イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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あんま話進んでません
すみませんこれから休日出勤のサービスがあるのでこれで


文書33.document

『ゲートのロックを解除しました! 先に進んでください』

「わかった」

 

 何度か爆発に巻き込まれそうになったものの、ヨルハの卓越した戦闘技術とアダムたちという圧倒的な戦力で、障害を物ともせずに突き進んでいく一行。進む先ではロックされている部屋が多かったが、それらの多くはキェルケゴールの正常な信者たちが隠れているからだった。

 

「おお、あれは……」

「教祖様! ご無事でしたか!」

「お前たちこそ、よく生き延びてくれた」

 

 信者の中でも少しだけ階級が高い司祭が、彼らを残った物資とともに出迎えた。

 

 そうして拾っていた結果、教団の正常な生き残りは50名を超える。本来ならこの数倍は人員がいるのだが、生憎とここまで心を強く保てているのは4人に1人程度が限界だったらしい。部屋に入った直後には、既に「カミ」になろうとする狂信者によって、蹂躙が始まっているところもあった。

 

 キェルケゴールの精神を順調にすり減らしつつも、それでも希望を抱いて彼らは最後の道を進む。今までとは一風違った、整備された通路が増えてきた。アクセスポイントも増え始め、ここにアンドロイドの手が入ったことがあることを示している。

 

『そのエレベーターを登れば、僕らも通ったことのある工場入口に通じています。最後のひと押しですよ。頑張ってください2B!』

「ここが最後の……」

 

 そうして、一同はついに辿り着いた。

 アダムたちもこことは別の入り口から入ったため、順路なのかは知らない。だが9Sから渡されたデータが、2Bたちもよく知る入り口付近に近い場所だということを示している。

 

「キェルケゴールさん、ひとまずは皆さん、私の村にご案内します。和平協定は、それからゆっくりと結びましょう」

「……すまぬ、本当に。結ぶのは和平ではなく、居住契約になりそうだが」

「ハハハ」

 

 パスカルとキェルケゴールも、この一件ですっかり仲を深めたらしい。代表者同士が仲良く語り合う様子に、信者たちもこの先の未来が明るいことを予見しているのか、雰囲気が明るいものになってきている。

 

 ひとまず談笑もそれまでにして、彼らはその先に通じるエレベーターに班を分けて入っていった。アダムと2B、そしてパスカル。イヴと11B、そしてキェルケゴール。それぞれに半数ずつ付いて、順々にエレベーターを登る。

 

 最後の組が到着する。

 

「機械生命体たちの残骸、か」

 

 11Bがエレベーターの扉から現れた光景を見て、ぽつりと言葉を零した。

 キェルケゴールも、その残骸の中で頭を抱えて怯える信者を一人だけ見つけ、急ぎ車椅子を転がして駆け寄る。

 

「大丈夫か、何がアッたのだ」

「アァ…教祖様……。あいつらが、皆ヲ……」

「アイツら…?」

 

 それっきり、思い出すことも恐ろしいのか、体の震えを大きくさせて機械生命体は自閉してしまった。とはいえ数少ない生き残りであり、キェルケゴールにとって愛する家族の一員だ。大型の信者が大きな腕で抱え込み、運ぶことにする。

 

「この先に厄介な奴が居るようだな。我々はこの人数だ、どうする?」

「決まってるよ。そんなヤツぶっ飛ばして突き進むだけだから」

 

 アダムの面白がるような問いかけに、間髪入れずに答えたのは11B。

 彼女の答えに賛同するように、2Bも同じく頷いてみせる。

 

「愚問だったな。さて、あと少しだ。脱出するとしようか」

 

 アダムは、先程言った言葉を覆すつもりはないと証明するように先を行く。

 斥候を引き受ける、という口約束も律儀に守り、足早に部屋の方へと向かう。

 

 溶鉱炉の上に吊るされた、危険な場所だ。機械でなければその熱さで喉がやられ、瞬く間に生命活動を停止させてしまうだろう。アダムらを始めとした彼らが生きていられるのは、ひとえに肉の体を持たないから。

 

「静かですね」

「うん……」

 

 パスカルの言うとおり、そこは不気味なまでに静けさを保っていた。時折溶鉱炉の方からゴポゴポと湯だつ音が聞こえるくらいで、機械の駆動音らしきものも聞こえない。跳ね橋が脱出路に繋がっているが、手すりもなく、支えも太い鎖だけ。

 

「……そう、か。急げ」

 

 アダムが唐突に立ち止まり、何かを見ている。

 彼の視線は前を向いているが、その瞳はかなり左に寄っている。

 

「どうしたんだ」

「声を立てるな、そして急ぎ奴らを渡らせろ」

 

 アダムは、反射してメガネの内側に写った影に注目していた。

 先程の機械生命体が言っていた「あいつら」が現れたということだろう。確かに、こんな場所で戦わされてしまえば、2Bらはともかく信者たちが全滅してもおかしくはない。機械生命体もヤワではないとは言え、相手も同じ機械生命体なのだ。同じものがぶつかりあえば、破壊は容易く生まれてしまう。

 

 だから彼らは跳ね橋を渡り始めたのだが、あと数人を残したところで、およそ想像もしたくない最悪の状態に陥ることとなった。

 

「…奴が動いた!」

 

 壁に張り付いていた機械生命体「ソウシ」が2Bたちを認識したのだ。

 それと同時に、掛け橋がL字に跳ね上がってこれ以上の通行を許さない。あとほんの3体だったのに、彼らが伸ばす手をあざ笑うかのように退路が閉じてしまった。

 

「チッ!」

「待って、アダムたちはキェルケゴールを連れて先に外へ!」

 

 問答無用で、前足に取り付けられた大型ブレードで切りかかってきたソウシ。その刃を受け止めながら、11Bは叫んでいた。

 

「待ってるよりもソッチのほうが早いから!」

「……そうだな、イヴ、2Bたちの手助けをしてやれ」

「その後、ちゃんと遊んでくれる?」

「ああ、約束していただろう?」

 

 アダムの言葉に頷いて、イヴが2Bと11Bの残った足場のほうにジャンプする。ガシャン、と金網を揺らして着地したイヴは、準備運動と言わんばかりに肩を鳴らして体を伸ばした。

 

「あと3体か……2B、投げるよ!」

「…わかった。イヴも手伝って」

「あっちに投げれば良いのか?」

 

 此方に残っていたのは3体だ。

 小型ということもあって、十分投げ渡せると判断した11Bは、彼らをアダムたちの居る方へと投げることを提案する。小型の信者たちにとっては堪ったものではないが、取り残されないようにするには一番手っ取り早かった。

 

 連続で振るわれるソウシの刃と、11Bの刃が何度も交差する。

 その間に、2Bとイヴが向こう側へと信者たちを投げ渡していく。飛行型や大型の機械生命体たちが投げられた信者たちを受け取って、入り口の方に消えていった。アダムがついているのだから、大丈夫だろう。

 

「にぃちゃん行っちまった。でも、頼まれたし手伝ってやるよ」

 

 好戦的な笑みを浮かべて、イヴがやる気を出す。

 11Bに注意が向けられているソウシの背後に周り、思いっきりその拳を突き出すイヴ。しかし、その瞬間ソウシにはエネルギーフィールドが張られ、イヴの拳を完全に受け止めた。

 

「ってぇ! なんなんだよ、これ」

「敵本体にエネルギーシールドを確認。物理防御シールドを確認。報告:遠距離攻撃、近接攻撃共に効果なし」

 

 痛む手を振るイヴの疑念に答えるようなタイミングで、ポッドの補足が入る。

 見ればソウシの頂点部分から、視覚で確認できるほどの電力が供給されている。供給元を破壊してしまえば良いかもしれないが、この溶鉱炉の遥か上、闇で紛れて見えない天井から降り注いでいる。正攻法は通用しない。

 

「効果なし…? 9S!」

『はい、此方からも確認しました。工場の電力を落として対処します! もう少しだけ耐えてくださ……これは!?』

 

 9Sからの焦ったような声が聞こえてきた。

 まさか、と一同の心がひとつになる。

 

 誰もが思ったことだろう。あっさりしすぎていると。

 あの程度で、狂信者たちが終わるわけがなかったのだ。

 

『大きな機械生命体反応を確認! これは、以前戦った超大型の腕パーツです!』

 

 9Sの言葉が発せられると同時、再び工場の壁が破壊されてマルクスが姿を表した。

 

「くっ……!」

「四体って、嘘ォ!?」

 

 一体だけでは、なかった。

 ここでまず戦えるやつを仕留めてやるというつもりなのだろうか。その数は四機。東西南北のレールから、高速回転する刃が姿を見せる。そしてソウシの攻撃が終わったと同時に、穴を埋めるようにして刃が振るわれる。当然、そんなものが現れたのだから、彼らが足場にしていた場所が――崩壊する。

 

「クソッ! なぁ、アンドロイド! どうするんだよ!!」

 

 太い鎖がちぎられたのはほんの一角だが、イヴは傾きつつある足場からその鎖に飛び移っていう。

 

「壁を蹴りながら戦って! 着地点を狙われないよう気をつけながら!」

「簡単に言ってくれるじゃん…!」

「わかった、落ちるなよアンドロイド!」

 

 会話が終わると同時、ついに吊り下げられていた足場が崩壊する。そしてシールドを取り付けたソウシと、マルクス4体との戦闘が始まった。

 

 毎度全力で壁を蹴りながら移動する2Bたちの行動は、どうしても直線的になってしまう。その分着地狩りと言わんばかりに壁を這い回って追いかけてくるソウシや、壁の向こう側を死角としてマルクスが攻撃してくる。だが、宙に舞った瓦礫や、逆に敵の体そのものを着地点として、彼らは縦横無尽にシャフト構造の空間を飛び回る。

 

「ああもうっ! 足場がないぶん踏ん張りづらい!」

『システム掌握率、80%! あと少しです!』

 

 左手でチャージした銃を構えながら、11Bが宙返りしてマルクスの側面に降り立つと、突起を掴んで方向を変え、そのまま滑り降りていく。そのまま前に破壊した時ハブがあった場所を思いっきり突き刺して離脱。思いっきりのけぞろうとするマルクスを尻目に、彼女は空中で銃を打つ。

 反動で下がった体のあった場所を、ソウシの刃が通り過ぎていく。風になびいた髪の毛を何本が刈り取られながらも、別の壁に着地して再び跳ね出した。

 

 イヴは時折その体を金色の粒子に替えながら、足場の悪さも物ともせずにソウシの攻撃を捌いていた。

 

「11B、まずは大きい方から倒そう」

「オッケー!」

 

 ある地点で合流した二人は、その一瞬で会話を交わして別々の方向に跳んだ。突き抜けてくるマルクスと、二人が集まった所の裏から壁を壊して入ってくるマルクス。同じ者同士がぶつかり合って、回転している部分のパーツが幾つも破壊されていった。

 

「イヴ、とにかく回転してる相手は弱点をつくと早い、からっ!」

 

 ソウシが彼らの真似をするように、大きく上に跳ねて、どういう原理か11Bの着地点へとジャンプする。突然矛先を替えられた11Bはロクに対処できず、左手で己をかばいながらもその攻撃をまともに受けてしまう。

 

「うぐ、っくそぉ……まだなの9S!」

『掌握率100%! 電源を落とします!』

 

 辺りが真っ暗闇に包まれると同時に、ソウシから漏れ出た電力の光が打ち止めになった。

 

「いまだ!」

 

 11Bがその隙を逃さず一閃。

 続いて2Bもその脚部を切り取り、仰け反ったところをトドメにイヴが手刀で一突き。

 関節部分は予想通りに作りが甘かったらしく、そのまま足を断ち切られたソウシはバランスを崩し、ナノマシンが到着するまでもなく溶鉱炉へと真っ逆さまにオチていく。

 

 まずは自由に動き、厄介なソウシの撃退に成功した。

 あのソウシが統括機関でもあったのだろうか。マルクスたちは狂ったように、先程までの統率が取れていた動きをなくしていた。厳密にいえば、決してマルクス同士が接触しないようなコンビネーションを仕掛けてきたのが、単調に振り回し、仲間のことを忘れ始める始末。

 

「こっから巻き返すよ、2B! イヴ!」

「俺に指図してくんなよ、アンドロイド!」

 

 マルクスはあと4体。

 別の敵が来ない限り、速攻で終わらせてやる。

 11Bは、誤魔化すように抱いた決意を胸に、壁を蹴る力を強めた。

 




今回短め
文書記録34~5あたりで廃工場編終わらせます

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