やはり俺たちの防衛生活はどこかおかしい。 作:ハタナシノオグナ
さて、私ですが結局買えず終いでこれを投稿しております。
次話までには読破できるでしょうか……怪しいところです。
――昨晩、比企谷八幡・杜暁法らが、防衛任務に赴く少し前の事である。
「ノリ、入るぞ」
ノックとともに入ってくる八幡を、ほうじ茶の香りが迎え入れた。
「おう、お疲れー」
彼等が集まったのは、先ほどの【奉仕部】関連のなんやかんやへ対策を講じる為であった。
そんな彼等の現在地は、自宅(兼支部)の一室。暁法のプライベートルーム。
本来、集まるだけであればリビングでも良いのだが、今回は妹達を巻き込んでまでどうにかしたい内容でもなかったので、こうして不可侵領域(詳しくは共生法参照)を盾にした形だ。どのみち隊室ないし。
なぜ隊室がないかと言うと、比企谷隊はボーダー本部に隊室を持たず(正しくは持てず)、かと言って他の支部に属するわけにも行かないので、隊員各自の給料と『司』からの援助、そして鬼怒田さんの技術提供によって比企谷支部と呼べる砦(兼自宅)を構築している。
もちろん、幾らA級部隊だからといって、高々高校生風情がそう易々と家を建てられる訳では無い。
そこが警戒区域内でもない限り。
そう、警戒区域。彼等の住居は危険の一等地にあった。
――閑話休題――
「で、さっそくなんだけどさ」
寛ぎもそこそこに、暁法が身を乗り出す。
「ああ……奉仕部についてだろ? 正直なところ全く気が乗らないんだけど」
当然といえば当然の話、誰だって毎回喧嘩をふっかけてくる奴なんかと顔を合わせたくないだろう。それを毎日ともなれば、尚更である。八幡の反応は無理からぬものであった。
「まぁまぁそう慌てなさんな。そこで今回の話ってワケだ」
暁法もその辺の所は織り込み済みで計画を固めたのだから抜かりはないのだろう。湯呑みをテーブルに直すと、ニンマリとして青写真をひきはじめた。
「つまりだな、俺達の『任務』あるだろ」
「ああ」
「そこを奉仕部巻き込む事で結構バレにくくなるんじゃないかなって。ホラ、どうしたって『偶然』にも限界があるじゃん? 学校に遅くまでいたって不自然じゃなくなるし、接触が楽になるのは言わずもがな、おまけに知名度だって無いに等しいときた。
「えー、お前はともかく俺面割れてんじゃん。働きたくない」
「本音ダダ漏れじゃないかーい」
呆れた表情は抑えられなかったが、まぁいつもの事かと納得して話を進める。
「お金の掛かってる真っ当なお仕事だ。どうせやらにゃあいかんのよ」
八幡の説得方法は大まかにふたつ。小町関連とお金関連である。今回は妹達を巻き込まない前提での話なので後者の方法を採った。
「はぁ……まあ給料出てるしな。お互い災難だと思えば少しはマシか」
深い溜息をつく八幡の口から『ノー』という言葉は出てこなかった。
あっははは、案の定。こう言ってはなんだがやはりチョロい。どう見てもチョロ谷チョロ幡です本当にありがとうございました。こういうところがあるからこそ、ボッチであっても信頼されるのだろうなぁ。
暁法はしみじみと想いながら微笑みと言葉を送る。
「ハチがやるんだよ」
…………?
わずかな傍白、つまりは沈黙があった。続いて驚嘆の声。
「…………ハッ? チョふざけッ!? おいノリテメェなにひとりだけバックレようとしてんだよ!」
「ハハハッ、ハチが学校内。俺と琴時が学校外。いやぁ我ながら素晴らしい発案じゃないかねコレ!」
本当に何が気に入らないというのか。
そう憤慨さえしてみせる暁法だったが、八幡の剣幕には及ばなかった。
「お前は妹とデートしたいだけだろうが。認められっかこんなもん!」
「ああそうだよ! 文句あっかゴラァ!?」
「ありまくりだボケ!!」
――その後は両者共売り言葉に買い言葉。どちらが犠牲となるかを巡って、それはそれは醜悪な争いがあった…………とだけ言っておこう。なんにせよ、ふたりの入部は確定したのだから。
さて、馬鹿馬鹿しい昨夜の喧騒を思い返しながら、ふたりはいい加減現実と対峙する覚悟を決める。
目を覚ませば、何故かベッドに寝かされていた。
どうにも平塚先生の話を聴くうちに、ふたり揃って睡魔の餌食となったらしい。微かに残る最後の記憶をどうにか呼び覚まし、状況の整理を試みたものの、自身の現状は全くといっていいほど掴めなかった。かろうじてここが保健室である事くらいは理解したとはいえ、それ以外は何もわからないに等しい。
自分たちの目論見通りにいかなかった事実は受け止めざるを得なかったが。
「どこでミスったんだかなぁ…………」
「そりゃあ、面倒事があるってわぁってんのに、ほぼ徹夜した事でしょうよ……」
八幡の愚痴とも問い掛けともつかぬ言葉に、ゲンナリとした答えが返される。目的を前に眠ってしまった事が恥ずかしいやら情けないやらで、しばらくはふたりともただ押し黙っていた。
こうして自己嫌悪に陥っていたが、踏ん切りをつけるべく暁法は身体を起こして靴を履き始め、八幡は欠伸をひとつしてから「帰るか……」と力なく呟いた。哀愁を感じさせる光景ではあったが、やっていることは実に滑稽極まりない。
もぞもぞと動き出すなかで、八幡の目にふと『何か』が留まり、手に取ってみる。どうやら書き置きらしい。綺麗に折り畳まれた用紙には『平塚より』と書かれ、ご丁寧に宛名までもが添えられていた。
このまめさを日頃から発揮してさえいれば、普通に結婚できるんじゃないかあの人……。
という感想をそっと胸にしまって、宛名のもうひとりに声を掛ける。
「おいノリ、コイツ見てみろ」
いそいそと支度を整える中で、発せられた声が暁法の動きを止める。
視線をやった先には、八幡が恐る恐るといった顔で件の『書き置き』を摘んでいた。
「見なかったことにしよう」
何も言われぬうちから結論を急いだ暁法だが、『諦めろ』と八幡の視線が語っていた。こころなしか、目の濁りも普段より酷い気がする。
アイコンタクトによって、というか何も言えずに押し黙っていただけだが、お互いに諦めて進む決心はついていた。特に暁法は『どうせやらにゃあいかんのよ』と言った手前もあり、自らの首を締めざるを得なかったのだが。
「『沈黙は金』っていうのは本当らしいな?」
八幡はその辺の微妙な心情を理解しながら、かといって斟酌する気もないようで、ここぞとばかりに憎まれ口を叩いてきた。これから来るであろうストレスを前晴らしと言ったところだろう。苦い顔の暁法を見て気色(けしき)の悪い笑みを浮かべている。
「うるせぇ、金本位制はとっくに終わったよ」
いい加減うざったいのか、「さっさとすませちまおう」と続けて呟くと、そのまま八幡の手から『書き置き』をひったくっていく。四つ折りにされていた紙を無造作に開くと、暁法は自分の浮かべていた仏頂面がひくついたのを感じていた。あれほど折り目正しかった筆はどこへやら。A4判の紙一杯に書かれていたのは一言だけだった。
職員室に来い。
もうほとんど陽は落ちていた。完全下校の時間を迎えていないとはいえ、流石に学校も人の往来を想定していないのだろうか、光源の乏しい廊下を一路職員室へと向かってゆく。
昼間あれだけの喧騒がありながらも、人を失えばこうも暗い雰囲気を醸す校舎は、まるで別物のようでもあり、どちらにせよ好きにはなれないものだろう。歩調は自然と早くなっていった。
「ようやく起きたかね。大バカ者どもめ」
ガラガラと音をたてて扉を開けると、職員室を独占している平塚先生がいた。寂しげな苦い顔から察するに、居残りをさせてしまったらしい。自分らの失態が招いたことだと思うとまことにいたたまれない。
「うす……すんませんっす」
「まったくだ、バカ者」
口は悪いままでも怒ってはいないようで、柔和な顔でこちらを見ている。
「だが、正直安心したくらいだよ。君達もあんな風に弱点を晒すことがあるのだな。『完成している』というのは取り消そう。君らも、完璧に見えて歳相応の高校生だ」
「完璧ならこんな事に手間もかけませんでしょうよ……」
「貴様は初めから寝ていただろうが」
暁法に向けて呆れた口調で苛むと、咳払いをして雰囲気を改めた。
「……よし、話を聴こうか。私が何をすれば君達は奉仕部にいてくれる?」
「じゃあ、俺から……」
そう言って八幡が前へ出た。
「こちらからの要求は三点です。まずひとつは拘束される時間についてですが――――――」
協議は遅くまで続き、ほぼ全面的に比企谷八幡の主張は受け入れられた。
こうして彼等は、奉仕部の一員となる。
今回は意図的に話のテンポを悪くしてみました。メリットは特にないのですがどうでもいいところをダラダラと書きたかったのです。
さて、本編ではこれをもちまして『強制入部編』が終了致しました。導入に3話かけるのは原作がなければやろうとも思わなかったことでしょう。以降では『初めての依頼編(仮題)』と銘打ちまして由比ヶ浜を登場させようかと思っております。『編』となるほど続くのかは未定です。
最後にお気に入り登録していただいた39名の方々に、そして読んで頂いた全ての方々に御礼申し上げます。
それでは次回もどうぞよろしく