やはり俺たちの防衛生活はどこかおかしい。   作:ハタナシノオグナ

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拙者意味ありげな会話大好き侍と申す。
読者が知りえない全容を知る時のゲスゲスしい優越感は異常。

時折明かし忘れるのが玉に瑕ですが……。

という訳で材木座編2本目です。
思いのほか彼への想いが溢れて止まらなくなったのでまだ続くことになりました。
さすがに次でおしまいですが、今時点でほとんど終わっているので内容を確認次第出します。
もしかしたら初の同日投稿の可能性も……?

ではお楽しみください。

【追記】令和元年7月25日
『逢う』から『遭う』へ補正しました。
今回は半ば意図したものでもあったので変更すべきか悩みましたが、結果『補正』という文言を充てさせていただきました。
霧玖様、ご提案ありがとうございます。


(2)ガレ場をゆく人々の

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

気がつけば夜は明けて、まるで眠れた気がしないまま学校の時間が迫っていた。

当社比3割増しに目を腐らせた八幡は大きく欠伸を零す。

 

材木座義輝が持ち込んだ依頼をさっさと終わらせようと、実に消極的なやる気を出したことを後悔しながらモソモソと身支度を始める。

夜更けに読み始めたのは間違いなく失敗と言えた。なにせ深夜テンションで見ても面白くないのだ。こんなことならば後回しにするんじゃなかったと思ったのは一度や二度ではない。アレと向き合う時間は苦痛以外の何物でもなかった。なにせ完成していないのである。極端に多いルビや倒置法等に、作った本人が食あたりを起こして廃棄に来たんじゃないかとさえ思えた。

 

作者自身も結構そういう経験がある気がしないでもない。

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

結局、八幡の夜更かしはお気に入りの小説を読むことで中和を目論んだが故のものだった。

地獄の責め苦とさえ評せる体験の後だったせいか『読み返す』という行為にのめり込んでしまったこともまた、寝不足を後押ししてしまった。

 

────サボりてぇ……

 

働かない頭をガシガシと掻きつつ、歯ブラシを咥えて益体もない希望に思いを馳せる。

腐った目や性根に呼応したのか、心做しかアホ毛も萎びて見えた。

 

「おはよー……」

 

「……おはよう」

 

突如として、背後から音がする。事情を知らない者ならば卒倒しそうな、そんな低い声だった。

鏡越しに挨拶を返してゆっくりと振り返る先には、髪の乱れた琴時がいる。

この様だけを切り取れば、彼女が琴時だとわかる人間は少ないのではないだろうか。

平素での彼女を知る者ならば、いや、知る者であればこそ驚くに違いない。

 

髪が乱れているだけならまだしも、肌は雪ノ下さえ血色が良く見えるほどに青白く、眼窩は窪み影を浮かべていた。普段ならばスラリとした肢体は美しさを際立たせるが、今は不健康なまでに痩せて見える。極めつけに、持ち前の長身がこれらの印象に拍車をかけていた。

 

総じて、佳人薄命という言葉を無理矢理にでも想起させられる光景だった。或いは幽閉され続けた囚人だろうか。やつれにやつれた姿には痩身麗人という言葉を当てる気にはなれなかった。

壁にもたれるようにして目線を向ける彼女には怖気すら感じられる。

 

「……またやったのか」

 

歯ブラシを咥えたままで八幡は問う。彼女の様は自身の悪癖の結果だった。

結果に同情の余地はないとはいえ、眇めるようにしたのはやり場のない感情の表れでもある。

 

「……さすがに死ぬかと思った」

 

本人は諧謔のつもりで言ったのだろうが、枯れた笑いからは自嘲しか感じられなかった。

それ故に八幡も『だったら』『なぜ』という言葉を続けはしない。既にやり尽くした会話だったし、出来ることは何もない。ならば、それを口にするのは欺瞞にほかならないのだから。

ただ、結果として相対したまま沈黙してしまうことは仕方ないと言えるだろう。重苦しい沈黙が流れ、お互いに顔を見つめ合うままの時間が過ぎた。

 

とはいえこれも毎度の出来事で、それを打ち切る琴時のセリフも予定調和に過ぎない。

はぁ、という塊を吐き出すようにした琴時の嘆息さえも、いつかの焼き直しでしかないのだ。

 

「……こんな目に遭うって、分かってても嫌になるんだよ。こればかりは義兄さんだってどうしようもない」

 

「……ああ、そうだな。あいつなら毎日カレーでも平気で平らげそうだ」

 

身勝手な歯痒さを飲み込んで、八幡は首肯で返す。

少し掠れた声で笑いがあって、神経質そうな面差しが僅かに綻ぶのを感じる。

 

「それはそれで笑えない冗談だね」

 

「お前の程じゃねぇよ」

 

「違いない」

 

幾分か空気が和らいだところで、琴時のお腹がきゅうと音を上げた。

 

「……なんというか、身体は正直だなぁ」

 

「それは女子が言うセリフじゃないと思うぞ」

 

照れ隠しに言うならばまだしも可愛げに写ったのだろうが、琴時のかんばせは明るくない。八幡も茶化すように言うのが精一杯だった。

 

「あー、アレだ。とりあえず支度しようぜ。暁法のことだ、どうせ昨夜の時点で察してんだろ」

 

「だろうね。きっと食べたいと思わせてくれるよ。差し当っては洗面台を空けてくれると助かるんだけど」

 

徐々に調子を取り戻してきたのか、皮肉を混ぜてきた琴時を八幡はむしろ安心したように受け入れた。

 

「……悪かったよ」

 

ひとこと言って、支度を整えにかかる。勢いよく出した水は意外な程に冷たく、口腔を満たすと目が覚める思いがした。荒々しく漱ぐに続けて顔を叩くように洗い、タオルで拭う。

こうしてみると感覚が一新されたのか、五感から情報がなだれ込んできた。

台所からは胃に優しそうな匂いがして、食器を揃える音と配膳の指示の為の会話を漏れ聞こえる。窘めるような声は暁法のもので、どうやら小町はフライングをしたらしい。

視界の端で憮然とする琴時も、暁法が当番になる前にしか食事を抜かない。全幅の信頼を置くのは義兄だけという意思表示だろう。義兄宛か、八幡ら宛か。それはうかがい知れないが。

 

『あの事件』があって壊れた俺達と、だからこそあるこの景色。

この光景を、比企谷八幡は欺瞞と考える。

それでも、鏡に映った嘘つきの顔は、この関係を憎んではいなかった。

 

比企谷宅の朝、割とよく見る光景はこうして過ぎてゆく。

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

学校にて。

 

八幡が覚醒したのは放課後のこと。一日を通じてうつらうつらとしていたせいか、今日の授業に関する一切の記憶がないままに部活の時間になっていた。

 

「ヒッキー! そろそろ部活行こうよ!」

 

劈くような声が掛けられて、ウンザリとそちらを向く。丸一日を睡眠に充てたとはいえ、寝起きには辛いテンションだった。普段ならばいいのかと言われると決してそんなことはないのだが。

 

「……お前絶対あの小説読んでねーだろ」

 

怨みがましくそう言うと、由比ヶ浜はキョトンとした顔で静止する。

 

「え? ……あ、あー……」

 

判然としない受け答えを見るに、今の今まで忘れていたらしい。奉仕部としてはアウトだが、そもそも由比ヶ浜は厳密には部員ではなかった気がする。まぁ、あまり追求することもないだろう。というか、読んでない彼女はむしろ勝ち組と言えるのではないだろうか。

自らに言い聞かせるようにして納得する。鞄に荷物をまとめ椅子から立ち上がって辺りを見ると、既に教室は明かりも落とされ、まだ角度を残す陽だけが光源の役割を果たしていた。

 

「部活、行くなら読んどけよ」

 

とはいえ、癪なものは癪なので念を押しておく。

そっぽを向き、冷や汗まみれで下手くそな口笛を吹いていた由比ヶ浜だったが、それを聞くといかにも不満げな顔で難色を示した。

 

「えー……」

 

「…………一応仕事だからな?」

 

──嫌なのはわかる。超わかる。が、それはそれとして許さん。

 

「ホレ、行くんだろ」

 

言いたいことは言ったとばかりに八幡は歩き始め、少々遅れて焦ったような声が後を追った。

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

幾分かスッキリした頭でいつも(慣らされてしまったことには気づかずにいたい)の廊下を歩き、クリーム色の扉を開く。

しかし、カラリと小気味良い音を立てた扉の先は『いつも』のそれではなかった。

 

「…………」

 

「きれー……」

 

言葉にするのは、いっそ陳腐なのかもしれない。瞠目する八幡の隣で由比ヶ浜が零したように、文字通り、絶句する程に美しい空間だった。

八幡に審美眼の持ち合わせなど無いに等しい。それでも『この空間には価値がある。』と、そう確信させるまでの何かに触れた。

教室内にいるのはすうすうと寝息をたてる雪ノ下ひとりなのだが、さすがに眠りながらでさえ棘を抱えるわけではないらしい。毒舌と敵愾心に代え、微笑みを湛えながら微睡む様は彼女が持つ元々の美しさを何倍にも増幅してみせ、何人も侵しがたい雰囲気を醸していた。

思わず魅入ってしまったことに気づいた八幡は、自らに呆れるように瞑目し、深く息を吐く。押し黙ったままでいることを止め、意を決したような面差しで聖域へと踏み込んだ。

 

「お疲れさん」

 

起こさない程度の小声で挨拶を済ませると、最早定位置となった席を目指す。

由比ヶ浜はといえば、誕生日に貰った特大ケーキでも眺めるように雪ノ下に見蕩れていた。

 

「ゆきのん可愛い……」

 

『ほわー……』とか『はわー……』といった頭の悪そうな歓声を上げながら四方八方から睨め回すようにしていた為か、雪ノ下は物音に勘づいたようだった。

彼女と八幡の位置関係を考えれば、目覚めてまず目にするのは当然、八幡の顔なわけで。

 

「……驚いた、あなたの顔を見ると一発で目が覚めるのね」

 

芸術的空間は脆くも崩れ去った。先程までの無垢な姿はどこへやら、最早普段の雪ノ下だった。

多少の睡眠不足程度では彼女の舌を鈍らせるには至らなかったらしい。

 

「その様子だとそっちも相当苦戦したみたいだな」

 

「ええ……慣れていないことを抜きにしても好きになれそうにはないわね」

 

「いや、全部が全部ああじゃないし……良い作品はいくらでもあるからな?」

 

ファーストコンタクトの重要性がよく分かる。もっとも、第一印象という意味ではこの場にいる全員が最悪と言って差支えのない出会いを果たしている訳だが。

 

──……全員?

 

そういえば、と。教室にはひとり足りなかったことを、今更になって思い出す。

 

「……暁法(ノリ)は来てなかったのか?」

 

「来た……といえば来たわ」

 

バックれたか? という疑念が膨れ上がったが、雪ノ下の答えはそれを示すものではなかった。

 

「今日は欠席。自宅の食事当番だそうよ。今日に限っては支度に手間取るから、材……材津くん? にはこれを渡しておいてくれと頼まれたわ」

 

そう言って、折り畳まれた紙片を摘む。

 

「ああ……そういうことな」

 

今朝の琴時の様子を思い出して、八幡は納得した。

琴時が食事を抜いた後は決まって反動が来る。どこぞの腹ぺこシスターも斯くやという勢いで、それこそ片端から料理を平らげるのである。

量も質も、普段の感覚ではまるで追いつかないことはこれまでの経験から理解出来た。

そんな背景を知らない由比ヶ浜はまた別の点に感心しているらしい。

 

「へー……。杜くん、料理できたんだ。意外……」

 

「そうね、確かに一般の男子高校生に自炊の習慣があるのは珍しいと思うわ。でもね、由比ヶ浜さん。習慣がないことと技術がないことは全くの別問題なのよ。少しづつでも頑張りましょうね?」

 

「さらっとヒドいこと言われたっ!?」

 

「由比ヶ浜はレシピ通り作ることから始めろ……」

 

料理とは計量を終えれば半分は完成した様なものである。複雑な工程を覚えきれずとも、量さえ正しければ案外何とかなるものなのだ。

そんなことを考えながら晩餐に思いを馳せていると、驚いたような顔の雪ノ下と由比ヶ浜が目に入った。

 

「ヒッキーが真面目な事言ってる……?」

 

「ちょっと待て、どういう意味だそれは。俺なんだと思われてるんだよ……」

 

「議論の余地などないじゃない。ヒキニートくん」

 

「ちょっと雪ノ下さん? 人をミンチみたいに言うのはやめてくれない?」

 

……憎たらしくて皮肉を捏ねたらメンチを切られた。

混ぜっかえす時は相手を選ばないと火傷する。ちぃ覚えた。怖い。

どうせ選ぶなら逢い引き(ミート)の相手がいいよね! 合い挽きだけに。まぁそんな相手いない訳だが。

それにつけても挽肉を言い間違えて『挽きミート』って言った時のル〇大柴感は異常。

 

下らないことを考える時こそ頭は冴えるものである。

 

「……でもまぁそうね、てっきり杜くんがサボったのではないかと疑っているものだとばかり思っていたわ」

 

「流されてるし……っつーか、流石にそれでサボれるならそもそも来ねえよ」

 

──そういえば、同居のことは言ってなかったな……。

 

今更のように思い返した八幡だが、敢えて触れる気はなかった。『J』、つまり由比ヶ浜の前で余計な誤解や興味を抱かれるのも面白いものでは無い。

 

「そう……確かに嘘にしては稚拙だものね」

 

「一見突飛な方がバレにくいとは言うがな。どっちにしろあいつの好む手じゃない」

 

「そういう問題じゃない気がする……」

 

話題が落ち着きをみせたのと入れ替わるようにして、部室の戸が荒々しく叩かれる。

 

「頼もう」

 

大時代な物言いと喧しさに顔を顰めた雪ノ下だったが、当の材木座は気にせず(と言うより極力雪ノ下と目を合わせないようにして)教室へと踏み入り、部員らの視線の重なる位置へドッカと腰を下ろした。

その焦点はお立ち台ではなく、処刑台であるというのに、憐れな材木座は未だそれを知らない。

 

「さて、では感想を聞かせてもらうとするか」

 

自慢げな表情で腕を組みながら偉そうに減らず口を叩いている彼だが、これから注目とともに浴びるのは喝采ではなく十字砲火である。

 

「ごめんなさい。私こういうのは分からないのだけれど……」

 

しかし、正面に座る雪ノ下は申し訳なさそうな顔でさえあった。彼女にしては珍しいことだが、とはいえそこで油断するのは三流以下である。えてして恐ろしい言葉というのはやたら恐縮する人間からもたらされるものなのだ。……余談だが、二度と聞きたくない言葉の筆頭は『私の専門からは外れるので正しい指摘かは分かりませんが……』だ。あれマジで死にたくなる。

ともあれ、彼女の舌砲、もとい舌鋒はゼロ距離観測射撃にして精密射撃。

酔狂な自殺志願者ひとりを捻るのは雑作もないことだろうし、事実どう見てもオーバーキルだが、それを望んだのが材木座である以上は甘んじてもらう他はない。せめて安らかに。

 

「構わぬ。凡俗の意見も聞きたいところだったのでな。好きに言ってくれたまへ」

 

雪ノ下の言葉で調子に乗ったのか『しょーがないなぁ(笑)』という本音が見え透いた態度の材木座は身を乗り出すようにしてみせた。ノリノリで『さぁ、さぁ!』とか言ってる姿はウザイことこの上ない。

それを意に介さず短く返事をした雪ノ下は、呼吸を整え言葉を選ぶ。より残酷な言葉を。

 

「つまらなかった。読むのが苦痛ですらあったわ。想像を絶するつまらなさ」

 

「げふぅっ!!」

 

言葉の威力に圧されて、材木座が椅子ごとのけ反った。どうにか持ち直したが、顔には脂汗が浮かんでいる。

 

「さ、参考までにどの辺がつまらなかったのかをご教示願えるかな?」

 

およそ思いつく限りだよ。と言いたくなるのをぐっと堪えて雪ノ下に預けた。

うっかり言いそうになったが、事細かに指摘を受けたほうがコイツの為にもなるだろう。

 

「まず、文法が滅茶苦茶ね。何故いつも倒置法なのかしら? 『てにをは』の使い方知ってる? 小学校で習わなかった?」

 

「ぬぅぐ……そ、それは平易な文体で読者に親しみを……」

 

息も絶え絶えと言った様子で反論する材木座の胸中は分からなくもない(知りたくもないが)。

自身が注力したものを一刀のもとに斬り捨てられるのは、ともすれば現実にそれを受けるよりも苦痛を伴うものである。畢竟、素直に受け止められるだけのメンタルを待つ人間はそう多くないのだ。

材木座の解説を乞う態度も『自身の欠点と向き合おう』という殊勝な心がけからくるものではなく、自分が間違っていることを認めたくない故のものなのだ。どこまでも見苦しいことこの上ない。

しかし、どれだけ醜く写ろうともこればかりは真っ向から否定できるものではないだろう。頭ごなしに否定的な批判をする輩や、不誠実な者から論われたところで、感情のリソースを割くだけ無駄なのだから。一々付き合っていられない感想というものも確かに存在する。

但し、それは雪ノ下に限ってはあたらない。誰よりも真摯に、そして無慈悲に、彼女の添削は続けられた。

 

「そういうことは最低限まともな日本語が書けるようになってから考えることではないの? それとルビの使い方だけれど、余りの誤用に目を覆いたくなるわ。数も多すぎる。文の主題はあくまでルビをふられる側にあるのよ? それを濫用しているせいで元々曖昧なテーマが更に混迷を極めていてとても読みにくいのだけれど」

 

「げふっ! ち、違うのだ! 最近の異能バトルではルビの振り方に特徴を」

 

「それは義訓のことを言っているのかしら? 読者に読ませるのが振り仮名の役割でしょう。自己満足でしかないものを都合が良いように振りかざすのは辞めなさい。ただでさえ内容が希薄で起伏に欠ける上に展開に書き手の意図が透けて見えているの。蓋然性をまるで無視した内容が鼻について仕方ないわ。特にここ、ヒロインに服を脱がせたいだけならばせめてそれに見合った場面を用意しなさい」

 

「ひぎぃっ! あ、あえて突飛な展開にすることでストーリーに意外性を」

 

「ストーリーも何もそもそも完成さえしていないじゃない。人に批評を頼みたいならそんなものを持ってこないで。文才以前に常識から学びなさい」

 

「ぴゃあっ!」

 

何もかもを粉砕された材木座は気色の悪い断末魔と共に倒れ込んだ。

白目を剥きながら肩を痙攣させている様は実に気持ち悪い。

 

──せめてこれが演技じゃなかったら同情する気にも……ならないな、うん。

 

勝手に納得していた八幡だったが、いい加減鬱陶しさがまさってきたので止めに入る。

 

「その辺でいいんじゃないか。あんまりいっぺんに言ってもあれだし」

 

「……まぁ、いいわ。じゃあ次は由比ヶ浜さんかしら」

 

「あたし!? え、えぇーっと……」

 

由比ヶ浜がちらと材木座を見ると、縋るような視線が目に付いたらしい。さすがに哀れみを持ったのか、うんうんと唸りながら褒められそうな点を探している。その振る舞いこそが追い討ちであることにまでは気が回っていないらしい。

 

「む、難しい言葉いっぱい知ってるね!」

 

「ひでぶっ!!」

 

あまつさえ、努めて明るく言い放った言葉はむしろトドメだった。僅かにでも希望を見た分、材木座のくらったダメージは余計大きなものになったようだ。上げて落とすと言うやつである。

一方、褒めたつもりの由比ヶ浜は困惑気味にその光景を見ていた。無知とはまこと恐ろしい凶器である。

やがてリカバリーも諦めたのか、八幡に場を丸投げしてきた。正視に耐えなくなったのだろう。

 

「じゃ、じゃあヒッキーどうぞ」

 

材木座の正面を退き、隠れるように後ろへ下がる。

ライトノベルに多少の理解がある八幡にお鉢が回ってきた気配を察してか、期待を込めた眼差しで何かを訴えていた。

 

──ああ、分かってるさ。期待には応える。でなきゃ男が廃るからな。

 

ひとつ頷いて、深く吸う。そして。

 

「で、あれってなんのパクリ?」

 

「ぶふっ!? ぶ、ぶひ……ぶひひ」

 

義務は果たした。

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 




かなりトレスっぽくもなりましたね。
ゆきのんの扱いに悩み、もう一人の輩と対比して正しさを強調させました。
今回暁法の出番が殆どないので地の文を八幡に預けっ放しにしたんですが、筆者と混戦気味になったのが評価に悩むところです。
見易さの観点で御不満あればご指摘ください。私にはできないものでして。

そういえば久方ぶりに感想いただけました。ありがとうございます。

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