イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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正直な話し、プロット作ってません


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「見れば分かるよ」

 

 抜刀、周辺を囲うように現れた機械生命体へ駆け出した。白色の鋭い刃は堅牢な装甲に突き刺さり、戦闘専用アンドロイド故の膂力で無理矢理に刃が走らされていく。薄暗く、照明も少ない部屋で火花が7回ほど散った直後、爆発が起こり施設内には静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

「始まッたか」

 

 かつて産まれた工場廃墟の一角に、朱色の回転するノコギリのようなものが突っ込んだ。なんどか出し入れする度に、ノコの掘削部分が無くなっていく。自分なら最初の一撃でほとんどバラバラになるだろうなと感想をいだきつつ、大爆発を起こしてレールを伝って撤退する巨大回転ノコを見つめていると、小さな黒い、尖った飛行物体が大穴の空いた部屋に近づいていく様子が見えた。

 

 ヨルハ部隊の2B、そして9Sが()()()出会った瞬間だ。

 飛行して施設の空洞へ入っていった飛行ユニットin9Sを見届けたイデア9942は、廃材の間に引っ掛けてぶら下がる棒にしていた斧を取り外し、観察していた場所から移動する。

 

 移動する途中、彼らの目的地――機械生命体の超大型兵器「エンゲルス」が静かに眠る湾岸部。その場所が見える位置に来た。工場の外周を伝っていけば、内部を通るよりも圧倒的にはやくそこに辿り着けるだろうに。まぁ、彼らはここにエンゲルスがいると知らないのだから仕方はないのだが。

 どうやら、まだ2Bたちはたどり着いていないようで、この工場廃墟とは別の場所に続く海上の道路も破壊されていない。鳥たちはのんきに木のみをつついているし、平和そのものだ。

 

 しかしイデア9942の向かう場所は、残念ながらそこではなかった。

 9Sも2Bも、この場所から居なくなった以上戻ってくることもない。プレイヤーが操作しているならともかく、彼らは随行していた部隊員の全てを失った決死の作戦の途中だ。作戦目標がそこにない、とわかっている以上再び戻るような無駄な真似はしないだろう。

 

 それを何よりもわかっている人物は、「十時間後」に現れる。

 イデア9942はそれを知っていた。人間なら、そう簡単に細かい数字も覚えようが無いはずだが、機械生命体としてこの世界に産まれたことで、かつて持っていた記憶の映像は記録としていつでも閲覧、保存できるというのは以前にも話しただろう。それ故に、これから起こる「出来事」に関してはいくらか正確に対面することができる。

 

 2Bが一番最初に侵入し、回転ノコの襲撃を受けた施設の一角。

 イデア9942は破壊された壁の残骸の影に隠れながら、超巨大な機械生命体「エンゲルス」が真の姿を現し、沿岸部へと大ジャンプをする様子を見ていた。

 

 カメラアイが駆動し、ズームされた映像をイデア9942の記憶回路に保存していく。2Bはその小さな体躯でありながら、ポッドの攻撃や殴りかかってくる隙をついて確実にエンゲルスの装甲を切り裂き、彫刻の像を彫るように相手を打ち砕いていくところだった。

 その後は、9Sがエンゲルスを強襲し、共に協力しながら戦い、9Sが戦闘不能に追い込まれる。戦いが続いていき、エンゲルスがハッキングされた自分の腕で破壊される。

 

 直後、複数体のエンゲルスが出現。

 追い込まれたかのように見えた2Bと9Sは、己のブラックボックスを触れ合わせ、周囲数百メートルを埋め尽くす破壊の球体が発生した。

 その凄まじさたるや、かなり離れているはずのイデア9942が潜む瓦礫をも巻き上げる衝撃波を発生させるほど。爆風とともに揺れた施設は、崩壊していた場所の金属板が更に剥がれ落ちて落下し、数秒後にけたたましい金属音を地面から鳴り響かせた。

 

「終わッたか。無事に任務達成とは皮肉だな、2Bさん」

 

 ゲームでいう一番最初のチャプターが終了したところで、ここからはイデア9942の物語が始まる。

 

 

 少し経った頃、イデア9942の体内時計は、遠目で見ていた2Bに随行するヨルハ部隊の降下メンバーが撃墜されてからそろそろ2時間が経過しようとしていた。機械故に、呼吸すら必要とせずにアイライトを消して壁にもたれかかるイデア9942の姿は、どこからどう見ても撃破されて動かない機械生命体の残骸だろう。

 元々は2Bが蹴飛ばしたものがあったのだが、ソレに関してはキレイな状態だったので既に工房へと運搬への手はずを整え、リアカーに乗っている。

 

 まぁ、重要な情報はそれではない。

 

 時間が経過し、イデア9942の体内時計は計測から40時間が経過しようとしていた。

 

―――間違ッていたのか?

 

 イデア9942は、およそ30時間前後でここにある人物が現れることを知っていた。そのため「ある人物の死体」があったこの場所を張っていたのだが、結局のところイデア9942が待つ人物は大筋からは退場済みの存在だ。詳しく語られることも無ければ、仔細が描かれたこともない。

 

「ぐ……うぅ…」

 

 持っている情報を宛にしすぎるのも失敗か、と一つの計画を諦めて体を再起動しようとしたところで、何かを引きずる音と、うめき声が聞こえてきた。

 あの特徴的な黒い衣装も剥げ落ち、焼かれたのか、衣服と人工皮膚が一体化した部位も見受けられる。損傷し、攻撃によって外皮すら吹き飛んだアンドロイドの死体一歩手前といったところだろうか。

 

 だが、分かる。特徴的な銀髪と、戦闘用に支給され製造される鋼刀(今は杖代わりになっているが)。そして目元を覆う布切れのような戦闘用ゴーグル。間違いなく、ヨルハ部隊の一員だった。

 

 彼女は周囲に散らばる機械生命体の残骸と、今にも動き出しそうな(実際には動ける)イデア9942の停止した姿を見てホッと息をつくと、瓦礫にもたれかかるようにゆっくりと座り、武器を地面に突き立てた。

 

「……ぁ…さむ、い……うぃるす……こわい……」

 

 自分の身を抱き込み、震える声で怯えた声を出す彼女。識別番号は、11B。人格データ11番の、B型としてヨルハ部隊のメンバーを勤めていたアンドロイド。

 

 目的通りの人物が来た。イデア9942はスリープを解除し、すぐさま立ち上がった。

 

「ひ……ぃぃ…」

 

 死んでいると思った機械生命体が再起動する。ウイルスで全ての機能が侵されつつある彼女は、しかし自死よりも機械生命体の手で殺されるという目前に迫った恐怖を、視覚情報から昇華させて絶望に変えた。

 機械生命体、イデア9942は無言で動くことすらままならない彼女を見下ろす。

 

 はっ、はっ、はっ……

 

 息も絶え絶えに怯えた瞳で見つめる11Bを気にせず、イデア9942は斧を持っていない左手を彼女に掲げる。閃光が、11Bの視界を覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

『再起動まで40秒。セットアップウィザード開始します』

 

 ヨルハ部隊間の通信を削除、随行支援ユニットのポッドに代わり、随行支援システムの接続先をこちらに変更。

 

『再起動まで5秒。…3…2…1…11B起動』

「ぐ…ぁ……」

 

 二度と目覚めることは無い。意識が落ちる間際、そう思っていた。

 だけどここは何処だろう。ヨルハ部隊から逃げ出したワタシは、ウイルスに侵されシステムの全てが破壊され、壊死するはずだった。捜索隊でも派遣されて、回収されたのだろうか。すると、脱出計画が知られているはず。ワタシは、結局……?

 

「……なに、ここ」

「やッと目が覚めたのか。暴れると厄介だから、体は拘束させてもらッてるが我慢してほしい」

「!?」

 

 声のほうを振り向こうとしたが、体は強化ファイバーケーブルで縛られていて動かすこともできなかった。むしろ動こうとするほどケーブルが強く締め付けてきて痛みを与えてくる。肌には赤く痕が残るだけで、力を入れても拘束から抜け出すことが出来ない。

 

「落ち着いてほしい、縛ッてはいるけど、敵じャァないんだ」

「……何者、なの」

「きッと見たら、驚くと思う。だからまだ姿は見せられない」

 

 背後でカツカツと歩く音が聞こえてきて、ソレに合わせて私を拘束している台座が回った。この声の主に常に背を向けるようにプログラムされているらしく、横から覗き込もうにも溝のようになったこの台座はワタシが前しか見れないようにしている。

 

「キミには論理ウイルスが蔓延っていたが、原理さえわかれば単純なものだからな。ウイルス抗体プログラムを注入した上で、義体ごと修繕させてもらったよ」

 

 言いようのない不安と、助かったという安堵が同時に襲ってくる。ヨルハ部隊にいたときはポッドや同僚に窘められ、抑えつけられた感情が目元に形となって出てきた。

 熱い。目が、熱い。体が熱い。抑えられない。こんな、初めての、なにが起こってるの。ワタシの体に、何が。

 

「ついでに、あからさまな感情の抑制も取ッ払ッたからね。しばらくは振り回されるだろうけど、この機会だ。存分に()を確かめて、泣いたら良い。何も聞かなかッたことにするから」

 

 ああ、ああ。

 声帯から勝手に発せられる痙攣と、嗚咽が吐き出される。

 

 ワタシはこの時初めて、声を出して泣いた。

 

 

 

 拘束台のやや上の方、設置されたカメラには咽び泣く11Bの無防備な姿が記録されていた。それを同タイミングでモニターに表示して確認するイデア9942は、アンドロイドも本当に泣ける物なのだなと感心する。

 ただの中型二足の機械生命体のカラダは、人間にくらべてありとあらゆるものが簡素になっている。泣くことも出来なければ瞬きすることも出来ず、そもそも口を持たないため口を開く事もできない。機械生命体は小型から大型に至るまで、外見に反して様々な機能を搭載したモジュールやシステムが散りばめられているが、そちらの方面に自己改造をしていないイデア9942は、かつて人間だった頃を思い出す。

 11Bを通して投写したかつてを懐かしみながら、しかし機械生命体と混じり合った人格はそれ以上は浸らずに作業を再開した。

 

 11Bの泣きわめく声を聞きながら、収集した機械生命体たちの残骸を解体し、今回の遠出で損傷した自分の予備パーツを作っていく。そうして作業を続けながらも、イデア9942は己の内からこみ上げてくる喜びを感じていた。

 喜び…そう、手放したと思っていた命を再び掴んだ11B。彼女の嗚咽に混じるありとあらゆる感情を訴えるような泣き声と、そこに秘められた命への喜び。それを至近距離で聞いていたイデア9942は、無上の喜びを噛み締めていた。

 

「さ、泣いたら次は情報交換でもしないか」

 

 誤魔化すようにイデア9942は11Bに語りかけた。

 ひっく、ひっくと未だに声に涙が残る彼女は、恩人の声に耳を傾ける。

 

「ヨルハ部隊から逃げ出したんだろう。知ッているよ」

「わ、ワタシは」

「いいんだ。その理由を聞こうというわけじャない。あそこはあまりにも偽物で溢れている。なにかしら、そのうちひとつでも真実を知れば、逃げ出したくもなる」

 

 この声の主も、元ヨルハ部隊員なんだろうか。論理ウイルスを除去したということは、スキャナーモデルだったのか。11Bの様々な疑問が頭によぎるが、彼は情報交換といった。この機会に、色々と聞いてみようと口を開く。

 

「アナタは……ヨルハ部隊にいたの?」

「いいや、更に言うならスキャナーモデルでも無いよ」

 

 11Bの質問には否定で返すイデア9942。

 それ以上は何も言わず、11Bは納得できないと言わんばかりに唸った。

 

「君が心を開いてくれたら、姿を見せるよ。それより、どうして君を助けたのかに興味はないか?」

「……ある、けど」

「よかッた。なら、まずはそこを説明するよ」

 

 イデア9942は作業の手を止め、隣に置いていたエンジニア系の本を閉じた。

 拘束台越しに11Bを見つめるように向き合う。少しばかり迷っていたようだが、意を決したようにイデア9942は胸の内を吐露する。

 

「正直、この体はあまり強くない。いざという時のために戦力が欲しかッた。だから戦闘のためだけに作られたヨルハ部隊……それもバトラータイプが必要だッたんだ」

「論理ウイルスを除去できる位なら、ワタシの自我データを消せばこんなことをしなくても、良かったんじゃ」

「いいや、話せる相手がいるのは大事だ。それに、命を続ける中で自分の思い通りにならない他者が居るのはとても、とても良いことだ」

「拘束して動けなくしておいて、思い通りにならない相手が欲しいだなんて。面白いことを言うのね」

 

 皮肉ったように言う11Bに、苦笑するイデア9942。

 尤も、響いてくる合成音声の声質の悪さが、苦笑を打ち消してただの雑音にしていたが。

 

「とにもかくにも、此方からの提案はこうだ。私を守り、戦ッてくれる存在になッてほしい。君のことは当然サポートするし、望むものなら出来うる限り実現する」

「……助けてもらった手前、よほどじゃない限り拒否する気はなかったけどそれでいいの? それじゃあ、アナタには損が多いと思うんだけど」

「いや……そちらは、命を見せてくれた。それだけでも、十分な報酬だ」

 

 命。その言葉が11Bの中に染み込んでいく。

 結局のところ、アンドロイドである11Bは、そこいらの植物や鳥にも劣るほど、命という定義が不鮮明だ。逃げ出した理由のうちにも含まれる命という言葉は、今の11Bに少しばかり実態を持った重さとして降り掛かっている。

 だがこの声の主は、命を見せてくれた、と言った。

 

 生きている。他者から認められた実感は、これまで言い聞かせていた自分への慰安の言葉よりもずっと暖かった。

 

「…わかった。アナタの契約を、飲む」

「ほんとうか!?」

「もちろん」

 

 だから、このいくつももらった恩を返せるものなら、返してあげようと言う気にもなる。声の主は、そうか、そうかァと嬉しそうに言葉を繰り返してる。そんなに、嬉しかったんだろうか。自然に口元に笑みが浮かんできた。

 

「なら、自己紹介をしよう。まだだッたからね」

「それもそっか。ワタシは11B。知っての通り、元ヨルハ部隊所属」

「11Bか。それでは、こちらも姿を見せるとしよう」

 

 イデア9942がボタンを押すと、ずっと背を向けていた拘束台が11Bとイデア9942を向かい合わせる。

 いったいどんな「アンドロイド」が自分を助けてくれたのかと、落ち着いた声から外見を予想していた11Bは、あまりにも予想を超えた情報が回路に飛び込んできたことに、今は戦闘用ゴーグルがなくなってしまったことで見えた、美しい青の両目を見開いた。

 

「イデア9942。それが、製造された時につけられた名前だ」

 

 最期になるかと思ったあの時の、ボロボロの斧を持った機械生命体が名乗ってきたのだから。

 








11Bの口調マジで悩む。
コンセプト的には少しだけ女の子っぽい2Bを元にしてるけど、私の文章力ガガガ

さて、イデア9942は何しようとしてるんだろうね。
プロット無いからね、作者にもわからないね。

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