イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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一体いつからイデア9942が廃墟都市と森方面にしか行ってないと錯覚していた?

あと私が考えてるヨルハの呼び名なんですが、多分読み方はこう
(B型で例)
1B~10B ワンビー~テンビー
11B・12B イレブンビー・トゥエルブビー
13B~19B サーティーンビー~ナインティーンビー
20B以降キリ番 トゥエンティビー~
21B~99B トゥーワンビー~ナインナインビー?
101以降 ワンオーワンビー

例2・初版パッケージ付属新聞の登場機体より
65E シックスファイブイー
128B ワントゥーエイトビー


※作者は戦闘描写クッソ下手です。
あと正直に言うと迷走してきました


文書12.document

 11Bは獣のように吠えた。

 飛びかかり、手に掴んだ刀を叩きつけるように64Bに振り下ろす。

 火花が散り、64Bの短い金髪の上で弾けていった。所詮は同じヨルハ、そう高をくくっていた64Bだったが、11Bはチューニング程度で済まない改造をされている。

 よって、結果は――

 

「ぐっ…!? ぅぉお…重い…!?」

「だぁああああああああああ!」

 

 前述の通り、22Bと64Bは常に重装備型のスーツと、近接武器を3種以上身につけた近接特化型である。それ故、インファイトの距離での近接戦闘なら負けるつもりなど無く、自らその領域に入ってきた11Bをほくそ笑むように武器を構えたのだが、11Bから繰り出された一撃は、64Bたちの演算予想を遥かに超えていた。

 鍔迫り合いに持ち込むかと思われた接触も、ほんの一瞬しかもたない。両手に握ったヨルハ正式鋼刀が弾き飛ばされ、無防備になった体に重たいヤクザキックが叩き込まれた。

 

「ゴぉッほ……トゥ、22B! 何してんだ!」

 

 いくら2対2と数の上では同列とはいえ、そのうち一体はあくまで機械生命体。ほんの一瞬で破壊したであろう22Bと共に、64Bは二人がかりでこのわけの分からないヨルハ部隊らしきアンドロイドを押さえ込むつもりだった。

 だが、彼女は次に聞こえてきた言葉に耳を疑うことになる。

 

「待ってください64B……こいつに、攻撃が当てられないんです!」

「はぁっ!? っづ、おわぁ!!?」

 

 赤毛の相方22Bの言葉に驚愕しつつも、横薙ぎに振られた三式戦術刀を咄嗟にジャンプして回避する64B。そのまま右足を軸に振り返り、ターンしたまま振るわれた11Bの二撃目を、四〇式斬機刀で何とか受け止めた。だが、先程のように受け止めきれなかった衝撃が通り、64Bの体ごと後退させられる。

 歯ぎしりしてなんとか踏みとどまるも、膂力では圧倒的に負けているのは明白であった。

 

「チクショウ! これならどうだ!!」

 

 奥の手と言わんばかりに距離を取り、再び64Bが躍りかかる。

 

 制御システムで遠隔操作する大剣と小剣の、左右から飛来する一撃。そして気を取られた相手を正面から、両手に握ったヨルハ正式鋼刀で叩き切る。その全てを捌き切ることはできず、判断を迷った相手も血祭りにあげてきた64Bの必殺の技だった。

 

「ヌルいよ! この程度!」

 

 だが苦し紛れに出した必殺も、11Bの前では単なる飛来する障害物程度でしかない。同時に襲いかかってしまったが故に、横薙ぎの一刀で武器諸共吹き飛ばされた64Bは、エンゲルスの屋上を転がり、その体を強かに打ち付けられた。

 かはっ、と吐き出された音にはノイズが混じっている。同時に、血液によく似た液体が口から吐き出され、激しい嘔吐感に苛まれながらも激痛にのたうつことになった。

 

 イデア9942を襲っている22Bも、とてもではないが正常な戦闘が出来ているとは程遠い現状に、いらだちと焦りを感じていた。

 

「この……どうして、当てられない!?」

「ポッドを連れていない、それだけでも十分失策だな」

 

 イデア9942という機械生命体が流暢に喋ること。それに驚愕を示す暇すら無い、わけの分からない事態が22Bを襲っている。なんせ、イデア9942めがけて振るった刀は尽く彼の隣や足元の地面に吸い込まれていく。22Bにとっては生きるか死ぬかの戦闘行為。ふざけているわけではない。勝手に体がイデア9942を切ることを拒否しているのである。

 もちろん、それはイデア9942の仕業であるが。

 

「どうした、体が思うように動かないか?」

「まさかあなたが…」

「一対一で助かッた。実は多数を相手にするほうが弱いんだ」

 

 イデア9942がそう言って、勝手に足から崩れ落ちた22Bに近づいた。

 ハッキング完了。現時点で彼女の脳回路から行き渡る電気信号は全て、イデア9942の手中にある。とはいえ、それ以上何をするでもないが。

 

「イデア9942! 大丈夫!?」

「傷一つ無いとも、それより、破壊していないだろうな。11B」

 

 イデア9942の問いに、彼女は視線を流して誤魔化した。

 視線の先を辿れば、関節部分からスパークを散らしながら起き上がろうとし、力が入り切らずに崩れ落ちる64Bの姿が見える。倒れ込んだ時に舞い散った砂塵が、重装備の黒いスーツを少しだけ白く染め上げた。

 

「やりすぎだな」

「ご、ごめん」

「止血ジェルくらいは持ってきたが……仕方ない、少しハッキングして直すか」

 

 イデア9942が手をかざした瞬間、64Bの義体に出ていたERRORが解消され運動機能が回復していく。とはいえ、物理的に破壊された部位に関してはどうしようもない。イデア9942は64Bを担ぎ上げると、ところどころ人工皮膚が禿げ、意識を失った彼女を22Bの隣に下ろした。

 

「なんで……殺さないんですか…!」

 

 心底憎々しげな様子で、口元を歪めて叫ぶ22B。

 だがイデア9942の返しは淡々としたもので、

 

「殺す理由がない。まァ、無力化までの不手際はあッたが」

 

 やり過ぎの自覚はあるのだろう。バツの悪い顔を背ける11Bを無視し、イデア9942は、手元から幾つかのプラグインチップとパーツを22Bの手に握らせる。回復系の最上級プラグインチップ、そして修復補助の治療用ナノマシンが大量に含まれた、ヨルハ部隊で採用されている回復薬だった。ナノマシンの含有量によって効果と金額が異なっているらしいが、イデア9942が持ってきたのは低コストのものだった。

 

「君たちの命が、今後も輝かんことを祈ッて……む」

「ぅ…? 22B……現状は、どうなった?」

 

 システムを修復したおかげか、64Bはすぐさま意識を取り戻したらしい。

 そしてイデア9942を見つけると、全身に力を入れて立ち上がろうとするが、体に動作信号が送られていない事に気がつく。ハッと口を開き、すぐさまイデア9942を見上げるが、首から下は思うように動けない。

 

「安心しろ、直に動けるようになる」

「ワタシのイデア9942を襲ったんだ、そのまま壊れてもかまわないけどね」

 

 冷たく吐き捨てる彼女に対し、イデア9942は右手で顔を覆いながら首を振る。

 

「11B…まァ、こいつの言うことは気にするな。そして君たちの隊長8Bに伝えてほしい。今すぐ廃墟都市を離れ、水没都市から遠い場所に避難しろ、と」

「な、なんで隊長のことまで知ってやがんだ!?」

 

 64Bからしてみれば、この脱出計画を立てた8Bの存在は秘するものである。だが、ここにいるのがあたり前、その3人で行っていたのが当たり前、というように彼女らの動向を口にする機械生命体は、64Bの焦りなど知ったものかと続けていく。

 

「追手が来たとしても絶対に戦うな、特に2Bと9Sというヨルハ部隊には接触しないほうが良い。君たちでは今の戦闘の……二の舞いだろうからな」

 

 単騎でエンゲルスを撃破するという恐ろしく高い、純粋な戦闘能力を持つ2B。そして強固かつ複雑怪奇であるはずの機械生命体たちへのハッキングを負傷状態ですら完遂し、あまつさえは武器制御システムを丸ごと奪い取る処理能力を持つ9S。

 更に強大な敵を打ち倒していくコンビの戦闘経験は、並みのヨルハを上回っているのは確かだ。

 

「待てよ……クソッ!」

 

 イデア9942も見逃されていなければ、いかなる手段を用いろうとも隙を付け込まれて破壊されていただろうと言う、結果の変わらないシミュレーション結果を算出していたがゆえのセリフでもあった。

 

 そして彼らの戦闘方法を模倣し、11Bを2B、自分を9Sに置き換えた仮想戦闘を行ってみたが、22Bたちはそれに為す術もなく敗北している。このままでは、歴史の通りに破壊され、9Sには疑念、2Bには精神の苦しみを与えるばかりだろうと判断した。

 

「最後に、どうしても物資が足りないときは平和主義者の機械生命体、パスカルの村を頼れ。イデア9942という名前を出し、レジスタンスキャンプのアネモネに言えば教えてくれるだろう」

「平和主義…機械生命体が…? あなたは、何なのですか…?」

「せいぜいあがき、長生きしてくれ。行くぞ11B」

 

 斧を担ぎ直し、エンゲルスの上から離脱するイデア9942の後を、すぐさま11Bが追っていく。誰も居なくなった静寂の中、64Bはチクショウと小さくつぶやいた。

 

「見逃された上に、完敗かよ……」

「64B。どちらにせよ、包み隠さず隊長に伝えましょう。私達が脱走していたことも知っていたみたいですし、怪しいですが……どこか、信じても良いような気がするんです。いえ、信じなければならないような」

「あたしもおんなじだ。クソッ、なんだよこの感覚は……」

 

 数分後、後遺症もなく自由に動けるようになった22Bと64Bは、急ぎ隊長である8Bに全てを告げ、廃墟都市から姿を消した。以降、その姿が発見されるという報告がバンカーに届くことはなく、彼女らのモデルは永久欠番としてバンカーに記録されるようになるのであった。

 

 

 

 そうした記録がバンカーに打ち込まれる数時間前、2Bと9Sは、ヨルハ部隊の裏切り者であり、アンドロイド達から物資を奪っていたという情報を得て、彼女らを捕縛するよう命令を受けていた。

 だが、廃墟都市をいくら探しても見つけることはできず、唯一見つけたのがエンゲルスの上にあった一つの遺品。

 

「残ったのは、これだけか」

「所有者の情報が消えちゃってますね……今なら上書きも容易そうですし、僕達がもらっちゃいましょうか」

「そうだね。この槍は9S、あなたが使って」

 

 見つけたのは、64Bがハッキングの後遺症で起動できずに落としていった四〇式戦術槍のみ。時折、9Sの黒の誓約に代わり振るわれる槍は、数多の機械生命体を貫くことに貢献したそうである。

 結局、9Sが疑惑を持つような事態は発生しなかった。代わりに、イデア9942とは違って恒常的に機会があるという理由から、再度パスカルの情報収集を命じられた2Bたちは、今度こそ森の国に向かうことになる。

 結局、最後まで表舞台に現れなかった脱走兵であるヨルハ部隊たちの事は、バンカーの間ではロストという扱いにもなっていた。2Bたちが拾った64Bの戦術槍から、分析の結果ブラックボックス信号が一度完全に停止しているという情報が得られたという理由もある。(もちろん、これはイデア9942が意図的に武器の記憶領域に残した誤認情報だ)

 

 それから数日後、一人だけ赤髪が混じった3人のヨルハ部隊がパスカルの村に現れたというが……これは、余談だろう。

 

 

 

 

「11B」

「はい……」

「反省点は、分かッているな?」

 

 イデア9942の問いに、項垂れながら11Bは口を開く。

 

「ぎ、義体の性能を考慮せず64Bを半壊に追い込みました。ワタシも、ちょっと無理して関節パーツが壊れてます…」

「そうだな、あれだけ感情的に飛びかかればそうなる。他は?」

「反応速度も反応自体も過敏で、力が入り過ぎたのと……」

「以前使用した伝達神経よりも上質の物を使用したからだな。もう一つは?」

 

 もはや泣き出しそうなほどに顔を歪め、11Bはイデア9942に頭を下げた。

 

「か、勝手に動いてごめんなさい!!」

 

 64Bの不意を打ったつもりであろう最初の一撃。本当なら、あれもイデア9942に当たるはずのなかった攻撃だ。64Bに施していたのと同じ、アンドロイドに意識させない程度にハッキングで命令信号に割り込み、僅かに攻撃の軌道を逸らさせる。一対一なら、システム面がポッドによるサポートを受けた9Sをも上回るレベルに自己進化した、イデア9942ならではの芸当であった。

 

「前から考えていたが、君は安心できる居場所に依存するタイプか」

「えーっと……そ、そうみたい」

 

 彼から発せられるノイズ混じりのため息が、11Bの耳に届いた。

 

 見透かされていた、と胸のあたりが締め付けられるような感覚が襲ってくる。同時に、頭の何処かで自分のことを理解してくれているんだという喜びが、激しく自己主張しているのも感じられる。

 本当ならここでしっかりと反省するのがイデア9942のためだ。だが、11Bは口元が嬉しさでニヤケてくるのを抑えられなかった。彼もそれを見逃すはずがない。

 

「まァ、君には自由と安心を与えている。本当ならいつでも工房を去れたはずだが、残ッているのがその証拠、か。尤も、今日は収穫もあッた。次からは気をつけるように」

「はーい」

 

 思い返しても、イデア9942たちに負ける要素はなかった。

 2Bと9Sコンビの再現という(てい)で22Bたちに立ちふさがり、自分の中の人間を込めた言葉を送ることで新たなる命の可能性を掴ませる……というのが今回の接触の目的だ。だが、思ったよりもあっけなさすぎる程に、シミュレーション通りの結果になった。

 

 機械生命体を殲滅するために作られた戦闘集団ヨルハ部隊は、機密情報維持と情報戦への対抗のため、高度なセキュリティが付けられている。だがそれらが作動するのはポッドという随行支援ユニットがあってこそ。

 スキャナーモデルではなく、バトラーモデルしか居なかったというのも、彼女らの今日の敗北にそのまま反映されているだろう。ポッドが居たところで、動きの鈍った脆いアンドロイドなぞ小型の機械生命体でも容易に倒せるだろうが。

 

「しかし、離反の理由は命令の矛盾を解明するため、か。8Bに同調したと言うが、隊長格ともなると不可解な指令を幾つも受けていたのかもしれんな」

「命令の矛盾…?」

「11B、君も行かされた第243次降下作戦のようなものだ」

 

 それに限らず、イデア9942の知識にあるヨルハ部隊の雛形となった初期タイプが投入された大規模作戦。それも同じようなものである。

 

「アレの真の目的はヨルハ部隊でも不穏な動きをする輩の口封じと、本当に撃破される機体(ダミー)が入り交じる事で、激戦区だッたと偽装するためだ。額面通りの作戦が成功する確率は、それこそ奇跡的か、最悪成功しなくてもよかッたんだろう。2Bと9Sは見事にその僅かな可能性を掴み取ったという訳だが」

 

 脱走計画をもくろんでいた11B。2Bに何か意を決したように話しかけ、自ら破壊されにいった4B。これにダミーとして巻き込まれたのは、1D・7E・12Hの三名と言ったところだろうか。ちなみに2Bは、全く別の目的を兼ねた作戦参加である。

 11Bはともかくとして、記憶を改ざんされ、再生させられて再び使役されるのがヨルハの恐ろしい所。死してなお使い潰される人形……その行く末を語るかのようだろうか。

 

「可能性がほんの僅かではあるが、成功すれば敵に大打撃を与えられる。聞こえは良いが、そのために数の限られたヨルハ部隊を投下し、超長距離砲撃時にまともなオペレートも入らないというのはおかしいと思わないか」

 

 ヨルハ部隊のオペレーターモデルは優秀だ。一度でも未知の攻撃を受けようものなら、現時点でできる最速の解析結果を伝え、強力な敵を撃破するための一助とするだろう。だが、あのエンゲルスが放つ超長距離砲撃の「予兆」に関してオペレーターモデルが反応できないわけがない。

 

「つまりは、そういうことだ」

「……そっか。でも、今はイデア9942。あなたがいる。だから大丈夫だよ」

「………全く、何度言うつもりだ」

 

 左手で帽子を抑え、首を振りながらイデア9942は11Bに近寄った。

 右手で彼女を抱き寄せ、背中を擦ってやる。たった一滴だけ、流れた涙が筋となって顎に垂れ、イデア9942の装甲板を濡らす。彼女は、安心したように腕の中に収まり、イデア9942の静かな駆動するパーツの音を感じた。

 

「さァて」

 

 抱き寄せていた11Bから離れたイデア9942は、歩き始める。

 その後を、当然のように彼女がついていく。

 

「少し忙しくなるぞ。次は、森の国だ」

「森の国……?」

 

 足を止めてはいられない。

 イデア9942が望む未来への、布石のために。

 




事あるごとにこんなことしてるから依存するんやでイデア9942くん。
なお本人は原因について微妙に気づけていない模様

皆ヤンデレ好きすぎるのが可笑しくて論理ウィルス増えた。と言うかなぜこうなった。単にパートナーとして書いてたつもりだったのに…

あと、最近わりとイデア9942がキャラ崩壊起こしてるかもしれない。

この後、裏切りのヨルハを助けた彼はどうするつもりなのだろうか。
作者にも分からない……プロットがないから……

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