イデア9942 彼は如何にして命を語るか 作:M002
「完結も近いとか言うけど……あれ、これいつ終わんの?」
作者にも分からんくなった!
「点火するよー」
「よし来い」
11Bがスイッチをひねる。燃料を得た動力が低く唸りを上げて、シャァァァァ……と静かに動き始めた。
「メーター繋いでくれ」
「りょうかいっ」
「いち、にの、さんっ!」
両方から動力の一部にプラグを差し込み、モニターにつなげる。
部屋の中に充満するオイルの匂いと熱気。両手を動力に向けながら、モニターのほうを見たイデア9942は満足げに頷いた。
「こんなものか。魔素の供給入れてくれ」
「今度は大丈夫そう?」
「2回も失敗したが、今度はピンクまみれにはならないから安心してくれ」
「信じるからね」
11Bが左手でプラグを支えながら、右手で横にあるコンソールを弄る。すると、別の機械から透明な管を通ってほんのりと光る奔流が動力に向かって流れ込んでいく。動力がつながれた先は、回転させることが出来る大型の車輪。
魔素が流れ込み、その回転速度は一気に上がった。
「よし、魔素側は固定だ。微調整するからな、摩擦板を持ッてきてくれないか」
「あそこに立てかけてある黒いのだっけ?」
「そう、それだ」
仮止めしていたプラグを捻って固定した11Bが、摩擦板を持って回転する車輪の前に立つ。そして車輪を固定している台に摩擦板をはめ込むと、車輪はそれを受けて回転速度を緩めた。だが、止まりはしない。
「わわわ、これっ! かなり……重っ!?」
「吹き飛ばされるなよ11B、腕が取れただけでも修繕に相当コストがかかるからな」
「平然とした口調で怖いこと言わないでってば!」
「安定、かなり安定か。チューニングに3時間掛けただけはある」
イデア9942は動力を落とす。すると、周辺機器は一変に沈黙する。
凄まじい火花を散らしていた車輪は、動力が落ちたことですぐさま摩擦に負けて回転を停止した。その時の衝撃で11Bがよろめくが、それだけだった。流石はイデア9942の特製ボディといったところだろう。
「これで出来そう?」
「あぁ。あとはカッコイイ外装とポッドの重力制御システムをつければ完成だ。イヴからもらった残骸を利用する物でもいいが、どうせなら此方はアンドロイド色の強いものにしたいからな」
だからこれだ、と。イデア9942はエイリアンシップから剥ぎ取ってきた素材の数々を叩いた。すでに図面は彼の中で完成している。あとはこの動力を中心に、機体を作成するだけだ。
もっとも、こだわりのある彼のこと。ここからはそれなりの期間を要するだろう。
「切り出して加工するぞ。染色用にスプレーも使うから着替えてこい」
「着替え…?」
「その戦闘服を作ったパスカルほどじゃないが、使い捨ての作業着程度ならレジスタンスキャンプに頼んで作ッてもらッたんだ。オレンジのシャツと青のジーパンが隣に置いてある」
「いつのまに……」
「さッさと着替えてこい」
彼の用意周到さは今に始まったことではないが、本当にありとあらゆる事態に対して準備されているのだから、毎回驚きを隠せない。そうした驚きもあるが、なによりイデア9942が自分のために用意してくれた衣服だ。いつのまに、という言葉には呆れとともに、隠しきれない喜びも含まれていた。
バタン、と扉が閉められると同時、彼は動力から目を離す。
「……しかし、戦闘データがイマイチだな。大砲モードでしか使われて居ないとは」
11Bが着替えのため、隣の部屋に行ったことを確認したイデア9942は、彼女が持ち帰った三式戦術刀と11B専用銃を繋げてある機材に目を向けていた。
「流石に説明不足か? いや、だが11Bがそこまで愚鈍なはずも……」
悩むイデア9942は、両手を全く別のコンソールに当てながらデータを打ち込んでいく。結局、その日は新しいカレンダーがめくられるまで、工房から明かりが消えることはないのであった。
パスカルの村は、キェルケゴール達の教団が合流したことで村の面積そのものを広げることになった。元々、大型機械生命体が過ごすにはあまりにも狭い場所だったという意見も受けての大改築だ。
元の巨木を中心として地面にも幾つかの建造物の骨組みが立ち上がっており、そこではアンドロイドも機械生命体も、種族の差なく忙しそうに駆け回っていた。
それは、稀人の2Bと9Sも同様だった。
「2Bッ! そこの柱は別のとこだッ! 回れ右して教団側!!」
「あ、すまない8B」
「9Sくん、ありがとうございます。こんなに手伝ってもらっちゃって……」
「ああ、いいんですよ。2Bも楽しそうだし、僕もこーんな美人な64Bさんの手伝いをできるんですから」
「え、ええっと。もうっ、からかわないでください!」
「おいそこのスキャナーモデル。一体誰を口説いてんだ? アァ!?」
元ヨルハの脱走兵である彼女らがいるということもあって、久々にパスカルの村を訪れた2Bたちは疎外感らしいものも感じず、作業の手伝いを勧めることが出来ていた。
元隊長であり、厳しい態度を崩さない8B。
男勝りな口調で、剛毅な性格の持ち主である22B。
おっとりとしつつも、仲間思いでお姉さん気質な64B。
元ヨルハがこれだけ居て、2Bたちがその輪に混じれないということはまず無かった。そしてなにより――
「おお、久しいな。2B殿、そして彼は9Sという
「あなたは……」
はたと、9Sが作業の手を止めて目をパチクリと瞬かせる。
隣りにいる64Bは、敬意を込めて一礼した。
「キェルケゴール。久しぶり」
2Bも知り合いの登場に、木材を持っていない方の手を軽く振りながら挨拶を交わす。
「うむ。そして我が新たな本拠、教会を建てる手伝いまでしていただくとは……本当に頭があがらぬな」
「好きでやっていることだから、気にしないで」
2Bの返答に申し訳なさげにしながら現れたのは、このパスカルの村の新入り筆頭キェルケゴールだった。教団の司祭に車椅子を押されながら、舗装された細い作業路をゆっくりと進んでくる。
あまり面識のない9Sだったが、キェルケゴールの人の良さや、教団をまとめ上げたカリスマのおかげだろう。何度か会話を交わしていくうちに、すっかりと打ち解けてしまっていた。
「その頭を落とさないよう気をつけてくださいよー?」
「はっはっは! 問題ない。また狂信者が現れぬ限り、我の身を脅かすものなど早々おらぬだろうさ」
なんせ、彼の教団は死を昇華と捉える教義が普及されている。ある意味、発生するべくして起こってしまった狂信者たちだったが、逆にそれらを乗り越えたことで、キェルケゴールの教団はより結びつきを強くし、死に囚われない強靭な精神を獲得していた。
生きて、生きて、生き抜いたその先に、彼らは死してカミとなるのだ。ただ死するばかりでは鉄くずに成り果てる。故に日々を強く生き、清い気持ちで祈りを捧げていく。
穏やかな雰囲気のまま、彼らは新たな道を歩み始めていたらしい。そのままキェルケゴールが連れられて、パスカルの本拠の方へと向かっていく姿を見送ったその時だった。
「よし貴様ら! 休憩だ!」
8Bがよく通る声で作業現場に声を行き届かせる。すると、作業していた機械生命体たちはようやくだーと間の抜けた声を上げながら近辺を整理し、各々オイルの交換や燃料補給、単なる仮眠のためスリープモードに入る。その中には当然教団の者たちも居て、廃工場で活躍していた大型二脚の彼の姿もあった。
「あれ、何してるんですか2B?」
「いや……見知った顔があったから、少し」
小さく手を振っていた彼女に気づいて、大型二脚の彼も片手を上げて答えている。すっかり機械生命体と打ち解けてしまっている姿を見た9Sは、少しばかり妬いた気持ちを抱きながらも、2Bの新しい一面を見て充足感に浸っていた。
「どうしたの9S。そんなに頬を膨らませて」
「え? あーっと、別になんでもないですよ。アハハ……」
「いい加減誤魔化されないよ。大丈夫、私の相棒は9Sだから」
9Sの頭を、2Bの華奢な手が撫でくり回す。
こうしたボディタッチや些細な言葉の酌み交わしは、あの時からかなり増えたように思う。それでも、9Sはそんな彼女にこう言ってやりたくなるのだ。
「……2B。それ、ズルいです」
「そうかな」
ふっ、と口元を釣り上げた2B。
直後にレーザー通信が開き、2Bと9Sの両方に連絡が入った。
『そうですズルいです! そこ代わってください9Sさん!』
『いえ、むしろ代わるのは2Bの方ですね。9Sは甘えたがりですから、ちゃんと褒めた上で撫でてあげないといけません』
「6O、仕事は?」
「オペレーターさん、勝手に僕の性格を捏造しないでほしいんですけど……というか完全に子供扱いですよねソレ!?」
流石にこの場の光景を見せるのは不味いので、必死に脱走ヨルハたちを通信の視界の外に入るよう移動させた2Bたちは、何でもないかのように装って突如話しかけてきたオペレーターモデルたちを誤魔化す。
一部始終は聞かれていたようだが、肝心の部分はモニタリングされていなかったようだ。心のなかで同時に安堵の息を吐いた2Bと9Sに、それぞれのオペレーターから連絡事項があると伝えられる。
『あ、そうでした。こちらオペレーター6O、定期連絡のお時間です』
「こちら2B、異常なし」
『オペレーター21Oより、定期連絡です』
「こちら9S、異常ありません」
データ同期を保留しているということもあって、定期連絡の頻度はそれなりにある。それは休暇中である二人にも当てはまっていた。
『ちょうどお二人ともいるようですし、私が21Oさんの分も含めて連絡しちゃいますね。実は司令官が、大規模な侵攻作戦を計画していたんですが、少しだけ延期になりました』
「延期、ですか?」
『はい。ヨルハからの脱走兵も多く、最近はどこかの誰かのせいで飛行ユニットも頻繁に破損しています。そのため、休暇が終わり次第お二人にはいくつかの資材を集めて頂く予定ですので、先に資材がある場所を見つけておいてほしいとのことです』
飛行ユニットの破損、という言葉の時点で9Sがウッと呻いた。そんな9Sを無視して2Bが、いつもならバンカー側でやるようなことに疑問を抱いて質問する。
「バンカーから特定はできないの?」
『ええっと、難しいというかなんというか……』
『6Oに代わって発言させていただきます。廃墟都市の地下深くにあることは判明しているのですが、肝心のルートに関しては判明していません。そこで、地下に通じるルートを現地で探してほしいのです』
奪い取るようにモニターが21Oに移り変わる。
『本当なら他のヨルハを向かわせたいのですが、作戦地域である廃墟都市でこれ以上敵に不審を抱かせるような目立つ行為はしないほうがいい、と司令官が判断してまして……そこで、2Bさんたちなら普段から訪れている分、大丈夫じゃないかとのことです』
「了解。ちなみに、休暇はいつ終わるの?」
『あと2日、自由に過ごしていいらしいです。2Bさんたちも何かしてるみたいですし、たっぷりと余裕を持って行動するようお願いしますねっ! 以上、6Oからでした!』
『2B、9Sのお世話をお願いします。以上、通信終了します』
プツン、と切られるレーザー通信。
嵐のように過ぎ去っていった言葉の暴風を受けて、2Bはしばらく考え込むように目を閉じていた。
「提案:教会建設作業に、節目を付けて離脱。2B・9S両名は任務のため廃墟都市に向かうべきだと思われる」
「そうだね。その予定で行こう」
「でも2B、もしあと2日の間にイデア9942が来なかったら、聞きたいことも聞けませんよ?」
9Sの疑問を解消したのは、彼の連れているポッド153であった。
「推測:イデア9942は廃墟都市に居住している。複数のアンドロイドからの目撃例あり。推奨:レジスタンスキャンプにて情報収集」
「やっぱりそれですかー」
人の口に戸は立てられない。
アンドロイドたちが見た光景は、そのままレジスタンスキャンプで噂になり、司令官と直接会話することもあるジャッカスやアネモネの耳にも入る。よって、ポッドたちがそれらの情報を知り得ているのは何ら可笑しいことではない。
「本当に、イデア9942さんは何をしようとしてるんでしょうね」
「……分からない。だから、話すしか無いんだと思う」
「ですかね。まぁ当たって砕けろとも言いますし、ともかく会うことだけに集中しましょう。バンカーの大規模作戦ってのも気になりますけど」
そうして時は流れ、結局イデア9942が二人の休暇中にパスカルの村を訪れることはなかった。
だが、その分作業に集中した2Bたちのおかげで、キェルケゴールの教会もかなり形になってきている。パスカル達が住む本拠の、ツリーハウスの雰囲気を崩さない木目の見える教会。完成した姿を楽しみに想いながら、2Bたちはパスカルの村を去ることにした。
「あれ?」
廃墟都市で、今日も爆走する一体の素材売り。
彼は何かに気づいたように見上げるが、その視線の先には何もない。
「気のせいかなぁ?」
ならいっか、と再び走り始める。
たりらりら~♪ と騒音被害を撒き散らし、今日も彼は自称安売りを続けていた。
たりらりら~↑ らりらりら~↑
ラ~リ~ラ~ラ~→ れろれろれ~♪↓
皆覚えてるかな、ニーアのアイドル顔面ボールくんだよ!
将来の夢はお嫁さんな美少年だよ!
ヨ○オの頭ん中どうなってんだってくらい性的に倒錯したキャラ多いよね