やはり俺たちの防衛生活はどこかおかしい。   作:ハタナシノオグナ

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二話に短し一話に長し。またまた分割となりました。
『V FOR VENDETTA』いいですよね。まだ見たことない方は是非に。
ただ一応の注意として、今回はヴェンデッタ的意味合いではなくアノニマスのアイコン的な意味での使用となります。

【追記】令和元年7月15日
誤用の報告をいただきました。これまでは私の意図から外れた変換や字余りを摘示していただいていたのですが今回は私の無学が露見しました。
霧玖様、本当にありがとうございましす。


(6)ガイ・フォークスは纏われる

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

アイエエエエ! ユキノシタ!? ユキノシタナンデ!?

 

三門市に隣接するとはいえ、安全であるはずの総武高校の裏手で。

突発的に開いたゲートを潰しにかかる比企谷八幡は追い詰められていた。

 

潰しても潰してもたちどころに湧くネイバーに、ではなく。

いや、たしかにそっちもウンザリしているけどね?

そっちはもう片付けた。問題は何故か火中の栗を拾いに来た雪ノ下だ。

 

仕事を終えてから後処理の算段を立てていなかった事に気がついた八幡は絶賛後悔中だったがのだが、もはや動かなくなったトリオン兵から漏れる煙の奥に人影を見て、体を強ばらせた。彼女、雪ノ下雪乃のような素人が行うそれは戦闘地帯へハイキングに来たようにしか見えない。

それを理解しているからか、それとも全く理解していないからか、辺りに散らばったネイバーの残骸に多少の不快感を見せながらも、背筋を緊張させこちらへと向かう足どりは確かなものだ。

そんな彼女を見たトリオン体の八幡は冷や汗をダラダラと垂れ流す。

問い質すように、というか縋るように追従する暁法を見るが、頼みの綱は呆気なくちぎられた。口パクで『ごめん。ムリ』と言って肩を竦める彼を見て、八幡は天を仰ぎたくなる。

 

オーウ、テリブル。

 

『身辺警護』の為に使用を許可されたダミースキンのお陰で、このトリオン体の中身が比企谷八幡である事は露見せずに済むだろう。が、声だけはそうも行かない。

そもそもこれを使う際は通信以外での会話が想定されていないのである。その為、不可抗力的に会話が必要になった場合には、オペレーターによるリアルタイム編集で補うことになっていた。

しかし現状小町は学校にいる訳で、いくら考えても支援は望めない。

 

どう見ても詰んでます。本当にありがとうございました。

 

こうしている間にも雪ノ下は八幡(偽)へとにじり寄り、詰問してくる。

 

「そこのあなた」

 

全く知らないはずの相手にも、というか目の前でネイバーをバラバラにして見せた得体の知れない人間に対しても、その性格は健在らしい。

身の振り方について全力で頭を振り絞っていると、黙殺とみなしたのか、さらに声をとがらせて睨んでくる。

 

「あなた口が利けないの? 返事くらいしたらどうかしら」

 

マズイマズイマズイマズイ! ヤッバイヤッバイヤッバァイ!

 

いよいよ迷走し始めた思考を落ち着かせようにも、雪ノ下の態度はそれを許さないでいる。素知らぬ顔で辺りを眺める暁法が拍車を掛けている気もするが。とにかく、八幡は焦っていた。

唯一の救いは外観上の表情を変えずにいることで沈黙が意味ありげなものになっていることだろうか。なんの助けにもなりはしないが。

諦めて口を開こうとした丁度その時に、暁法が突然表情を険しくするやいなや、そのままくるりと背を向けて、脱兎のごとく身を隠した。

暁法の姿が完全に隠れたかと思うと、時を同じくして新しい人影がこの場に飛び込んで来る。

 

「嵐山隊、現着した!」

 

「けど、終わってますね……誰でしょうかあの人?」

 

『え、終わって……? ツイン狙撃は? 出番は?』

 

「油断しないでください。佐鳥先輩」

 

そこにはボーダー本部所属A級部隊、紛うことなき精鋭である嵐山隊が揃い踏み(佐鳥除く)していた。

なんか一気に騒がしくなったなぁと八幡がぼんやりと考えていると、さらにもう一群が現れる。

 

「くっそー間に合わなかったかー! コレやったの嵐山さん?」

 

「言葉は選べ、陽介」

 

「三輪隊か! いや、俺達も今来たばかりでな」

 

おっ、これ有耶無耶にするには最高のタイミングじゃね? と思いたって脱出を試みた八幡の幻想を、嵐山准はぶち壊した。

彼もまたウニ頭属性に縁があるのかもしれない。

 

「やったのは彼だ」

 

最悪のタイミングで話が戻ってきたぞオイ。

 

『トイレから帰ってきたらなんかあったっぽくて、それを見に来た野次馬Aですよー作戦』は完全に失敗である。三輪隊が出張ってきた以上は、どちらにせよ破綻していただろうが、そこは今重要ではない。と言うか、彼等にダミースキンの事がバレるのはそれはそれで避けたいのだ。

しかし、そこに割り込んだ雪ノ下が結果として八幡を延命させた。

 

「彼を含め、あなた方はボーダーですね? 何故警戒区域から離れたこんな所にネイバーが?」

 

流石に人が揃えば体裁は整えるのか、言葉遣いを正してそう訊いていた。その目にありありと不信感を抱えながら。

 

「確かに俺たちはボーダーだ。到着が遅れて申し訳ない。聞きたいことは色々とあるだろうけど、現状では答えられることは何もない。すまないが今は避難指示に従ってほしい。」

 

手短にそう言って、責務に取り掛かった。

 

「嵐山さん、このブロック周辺の立ち入り制限始めます」

 

「ああ、任せた。木虎は学校側への説明を頼む。俺もすぐ向かう」

 

「了解」

 

「おっ、手伝うぜトッキー」

 

「ありがとうございます、米屋先輩」

 

「三輪は高校生の隔離を頼めるか? 野次馬は少しでも減らしたい」

 

「……わかりました」

 

嵐山准の説明に納得のいかない表情でいた雪ノ下だったが、思えばたった今到着した人員が全て把握しているわけがないと思い至ったのか、渋々ながら身を引いた、かに見えた。

しかし、せめて至極真っ当な質問だけはせずにいられなかったのか、ついにその質問がされた。

 

「あの……そこにいる人は本当にボーダーなんですか? 少なくとも当校で見た顔ではないのですけれど」

 

「「「「『「ん/えっ?」』」」」」

 

ああ、ここまでせっかく誰も気づかないでいた疑問に気がついてしまったか。

 

今度こそ八幡は滝のような汗を流した。

 

「そういえば誰でしたっけ」

 

「A級じゃないのは確かでしょうけど……」

 

「えっ? じゃあB級!?」

 

「いやーこの数のネイバーに単騎で立ち会えたらB級でも話題になってるだろ」

 

「まさかC級って事は……」

 

「でも隊服は正隊員のモノですし……」

 

「それこそないだろう。奈良坂、古寺。お前達は知ってるか?」

 

『ちょっ、三輪先輩! 位置バレしかねない事聞かないでくださいよ!』

 

『無駄だ、章平。もうバレてる』

 

『あのー、三輪先輩。佐鳥は? 俺の意見は!?』

 

顔の見えないままに話すことで起きた混迷を嫌い、三輪は一度言葉を切った。

 

「ハァ……それでどうなんだ?」

 

『ダメだな。撃てなくはないが、射線そのものはまるで通っていない。加えて知らん』

 

『同じく自分もわからないです』

 

『俺は一応見えてるけど、誰かってのはてんでわかんないかなー。少なくとも持った中のC級にはこんなのいなかったと思いますけど。ってかどう見てもアタッカーじゃん?』

 

流石にこれらの会話をすべて聞き取れている訳では無いが、状況が確実に悪化していることだけはひしひしと伝わってきた。やはりA級の質は一段違うというべきか、先ほどの指示を達成する為に移動すると見せながら、その実彼等は八幡を包囲しつつあった。

 

「まあ本人が目の前に居るんですから、直接聞けばいいのでは?」

 

万事休す。木虎の一言は、きっと準備が整ったことを示すものだろう。

 

「そうだな、そうしよう。君の所属は?」

 

「…………。」

 

答えられない。と言うか、答えられるはずがない。どこかのタイミングで雪ノ下に明かすとはいえ、由比ヶ浜の所在がわからない今だけは。だからこそ、暁法と琴時にはさっさと保護したと言ってもらいたいのだが、未だその連絡はない。

多少の軋轢を産む覚悟で、八幡は強行突破を決めた。

 

「もう一度聞く。君の所属は?」

 

「………………。」

 

先程と同じく、沈黙をもって返す。違うのは、ただ慌てるでなく打破の為呼吸を整えている事。

応答がないと見るや即座に三輪秀次が鉛弾を放ったのを確認して、八幡のトリオン体が爆散した。紙一重のタイミングで狙撃もあった辺り、どうあっても生身に剥く腹らしい。

 

「ッ!? 爆発!!?」

 

「すみません、伏せていて貰えますか」

 

突然の出来事に困惑する雪ノ下を、時枝充の静かな声が落ち着かせた。

全防御を備え抜かりなく護衛に徹している彼の顔には、声音に反していささかの緊張が伺える。

 

「クッソ、手応えねーな」

 

吹き荒れる粉塵の中へと、躊躇いなく飛び込んでいった米屋陽介から芳しくないという声。

それを聞いた嵐山准は、すぐさま全体を俯瞰していた狙撃手と交信する。

 

「賢、レーダーは?」

 

『ダメっぽいです。飛び散ったのも全部トリオンで辺一帯反応が出てます』

 

「識別はどうだ?」

 

『一応ボーダーのトリガー……? 不明じゃないですけど』

 

歯切れの悪い佐鳥の言葉に疑問符を持つが、今この場で回せる気は流石にない。

 

「撒かれたか……」

 

「反応は味方でした。挙措はともかく、脅威ではないと見ていいんじゃないですか?」

 

「使っていたトリガーがボーダーの物だった、確認出来たのはそれだけだ。ネイバーがいないという保証はどこにもない」

 

「……浅慮でした、すみません。三輪先輩」

 

「……いや、感情的すぎた。すまん、時枝」

 

ネイバーの事となるとつい歯止めが利かなくなる三輪は、己の行動が八つ当たり的になったことを恥じて謝った。時枝も、見えていなかった可能性に気づき、丁寧に頭を垂れる。

なんだかんだ上手く付き合えている後輩達に向けて満足気な笑みを浮かべると、嵐山准は気を引き締めて仕事に取り掛かり直した。

 

「よし、そこまで! 本部で隊員が所持するトリガーの位置情報を洗えば分かることもあるだろうさ。ひとまず今は警戒くらいしか出来ないからな。編成を組み直す。三輪隊と木虎、賢は周辺の警戒を頼む。充はこの場で回収班との連絡を」

 

それと、と言って言葉を切ると、目の前の出来事の処理に手間取っている雪ノ下へと向けて声を掛ける。

 

「想定外の事もあって、取り急ぎ学校側へ事情を説明しなければいけないんだ。突然の出来事に混乱している所申し訳ないけれど、口添えをお願い出来ないか?」

 

実際は彼女が狙われた事を憂慮しての保護を含めたアフターケアでもあるのだが、それをおくびにも出さずにこう言ってのけるあたり、流石はボーダーの顔と言うべきだろうか。

戦闘というある種非現実的な世界から、日常的な(と言えるかはさておき)会話へと引き戻された雪ノ下は、未だ尾を引く身震いを気丈に払い除けて前を向いた。

 

「え、ええ……。どれほどお力になれるかは保証しかねますが」

 

「ありがとう。ご協力感謝する」

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

案内という名目で嵐山准の前を足早に歩きながら、雪ノ下雪乃は思考に没頭していた。

戦闘はまるで素人の彼女であっても、言葉も交わさずにあれだけの連携をとれる彼等が相当の手練れである事くらいは推し量れる。

しかし、そんな彼等でさえ取り逃すほどの実力をあの人物が持っていたという現実が、雪ノ下雪乃の中でいまいち消化出来ないでいた。『人は見かけによらぬもの』という諺の教えではなく、より直感的な違和感が彼女の意識にささくれを残している。

既視感、ともすれば単なる自意識過剰の類。それでも『正しい』意識が、自問を促した。

 

私はあの男を知らない? 本当に?

 

人は、顔のパーツが平均の位置にある程に、それを美しいと感じるという。言い換えるならば、最も突出していない人間が最も美しい顔であるということだ。

しかし先程の人間は、美しいとさえ感じさせない程に特徴を失っていた。

まるで造られたように、そうなるように、余りにも特徴を削ぎ落とされた人相を脳裏で反芻する。髪があって、眉があって、目があって、鼻があって、口があって……。そんな『当然』さえ特徴と呼ばねばならないほどに、あの人物のイメージは曖昧だ。

だが、それ故に。

それ故に、細やかな仕草が、佇まいが、特徴として刺さる。偏りとして鍵となる。

例えば猫背のせいで私とそう変わらない体躯を、例えば捻た性格を表すかのような斜に構えた立ち方を、例えば人と対峙した際に相手よりも僅かに下を見るあの癖を。

 

ついさっき目にしていたのではないかしら?

 

断片的に過ぎなかった情報は重なり合って嵩を増し、遂に立像となって解を導いた。言葉とするには余りに頼りなく、馬鹿馬鹿しい答え。しかし、吟味の手だてを持たずにいて、なおも口にしないではいられないそれを。恐る恐る、雪ノ下は自身の推理を声に出して確かめた。

 

まさか、ありえない。いいえ、でも……まさか?

 

「比企谷くん……?」

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

その言葉に驚きを隠せなかったのは嵐山准だった。

思索に耽る雪ノ下雪乃を見て、初めはネイバーを見た事によるショックが抜け切れないでいるのだろうと、敢えてそれを遮ることはしなかったが、なんの前触れもなく現れた『比企谷』の名に、驚きがつい口を衝く。

 

「君は比企谷を知っているのか!?」

 

「えっ、ええ……彼は私が部長を務める部活動の部員ですが……。ご存知でしたか?」

 

当然といえば当然で、前を歩く彼女はその足を止めてこちらを窺ってきた。必ずしも互いに浮かべる相手が一致しているとは限らないが、『比企谷』なんて苗字はそうあるものじゃない。まず間違いないだろう。

 

「ああ……よく知っている。そうか、なら……なぜ?」

 

「『なぜ』というのは?」

 

入れ替わるように思案顔になる嵐山准を見て、雪ノ下は当惑するように首をかしげる。

あくまでスポンサーの親族にすぎない彼女に多くを語るべきか逡巡した嵐山准だったが、結局自身の疑問が勝る事となった。

 

「その前に、ひとつ聞かせてくれ。今日比企谷は休んでいるか?」

 

「は?」

 

「重要な事なんだ。今日はいないのか?」

 

質問の意図を測りかねているのか、またも悩ましげにする雪ノ下の言葉を遮って問いを重ねる。

 

「いえ、確かに学校に。帰ってこない彼の所在の確認をする際に遭遇したのが先程のことです」

 

「そうか……いや、待ってくれ。君はあの場所に一人で来たのか?」

 

「いえ、もうひとりの男子生徒と……あら? そういえば彼はどこに?」

 

「まさか攫われたのか! その生徒の名前は!?」

 

「モリアケノリ……だったと思います。漢字は定かではないですけれど」

 

「……モリ? 杜だって? じゃあやはりさっきのは……」

 

何もかもが仕組まれていたという事に嵐山准が辿り着いたのと、雪ノ下が到達した結論を吐露したのはほとんど同時のことだ。

 

「…………先程の彼は、比企谷くんなのでしょうか」

 

まるで自身の脳内を読み上げられたようで、思わず面食らった嵐山准は静かにそれを問い質す。

向かい合うふたりは、もはや当初の目的をわすれたように足を止めていた。

 

「……なぜそう思うんだい?」

 

「顔は間違いなく別のモノでした……けれど、その……似ていたなと」

 

伏し目がちにそう言った彼女を見て、嵐山准は自身の推測が限りなく事実に近いであろうことを理解する。思考が整理され始めることで先程の諸々が腑に落ち、同時に新たな疑問を生んだ。

 

「だいたいあってるぞ、雪ノ下」

 

正解は、本人の登場をもって明かされた。いつの間にか現れた比企谷八幡が、廊下の窓からこちらを眺めている。

 

「比企谷!」「比企谷くん……」

 

「どうも、嵐山さん」

 

「比企谷、あの格好はどういうことだ? それになぜ杜もいない」

 

矢継ぎ早に繰り出される質問に八幡はちょっとうんざりしたように答える。

 

「それはまた今度家に来たときでお願いします」

 

そう言われて、ようやく今すべきことへと立ち返った嵐山准は表情を改める。

 

「要件だけお伝えしますと、既に学校側に話は通しました。生徒の隔離も八割方完了しています。それと、さっきの件は内密に。疑う訳じゃないですけど特に三輪には。本部には追って連絡します」

 

「わかった。回収が終わり次第警戒区域に復帰しよう。いまいち理解しかねるが、まあそれは今度にしておくよ」

 

「助かります」

 

素直に頭を下げた八幡に対して、嵐山准は構わないさ、と鷹揚に微笑んだ。その隣では不機嫌であることを隠そうともしない雪ノ下が、腕を組みながらその様子を睨んでいた。

為すべきを知り、増幅された身体能力をめいっぱいに使って駆けていった嵐山准の姿が角に消えると、雪ノ下は他を圧倒する威圧を放ちながら八幡を見る。

 

「当然、私への釈明もあるのよね?」

 

言外に『洗い浚い吐け』と意味を込めた台詞も、八幡に対しては然したる効果を見せなかった。

余計な問答を省こうとした雪ノ下の目論見はあっけなく崩れ去る。

 

「ん? ああ、トイレ行ってた」

 

これほど清々しく、また同時に馬鹿馬鹿しい言い訳も珍しい。

たった今眼前で交わされた会話は、先程の出来事を目撃していた雪ノ下にとっては紛れもなく『比企谷八幡』が『彼』である事を示すものであり、比企谷八幡の口上はそれを承知で話していたはずなのだ。

 

「あら、そう。ついでに聞くけれども、杜くんの所在を知らないかしら」

 

雪ノ下雪乃はあくまで穏やかに、冷静さを携えて言葉をかき集める。端からマトモな答えは期待出来ないと予想していたからこその答え。苛立ちは募れど、闇雲にぶつけたところで利がないことくらいは彼女とて理解しているのだ。

 

「ちょっと『()()()』だ」

 

「……あなた、ボーダーだったのね」

 

それでも動揺を見せない八幡にいい加減腹を立て、少しカマをかけた雪ノ下だったが、それも『さぁな』の一言に流される。彼にとっては想定内という事だろう。

他人の掌中に居ることへの不快感は、雪ノ下に虎の威をも借りさせた。

 

「私の家はボーダーのスポンサーよ。出資者に対する説明の責任を果たそうとは思わないのかしら」

 

今度は返答さえなく、嘲りを添えた笑みだけが返される。

意味を持たないことを知りながら、それでも口にした言葉は案の定一笑に付された。

そこから始まった雪ノ下の沈黙は、手詰まりであると雄弁に語るようでもある。

 

「そう睨むな。ツツミカクサズ教えてやる」

 

「……どういう風の吹き回し?」

 

今まで必死に隠してきたのに、と言い切る前に八幡がそれを遮る。

 

「当然、俺の利益の為だ。弱味を握ったと勘違いするなよ? 俺がさっき逃げたのは、ただタイミングが悪かったからだ」

 

「タイミング?」

 

「ああ、だがそれも気にする必要はなくなった。という訳でカミングアウトのお時間だ」

 

そう言うと、彼はニタリと気色の悪い笑顔を浮かべた。

そこで彼が何かを言う前に、もうひとつの声が現れる。

 

「悪趣味すぎんだろ。さっさとバラしちまえよ」

 

雪ノ下がギクリとして背中を振り返ると、そこにはマッ缶を携えた()()()()()()()()

 

………………は?

 

雪ノ下は声を出すことも忘れて立ち尽くした。ありえないと解っていながら、自身の視覚は『比企谷八幡を2人』捉えている。

先程まで雪ノ下と会話をしていた方の『比企谷八幡』は、呆然とする雪ノ下を見て不満と充実を織り交ぜたような顔でいた。

 

「どうしてネタ明かしちゃうかなー」

 

「うるせぇ、俺だって自分見るのは気持ち悪ぃんだよ。まして中身がお前ならなおさらだ」

 

この場で唯一状況を理解出来ていない雪ノ下に向かって『比企谷八幡』が歩み寄る。

思わずたじろぐ彼女の気を使うことなく、彼は正面に立ちはだかった。

 

「つまりは……こゆコト♡」

 

言いかけた言葉と共に比企谷八幡が崩れたかと思うと、次の刹那、そこには杜琴時がいた。

 

杜琴時。暁法を義兄に持ち、比企谷兄妹らと同居するブラコンを騙った変態。かと思えば、学校では天才の名を欲しいままにする優等生。ボーダーにおいては、文字通り計り知れないトリオン量を有し『源泉』と称されるボーダー最強の一角。

そして彼女は、雪ノ下雪乃のクラスメイトでもあった。

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 




次回で恐らく『由比ヶ浜編』が終わります。
もう暫しのご辛抱をば。

【追記】平成29年11月15日
方々修正しました。
今回特に細かなミスが多くて嫌になります。

【追々記】平成31年1月4日
嵐山隊の説明から5位という表記を削除しました。
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