やはり俺たちの防衛生活はどこかおかしい。   作:ハタナシノオグナ

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活動報告にあります通り、ただの第一話の分割再編集です


(1)ある始まり、挨拶と罵倒。2

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇

 

 

ぼんやりと歩いていたせいか、気が付くと既に目的地に着いていたらしい。

暁法はその教室の主らしい女生徒に、可愛げのない挨拶を受けていた。

 

………………えーっと、説明プリーズ(コレなんぞ)

 

ひとまず、少なくとも自分より現状に明るいであろう八幡に解説を要請した。

 

「ハチ、なにこれ。どういうこと?」

 

「あら、ようやく現実を理解できるようになったのね。初対面の人間を相手に挨拶も無しなんてどういう了見かと思ったけれど、自我が芽生えたのならはやく名前を教えなさい」

 

驚くなかれ。

別に八幡が突如女体化したとかそういうイリュージョンがあった訳では無い。

ただ単に目の前の女が会話に割り込んで来ただけのことである。

多少驚きはしたが、雑音の出所を確認した暁法はひとまず無視することにした。

 

「……………………まぁコレはともかく。ハチ、状況説明プリーズ」

 

「…………礼儀というものさえ知らないのかしら」

 

礼儀、という言葉に眉根を寄せた暁法だが、そこから先(開戦)は八幡が押し留めた。

 

「「部活ヤレ、ペナルティー。異論反論抗議質問口答エ、ミトメナイ」……だそうだ」

 

「はぁ……ハチそんなのヤル気なの?」

 

「まさか、やるわきゃねぇだろ。というかお前も対象だからな?」

 

「デスヨネー……しっかし、ナニ……部活ねぇ…………?」

 

黙りこくった暁法を見て、平塚先生が声を掛けてきた。

 

「なにを悩んでいるのかね、そんな必要はないと言ったはずだ。比企谷の説明は口調以外は概ね的を射ているからな。それに部長を無視とはいただけんな、平部員?」

 

にんまりとした顔で入部を押し通そうとしたが、暁法と八幡とて黙ってばかりいる気もない。

 

「なんとでも。先生の言う『児童生徒等の懲戒』には確かに一定の裁量権は与えられてはいますがそれは緊急性のある事柄についてです。部活に強制加入させるという行為は長期的なものであり停学や退学と同列視できるものと推定されます。生徒指導教諭程度にそんな権限はあっりませーん」

 

「ノリに同感です。何より放課後は忙しいんすよ。妹と暮らしているので家事とかの支度もしなくちゃいけないし」

 

ふざけた調子ではあるものの、一応筋は通っている……はずの言葉に、権力が振りかざされる。

 

「駄々をこねるな。私はこの部活動の顧問だ、お前達をネジ込んだところで大した波風はたたん」

 

「猿知恵で捲し立てる前にまず自身の問題に目を向けて見たらどうかしら。あなたのその偏屈ぶりは矯正するべきだわ」

 

暁法と八幡は議論が迷走し始めたことに内心ほくそ笑みつつ、さらに油を注ぐ。

 

「理屈が通っているかなんてどーだっていい。今回重要なのは建前がある事だ」

 

「それだけではこの処分を覆すには至らんよ。建前だけならこちらの方が圧倒的に多い。大人しく受け入れたまえ」

 

「それは建前だけでもここに所属しろ…ってことすか?お断りですね、こんな存在する為だけに活動するようなものに、名義だって貸すつもりはありません」

 

「今の言葉、聞き捨てならないわ。この部活が自身のために活動することなどないもの。現在進行形で私はあなた達のために時間を使っているのよ?」

 

「ほぉ?頼んでもいないのに来るって質の悪さはネイバーと同列だな」

 

「こいつはそこまで脅威でもないだろ。嫌悪感が先に来るし良くて例の黒いアレ(GKBR)だ。鬱陶しくてかなわない」

 

「HAHAHA」

 

「HAHAHA」

 

さすがにこの煽りには相手も閉口したらしい。説得を諦めたのかこちらから視線を逸らし、内々に話を進め始めた。

 

「……これまでのやり取りで理解してもらえたと思うがこれ以上の説明が必要かね?」

 

「いえ、既に頭痛がしますが矯正の必要性については理解しました。ですが私の身の安全については?」

 

「安心したまえ、雪ノ下。なんだかんだと言いながらあの背の高い方は倫理とか法律といった言葉が大好物だからな、間違っても手出しはせんさ」

 

無視されている間に逃走を図ったが、少々不満な言葉が聞こえたので暁法は物騒な言葉を投下してみることにした。

 

「悪いが形而上学なんかには造詣が深くなくてね、せめて実体を伴うものについて心配してはどうだ?(意訳:心配するような胸無いだろバーカwww)」

 

変に賢いが故にその皮肉を悟ってしまう雪ノ下は、怒気を纏った笑顔で歯を食いしばっている。

 

「…………減らず口を」

 

刹那、氷の女王が降臨し、言語化の及ばない怒りが教室を覆う。

 

「……補償するとも、だから鎮まり給え」

 

嵐を憂いたのか、か細いながらも平塚先生はそう言い切った。

漢字の錯誤など、口語では気付き得ぬ事だが。

 

「と、ともかく。後のことは任せたぞ」

 

冷や汗をかきながらも勝手に納得して帰って行った。いや、帰ったフリをした。

大方ふたりが逃走を図った際の対処を兼ねてのことだろう。さすがにそれに気が付かないようなマヌケでもないのだが。

さてどうしたものか、と問題は当初のものに回顧する。

暫しの沈黙があって。雪ノ下のふたりへ向ける表情が警戒から怪訝なものに変わった頃、不意に八幡が口を開いた。

 

「いっそ正面突破」

 

意を汲んだ暁法は即座にその案を検証する。が、結論は当然不可能だった。

 

「NON 付きまとわれて終わりだ。……窓からなら」

 

「NON 目立ちすぎる。………威力制圧」

 

「NON 事後処理がめんどい。てかそれ正面衝突じゃ……あれ? 無理ゲー?」

 

当人等は真剣に考えているつもりだろうが、いずれの場合も根本的な解決にはなっていないことを指摘できる人間はこの場にはいなかった。

 

「「………………ハァ」」

 

「平塚先生釣って満身創痍(GameOver)にする?」

 

「で、just run away?」トメナイデヨー

 

そんなところでわけのわからない会話してないで座ったら、という声でふたりはこの場に四人目が居たことを思い出し、同時に非常に今更な疑問を暁法が持ち出した。

 

「……そういやこいつ誰だっけ」

 

「ああ……2年J組、雪ノ下雪乃だろ。学年次席の成績優秀者で校内随一の有名人。さらに…

 

「あなたどうして私の事を知っているのかしら。ひょっとしてストーカー? 非常に気持ち悪いのだけれど」

 

「………品行方正で完璧超人って話だったが、現物は目の前にあるぞ」

 

「ああ、だからそんな偉っそーにしてるわけね」

 

「そうよ、私は人より優れているの。だからあなた達の性格を矯正してあげるわ」

 

調子が出てきたのか、自分だけの現実(パーソナルリアリティ)に入ってしまったのか、勝手に話を進めていった。

 

「………そうね、ではゲームをしましょう」

 

「…おい、ノリ」

 

「皆まで言うな、わかっておる」

 

心の内で、心を込めて、心の底から悪態を吐こう。

ああ、面倒くさい。

果てしなく気が進まないが、脱出の手段がない以上回避のしようもない。

脱兎のごとく逃げ出したい気持ちを押さえつけてやり過ごすことにした。

 

「―――さて、ここは何部でしょう?」

 

「知るか、興味もない。」

 

何故、敢えて茶番に付き合わんや(反語)。迅速な処理に取り掛かる。

 

「あなた…多少なりともやる気はないの?」

 

「初めからそう言ってんだろ。さっさと答えろ。それか帰らせろ」

 

結局八幡がバッサリと切って捨てた。

面白みのない答えに勝手に失望したのか、ため息をついてまた語りだした。

 

「はぁ……持つものが持たざる者に慈悲の心をもってこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶの。困っている人に救いの手を差し伸べる。これがこの部の活動よ」

 

まったく、ふざけた理想もあったものだ。

耳を疑うほどに道化じみた理念を叩き付けられ、ふたりの眉間に深い皺が刻まれる。

 

「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

 

聴けば聴くほどしらける気持ちを抑えられずに複雑な表情でいると、相手は更なる追い討ちを仕掛けてきた。

どうやら帰す気は無いらしい。

 

「平塚先生曰く、優れた人間は憐れなものを救う義務がある、のだそうよ。だから私があなたたちの問題を矯正してあげる。」

 

すると珍しくここまで聞き役に徹していた暁法が声を上げた。

 

「なるほど、つまり俺達がお前に問題とやらを恵んでやればいいわけか。くっだらない。」

 

ノブレスオブリージュ

 

幽霊と同じようなもんだと思う。話は聞けども誰も見たことがない、幻の存在。

 

「………………呆れたものね、どうしてその考えに至れたのか不思議でならないのだけれど。あなたに脳と呼べるものはないのかしら」

 

「ハッ、初対面の人間を相手に終始上から目線、初対面の人間を相手に劣等視、初対面の人間を相手に罵倒の数々、不遜な態度で自己紹介を要求しておきながら自身はそんな素振りさえ見せない。社会人基礎力の欠片もねぇな。続けようか?」

 

嘲りを隠そうともせずに吐き捨てた。

 

「タダでさえ面倒なんだから煽るなよ………しかも半分くらいはブーメランだろ」

 

これ以上の言い争いはやってられん、と静止に入るが少々遅かったようだ。

 

「随分と好き放題言ってくれるのね。私もまだあなたの名前すら知らないのだけれど」

 

肩をわなわなと震わせて、それでいて声までは揺らがないその強さは、一般人が目にすれば賞賛に値するだろう。しかし、応える暁法の声はやはりにべもないものだった。

 

「お前に関わろうという意欲が露ほども存在しない。故に覚える必要もない。凡百分の一でいいよ」

 

―――――――沈黙。

 

言葉遊びで悦に入るしたり顔の男と、それを睨む女のいる空間。それはそれは居心地が悪かったという。

そんな空気の打破は、やはりというか八幡にお鉢が回ってきた。というか、せざるを得なかっただけだが。

 

「お前が凡百なら俺は一体何なんだよ。存在すら認められないの?遠回しに俺のことディスるのやめてくんない?味方だと思っていた相手に裏切られるとダメージ大きいんですけど」

 

脱走という目的を諦めたのか、半ばヤケに呟く。

 

「流石にその卑屈さは想定外だよ、ハチ」

 

「おいやめろ、そんな目で見るな」

 

自虐もあえなく返された。

 

「会話を成立させなさい、矯正が必要なのはそういった所よ」

 

「フフッ…っと、悪い」

 

早速『矯正』とやらに取り掛かっているらしい雪ノ下を今度は別の声が笑う。

 

「――何がおかしいのかしら、比企谷君」

 

「いや何、さっきから言うこと言うことブーメランに見えてな、ダメ押しに耐えきれなかっただけだ」

 

「立場を弁えることね、調教師には鞭がつきものでしょう」

 

「そもそも前提が違うだろ。この教室は奴隷制か?お前は依頼されたと言ったが、それは俺達が望んだことじゃない。俺に矯正が必要だなんて考えるのは、それは自由だ。だがな、それは俺達がここに来るべき理由にはならない。俺達がお前に関わる理由にはならないだろ。ようするに勝手にやってろ、ただしやるならお前が来い、ってことだ。それならお前の自己満足も得られるし、俺とノリも万々歳ってな」

 

「まったく呆れた理屈だわ、よくもまぁそこまで詭弁を操れるものね…まるで全身が詭弁で出来ているみたいだわ」

 

理不尽、不条理、詭弁、暴論、不正、不平、不道徳、無原則、不合理、無秩序etc…そんなものがまかり通るこの部屋で、道理が参入する余地はないらしい。

大アルカナが示すように、正義が正義たる為に真に必要なものとは天秤(公正)ではなく(威力)なのだから。

 

そんな混沌とした教室を見かねたのか、戦車(チャリオット)の様に荒々しく、平塚先生が場に再登場してきた。

雪ノ下にとっては正位置に、暁法と八幡にとっては逆位置に。

 

「雪ノ下。邪魔するぞ」

 

「ノックして下さいと何度も申し上げている筈ですが」

 

そう言いながらもやや表情が緩んだのは、やはり手に余る相手だったからだろうか。

 

「ふむ……見たところ、やはり手こずっているか」

 

「本人達が問題点であると認識していないせいです」

 

好き勝手に言っているお前はどうなんだ。

 

「はは…教員総掛かりでも意のように動きはせん奴らだ。いかに雪ノ下と言えどそう易々と事を成されてはさすがに自信を失ってしまうよ」

 

そう言って鷹揚に微笑むが、そう言われた者達の表情は固いものである。

先生は敢えてそれを無視しながら、それに、と話を続けていた。

 

「この問題児達は、皆精神が完成に近い形で整ってしまっている。確かに近頃の高校生には少なくない傾向でもあるし、いい事でもあるだろう。が、それは諸刃の剣というヤツでな、生きていくには峰も必要なものさ」

 

その指摘はきっと正しいのだろう。諸刃とはそういうものだから。だけど、鞘があれば問題ないじゃないか。わざわざ片刃に打ち直す意味がどこにある。

 

誰かの、そして誰しもがそう思っていただろう。大なり小なり。

 

「そう解釈するならぜひ放って置いてくださいよ。いずれにせよ先生の自己満足(そんなもの)に付き合うつもりはありませんよ」

 

「そうですとも、平塚先生。それに砥石としてはそいつは役不足です。せいぜいが試し斬り用の死体って所でしょ」

 

無遠慮で辛辣な発言に激昂しかけながら、体裁をギリギリ保って雪ノ下が答える。

 

「…………………なにをいっているの?あなた達は変わらないと社会的にまずいレベルよ?」

 

そう声を振り絞る姿は平時であれば決して人目に付けさせぬであろう悔しさを端々に感じさせるもので。

しかし彼女にとって罵倒とは潤滑油の様な役割を持つらしい。復活を遂げ、その勢いで更に牙を向いてくる。

 

「傍から見ればあなた達の人間性は余人に比べて著しく劣っていると思うのだけれど。そんな自分を変えたいと思わないの?向上心が皆無なのかしら」

 

「まぁそう言うなよ御同類。お前如きに変えられないってだけで、そのうち変わるかもわからんぜ?」

 

「真面目に話せないのなら黙っていて」

 

ここまでに真面目な話があったかはさておいて。

 

「お前こそ夢見すぎだろうが。考え方が変わる事なんかそもそもねえんだよ。思考に要素を加えて配分を変えることでしか人間性なんてものは揺らがない。その過程を見もしない奴が勝手に『変わった』なんて言うだけだ。お前の言う『矯正』とやらは洗脳やマインドコントロールと同質のものでしかない。」

 

度重なる雑言に八幡の精神的リソースは潰え、自然と言葉も尖りつつあった。

 

「自分を客観視できないだけでしょう。それともしたくないだけかしら」

 

「思い上がりも甚だしいな。誰かを眺めてりゃそれは客観視か? んなもんただの他人事だろうが。テメェに客観なんて視点は存在してない。それをお前の主観で客観視気取ってんじゃねえよ」

 

思わず舌打ちしたくなる。無為に過ぎてゆくばかりの時間。まさに浪費というやつだ。

 

「あなたのそれはただの逃避、変わらなければ前には進めないわ」

 

「闇雲に進んだ結果が今のお前の四面楚歌だろう。逃げる事を偏執的に嫌って、転進という言葉さえ使いたくないから、他人が間違っていて自分が正しいと信じていたいだけだ。だからお前だけの理屈とやらが通用するこんな辺鄙な所でひとりふんぞり返ってるんだろ? お前は逃げる事を否定する。だが今ここにいるお前の存在がお前の嫌うそれそのものだ。お前の言う変わるなんて信仰の対象、心の安定の為の道具でしかない。異教徒からして見ればただのゴミより価値がないんだよ」

 

八幡の沸点が近づいていることを悟り、今度は暁法が前へ出た。

 

「加えて言うなら変えるなんてのも結局はお前の主観だ。人の思考、行動、主義、主張。それがお前のお気に召さないからただ我儘にアレを辞めろ、ココをこうしろとがなり立ててるだけだろうが。当人の胸中にある葛藤なんざ露ほども意に介そうとしない。人間性なんて自我の核心に口をだすなら本人の意思を蔑ろに妄言垂れ流してんじゃねえよ。ましてやお前の自己満足に俺達が付き合わなきゃいけない道理がどこにある」

 

「……………それじゃあ悩みは解決しないし、誰も救われないじゃない」

 

そう口にする雪ノ下の表情にはこれまでとは違う怒りが垣間見える。本旨からは全く見当違いのモノだが。

単なる激昂でなく、立ち入らせてはならないパーソナルスペースの排他域。そんな所に到達された様な、本当の怒りを見せられた気がした。

とはいえ、先程から不躾に同じ行為をしてきたのは相手方。

今更自重を求められる謂れも、ましてや怯むような生半可な胆力でも無い。

散々他人の自己を侵しておいて、いざ自らを渦中に置けばこれだ。

 

虫唾が走る。反吐が出る。野にひとりでは戦にならぬというのに。いったいコイツは何と戦っている夢を見たいのだろう?

 

暁法も八幡も、いや、戦いに身を置く者であれば誰であれ、救いなどという言葉にほんの一片の期待も抱かず、また抱けないことだろう。

あえて言葉を過激にするならば、『救い』なんてものを本気で語るならばそいつは大方煽動政治家(矢面に立たない者)でしかない。

誰もが自身のために救いと称して人を斃し、救いの為に何かを棄てるのだから。

救いなんてものは胡蝶の夢、白昼夢よりも語るに能わないもの。

それが彼等が知る『救い』だったし、事実『救い』なんてそんな物だった。

 

だからこそ、暁法は目の前の酔っぱらいを赦さない。

救いを望まない者を救うなどという、そんな救いのない話を認めない。

 

平塚先生はこうして血気に盛るふたりを教室の隅まで押し遣ると、からりと笑ってこう言った。

 

「ふんふん、こういう熱い展開はむしろ好ましいな。よろしい、ならば決闘だ! 互いの正義を正義たらしめるのは行動による結果のみ!」

 

その場にいる三者が顔を顰めようと気にせず、少年のような眼差しで、故に、と続ける。

 

「存分に自らの正しさを知らしめるがいい。どちらが人に奉仕できるか!? ガンダムファイト・レディー・ゴー!!」

 

「嫌です。はしゃがないでください」

 

すぐさま雪ノ下が否定。その目はどこまでも冷淡なものだった。

平塚先生はといえば、さすがに生徒に諭されるのは恥だと感じたのか。

咳払いで誤魔化しながら改めて三人に告げる。内容は変えられなかったが。

 

「と、とにかくだなっ!君たちは勝負するんだ。拒否権はない」

 

「サーカスが見たければ金を払え、この無産市民が」

 

「誰があんたの掌で踊るか、大日如来にでも憧れてんの?」

 

いい加減相手が教師であることに対する儀礼的配慮を保てなくなってきたふたりは、躊躇無くトドメを狙いに行く。

 

「不満かね?安心したまえ、成果には報酬を。勝ったものは負けたものになんでも命令できる、というのはどうだ?」

 

―――絶句した。ふたりはとうとう絶句した。正に言葉もないという状況だ。ここまで馬鹿げた回答に暁法と八幡はただ絶句する他なかった。

 

『||《冗談は話者に力なく、聞き手の耳に依存する。》A jest's prosperity lies in the ear of him that hears it, never in the tongue of him that makes it.』と云う戯曲の詞は、皮肉や罵倒にも通ずるらしい。

 

全く意味をなさなかった。挙句にこのザマである。一体これはなんなのか、もはや眩暈がしてならなかった。

その間雪ノ下といえば、杞憂に溺れているようで、がたっと椅子を引いて後ずさりをしていた。

 

「この男達が相手だと貞操の危機を感じるのでお断りします」

 

常時であればただ揚げ足を晒してくれたに過ぎなかった発言にでさえ、今の八幡達は何かを言う気概も生まれない。

ただ溜息をこぼした。かろうじて再起動した八幡が次に耳にしたのはあからさまな挑発と、それにまんまと乗せられる自称優等生の宣戦布告のみ。

 

「決まりだな、では「平塚」杜、敬語というものを知ってい――-」

 

凄まれた本人は、その顔を見た平塚先生が思わずギョッとする様な晴れやかな表情で平塚先生に歩み寄る。こうなってしまった以上すべて諦めて後はずらかろうとした八幡だったが、暁法の発言に興味を持ち、耳を傾ける。

 

「ああ、ボノボやゴリラに敬語を使ったことは無かったな。まぁ今回は恥を忍んでやろう。……ンンっ、では平塚先生。勝敗の決した後にそんなものに従う謂れは云々というのも面倒なのですが。つきましては正式な書類を作成して頂いた後この場にいる四名の署名捺印を添えて各人が保管するというのはいかがでしょうか。」

 

「生徒同士の戯れにそこまでする必要は無いだろう。あまり意識せず、適当に......適切に、妥当に頑張りたまえ」

 

「そんなもの参加する気も無いもので。ただやれと言っているだけです。それさえ為せばガキのお守りを引き受けてやる、と」

 

好き放題言いまくる暁法を苦い顔で睨みながらも、平塚先生は対峙の姿勢を崩さない。

 

「拒否権はないと言っているだろう。精々部活動に励むことだ」

 

「そちらで提示した条件で、相手が呑んだ内容です。何よりこのままでは先生に一切リスクが無い。オフザケに付き合わせるなら相応の対価です。文面を決める段階になったらまた呼んでください。暇を探してまた来ますんで。――――っとハチ、行こうぜ」

 

「お、おう」

 

彼の性格を知る八幡ですら切り換えについて行けず、しどろもどろな返事で出口に向かう。

呆気にとられたままの平塚先生はしばらくぬぼーっとしていたが、ようやく事態を飲み込んだのか泡を食って拳を振りかざしてきた。

 

「何処へ行く、殴られたいのかヅ…ッグ…ッ」

 

鋭く繰り出される平塚先生の拳を、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…襲いながら言う台詞じゃないでしょうに……まぁ自業自得(正当防衛)ですね。―――で、お前も何か用事?」

 

雪ノ下は床に突っ伏した先生と、そうさせた人間を交互に見遣ると、信じられないといった険しい顔で詰問してきた。

 

「あなた…箍の外れた人だとは思っていたけど…自分が何をしているのか解っているの?」

 

「当然だ。[急迫不正の侵害]に対して、[自己又は他人の権利を防衛するため]、[やむを得ずにした行為]だろう? 俺としては騒がないお前の方が不思議だがな」

 

「ふざけないで。あなたは仮にも教師に手を挙げたのよ。問題にされて然るべきだわ」

 

「そうか、ならばここでお前と問答することは無意味だな。裁判所の召喚を待つとしよう」

 

「ッツ……! 待ちなさい!!」

 

「奉仕部の理念とやらを思い出せ、部長殿。『憐れなもの』はそこにいるぞ」

 

介抱という名の後始末を適当に押し付けてとうとうその場を脱出したふたり組は、傾きかけた陽の差す廊下をゲンナリと歩いて行った。

 

 

 

◆◆ ◇◆◆ ◇◇◇ ◆◆◇




弄った箇所はほとんどありませんでした。
サブタイは『第1条1項2号』みたいな感覚でお願いします。
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