イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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そろそろ作品自体もあんまおもしろくなくなったかもしれんなーと展開ススメながら書いてますが、よかったらおつきあいください。毎日更新はできないけどネ!

どっかで見たような台詞出てきたらすいません 改変して使ってる可能性デカイですの


文書09.document

「なにこれ…揺れてる」

 

 イデア9942が工房に戻ってしばらく経ってからだった。工房の天井から幾つもの砂塵が音を立てて流れ落ちてきたのだ。同時に、この地下深くまで響く振動が襲いかかった。

 11Bは目を白黒させて飛び起きて、イデア9942の方に視線を移した。一つ頷いた彼は帽子を整えると、コンソールを左手で弄り始めた。

 

「…近くで、君の降下作戦時に超巨大兵器と呼ばれていた機械生命体が複数出現したらしい」

 

 イデア9942が指差したのは作業台の横にある、ブラウン管に映る廃墟都市の立体マップ。巨大な光点が、マップの障害物をものともせずに進んでいく。そして数秒遅れて、立体マップに映っていた建造物は背丈を削られていく。

 巨大な機械生命体、エンゲルスたちの侵攻だ。

 

「不味いな。入り口のあたりが瓦礫で埋まッてる」

「え!?」

 

 慌ててベッドから飛び跳ね、螺旋状のスロープを登っていく11B。数秒後、すぐに戻ってきた彼女は言った。

 

「本当に埋まってた…撤去しないと!」

「そうだな」

 

 結局、二人が瓦礫をどかす作業にかかったのは数時間。無理な力作業をした為に、途中なんどもメンテナンス作業を挟んだせいで相当な時間を持っていかれてしまっていた。その結果、廃墟都市が大きく姿を変える事態に、この二人が関わることはなかったのであった。

 

 

 

 

「エイリアン達が…既に滅んでいた」

「2B、とりあえずバンカーに戻って、報告しよう」

 

 思いもよらない事実だった。残りわずかとなった月面の人類とアンドロイド、地下深くに潜り指示を出していたと思われるエイリアンと機械生命体。この代理戦争は、エイリアンを滅ぼせば全てが終わると、どのアンドロイドもが考えていた事だ。

 だが、エイリアンたちは数百年前に滅んでいた。他ならぬ、被造物であるはずの機械生命体たちの手によって。

 

「あいつが言っていた事実って、これのことだったのかな」

「わからない」

 

 ふと思い出したのは、イデア9942と名乗った機械生命体の言葉。

 真実を超えた真相を知り、絶望するかもしれない。ただ、希望も捨ててはならないと。

 

「絶望は、していませんよね2B」

「少し驚いただけ。でも、このことも……イデア9942は知っていた可能性がある」

「エイリアンのことと一緒に、アイツのことも報告しましょう2B」

「そのつもりだよ」

 

 二人は、この短時間で何度も感じた衝撃にまだ心の何処かで理解しきれていないような、曖昧な会話を繰り返す。2Bがよく言う「感情を出してはいけない」という言葉も、今回ばかりは出てこなかった。

 

「やあ、元気?」

 

 少しだけ呆然としたままもと来た道を戻ると、ジャッカスが司令官ホワイトから命じられて、アクセスポイントをエイリアンシップ近くに設置しているところだったのだ。

 司令官と昔なじみだというジャッカスの愚痴を聞きながらも、報告するべきことが多いと感じた2Bたちは急ぎバンカーに戻る選択をとった。早速、設置され再稼働したアクセスポイントを利用してバンカーに「転送」された2Bたちは、真っ先にバンカーの司令部へと急いだのだった

 

「ご報告します。エイリアンシップでの事ですが―――」

 

 報告された内容を聞いていくと、司令官の表情は険しいものになっていった。特に、エイリアンが既に亡き者となっていた事実を伝えると、司令官は硬い表情で目を伏せ、2Bたちに話の続きを促した。

 細かな情報は記憶領域を直接送信することで、司令官ホワイト個人に送られる。

 

「以上が、エイリアンシップの報告です」

「そうか……既にエイリアンは……」

 

 倒すべき宿敵の不在。それでは何のために、戦ってきたのか。

 戦うためだけに生み出されたヨルハ機体たちと、それらを指揮する総司令官ホワイト。あまりにも今後を不安にさせる情報を受けたホワイトは、それでも事実を受け止め、次の司令をヨルハ部隊に下さなければならない。

 ただ、このままを報告するのは全世界のアンドロイドの士気を著しく削ぐおそれがある。人類会議で結論をなすまで最高機密とした後、2Bたちに下された新しい命令は――

 

「君たち二人には、パスカル・イデア9942という名の機械生命体の情報収集を命ずる」

 

 改めて、機械生命体の中でも情報が引き出せるであろう特殊個体の二体を主とした調査任務であった。敵対的な特殊個体アダム・イブは神出鬼没で戦うことでしか会うことは出来ないが、パスカルとイデア9942ならば穏便に情報を引き出せる他、今後の戦闘に役立つからとのこと。

 

「特に、イデア9942という個体から9Sが得たという日記のデータ。あまりにも不可解な文面が多い。なるべく破壊は控え、交流することで情報を引き出して欲しい」

「了解しました」

 

 2Bの冷静な了解の声にいくらか気を良くしたのか、司令官は背後のコンソールの操作を始めた。月面人類会議への報告資料を作成するのだろう。

 一度バンカーに戻ったこともあり、休息の代わりに準備をしっかり整えてから地上に行こうと言う9Sの提案に頷いた2Bは、バンカーのメンテナンス屋で幾つかの一時強化アイテムを購入した後、格納庫に向かった。そこで2Bたちはある人物に再会する。

 

「あっ、2Bさぁーん! お久しぶりですねえ!」

「16D……」

 

 ヨルハ機体の本懐を忘れた、間延びし馬鹿にしたような口調で16Dが話しかけてくる。9Sは豹変してからの彼女が苦手な用で、2Bの影でウゲッと情けない声を出していた。

 

「実はぁ、お聞きしたいことがあるんです!」

「……何?」

 

 2Bとしても、この16Dはあまり得意な方ではなかった。もし、あの事実を伝えていなければ、こうして錯乱したにも等しい状態にはならなかっただろう。あの時の自分の決定が、彼女を変えてしまったのだという負い目もあり、16Dとはあまり顔を合わせられないのだ。

 だが、そんな2Bの思惑も知ったことではないというのが16Dの態度だった。彼女はずれ落ちかけた戦闘用ゴーグルの隙間から、爛々とくすんだ青色の瞳を覗かせながら2Bにたずねてくる。

 

「11B先輩が生きていたってぇ、……本当ですか?」

「ああ。遊園地廃墟で11Bのブラックボックス信号があった」

「っふ、くっ……っふふふふふふ! アハハハハハハハハハハ!!!」

 

 ぞわりと、言いようのない気持ち悪さが2Bの背中を伝う。

 9Sは手を顔にあて、首を振っていた。

 

「ありがとうございます、2Bさん……先輩、ああ、11B先輩(せんパぁい)…生きてたンだァ……」

 

 恍惚とした表情でその場をくるくると回りだした16D。

 固まる2Bの手首を、9Sは後ろから優しく握る。

 

「行こう、2B。放っておいたほうが良い」

 

 そのまま9Sに手を引かれ、格納庫を離れる2B。16Dの狂った笑い声がバンカーの格納庫の中に響き、出撃準備中の者や、メンテナンス作業をしていたヨルハ機体たちが何事かと発着場の方に視線をやる。

 そこから一刻も早く離れようとして、9Sは2Bをエレベーターまで無理矢理に連れて行った。

 

「9S……」

「え、あっ、す、すみません2B!」

 

 エレベーターの中で名を呼ばれ、9Sは慌てて手をはなす。

 

「あのままだと、16Dが2Bに何かしたかもしれないと思ったら、すみません。勝手に引っ張ってしまって、痛くはありませんか?」

「痛みはない。それから、私も離れるタイミングを掴めなかったから…ありがとう」

「は、はい!」

 

 音もなくエレベーターのドアが開き、二人はターミナルの方へと歩を進める。

 全てがモノクロームな無機質な世界で、ゴーグルの下から少しだけ覗く、赤くなった9Sの頬はやけに目立っていた。

 

 それからパスカルの村に転移した二人は、パスカルから「森の国」に関しての情報を得ることになる。パスカルですら排他的だと言ってのけるグループが形成した「森の国」。そこでまた、過去に隠された真実と接触するとは知らずに、二人はほんの少しだけズレた運命の道を踏み出したのであった。

 

 

 

 

「これで、最後だね」

 

 入り口に降り積もっていた瓦礫を撤去し、11Bは振り返った。

 

「しかし見事に壊されたな……」

 

 風力発電の偽装のため、あえて風車ではなく風見鶏を使っていたが、それごと破壊されてしまっては元も子もない。幸い、近くの川に沈めてある水車は無事だが、太陽光パネルも諸共破壊されたとなれば、電力不足になるのも時間の問題だろう。

 

「どうしよっか」

「仕方あるまい、拠点を移す準備をしよう」

 

 彼が下した結論は、工房の移動だった。元々ここは、パスカルの村ともレジスタンスキャンプとも距離的には少し離れている分、不便なところもあった。レジスタンス側と大々的に交流するという立ち位置になった以上、そこまで隠れるような場所に暮らさなくても良いだろう。

 

「わかった、リアカー持ってくるね」

 

 イデア9942の決定には素直に従う11B。この瓦礫の撤去作業中に無理をしたせいか、駆動系や関節が少しだけ傷んだイデア9942に代わって、彼女はイデア9942の分も働こうと、意気込んでいるようだった。

 11Bが工房に続くスロープを曲がって消えていくのを見届けて、イデア9942は近くの瓦礫に座り込む。腰元につけたポーチから工具を取り出し、簡素な修繕を始めたイデア9942は、11Bのことを考えていた。

 

「少し、依存しすぎているかもしれんな……」

 

 つぶやきは聞かれること無く、瓦礫を吹き抜ける風に連れて行かれた。

 11Bは、助けられてからというもの、最初の衝突以降はイデア9942の言うことに異議を唱えることは殆どなかった。そして今や彼の言葉にはほぼ、頷くだけのイエスマンと化している。

 イデア9942のためなら、イデア9942が喜ぶなら。そうした「感情」を向けてくれているのは嬉しいが、あまりにもその精神のありようは歪み始めていると言えるだろう。

 

 作業中、イデア9942はもう大丈夫だろうと思い、試しに11Bへと真実の一端を話してみせた。人類の敵であるエイリアンが死んでいること。バンカーに生存が知られ、指名手配が出されていること。そして、ヨルハ機体はいずれ破棄される運命にあるということを。

 

『そっか。でも、イデア9942が拾ってくれた。もう、ワタシの居場所はここだけだから……そんなの関係ないよ』

 

 だが、彼女の返答はこれだけだった。

 毒されているといえばそれまでかもしれない。だが、ヨルハ機体がここまで自分の出自に拘らないというのは有り得ないことだ。確かに、思考に関しては11Bの「自由意志」を優先するよう、余計な抑圧プログラムを排除した。

 それでも……イデア9942以外にさほど興味を持たないようになった彼女は今。

 

「工具と、必要そうなもの乗せてきたよ」

「すまんな。ありがとう11B」

「ふふ、どういたしまして」

 

 この状態が維持できるならそれでいい。

 何らかの拍子に彼女が精神に更なる異常をきたすような事があれば?

 久しく訪れた不安は、イデア9942の脳回路を凍えさせる。

 

 もう一度、ハッキングして原因を覗いておくべきかもしれない。

 本音を言えばやりたくはない。彼女は、この世界で初めて、目の前で命を見せてくれた存在だ。彼女が今、自由意志のもとにこのような精神状態になっているというのなら、余計な茶々は入れたくない。

 

「11B」

「どうしたの?」

「いや……なんでもない」

 

 お笑い草だ。2Bや9Sの前ではあれだけの見栄を張れたと言うのに、いざ身内の前ではこの有様なのだから。

 




話が進んでも11Bとイデア9942のじれったい関係は進展してないっていうアレです。
そろそろサブクエ裏切りのヨルハも来るね! 楽しみだね!

今回の話は、特に原作から離れるトコもないし衝撃的なシーンも無いし
少しつまらなかったかもしれませんね すみません。

あと無理にポッド口調しなくてもいいのでげすよ。
そういう敷居があるって言った覚えはないでげす。

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