やはり俺たちの防衛生活はどこかおかしい。 作:ハタナシノオグナ
完結を目前にほんの少しでもご挨拶に伺えたことを喜ばしく思っております。
発売までを指折る日々ですが、どうぞお付き合いのほどを。
とはいえ今回はプロローグみたいなものですが。
(1)死闘に見せかけたプロローグのような何かのそれも前半部分
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『転送開始』
まず聞こえたのはゴングを意味する合成音声。
そして。
「ッマズッ!!? ノリさん隠れて!!!」
最後に聴いたのは、退避を命じる小町の声だった。
「は? ──ンなっ!!??」
泰然を好み、事実そう在ろうと努める男にしては珍しく、声音には焦りが浮かんでいた。
『
直後、ただ無機質な事実が宣言され、一筋の白色が宙を舞った。
再転送先。つまり、つい先程までいた仮の部隊室の天井を呆然と見つめること数瞬。
「────どうして……」
噛み砕きそうな程に歯を食いしばって、暁法は混濁した激情を露わにする。
「どぉーーしてこうなったぁあああ!!!!」
訓練開始から僅か2秒。
不覚にもそれまでの記録を塗り替える形で、暁法は戦線を離脱した。
さて、どうしてこうなったのか。その問いに解があるかはさておいて。
時は少し遡る。
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──訓練開始前。比企谷隊仮作戦室。
全体でのミーティングを終えて仮の部隊室に通されると、暁法と琴時は「少し外す」と言って部屋を後にした。またぞろ『現物出資』としての方針でも固めているのだろう。
半数が退出したとなれば必然的に部屋に残されるのは俺と小町になる訳だが、小町は小町で普段と勝手の違うオペレーターのブースが気になるのか、ガチャガチャと弄り回しているらしい。
つまり、ここでも俺はぼっちだった。
「……暇だな」
訓練開始前の微妙な待機時間というものはどうも持て余してしまう。好き好んで働く訳ではないし、もちろんそんなの真っ平御免なのだが、かと言って読み差しの本や携帯ゲーム機を引っ張り出してゴロゴロできるかというと、まぁそこまで図太くもないという小心者の心理が働いてしまう。やだ、俺の深層心理マジ勤勉。
とまぁ、手持ち無沙汰な時間を他愛もない脳内会議へと宛がった比企谷八幡だった。
こういった時間は各隊の特色が現れやすい。
真面目に作戦会議をする部隊。
自然体で臨むためにあえてのんびりする部隊。
それぞれのやり方で集中力を高めている部隊。
仕事に追われている部隊。
そもそもなんにも考えていない部隊。
とまぁ、様々だろう。
そして比企谷隊でいえば、部隊を部隊として運用する気はないことがよくわかる。
杜兄妹は自分達だけで戦うつもりで退出していて、小町の意思はともかく、八幡も別にとやかく言うつもりはなかった。これまで何度か繰り返された光景であり、本人ら同士でさえ今更何とも思ってはいないのだから。
そもそも比企谷隊のそれぞれでボーダーというものに、あるいはこの訓練に求めるものが違う。
ともなれば、比較的自由裁量権の認められた比企谷隊の隊員それぞれが別行動をとるということはさして不思議というほどのものでもないだろう。
実際に例を挙げるとするならば、比企谷八幡は妹を連れて生き残るための訓練をするつもりでこの場にいる。この目的が達されるのであれば正直部隊としての勝敗とかどうでもいいとさえ考えている。種々の訓練中に結果として杜兄妹と連携を取ることがあるのは単に自らの設定した勝利条件達成のためにほかならないのである。
こんなのが4人も集ったのが比企谷隊な訳で、要するに他の3人もこんな感じのロクでもない心算を蓄えているわけだ。
類は友を呼ぶとはよく言ったものである。実態的には同病相憐れむと評したほうが彼らにとって正鵠を射るのだが。
さて、今回はどう生き延びたものかね。
ぼんやりと天井を見上げながら、比企谷八幡は生存のための思索に耽る。
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──同時刻。太刀川隊部隊室。
「ワクワクするなー。今度こそぶった斬ってやる」
とてもそうとは見えないが、にへらと笑いながら物騒なことを呟く太刀川慶の様子には、強者としての余裕が感じられないこともない。
事実彼はボーダーでも指折りの実力者であり、またそうでなくともこの訓練に召集されている時点で相当の腕を持っていることの証明にはなるのだ。極々一部の例外を除いては。
「ハッ、それにしても、そもそも勝負になるのか甚だ疑問ですね。A級1位部隊であるボクらと戦えるだけでも光栄だというのに……纏めてかかって来い、とは」
それを知ってか知らずか、唯我尊(例外)はヤレヤレといった様子で髪をかきあげた。
「おぉー、めげない上にブレないねぇ。頑張りたまえよー、少年」
誰も聞いていないようで、国近柚宇はちょっと感心していた。
視線こそ手元の携帯ゲーム機に固定されているものの、声音には慈愛が滲んで見える。
入隊後一勝もできていないにも関わらず、こんな態度で居られる唯我のメンタルは確かに称賛に値するのかもしれない。
「ほっときましょうって。『源泉』とカチ合えば多少は身の程も弁えるでしょ」
一方、どうでも良さそうにしている出水公平の表情はどこか固かった。
集中しているようだが、普段のお調子者っぽい雰囲気が抜けた様子は緊張と取れなくもない。
「琴時ちゃんねー。理不尽な相手ほど燃えるじゃない?」
「そこまでゲーム脳してないんだなぁ……」
ヘラヘラと笑ってみせる出水だが、悔しそうな表情を隠し切れてはいなかった。
「まぁ他の2人と遭遇する可能性だってあるしね。いづみんは狙えるとこ狙ってこー」
「おーう」
「ボクの話聞いてますか先輩方!?」
悲痛な叫びの甲斐もなく、唯我の主張はただ虚しく響くだけである。
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──同時刻。冬島隊部隊室。
カタカタと音を立てながらパソコンをいじくる音に紛れて、弛緩した寝息が聞こえる。
ふーすかという寝息を見やると、アイマスクをしたリーゼント、No.1狙撃手の当真勇がソファーに横たわっているのがわかる。
そんな彼から机を隔てた反対側で、キーボードを叩く冬島慎次は軽快に指を踊らせていた。
滑り出しこそ頭を悩ませていたものの段々と興が乗ってきたのか、作業に合わせて囁くような鼻歌が交じりだす。
室内は概ね静かなものだが、散らかった机上だけがアンバランスに映って見えた。
書類の山と、ラップトップと、そして何故かあるレゴブロック。
傍らに置いたマグカップはすでに空で、残滓を示すように環状の跡が浮かんでいる。
しばらくそのままの光景が続いたがやがて一段落したのか、背もたれに体を預けるように背筋を伸ばす。
そこそこ長い時間を費やしていたようでゴキゴキと体の軋む音がしていた。
そのまま傍にあったレゴブロックをいじくり回していたが、ふと動きを止めたかと思うと弱音めいた呟きが聞こえた。
「真木理佐は欠席、エースはオネム、残った俺は個としちゃ戦力外ときた。……いやはや、どうしたものかね」
何の気はなしに呟いたはずが、応える声があった。
「そう心配いらねぇよ、隊長」
思わずぎょっとして顔を上げた先では、当真勇がアイマスクを指で浮かせるようにして覗いていた。
「何だ、起きてたのか」
「まぁな」
当真はソファーに座り直すと、普段通りの調子で喋り始める。
「結局、今回の訓練のポイントはアイツらの死角を取れるかってことに尽きる。射線は勝手に通してくれるからな、狙撃手としちゃある意味楽な状況なんだ」
「そうは言うがな……」
「ま、流れ弾に遭わないようにするしかねぇんじゃねぇの?」
言うだけ言ってまたごろりと寝転がる。間もなくして寝息が聞こえた。
「それが一番難しいんだがなぁ……」
一人残された冬島は苦笑し、そう独りごちた。
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──同時刻。風間隊部隊室。
「今一度状況の確認をするぞ」
落ち着いた声が通る。風間蒼也は普段と変わらぬ様子で隊員らと向き合っていた。
「心配性だなぁ、風間さんは。今更間違えるわけないじゃないですか」
「菊地原……」
ぶうぶうと文句を垂れながら不満顔をする菊地原士郎を、いつも通り歌川遼が咎めた。
「喰われたければ好きにしろ」
そんな彼らをどう見たのか、変わらぬ調子で言い放つ。
それを切り替え時と理解したかは定かでないが、菊地原も多少は神妙な面持ちになり、歌川は自身の居住まいを正した。
「三上」
「はい」
静かな問いに短く答えて、三上歌歩はつらつらと語り始めた。
「今回の訓練はA級の6部隊及び比企谷隊合同で行われる防衛訓練です。仮想敵勢力及び状況は人型ネイバーによる大規模都市侵攻。人型役は比企谷隊が担当、制限時間はなし。訓練終了はどちらかの陣営の殲滅ないし地形損壊度66.70%以上です」
淡々と読み上げられる簡素なブリーフィング資料を、しかし全員が真面目に聴き、焼き付ける。
「毎回思うんですけどその地形損壊度って何で判断してるんですかね。意味があるとは思えないんですけど」
「本分を見失うなということだろう。いくら撃退出来ようが街を瓦礫の山としては防衛としての意義はない。主導は本部長の一派ということもあるんだろうがな。さすがに徹底している」
「それにしては三分の二というのは……いまいち分からない数字ですが」
「『やられて当然』と、そう言わんばかりのコレは確かに鼻につく。だが、ある程度覚悟しなければならないことも事実だ」
苦々しさを滲ませて言う歌川に、忌々しそうな顔の風間が同調した。
「別に気にすることないでしょ。ウルサイのはヤだけど」
「長引けばそれだけ勝ちの目が減るということだ。ウチでは歌川だけだが、ただでさえ撃ち合いは分が悪い。時間とともに援護が減ることは避けられないだろう」
「無駄撃ちは慎みます」
「ああ、搦手で懐まで潜ろうが刃が届かなければ意味はない。仕留め切れるその時まで隠しておけ」
「万が一、兄や比企谷と遭遇、発見した場合はどうしますか?」
「徹底して無視だ。そいつらの位置は常に張っていてくれ」
「了解です」
風間蒼也を始めとして、彼が率いる面々は『比企谷隊』など眼中になかった。
先程から彼らの話題はたったひとりの為に占められている。
「結局、ウチが源泉の首を獲らなきゃ誰も戦えないですもんね」
「そうだ。だからこそ抜かりなく、必ず殺る」
風間隊が杜琴時を討つ。
口にはせずとも、全員が同じ標的を見据えていた。
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──同時刻。影浦隊部隊室。
「ねー仁礼ちゃん」
「なんだーゾエ」
間延びした問いかけに、それ以上に脱力した応えが返される。
自ら設置した土足禁止エリアに寝転がる仁礼光を見下ろす格好で、北添尋は呆れたような焦ったような声で問うた。
「うちのエースどこ……?」
「知らーん」
「えー……」
訓練前としてはあるまじき出来事なのだが、このふたりの雰囲気がそうさせるのか、どこか間抜けな感が否めない。だが一方で、緊張感をどこかに失くしてきたかのような空気とは裏腹に、結構ヤバげな事実が厳然と横たわっていた。
影浦隊の冠たるエース、影浦雅人の行方不明である。
ただ少し姿が見えないだけにしては大げさかもしれないが、普段の彼の素行や訓練への参加度合いを考えれば、無言で行方をくらませた影浦に不穏な空気を感じるのも無理からぬことなのかもしれない。
そして事態はそれに留まらないようだった。
「そういえばユズルもいなくない……?」
「んあー?」
今度は多少興味を示したのか、仁礼は寝転んだままながら辺りをぐるりと見回した。
彼女自身が持ち込んだ私物とそれを隠すための間仕切のせいで視界などたかが知れているはずなのだが、ともかく『絵馬ユズルが居ないらしい』という結論は得たとみえる。
そして、それを承知の上で放置することにしたらしい。
「まー、いいんじゃん?」
「いやいや、さすがにゾエさんまずいと思う……」
とはいえ、できることも浮かばぬまま時間だけが過ぎてゆく。
腕組みをしながらうんうん唸る北添を横目に、仁礼は何度目かのアクビを零した。
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次の5000文字はできてます。
大体1週以内には出せるかと。
遂に完結するという、喪失感と満足感。
私は擱筆の先が見たい。
ちょっと口調がのっぺりなのはアレです、メンタルヘルス的なアレです。
聖地で癒さなきゃ……