私、心の叫び。
ー2015年 秋 某県某市 山頂 竹林ー
秋、美しい紅色の紅葉が山を彩る季節、食欲の秋、読書の秋、運動の秋、性欲の秋、秋姉妹などと呼ばれる秋。
そんな紅葉が美しい季節、朝日が眩しい竹林の中で木刀を腰に構えた一人の少年が目を閉じ、立っていた。
見た目は十五ぐらいの若い少年で、顔立ちは日本人で髪も日本人によくある黒髪だ。そんな少年が竹林の中、一人で木刀を構えていた。
ひらり、ひらり。
一枚の紅葉が風に揺られ、竹林の中まで入ってきて、少年の前に舞うーーー刹那、少年は目をカッと見開き、腰に構えていた木刀を横に一閃、振るう。
その一閃は常人では捉えきれないほどの早く鋭い一閃だった……だが、紅葉は何事もなかったようにひらひらと地面に落ちた。
その瞬間、紅葉は横に真っ二つに割れ、紅葉の後ろにあった一本の竹もパカリと横に斬れ、倒れた。
「ふぅ」
少年は振った木刀をまた腰に戻し、貯めていた息を吐き出し、成果を見る。
……まぁまぁだ。
パチパチ……
少年がそんなことを思っていると後ろから拍手が聞こえたので、振り返ると一人の老人が立っていた。
「おはようございます、師匠」
「ほっほほ、おはよう、愛弟子」
少年の後ろにいたのは、先程の少年の一閃、抜刀の師匠であり、木村抜刀術の元師範である
「もう、ワシが幸に教えることはないの〜」
「いえ、まだまだ自分は未熟です」
そうかの〜と木村師匠は少年ーーー
「ほれ」
木村師匠が数本ある竹を軽く指で突つくと竹は音も立てずに地面に倒れる。それに続くようにまるでドミノ倒しのように、他の竹が次々に倒れる。
それを見て、ほっほほほと嬉しそうに笑う木村師匠、だがやったはずの幸は驚きの表情を浮かべていた。
「……ナニコレコワイ」
「ワシは無自覚にこんな芸当をやるお主が怖い」
自覚などない、いつも通りに普段と変わらずに振ったはずなのに、何故木刀の範囲外の竹が綺麗に斬れているのかが幸はわからなかった。だが、よく竹の切断面を見ると、自分が斬った竹の切断面は多少荒く、後から木村師匠が突ついた竹の切断面は綺麗だった。
そこで、幸は気付いた。
「木村師匠」
「ちぇ、バレたか」
木村師匠はイタズラっぽい笑みを浮かべ、隠していた日本刀を幸に見せる。
それを見て、幸はやはり……とため息をつく、大方自分の一閃に合わせて、木村師匠も一閃放ったのだろう。一閃で鎌鼬を作るなど、知る限りでは木村師匠以外発生させれるはずがないし、自分がそんな芸当できるはずがないと十分理解している。
「はぁ……帰ります」
「おぉい、拗ねたか?拗ねたか?……いってもうた」
幸は木村師匠のイタズラに呆れて、その場を後にした。
それ以前にそろそろ支度を始めなければ、学校に間に合わないというのが理由だ。ここから学校まで車やバスで約二時間とかなりの時間がかかるために、幸は毎日早くに家を出ている。
別に幸は数十分程度の遅刻や車を使った通学などは学校から距離などを考慮され、許可されている。
ちなみにだが、幸の学校への送り向かいは毎日当番が決まっている。最初は一部の車を持っている人間のみが送り向かいをしていたが、幸は村唯一の子供のために周りから大変愛され、大切にされている。
そのため、幸の送り向かいをしたい人が増え、もう運転をしていない老人がわざわざ車を買い直そうとしたが、危ないので周りから止められたが老人達は諦められない。妥協点として幸は一時間に一台しか通らないバスのバス通学をするはめになったりした。
老人達はそのバス通学の送り向かいをとても楽しみにしている。
しかも、今日はそのバス通学の日なのでいつもより早めに用意をしなければならないのだ。
幸は竹林から走って、数分程度にある古き良き日本の家である自宅に走って戻り、朝着ていた服から学生服に着替える。
そのまま、台所に向かい、釜戸で炊いていたご飯を確認し、朝食の準備をする。
今日はシャケの塩焼きと漬物、キノコ味噌汁にサラダとご飯に決めていた幸はテキパキと料理を始める。
しばらくして、料理が全て完成し、囲炉裏に並べていると古く開きが悪い玄関が開き、幸の義理の祖父であり父でもある
今から五年前に幸が倒れていた竹林の持ち主であり、幸を引き取った初老の老人である。
「じいちゃん、おかえり」
「あぁ、帰ったよ」
幸は勉老人から作物を受け取り、台所で軽く水洗いをしたあと、台所すぐ近くにある水が入っている桶に作物を入れる。その間に勉老人は手を洗い、食事が用意されてある囲炉裏に座る。
囲炉裏の中心では味噌汁が出来上がっていた。
「コウは相変わらず料理がうまいのぉ」
「先生がいいからね」
幸が料理を教わったのは、昔は料亭を営んでいた老人夫婦の宗方夫婦である。
他にも幸は様々な人に色んなことを教わっている。
幸は囲炉裏に行く途中で釜で炊いていたご飯を二つの茶碗によそい、一つを勉老人にもう一つはもちろん自分用である。
「そうか、そうか」
勉老人は味噌汁を用意されていた器に移しながら、嬉しそうに笑った。
幸が来て、五年。勉老人は以前まで感じていた寂しさを感じることはなかった、毎日が幸せだった。
神楽坂 幸につけた幸の意味は幸を運ぶ人間になって欲しい、幸を分け与えれる人間になって欲しいと願ってつけたものだ。
現に自分に毎日に幸せを運んでくれる幸が勉老人にとって、愛おしいく可愛い孫であり息子であった。
いつか、この子も自分の前からいなくなってしまい、もしくは自分が先にと考えるととても気が滅入ってしまうが、今はそんなことを考えないように今ある幸せを噛みしめることにしている。
ーーーだが、とうの幸は悩んでいた。
今までの人生と今の人生との差に……一回目の人生は始まりから、最悪だった。道路を挟んだ家は世界的な金持ちで、しかもこの時の幸の父親が勤務している会社を経営をしていたのだ。
その金持ちには完璧超人の一人息子がいた、勉強も運動も全て完全にこなし、容姿も優れ、声も良いと全てにおいて、最高と言われるほどの人間がいた、同い年に。
そして、幸はその完璧超人の奴隷として生きることになった。毎日毎日、完璧超人から虐められ、コキ使われ、暴力も当たり前のように振舞われ、少しでも抵抗しようものなら、両親からも暴力を振るわれた。だが、誰もそれを止めようとも咎めようともしなかったーーーまるで、それが当たり前のようだった……否、当たり前の光景だっただろう。
害虫駆除を止める者いるか?ーーー否。
空き缶を潰すのを咎める者はいるか?ーーー否。
ゴミを出すのを止める者いるか?ーーー否。
この時の幸は虐められ、暴力を振るわれるのが当たり前の存在だった。
サンドバッグを殴って何が悪い?
子供にお使いを頼んで何が悪い?
そんな感じだった。
そして、一回目の人生は完璧超人の肉盾となり、幕を閉じた。
詳細などもう覚えていないし、思い出す気など幸にはない。
そして、第二の人生。
それは戦争の日々だった。生まれ変わりを初めて経験した幸は戸惑いながらも毎日を必死に生きた、一回目の両親とは違い、二回目の両親は優しく幸を大切に育ててくれた。
そんな当たり前の幸せが幸にとっては初めて体験する幸せだった。
ーーーだが、そんな幸せは長くは続かなかった……幸は知っていた。自分が生まれ変わった世界が【機動戦士ガンダム】というアニメの世界あり、自分はスペースノイドと呼ばれる宇宙移民者だということを。
そして、宇宙世紀0079。
後に一年戦争と呼ばれる戦争が始まり、幸は様々なことが理由でジオン公国軍の軍人として参加、後々まで幸はジオン軍の軍人として戦い続けることになるとは当時の本人も周りも考えてもいなかった。
一年戦争、グリプス戦役、第一次ネオ・ジオン戦争など、幾つの修羅場を戦場を絶望を経験しながら、幸は第二次ネオ・ジオン戦争まで生き残り、シャアの右腕、シャアの親友として第二次ネオ・ジオン戦争に参加した……。
だが、その時に突如現れた謎の光に飲み込まれ、気付けば勉老人が所有する竹林の中心で倒れ、さらに若返り、勉老人の養子となり、現在に至る。
色々と省略したがだいたいがこんな人生だったのを、朝食を食べながら簡潔に思い出していた。
その表情は暗かった。
「コウ、どうしたんだい?」
「え?」
「そんなに暗い顔をして」
「⁉……何でもないよ」
勉老人に指摘され、表面上はさらりと流しているが内面では慌てていた。
「そうかい」
勉老人は幸がこちらを気遣ったことなどお見通しだったが、特に追求はしなかった。
その後はいつも通りに食事を済ませ、食器などを洗い片付けるのは勉老人の仕事で、幸は学校に行く準備を終わらせる。
「じゃ、いってくる」
「はい、いってらっしゃい」
そして、いつものように学校に行くためにバス停に向かう、今日はバスの日なので利用もしないのにバス停には老人が多くいた。皆、幸の見送るために集まったのだ。
いつも通りに老人達に見送られながら、幸はバスに乗り込む。
馴染みのバス運転手に挨拶をしながら、普段から座っている前の方の席に座る。この路線は基本的に幸以外使う人間は少なく、またここの村から幸が通う終点の青城中学まではほぼノンストップで運行している。
本当に利用者が少ない路線なのだ、そんなバスに幸は揺られながら、眠りにつく。
バスの運転手は通り慣れた寂れた道をいつも通りに運行する。
この寂れた道を通るのは、登山家か暇人ぐらいしか通らない道で、その登山家や暇人ですら通るのが珍しいぐらいに寂れた道だった。そんな寂れた道をいつも通りに運行していると道の脇に手を振っている女性が一人とそのすぐ横には腕組みをした女性がもう一人いた。
運転手はまたかと思いながらも、相手が女性であることに一抹の不安があった。以前、この道で車が故障し、立ち往生していた女性の旅行者三名を町まで送ったことがあったが、彼女達は自分は助けられるべき存在でここまで送るのは当然だ。と言い張り、運賃を払おうとしなかったことがあった。
世が世のため、そんなふてぶてしい女性は珍しくないが、結局その時に乗り合わせた幸が女性旅行者三名に食ってかかり、散々罵声を浴びせられながらも運賃を払わせたことがあった。
その時から、幸に恩があり、それ以来、バス運転手には不人気なこの道を率先として運転するようになった。
もしかしたら、また……と運転手の頭にはよぎったがこんな道で置き去りにした方が問題になるので仕方なく、女性二名の前にバスを止め、マイクで話しかける。
「どうかなさいましたか?」
「そ、それが道に迷ったあげく、ガソリンが……」
そう言ったのは緑色の髪に中々の巨乳の女性だったが、ちゃんと確認しろよと運転手は心の中で囁いた。もう一人の黒い髪に鋭い目をした女性は明らかに巨乳の女性を睨んでいた、こう言ってなんだが、黒い髪の女性も中々に巨乳だと運転手は思った。
すると、黒い髪の女性が緑色の女性が言う。
「運賃は払いますので、近くの町まで乗せてもらえませんか?」
「いいですよ」
本当に払ってくれるならねと心の中で付け足す。
二人の女性は荷物を車から持ってくると言い、運転手は知り合いに車の整備士をやっていた人間がいるので頼んでみると言い、運転手は幸が住んでいる村にいる車などの整備士をやっていた従兄弟に私用の携帯電話を使い、電話をかける。
先程、緑色の女性から聞いた話をそのまま従兄弟に伝えると簡単に承諾をしてくれたと同時に先程の二人が帰ってき、バスに乗る。
「知り合いが回収してくれるそうですよ」
「ありがとうございます」
「いえいえ、ここの道は寂れていて地元の人間、特に近くにある村の人間と私みたいな物好きな運転手以外使いませんから」
「そうですか……山田先生」
「ひぃぃぃ⁉」
黒い髪の女性が緑色の女性にちょっと奥で話そうやと満面の笑みでバスの後部座席を指差す。
緑色の女性はガタガタ震え、涙目になりながら後部座席に向け歩き出す……その姿はまるで死刑台に向かう死刑囚のようだった。
「ん?」
黒い髪の女性が幸の横を過ぎようとしたとき、寝ている幸のすぐ隣で歩みを一度止め、幸を見るが「ふむ?」と首を傾げながら、後部座席に向かった。
ーーー黒い髪の女性の後姿を実は起きていた幸は軽く見たが、興味なさそうにまた眠りについた。