イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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感想多いとついやる気がでちゃう。だって作者なんだもん
今回はほのぼのしすぎて何書いたら良いか分からない回

あとがきにはワタシ的小説の書き方講座もあるよ!

ついでに週間その他ランキング1位ありがとう御座います
見ての通り毎日更新できてませんが頑張ります
会社の都合上書けない日は許してください何でもしまむらでルーサーと踊ろう


文書10.document

 がらがらがら、がたん、がらがらがら。

 リアカーの車輪が音を立てて回転する。陥没し、大穴の空いた廃墟都市は大規模な戦闘の余波でそこらじゅうが瓦礫の欠片だらけになっていた。

 

「ほんとに機材とか大丈夫かな」

「衝撃吸収素材を信じるしか無いな」

「ま、イデア9942が作ったものなら大丈夫だよ」

 

 11Bの謎の信頼はどこから湧いてくるのだろうか。

 此処のところ何かにつけて持ち上げてくる11Bにこそばゆさを感じながら、肩をすくめたイデア9942は帽子のツバを握り直し、マフラーを締め直す。そういえば、斧はパスカルの村に置きっぱなしだったなと、現実逃避できそうな事はすべて試してみるのであった。

 

 見ての通り、瓦礫の撤去作業に追われていたイデア9942たちは、これ以上あの場所に住むのは不可能だと判断し、引っ越しの真っ最中である。リアカーに乗せた、使えると判断した最小限の資材や機材は、瓦礫や段差に車輪が引っかかる度にガタンガタンとけたたましい音を立てて揺れていた。

 リアカーは前からイデア9942が引っ張り、後ろから11Bが押す形である。単純な構造ながら、丈夫で小回りがきくリアカーを転がすこと十分程。路地裏を抜け、ようやく、普段2Bたちが訪れる廃墟都市の作戦領域内に到着できた。

 

 それからしばらく、更にリアカーを動かして険しい陥没したコンクリートの上を走らせる。陥没したところがよく見える断崖絶壁の近くにまで移動した彼らは、そこで一度休息を取ることにしたらしい。

 

「ねえ、次の拠点はどこにするつもり?」

 

 足を投げ出し、ぶらぶらと揺らしながら11Bが問う。

 

「そこに見えているだろう」

 

 問いに答えるため、イデア9942がこともなげに指差したのは、巨大な木が巻き付いて自然と同化したビルの一つ。イデア9942の地質その他の調査上、ちょっとやそっとでは崩れない上、天然素材の採取にも最善と判断していた。まぁ、こんな目立つような場所で誰も脱走者を探したりしないだろうという発想から選んだ場所だったのだが。

 

「……危なくない?」

「理論上は安全だ」

 

 自然と同化しているとはいえ、全ての窓は割れ、上階には敵対的な機械生命体が蔓延っている。また地下を掘ってここに拠点を作るにしても、作るだけで多大な労力が要りそうなものだが。

 

 11Bはこれからどうするのだろうかと思いつつも、黙ってイデア9942についていく。やがて、一階の窓近くのコンクリートを削り、リアカーを通れるようにしたイデア9942は地面に座り込んでペタペタと触り始めた。

 

「なにしてるの?」

「確か此処に……あッたあッた」

 

 砂の乗った地面を払い、なにもないように見える窪みをグッと握るイデア9942。その瞬間、大量の土埃が流れ落ちながら、地面の一部ががばりと隠し戸となって開いた。ただし、高さ10cm、20平方cm程度のスペースだったが。

 

「もう作ってたの!?」

 

 作業中に見つかったらどうしようかという不安を吹き飛ばす事実に、11Bは素直に驚いてみせる。

 

「いつから此処らで暮らしていると思ッているんだ」

 

 まったく、策というのはいくつも講じてこそだろうと呟くイデア9942。そのままガサゴソと開いたハッチの下にあったバーを引っ張ると、近くの地面がスライドして入り口を作り、そこから螺旋状のスロープが顔を覗かせた。どこかのエンディング以外では落ちるヘリばかり出してそうなゲーム会社が好きそうなギミックである。

 

 スロープはそこまで長くなく、ゆったりとした傾斜のそこをΩの字に似た一回転で通り抜ける。真っ暗で何も見えない新しい拠点は、イデア9942のカメラアイから照射されたライトで照らされることで姿を表した。

 

「ようこそ、新しい工房へ」

 

 イデア9942が壁のスイッチを入れると、鈍い駆動音と共に部屋の照明がバチバチと点灯されていく。以前の工房よりもずっと明るく、清潔感の感じられる部屋だった。急遽作ったような炭鉱の部屋、という様相だった以前と何よりも違う点は、部屋の天井・壁・床が全て丈夫な木製だということだろう。

 

 暖かな命の息吹を感じられる、ゆったりとした空間。

 そして30分後、ごちゃごちゃとした資材が置かれた事で雰囲気の70%が削がれるのであった。

 

 

 

「いやぁ、大変でしたねえ。こっちにまで揺れが伝わってきて、村の通路が幾つか軋んでしまいましたよ」

「補強はしなくても大丈夫か?」

「うちの武器屋がすっかり直してくれましたので。ところで、少し近い所に拠点を変えたとのことですが……今度、お邪魔しに行ってもよろしいでしょうか」

「パスカルなら何時でも歓迎だ。あァ、いま11Bに頼んで改装工事中だが、新しい部屋が出来ればそこを客室にでもしよう。人間らしい部屋というのを感じてくれれば幸いだ」

「ほお! それは楽しみですねえ。期待していますよ、イデア9942さん」

 

 パスカルの村に訪れたイデア9942は、預かってもらっていた刃の潰れた斧を背負い込む。この重さが無いと寂しさを感じる程度には、この斧にも愛着があるらしい。斧をしっかりと固定するための革で出来た鞘は、サイズもピッタリである。

 肩掛けのベルトが一本、イデア9942の胴体を斜めに走り、滑らかな黒い革はよりイデア9942の見た目をハードに彩っていた。

 

「うゥん、悪くない」

 

 どうにも収まりの悪い帽子の位置を直すと、吹き込んできた風がイデア9942のマフラーをなびかせる。斜めに傾いた帽子の影から、緑色のカメラアイが覗く。パスカルのスペースに設置された鏡を見ながら、イデア9942はオシャレも良いかもしれないと呟き、横顔が目立つポーズを決めてみる。

 

「生前には無頓着だったが、服装に拘るのも中々に人間らしいかもしれん。帽子のバリエーションくらいは増やしてみるか」

 

 意識したことはなかったが、11Bに絶賛され、パスカルにもそれとなく言われたこともある。ともなれば、イデア9942がファッションに乗り気になるのも当然の結末と言えよう。

 

 パスカルは笑みを浮かべながらも、やはり純粋な機械生命体ゆえに、機械生命体自身のファッションという感覚が分からず苦笑を浮かべていた。11Bやアンドロイドたちは良いのだ。人類に近い体型であり、機械生命体として生きてきた中で培った美的感覚が間違ってはいないと肯定してくれる。

 だが、機械生命体にとってアクセサリーや衣服というのは、あくまで「そうあるべき模倣」という枠を越えないとパスカルは考えていた。

 

 例えば、広場の姉妹は「女の子らしいリボンと色の違いで微差を表す」。

 親子関係の3人はボディへのペイントだが「父はスーツを着たサラリーマン、母は家庭の象徴エプロンと女性らしい口紅、子供は動きやすそうなオーバーオール」。

 化粧をし、サルトルに恋をした子は「化粧というもので飾り立て、想い人の気を引く」。

 

 マフラーはあくまで11Bの服を参考にした贈り物と、外見上の見分けにちょうどいいだろうということで贈ったのだが、パスカルの想像以上にイデア9942は気に入っていた。アンドロイドが再現したファッション雑誌なるものを読んでみたこともあったが、まだまだパスカルにとって理解には程遠い概念だったと感じたこともある。

 

「むぅ、やはり服飾とは難しいですね……上からそのようなものを着てしまえば、関節に挟まったりして邪魔でしかないと思うんですが」

「そう考えてる時点で理解から遠ざかッているぞ」

 

 機械生命体も、根本を正せば効率重視の機械だ。平和を愛する特異な個体であるパスカルも、このように無駄を極めることに長けた人類の文化というのは理解しがたいものであると改めて感じ、イデア9942は少しだけ優越感に浸る。

 正直なところ、パスカルと出会ってからと言うもの、何度か励まされたこともあった。その恩返しとして、自分が教えられる事があるというのなら。そうした思いもある。

 

「人類とは、度し難いものです……あ、人類と言えばこの本も子どもたちに大人気でしたよ。ありがとうございます、イデア9942さん」

 

 パスカルがおもむろに差し出したのは、イデア9942が記憶の限りから再現してみせた子供向けの絵本である。日本の昔話を主にしたものが多いが、残念ながら人間の思想などとは遠く優先度が低かったためか、現物は1万年という史実とともに葬り去られ、アンドロイドが定期的に再現している図書の一覧からも消えてしまっていた。

 そこで、イデア9942が和紙を作った技術を応用して、短い絵本を幾つか作りプレゼントしたのだ。

 

「ボロボロになるまで使ッてやッてくれ。そのほうが、その本も喜ぶだろうからな」

「本が、喜ぶですか? 物に人格があるように言うなんて、やはり人間は不思議ですねえ」

 

 古来から使われる擬人化の技法の一つだ。

 まだその概念を知らないパスカルは、関心したように頷いた。

 

「例えばだ、服というものを着て、その服がダメになれば小さく切ッて子供用のものにする。それでもボロボロになれば、縫い直して雑巾にして使う。切れ端は残しておいて、別の服の修復に使う。雑巾としても役目を全うしたそれを、燃やすか捨てるかし、感謝しながら自然に還す」

 

 かつて、江戸時代は究極のリサイクル時代だとも言われていた。

 その時の一つの例をそのままパスカルに話しながら、続ける。

 

「それはなんというか、凄まじいですね」

「あァ。使われた方にとッてはたまッたものじャないかもしれないが、そこまで働いてくれたことに、人間は感謝を示すんだ。そして物のほうも、これだけ使われれば本望だろうという考え方をする。大事に大事に、最後まで。無駄にしなかッた事にありがとうと言われるんだろうな、と」

 

 そこでイデア9942は、言葉を切った。

 

「この考え方を思い込みと取るか、素晴らしいと取るか。それこそ人次第だが。あァ、全く、何が言いたいのか分からなくなッてしまッたか。すまんな、パスカル」

「いえいえ、貴重なお話でした。そうですか……でも、私はその考え方、好きですねえ。全てのものに感謝を捧げて大事に使う。まだ理解できたとは言い切れません、ですが」

 

 パスカルの緑色のカメラアイが、優しく光を揺らした。

 

「私は、とても良いと思いましたよ」

 

 心からそう感じているのだろう。

 相も変わらず、感情を隠そうとしないものだ。嘘ばかりで塗りたくる、そんな汚く人間らしい自分とは大違いである。イデア9942は、パスカルにこそ一種の眩しさを感じて、帽子のツバを掴む。少し深く被りなおして、彼のカメラアイは影の中に隠れてしまった。

 

「おや、どうしましたかイデア9942さん? それでは前が見えないでしょう」

「……少し、眩しいと思ッただけだ」

 

 そしてイデア9942も、この体になってから考えが行動に出やすくなったと自覚していた。世界がこれだけ素直なものたちで溢れていても、闘争が収まらないのは何とも皮肉な話だが。

 

「はて? この村は木漏れ日で眩しさが抑えられ、レンズの消耗にも優しいはずですが」

「心理的なものだよ。全く、パスカルには敵わない」

「イデア9942さん…?」

 

 ここで一度、会話を打ち切り、イデア9942は立ち上がった。

 自分の新しい工房に戻るのだろうなと察したパスカルも、彼の背中を見送ろうとする。

 

「そういえばだ、2Bたちがどこに向かッたか知ッているか?」

「2Bさん達でしたら、数時間前に訪れてましたね。しばらく、私についての質問をした後、廃墟都市の方に戻っていきました」

 

 どうやら、まだ森の国には向かっていないようだ。

 司令官からのパスカルの調査という点ではこなしているようだが、これも世界の差異の一つだろう。まだ、森の国という単語については耳にしていないらしい。

 

「なにやら、色んな人達から頼まれごとをされているみたいで忙しそうでしたねえ。ゆっくりしていったらどうかと訪ねましたが、また後でと一蹴されてしまいましたよ」

「そうか……ありがとう、パスカル」

「どうやら貴方にも会いたがっていたようですから、もし会ったらよろしく伝えておいてください。彼らとも、友好的な関係を結べれば、それ以上の喜びもありませんから」

 

 そして飛び出したパスカルの言葉に、イデア9942も身を引き締める。やはりと言うべきか、バンカー総司令官ホワイトは、イデア9942のことも捜査対象に加えたらしい。まぁ、見た目はともかく特異な個体であるという自覚は彼にもある。

 

「少し探してみる。11Bを連れて、な」

 

 今度こそ振り返らず、イデア9942はパスカルの村を去った。

 背後から聞こえるパスカルのお気をつけて、という言葉には、いつものように片手を上げて応えておく。

 

 道が大きく外れるのだろうなという予感が、イデア9942の脳回路をよぎった。

 




パスカルかわいい 異論は認める
記憶を失ってもアンドロイド側と正式に同盟を結べるパスカルマジ考える葦

簡素ながらまえがきで言った講座を始めます
1・タイトルを決める
2・登場キャラクターを決める
3・キャラクターを最初に投げ込む場所・シチュを考える
4・そのキャラクターだったら? というのだけを考えて喋らせ、動かせる
5・なんか知らんけど書き上がってる

以上です!!! プロットなんか無い!!!


この小説の着地点マジでどうしよう
そろそろまえがきあとがきのふざけた文章もネタ切れ感

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