やはり俺たちの防衛生活はどこかおかしい。 作:ハタナシノオグナ
───────そう言って一年以上もの月日が流れた……(言ってない)
さて、場面は合同訓練の半ば。
比企谷八幡vs太刀川慶
その決着や、如何に。
◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇
────雌雄は決した。
……と言うべきなのだろうか。
胴を横一文字に掻っ捌かんとする太刀筋は、しかし八幡を両断するには至らなかった。
太刀川の弧月はなぞるはずだった軌道を外れ、明後日の方角を切り刻む。
無論、彼が誤った訳ではない。
個人総合一位という頂はその程度の技量で座し得るものではない。
決定的な踏み込みの不発は外的な要因、つまりは八幡の介入によるものだった。
「
相変わらず感情のない目で虚空を見据えながら、太刀川は己の選択を反芻した。
その場にもはや八幡は居らず、先程までの重圧の残滓を示すように灰色の粉塵だけが低く立ち込めている。
その中にひとり残された太刀川は佇んでいた。
視線を空の右手に移し、不満げに握りつぶす。
彼を象徴する二本の孤月のうち一振りは左手に備わっていたが、もう一振りは地に転がっていた。
とどめの瞬間に獲物を奪われたその理由を求めるように、太刀川は歩み寄ってそれを拾う。
豪胆なのか、罠などないと確信しているのか。一連の動きには一切の迷いがない。
そうして手にした弧月を見ると、柄からは糸が伸びていることが分かる。丁寧なことに色を変え、周囲の粉塵と見分けがつきづらくしてあった。
暫く無言でそれを観察していた太刀川はやがて使い物にならなくなった弧月を破棄し、少し苛ついたように振り返る。
「ちくしょう、
悔しそうにそう言って、新しい弧月を腰へと差し直す。
改めて状況を確認してみれば第一の標的には逃げられ、(効果が薄いとはいえ)武器は棄てざるを得ず、挙句には第二目標の『源泉』までの時間と距離を稼がれるという、割と散々な事態となっていた。
太刀川個人からすれば負けた気はしない。しかし部隊として、或いはボーダーという一個の軍として、これは確かな敗北と評せる。
「あー、国近。一応聞くが付近にそれらしき反応は?」
『ないね。さすがにハッチも徹底してる』
「……だよなー。やられた」
ぞんざいな問にぞんざいな解が示されて、太刀川はまた修羅場へと突っ走る。
地響きが遠く響く中、次なる戦場が生まれようとしていた。
◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇
────その頃。
「────っっっっぶねぇー!!?」
這う這うの体の勝者は物影でコソコソとしていた。
呼吸を整えながらも先程までの戦闘が脳裏を駆け巡ってやまない。
相対していたのは時間にして5分もないだろうが、集中力の全てを注ぎ切ったあの場面を客観的に測ろうというのが無理な話だ。
文字通り時間の密度、価値が違う。
こうして息をつくのも仕方のないくらいの激戦だった。
────あの瞬間。太刀川が刃渡り以上の斬撃を振り放つその刹那。
八幡が生き残るためにした選択は『撃たせない』ではなく『当てさせない』こと。
もうもうと舞う塵芥の中、自然に隙を作るために起動したトリガーはスパイダーだった。
敢えて作った隙は確実に咎められ、スコーピオンを砕かれてでも受け太刀を余儀なくされる。
結果、目論んだ通りの間合いが生まれ、構えを剥いだ裸の胴がさらされた。
言葉で表すよりも、この一瞬を作るにはかなり捨て身の準備を要した。
この好機を惜しませるため、可能な限りの隙を削いだ。
手元の小細工を晒さないために、徹底して粉塵を巻き上げさせるよう仕向けた。
気取られぬように、時には敢えて相手の『圏』にも飛び込んだ。
追撃を避けるため、琴時の重要度が増すタイミングをギリギリまで待った。
持ち合わせの全てを賭して、勝ち得たものは本当に僅かな猶予。
だがそれでいい、充分だ。あとは迷わなければいいのだから。
起動させておいたスパイダーの片方を自らの右手へと結わえ、もう一方を居合に構えた始点に向けた。狙うは孤月の柄。自ら促した煙幕は諸刃の剣でもあったが、
相手が太刀川でなければ決して成立しなかったであろう賭けの内容は『太刀川の技が達人のそれであるか』という一点のみである。
鍛えれば鍛えるほどに技からは無駄が削ぎ落とされ続ける。極めるほどに果てしなく『理想』へと近づく。
それは同時に『型』が生まれるということ。即ち、
さらに、その『型』を持ち出させるには一切の余裕があってはならない。
『無駄があっても捉え切れる隙』を晒せば、『最速』以外が来る可能性がある。
そうなれば未来は真っ二つに定まる。
そんな、一発勝負でやるには余りにも分の悪い賭け。だが。
訓練で、
幾度となく見た太刀川の
その始動。
脳裏に浮かぶそれを頼りに、
───────放つ。
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───────そして。
何かを捉えた手応えを得ると、力の限りに引っ張った。
すぐに抵抗がなくなり、ただでさえ崩れた体勢が更に傾ぐ。
勢いのままに仰向けに後転すると偽物の青が視界を過り、一瞬戦いの最中であることを忘れた。
どうやら生き延びたことを理解し、直ちにグラスホッパーを起動する。
当然と言えばそうなのだがその判断は正しかったようで、一拍後に元居た場所が薙ぎ払われた。
視界を遮っていた塵を抜けてからはカメレオンで姿を隠し、敵のあらゆる間合いからようやく逃れてバッグワームへと切り替えた。
やがてレーダーから敵影も離れた頃に先程の嘆声が漏れたという訳だ。
もし何かひとつでも要素が変わっていたら、例えばそれが八幡の空腹具合だったとしても、両断されていたのはアホ毛ではなく、上半身と下半身だっただろう。
だがそんなことはどうでもいい。
太刀川は捕らえられず、八幡は長らえた。
あるのはそれだけだ。
戦果など、わざわざ確認するまでもない。
その身を賭して、勝った。紙一重でも。次はないとしても。
────とにかく、生き延びた。それでいい。
勝てた気は到底しなかった。
しかし、これを勝利と噛みしめなくてはならない。
太刀川と八幡ではそもそもの勝利条件が違うのだから。
八幡にとって
そもそもの彼の本願、つまりは『小町とその世界を守りきる』という、馬鹿馬鹿しいほどの妄言、無限に続く隘路からすれば、たかだか訓練での勝利なんて求めるだけ意味がないのだから。
今回の戦闘にせよ、鍔がない分都合よく転べば指くらいは落とせただろうか、
『あのー……おにいちゃん? 逃げ出せたっぽいことは分かったんだけど、どうやったの? いかにもフラグっぽい捨て台詞してたのに』
落ち着いた頃合を見計らってきたのか、小町からの通信が割り込んだ。
「あ゙ぁ……小町か。太刀川さんの弧月にスパイダーぶっ刺して引っこ抜いた」
刀というものは性質上、固く握りしめていては振り抜けない。
抜刀の直前に力みがないのはむしろ上級者からすれば当然であることを思えば、今回の珍事の原因を太刀川に求めるのは酷だろう。
そもそもの実現性や再現性といった前提さえクリアすれば、決して戯言の域には収まらない立派な戦術である。
肝心な前提のハードルが曲芸の域であることを除けば、だが。
『──はぁー……また馬鹿みたいなことしてるねえ……』
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは。これでもおもいっきし頭捻ったんだぞ」
『おにぃちゃんは頭ヒネるまでもなく元々ひねくれてるでしょ』
「やかましい。それにアレだ、結果生き残ってっからいいんだよ」
軽口を叩き合う程度の余裕が戻ってきたことを自覚して、また息を吐く。
今度は短く、気合を込めるように。
らしくないという自覚もあったが、生き残ることに比べればキャラブレなんて比較にもならない。
『ま、働けるのはいいことだね。LET'S 馬車馬ライフだよ、お兄ちゃん!』
「……お兄ちゃんちょっと働きたくない」
たちまち目が腐る。
押してダメなら諦めろ。が信条の彼だが、押すまでもなく彼は頑張りたくないダメ人間なのである。
『やかまし。おねーちゃんが孤軍奮闘してるんだから、ちゃんとサポートして』
「へいへい……。それで、あいつは今ピンチなのか?」
いくらA級の面々が取り囲んでいるとはいえ、あの大火力の前では相当な苦戦を強いられるはずだが……小町がサポートを命じるということはそこそこ拮抗しているのかもしれない。
こうして潜伏している今も地響きのように爆音が届いているわけだから、決して今にも落ちそうという訳ではないのだろうが。
『あー……いや、まぁ、今回は手伝うって言っちゃったし、ネ? 』
「…………」
もうあいつ一人でいいんじゃないかな、という幻聴がした。
というか、自分の声だった。
◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇
ご無沙汰しています。
最終巻のショックを上書きするレベルでアンソロ1巻の衝撃が凄かったどうも俺です。
いや、本当に凄かったですね、アレ。感情がわからなくなりました。どうしたものかと。
最終的に禅的なメンタリズム精神で論理的にロジカルシンキングで乗り越えました。
やばいですね☆
さて、一年以上?間が開きましたが続きでございます。
と言っても書き溜めていただけなんですけれどね。これでも一部だったのですがそれでも3000字オーバーというのは意外でした。更新頻度からすれば1日10文字にも満たないわけですけれども。
投稿しない即ち×0文字ということは肝に銘じるべきですね。
少し話は変わりますけれど、霧玖様のおかげで読み返してみたんですが思ったよりも面白いんですよ。ストーリー。
なんか自賛してばかりなんですがこれは目が衰えたと見るべきか?
ともあれ、読んでいただけたらぜひ褒めてください。助長どころか増長します。
テンション高いのはご愛嬌