イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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補足:当小説、今回に登場するヨルハ機体について

提案:内容のネタバレになるため、後書きに変更

了解、被験者たちが以下の文書記録を閲覧後、補足説明を行うものとする。


文書22.document

「まったくもー、なんで僕なんかがお世話係にされるのかなー」

 

 間の抜けたような喋り方で、トレイを持ってバンカーを移動するヨルハ機体がいた。全体的に白に近い髪色を持つヨルハのなかでも見かけない、黒い髪を持つスキャナーモデルの少年だった。

 どこか丸っこい声質だが、一度聞けば髪色と共に印象に残りやすい。より少年らしさと、どこか黒猫っぽさを感じられるヨルハの彼は、11Sと言う機体名を与えられている。

 

「さてさて、到着っと。皆見かけに騙されすぎだよね。もうあの子も随分狂っちゃってるっていうのにさー」

 

 そう、人格No.11番のスキャナーモデルという形ではあるが、我々がよく知る11Bとは違い性別は男性として製造されているのである。もっとも、素の自由さという点ではひどく似通っている辺り、人格が同一であると言われても納得できる箇所も見受けられる。

 

「16D? はいりますよー?」

 

 コンコンコーン、と16Dの個室に向かってノックをすること数回。

 だが、相手方の反応はない。

 いつものことだが、「はぁ」と11Sは息を吐き出した。

 

 同じ11番の人格だから、という点で11Bの代替になると思っているのだろうか。こういうところは、司令部の指示の雑さに異論を訴えざるを得ない。尤も訴えたところで、起訴が取り消され懲罰が与えられるのは目に見えているのだが。

 

「16Dさーん? 交換用の燃料ですよー? ちょっとー?」

 

 ガンガンガン、と丸めた拳でドアを叩く。

 ドアは微動だにせず、11S自身を拒否シているかのように閉められている。

 

「……どういうこと?」

 

 流石にこの状況に違和感を覚えたのだろう。

 燃料やら、16Dのための補給物資の乗ったトレイを置いた11Sは、ドアに向かって声を張り上げる。

 

「16D! ちょっと! いつも以上にふざけないでよねー! 怒られるのは僕なんだからさぁ!! 16D!!!」

 

 ドアを蹴破ろうにも、此処はヨルハの総本山であるバンカー。ヨルハ機体の部屋は、いざという時にはそのままシェルター代わりに使えるよう気密性の高く、分厚い防壁のドアで閉められている。ともなれば、スキャナーモデル程度の身体能力では蹴破れ無いのは必至だった。

 

「クソッ! 16D!」

「どうしたの?」

「ああ、君はB型か。実は――」

 

 そうなってしまえば、周りのヨルハが訝しげに11Sの行いを目撃する。

 仲間同士の助け合いは兵士である彼らにとって当たり前のこと。

 すぐさま駆け寄ってきた別のヨルハ機体に対し、彼は事の起こりを話しはじめた。

 

「ってことで、要観察対象の16Dから反応がないんだよー。それに僕くらいじゃあこのドアは蹴破ることなんて出来ないし、施設へのハッキングの権限も無いからどうにも出来なくてねー」

「要観察対象…数日前の彼女ね。待ってて、専属のオペレーターに連絡を入れてみるから」

「ありがとー! いやー、僕はあんまり地上に行かないし専属が居なくてさ、助かるよ」

 

 そのヨルハがオペレーターに事態を伝えると、どういうことだろうか。彼女は驚いたように口を開き、ギリッと噛みしめるような動作をする。線の細い顔が、醜く歪むほどの情報だったのだろうか。

 

「ど、どうし」

「16Dが脱走した!! 誰!? 彼女に飛行ユニットの権限を移譲したのは!」

「…はっ!?」

 

 どっひゃー、とおどけたように驚愕する11S。

 だが、彼はそんなリアクションも裏腹に、スキャナーモデルに相応しい速度で考えを整理し始めていた。

 

 呼びかけに応じなかったのは今日から。それ以前に、最後に彼女が部屋に居ることを確認できているのは、今から7時間前の監視システムが異常無しと告げた時点。だが、システム自体がエラーを起こしていたら?

 

 11Sは急ぎ、バンカーの監視システムにアクセスする。これに関しては、要観察対象16Dの部屋だけ、お目付け役としての権限を与えられているためアクセスが可能だったからだ。

 そして彼は、自分の予想が間違っていなかったことを確信する。

 

「やっぱりねー……偽装信号が出されてる。こんなのどこで覚えたんだろ」

 

 システムにはいじられた痕跡があった。確認できたのは、今から14時間前。つまり、彼女は先日補給物資を持ってきてから、すぐに作業に取り掛かり、まんまと逃げおおせていたのだろう。

 貴重な飛行ユニットを持ち出しても警報がならなかったというのは、此処と同じように何らかの方法で監視を偽装していたという事。

 

 現実空間に戻った11Sは、すぐさま司令官に通信を繋いだ。

 

「こちら11S。しれいかーん、応答求む」

「どうした11S、何かあったのか」

 

 司令官ですら、このことには気づいていないようだった。

 スキャナーモデルだからこそ抱く、ヨルハの杜撰な管理システムに歯痒い思いが募る。今は、そんなことに対して文句を言っている場合ではないが。

 

「司令官、脱走兵です。機体名は要観察対象だった16D。飛行ユニットを強奪し、地上へ向かった模様」

「何……だがアイツは人格矯正プログラムを受けたのでは」

 

 いや、とすぐさま思考を切り替える。

 どこまでも無能でばかりでは司令官は務まらない。ここのところ、彼女の精神に大打撃を与えるような事態が続いているので16Dに関しても一瞬の動揺を見せてしまったが、すぐさま彼女は新たな指示を出した。

 

「手の空いているオペレーターは飛行ユニットの移動記録を漁れ。最後のログから予測降下地点、及びに16Dの目的についての調査も進めろ。地上での捜査部隊には2B……はヨルハ部隊の救援中か。ならば、引き続き11S、そして7Eを僚機につけ、地上で16Dの動向を追うことを命ずる!」

 

 指名されたのは11Sと7Eという機体。

 何人かのオペレーターモデルは、今回の作戦の遂行者にE型が指名されたことで表情を引き締める。

 

「司令官、わたくしから一つ」

「発言を許可する、5O」

 

 この声を発したのは7Eの専属オペレーター5Oだった。現在地上との行き来に利用していた転送装置は、大規模EMPの影響で使用不可能なことを進言した。

 

「そうか、ならば地上への移動手段は飛行ユニットの使用を許可する。命令は以上、各員配置につけ!」

 

 ホワイト司令官からの言葉により、内心でうげぇと声を出しながらも左手での敬礼を捧げる11S。すると、隣の彼女も「人類に栄光あれ!」と勇ましい声をあげながら通信越しの司令官に敬礼を捧げている。

 すると、彼女が同行を任された7Eなのだろうか。

 

「あー! もしかして、君が7E?」

 

 てっきりB型とばかり思っていたが、実のところは11Sも活動内容を把握していないE型のヨルハ機体だったらしい。

 

「ええ、私がそうみたいね。なんだかすごいことになっちゃったけど、頑張りましょ。11S」

 

 勇ましい声だが、女性らしい受け答え。

 ちょっとしたギャップと、長身によく映える長い黒髪が特徴的な彼女は、クスリと笑いながら答えた。

 

「そうだね、活躍は聞いてるよー。第243次降下作戦では残念だったけど、安定した戦果でバンカーに貢献してるって。よろしくねー」

「そうね、よろしく。11S。同じ黒髪同士仲良くしましょ」

 

 握手を交わした7Eと11Sは、そのまま飛行ユニットのある格納庫に向かった。ここはよく、16Dが、この前死亡を確認された11Bと訓練を行っていた場所だという。尤も、以前の超巨大機械生命体の殲滅時に11Bらしき反応を捉えたとバンカーに報告が上がっていたが、結局はEMP攻撃で異常を検知しただけと判断されている。

 

「そこまで執着を見せるなんてさ、どんな人だったんだろうねー、11Bって機体」

「何がどうあれ、まずは16Dの捜索よ。無駄口叩かないっ」

「はぁーい」

 

 彼らがそんな会話をしていると、飛行ユニット、Ho229が自動運転で格納庫の発着場に姿を表し、ヨルハ機体を格納するため待機状態になる。てっきりバンカーにある16機のうちから拝借するものだと思っていたが……専属のオペレーターからの通信だろう、耳に手を当てていた7Eから補足説明が入った。

 

「……先の作戦で落とされたってこともあって、飛行ユニットは増産するみたいね。バンカーのものを新調するまでは他の衛星基地のものを使わせてもらえるみたい」

「へぇー。最近結構戦果が上がってるからか、資産も増えたってことかなー? まぁ飛行ユニットがあれば電撃作戦もスムーズになるし、いい事づくしかな」

「情報については私の専属、5Oが付いてくれるわ」

 

 それじゃあ、行きましょう。

 彼女の言葉とともに飛行ユニットに乗り込み、二人は地球へと束の間の空の旅を楽しむことになる。途中、成層圏を抜けた途端に襲い掛かってきた小型の飛行機械生命体も、飛行ユニットの超高速機動戦闘を可能にするスペックに物を言わせて切り抜ける。

 

 始まるはずのなかった運命、交わることのなかった人物。

 一匹の蝶の蛹が夢見た羽ばたきが、大きな混迷の渦を作ろうとしていた。

 

 

 

 

「いやぁ、ぽかぽかですねぇ」

「そうだなァ……」

 

 マフラーが、吹き込む風でそよりと揺れる。

 降り注ぐ陽の光は、雲がないだけ暖かだった。

 周囲には機械生命体やアンドロイドの戦う気配もない。

 

 錆に錆びた鉄塔の上で、パスカルとイデア9942は「抹茶」を飲んで呆けていた。

 

「おーい、工房からおせんべい持ってきたよー」

 

 そして11Bが、煎餅の入っている袋を持っていない方の手を振り、鉄塔の下からイデア9942たちに告げる。機械生命体に食事は必要なく、アンドロイドも極僅かな燃料の補給と部品洗浄メンテナンスだけで事足りる。

 しかし彼ら(パスカルとイデア9942)は、今回食事を可能とする後付ユニットを開発していたのである。

 

「でかした11B。撫でてやる」

「やった!」

 

 喜び、十メートル以上はあるその鉄塔を飛び越すほどの跳躍を見せる11B。アンドロイドにしても異常なほどの身体能力だ。しかしこれは、単にイデア9942に撫でられるためだけに発揮されている。なんという無駄だろうか。

 

 そして11Bがイデア9942の隣に来ると、撫でるために伸ばされた腕に対して頭を向ける。その直後、イデア9942のデコピンが炸裂し、11Bの頭部に鈍痛を与えた。

 

「さて、煎餅は日本の醤油という調味料をベースに作られている。これが中々日本人以外の評判が賛否両論でな、パスカルが気にいるかどうか」

 

 ゆっくりとやってくる鈍い痛みのウィルスに侵され転がる彼女を尻目に、イデア9942はパスカルに話しかける。つけあがらせない、ということだろうか。それにしても酷い仕打ちである。

 

「さ、先程の抹茶、というものと合うのでしょう? でしたら、先程のものが良いと思えた私ならきっとだいじょうぶですよ」

 

 多少どもりながらも、スキンシップが過剰になったのかもしれないと予測したパスカルが、触らぬ神に祟りなしとスルーを決め込んだ。パスカルは平和主義、見える火種に手を突っ込み、余計な火事を起こすつもりはないのだ。

 

「そうかそうか。なら食おうか」

 

 その流れから、イデア9942が袋から取り出したるは醤油煎餅。

 今回は口のあたりに接続された食事ユニット(イデア9942作成)を介し、消化物はエネルギーとして取り込み、味は脳回路に再現されて直接送られる。言っていることは機械的だが、有機物の人体が無意識にやっていることを無機物で再現しただけである。

 

「おお、これが美味しいという感覚ですか……ああ、でももったいないですね。なぜか完璧に再現できない……味わったこの」

 

 もう一口、パスカルが食事ユニットで煎餅をかじる。

 普段エンジンの駆動で揺れているパスカルの体が、更に一段と嬉しさで震えているように見える。

 

「ああ、美味しい! この一瞬に凝縮された感覚。素晴らしい、人間は常にこんなものを味わえるというのですから…いやはや、羨ましいですねえ」

「そうだろうそうだろう」

 

 そう言いながらも、食べる手を止めないイデア9942。

 

「っ、ははは! イデア9942、また涙出てるよ」

 

 11Bに至っては、生前の味を思い出して泣き崩れるイデア9942に笑いよじれているらしい。あの時の感動も台無しになる涙の再現である。その記憶のギャップにもウケているのかもしれない。

 

「涙もろくていかんな…年をくッたか」

「製造されて数年の若造が、言いますねえ」

「ならパスカルおばあちャん、とでも言えば良いか?」

「いやいや、私はパスカルおじちゃんですよ」

「えぇ、どう考えてもパスカルは女の――」

 

 ゆっくりと首を振り、パスカルが11Bの口を塞ぐ。

 

「皆のための、優しい優しいおじちゃんです」

「自分で言ッてりゃ世話ないな……むゥ?」

 

 パスカルたちとの貴重な休憩時間を楽しんでいると、天から伸びる一筋の雲。この雲は上から下に向かって伸びている。ともなると、答えは一つ。この天空を降りてくるのは飛行ユニットを身にまとったヨルハ部隊だけだ。

 

「しかし、二つ……何が起こッている?」

「あれは、飛行ユニット?」

 

 イデア9942のつぶやきを拾って、11Bも首を傾げる。

 一度大きな作戦を張った以上、資源や撃破されたヨルハ機体の復旧などの理由はあるが、しばらくは再編成のためにヨルハの動きは小さくなるようなスケジュールであるはずだ。それは11Bが居た時もそうだったし、ここのところも変わっていない。

 

 だが、飛行ユニットが2機新たに降り立つとなると、新たな任務を言い渡されたヨルハ機体でもいるのだろうか。しばらく見ていると、飛行機雲は地上に降り立ち、その数秒後に新たな、今度は機械的なまでに真っ直ぐな直線を描いて天に戻っていく。

 

「あの動き方は、誰かが作戦のために地上に残るみたいだね」

「ほお……そうする理由と、こうなった時、起こりうる可能性は」

 

 現在の情報から、11Bの言ったことを吟味して演算を始める。

 やがて、幾つかの答えに辿り着いたイデア9942は帽子をかぶり直し、11Bの背中に手をおいた。

 

「ともかく今は()()大丈夫だろう。この身はやることがある。また会おうパスカル」

「そうですか……では、私も村に戻ります。8Bさんがまた物を壊してないか心配ですので」

 

 彼女、力が強すぎて、りきみ過ぎちゃう事が多いんですよとパスカルが笑う。

 

「またねパスカル」

「行くぞ11B。これが終われば、しばらくは保つ」

「保つ、か。わかった。行こっか」

「お二人ともお元気で」

 

 手を振り、その場にパスカルを置いて姿を消す二人。

 その腰と背中には、三式戦術刀といつもの刃が潰れた機械生命体の斧。あれだけ言ったのに、まだ物騒なことに首を突っ込もうとしているのだなとパスカルは深い息を吐いた。

 

「まぁ、それがイデア9942さんの魅力でもあるんですが。私も毒されてますねえ」

 

 少しばかり自嘲の入った咳払いを一つ。

 パスカルは振り続けていた手を止めて、腰元のバーニアを点火させる。

 村に帰ったら、やることは山積みだ。

 

 輝かしい未来の光景を胸に、今日も心が満たされたパスカルが帰ってくる。

 与えられたパスカルの心に触れ、村は暖かな雰囲気を増していくのであった。

 




というわけで補足の回です。
風呂敷が二枚目出てきてブワッと広がったとも言います。
広げすぎて怒られそうな回。セッキョウコワイ マンジュウコワイ

11S
→自我データの番号が11Bと同じ。
 だがどういうわけか男性型という衝撃
 こっちはのほほん系ワンコ 語尾がよく伸びる(原作での会話時から)
 方向性が違えど、自由なことに変わりはない。
 自我データとは一体……ウゴゴ
 (本来の性格がこっちだったという可能性に関しては追求許して)

7E
→特に何も言わず、無言で2番めに撃墜されたかわいそうな子
 本作に「E型」という存在をプレイヤーに伝えるためのものでもあり
 物語を進めたら「あっ!?」って唸らせるための絶妙な配置
 あんまりにも不遇なのでプレイアブル化 11Sのパートナーに

5O
→ゲーム上のバンカーに部屋があるオペレーターモデル。
 こっちも喋り方とか捏造。ついでに7Eの専属オペレーターって設定。
 そも、大規模な第243次降下作戦に参加してるって時点で
 7Eも結構な戦果は出しているだろうと思っての専属。
 なぜ5Oなのかというと、原作で存在が確立された「原作キャラ」のため。
 以上2人も同じ理由
 でも以降出番なし

16D
→情報開示の権限がありません
 この情報は、司令官以上の存在ガどうカなー!?
 ねェネェしりたぁい? デも教エテあゲなーい!

 あは! アハハハ ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ





ERROR ERROR
開示を目的とした文書記録に機械生命体由来のウィルスの侵入形跡を確認。

ウィルスワクチン投与
簡易なバグを発生させる微弱なウィルスだった模様
除去完了

16Dの記述が追記されているが、同時に深刻なウィルス汚染により削除不可能。

16Dについては以降文書にて情報が開示されるため、文書は現状保存。
ウィルスの脅威を教授するため、このまま公開することを決定した。
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