イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

8 / 78
ご都合主義タグが全身から光を放って自爆し、短パンになるレベルの内容です
バンカーも落ちる勢いである。なんちゃってシリアス拳。
プロットが無いと一話作るごとにめちゃくちゃになる悪い例がこの話です


文書08.document

 レジスタンスキャンプ。地上で活動するレジスタンスたちのリーダーが座す、廃墟都市の一角を使った拠点の一つである。そこでは、いつもの休息所のような穏やかな空気は鳴りを潜め、一触即発の事態が起こりかねないほどの剣呑な空気に包まれていた。

 

 レジスタンスのリーダー、アネモネ。

 民族衣装のような衣服に身を包む彼女の前には、両手を頭部パーツの後ろに回したイデア9942が周囲のレジスタンスたちから銃口を向けられ、ホールドアップの状態にされていたのだ。

 

「2B、疑いたくはないが、何故こいつを連れてきたんだ? こうなることは分かっていたはずだろう」

 

 パスカルの一例もあり、アネモネ自身、この帽子とマフラーを着用した機械生命体は、躍起になって排除する相手ではないのだろうと当たりをつけていた。だがアネモネ本人はそう割り切れていたとしても、他のレジスタンスたちにとってはそう簡単に済む話ではない。

 時に憎み合い、時に復讐を繰り返す。本来なら機械生命体とはそういう関係であり、それが当たり前のことなのだ。パスカルでさえキャンプの中に直接入ることはせず、訪れたとしても入り口で仲介を通して交易を行っている。

 だが、イデア9942はパスカルのように知られているわけでもない。パーソナルスペースにも等しいキャンプの中に入ってきた以上、こうして殺意と銃口を向けられるのは当然のことだった。

 

「発言の許可を頂けるだろうか」

「黙れっ!」

 

 だというのに、呑気にも自分の意見を告げようとするイデア9942。

 激昂したレジスタンスの一人によって、ガン、とイデア9942の頭部に銃口が擦り付けられる。全く堪えた様子がないイデア9942は、どうかと再度アネモネに訪ねた。

 

「……いいだろう。手早く要件を言ってくれ」

「感謝する。それでは、まず―――」

 

 イデア9942の交渉が始まった。彼は腰にくくりつけていたケースを開けると、その一枚をアネモネの方に差し出した。訝しみつつも、それを受け取った彼女は驚きに目を見張る。

 それもそうだろう。なんせ、それはメモリ容量を極限にまで抑えられた上質なプラグインチップだったのだ。機械生命体を破壊したとき、飛び散った回路の欠片を復元してスペック強化用のプラグインチップは作られるが、その多くは量産された機械生命体にぴったりなメモリ容量も大雑把なものばかり。

 だが、これは違う。

 

「此方からはこれらのプラグインチップを定期的に納品する。対価として廃棄予定の武器や使いみちのないジャンクパーツを頂きたい」

「……パスカルよりも釣り合っていない条件のようだが、お前に旨味はあるのか?」

「勿論だとも」

 

 そのまま交渉を続けていく二人。周囲のレジスタンスたちも、イデア9942が差し出したものがどれほど役に立つのか分からない筈もない。向けられた銃口は少しずつ降ろされ、最後に形式上として向けられる一つだけになっていく。

 

「なんというか、本当に変わった機械生命体ですよね」

「彼の狙いが理解できないのは怖いけど、なんだろう」

 

 2Bと9Sは、アネモネから使っても良いと言われている個室のベッドに腰掛けながら、窓の外の様子を見ていた。話していたのはパスカルや、イデア9942を始めとした特異な機械生命体について。

 そして2Bは、道中でも感じたが、イデア9942を見るたびに思う違和感を初めて口にした。

 

「なぜか、あの機械生命体には悪意を向けきれない」

「それは……」

 

 9Sは口ごもる。彼自身、イデア9942に対して破壊してやろうという敵意は抱いていたが、今は違う。最終的には好奇心に負けたとは言え、破壊しようという気にはならなかった。それは彼が「ジョーク」だと言った無意味な会話のせいか、それとも他の要因があるのかは分からない。

 謎の塊が、歩いている。ヨルハ機体2Bと9Sが抱いている考えは同じだった。

 

 やがて時間がたち、イデア9942は立ち上がった。メンテナンス屋にプラグインチップが並べられた小箱を受け渡すと、アネモネが指を指した方向――2Bたちの個室――を目指して歩いてくる。

 アンドロイドたちの視線はイデア9942に向けられていたが、手に持った武器は下ろされ、または近くの壁に立てかけられている。やはり、あらゆる敵意を無くしてしまっている。イデア9942を観察していた9Sは、その特性とでも言うべき特徴にも疑問を抱いた。

 

「いい部屋じャないか。こざッぱりしすぎてはいるが……もッと家具や道具を置いたりはしないのか?」

 

 カレンダーや時計、使われてない棚があるなら小道具や食器など。あらゆる日常生活用品を並べ立ててくるイデア9942に対し、9Sは呆れたように言った。

 

「あくまでも仮の拠点ですし、そんなに物を置く必要性もありませんからね。そもそも無駄じゃないですか」

 

 そこでふと気づく。もう、言葉遣いが2Bや司令官たちを相手にする時のようなものになっていると。もう、僕のなかでは、こいつは。

 

「ふむ、せッかく飲食が可能な義体だろうに。もッたいないと思うんだがなァ」

「無為に物資を消化する行為が、もったいない…?」

 

 9Sの中で出されようとした答えは、イデア9942の機械とは思えない発言と、2Bが発した言葉によってかき消された。あからさまにおかしいのだ。今ようやく思い至ったが、まるで、機械の常識を知らないかのような物言いが多い。

 動きも機械生命体・中型二足の可動領域を出ないとは言え、首を回して視線を流したり、会話中に指を無為に動かしていたり、どう考えてもプログラム上に無駄の多い動きばかりが目立つ。それはまるで、この廃墟都市で見かける動物たちのような仕草で。

 

「まァ、この話はいいだろう。9S君、何故第243次降下作戦がある事と、君が私の記憶領域を読むことを想定した文書を作ッていたのか……気になッていたはずだな」

 

 先程の好奇心が膨れ上がり、またもや9Sが抱いた疑問は打ち消された。覚えているにしても、こうして今抱いたばかりの疑念は後になってしまえばさほど意欲的にはなれないだろう。それを分かって、掌の上で転がしているのではないか。

 9Sは非難がましい視線を向けながらも、憎々しげにイデア9942の問いに是と答えた。

 

「実は別に、バンカーにアクセスして調べた…というわけではないんだ。予め別の要因から君たちの行動は知ッていた。手を出さない限り、想定通りに進み、ブラックボックスの接触で大型の機械生命体・エンゲルスたちを撃破することも」

「見て、いたのか」

「そして君たちには、おそらくだが……実は生存していたヨルハ部隊員、11Bの破壊なんかも命じられているかもしれないな」

「!」

 

 11B……撃破されたと見せかけ、脱走計画を企てていたヨルハ機体。始まりは16Dからの依頼で、形見の武器が見つけ、それを最後のログとともに見せたところ、豹変した16Dと共に印象に残ったヨルハ機体。

 そして、遊園地廃墟で破壊したアンドロイドの死体を括り付けた機械生命体。あれを見つける直前に察知したブラックボックス信号から、生存が確認され――撃破直後の報告で、破壊命令を下された機体だ。

 

 なぜ、そんなことまで知っている。敵意を押しつぶす疑念と驚愕が2Bと9Sを塗りつぶしていく。

 

「これらを知ッていたその理由だが、まァ産まれた時から知ッていたんだ」

「そんな言葉で騙されるかっ!」

「いいや、真実だとも。産まれた時から知ッていた。事実だ」

 

 答えにならない返答に、ついに9Sが動いた。

 背負っている刀を構え、イデア9942の首元に突きつける。破壊のためではなく、尋問のため。2Bも無言ながらに、9Sと首を挟むように刀の刃を突きつけた。マフラーに刃が食い込む。このまま軽く刃をスライドさせるだけで、哀れなイデア9942は機能停止に陥るであろう。

 

「一日に2度も武器を突きつけられるとはなァ…自分はそんなに胡散臭いのか」

 

 やれやれ、といった具合に肩を竦めるイデア9942。

 少しだけ動いた分、彼の首元の装甲板に小さな傷がつけられる。

 

「……」

「おォ、そんな怖い目で見ないでくれ。隠れているから見えないが」

 

 この期に及んでとぼけた答えを返す様は、どうしようもなく9Sと2Bの胸中から感じられる謎の信号を増幅させていく。まるで、それは「人ルいのよウ」で――

 

「……いや、やめよう」

「2B! なぜですか! 今聞かないと…!」

「9S、イデア9942はこれ以上傷つけられることはないと分かってるよ。だから話すはずもないし、何より此処で破壊してしまえば、打ち解けたばかりのレジスタンスの交易相手を破壊した事で、私達の立場が悪くなる」

「それは……そう、ですが……っ!」

 

 9Sとてそれは分かっている。だが、あえて口に出して言われると自分の納得できない感情が剥き出しになって現れる。

 

「私たちは、感情を出すことを禁止されている」

 

 二言目には、これだ。

 こう言われてしまえば、9Sが2Bに逆らう理由もない。

 

 無言で引かれた刀は、再び9Sの背に戻る。

 イデア9942は何事もなかったかのように、9Sたちに向き合い、近くの椅子に腰掛けた。

 

「まァ、預言しておく。君たちはいずれ真実を超えた真相を閲覧するだろう。そして絶望するだろうが、一つだけ持ち続けて欲しい言葉があるんだ。“待て、しかして希望せよ”……と」

 

 不思議なことに、すっ、と。

 言葉が二人の中に入り込む。

 

 ウィルス汚染されているわけでもない。ただ、何かが。アンドロイドであれば必ず持ち得る感覚が、イデア9942を見たときからずっと感じていた、胸中に秘められたプログラムが、その言葉を皮切りに何かがハマったような気がした。

 

「他にやることがあるのでな、これで失礼させてもらう。ああ、パスカルには手間をかけたなと言ッておいてくれないか」

 

 固まった二人に首を捻りつつ、イデア9942は片手を上げて二人に背を向けた。

 

「あ……待っ」

 

 去りゆく背中を呆然と見つめていた2Bだったが、自分の意識を取り戻した時には、既に静止を呼びかける声はビルの影に消えていくイデア9942に届くことはなかった。2Bの何もつかめず伸ばされた手は、ゆっくりと下ろされる。

 ヨルハの二名に、あまりにも大きな波紋を残していったイデア9942。投じられた一石そのものである彼は、しかし池に沈むことはなく引き上げていくのであった。

 

 

 

 

「なんだこの状況は」

 

 正気に戻ったヨルハ機体2B・9S両名がパスカルの村に戻る足を向けていた頃。イデア9942は、自身の工房へと戻っていた。先に帰還していた11Bが出迎えるものとばかり思っていたが、当の本人は自分が普段いるスペースを占領し、すやすやと幸せそうに眠っていたのである。

 それを見ての、なんだコレ状態だった。

 

「使い古されたシーンに遭遇するとは思いもよらなかッたが……作業の邪魔だ、どかすか」

 

 そこで容赦がないのがイデア9942であった。

 眠りこける11Bの肩を掴むと、そのまま引っ張り両手で彼女を持つ。そして寝台の方へと投げ込んだ。

 

「ぅあっ!? 痛ぁ!? 敵襲!?」

 

 ヂュミィィィィィィ!

 11Bの上げた声は、作業用ドリルの音にかき消される。

 それで何が来たのか分かった11Bは、先程までの痴態を思い出し、顔を赤くしながらボソボソと呟いた。

 

「お、おかえり…」

「あァ、ただいま」

 

 廃墟都市に超巨大機械生命体が来襲する、10分前の出来事であった。

 




あとがきで書いたせいか感想欄の9割がポッドになってました。
このままヨルハ計画に突っ込めば042の苦労が大分楽になりそう。

ノリの良い人達って大好きよ。

あと流行り(FGO)のエドモソに乗ったはいいけどプレイしたこと無いっていうね
しかし、って打とうとしたら而してって変換候補でたから、良い格言ないかなと検索したら出たから採用しました(雑)
だんだん面白くなくなってくなーこの作品

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。