やはり俺たちの防衛生活はどこかおかしい。   作:ハタナシノオグナ

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【前回までのあらすじ】







総合火力演習の名のもとに召集された太刀川、冬島、風間、影浦、嵐山、三輪隊らA級連合と比企谷隊。
それぞれの思惑を抱えて望んだ訓練は杜暁法の自殺という波乱の幕開けを迎えた。
暁法の離脱にますます士気の高まるA級の面々に相対するは残存勢力2名という、無謀とも呼べる戦いが始まった────

《Attention》
・少なくとも今回トリオンチャートは明示されません。ただし設定自体は既に存在します。
・挿絵入れてみたんですが、表示されてるのかされてないのかわからないです。
・木虎ごめん。


(3)捻り合い

 

【挿絵表示】

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

住宅街、ありふれた日常には馴染まない破砕音が轟いていた。

撃ち出されたトリオン塊が辺り一帯を容赦なくガレキへと変え、視界を遮るものを片端から叩き壊してゆく。 今はもうもうと舞い上がる残骸の粉塵も、やがては目くらましの役目を果たさなくなるだろう。

それは『追われる側』にとって死刑宣告にも等しい。

泣き喚くように声を挙げたとて、それは無理からぬことだろう。

 

「──せん! 凌げません! 隊長! 隊長ッッ!!」

 

内部通信で声を張る必要なんてない。むしろ耳を塞げない分邪魔なだけだ。

 

平素ならそう一笑に付すこともできていた。

 

なのに。

 

爆音が響き渡る中で、木虎藍は悲鳴さえあげていた。

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

──少し前。比企谷隊仮設作戦室。

 

 

真っ先に戦線離脱した男、杜暁法は半ば涙声で荒ぶっていた。

 

「どぉッッッ……してこうなったかなぁああ~~~~……」

 

「うん、その……ごめんなさい……」

 

額に汗を浮かべ、しどろもどろに詫びる小町の様子を見て、暁法は掻き毟るように抱えた頭から手を剥がした。何度目かの情けない叫び声を経て、なおも収まらない胸中を無理矢理に鋳りなおす。

 

「……いや、いいんだ。確認しなかった俺の懈怠でもある……うん、ソウダオレガワルイ」

 

決して怒りが収まったわけではないだろうが、ひとまず叫んだ後は理性的に振る舞おうと試みたのか、セリフだけは温厚に振り返った。カッコつけたがる彼の性格からすれば、これ以上癇癪を起こしたまま醜態をさらすことをよしとしなかったのだろう。

──が、結局そんな虚勢は長続きせず、小町のもとへと駆け寄り通信用のマイクへと声を張り上げた。

 

『「誰だ俺の擬装体(ダミースキン)秀忠にしやがった比企谷八幡(大バカ野郎)は!!??」』

 

そういえば小町に頼んでそのままだったな、と八幡が思い出したのは絶叫が耳をつんざいた後のことだった。

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

『まさか義兄さんが真っ先に落ちるとはね……』

 

声音だけでさえ琴時が呆れているのがよくわかる。暁法はといえば、項垂れたまま言葉を返すのが精一杯という有様だった。

 

「……全く面目ない」

 

『まぁ、話は後ね。いきなり状況が崩れたわけだけれど、以降は八幡と連携、というか共闘と見ていいのかしら』

 

できた妹を自認する琴時は、特に焦るでもなく、話を進めている。敢えて触れずにいようという気遣いがむしろ心を抉った。あるいは彼女なりの皮肉なのかもしれないが。

 

『え? 俺も働くの?』

 

一方で、仕掛けた本人が忘れる程度にはささやかな復讐を遂げた八幡は、声のトーンに少し満足の色を見せつつ、それでいて心外だとでも言わんばかりに驚いてみせた。引き起こした結果からみれば全く釣り合いの取れていない嫌がらせなのだが、それを気にする様子を一切見せないあたり彼もまたなかなかの外道である。

 

「もともと小町たちが蒔いた種だし……」

 

さすがにフォローを入れる小町の声も弱弱しい。隣にキレながら凹むという器用だかそうじゃないんだかわからない様子の暁法が負い目をより大きくしているようだった。とはいえ、どのみち小町の提案である時点で八幡に否やはない。表向き面倒臭がりながらも、なんだかんだ彼は真面目にやるのだろう。シスコンここに極まれり、である。

 

『……しかたねえな。今回は頼まれてやるよ』

 

「まるで礼を言う気にはなれんがアリガタウ」

 

『まぁまぁ、義兄さんも落ち着いて。あとはこっちでやっておくから、義兄さんも後始末(・・・)頑張ってね』

 

「…………。」

 

琴時からの声援にうんともすんとも言えないうちに、指令室からの通信が割り込んだ。

苦虫を一生ぶん噛み潰したような顔で数秒間それを眺めた暁法だったが、小町からおずおずと伺うような視線を受けては気づけないふりもできなかった。観念して、回線を開いた。

 

「……比企谷隊、杜です」

 

『……城戸だ。報告を』

 

──────────────────────。

 

長い長い長い沈黙。白目を剥き、現実逃避に精を出す哀れなバカはただ立ち尽くしていた。

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

さて、場面は冒頭。

 

刻々と姿を変える光景を前に、木虎藍の脳はパニック寸前と言えた。訓練という言葉が飲み込めず、飛び散る瓦礫の中に緋の色が混じらないことが不思議で仕方がない。

 

「はぁッ……はぁッ、っはっ……ぁ」

 

換装された戦闘体でさえ怖気がする。ガチガチと音を立てるばかりで歯の根が合わない。息切れなんてしないはずなのに過呼吸気味だ。

 

『木虎、聞こえているか? 木虎、木虎?』

 

ようやく慣れた声が頭に響いてきた。安否を問う隊長の声に半ば縋る思いで応じる。実態は悲鳴と大差なかった。

 

「ッ……!! 隊長!? あんな……あんなッ!!」

 

『落ち着け、木虎。落ち着いて。大丈夫、大丈夫だ』

 

急くばかりで要領を得ない彼女を、場違いなほどに深く、優しい声がなだめ続ける。そしてそれは功を奏したのか、まもなく木虎藍は理性を取り戻した。

 

「……すみません、私……取り乱して……」

 

『ああ、分かってる。でも反省は後だ。訓練はまだ終わってないぞ』

 

「……、はい」

 

『よし、それでいい。状況は今のところ小康状態だ。何人か落ちたようだが、幸いウチの隊に欠員はない。合流を目指してくれ』

 

「了解」

 

ようやく意識が正常になりつつあった。顔を上げて辺りを見渡すと、先ほどとは違い保たれた街並みが目に映る。いつの間にかもといた大通りを離れ、入り組んだ住宅街へと紛れていたらしい。

 

無意識に逃避を選択していたことへの苛立ち混じりの羞恥と、生き残ったことへの呆れ。混迷する自我をどうにか押さえつけて、木虎は自らに喝を入れた。

 

砲声は未だ遠くで響いていた。レーダーで見る限り、部隊はあの『源泉』の側面に展開しているらしい。砲撃の来ない方角を選んでのことか、私のところまで撤退することを前提としたものなのか。

 

そこまで思い至って、嫌な予感がした。

 

……なぜ『源泉』(杜琴時)は見晴らしのいい大通りを闊歩しているのだろう? 確かに、彼女の射線は通るだろうが、それはこちらの射線も通るという事だ。一発を入れるなら姿を隠せる狙撃手の方が有利に違いない。近距離からの不意打ちを嫌った? いいや、それら一切を無意味にできるのが『源泉』であるはずだ。事実、嵐山隊(私たち)の他にもいくつかの部隊が集結しつつあるようだが、未だに攻勢に出られる様子はない。

そもそも、彼女の破壊力は周囲にモノが多くあるところでこそ、その凶暴性を発揮するのではないだろうか。

そう(・・)ちょうどこんな(・・・・・・・)潜伏に向いていそうな市街地などには特に(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

悪寒がした。冷や汗か脂汗か、とにかく背筋に冷たいものが走る。

 

…………誘わ『跳べェッッッッ!!!』れッッ!?

 

思い至る数瞬前に砲撃が襲い掛かってきて、視界の大半は白に潰された。干上がった喉が叫ぶよりも早くグラスホッパーを起動できたのは幸運としか言いようがない。

 

 

一瞬だけ、意識が白に飛んだ。

 

 

──どうにか致命的な損傷を避けたが、着地までは望めなかった。衝撃に弾かれたガレキに紛れ、路地らしき地面に無様に転がった。何もかも思い通りにならない苛立ちをぶつけるように自分の脚を睨んだが、その先の光景を理解するには瞬きを五回要した。

そのはずだ。何度見ても、そこに在るはずの足がなかったのだから。

 

「……? ……? …………????」

 

いまや木虎藍の戦闘体は立つことさえ叶わない。両の脚はそのふくらはぎまでを残して飛び散った。とても砲撃を受けたとは思えないような滑らかな断面は今も煙のようにトリオンを撒き散らしている。決して多くない彼女のトリオン量では遠からず緊急脱出(ベイルアウト)を強いられることだろう。そうでなくとも、機動力を失った豆鉄砲ごときでは敵に煩わしさすら感じさせ得ない。

つまるところ、この戦場において木虎藍の戦術的価値は失われた。

 

事実上の戦線離脱、あるいは敗残兵の類。

 

それを理解して、彼女は拳を打ちつけた。

 

「……ああッ……!! こんな……こんな所でッ!!」

 

避けたと思ったが、あの砲撃は余波でさえ戦闘体を消し飛ばすに十分らしい。少ないトリオンをどうやりくりするか、常に考えなくてはならない私からすれば、ああまでもポンポン撃たれるのは全くもって腹立たしい。

 

やり場のない怒りを短い叫びに全て込めて、木虎は冷静さを取り戻した。できること、やるべきことを己の中で問い質し、すぐさま交信を試みる。

そして。

 

「──────?」

 

『隊長』と、たった一言さえ口にできなかった。一瞬何も見えなくなって、次にどこかで見た天井があった。真っ暗な視界の中で、合成音声の音を聞いた気がした。

 

『トリオン伝達脳損壊 緊急脱出』

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

「……聞こえてるか? ひとり落とした。多分見たことないから新入りの誰かだな」

 

緊急脱出した木虎の残滓を見遣り、八幡は無線へ報告を入れる。

 

『ほい了解。どの隊?』

 

「嵐山隊」

 

『んー、話に聞くキトラちゃんかな? 私が吹き飛ばした方向に嵐山さん達が集結してたっぽい?』

 

大破壊を行っている者には似つかわしくない間延びした声にイラつきながら、八幡は適当な相槌を打つ。

 

「どうでも、俺は離脱す……あとよろ」

 

『? ドユ』

 

言葉に詰まり、無理矢理に打ち切った。敵の接近を許したと、許してしまったと気づいたからだ。眼前の脅威には二言三言に割く意識さえ致命的となり得た。

 

「ありゃ、バレたか」

 

口先だけは残念そうにしながら、その目は相変わらず感情を読み取らせない。ただ口元の笑みだけは隠す気がないようだった。

駆け寄るは猛者どもの頂点。ソロランク最強の男。

 

「太刀川先輩……」

 

「よう比企谷。ぶった斬りにきたぜ」

 

言うが早いか、太刀川慶は得物を薙ぐ。それだけで背後の壁が抉れた。間合いの概念など忘れたかのように刃が舞い、そして威力が現れる。

 

「……ッの餅が!」

 

かろうじて躱すが、散らばる瓦礫は機動力に依存した八幡には非常に相性が悪く、長引くことで招くのはジリ貧でしかない。とはいえ、このタイミングで背を向けるのは切ってくださいと言っているようなものである。

さて、どうやって逃げたものかと頭を悩ませたものの、八幡に切り結ぶという選択肢はそもそもなかった。敵の刃渡りに隙が無いことはもとより、攻めの技量には絶望的なまでの差がある。いくらシールドを備えるからといってスコーピオンだけで吶喊できるほど自惚れてはいない。

何より比企谷八幡の技は全て死なないために研がれたもの。負けぬためにこそ活きるのだから。

 

いつも通り、やることは変わらない。生き延びる。大丈夫だ。

 

そう自らに言い聞かせた直後。八幡は僅かな、しかし決定的な隙を晒す。

 

程なくして雌雄は決した。

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

野生の勘か、それとも経験の賜か。太刀川は『それ』を誘いと看破した(・・・・・・・)その上で刈りにいった(・・・・・・・・・・)

斬撃をいなした結果、構えの解けた胴へとめがけ、居合のように腰につがえる。

 

「旋空弧月」

 

新たな瓦礫が生まれた。

 

 

 

────そして。

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇




ご無沙汰しておりました。ハタナシノオグナです。
復帰………という訳では無いのですが、隙間をみつけたのでちょこっと書きました。
やはり継続は力なりと申しますか、どうにも間が空くと自らの筆を忘れてしまいますね。
特に今回は戦闘シーンをどうするかという問題に頭を悩ませました。結果誤魔化しながらやったり、それっぽいことをふわっと書いたり、アレがアレでコレなんで……みたいな感じに仕上がった(?)と思います。かまちー先生に対する憧憬のようなものが現れているようなそうでもないような。

さて、裏話はこれくらいにして今後についてのご報告を。現在進行中の総合火力演習編は次回かその次で閉幕となるかと思われます。
渡航先生が最終巻を出すのが早いか、私の次回更新が早いか……なんとも盛り上がりに欠けるデッドヒートですが、次回も楽しみにお待ちいただければ幸いです。


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