やはり俺たちの防衛生活はどこかおかしい。 作:ハタナシノオグナ
本年もよろしくお願いします。
新春ということで意気揚々と仕上げました。
どうぞご笑覧あれ。
【追記】令和元年7月25日
誤用訂正いたしました。
霧玖様、毎度の精読感謝申し上げます。
(1)春
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激動に満ちた4月が終わり、ゴールデンウィークも明けた頃には、先日のネイバー騒動も話題にならなくなっていた。
常に新しい『ウケる(笑)』に飢えた高校生にとっては、2週間も前の話題など今更もいいところなのだろう。
そういった事情もあってか、ボーダーも事後の対策に手を焼かずに済んだらしい。『安全が確認されるまでの間、部隊を駐在させる』という処理以外はせず、その戦力さえも1週間が経つ頃には最早パフォーマンス以外の意味は無いと言える規模にまで縮小されていた。
具体的には、最初期にはA級を含む最低2つの部隊が割かれていたが、今やその動員はB級下位隊員が2名という状況だ。
ボーダー隊員にとって『4月の終わり』が別の意味を持つ以上、余計な仕事はしたくないというのが本音でもあるのだろう。そのような時期に態々出張ってくる彼らは余程の暇人か、金目当てか、学校をサボりたいのか……。いずれにせよ底の浅い連中であることが見て取れた。
一方の総武校生はといえば、そんな変化などには目もくれず今日も青春を謳歌している様だった。休み明けということも手伝ってか、教室内はいつにも増して喧騒に包まれている。
そして、そんな空気を嫌いながら比企谷八幡は教室の中央にいた。午後に控えた数学と教室内のやかましさにウンザリとしながらため息をついて、昼休みをどう過ごすかの算段を立てていた、
のだが。
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教室内の空気が不穏なものになったのは、ひときわ五月蝿い集団が原因らしい。
まだ春らしさを保つ陽気にあてられていたこともあり、八幡が事態に気づいた頃にはかなり手遅れな雰囲気が漂っていた。
────まぁ、だからどうって訳でもないが。
あくまでも声にはせぬままにそう独りごちて、騒ぎの……というより静けさの中心を見ると『J』ことガハマーン、もとい由比ヶ浜結衣が金髪ロールと黒髪ロングに囲われていた。面倒なことに、どうやら彼女の行方を争っているらしい。
野次馬根性など微塵もないとはいえ、彼女が関わっている以上は見届けなくてはならないのが比企谷隊のお仕事である。厄介極まりなかろうと、聞き耳を立てなければならない。
とはいえ、そばだてるまでもない大音声が響いていた。
「あーしさー、外野にシャシャられんの我慢ならないんだけど?」
炎の国の女王が領有権でも主張するかのように荒らげた声の先には、氷の国の独裁者(文字通りぼっち)が顕現している。その佇まいにはいっそ威厳さえ備わっていた。
「奇遇ね、私もよ」
あくまでも涼しげに言い放つ雪ノ下の態度を嚆矢と受け取ったのか、炎は俄にその怒気を滾らせる。対する氷も、その冷然とした雰囲気を殺気を以て象った。
決して交わらないはずの彼女らが、いざ干戈を交えようとした、その刹那である。
「すっ、ストップストップ! 優美子もゆきのんもちょっと待ってー!」
まるで場違いな声。或いは彼女こそが、この
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互いを蹴落とすことをでしか成り立たない、2人の王が相まみえて。
しかし、猛威は振るわれなかった。
常識を持って考えれば、天災そのものとさえ言える彼女らに割って入りたい者などないだろう、決して。
だが。
事実、それをする者がいる。それも目の前に。
いっそ愉快でさえある闖入者は、別段彼女らのように風格を備えるわけでなく、秀でた弁舌の才を携えるでなく、ましてや自信に溢れているわけでさえない。至って『普通の人間』だった。
そんな彼女は目を白黒させながら、僅かに震える声で、努めて明るく口を開く。
「あのね、────」
嵐を畏れた小市民等はその多くが既に教室から逃げ出していた。閑散としたその場にたどたどしい言葉だけが響き、残り少なな人間は誰しもが目を丸くし、由比ヶ浜に見とれている。
何の事はない。彼女もまた、確かに『女王』だったのだから。
ただし、今度の言葉はきっと相手に届く様に、彼女は声を上げることを躊躇いはしない。
前と同じ後悔をしないように。自分にも、他人にも、蟠りを産まないように。
彼女は今、新しい努力を始めた。
なんてことの無い日常の、ちょっと変わった教室に。
結果として護り続けるこの景色に。
比企谷八幡の出番はやはりない。これは、そんな幕間の一節である。
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「……で、なんで俺は止められたんだよ。あのまま雪ノ下と飯食えばよかったろうが」
ちょっとした冒険を終えて、エンドロールを迎えてもいいはずの由比ヶ浜に呼び止められた八幡はぶっきらぼうにそう言って件の彼女へと目を向けた。
「さ、流石に恥ずかしかったの! それに、……ヒッキーにお礼も言わなきゃと思って」
言葉通り頬を桃に染めてはにかむ彼女の話は、昂りからか要領を得ない。
「礼?」
全く訳が分からない、と困惑顔の八幡を見て由比ヶ浜は大きく頷いた。
「うん、お礼。さっきはありがとう、って」
「おい待て、ますます訳が分からねぇよ。話を勝手に進めるな」
「だから、そのっ……何もしないでくれてありがとってこと!」
「はぁ?」
これには流石の八幡も面食らった。彼がしたことは何もなく、どこぞのクマのぬいぐるみの様な詭弁でもなければ何かをしたとさえ言えないだろうし、ましてやそれが感謝される謂れなどないのだから。
「遂に頭でも壊れたのか?」
「そんなんじゃないし! てかひどっ!? あたしヒッキーに何かした!?」
「ヒッキー言うな。大体何かしたのかってのは俺のセリフだ」
「だからそれは「それより」……?」
────用件が分かった以上、これ以上付き合ってやる気はない。
せめてそう見えるように、強引な形で己の言葉をねじ込んだ。自分に礼を言われる資格はない、という無意識下の呵責がこのような形で出力される。
青さを感じさせる、ある意味で『らしくない』振る舞いだが、先程の勇気に対する彼なりの敬意でもある……と、彼自身は気付いているのだろうか。
ともあれ、こうした葛藤の苦々しさを飲み込む為に要した一拍は由比ヶ浜をむしろ惹き付けたらしい。覗き込むようにする彼女から視線を逸らしつつ、八幡はボソリと声を吐く。
「……雪ノ下の所に行ってやれ」
「あ」
恐らく彼女は忘れていたのだろうが、そもそも雪ノ下がわざわざ出張ってきたのも一向に来ない由比ヶ浜を探しに来た為である。
「や、ヤバっ! ゆきのん絶対怒ってる!!?」
「そういうことだ。命までは取られないといいな」
「〜〜っ、もう! 今度はちゃんと聞いてもらうからね!」
謎の声明を残して由比ヶ浜は駆け足気味に奉仕部の教室を目指して行ってしまった。俄に静寂が息を吹き返し、少し離れた教室の喧騒が届けられる。
「そんな機会があればな」
軽薄な台詞に対して八幡の顔は明るくない。そして、そんな八幡を揶揄うかのように暁法の声がした。
「なに八幡、ひょっとして一丁前に責任とか感じちゃってる?」
いちいち癇に障る野郎だな、と思いながらも八幡はその言葉を否定する。
「そんなんじゃねぇよ。というかいつからそこいたんだお前」
「さあてねぇ」
誤魔化すようにゆるりと答えて、暁法はふらりと歩き出す。追従する形で八幡が歩み出してから、暁法はおもむろに口を開いた。
「結局、雪ノ下はダンマリ決め込んだって解釈でいいんだよな?」
「……この2週間程、特にどうということはなかったからな。いいんじゃねぇの」
「忘れてもらった方が楽だと思うんだがなぁ」
「あくまで『
「それは確かに。あれだけの大見得切っといて泣きつくってのは全く格好つかんしな」
「面子に囚われて云々、ってのもお前が言ったんじゃなかったか」
「それは手厳しい。が、アレは『使者』ん時だし。セーフセーフ」
「……それでいいのか?」
「いいんだよ、それで。ほら、さっさと飯食おうぜ」
とんでもない屁理屈をぶん回している気がするというのに、当人に気にする様子は見られない。
呆れながらも首を傾げる八幡を、暁法は適当に流した。
何もなかったように笑って、昼食を促す。
「というか何でお前いんの?」
「なんだ、今更かよ」
忘れがちだが本来学校で彼等が行動を共にすることは珍しい。奉仕部というイレギュラー以降、学校で一緒にいることが増えつつあるとはいえ、それでも基本的には別行動だというのに、だ。
怪訝を超えて迷惑そうでさえある八幡を無視して、暁法はコンクリートの階段へと腰を下ろした。
「話しておきたいことがある」
────また面倒事か。
そう思いつつ、しかし諦めた八幡はため息をつきながらも傍らに腰掛けた。
◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇
「5月入ってすぐやるはずだった
「ああ……延期されてたアレな。それがどうかしたのか?」
前置きもそこそこに始めた内容は、それ自体が特別不思議な話題というわけではない。むしろこの面子であれば自然とも言える話題でもある。
しかし、続いた言葉は俄には信じがたいものだった。
「恐らくあれから二宮隊が外される」
「はァ?
「ああ、話が飛びすぎたな。順を追って説明するから、とにかく聞いてくれや」
俄然食い気味になった八幡を宥めるように、暁法はいつの間にか手に持っていたタンブラーの中身を呷り、ひとつ息を着いた。
「先月中旬のことだ。珍しく司に呼び出された」
『司』。親をなくした八幡達を引き取った養父にして、中二クサい組織の頭領。それこそ冗談のような身の上だが、実際そうなのだから仕方がない。
ともあれ、ここで重要なのはそこではない。
問題はその司がわざわざ暁法を呼び出した、という点にある。
「……今度はどんな無茶振りされたんだ?」
「いや、今回はそう難しいものでもない。というか、もう終わってる」
「終わった?」
身構えるようにした八幡にとっては肩透かしを食らうような内容だったが、暁法の表情は依然として緊張を保っている。
「ああ、終わった。今回司から伝えられたのはボーダー内部だけの話じゃなかったから、動くのは俺だけでいいって考えだったらしい。内容もざっくりとした内偵で、正直『防ぐ』気は感じられなかったし『知っておいて損は無い』程度のものだったんだと思う」
「内容が全く見えないんだが」
────ここからが本題だ。
そう前置いただけあって、彼が口にした言葉は驚愕に値する言葉だった。
「俺が頼まれたのは『ボーダー内部の近界渡航を画策する人間の有無及びその協力者の洗い出し』『仮にそれらが存在した場合の実態調査』」
────会議や襲撃やらのせいで先を越された格好だがな。
こう付け加えた暁法の表情が全く動じていないのは相当な豪胆であると言えるだろう。
なぜなら。
「……………………………
言葉数の少ないままに、八幡の雰囲気が尖りつつあった。気色ばむ……とまではいかなくとも、木に出来た洞のような目から放たれる刺々しい気配。剣呑とした空気は他ならぬ殺気のそれだ。
「逸るなよ、ハチ。そう何度も言わせるな。問題ナシ、だ。俺だけで良かった、それでタカは知れるだろう?」
「だからと言って高を括る気もねぇよ。俺はお前ほど司を信用してるわけじゃない」
「最後まで聞けってんだ。その癖いい加減どうにかしろよ。見切りが早いんだっつの」
鉛のような八幡の圧をあっさりといなして、暁法は手にしていたパンを毟るように頬張った。どこまでもマイペースなその様子にこそ八幡の苛立ちがある、と彼が気付く日は来るのだろうか。
そんな胸中を理解したのかはともかく。
咀嚼を終えゴクリと喉を鳴らした暁法は、いよいよ八幡の欲した答えを口に出す。
「……結果論だが、クロだったのが二宮隊だってことだ。つっても、全員が全員『脱走兵』ってわけじゃない。脱兎は一匹。隊員の……まぁ、今や『元』か。ともかく、女の狙撃手居たろ? 奴だ。鳩原某」
これまでとは打って変わって多弁になった暁法を、しかし八幡は不満げに見ていた。
「……そんなことはどうでもいい。知りたいのは小町の生活圏内に支障がないのかってことだけだ」
「小町の生活圏内に影響があるって意味分かるか?
「間に合いもしなかったくせに大層な物言いだな」
少なくとも暁法の病みっぷりは信用に値すると判じたのか、たちまち矛を収めて皮肉に走る八幡を見て、ようやく暁法も苦笑する。事実だけに反論のしようもなかった。
答えに窮したような、僅かな沈黙。
「……絡むなよ鬱陶しい」
「事実だろ」
「やかましい」
重苦しく、堅苦しい時はこうして去った。残るのは腑抜けた空気と談笑するふたりの姿だけである。日差しの恩恵を受け損ねたコンクリートに腰掛けながら、暁法は話をこう締めくくる。
「まぁそんだけだ。実際これまで言わなかったのは只忘れてただけだし、訓練の日程通知見て思い出したんで、そういえば言ってなかったなと思って」
「ん? ちょっと待て、今なんて?」
なんてことのない報告の中に聞き流してはいけない文言があった気がして、八幡は暁法に待ったをかける。
「え? いや、だから忘れてたって……」
「違う、その前だ。日程通知って言わなかったか?」
「ああ……明後日の夕方以降揃い次第って話だったけど、それが?」
一転して不思議そうな顔をすることになった暁法が問う。
「俺その通知来てないんだけど……」
直後、静謐な空間は崩れ、校舎裏にひとりの哄笑が響き渡った。
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放課後。
慣れ始めた無人の廊下を進み、奉仕部の教室を目の前にした八幡を迎えたのは、身を寄せ合いながら不気味そうに教室内を伺う雪ノ下と由比ヶ浜の姿だった。普段であればまず目にしないであろうこの光景は、詰まるところ教室に入れない、もしくは入ることを躊躇わせるような『ナニカ』があるということに他ならない。
要するに面倒事である。またもや。
────って言うかおふたりさん、距離近過ぎない? それは百合? 百合なの? 部室で『ゆるゆり』しちゃうの? あっ、八幡退場しなきゃ……って、元から出番も居場所もありませんでしたね。いっけなーい。八幡間違えちゃった、てへっ。……うん、気持ち悪いな、今のは気持ち悪い。
脳内で寸劇を繰り広げていた八幡だったが、凍えるような殺気を浴びて現実へと立ち返る。
「……気持ち悪いわ、本当に、心の底から。……自首すれば刑法は等しく減刑するのだし、捕まる前に自ら身を差し出した方が賢明よ? いえ、それがあなたに適用されるはずはないし、されて良いはずもないのだけれど」
見れば、雪ノ下がその美しい顔を苦悶に歪めていた。隣では、少し隠れるようにして由比ヶ浜もドン引きしている。
今更のように茶番を後悔した八幡だが、後悔とは得てして先に立たないものである。
「悪かった、今のは俺が悪かったから……」
警察は勘弁してくれ、と八幡もまた心底願った。それはもう必死に。
◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇
「そういえば、杜くんは欠席なのかしら?」
「ああ、奴なら今保健室だ」
念のため言っておくが、爆笑する暁法にイラついた八幡が直接手を下したとかそういう訳ではない。ことを正確に記すならば、それは未遂で済んでいた。
では何故暁法が保健室の厄介になっているのかといえば、文字通り腹を抱えて笑っていたところで過呼吸を招いたからである。ぶっちゃけ大した症状でもないのだが、当の本人はコレ幸いと学校のベッドを堪能している。
────あの野郎、帰ったら小町に頼んでダミースキン
八幡が小物臭い復讐を決意する中で、雪ノ下と由比ヶ浜は揃ってため息を零していた。
「猫の方がまだしも役に立ちそうね……」
「タイミング悪いなぁ……」
そこに居ないというだけで随分な言われようだが、そもそもサボっていること自体は否定できない上、八幡も擁護する気は端からなかった。むしろいい気味である。
「あいつになんか用事でもあったのか? てかなんでここで立ってんの」
「教室内に不審者が居るのよ。排除するなら男手があった方が楽でしょう?」
「………………」
「あ、あはは……そこまではやり過ぎじゃないかなー……?」
真顔で『排除』と宣う雪ノ下はどうやら本気なようで、冗談だよな? と目で問うても睨み返してくるだけだった。
「……お前のその全方向向けの敵愾心どっから来るの?」
「平穏が脅かされると言うのに黙っているつもりはないわ。私の平穏は私にしか叶えられないもの」
強い意志を込めた声で、彼女は高らかに信条を掲げた。……些か以上に手段が過激な気がしないでもないが、そこは彼女自身の問題だろう。手段はともかくとしても、言っていること自体は八幡とて頷けるものである。
「まぁ、そこは分からなくもないが……」
「でしょう? 分かったら早くその不気味な顔で不審者を追い払ってくれるかしら。ああ、その後一緒にその顔も取り払ってくれるとなお良いわ」
「俺まで排除の対象なのかよ……」
「
僅かに含意を感じさせる物言いに、八幡は雪ノ下を睨む。
続き如何では『処置』も視野に入れなくてはならない。
────面倒だな。いっそ本部頼るか?
「おー、雁首揃えて何やってんの?」
少し真面目に考え始めたところで、気の抜ける声がした。
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ややあって。
「ほー、不審者ねぇ……めんどくせぇ、開けようぜ」
事情を把握した暁法はそう言って、ガラッバーン、と無意味にけたたましく扉を開け放つ。
と同時に、窓という窓が開かれカーテンの結わえが解かれた教室の内へと、臨海部特有の潮風が吹き込んだ。窓枠が風笛を鳴らし、カーテンがはためいて、教室に残されていたプリントが辺り一帯へと散乱する。
そして男がひとり、大仰な舞台装置の中に佇んでいた。
「クククッ、まさかこんな所で出会うとは驚いたな。待ちわびたぞ。比企谷八ま……ん?」
誰だコイツ? という思いは一致したことだろう。八幡を除いて。
ともあれ『痛々しい決めゼリフを別人にかます』というおよそ常人には耐え難いであろう痴態を自ら晒した不審者は感情のやりどころをなくした為か、開き直ることにしたようだった。
「き、貴様等! 我が
どこへも何も、ただ影で見えないだけなのだが、それを言ってやるほど親切な人間はこの場になかった。何より付き合う義理がない。
「3分間待ってやる。お前がしたこと全てカタァつけろ。話はそれからだ」
「は、はひ…………」
暁法に凄まれた彼は呆気なく白旗を揚げ、いそいそと室内の掃除に取り掛かった。
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3分後。
「んで、何しに来たんだよ?」
「モハハハハッ、我が内なる本願はただひと──」
「口調」
「あっ、すいません……」
「で?」
「あ、あの、小説をですね……」
◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇
繰り広げられる滑稽な光景を見て、一体誰がここを奉仕部と認められようか。
床に正座する材木座を前に暁法が椅子にガラ悪く腰掛けている。その口振りは一貫して威圧的で、立地的な面をも踏まえればカツアゲに見えないこともなかった。
一方で、尋問めいた光景を傍目に取り残された雪ノ下、由比ヶ浜、そして八幡はひとまずそれを見守っていたのだが、正視に耐えない光景に胸焼けがしたのか、雪ノ下が小声で質問を投げかけた。
「比企谷くん、その……何かしら、アレ」
────そんな『アレ』だけで通じるとか熟年夫婦じゃあるまいし。
そんなモノローグをどうにか抑え込んで八幡は聞き返す。
「いやどれだよ」
「杜くんよ。普段からあんな風だった?」
同様のことは由比ヶ浜も感じてはいたようで、同意を重ねてきた。
「あー、あたしもなんか違う気してた。クラスでもあんな感じなの見たことないし」
ふたりの疑問も尤もなもので、普段波風立たない生活を送ろうと心掛けている暁法にしては無駄に当たりが強い。こうまでもあからさまな敵意というのはなかなかに珍しいのである。
実態は同じ中二病患者である暁法の同族嫌悪という、実にしょーもない理由なのだが、それを詳らかに語ってやるのは余りに過ぎる行いだろう。
「そもそも何故部長の私を差し置いて彼が詰問……もとい聴取に当たっているのかしら。唾罵も聴取も私の専権事項なのだけれど」
「えっ、何? 役回り奪われて拗ねてたのん?」
「よく聞こえなかったわ。死になさい」
研がれ研がれて研ぎ澄まされた容赦のない一撃をカウンターで頂戴し、八幡の心が砕け散る。
散々殺意を向けられていい加減慣れているはずの八幡をもってしても、ノーモーションの『死ね』という至上の刃を弾くには力不足らしい。恐るべきは雪ノ下雪乃である。
残骸を引き気味に見ていた由比ヶ浜だったが、すぐに興味を失ったのか雪ノ下との談笑に移る。それからしばらくして、どうやら尋問を終えたらしい暁法が戻ってきた。
「あー……とりあえず終わったぞ」
微妙な顔をする暁法へ向けてすぐさま部長の声が飛んだ。
「時間を取らせただけ、なんてことはないのよね?」
微笑みかけているはずである。しかしその笑顔にどれだけの含意があるのだろうか。初夏も近いというのに、底冷えするような感覚を覚えさせるのだから恐ろしい。
とはいえ暁法自身はそう固くなるでもなく、それでいて歯切れの悪い調子で切り出した。
「小説を読んでほしい……だそうだ」
「「「はぁ?」」」
一致した感想が、今度は言葉となって木霊した。
◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇
お久しぶりで御座います。
中二回ということで、ルビ、傍点濫用しております。
避けては通れぬ自問自答回でもあり、割と悩んだりもしましたが結果として自己紹介すらカット、という扱いと相成りました。
一応次回ちょっと出ますので、材木座ファンの方々はもう暫くお待ちください。
ボーダーのお話も少し交えることが出来て安心しております。
今回の伏線は回収までが短く済みそうだぞう
【追記】平成31年1月12日
改行位置、文挿入その他細かな編集を行いました。