イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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修正用に文章書いてたら出来たから落とします
またなんか矛盾あったら遠慮無くお願いします

そろそろ完結するのでせめてこの短さで矛盾はなくしておきたい
(べ、べつに完結しそうだから熱が冷めてきたとかじゃなくってですねー)

11/04 22Bではなく64Bに変更。
    キャラは一緒でも外装が違ってました まる(


文書40.document

 砂漠地帯に到着した11Bは、想定外の事態に陥っていた。

 本当はイデア9942を探すために辺り一面を散策したい。だが、そうも言ってられない事情が彼女に訪れていたのである。辺りを覆う砂塵と爆音、そして金属同士が擦れ合う音。それだけで、彼女が足止めを食らっている理由が分かるだろう。

 

「こわいヨ……オネエちゃん……」

「大丈夫、大丈夫だカラ、ネ? 64Bさんと、11Bのお姉ちゃんが守ってクレるかラ」

 

 彼女の後ろの横穴では、身を寄せ合うパスカルの村の姉妹がいた。それだけならいいのだ。二機を村まで案内して、あとはパスカルに預けるだけで済む。だが、そうもいかない。

 先程からの戦闘音。11Bをして初手を混乱させる相手がいるのである。

 

「クッソ! なんだよこの機械生命体は!?」

「ワタシに聞かれても分かんないよ!! いいからそっち、一体落ちた!」

「ああもう了解! くそったれェ!」

 

 64Bが毒づきながらも、地面に落ちた一体を殴り飛ばしに向かう。そのサポートをするように、11Bは片手に持った銃を何度か打ち、そのたびに轟音をかき鳴らしていた。

 

 相手は、工場廃墟で遭遇したソウシ。あの個体がいくつも連結したような敵性機械生命体の「ヘーゲル」というものが現れたのである。狙いは分からないが、あの姉妹がこの砂漠の中で発見した希少な鉱石を手にした途端に現れたというのだ。

 理由はどうだっていい、今はただ、この戦闘を勝利で終わらせるために動かなければならない。

 

「あノ二人のタメに、何か探そう」

「オネエチャン…うん、わカッた!」

 

 妹ロボの右手に握られる、人間の拳ほどの大きさがある石。それがどれだけの価値があるかは分からないが、イデア9942がここにいれば喜々として11Bの強化に使うであろう希少鉱石。姉妹はアクセサリーの作成のため、綺麗な素材を探しに来ていたのだ。

 それが埋まっていた場所を掘り出した途端、地表に飛び出ていた足の一部がピクリと動き、この姉妹は襲われたのだという。運悪くというべきか、だが姉妹にとっては幸運なことに、単体の戦闘性能ではトップクラスの11Bがその場に駆けつけた。

 

 そうして、村を離れる姉妹の護衛として付いてきていた64Bと一緒に共闘している、というのが事の顛末である。

 

「あの顔となんか似てるなぁ……」

 

 こちらにカメラアイを向けたヘーゲルに対する一言。

 冷静沈着な11Bに対して、64Bは焦るように唾を飛ばす。

 

「すっとぼけてる場合かよ!?」

「ああごめんごめん」

 

 眼前に迫ってきていたヘーゲルの分裂機。大量のエネルギー弾を発射し牽制しつつ、そのまま質量で押しつぶそうという魂胆だろうか。だが、11Bにとっては脅威に値しない、むしろ一体で突っ込んでくる絶好のカモだった。

 

「それっと」

 

 砂漠の悪い足場を物ともせず、ステップを刻んでエネルギー弾を回避。眼前に迫ったヘーゲルに銃口を押し付けて発砲する。

 

 ッゴォォォン………。

 

 野太く、重苦しい銃声が砂漠に響く。

 ヘーゲルのメインカメラが潰れ、迫った勢いをまるごと押し返されるほどの衝撃が装甲板を歪ませ、波を打つように球体の全身を浸透していった。当然、100の迫る力に正反対の110の力を与えれば、100の方が後退する。

 

「64B! 一本貸して!」

「あいよぉっ!!」

 

 たたらを踏んだヘーゲルに待っていたのは、64Bから投げ渡された四〇式斬機刀による一閃。完璧な姿勢、角度、そして常識はずれの膂力で放たれた一撃は、バターのようにヘーゲルの体を貫通していく。

 バリアも貼らない、量産型のはぐれの末路なんてこんなものだ。二枚おろしにされたヘーゲルは左右に分かれて爆発。64Bに斬機刀を返した11Bが、新たな獲物を捕らえるため、爆発で飛んでいるヘーゲルの欠片を足場にして空中へと跳ぶ。

 

「っらぁ!!」

 

 三式戦術刀を突き立て、ヘーゲルの一体に飛び乗った11Bは、刀を足場にしてヘーゲルの上へと移動し、変形させた右足のヒールで刀を掴み引き抜いたかと思うと、片手の力で宙に軽く跳んだ。

 そして別のヘーゲルを左足で蹴ってバウンド、足場にしたヘーゲルの元へ戻る。その勢いのまま右足を突き出しコマのように回転すると、一本のドリルのようにヘーゲルを突き抜けていった。

 

「……おまえ、やるなあ」

「そりゃあイデア9942お手製のボディですから」

 

 無難に衝撃波のチップで斬撃を飛ばし、地道にヘーゲルを削っている22Bからしてみれば、11Bの戦闘方法はヨルハきってのアクロバティックさと言えよう。もうヨルハ部隊を抜けた彼女らにとっては、その評価も意味はないが。

 

「ヒュゥ! やるなぁアンタ」

「それほどでもないよ。スペックに任せて殴ってるだけだしね」

 

 言いつつも、ヘーゲルの新たな一体を殴りつける11B。その時点で半分破壊されているヘーゲルを、64Bがトドメと言わんばかりに例の必殺技、武器と共に斬りかかる同時攻撃によって粉微塵に変えてしまう。

 

 そうして二人は共闘を続けていくが、11Bが特別製だとしても、ヨルハである64Bもまた例外なく桁外れの戦闘能力を持っている。攻略法が分かってしまった以上、5分もしないうちにヘーゲルたちは全て地面へと永遠にキスし続けるハメになってしまっていた。

 

「64Bサん! 射撃武器ヲ……あれ?」

「おう、もう終わっちまったぜ」

 

 姉妹がマンモス団地あたりから武器を抱えて戻ってきた時には、既に彼女らの戦闘は終わりを告げていた。使わず仕舞いになったとはいえ、バズーカのような大砲を持ってきた姉妹ロボはなーんだと息をつく。

 

「助かった……ありがとな、11Bつったか? まさかあの時してやられたヤツに助けられるなんてなー」

 

 両手を頭の後ろに回し、快活に笑う64B。パスカルの村で生きるうちに決めたのだろうか、既に眼帯は外され、くすんだ金色の瞳が垂れた目元から覗いていた。笑顔をそのままに、差し出された手を11Bがとり、固い握手が交わされる。

 

「そう言えば、このあたりでイデア9942を見てない?」

「イデア9942……あいつか。いや、このあたりじゃ見てねぇな。この二人に付いてきて、砂漠のオアシスのほうまで足を運んだけどよ、なんかヘラヘラしてた電子ドラッグ中毒のヨルハか、団地の方でメイクしてる機械生命体くらいしか居なかったぜ」

「そっかぁ…じゃあ、廃墟都市に戻ってみるかな」

「もしかして、居なくなったのか?」

「……そうだよ」

 

 深刻そうに顔をうとめる彼女の言葉を受けて、64Bは考え込むような素振りを見せる。しかし、一分もしないうちに考えることが億劫になったのか、ガシガシと頭をかいてすまないと謝った。

 

「やっぱわかんねぇや。こっちも村のほうで聞き込みしてみっけど、わかんなかったらごめんな」

「ううん、ここには居ないってわかっただけ時間が省けたよ。とりあえず廃墟都市に戻るから、何かわかったことがあったら連絡入れてもらっていいかな」

「オッケー。そのくらいなら。隊長と22Bのやつにも連絡入れてみるよ。どっちかなら村離れられるからさ」

「ありがとう。それじゃ」

「またねーオネエチャン!」

「ありがトウござイました、11Bさん」

 

 妹ロボの大砲を受け取った64Bは紐を肩に回して帰っていき、仲良く手をつなぐ姉妹を誘導する64Bたちの姿を見送った11Bは、すぐさま廃墟都市に向かうため足を向けようとした。

 の、だが。

 

「……ガ、ガガガ」

「まだ生きてるの?」

 

 赤いランプを点滅させるヘーゲルの声が耳に入る。

 それを冷たい目で見下ろした11Bは、今度こそとどめを刺そうと銃口を向けたが。

 

「ママ…ママ…ママ…ママ…ママ、ママ、ママ、ママ」

 

 悲痛な声だった。殺戮のために作られた兵器であると自覚しつつ、自分たちを製造したお母さん(エイリアン)を求めるようにデザインされている。決して裏切らないようにするために。それはあの時現れた超巨大型機械生命体、グリューンも同じ。愛情というプログラミングは、恐怖と違って力をつけても裏切らせない。

 

 エイリアンと機械生命体、人間とアンドロイド。代理戦争を続ける今の関係。どこまでも続く近似と、同族嫌悪。それらを証明するかのようなヘーゲルに対し、一度は止まった11Bは。

 

「うっさい」

 

 迷いなく銃口から弾丸を吐き出し、砂漠にもう一度重苦しい銃声を響かせるのが答えだった。

 

「自立しなよ。自分で考えなよ、それも出来なかったヤツが今更喚いても何の意味もないのに」

 

 自分は、イデア9942とともに有りたいと、そういう答えを掴み取った。時間を掛けて、イデア9942に感じる「謎の愛おしさ」を振り払って。彼女は「本当の愛おしさ」を原動力にイデア9942を探している。

 

 機能停止したヘーゲルを無視して、彼女は砂漠を去った。

 

 

 

 

 廃墟都市。

 いつもと変わらない風景の、第二の故郷とも言える場所。そこで深く息を吸い、植物特有の冷たい空気で脳回路を冷却させた11Bは、考えを改めてイデア9942の探索を始めようとしていた。

 

 その矢先だ。彼女の知らない通信先から、コールが鳴る。

 

「……?」

 

 怪しいが、いざとなれば逆ハッキングしてしまえばいい。

 イデア9942のツールを信じてコールを取った11Bが見たのは、少し前に見た顔だった。

 

『こんにちは、11B』

「アナタは、アダムだっけ」

 

 廃工場での脱出時、手を貸してくれた人型機械生命体。

 もはやバンカー内でも謎の評価が下され始めている、人を超える意思を持ったアダムである。だが、特に関わりもなく、どちらかといえば2Bたちに関わりが深そうな彼が自分に掛けてくるとはどういう理由があってのことだろうか。

 彼女がそう悩んでいると、考えを見透かしたようにアダムが語り始めた。

 

『そうだ。イデア9942を探しているのだったな。なら、君に連絡を入れておくべきだと思いだしたんだ。いや、別に忘れていたわけではないんだ』

「…イデア9942なみに回りくどい話し方だね。あれよりどっちかというと苛つくけど」

『おお、怖いな。女性が無闇矢鱈と苛立たしくするものではないよ』

「分かった、アンタはキザで癪に障るんだ」

 

 どういう進化を遂げればこういう方向になるのだろうかと首を振って、ふとイデア9942が朗らかに片手を上げるイメージを抱いた11B。だいたいそういうことなんだろうな、と今度は肩を落として息をつく。

 

「それで、彼の情報があるならすぐにでも聞きたいんだけど」

『そうだな。実はヤツがいる場所が分かった。だが、向かわないで欲しい』

「……は?」

 

 触れずとも凍結してしまうかのような、重圧感とともに、たったの一文字が11Bからひねり出される。濃密に凝縮された感情は通信先であるアダムの背筋さえも強張らせ、彼は垂れそうになった冷や汗を抑え、なんでもないかのように振る舞った。

 

『あそこにはヨルハの全部隊が集結している。それに、お前に関わるなと言っているんじゃぁない。むしろ、彼を回収した私の弟…イヴの補佐をしてほしいのだよ』

「そういうこと……いつもの裏回しってやつね」

『心配なら、イヴを通して一度会話させてやる』

 

 アダムが左の方に視線を向けると、なにかしらを操作する音が通信越しに聞こえてくる。次の瞬間には、ウィンドウがもう一つ出現し、そこからイヴの視界であろう風景が映し出された。

 

『うん、兄ちゃん、こいつら見てればいいんだな。……うん、じゃあしばらく黙ってるよ』

『11Bが見てるのか』

「イデア9942!? ちょ、どうしたのそれ!?」

 

 何もない空間に手を伸ばすが、ジジジとウィンドウが揺れるばかりで触れられない。イデア9942の惨状を見た11Bはあからさまに動揺を見せていた。そしてもう一つの画面の隅で、11Bの様相を見てくつくつと笑うアダム。

 実際のところ、イデア9942の安否よりも11Bの「恋」にも等しい感情を観察するために通信を繋げたのかもしれない。人間の似姿であるアンドロイドも、行き着く先には未成熟な機械生命体らとは違う恋愛感情を持つことが可能だ。そして妙な感情制限などを最初の遭遇時に取っ払われている11Bは、イデア9942監修の感情に満ち溢れた個体のひとつだ。

 

『心配するな、もうじきイヴが使った抜け穴から戻る。エイリアンシップの方に君は行ってくれ』

「エイリアンシップ…?」

『おお、忘れていた。君はまだ行ってないんだったな。あー、廃墟都市に最近できた落盤の先だ。左の通路を真っすぐ行けばいい。ヨルハの連中は全員白の街にいるから、遭遇することもないとのことらしい』

「わかった」

 

 移動を始めた11Bだったが、まだ通信は続いている。

 次に彼女に話しかけてきたのは、2Bだった。

 

『11B、久しぶり。聞こえてる?』

「うん。2Bたちも元気そうだね」

 

 イデア9942の無事を確認して、心の余裕が出来たのだろう。いつもなら邪険にするはずの相手である現ヨルハ部隊にも、柔らかな声で11Bが返した。

 いつもと違う様子に少し面食らいながらも、2Bが話し始める。

 

『元気……そうかもしれない。とにかく、あと20分で私達ヨルハは一旦引き上げる。撤収完了の間イデア9942と、アダム・イヴたちとエイリアンシップから動かないように注意して。護衛のために貴女は必要だけど、今死亡扱いになってる貴女の姿を見られるのは良くないから』

「分かってるよ。それはそうとイデア9942をあんな状態にした奴らなんだけど……」

 

 11Sらと話していた9Sが、11Bの言葉に反応して顔を向けた。

 

『あ、他でもない彼自身が倒したとのことですから安心してください』

「…そっか、残念」

『うぇ!? やっぱり苦手だなぁこの人……』

『9S、多分聞こえてる』

『え、あ……あ、ああああの! 何でもないですよー!』

 

 必死に取り繕う姿があまりにも無様で、真剣な場面なのに11Bに苦笑が浮かんできた。場の空気を濁すことに関しては褒めてあげてもいいかもしれない。ただし、次にあったときだが。

 

『この通りだ、安心してもらいたい』

 

 11Bがそんなことを考えていると、イヴからの通信が断ち切られてアダムの方へと切り替わった。

 

「逆にあなた達のところは安心できるの?」

『アンドロイドへ無闇に手を出さない。そうした書文を送ったばかりだ。そう簡単に自分の言葉は覆さないつもりだとも』

「なら、信じてあげる。だけど」

 

 イデア9942から授けられた、自分だけの銃を握る力が強まった。

 

『勿論、裏切りはしない』

 

 アダムは眼鏡の位置を直しながら、得意気に口角を釣り上がらせる。

 その映像を最後に、彼からの通信は断ち切られた。

 

 それからしばらく移動して、11Bはようやくエイリアンシップに繋がる竪穴へと辿り着いた。パスカルや22Bへ「イデア9942が見つかったから迎えに行く」という旨のメールを送ると、彼女は意を決して飛び込んだ。

 

 二人の再会は、近い。

 




前回は11Bを11Sと間違えるっていう頭おかしい失態をしました
いやあ似たような人格モデルばっかりで難しいね!!

ここまで出しといてH型はメインキャラクターにいないですが、
正直デボポポがH型の上位互換に思えて(9S直した描写のせい)
H型ってどうしたらヒーラー扱いできるんだろって感じです

あとイデア9942がイデえもん街道まっしぐらなせいでH型空気化不可避
月面の偽装人類施設にいる10Hはキャラ定まってるから書けそうなんですがね。

あと22Bは口調が男勝りだから判別しやすいし楽
8B隊長? ああ、彼女は犠牲になったのだ……口調かぶりの犠牲にな……
てかB型の個体って作戦中だからか、口調一緒なのが多すぎて書き分けられない

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