幸は目を覚ます。
バスの窓から外を見ると民家が立ち並み、制服を着た男女が歩いている。目的地まであと少しといったところだろう、幸は前を向いてアクビをして、再び窓から外を眺める。
すると、眼鏡をかけた一人の男子生徒が複数のカバンを持ち、荒い息をしながら、フラフラと歩いているのが見えた。その男子生徒の前方では数人の女子生徒がその男子生徒を指差しながら、ゲラゲラと笑っていた。
だが、誰も咎めない。
ーーー胸糞が悪い。
よく見る光景だが、胸糞が悪い。
どうして、この世界の女はあんな糞が多いのだろうなと幸は思いながら、バスの天井を見上げる。
そこには色とりどりの広告が目に映る、映画やパチンコ、病院、イベントなどなどと様々な広告が貼られていた。その中で、特に目立つのがある一枚の広告が目に入った。
【第十三IS博覧会開催!】
今回で第十三回目になるIS博覧会が幸が住んでいる県で明日から開催されると書かれ、他にも様々なことが書かれていたが幸は興味が然程もないので前を向き、目をつむる。
世が女尊男卑になった原因【IS】ーーー正式名称【インフィニット・ストラトス】、略称でIS。
元々は宇宙空間での活動を想定し、篠ノ之束により開発された【マルチフォーム・スーツ】。
開発当初は全くもって注目されなかったが、ある事件ーーー【白騎士事件】によって従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能が世界中に知れ渡ることとなり、宇宙進出よりも【飛行パワード・スーツ】として【軍事転用】が始まった、各国の抑止力、【核の抑止力】から【ISによる抑止力】に移っていった。
ISは核となるコアと腕や脚などの部分的な装甲である【ISアーマー】から形成されており、その攻撃力、防御力、機動力は非常に高い【究極の機動兵器】だと言われている。
特に防御機能は優れており、機体に内蔵されているシールドエネルギーによるバリアや【絶対防御】などによってあらゆる攻撃に対処でき、操縦者が生命の危機にさらされることはほとんどない、故にISを倒すにはISを、目には目を歯には歯を。
ISには武装を量子化させて保存できる特殊なデータ領域があるらしく、操縦者の意志で自由に保存してある武器を呼び出せる。ただし、全ての機体には【量子変換容量】によって装備には制限がかかっている。だから、破壊力のある巨大な武装ばかりを入れるというわけではない。
そして、【ハイパーセンサー】の採用によって、コンピューターよりも早く思考と判断ができ、次への実行などに移せるらしい。
またISは【自己進化】を設定されていて、【戦闘経験を含む全ての経験を蓄積】することで、IS自らが自身の形状や性能を大きく変化させる所謂、【形態移行】を行い、より進化した状態になるらしい、噂では【第三形態】までが確認されている。
コアの深層には【独自の意識】があると噂され、操縦時間に比例してIS自身が操縦者の特性を理解し、操縦者がよりISの性能を引き出せるようになる。
ただISには謎が多く、全容は明らかにされておらず、特に心臓部であるコアの情報は自己進化の設定以外は一切開示されておらず、完全な【ブラックボックス】となっている。原因は不明であるがそのブラックボックスのせいかはわからないが、【ISは女性にしか動かせない】……それが原因でこの世は【女尊男卑】の世界になってしまった。
ISのコアを製造できるのは開発者である【篠ノ之束】のみであるが、ある時期を最後に束はコアの製造をやめたため、ISの【絶対数が467機】となり、専用機を持つ者は特別扱いされることが多い。
コアの数に限りがあるため新型機体を建造する場合は、【既存のISを解体しコアを初期化】しなければいけないらしい。
またISに乗る際には、ISスーツと言われる見た目が競泳水着みたいな物を着用しなければいけならしく、ISスーツにはISを効率良く動かせる機能があり、絶対的に必要というわけではないが、着用しているとしていないでは雲泥の差があると言われている。
見た目が競泳水着というかスク水というかレオタードみたいな見た目で、そのうちに下着みたいな見た目になり、キャッチフレーズは【下着じゃないから、恥ずかしくないもん!】になるんじゃないか?と幸は密かに思った。
ISは究極の兵器だと世間は囃し立てるが、幸はそうは思っていない。
確かに性能を見れば、究極の兵器だが、兵器としての欠点がある。
まず一に、操縦者が限られる。
使える人間の幅が狭いニュータイプ専用機に比べれば、幅は十分に広いがISを使うにも適性があり、適性が高ければ高いほど良いのは言うまでもなく、低い人間はISに触れる機会はかなり少ないだろう。
また、ニュータイプ専用機は【強化人間】になれば、誰でも使えるがISはそうはいかない。以前、女性が使えるのなら……と何人かの男性を性転換手術で女性にしたが、うんともすんとも言わなかったらしい。そういった意味ではISは万能ではない、兵器に求められるのは誰でも扱える万能が一つ。
二つ、生産数が少ない。
正確には生産数には限りがある。
兵器としてはこれはかなりの欠点になる、兵器は最終的には大量量産を目指しているのが大半だが、ISは生産数に限りがあり、大量量産が不可能だ。
故に万能型で生産数が多かったザクやジムは後々の時代でも使われ、後々の時代のMSの基盤となったザクⅡやジムは一年戦争の傑作機と言われることが多い。
簡単にあげれば、この二つぐらいだろう。他にもあるかもしれないが、ISに興味がない幸にはこれぐらいしか思いつかないし、そんなことに思考は使う気もない。
乗れない兵器、戦わない兵器のことを考えても疲れるだけだ。
『間も無く〜終点〜終点、青城中学前〜、終点青城中学前でございます。
お客様はお忘れないようにご注意ください』
もう間も無く終点らしく、暇つぶしにはなったなと幸は思いながら、鞄からカードを取り出す。
しばらくして、バスは終点である青城中学前に停車する。
ちなみにだが、青城中学の読み方はアオジロだ、アオシロでもセイジョウでもない、アオジロだ。
幸がそんなことを思いながら、慣れた手付きでカードを運転手に渡し、運転手はカードを専用の機械に読み込ませ、笑顔で幸に「いってらっしゃい」と言う。
幸もそれに笑顔で「いってきます」と答え、バスを降り、校門までの道のりで見つけた友人達に挨拶をしながら、合流する。
運転手は見慣れた光景を微笑ましそうに見ているとあの二人の女性が改札口まで来て、お辞儀をしてお礼を言う。
「ありがとうございます、助かりました」
「いえいえ」
二人はちゃんと運賃を払い、先に緑色の女性がバスを降りる……若干青い顔をしていた。
もう一人の女性もバスを降りようとしたが、運転手に振り返り聞いた。
「そういえば、先程の彼は?」
「あぁ、神楽坂くん?
彼はあの山にある辺境の村【余生の村】の子だよ」
「余生の村?」
「えぇ、あそこの村に住む人達の大半はあそこで余生を過ごすために住んでいて、それで周りからは余生の村、なんて言われてます」
「……ありがとうございます」
運転手はまた「いえいえ」と言い、黒髪の女性が降りるのを確認してから、バスのドアを閉め、早々にその場を後にした。
黒髪の女性は走り去るバスにもう一度お辞儀をし、青い顔でプルプルと震える女性に声をかけた。
「山田先生、しっかりしてください」
「うあ、で、うぇ、もぉ」
山田先生と呼ばれた女性はバスに酔ったらしく、気持ち悪そうに口を抑え、身体をプルプルと震わせていた。
黒髪の女性【織斑千冬】は深いため息をしながら、吐きそうな女性
【山田麻耶】の首根っこを持ち、引き摺りながら、歩き出す。
今回この町に来たのは今年ある学園の受験者が最も多く、幸が通う学校【市立青城中学校】の視察に来たのだ。
どういう生徒がいるのかを。
一方、その頃、幸はすでに教室に着き、席に座っていた。そして、ある女子生徒と話をしていたと言っても女子生徒が一方的に話しかけ、幸は嫌そうに対応していた。
「だから、何故だ⁉」
「面倒」
「な、何故⁉」
「だって、一戦だけとか言いながら、貴様は以前十五戦もやらせたじゃないか」
幸は話は終わりだと言わんばかりに席を立つが、その女子生徒が行く手を阻む。
「そこをどけ、篠ノ之箒」
「断る」
織斑千冬がため息を吐いているとき、幸もため息を吐いた。
理由はどうあれ二人とも呆れて、ため息を吐いたことだけは同じだった。