。

 

「そして、器である肉体は壊れてこそいるが……記憶や情動を司るブロックは完全に無事だ」

 

「理屈の上では、君の魂から轟雷の魂を引き剥がし、器を直して詰め直せば、轟雷は完全に、問題なく復活できるだろう」

 

「無論、その場合に君の命は保証の対象外となるが……」

 

「やってくれ」

 

ノータイムでの返答。

乾はこういう所がいにゅいだ。

俺の知る歴史でも、誰かを助ける為に敵の元で実験体になっていたりする。

そういう男だからこそ、轟雷は命を捧げたのかもしれないが。

 

「できない」

 

「なんでだよ! 俺なんかの命であいつが生き返れるなら」

 

「彼女の望みだ。誤解無きよう説明すれば……轟雷の魂自体が、君から離れる事を拒んでいる。……当然の話ではあるけど、彼女は君を死なせたくないんだ」

 

今すぐに轟雷の肉体を修復し、引き剥がしたアギトの力を入れ直して復活させないのも、乾に短命の事を説明しないのも、それが理由だ。

この世界において、俺は二番目に他人の魂からアギトの力を引き剥がすのが上手いと自負している。

だが、おそらく、乾の魂から轟雷の魂であるアギトの力を引き剥がす事は、一番上手いやつでも難しいだろう。

人類への曖昧な好意くらいしか無い筈のアギトの力。

しかし、乾の魂に宿ったそれは、明確な意思を持って、乾の魂から引き剥がされる事を拒絶し、抵抗して見せている。

 

「なんで……俺なんかの為に」

 

「理由は俺の口から言えないし、察しろとも言えん。だが、聞く方法はある」

 

そう、今すぐに、とは行かないが。

 

「君の中に宿る轟雷の魂に施した加工は……言わば、人間の魂を天使のそれにするようなものでね。事実上、生きている限り、無限に成長し、膨張し続ける」

 

「そして、ある程度の大きさになったそれは、分割して他人に株分けする事ができる性質があるんだ」

 

厳密に言えば正規の手法ではない。

これは葦原さんにアギトの力を譲渡した男が、後年再びアギトの力を目覚めさせたという事例から思いついて、今のゾイド作りに応用しているものなのだが……。

 

()()()()()()()()()、君の魂と共にある轟雷の魂も生き続ける。そして、恐らくは通常のそれと同じく成長を……進化を続けるだろう。それが、君の命を繋ぎながら、元の轟雷に戻せる程度にまで成長したなら」

 

「あいつは、轟雷は、生き返れる……?」

 

声に希望が戻ってきた。

眼にも光が宿っている。

良い事だ。

本当に。

泣くのを堪えながら鬱々と生きていくのなんて、轟雷も望まないだろう。

 

「だから当然、轟雷を蘇らせたいのならば、君は死んではいけない。生き続けなければならない。生きて生きて、生き足掻いたその先で……君は轟雷と、再び対峙する事ができる」

 

「何故助けたのか、何故自分なのか、そう聞いていたね?」

 

それを本人に尋ねたいのであれば、その生命、決して失う事の無い様に。

無論、気をつけても気をつけてもふとした拍子に失ってしまうのが命というものだ。

そしておそらく、君は同じ状況なら同じことをしてしまうだろう。

だから、君が死なない為の、君が轟雷と再会するための道筋を、俺が用意しよう。

少しばかり、他にやる事を済ませた後になるから、それまでは、ここで適当に身を休めているといい。

 

 

 

 

 

 

 




何だと思う? これね、悪魔との契約


☆実質生きろのギアス掛けられたも同義のいにゅい改め乾巧
自分のせいで死んだ轟雷を蘇らせる為、それまでは決して死ねなくなった
まぁどっちが先ともわからないと書いた通り、いにゅいが突撃しなくても轟雷は轟雷で突撃したのでどっちにしろ死んでたんじゃないかなとは思う
怪我はざっくりと直したけど完治させたわけでもないし現状の精神状態で外をうろつかせる事も無いという訳でしばし拠点をFAGアパートに変更
身の回りの世話とかでシロやクロと会うけど姉妹を殺してしまったようなものなのでそれもめっちゃ気不味いぞ
所でファイズのベルトはどうなるかって話しは後ほどな!

☆魂だけになってもいにゅいにしがみついて離れない轟雷(故)
一番上手い奴が引き抜こうとしても失敗するけど、それはそれであいつの場合はめっちゃ切れて宿ってる人間事抹殺しそうだよな感はある
ワンチャン轟雷の魂の中に人間らしさとか見出して手を引く可能性もあるけど、それはこのSSの中では解釈違いなのでな!
復活の芽はある
良いタイミングで復活させてやりてぇよなぁ

☆いにゅいが戦士としての道を行っても幸せな一般人の道を行ってもどちらでも祝福はしただろうけどそれにしてもなんか他のやり方なかったのかって奴
でも実際ドラゴンオルフェノク倒そうと思ったら遠距離から非物理攻撃ですりつぶすしか無いから、その場に居合わせた人間を守る、真正面から戦いを挑んだ相手を守る、という手段はあんまり現状無い
陽炎が圧倒出来たのって契約モンスターが育成済み強化継続中の違法改造人造ミラモン風エルもどきだから装甲めちゃ硬ってのと中身が戦闘経験値たくさんモーフィングパワーバリバリの魔石の戦士アギトテオスパワー入りだからな訳で
だからせめてもの償いとして復活の方法を教えたし、轟雷が少しでもいにゅいと共にあれる様に道筋……装備も開発する予定
まぁ言うてお人好しの戦士が最低限……というか、これからは全力で自分の命も大切に戦ってくれるようになったのはうま味だよね?
轟雷が復活したら轟雷がいにゅいの突っ走りにブレーキをかける役になってくれるだろうし
復活時に備えて花嫁衣装代わりのドラゴンオルフェノクとも戦える新装備を開発予定

☆ドラゴンオルフェノク(非可食部カット済み)
美味しく回収された
ネット上のとある辞典によれば空飛ぶらしいけどソースは不明
少なくとも超全集には載ってなかったし双葉社の仮面ライダー超辞典にも飛行能力に関する記述は一切無いけど脚一本折られた程度で終わりは寂しいのでpixivの辞典を編集した人に責任を全てなすりつける形で飛翔能力を得た
本編で飛んでるの見逃してたらごめんね
電気使いだからハイパーゾアノイド五人衆みたいにイオノクラフト効果で飛ぶとかしてるんじゃないですかね
実際それで飛ぼうとした時にどれくらいエネルギーが必要かは知らない
まあオルフェノクの能力に理屈を付けるのがおかしな話しなので
このSSだとマラークの超能力と同じ扱いだから何が起きても不思議ではないしね
最小単位よりは大きめの状態で確保
脳クチュしながら加速実験に使用されます

☆流星塾の人達
実は主人公が到着した時点で全員死んでるし特に回収もされてない
この後スマブレのチームが来て回収して蘇生してくれるから心配すんなよ

☆ミラーワールドからこんにちはしていた生首アグニレイジ軍団
エイム力凄いのでそらとぶドラゴンオルフェノクに火炎弾打ち込んでも地面に転がってる流星塾生の死体は焼かなかった
えらい?えらい?

☆前の前の前のお話でちらっと顔見せしていた全身装甲のプリキュアみたいな方々
キュアブラックとキュアホワイト(シルバー)かな?
あの時点で見極めも済んだし、後は彼自身の戦いだからと、自分たちの敵対組織の居る場所にまで帰っていった
勿論見るべきはこっちの戦闘だったが……なんか先にやったデスガロン戦では人を必死で助ける場面があったからそっちで評価を済ませてしまった
渾身のミスでは?
ステーキハウスを共同経営しているのかヘリパイロットの仕事をしているのかは不明
でもヘリパイロットって業務時間どんなもんなんだろうか
ライダーしながらだとまっとうな仕事ってできないよね……
ステーキハウスを共同経営なら片方が職場で働いている間は片方フリーなのでライダーとして便利かなって
ライダーとは言ってないだろ!いいかげんにしろ!


そういう形でいにゅいと轟雷の話しは一先ずの決着を迎えたのでした
劇的な復活からドラゴンオルフェノク撃破して仇を打つ……
そういう展開が熱いとは思ったけど、これで単純にいにゅいがアギトになるとこれ平成ライダー一期を振り返るどころか平成ライダー一期をアギトで塗り替える話しになっちゃうからね、仕方ないね
ホモの元にデッキ内臓のアーキテクトが居るのだってアギトと化したホモの手元にデッキを残しておく為だし
安心してください、555、出ますよ
ちょっと飛ばし飛ばしになるけど原作を見直していると、面白い解釈ができそうな描写が見つかったので、そこらへんも掘り下げます
いにゅいが居て、スマブレが関わってて、555のベルトが出てくればもうほかに何してようがこの話しは555の話しって寸法ですよ

そういうスタンスで強行するSSですが、それでもよろしければ、次回を気長にお待ち下さい

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