イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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スランプ入ってきてトランプさばけないから
ジョジョOVAのダービ戦見て癒やされてます

そしてオートマタをベリーハードでプレイをはじめ、エンゲルス撃破後にそっとハードにしました。あと仕事。そろそろニーアオートマタも過去の作品みたいな扱いになってきたな。

そういう感じで書いてたら変な幕間です。

次回こそほんへ進めます


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「了解した。追って連絡しよう。3日後に詳細を送る」

 

 暗くなったバンカーの一室。

 唯一、白の衣を纏ったアンドロイドが、耳元に当てていた手を下ろす。

 通信相手は短く答え、それっきり聞こえてくる音はなくなった。

 

 バンカーは今、機能を制限していた。と言っても、敵性機械生命体から攻撃的なクラッキングを受けたわけではない。これまで、休まること無く使われていたヨルハ部隊支援のためのバックアップシステム、膨大なデータの整理、上げていけばキリがないそれらの作業の多くを停止させ、ヨルハという集団自体が一時的に停止しているのである。

 

 それを実行したのは、この暗い部屋で一人虚空を見上げている女アンドロイド。ヨルハにおいて最高権利を与えられている、ホワイトだった。

 

「……日取りは決めてある。後は、未来の話か」

 

 ヨルハに未来など無い。

 あのパスコード事変におけるバンカーの大混乱。その折に、司令官ホワイトにのみ与えられた専用のデータ領域に、一通のメールが届けられていた。数多のファイヤーウォールや電子的な防壁などなかったかのようにすり抜け、警報の一つも鳴らさずに帰っていった手腕の持ち主は、当然言うまでもないだろう。

 彼からのメールにて、彼女は真実の一端を知ったのだ。そして短い閲覧の直後、ホワイト自身に強大なプロテクトを掛けて自壊したメール。もし紙媒体であれば、あまりの身勝手さに握りつぶしていたであろう真実。

 

 ヨルハ最高司令官たるホワイトにすら明かされることを禁じられた、真実の中の真実を。

 

「もはや寄す処すら取り上げられた。私は……一体どうしたら良いんだろうな」

 

 誰に言うでもなく、壁にもたれかかって彼女は笑った。

 ヨルハの司令官として抜擢された時は何の冗談かと思ったが、他ならぬ人類の言葉であると、まだ人類は生きていたのだと歓喜した。それが時がたつに連れて明かされる、人類の不在の証明を崩すための作戦であると気付く。

 

 だがそれも、絶望の一丁目だ。

 

 毎日毎日、司令官という立場である自分に圧し掛かる重圧。誰も彼もが目隠しをして、真実を見ないように作られるヨルハたち。だが、そのうちに秘める個性豊かな感情を殺す姿を見届けて、製造と破壊を繰り返すヨルハ部隊の面々。

 

 二丁目の先は、開発すらされていない荒れ地だった。

 

 変わらない日々、オペレーターたちも残酷な真実の一端や、作戦が進むごとに新たに生み出された歪なヨルハの姿を知らされていながら、心を押し殺して戦闘部隊を送り込む日々。

 新たな兵器を製造し、新たなサポートメカが開発され、ヨルハのシステムがアップロードされていく。それがどうしたと、機械生命体たちは無慈悲に戦闘部隊を破壊し、侵食し、時にはサーバーからその機体名をデリートさせられていく。

 

 三丁目などなかった。

 どん底の地面が抜けて、延々と落ちていくだけの真実。

 

「何故、と疑問を持ったこともあった。だがそれらは人類(アンドロイド)のためであると言い聞かせ、歩いてきた……そのはずだったんだ!!」

 

 激しく打ち据えられる個室の壁。

 頑丈な鋼鉄の扉に、非戦闘型であるヨルハ司令官ホワイトの拳があたっても、傷をつけることすらかなわない。無傷の壁が、表に出せない彼女の慟哭をあざ笑っていた。

 

 ヨルハは、滅びるようにデザインされていた。

 それも、一時しのぎにしかならないとわかりきっている結末のために。百年すら保たないであろう、人類が存在するという、偽造情報の完成のために。アンドロイドは確かに騙されるだろう。だが、すでに気づいてしまった事実を、疑問を押しつぶせるわけがないのだ。

 目を隠し、口を覆うヨルハ部隊員の脳回路に刻まれた思考であれば、永遠に騙せたかもしれない。だがレジスタンス達は常に前を見据えている。その手で掻き集めた真実を掴み取っている。

 

 守り続けるための部隊ではない。たとえ偽りでも、当人にとっては紛れもない真実の誇りを抱いて殉じるための部隊ではなかった。最初から全て破棄されるようになっていた。破棄される部隊なのだから、人格データは機械生命体のコアを利用して作成されるため、人道的に処理できるだと?

 

「ふざけるなよ」

 

 爆発した怒りが、司令官の腰に下げられた戦闘用警棒に伸ばされる。伸び切ったそれを備品の一つに打ち付けたホワイトは肩を上下させるほどに深い呼吸を繰り返し、抑えられない怒りを空気とともに吐き出そうとする。

 

 だが、もはやホワイトにそんな殊勝な態度ができるはずがないのだ。収まるはずがなかった。彼女が心身を捧げてきた愛する部隊。その結末を容認するなど、出来ないようになっていた。

 管理者権限をも持つホワイトは知っている。2Bたちから最後にアップロードされた映像の、部隊を抜けても、機械生命体と笑い合う部隊員の姿を。部隊を抜けた理由を語る彼女を。

 

 決して知るはずのなかった幾つもの断片は、ホワイトの人類のためというあやふやな目的意識を吹き飛ばした。愛する部隊を、生まれてくる無垢なる子らをまるごと殺すためだけに運用し続けるなど、到底容認できるはずがない。

 

 

 守らなければ、ならない。

 虚空を見つめる眼光は鋭いものだ。真実という景色は、瞳の奥を突き抜け、光化学レンズから写り、ファイバーケーブルを伝い、脳回路を巡らせ、伽藍堂なはずの胸の奥に到達した結論は、どこまでも非科学的に彼女を突き動かした。

 

 だからこその会合だ。

 ヨルハを守るために、ヨルハを真実のアンドロイドにするために。そして、人類が居ない世界で、共に未来を見るためには何が必要なのか、何が足りないのか。手を取り合わなければならない。あの奇妙な機械生命体、イデア9942がもたらした大きな変化をも己の流れへと変えるために。

 

 キッ、と画面を睨みつけたホワイトは、そのために膨大な数からなる演算装置をこのためだけに使用していた。ヨルハ戦闘員への休暇、オペレーターたちへの休息命令はこのためでもあり、そして組織全体の変化への試金石でもある。

 

「サーバー、ヨルハ全体への浸透率はどうだ」

 

 彼女の声に答え、真っ暗な空間に仄かな四角い光が映り込む。

 先程まで激高していたとは思えないほど丹精で、冷静な顔立ちが画面を覗き込む。表情一つ変えず、その情報に結論を下したホワイトは画面を閉じその部屋を後にした。

 

 低く唸りを上げる、機械の音を置き去りにして。

 

 

 

 

 バンカーの司令室は静かなものだ。

 それもそのはず、本来常駐しているはずのオペレーターモデルの姿が、ちらほらとしか見受けられないのだ。特に騒がしいということで目をつけられている6Oの姿もない。21Oは変わらず画面と向き合っているが、事務処理ではなく彼女の「個人的な趣味」に傾倒した資料や写真を眺めて、気だるそうに頬杖をついているだけだ。

 

「21O、あなたも暇そうですね」

「そうですか。私は興味深い人類資料に今一度目を通しているのですが」

「そのへんが暇そうってことです。そういう資料を見るのはいつも限界まで処理して無理やり作った空き時間にしか見ないじゃありませんか」

「……そうでしょうか」

 

 珍しく図星を突かれ、それっきり押し黙る21O。

 可愛げのない後輩の姿に、話しかけたヨルハオペレーターモデル4Oは呆れたように息を吐いた。

 

「まぁ、気持ちはわかります。今のところヨルハは実質活動休止状態。ついにオペレーターモデルでさえ地上への行き来が解禁になって、ここに残っているのは物好きなヨルハか、最低限の維持を命じられたモデルのみ。良かったのですか、9S君と一緒じゃなくて」

 

 前フリはあくまでごまかしのうち。4Oの聞きたいことは最後の一言に集約されていたのだろう。掴ませるために放たされた真意は、21Oの眉間に二本のシワを作らせる。

 

「俗物的な発言は訂正してください。ヨルハの規則上、私はそういう感情を抱いていませんし、発現していません。また、9Sがここで引き合いに出される理由が不明です」

「またまた、気づかれないと思っていたんですか? 家族、ほしいんでしょう?」

「他人のモニタを盗み見るのは、配慮にかけているかと」

 

 その視線がモニタに向けられていることに気づいた21Oは、プライバシーを理由にして追求を逃れようとする。

 

「……お固いですねえ。全く、だからこそ務まっているんでしょうか」

「何のことでしょうか」

「オペレーターしかいないんですし、誤魔化す必要もありませんよね? 9Sモデルのことです。何度も何度も処刑人(パートナー)である2Bに殺害され、そのたびに初期状態までリセットされる。そして何度もハジメマシテを繰り返す。辛くはありませんか?」

「我々は感情を出すことは禁じられています。よって、辛い、という感情についても同様」

「古臭い考えを持つのはヨルハにとってあまり良くはありませんよ?」

「先程から、幾つか不明瞭な言動を繰り返すのは辞めてください。オペレーターモデル、ひいてはヨルハの品位を疑われますので」

 

 彼女、4Oは普段親しいというわけではない。それに、話すところを見かけたこともない。だが、本性はこういう女性だったのだろうか。しつこく聞いてくる4Oに、明らかな不快感を隠そうともしない声色で、ポーカーフェイスのまま言ってのける21O。

 矛盾しているとは分かっていても、21Oはそう返してしまった。

 

「そうまでして保つほどのものですか? もうヨルハのあり方すら変わろうとしているというのに」

「どういう意味でしょうか」

「会合のこと、知らないわけじゃありませんよね。それにここ最近の司令官から出される新たな命令……休暇や、ヨルハの戦闘行動の制限、オペレーターモデルの降下許可。初期のヨルハという組織が定めた項目を破るようなものばかり」

「………」

「あの6Oは、真っ先に地上へと降りました。今頃は2B、そして9Sと楽しくやっている頃でしょうか」

「何が言いたいのでしょうか」

 

 ほとばしる苛立ちは、21Oの声を尖らせていた。

 4Oはニンマリと、口を覆うベールの上に見える目を歪めている。

 

「何を恐れているんです?」

「私は、恐れるなどという――」

「感情を抱いていない、などと誤魔化さないでください。私が聞きたいのはあなたの本心です。今まで隠していましたが、私そういう他人の明かしたくない本心を聞くのが大好きでして」

 

 4Oの不快に歪められた目元。そこに収められた宝石のような美しい瞳は、じっとりと21Oを見つめている。

 

「今までずっと後ろの席で、あなたが秘めている想いを見てきました。業務上、司令官に目をつけられるのは厄介なもので趣味を切り離してきましたが……またとない機会です。是非ともお伺いしたく」

「趣味が悪い、といえばよろしいでしょうか。業務以外で話しかけないでください、支障をきたしますので」

 

 バッサリと切った21Oは、それっきり4Oの言葉に耳を傾けないようにしようと決意する。また、精神疾患を発症したとして、司令官に報告でもしてやろうかと端末に手を伸ばすが、いつの間にか立ち上がっていた4Oによってその手を止められた。

 

「まぁまぁいいじゃぁないですか」

「………」

 

 根比べだろうか。

 どちらにせよ、誰にとっても益のないことだと、21Oは達観したように虚空を仰ぎ、また気だるげに頬付をついてモニターに視線を移した。それからも話しかけてくる4Oを無視しながら、ヨルハの変化は、必ずしも良いものばかりではないのだと、苛立ちを押し殺してモニターの家族についてを熟読し始めるのであった。

 

 

 




ホワイトブチギレ、哀れ21Oの二本でお送りました。


眠さとほどよい道草屋で九割ネながら書いてますので矛盾だらけだろうzzz

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