気のせいだよ、気のせいだ。
第七話 IS学園
ー四月 日本 IS学園ー
桜舞う季節、新しい出会いが新しい可能性が芽生える季節。
何故、人は新しい時代の始まりをこの桜舞う季節にしたのかはわからないが、この桜舞う季節には新しい出会いも新しい可能性も新しい道も人生も始まり、その芽が芽生える季節なのだ。
そんな新しい季節、世界唯一のISパイロットを育成する学び舎、IS学園に普通なら存在しない人物、否ある性別の生徒がいた。場所は一年一組、新入生達が新しい学び舎に興奮している中、彼女達の視線は本来なら生徒としていないはずの異性、一人の男子生徒に注がれていた。
(い、居心地が悪い……)
今の一年一組に唯一いる男子生徒、織斑一夏にその視線は注がれていた。
世界で二番目に発見された男性ながら、女性にしか扱えない完璧な兵器
(何で間違ったんだろ?)
普段なら間違えないような間違いだ。だいたい、受験日の朝、余裕で間に合うように出たのは良かったが、道端で困っているお婆ちゃんを助け、さらに道端で困っているお爺さんを助け、さらにさらに道端で困っている少女を助け、さらにさらにさらに道端で困っている少年を助け、さらにさらにさらにさらに道端で困っているアッガイを助けていたら、遅刻しそうになり、焦り、間違え、触り、起動させ、捕獲され、IS学園に入学さられた。
もう早かった。一度自国のISが操縦できる男性パイロットを取り逃がした日本政府の動きは普段なら絶対しない速度で対応し、日本の男性パイロットとして、IS学園の入学までこぎつけたのだ。
……噂では日本政府のある野党がお隣の妄想国家に織斑一夏を売りつけようと暗躍していたらしい。
ただの噂だが、一夏は安堵していた。
だが、それはIS学園に入学するまでである。入学してみれば、四方全てが女、女、女、女。
女子校なだけあって、女子しかいない、というより、その女子校にいる自分が異常なのだと一夏は納得しながら、後ろの席をチラリと見る。
これも噂だが、一夏の後ろの席は世界初の男性パイロットが座るという話を聞いた……正確には、女子の話を盗み聞きで聞いた話だが。それによると、既にその男子生徒は学校に来ており、先生達がその男子生徒に希望のクラスはあるか?と尋ねたとき、男子生徒は一年一組と答えたと職員室の朝礼を盗み聞きした女子生徒が自慢気に離していたのを一夏は聞いたのだ。
もし、それが事実であれば、その男子生徒は早急に来なければ、ホームルームがと一夏が考えていると、先生らしき女性が慌てて、教室に入ってきた。
(御愁傷様、知らぬ男子生徒よ)
「ひぅ、ひぅ、い、息がぁ……」
慌てて入ってきた女性は余程慌てたのか、かなりの全力ダッシュでここまで来たようだ。
そのせいか、呼吸が荒く、頬が紅潮し、服が若干乱れていた。
正直、エロいと感じた一夏は健全な男子高校生である。
「ふぅー、ふぅー、皆さん、お、おはようございます」
息を整えた女性がまだ青い顔でフラフラとしながら、電子黒板に名前を書く。
「私は山田真耶、皆さん一年一組の副担任になります、よろしくお願いしますね」
と山田真耶先生は元気よく挨拶をするが、副担任なんて曖昧な存在から、急に挨拶されてもイマイチな感じの生徒達は反応に困り、皆先程までうるさかったのに、無口となった。帰ってこない返事に泣きそうになる山田先生は涙を堪えながら、次の行動に出た。
「じゃ、じゃ、次は自己紹介をお願いしようかな……名前順で!」
こうして、山田先生の提案により、一年一組の生徒達は名前順で自己紹介を始めた。真面目に自己紹介する者、巫山戯て自己紹介する者、カミングアウトする者など様々な自己紹介をしていくなか、織斑一夏は考えていた。
(もう一人の男子生徒って、誰だろ?)
正直な話、世界初の男性ISパイロットの素性どころか、名前も顔さえも知らないのだ一夏は。一応、短い期間だが、名前と顔は公表された。その後は名前だけで、彼が何をしているのかを時折ニュースでやっているのを何度か一夏は見たが、まったく覚えていなかった。
そもそも、ISに関する知識など皆無だ。ISの一般常識さえ知らないという、かなりの異端というか馬鹿というか、ようはかなりの変わり者なのだ、織斑一夏という男子高校生は。
「あの織斑君?」
「ん……うわぁぁぁぁ⁉」
考えていた一夏に声をかけてきたのは副担任の山田先生だ。山田先生は先程まで順調に進んでいた自己紹介に安堵していたが、一夏の番になるとその流れは止まった。
いくら、一夏に声をかけても、反応がなく、仕方ないので顔を近づけ、声をかけると一夏はやっと気付き、驚くように立ち上がった。
「ご、ごめんね、自己紹介が次織斑君だから」
「へ?……あぁ!」
すっかり、自己紹介など忘れていた一夏はそういえば、先程山田先生がそんなことを言っていたなと思い出し、何を言うべきなのかを悩んだ。
何せ、先程から女子達からの期待の視線が槍のように胴を刺すのだ。これは失敗できないと一夏は悩みに悩んで。
「織斑一夏です!」
と一夏は自分の名前を叫び、止まる。
「えと、織斑君?」
止まった一夏を心配した山田先生が声をかけた、次の瞬間。
「以上です!」
ガタタタッと一斉に女子生徒達は椅子から崩れ落ちた。
終わりかい⁉と心の中でツッコミをいれながら。
「もっと、まともに自己紹介できんのか、貴様は?」
一夏は背後から気配を感じ、とっさに叫ぶ。
「立花宗茂⁉」
「誰がツイッター立花だ」
「いてぇ⁉」
一夏の頭部に激痛が走る。
一夏は振り返ると、知り合い否知り合いというレベルではない親しい人物が家族がいた。
「ち、千冬姉⁉」
「織斑先生と呼べ、愚弟」
「痛い!」
再び一夏の頭部に激痛が走る。一夏は先程から襲う激痛は何かと見ると千冬姉……織斑先生の手には出席簿があった。
なるほど、だから、先程痛いが殴られたときより、マシなんだなと一夏は納得した。すると一夏の耳に周りの女子達の会話が聞こえてきた。
「ねぇ、聞いた?」
「うん、聞いた、聞いた」
「千冬様って、織斑君のお姉様⁉」
「うは、禁断の恋キタコレ」
「早よう、薄い本、早よう」
何やら不吉な感じがしたが、中学の頃も友人の弾と遊んでいるとき、女子生徒が「一夏×弾キタコレ」「一夏たん、テラカッコよす」「はぁはぁ、ヘタレ受けの一夏たん」「いやいや、一夏たんは鬼畜攻めでしょ?」などと言った、何故か鳥肌が立つほどに嫌な予感がする会話を聞いたことがあるので、だいぶマシだと一夏は自分に言い聞かせる。
「さっさと、座れ、織斑」
「は、はい!」
これ以上叩かれたくない一夏はさっさと座った。それを確認した織斑先生はドアの方を指差した。
「さて、今からあと一人の男子生徒を呼ぶ、いいな」
「「「はい‼」」」
「よし、来い、神楽坂」
すると、ドアが開き、一人の男子生徒が教室内に入ってくるのを一夏は見た。
身長は自分と同じぐらいか頭一つ大きいぐらいで、髪の色は黒、目の色も黒、日本人らしい顔つきに鋭い眼光。パッと見たり、自分と並べられたら、彼の方が年上だと言われそうなぐらないに大人びた、いや、まるで大人のような雰囲気をもった男子生徒。
「神楽坂 幸だ」
そう彼が、世界初の男性でISを動かした男性。
「皆、よろしく頼む」
神楽坂 幸。
この二人の出会いが後に学校を世界を揺るがすことに繋がっていくとは、誰も知らない……否、たった一人だけは知っていた。
IS〜蒼き鬼神ケンプファー〜
第一章”可憐な青と純粋な白”
次回予告
男は一人の少年と出会う。
少年は一体の化け物と出会う。
二人は可憐な雫を見る。
次回、IS〜蒼き鬼神ケンプファー〜
第八話 その雫、可憐なり。
君は生き残ることができるか?
主人公(笑)、出番小。