イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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正直原作描写どこいったな回。
作者には建築の知識はありません。調べてもいません。

なんか興が乗っていつもよりちょっと長めになっちゃいました。

※11/04修正 ある人物が逆になってたので正常にしました


文書11.document

「終わったぁ」

 

 全身ホコリまみれになった11Bは、頬の汚れを拭った。

 ある程度は自動で動く掘削機たちに任せればいいのだが、いざ歪みや耐久性を考慮した造りとなると、AI自身の手を使わなければ細かい調整はできない。粗方の長方形の新しい、清潔感のある真っ白な部屋を作り出した11Bは、イデア9942からの言葉を思い出す。

 

『11B、間取りも家具も、君の好きにしていい。君なりの応接室を作ってみてくれないか。少しばかり家具は限られているが、そこも考えることだ』

 

 メインの工房は今までの工房と同じく、衣住が一体になったごちゃごちゃとした部屋だが、ここはパスカルを招くとイデア9942が言っていた応接室だ。本来なら人間らしさを存分に味わってもらうためイデア9942が部屋を整える予定だったのだが、彼はふと考えたのだ。

 11Bというアンドロイドは、どこまで人類らしさを再現できるのだろうか、と。

 

「さて、応接室っていうくらいだし……まずは椅子と机かな」

 

 部屋を移動し、いくつかある机の中から角形のものを一つ。機械生命体が座ってもびくともしない丈夫さながら、柔らかさのある特別製ソファを二つ。まずはそれらを中央に置いた11Bは、顎に指を当てて考え始めた。

 

「ここからどうしようか……イデア9942が使ってた、前の作業台の近くはどんなだったかな」

 

 真っ先に思い出すのは、彼の作ったカレンダー。

 和紙というものらしいが、あれは日付を数えるためのものだった。

 なんであるのか、という疑問はともかくそれっぽさは感じられる。採用だ。

 

 次に、自分の寝台の横にあった縦に長いビンと花。

 定期的にイデア9942が中身を入れ替えていた。

 見た目もキレイだし、この真っ白な部屋にも彩りがあるようにも思える。採用。

 

「あとは……」

 

 11Bは思いつく限り、イデア9942と暮らしていたときのことを思い出す。バンカーに居た時では思いもよらないほど無駄な「物」が溢れた生活だったが、何かと視界に変化の訪れる日々は、ヨルハを抜けたあの日が遠い過去のように感じられる程充実し、中身のある生活になっていた。

 

 戦いとモノクロームな世界だった。時折16Dに時に辛く当たり、時には自分と依存しあい、それでもどこか空っぽな気分だった。そして、ある時の任務で見てしまった事実。イデア9942にとっては、こともなげに話された真実のほんの一端でしか無かったが、そこから全てが変わったのだろう。

 

「本棚はここ…と」

 

 モノクロームな世界はセピア色になった。

 セピア色の世界から、周りに飛び散った色をみつけられた。

 鈍い銅色が緑色の世界を見せ、空が青いことに気がついた。

 

 本の詰まった本棚のように、カラフルな世界は11Bの全てになった。

 その機会を与えてくれたのは、他でもないイデア9942だ。

 

 だからイデア9942が望むのなら、自分にできる精一杯を示してみせる。結局のところ、自由な世界を知っても、イデア9942に依存することしか出来ないけれども。でもそれでいい。イデア9942の側にいたい。もっと、もっと、彼と一緒に色を越えた光を見つけるために。

 

「よし、完成!」

 

 ワタシなりの部屋づくり、彼は褒めてくれるだろうか。

 

 

 

 

 

「ど、どうかな……結構いい感じだと思うんだけど」

「なんだこれは」

 

 机や椅子、本棚に花瓶、それはいい。

 だが花瓶が地面にあったり、椅子が二つ同じ方向にあったり、本棚が机と隣接していたり。なにより、作った部屋に対して家具のスペースが寄りすぎている。一生懸命作った感は伝わってくるのだが……。

 

「なんというか、まだまだだな」

「あうぅ……」

 

 容赦のないイデア9942はいつものことだが、11Bは怒られるのが嫌いではなかった。なんせ、彼から教わることの全てが新鮮で、彼と触れ合う口実になるからだ。

 ニヤニヤしながら手伝う11Bを気味悪がったのか、イデア9942が後頭部をはたく。真面目にやるよう促したイデア9942は、まず家具の全てを撤去し、元の工房に戻していった。

 

 次に始めたのは、工房の隅に巻いてあった壁紙を持ってくる。掘削機のアームを取替え、壁紙をそれに持たせた後は同じく隅に巻いてあったカーペット。あとは11Bのチョイスした椅子を机に向かい合わせ、同じものを隣に並べ2:2の4つを設置。

 花瓶は壁際に移動させた本棚の隣に、新しい棚を置いて上に乗せる。カレンダーは棚の端にチョンと置いた。花瓶とカレンダーの間には、壁掛け時計を一つ。アンドロイドが再生させた美術展の絵画(無断拝借)を幾つか飾り終え、イデア9942は満足そうに頷いた。正直、本人も迷走しかけている。

 

 配置を変え、ほんの幾つか物を追加した程度だが、11Bが選んだ物や配置の面影は残している。それに気づかないわけがなく、表情の伺えないイデア9942の顔を、11Bは恥ずかしそうに見上げていた。

 

「全く、もう……イデア9942はもう、何!?」

「むしろ君がどうした。変なところでキレるな」

 

 この場における11Bの気持ちなど手に取るように分かる。

 その上で、イデア9942は彼女をあしらって見せた。

 

「ともかく、これでパスカルに見せられる程度にはなッたか」

「そうだねぇ」

「と言いつつ座るのか」

 

 椅子のスプリングを軋ませながら、推定150kgオーバーのアンドロイドが椅子に腰掛けた。そんな彼女と向き合うように、腰掛けたイデア9942は、帽子の影から視線を向け、じぃっと11Bを見つめ始める。11Bも、無言でイデア9942を見つめ返す。先に根負けしたのは、言うまでもなく11Bだ。

 

「よし、行くぞ」

「りょーかい」

 

 応接室を出たイデア9942は、立てかけた斧を手に取り、ホルダーに通す。同じく三式戦術刀を腰掛けのホルダーに仕舞った11Bは、イデア9942の後に続く。

 工房の作業台、その横のモニターには、以前の工房と同じく廃墟都市の3Dマップが表示されている。以前と違うのは、マップの中で5つの小さな青い光点が存在することだろうか。2つの点は常に一緒に行動しているようだが。

 

「時期としてはこのあたりが妥当だッたか」

 

 何かに納得したように、イデア9942は頷いた。

 モニターの電源を落とし、作業台のランプの火を消す。

 戸締まりはこれで終わりだ。

 

「何か見つけたの?」

「それを確認するために行くんだ」

「わかった。それじゃ行こっか」

 

 イデア9942が謎めいた言い回しをするのは今に始まったことではない。最近は特にその傾向が強くなっているが、彼とともに行先で、その驚きを悪い意味で受け取ったことはなかった。だから、楽しみだ。彼とともに外の世界に繰り出す事は、作戦行動時に地上へ降り立つときとまるで違う。

 自身で厚い殻を打ち破り、天へと伸びる植物のように。地下から繰り出す探索は、己の光を広げてくれるのだ。

 

 11Bの嬉々とした気持ちを表すように軽い足取りを見つつ、追い越しすぎて迷子になるなと幼子にかけるような注意を促したイデア9942。彼らは、青い光点―――ヨルハ部隊――の2Bたちが移動する場所から少し迂回しつつ、この廃墟都市の地図を書き換えた原因である「エンゲルス」の元に向かっていた。

 

 アンドロイドをただただ破壊するためだけに作られた兵器、エンゲルス。それ自体が巨大な機械生命体でありながら、他の機械生命体たちによって戦争で自分たちの平穏を脅かすアンドロイドを排すために、機械生命体自身の手で作られたという歴史がある。

 その中でも110-Bという個体が、攻撃機能および歩行ユニットを失い、生きる目的もなくなり「暇」という時間を手に入れていた。そんな存在が、今回のイデア9942の目的である。

 

「これが、君の第243次降下作戦に破壊を指定されていた巨大兵器、エンゲルスだ」

「大きい……本当に、2Bたちはこれを撃破したんだね」

 

 巨大な機械生命体なだけあって、それはすぐに見つかった。なにより目を引くのは巨大さだろう。砲身にも変形する巨大な顔パーツだけでアンドロイドの身長並みにあるのだが、本体は巨大なガス施設にも匹敵する。

 真に恐ろしいのはここからだ。そこから自分の身長以上に跳躍できる歩行ユニットと、並みの攻撃を物ともしない自分の装甲すら圧倒的質量と暴力で断ち切る腕部攻撃ユニット。そして耐久力や妨害措置をものともせず超長距離からロックオン、予兆から1秒程度で着弾する超熱量光線。

 万が一体に搭乗された場合、迎撃用の小型機械生命体を大量に搭載して数の暴力でねじ伏せ、近寄る木っ端な飛行ユニットなどは絶えず撒き散らすエネルギー球に巻き込まれて勝手に自壊していくだろう。

 

 兵器という観点で見れば、これほど恐ろしいものもあるまい。だが、それを撃破することが可能なヨルハ部隊は何故「最終決戦兵器」と呼ばれているのか。その理由を裏付ける強さを証明するかのように、このエンゲルス110-Bはただただ、沈黙して廃墟都市のオブジェクトの一つと成り果てていた。

 

「ん……あれか」

「待ってよイデア9942。あれって」

 

 その時だった。エンゲルスの上部に見えるスペース。そこで真っ黒な重装備と、幾つもの近接武器の穂先がちらりと見えた。エンゲルスの装甲に紛れるように揺れたのは、赤色の髪。

 

 口は無いが、両目の間の下あたりで指を一本、縦に当てる仕草をしたイデア9942。この仕草の意味は、静かにしろ。11Bは出かけた叫びを両手で押さえ込み、胸元に右手を置いて頷いた。

 

 エンゲルスの胴体部は、トイレットペーパーの芯のように斜めに螺旋を描く階段とハシゴが幾つかの階層に分かれて設置されている。戦闘の余波で破損している場所もあったが、そこは戦闘用アンドロイドと駆動系を改造した機械生命体。なるべく音を立てないようにしながら、少しずつエンゲルスの屋上に近づいていった。

 

「ここの上か。11B、これを耳に」

「わかった」

 

 指向性のある集音器と、それに繋がったイヤホンだ。

 集音器を向ける対象は、この梯子一つ登った先にいるアンドロイドたち―――ヨルハ部隊だ。

 

 顔を近づける二人。分け合ったイヤホンがY字に別れ、上の人物たちの会話を拾い始めた。

 

『22B、ポッドは破棄したな?』

『は、はい。64B。後は隊長と合流して作戦を整えましょう』

『おうよ。……隊長、64Bだ。予定通り廃墟都市、巨大機械生命体の上で22Bと落ち合った。今からそっちに向かうぜ』

 

 22B、64B。

 どちらも11Bには聞き覚えのない、あまり縁の無いヨルハ機体だ。

 どっちにしても、何故イデア9942がこの場に連れてきたのか。その理由が11Bには理解できた。このまま行けば、いつもどおりの行動をイデア9942は取るだろう。そしてその先に待つのは――戦闘。

 

 戦闘ともなれば11Bの出番である。専用のチューンナップ、豊富に取り揃えたプラグインチップ、コストを気にせず、拾った最高峰の素材から作り出したパーツ。それらに少しずつ置き換えていった結果、11Bはこの数日で圧倒的な戦闘スペックを獲得していた。

 未だに強化されすぎた体に振り回されていると言うのが、現状ではあるが。

 

『隊長からだ。移動せず周囲を警戒しながら待機、すぐに向かうってよ』

『とすると、しばらくは追手が来る可能性も』

『なぁに、隊長にしごかれたオレと22Bなら大丈夫だって』

『そ、そうですよね! 大丈夫、私たちは大丈夫……』

 

 そこまで聞いて、イデア9942はイヤホンを外した。

 

「行くんだね」

「ああ。だが、今回は少し厳しいかもしれない」

 

 なんせ、今回の相手は脱走してポッドも居ないとは言えヨルハ部隊。

 イデア9942は「直接戦闘」にはそこまで秀でているわけではない。

 

「ワタシたちなら大丈夫だよ。そうでしょ?」

 

 だが、これまでで11Bは知っている。

 イデア9942がどれほど「戦闘補助」に長けているかを。

 浮かべた笑みは好戦的で、自分たちの敗北を欠片も信じていないものだった。

 

「はッ、死に体の君を見つけたときはどうなるかと思ッたが、頼もしいな」

 

 イデア9942は斧に手を掛け、ホルダーから抜き取った。

 目の前をハシゴを手につかむと、そのまま一息に屋上に降り立つ。

 鈍い金属音がエンゲルスの屋上に木霊する。

 

「機械生命体だ! 構えろ22B!」

 

 当然、そんな目立つ行動をしたからには64Bに発見される。

 

「でも、あの帽子とマフラーは何なんでしょうか?」

「バカッ! そんなこと気にしてられっかよ!」

「……」

 

 斧の穂先を地面につけたまま、イデア9942は片手で帽子を抑えていた。

 彼はおもむろに帽子から手を離し、天に指を向ける。

 

「な、なんだ?」

 

 突き上げていた右腕を少しだけおろし、顔の前に天を指差したままの手を移動させる。そのまま指は横倒しになり、22Bと64Bに向けられる。傾いた帽子の下から覗く、緑色の片目から眼光が輝いた。

 

「か、かっこいいじゃねえか……」

「64B!? 何言ってるの!」

「っと、機械生命体のやることに意味なんか無いんだった。行くぜ22B」

「もう、しっかりしてください!」

 

 武器を構えて飛びかかる22B。頭部を狙う一撃をイデア9942は咄嗟に振り上げた斧で防ぎ、超高速で処理された演算結果に従い、接触の瞬間斧を傾ける。力の方向性が決定され、突き出したはずの刀は斜めにズレ落ちイデア9942の足元に切れ跡を残した。

 

 ただし、ただ一撃を防いだだけだ。ポッドが居なくとも使用できるのか、制御システムで握られていないはずの武器が空を滑るようにイデア9942に殺到する。一撃の後、波濤が襲いかかるような連続攻撃。イデア9942では、それを防ぐ事はできない。

 

 イデア9942では。

 

「っ!? ……ヨルハの機体、だと!?」

「そんな、ヨルハが機械生命体をかばうなんて…」

 

 返答の代わりに、22Bの膂力を遥かに超えた力で刃が振るわれる。ただただ、切り刻むだけに調整された旧式の戦術刀。しかし、シンプルで圧倒的な力を持つそれは姿勢制御システムで突っ込んでくるだけの刀剣類を一刀のもとに弾き飛ばした。

 

「ッんだとォ!?」

「落ち着いてください64B。援護します!」

 

 避けられぬ戦闘だ。他ならぬイデア9942が望み、危険を承知でこのまま「対話」に持っていくつもりなのだろう。そして、持ち前の話術で武装解除に至らせる。

 

 それを分かっていても、11Bは押さえ込むなんてできなかった。

 その胸に抱く衝動を。自分の大事な領域を穢すような行為を。

 

「ワタシの」

 

 思いは叫びとなって、空気を震わせるのだ。

 

「ワタシの居場所に、手を出したなぁ!!!」

 

 かの16Dを病ませるに至った、鬼の側面を現出させる。

 圧倒的な猛威を胸に。11Bが、参戦する。

 




ふと読み返したらまともな戦闘描写無かった。
本当はいつもどおりのイデア9942が持つ人間性(砕いたら生身になりそうな感じのあれ)で心理フェイズ(スタンバイフェイズとバトルフェイズの間くらいによく挟まるあれ)を展開する予定でした。

でも、かの有名なPtゲームスの作品が原作でしょ?
たとえ描写がクッソ下手でも戦闘そろそろぶっこもうかなって思いました まる

※今更ですが、まえがきとあとがきで気分害される方居たらすいません
 第一話のあとがきにこのノリが続くということ加筆しておきます

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