ーアリーナ 選手控室ー
『十分後に第二試合を始めます、出場選手は最終準備を』
コウは一人、アリーナでケンプファーの最終チェックを終え、対戦相手のセシリア・オルコットとブルー・ティアーズの戦闘行動などの復習をしていた。
セシリア・オルコット、イギリス代表候補。
第三世代ISブルー・ティアーズのパイロット。
基本的に遠距離戦を得意とし、レーザーライフル“スターライトmk-2“を使用、接近戦は不得意で唯一の接近武器“インターセプター“を出すのに時間がかかり、間合いを詰められると弱いが、そこは隠し球のミサイルを持っているので、一度だけなら、対処可能である。
また、ブルー・ティアーズの目玉武器であり、機体名と同じ名前の自立機動兵器“ブルー・ティアーズ“は強力であるが、“ブルー・ティアーズ“で攻撃を行う際は、集中力を高めるために動きを停止させる、これが“ブルー・ティアーズ“のセシリア・オルコットの弱点でもある。
(これを見ると、いかにララァやシャリアが化け物だったかを思い知らせられる)
あの二機の戦闘を一度だけ見たことがあったが、視覚外から攻撃されるのは、かなりの恐怖だ。
あの二人とは戦ったことはないが、サイコミュ搭載の実験機と何度も模擬戦を組まれたことがあるから、視覚外からの攻撃される恐怖はわかる。
まぁ、その視覚外からの攻撃は何となくわかったんだが、おかげでサイコミュ搭載の実験機との模擬戦は無敗だ。ちなみに“事故“により、模擬戦中に実弾?実エネルギー?を放てるようになってしまったサイコミュ搭載の実験機。その実験機は“事故“により、俺のケンプファーのビームサーベルにより、胴体を斬り裂くことになってしまったが……事故って、コワイワ〜。
「事故と読ませて、邪魔者抹消と書く。byキシリア・ザビ」
「何を言ってるんだ、コウ?」
「ん、箒?」
声がしたので振り向くと箒がこちらを可哀想な人を見る目で見ていた……頭が可哀想なお前にそんな目で見られたくない。
「大丈夫か?」
「大丈夫だから、その可哀想な人を見る目をやめなさい」
というか、何でお前いるんだよ?
一夏はどうした?一夏は?
「ちなみに一夏はオルコットとフラグを建てたので、邪魔になるなと思い、そういえば、コウの方は誰もいないことを思い出し、暇つぶしに来た」
「来てくれたのは嬉しいけど、お前明日の座学覚えてろよ、一夏も」
「何故に⁉」
暇つぶしに来るなよ、暇つぶしに。つか、一夏の奴はオルコット攻略のフラグを建てたの?
やっぱり、アイツはモテ男だ、私達の敵だ。あ、明久君は許すよ、あんな暴力系ヒロインばかりのハーレムなんて、嬉しくも何ともないし。
『では、第二試合を始めます、選手は準備を』
「まぁ、勝ってこい、コウ」
「カッ、当たり前だ」
俺は箒……のほほん曰くモッピーに見送られながら、ケンプファーを身に纏い、アリーナに出る。
『神楽坂 幸、ケンプファー出撃する!』
ーアリーナー
コウがアリーナに到着すると、既にオルコットが待っていた。
だが、そのオルコットからはここ一週間の間、ずっと感じていた敵意が薄くなっているのに、コウは気付いた。そして、目を見るとその目は潤んでいた……否、恋をしている目だった。
伊達に第一回の人生で、鈍感のフリをしていた友人がいたため、他人が他人に向ける好意には敏感だ、そうでなければ、生き残れなかった……死んだが。
『はぁ……一夏さん……』
『うわぁ……』
面倒だ。
と呟きたくなるコウだった、あれは結構嫉妬とかするタイプの女の溜息だと気付いたコウは今後一夏との距離の取り方を考えるべきかを悩んだ。
コウが面倒だな〜と困っているとオルコットはコウに気付き、咳払いをし、コウを指差す。
『よく逃げずに来ましたわね』
『まぁ、逃げたら、あとが怖いから』
『ですが、この試合勝つのはわたくし……そう勝って、一夏さんと、ウフ、ウフフ』
あ、これ、ダメなパターンだわ。
やべぇ、帰りたい、めっちゃ、帰りたい、宇宙世紀に帰りたい。
『わたくしがクラス代表になり、夜な夜な一夏に手取り足取り……ウフフ』
『……帰りたい』
だが、そんな俺の願いなど天に届くはずもなく、試合開始のゴングが鳴り響く。
あぁ、帰りたい……だが、勝たなければ、一夏の貞操が危ない。
野郎の貞操なぞ、守りたくないが一夏に先を越されるのはシャアに先を越された時並みに癪だ。
『さぁ、舞いなさい、私と一夏さんの夜な夜なの特別訓練のために‼』
『黙れ、ピンクヘッド!』
ーアリーナ観客席ー
ついに始まったコウVSセシリアの試合、一夏はその試合を見守っていた。先程、セシリアとは和解し、お互い名前で呼ぶようになった一夏だが、それでもコウには勝ってほしい。
セシリアは後ろに下がりながら、レーザーライフルを乱射する。コウはそれを避ける、その隙にセシリアは上空に飛び上がり、ライフルを構える。
『貴方はどうすのかしら?』
そして、セシリアのISブルー・ティアーズから自立機動兵器の“ブルー・ティアーズ“が射出され、瞬く間にコウを囲む。そして、息を飲ませる間もなく、次々に“ブルー・ティアーズ“からレーザーが放たれ、セシリアからもスターライトによる狙撃が行われる。
「コウ!」
避けられない、一夏はそう考えた。何故なら、コウのISケンプファーは先程少しだけ、セシリアから教わったのだが、地上戦に特化したIS……いや、空を飛べないISで常に地に足をつけているISだと聞いた。故に、“ブルー・ティアーズ“で囲み、スターライトによる狙撃で簡単に仕留められるとセシリアは自信満々に言った。
確かに地上しか移動できないケンプファーでは、四方八方から襲うブルー・ティアーズを避けるのは困難で、さらに上空からの狙撃により、その難易度は質然と上がる。それなら、簡単にケンプファーをコウを撃墜でき、セシリアの自信満々の姿も馬鹿な一夏でも納得できた。正直な話、自分がコウと同じ立場だったら、瞬殺される自信がある。
何せ、コウとは違い、射撃武器が一切ない白式だが、空は飛べるのだ。相手の頭の上を取る、この頭上を取ることにより発生する有利性やアドバンテージをコウに実体験で散々一夏は教えられた。
だから、コウには悪いが負けてしまうのでは?と考えてしまった。
ーーーだが、現実はどうだ?
『あ、当たらない⁉』
『……』
コウは四方八方から頭上からくるレーザーを次々に避ける。当たりも擦りもしないほどに、完璧にレーザーの網の間をくぐっていた。
そして、手に持ったハンドガンとレーザーサーベルで、一つ一つ確実に“ブルー・ティアーズ“を破壊していく。
『くっ⁉』
そして、四機も“ブルー・ティアーズ“がやれると、さすがにセシリアは残った二機を自分の元に戻した。
セシリアは悔しそうにコウを見る、だが、コウは気にもしてないようで、ハンドガンとレーザーサーベルからアサルトライフル二丁に持ち替え、セシリアに向かって発砲する。セシリアはそれを避けようと何度か回避行動を取るも、何発か本体に食らい、ほとんどの弾は残った二機の“ブルー・ティアーズ“に当たり、コウは見える“ブルー・ティアーズ“を全て撃破した。
「ーーーすげぇ」
小学生並みの感想でしか、コウの戦いを見て、その凄さを表せない一夏だが、その凄さだけは理解し、何よりも神楽坂幸という人間の凄さを実感した。
そして、自分の弱さ、無力も実感した……自分ではコウに勝てないと。
一夏がそんな思考を巡らせているとき、一夏と同じ考えを持った人物がいる、対戦相手のセシリア・オルコットだ。
相手の攻撃を避けながら、そんな考えに陥る。勝てない、勝てない、勝てないと頭の中で自分が囁く。それを振り払うかのように、スターライトを向けるが、その瞬間にスターライトはコウのアサルトライフルにより、一瞬で蜂の巣にされ、破壊される。
残った武器は、ミサイル型のブルー・ティアーズと接近武器のインターセプターだけだ。それ以外の武器は全て破壊された。
ーーーもう駄目だ、あの鬼に喰われる。
セシリアがそう評価したのは、ケンプファーの見た目だ。ケンプファーは全身装甲のISで、ブレードアンテナという一本角があり、赤く光る一つ目がある。その姿が日本の伝承や世界にある伝承などに出てくる鬼やオーガ、サイクロプスなどと呼ばれる化け物も見えた。故にセシリアは自分は鬼に喰われると思ったのだ。
ーーーだが、自分にもプライドはある。ただ喰われるのは癪だ。
セシリアはゆっくりと地面に降り、コウを正面に捉え、インターセプターを手に展開し構える。
ーーーせめて、せめて、一撃だけでも。
『はぁぁぁぁ!』
セシリアはコウに真っ正面から突っ込みながら、最後のブルー・ティアーズも発射する。
が、コウはそれを予測していたのだろう、当たり前のように最後のブルー・ティアーズをバルカンで破壊し、レーザーサーベルで斬りかかってきたセシリアのインターセプターを弾き飛ばし、セシリアの顔面にショットガンの銃口を向ける。
『……わたくしの負けですわ』
『あぁ、俺の勝ちだ』
そして、コウは容赦無く至近距離でのショットガンの引き金を躊躇いなく引いた。
ーーーズドン‼
アリーナに銃声が鳴り響き、セシリアは吹き飛ばされ、そして無情に試合終了のブザーもアリーナに鳴り響いた。
ーーー勝者 神楽坂幸
電子掲示板には勝者の名が刻まれた。
ークラス代表決定戦から四時間後 1059号室 コウと一夏の部屋ー
アリーナでのクラス代表決定戦から四時間後、一夏は自分の部屋で横になっていた。
あのセシリアとコウの試合の後、少し休憩を挟んだのち、コウとの試合を迎えた一夏だったが、試合結果は酷いぐらいに惨敗だった。
零落白夜を使い、コウに攻撃するも全て避けられ、シールドが少なくなってきたところを容赦無くショットガンのフルオート射撃を真面に食らい、瞬殺された。
恥かしい話である。
「コウ」
圧倒的に強く。
圧倒的に早く。
圧倒的に鋭い。
あれが同い年、クラスメイト、ルームメイト、友人。
「……」
自分より圧倒的なまでに強い存在。
自分が到底敵わない相手。
ーーーそれが
「神楽坂幸」
一夏は産まれて初めて、同い年の人間に恐怖を覚えた。
あの強さ、あの風貌はまるで。
「鬼、鬼神」
鬼神のようだった。
「ーーー蒼き鬼神」
こうして、クラス代表決定戦は終わり、神楽坂幸が一年一組のクラス代表となった。
次回予告
少年は恐怖する。
少女達は恐怖する。
彼らは恐怖する。
鬼に。
鬼神に。
次回、IS〜蒼き鬼神ケンプファー〜
第十一話 その瞳、恐怖色。